仮面ライダージオウ✕仮面ライダーゼロワンーIF令和ザ・ファースト・ジェネレーション 作:K/K
「とっとと死んじゃえー!」
先行する迅が殺意の言葉を無邪気に吐く。広げられた翼で空中を疾走する迅。
羽ばたけば音速に達するフライングファルコンプログライズキーの能力。その速度は或人も良く知っている。何故ならフライングファルコンプログライズキーは嘗ては或人が所有していたからである。
元の歴史では迅によって奪われた物が、改竄された歴史でも迅の手の中にあり、或人を襲う力となることに因果を強く感じる。
「っ! あああああっ!」
急接近する迅目掛けて右拳によるストレートを繰り出す001。
「はっずれー!」
001の拳は空を切る。迅は当たる直前に急上昇して簡単に避けてしまった。
すぐに体勢を立て直す必要がある001であったが──
「ぐああっ!」
──攻撃した方が悲痛な叫びを上げる。
いつもの様にパンチを出しただけだというのに、001は肩が脱臼しそうな痛みを味わっていた。
或人が頭の中で思い浮かべる動きと実際の001の動きには大きな差が生じていた。001の動きに中身が引っ張られ、その際に起こる無理な動きが痛みとなって返って来る。
ベルトの装着だけでも苦痛。変身でも苦痛。変身後でも苦痛。ゼロワンが如何に或人に適していたか、どれだけシステムが手厚くサポートしてくれたのか身を以って知る。
「それが人間とヒューマギアの差だ。無様だな」
激痛に悶える隙に接近していた滅が、フォースライザーを使いこなせていない001を見下しながら素早い手刀で肩と胸を強打。
「ぐっ!」
「或人様!」
イズが呻く001を心配して声を上げるが、当然ながら滅がそれで動きと止める訳が無い。
よろめく001の脇腹に滅の蹴りが入る。すかさず二撃目を放とうとするが──
「はあっ!」
痛みを押し殺した001が反撃の前蹴りを返してきた。バッタをモデルにした能力なのでそこから繰り出される蹴りの威力はかなりのもの。ただし、放っている001自身は膝から下が吹っ飛んでいってしまいそうな痛みを感じている。
「ふん」
滅は瞬時に001の前蹴りに込められた威力を察知し、攻撃を中断して回避を選択する。
空気を突き破る様にして突き進んで来る前蹴り対し、滅は右腕でガードすると同時に
結果として001の前蹴りを最小限のダメージで済ませた滅。しかし、回転したことにより滅は無防備な背中を晒すこととなる。
そこへ001が攻撃を行うとするが──
「隙だらけだよ」
「があっ!」
──001の頭部側面に衝撃が走る。
空中に居た迅が001の背後へと移動し、側頭部に回し蹴りを打ち込んでいた。
滅を意識し過ぎて迅への警戒が疎かになった故の結果──では無い。
頭部を蹴られて動きが止まった001の腹部に滅の背面蹴りが刺さる。
「所詮は人間か」
全ては滅が計算した通り。描かれた絵図通りに001は動かされていた。
腹部を突かれた001は毒針で貫かれた様な痛みで呼吸が出来なくなる。口から酸素を無理矢理吐き出され、逆に吸い込もうとしても上手く吸い込めずに酸欠状態となる。
「っぁ……」
「やぁー」
今にも倒れそうな001。だが、敵はそんなことでは手を緩めない。急降下してきた迅が001の背中を踏み付け、地面へと叩き付ける。
迅は001を見下ろしながらつまらなそうに言う。
「なーんだ。こんなもんかー」
「人間は滅びる定めにある。予想通りの結果だ」
「だねー。ははっ」
迅は001の脇腹を蹴るとサッカーボールの様に転がって行った。
「或人様!」
横たわる001にイズが駆け寄る。
「イ、 ズ……危ない……から……隠れて……」
声を発するだけでも苦しい筈なのに、001は自分のことよりもイズの身を案じて逃げる様に言う。
「あー。裏切り者だー。人間なんか心配してるよ、滅ー」
迅はわざとらしくイズを指差し、告げ口でもするかの様に滅に報告する。
「我々の目的はヒューマギアの治安維持の為に人間を抹殺すること──一度だけ警告する。今すぐその人間から離れろ。さもなければ、俺達の任務を阻んだと判断しお前も抹殺対象となる」
同族に対して最低限の譲歩を見せるが、イズが001の傍から離れる様子は無かった。
「離れません。或人様のお傍に居ることが私の役目です」
「……愚かな」
滅は右手を真横に伸ばす、それに続いて迅は腕を真上に掲げた。光が生まれ、線を描き、その線が実体化すると滅は紫のラインが入ったアタッシュケース、迅の方は青いラインが入ったアタッシュケースを掴んでいる。
『ARROW RISE』
『SHOTGUN RISE』
滅のアタッシュケースは弓に、迅のはショットガンに変形する。
アタッシュアローのグリップを引き、矢に当たる部分に紫色のエネルギーを充填させ、迅もアタッシュショットガンのトリガーに指を掛ける。
「警告はした」
「ばいばーい!」
グリップから指先が離れ、トリガーが絞られる。アタッシュアローからエネルギーによる光矢が射られ、アタッシュショットガンからはエネルギーを集束された光弾が撃たれる。
滅と迅がこれで終わりだと確信した瞬間──
「おおおおおおっ!」
──咆哮を上げ、跳び上がる001。彼は先に射られた光矢を右の回し蹴りで弾き、その反動を利用して体を捻り、滞空したまま今度は左後ろ回し蹴りで光弾を蹴り飛ばす。
「くっ、うぅ……はあ……はあ……!」
着地する001。右足の甲、左足の裏はエネルギーの塊に接触したせいで白煙が立ち昇っている。
「何だよ、それ……」
仕留めたという演算結果を覆す001の行動に迅の声から感情が消える。彼のAIは二人を始末したという演算を導き出していた。しかし、現実は二人共生存している。演算と結果のズレは迅の中に不快感を生み出す。
「滅! あいつムカつくよ! 絶対に殺そう!」
「──ああ。当然だ」
滅もまた迅と同じズレを感じたが、彼が覚えたのは不快感ではなく危機感であった。001をこのまま野放しにすればヒューマギア達にとって良くないことが起こると感じ取っていた。
迅はアタッシュショットガンを一度折り畳む。
『CHARGE RISE! FULL CHARGE!』
エネルギーがチャージされたアタッシュショットガンを構えながら迅は飛び上がり、ある程度の高さまで行くとフォースライザーのレバーを操作してプログライズキーを一回開閉させる。
滅は新たな黄緑色のプログライズキーを取り出し、スイッチを押し込む。
『STRONG!』
軌道状態になったプログライズキー──アメイジングヘラクレスプログライズキーをアタッシュアローのスロットに挿す。
『Progrise key confirmed. Ready to utilize』
『HERACULES BEATLE'S ABILITY!』
プログライズキーから発生するエネルギーがアタッシュアローへと充填されていく中、先に迅の方が仕掛ける。
「死ねー!」
『KABAN SHOT!』
『FLYING DYSTOPIA!』
アタッシュショットガンから無数の光弾が散弾として吐かれ、迅の羽ばたかせた翼からマゼンタの輝きに包まれた羽根型の光弾が放たれる。
先程の単発であった攻撃とは違い、広範囲を大量の光弾で攻撃することで001達から逃げ場を奪う。
数え切れない攻撃を前に001は絶望するかと思いきや、その指先はフォースライザーのトリガーに掛けられていた。
散弾と羽根が001達を覆い尽くす。
カバンショット!
フライング
ディストピア!
着弾と同時に爆撃でもされたかの様な大爆発が生じる。その爆風を浴びながら迅は哄笑していた。
「あははははっ! これで──」
言葉がそこで止まった。迅のセンサーが有り得ないものを捕捉する。爆発の範囲外、そこに佇む無傷のイズ。
知らぬ間にイズが回避していたことに驚くが、それは同時に001もまた迅の攻撃から逃れたことを意味する。
何処に、と001を探そうとした時、彼は視界に光のラインが残像の様に残っていたことに気付く。
それを目で追う。次の瞬間、迅は顔面に凄まじい衝撃を受ける。
探していた001が迅の顔面に膝蹴りを叩き込んだのだ。
「迅!」
001の動きは迅だけでなく滅すらも捉えることは出来なかった。気付いた時には既に攻撃をされていたのだ。
滅はアタッシュアローの照準を001に定めるが、001は迅を攻撃しながらもそれに気付いており、フォースライザーのトリガーを動かし、ライジングホッパープログライズキーを開閉させる。
『RISING DYSTOPIA!』
「ぐっ……あああああっ!」
001の背面から赤黒い蒸気の様なものが噴き出す。それはオーバーロード状態にあるプログライズキーが処理出来なかったエネルギーの残滓。今でも全身が煮え立つ様な感覚は過剰供給されるエネルギーにより、血が蒸気となって噴き出す様な想像を絶する苦痛へと昇華されるが、001は尋常ではない精神力でそれに耐え抜く。
苦痛の咆哮と共に001の姿が消えた。滅はそのせいで射る機会を逃す。
「高速移動か……!」
滅はすぐに001が消えたカラクリを見抜く。
ライジングホッパープログライズキーが生み出す爆発的な脚力。それらを全て移動する為の速度に充てることにより、ヒューマギアですら認識出来ない程の超高速移動を可能とする。
滅は自らの機能を駆使して001の動きに追い付こうとするが、彼がアタッシュアローを向けた時点で既にそこに001の姿は無く、残像代わりの黄色に輝く無数のラインがあるだけ。滅が行っているのは001の足跡を辿っているに過ぎない。
001の能力は、確かに或人にとっては非常に使い難い。常に反動が付き纏い、ゼロワンに比べると性能が尖り過ぎている。しかし、その尖った部分こそがゼロワンの汎用性を超える唯一の長所を生み出す。
光のラインが左右に残る。確実に滅へと近付いていた。捕捉しようにも滅の動きは001に付いて行けない。動きをラーニングしようにも時間が足りなかった。
消えていた001が滅の眼前に現れる。
「くっ!」
アタッシュアローで攻撃をしようにも懐に入り込まれてしまっていた。
001はその場で反転し、回転の勢いで滅の胸を肘で突く。
「うっ!」
よろめく滅。001は肘打ちだけでは止まらず、滅とアタッシュアローの間に潜り込み、滅から引き継ぐ様にアタッシュアローを奪取。そして、照準を未だに落下している迅へ向ける。
「迅!」
咄嗟に掛けられた滅の言葉に迅は自分が狙われていることに気付き、落下しながらも翼を動かす。周囲に飛び散る羽根型のエネルギー。攻撃に使用したものを防御へと転じさせる。
マゼンタの羽根が飛び散ることも気にせず、アタッシュアローのグリップを離す。
『AMAZING KABAN SHOOT!』
アタッシュアローから射られるのはヘラクレスオオカブトの頭部を模した光矢。射られたそれは、羽根の防御壁を次々と突き破り奥に居る迅へ届こうとする。
避けることが出来ないと判断した迅は、アタッシュショットガンをアタッシュモードへと変え、射線状に構える。
光の矢がアタッシュケースを貫く。
アメイジング
カバン
シュート!
「うわあああああっ!」
アタッシュケースは粉々に砕け、命中、破壊の余波を近距離で受けた迅は吹き飛ばされて壁面に叩き付けられる。
迅が手痛い一撃を与えられたのを見て、滅は即座に切り替え背中を向けている001へ攻撃をしようとするが、それを予期していた001は攻撃後にすぐに振り返ってアタッシュアローを一閃。
アタッシュアローの弓部分には刃が付けられており、滅は腹部に一文字の斬撃痕を刻み込まれる。
001の一撃に滅は後退させられる。仲間が倒され、武器も奪われた。だが、滅にはまだ勝算があった。
(あの動き、既にラーニングした。次は捉える……!)
滅は001の高速移動のパターンを記憶し、自らにラーニングすることで極めて短時間で自身をアップグレードさせていた。初見では学習が間に合わずに不覚をとったが、次は対応出来る確信があった。
これこそが人とヒューマギアとの差であり決定的な違いと言える。
だが、001は大胆な行動に出た。
「これ……借りるぞ……!」
アタッシュアローを地面に突き立てる。そして、挿し込まれていたアメイジングヘラクレスプログライズキーを抜く。
次にとった行動はライジングホッパープログライズキーを引き抜き──
『STRONG!』
──ライジングホッパープログライズキーとアメイジングヘラクレスプログライズキーを差し替えたのだ。
「何っ!」
001が滅のラーニングを知っての行動かは分からないが、これにより滅が得た情報は一瞬で無に帰し、再び未知なる力と戦うことになる。
アメイジングヘラクレスプログライズキーを装填したことで中の或人は反動の激痛を味わう。
「ぐぅぅぅぅ……!」
しかし、最初に比べればマシになった感覚であった。血が沸騰する様な感覚が、気泡が立ち昇り始める程度にまで落ち着いた感覚であった。
これは決して或人の体に耐性が出来た訳では無い。度重なる痛みに脳が自己防衛の為に脳内物質を大量に分泌させて痛覚を鈍らせているだけ。最初と変わらない苦痛を味わっているが麻痺しているに過ぎない。寧ろ、それによって或人は自らの肉体が限界へ向かっていることに気付き難くなるという良くない状態であった。
フォースライザーによりアメイジングヘラクレスプログライズキーからライダモデルが召喚される。
黄緑色に発光する巨大ヘラクレスオオカブト。上下真っ直ぐ伸びる角を滅に指し逆茂木の如く001の前に降り立つと着地の衝撃で地面に亀裂が生じる。
『FORCE RISE!』
ライダモデルが分解され、各部に装着される装甲へと変わっていく。
元々付けていた001の仮面は左右に分割され、側頭部へスライドすると上下が反転し、001の頭部にあったアンテナ部分が下になって突き出ていた。
仮面を失った箇所に新たな光が伸び、アメイジングヘラクレスの仮面を作り上げる。
『AMAZING HERACULES!』
『BREAK DOWN』
『With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless』
体の方に大きな変化は無い。ライトイエローの装甲が黄緑に置き換わっただけ。だが、仮面の方は違う。バッタではなくヘラクレスオオカブトを模した角を額部分から生やした黄緑の仮面となっていた。
「ふぅ……」
奪取したプログライズキーで新たな姿となった001は地響きを起こしそうな重々しい足取りで滅の方へ歩き始める。
高速移動ではなく真っ向から挑んでくる001に対し、滅は相手が何を考えているのかデータが足りず判断出来なかったがわざわざ自分の方から接近してくるのなら、それを迎え撃つ準備に入る。
滅はフォースライザーのトリガーを操作。プログライズキーの力を引き出す。
左腕からサソリの毒針を思わせる伸縮機能を有した刺突ユニット──アシッドアナライズが伸びる。
滅の行動を見て、001も歩きながら自らのフォースライザーのトリガーを二回引く。
『AMAZING UTOPIA!』
「ううう……!」
両拳を握り締め、唸り声を上げる001。プログライズキーのエネルギーが上半身に注ぎ込まれていく。
互いに準備は整った。そして、間もなくして両者は必殺の間合いに入る。
先に動いたのは滅の方であった。
『STING DYSTOPIA!』
右足を上げる滅。アシッドアナライズが右脚に巻き付いていく。その状態から繰り出される横蹴り。叩き付けられると同時に刺突部分が001の胸部へ突き刺さる。
スティング
ディストピア!
刺突部分からスティングスコーピオンプログライズキーが生成した毒が注入される。これにより外部の破壊だけでなく内部からも破壊し尽くされる──
「──何だと?」
──と滅は思っていたが現実は異なっていた。001は滅の蹴りを受けた状態のまま両腕を左右に広げる動作をしており、まだ動いている。
何故、と思った滅は右足の先を見て気付いた。貫いていると思っていたアシッドアナライズが001の胸部で止まっており、刺さってすらいない。
フォースライザーはプログライズキーから不安定な状態で力を引き出す。そのせいで尖った性能になってしまうが、その反面引き出したプログライズキーの能力は攻撃に特化される。
ヘラクレスプログライズキーの能力により001の大胸筋は限界まで強化されており、それは無類の剛力を生み出すと同時に鋼の如き硬さを001に与えていた。
滅はその最も強化された箇所を攻撃してしまい、打ち負けてしまったのだ。
「うおりゃああああああっ!」
001は蹴りを受けたまま踏み込むと同時に左右の拳を滅の脇腹へ叩き込む。
「ぐうっ!」
左右からの剛拳によって挟まれ、滅は身動きが取れなくなる。
001は頭を振り上げる。額の角部分に黄緑色のエネルギーが集中し、光輝く角となって長大化すると001は頭を振り下ろし、滅の脳天に角による頭突きを炸裂させる。
ア
メ
イ
ジ
ン
グ
ユートピア!
◇
「変身!」
『SHOT RISE!』
撃ち出された弾丸がトリロバイトマギアを蹴散らし、刃の方へ戻って来る。着弾する寸前で内部からパーツが飛び出し、外装となって刃へ装着。
『RUSHING CHEETAH!』
『Try to outrun this demon to get left in the dust』
変身完了と同時にその姿は一瞬で消える。次に姿を現したのは兵士を襲っていたトリロバイトマギアが吹き飛んだ時であった。
左半身は白の装甲。右半身は橙色の装甲に覆われおり、ラッシングチーターの名の通り橙の装甲にはチーターの斑模様を彷彿とさせる黒い三角の意匠が幾つも施されており、額にあるティアラの様なヘッドパーツにも同様の意匠が施されていた。
不破と同じショットライザーで刃が変身した姿──仮面ライダーバルキリーは、ラッシングチータープログライズキーの能力である『DASH』を生かし、相手との距離を一瞬で詰めると流れる様な動きで拳、膝を打ち込んでトリロバイトマギアを戦闘不能にする。
続いてベルトからショットライザーを外し、銃撃。仲間に組み付いていたトリロバイトマギアの頭部を破壊する。
避難所の双璧と呼ばれるだけのことはあり、バルキリーの活躍によりどんどんとトリロバイトマギアは倒れていく。
しかし──
(数が多い……!)
──倒しても倒しても事態は好転しない。トリロバイトマギアが倒れれば、その数以上のトリロバイトマギアが追加されていく。避難所の外にはまだ数え切れない程のトリロバイトマギアが待機していた。
幸いというべきは刃と仲間達が相手にしているのはトリロバイトマギアのみという点。情報では滅と迅だけでなくウィルまでもこの戦いに参戦している。生身ではまず勝てない。仮面ライダーである刃と不破ですら勝率はかなり低い。
だが、その三体はバルキリー達の前に姿を現していない。謎の仮面ライダーが迅と滅を一人で相手にしている。バルカンがウィルと戦っている、という情報がバルキリーに伝わっていたが、錯綜した情報であり真偽の程は確かではない。しかし、今も現れていないことを考えるとあながち間違った情報ではない可能性がある。
避難所の人々を安全な場所へ脱出するのも一番重要だが、仲間達の犠牲も最小限に抑えたい。
銃撃を繰り返しながらも手の届かない場所で仲間が断末魔の叫びを上げるのを聞き、歯痒い思いが募っていく。
「固まれ! 仲間から離れるな! 決して一対一になるな!」
トリロバイトマギアを蹴散らしながら指示と檄を飛ばすバルキリー。戦場に於いてその名に相応しい戦乙女の如き戦いっぷりを見せつけるものの、トリロバイトマギア達は少しでも上がった士気を叩き潰す為に増員してくる。
雄々しい叫びが減り、悲痛な叫びに塗り潰されていく。このままでは押し切られ、避難所の人々にも魔の手が及ぶ、そう思った時であった。
「手伝うよ」
「なっ!?」
バルキリーの隣にいつの間にか青年が立っている。しかも一人だけではない黒い服の青年、白い服の女性、ストールを巻いた青年などこの世界では似合わない小綺麗で特徴的な衣服の者達であった。
「何をしている! 民間人は避難していろ!」
バルキリーが声を荒げるが、茶髪の青年は動じない。
「いや、俺は皆を守りに来たんだ。だって俺は──」
茶髪の青年は懐中時計の様な物を取り出す。他の三人も同じ物を出していた。
「王様だから!」
『ジオウ!』
『ゲイツ!』
『ウォズ!』
『ツクヨミ!』
やりたいことを詰め込んだのでバルカンの戦いは次回になります。