僕、
良い意味でも、悪い意味でも。
良い意味での要因は自分で言うのもなんどけど、僕の顔。
道端でモデルと間違えられるほどに整えられた精悍な顔立ち。
目、鼻、口、それらの全てが理想の黄金比率。
自分で言っててとんだ自信家だな、と思うけどそれが僕の顔を見た人達が口を揃えて言う感想なのだから、その評価は決して誇張ではないんだろう。きっと。
で、悪い意味での原因はなにかと言うと……ぶっちゃけそれ以外の全てだ。
もう一度言おう。それ以外の全て、だ。
うん。自分で言ってて悲しくなってくるね。
そう、僕は自他共に認める立派な駄目人間なのである。いや立派ではないか。
大多数の人達がイメージするであろう顔が整っている人の理想の人間像から、遠く遠く離れているのが僕だ。
運動はどう頑張っても人並み以上にはできない。
流石にクラス全体で最下位を取る程ではなかったけど、男子の中で見れば普通にドベを争える。
マラソンをするたびに僕と最下位争いをしていた男子生徒と一緒にヒーヒー言って走っていたのは記憶に新しい。
勉強は得意な教科で期末テスト100位以内を取ることができれば良い方で、決して頭が良いわけではない。苦手な教科だと普通に赤点ギリギリだし。
特に酷いのはコミュ力。
生まれた家庭の環境に問題があったせいなのか、はたまた元来の性質のせいなのか、物心つく頃には僕は人付き合いと言うものに対してかなりの苦手意識を持っていた。
別に舌足らずな訳じゃない、独り言は得意だし。なんなら一人で騒いだりできるし。
人との会話だって、やろうとすればもしかしたらできるかもしれない。
けど、他人に話を持ちかけられる自信がないので結局踏み切れない。
だから僕は他人とあまり関わることがないまま、学校にいる間はずっと教室の隅っこで大人しく本を読みながら日々を過ごしていた。
それが小学、中学と続いて、今は高校。
高校に関しては中学までの知り合いが誰もいない高校に入り、加えて家を出て一人暮らしを始めたというのもあって、心機一転、僕は変わるんだー!って無謀にも意気込んでいたのは、もはや遠い昔のおはなし。
人間やっぱそう簡単には変わらないってことなのか、今ではすっかりクラスメイトから「残念イケメン」と言うとってもありがたくないあだ名をつけられ、今日もまた窓際の席で大人しく本を読んでます。
はぁ。
まぁ、僕の冴えない身の上話、もとい現実逃避はここまでにして。
そろそろ現実に戻るとしよう。
嫌だけど。
今、僕の目の前にあるのは
クラスの中心、その頭上に位置する空間に、いつの間にか存在していたあまりにも現実離れした光景。
本とにらめっこし続けてたせいで目が疲れて、目を休めようと本から視線を離したら大変。
とんでもないものが見えてるじゃないですか。
亀裂はどんどんと広がっていって、ヤバそうな気配が物凄く伝わってくる。
これどうすれば良いの?
僕があの亀裂に気づけたのはたまたまだ。偶然僕がクラスの隅っこ、つまりクラス全体を見やすい位置にいて、偶然視線を上の方に向けたから。
恐らく僕以外のクラスメイトは今の状況に気がついていない、筈だ。多分。だって皆今も普通に古文の授業受けてるし。
そして間違いなく、このまま事態を放置してたらろくなことにならないのは確実。
これは、僕がなんとかしなきゃ駄目なのだろうか。
いやいや無理でしょ、あんなにビキビキいってたら。いやそんな擬音は聞こえてこないけどさ。
これもうどうやったって手遅れでしょ。
この事態を伝えようにもコミュ力が死んでる僕にそんな高度な真似ができるわけがない。
現に今口を開いて皆に教室から出るように伝えようとしたけど、僕の口はパクパクと動くだけで声はでない。
うん、無理だ。
僕にはどうしようもできない。
あ、そうだ。
先生、もしくは他の生徒ならどうだろう?
駄目だ、誰も亀裂の方を見る気配がない。
せめて僕以外にこの事態に気づける人がいたらなんとかなるかも、と思っていたけどやっぱ無理か。
と諦めていたら、ふいに
ん?これもしかして、ワンチャンある?
と期待してたけど、やはり駄目みたいだ。
真上にある亀裂に対して山田くんは僕と同じく
あー……これは終わったな。
そう思った瞬間に亀裂が割れて、今まで経験したことのないほどの激痛が全身に襲いかかってくる。
僕にできたのは、その痛みに必死で耐えることだけ。
そして、僕の人生は割りと呆気なく幕を閉じた。
──カツン、と何かがぶつかる音がする。
まぁぶつけているのは僕なんだけど。
いやー、どういうことなんだろうね、これは。
あの時、亀裂から来たと思わしき衝撃に巻き込まれて死んだと思っていた僕は、気づいた時にはこのとてつもなく狭い、真っ黒な空間の中に閉じ込められていた。
最初は
だってこれ丸いもの。
なんだこれ、って思って色んなところを手探りに触ってみたら、角がたつところが一つも見つからないから、すぐにこれは球体だって分かった。
だから何だって話ではあるけどね。
結局の所ここからでないといけないことには変わらないし。
てなわけで取り敢えずこの場所から出ようとさっきから拳で思いっきり殴ったり、足で蹴ったり、身体を直接ぶつけたりと色々試してみてたんだけど、返ってくるのはカツンゴツンと弾かれた音だけ。
よほど硬いのかどんだけやってもびくともしない。
だっていうのに返ってくる音が妙に心地良いのが地味に腹立つけど、ここで思考を放棄したらそれこそ駄目だから我慢だ我慢。
うーん、どうしようか。
拳で殴っても、足で蹴っても、身体をぶつけてもてんで駄目。
周りに道具なんてものはないから他の方法を試すこともできそうにない。
これ詰んだね。
だって文字通りなにもできないんだもの。
亀裂の時の二の舞か-。ハハハ、笑えない。
いや本当に笑えない。なんせこれをどうにかしないと僕の人生今度こそ終わりそうなんだもの。
なんでかって?
……この球体、僕の気のせいじゃなければどんどん縮んでっているんだよね。
さっきまで寝返りできる程度にはこの球体スペースあった筈なんだけど、今となっちゃ寝返り打つ度に肩ががんがんぶつかるし。
このままだと圧死待ったなし。
酸素不足で
やったね死因を選べるよ!どっちも苦しい死に方だけど。
って言われてるような感じがする。
……はぁー。
と、心の中で溜め息を吐いたその時。
ビキ、と言う小さな音が聞こえた。
あれ?さっきまで聞いてた音とは違うぞ?
しかもなんか辺りが急に明るくなったし。
ずっと暗かったから目が眩んだんだけど。
……ははーん。
これはあれだ、球体にヒビが入ったんだ、きっと。そうに違いない。だってそうじゃないとこの空間に光なんて差し込むわけないし。
なら話は早い。
さっきまではどうやってもなんともならなかったこの硬い球体も、こうなってしまえば酷く
後はヒビのある場所に向かって、強い衝撃を与え続ければ良いだけだ。
オラ、割れるんだよ、オラ、早く!
テンション上がって心の中の口調がどんどん荒れてってるような気がするが気にしない。
僕は早く外に出たいんだよー!
良し、叩くたびにヒビがどんどんでかくなっていく。
もう少し!
ありったけの力を込めて、僕は球体を思いっきり叩き、最後の一押しを。
すると、とうとう耐えきれなくなった球体のヒビがビキビキと音を立てて崩れ落ちた。
よっしゃー!
ヒビが崩れ落ちた部分は穴になって、僕が通り抜けられるぐらいのスペースができあがる。
外から差し込んだ光のせいでまだ目がチカチカするけど、なんとなく分かる。
あそこは外へ繋がる希望の出口だと。
そうと決まればいざ行動。
さらば球体、お前との死闘は忘れない。
そしてただいま、外の世界。実に何時間ぶりかの新鮮な空気を吸いに僕は戻ってきたぞ!
勝った!第一部完!
──瞬間、僕の視界に広がったのは赤く煮えたぎった灼熱の光景だった。
……あれ?
投稿頻度はかなりゆったりです。
エタらないように頑張りますので、宜しくお願いします。