図書館にあるLOT磐戸支部の地下施設。
その研究用の区画にて、織愛は神妙な面持ちで尋ねた。
会話の相手は、LOTの協力者である駿斗。隣でおどおどしつつも見守る若葉を横目に、深く頷く。
「僕は彼の力になりたいんです。そのためならこのくらい、惜しくありません」
「分かった。それなら、私から言う事はもう何もないわ」
織愛はそう言って、安心させるように駿斗の肩にポンと手を乗せた。
「大丈夫、無事に成功させてみせる。あなたや、行雲くんたちのためにも」
先の戦いでアダンから逃げ延び、彼を倒すための作戦会議を終えた紫乃は、仮眠室で休憩を取っていた。
しかし会議の中ではあまり良い成果は得られなかった。このまま戦いに赴いてもどうにかなるはずがないので、仮眠を挟んでいるのだ。
目を閉ざし、眠りの中に身を委ねている紫乃。
そんな彼の元へと、ロゼが来訪する。
「行雲くん?」
ロゼがベッドに横たわる紫乃の顔を覗き込む。
紫乃の表情は苦悶で歪んで額から汗が垂れ、うなされているようだった。
「ク、クロ……」
「クロ?」
誰かの名前だろうかと思いながら、ロゼがそのまま紫乃の顔を見ていると、その両目がパッと開いた。
しばらく状況を飲み込めていないようであったが、彼はロゼの顔と部屋を見て、頭を振って身を起こす。
「オレは眠っていたのか。状況はどうなっているんだ、アダンは動いたのか?」
「いいえ、まだよ。あなたの様子が気になったから来ただけなの」
「物好きなヤツだ」
汗を自らの手で拭いつつ、紫乃が言う。
ロゼはそんな彼へと、白いレースのハンカチを差し出した。しかし、紫乃は受け取らない。
「ずっとうなされていたわ、あなた」
「そうか」
「……その、クロって誰なの?」
尋ねた後で、ロゼはすぐ後悔する。
恐らく悪夢の内容は、紫乃の過去に関係するものなのだろう。そして当然、その人物も。
そんな事情に迂闊に踏み込むべきではない。
しかし、紫乃は一瞬躊躇しつつもロゼの顔をじっと見据えると、ぽつぽつと自ら話し始めた。
「クロは、オレがキュクロプスの眼にいた頃の仲間だ」
「仲間……」
懐かしむように、紫乃はベッドに座り込んだまま語る。その隣へと、そっとロゼが座った。
「クロという名前は向こうで96番という番号を与えられたところから来ている。本名はオレも知らん、そもそも親がどこにいるのかも分かっていない。同じように、オレも46番でシロと呼ばれていた」
僅かに目を細めて、俯く紫乃。
「あいつは、クロは強かった。試験で戯我を倒すためにチームとして協力していたが、一方でどちらが強いかを競うライバルでもあったんだ」
「余程大切だったのね、そのクロという子が」
「……そうだな。あいつはオレにとって半身とも言うべき存在なのかも知れない。昔、外出許可が降りた時に二人で買い物に行ってな。そこで他の子供たちへの土産にエクレアを買って行ったのを未だに覚えている」
「だから行雲くん、エクレアが好きなんだ」
納得したようにロゼは頷く。話を聞いて、少しずつ紫乃の事が分かって来たような気がしていた。
しかし、紫乃の表情は徐々に暗いものに変わって行く。
「オレとクロは、いつか外に出るために何度も何度も戦い続けて来た。その時は全ての試験を終えると自由になれると聞かされていたからな。だが、キュクロプスの眼の真実を、今までに倒して来た戯我の真実を知った時。オレたちは決裂した」
「え?」
深い後悔と悲哀の念。紫乃の瞳には、そんな色が宿っていた。
「オレは『自分たちも実験台にされる前に逃げるべきだ』と何度も主張したが、クロの意見は違った。あいつは……クーデターを起こし、自分が組織を乗っ取ろうとしたんだ」
そう口にすると、紫乃は溜め息と共に首を左右に振る。
「そんな目論見が成功するはずがない。他の職員ども相手ならともかく、あの頃のオレたちではアダンを倒せないからな」
「……その後、どうなったの?」
ロゼが恐る恐る尋ねると、紫乃は俯いたまま顛末を語った。
「結局オレとクロは和解できず、各々の作戦を実行する事になった。オレは賛同した仲間を集めて逃走を図ったが、クロはクーデター派の同志を率いてアダンに立ち向かった。オレは……止める事ができなかった」
「そんな! じゃあ、あなたは逃げ延びたけどそのクロって子は!?」
「話はまだ途中だ。オレは、オレたちは結局アダンから逃げ切る事はできなかった」
「えっ!?」
「それだけじゃない。あいつは、クロを抱えて現れて、自分とクロから生き残った一人だけを生かすと言って、仲間同士でを殺させようとしたんだ。オレは必死に仲間を守ったが、最後にはみんなアダンの手で……!」
ロゼが絶句する。紫乃は多くの仲間を失っただけでなく、彼にとっての最大の友にも刃を向けなければならなくなったというのだ。
そして、今ここに彼が生きているという事は。そのクロの方は――。
「その後は日本支部長が現れて、アダンを倒した事でオレが生き残ってしまった。未だに考えてしまう。あの時オレが反逆に参加していたら。仲間たちもあいつも死なずに済んだのではないか、と」
「行雲くん……」
「今も後悔している。オレの迷いがみんなを殺した。だから……オレは心を持たない、一片の迷いもない刀でなければいけないんだ……!」
拳を強く握り締めながら、自分に言い聞かせるようにして叫ぶ紫乃。
そんな彼の体を、ロゼがそっと抱き寄せた。
驚きのあまり目を見開いて、紫乃は言葉を失う。
「もう無理をしないで、行雲くん。これ以上自分を押し殺さないで」
「な、に?」
「あなたが人を遠ざけ続けているのは、誰かを失うのが怖いからなんでしょう? 大切な人を、また自分の手で傷つけてしまわないようにするためなんでしょう?」
ロゼは紫乃の背中を優しく撫でながら、そう囁きかける。
「もう、そんな哀しい事をしなくて良いの。誰もあなたの周りから消えたりなんかしない。だから、無理をしなくて良いのよ」
自分を抱擁するロゼの温もりを感じながら、紫乃は震える声でぽつりと口を開く。
「教えてくれ。オレは……こんなオレでも、生きていても良いのか?」
すると、ロゼはほとんど間を置かず、半ば叫び出すようにすぐに答えを出した。
「当たり前でしょう! 仮面ライダーとか封魔司書だとか、そういう話よりも前に。あなたは生きているのだから。生き続けて、幸せになるべきよ!」
それはまるで、冷え切って凍てついた心が溶かされていくかのように。
紫乃の両目からは、静かに涙が溢れていた。
「……ありがとう」
彼女の手を取り、紫乃が消え入りそうな声で呟く。
ロゼも、震える彼の手を決して離さないよう、しっかりと握っていた。
同じ頃。
灰矢はトレーニングルームで、ひたすらにAウェポンBモードを使った射撃訓練を行っていた。
的への狙いは一切外していないのだが、その表情はとても険しい。
やがて訓練を終えると、長く深い息をついて、座り込んだ。
「やぁ、お疲れ様です」
そんな灰矢の背中へ、声をかける者がいた。
白い小狐、声の主は晴明だ。この式神を操作し、京都にいる彼が自らの声を届けているのだ。
「日本支部長か。丁度聞きたい事がある」
「ふぅむ、なんでしょう?」
「俺がキュクロプスの眼を追っているのを知っていて、俺と紫乃を組ませたのか?」
肩を竦めながら、しかし非難するような眼差し。それを浴びて首から項垂れつつ、小狐は否定する。
「違いますよ。紫乃くんがキュクロプスの眼の子なのは知っていましたが、流石にそこまで意地悪ではありません。本当に単なる偶然ですが、知らなかったとはいえ申し訳ない事をしたと思っていますよ」
「フン、そうかい。まぁお陰で家族の仇を二人も見つけられたんだ、良しとするさ」
「……紫乃くんの事を見逃しては貰えませんか?」
それを聞くと、皮肉っぽい笑みを見せていた灰矢の口元からその笑顔が消える。
「無理だな。俺は今まで復讐のために生きて来た、今更諦めて全てを許せるほどできた大人じゃねぇんだ」
「彼が君の家族に手をかけたワケではないはずですよ?」
「たとえそうだとしても、だ。組織にいたってだけで俺にとっては充分な理由になる。決着はつける、アンタを敵に回してもここだけは譲れねぇ」
「紫乃くんも充分苦しんで、悩んでいます」
「そうかい、でも俺の家族はそうやって考える事すらできねぇんだよ」
灰矢はそう啖呵を切って、目を細めて小狐を睨む。
一方、晴明の小狐はその威圧にもまるで動じていないが、哀しげに彼へと目を向けていた。
「私からすれば、あなたも大切な存在です。できれば穏便に済ませて頂きたいのですが」
「ハッ! そいつは光栄だが、大切に思ってくれてんなら余計な手出しはしないでくれよな」
「……分かりました」
スッと顔を上げると、小狐の姿が徐々に消えていく。
晴明が式神を解除しているのだ。
「せめて、この戦いで磐戸のみなさんの無事に生き残ってくれることを祈っていますよ」
「おう。じゃあな」
その返事を聞いて軽く尻尾を振った後、小狐は完全に消失した。
残った灰矢は、再び深い溜め息を吐いて、倒れるように床に身を投げだして天井を仰ぐ。
「俺だって自分のしている事の全部が全部正しいとは思っちゃいねぇさ」
そう言って、灰矢は目を閉ざす。
二人の付き合いは長く、灰矢が家族を失い封魔司書になってからすぐ、紫乃も磐戸に配属されたのだ。
当時から紫乃は愛想の悪い子供であったが、古い友人である事は間違いない。灰矢も内心嫌ってはいない。
そんな相手を、心の底から傷つけたいなどと思うほど、灰矢は冷酷な人間にはなれないのだ。
「だけどな、だからって今から何もかも投げ出せるかよ」
拳をグッと握り込んで、灰矢は身を起こす。
そんな彼の元へ、紫乃がロゼを伴って駆けつけて来る。
「ここにいたのか、灰矢」
「……おう」
一度は銃を突きつけた手前、素直に話ができるはずもなく、ぶっきらぼうに返事をする灰矢。
紫乃の方はというと、真っ直ぐに灰矢を見据えて、人差し指を立ててある言葉を口にした。
「アダンに対抗する手段を、ひとつだけ思いついた」
それを聞き、灰矢はバッと紫乃へ視線を向ける。
こうして、三人の仮面ライダーの会議が再開された。
※ ※ ※ ※ ※
それから約二時間後。
ようやく負傷の癒えたアダンは、またもダイモーンやラミアなどの戯我を引き連れて磐戸の街に現れていた。
LOTの協力を含んだ警察による救助と避難活動によって、住民たちの姿はない。
静寂に包まれている街で、アダンと戯我のぞろぞろと闊歩する音だけが響いている。
「あの封魔司書ども、そろそろ来る頃かァ?」
欠伸混じりにアダンがそう呟くと、返事の代わりとばかりに頭上からナイフと銃弾が飛来し、戯我たちを貫く。
仮面を被った封魔司書、紫乃たち三人の仮面ライダーだ。建物の屋上から、アダンたちを狙ったのだ。
戦いが始まる。その直前、織愛から紫乃たちへ通信が入った。
『みんな聞こえる? 無理をする必要はないわ、とにかく時間を稼いで。必ず切り札を送るから』
切り札、という言葉を訝しみつつも、紫乃とロゼは「了解」と返答する。
しかし灰矢は、心の内から滾って来る殺意を抑え込まず、アダンを睨みながらレリックライザーをバックルに装着した。
「だがよ、別に今すぐ倒せるならやっちまっても良いんだろ? 策はあるんだ、やってやる!」
紫乃とロゼも頷き、三人ともそれぞれリキッド二種を手に取る。
アダンはくつくつと笑い、自身もモンストリキッドを右手で握った。
「懲りねェヤツらだなァ?」
「何とでも言え」
「そんじゃあブッ殺してやるぜクソ封魔司書どもォ!!」
《キュクロプス!》
先刻の戦いと同様、左腕にリキッドを突き刺す事で、内部の戯我のインクを取り込んでキュクロプスへと変異するアダン。
対する紫乃・ロゼ・灰矢は、順番にリキッドを起動して変身に移る。
ただし。
《アクア!》
《クラーケン!》
「今度こそ決着をつける!」
《ウィンド!》
《キマイラ!》
「
《ポイズン!》
《コカトリス!》
「狩りの時間だ!」
《
『変身!』
《
キュクロプスが、思わず「あ?」と声を上げる。
彼らの使うリキッド、それらが元々の持ち主のものと入れ替わっているからだ。
疑問の言葉を挟み込む余裕もなく、三人は変身する。
《豪快なる波濤の海賊! アクアクラーケン!》
ネイヴィブルーとワインレッドのリキッドを使ったムラサメは、赤いアンダースーツと青のジュストコールを羽織った海賊に。
《吹き荒ぶ緑風の神通! ウィンドキマイラ!》
エバーグリーンとアンティークイエローのリキッドを使うブリューナクは、右腕に蛇と左肩に山羊の頭がついた神官を思わせる姿の戦士に。
《恐るべき猛毒の魔女! ポイズンコカトリス!》
そしてユーダリルは、オーキッドパープルとアイビーグリーンのリキッドによって魔法使いのローブを纏う姿になっていた。
これが紫乃たちの秘策。手の内がある程度読まれているのなら、使用するモンストリキッドを入れ替えて立ち回れば良いという判断だ。
しかし、最初は僅かばかりに驚いていたキュクロプスも、馬鹿馬鹿しそうに鼻で笑う。
「そんなもんはな、作戦とか奇策っつーんじゃねェェ……ただの付け焼き刃なんだよ!!」
叫びながら、キュクロプスが大剣を振り上げる。そこで真っ先に動いたのは、ムラサメだ。
《クラーケン!
「急々如律令!」
リキッドを押し込み、トリガーを弾く。
するとムラサメ腕がゴムのように大きく伸び、キュクロプスの初動を封じて出鼻を挫いた。
「おぉっ!?」
予想外の拳を受けて仰け反るキュクロプス。その隙を突いて追い撃ちをかけるべく、ブリューナクが仕掛ける。
《キマイラ!
「
先程のムラサメとの戦闘で筋肉の増大を見ていたキュクロプスは、パワーで押される事を想定して大剣での防御に動く。
が、予想に反してブリューナクは目にも留まらぬ速度で動き、手に持った槍でキュクロプスの背中を突いて吹き飛ばした。
「ぐおっ! どうなってやがる!?」
これこそが、紫乃たちの真の狙い。
レリックドライバーから生み出された封魔霊装は、リキッドの使用者が持つ想像力と創造力によって姿と力を変える。
つまり、同じモンストリキッドを使っていても全く異なる能力を持つ事があるのだ。よって前の戦いで見せた
キュクロプスはそこを失念しており、他の戯我共々翻弄されている。
「よし、いけるぜ! このまま狙い通りに……!」
《コカトリス!
「ターゲット・ロックオン!」
ユーダリルの引く光の矢が、毒々しい紫色に染まっていく。毒素が集約しているのだ。
そして弓から一気に解き放たれた、その瞬間。
キュクロプスは偶然にも近くにいたラミアの腕を引き寄せると、そのまま盾として攻撃を凌ぐ。
「危ねぇ危ねぇ……」
「チッ、だが!」
他の二人から視線を外した直後。
キュクロプスの右手が、伸びるムラサメの左腕によって拘束され、さらに蛇を模した鞭が反対側の腕を縛り付ける。
気づけば、他の戯我たちは既に全滅していた。
「なにィ!?」
「思い描いた通りだぜ! やるぞ!」
ユーダリルの合図と共に、ムラサメとブリューナクが飛び込んでキュクロプスを蹴倒し、三人はレリックドライバーへと手を伸ばした。
《
「覚悟しろ、アダァァァン!!」
《アクアクラーケン・クロマティックストライク!》
《ウィンドキマイラ・クロマティックストライク!》
《ポイズンコカトリス・クロマティックストライク!》
跳躍した仮面ライダーたちが右足を突き出し、キュクロプスへと同時に仕掛ける。
三人の放ったキックは、態勢を崩して隙だらけの単眼の怪物へと見事命中し、そのまま吹き飛ばして砂煙を巻き上げつつ地面に転がした。
「やったか……!」
ユーダリルが着地して言った。ムラサメも確かな手応えを感じ、しかし武器は手放さずにじっと様子を見つめる。
そして、砂煙が晴れると。
「……ククク」
「うっ!?」
キュクロプスは、ゆっくりと立ち上がった。
全くの無傷ではないのだが、防御する暇を与えなかったにも関わらず、必殺技を受けてもまだ余裕が見られる。
数時間前の戦いと違って三人で協力してもなお、キュクロプスの、アダンの力には届かないのだ。
「これで終わりかァ? なら、今度は俺様がキツいのを叩き込んでやるよ!」
「させないわ!」
諦めず、ブリューナクは鉄鞭を振るう。再度拘束し、また必殺技を打ち込むつもりである。
が、その攻撃をキュクロプスは大剣の柄を振って弾き逸らした。
「あぁっ!?」
「その攻撃はもう見た。俺様には二度と通じねェぜ」
その言葉の直後、剣先から素早く繰り出された一撃が、ブリューナクを突く。
「きゃあっ!?」
「ブリューナク! くうっ!?」
続けてムラサメにも剣撃が降りかかり、防御が崩れたところを追撃の蹴りが吹き飛ばす。
さらに追い撃ちをかけるべく、キュクロプスは大剣を肩で担いでゆっくりと接近する。
「さぁて」
「まだだ!」
しかしそこへ、ムラサメを守るべくユーダリルの矢が殺到。弓から放たれる光の連射が、キュクロプスの身に襲いかかった。
それでも一切怯む事なく、キュクロプスはその弓使いの方へと顔を向けた。
瞬間、ムラサメとブリューナクが前に出て刀と槍で背中から襲い、反撃を封じにかかる。
「お前には何もさせない!」
「あーあーあー。しゃらくせェェェな、っとォッ!!」
そんな叫び声を発してキュクロプスが地面に剣を突き刺し、咆哮。
すると彼の全身から雷が迸り、その閃光がムラサメたちに直撃した。
「ぐうっ……!?」
「きゃあああ!?」
「があああっ!?」
痛恨の一撃。
あまりの威力に三人とも変身解除させられ、ロゼと灰矢はその場に倒れてしまう。
「いけない、このままじゃ……!」
「クソッ! 動け、動けよ俺の体! 何のために……何のために今まで戦って来たんだよ!」
無理矢理にでも身体を動かそうとする灰矢だが、願った通りにはならない。
キュクロプスはその努力を嘲笑うかのように迫って来るが、その前にAウェポンを手にした紫乃が立ちはだかった。
「まだやれんのかお前?」
「貴様の好きにはさせない……」
「ハッ! こんなたかがカスどものために命張んのか、せっかく俺様から生き延びたってのに無駄な事に拘るんだなァ」
「貴様には分かるまい、大切な人の命を弄ばれた人間の気持ちなど」
紫乃はゆっくりと刀を構え、薄っすらと笑うキュクロプスと対峙する。
「これ以上、オレの大切な人たちを死なせはしない!」
「だったらそいつらと一緒に! 地獄で仲良くしてやがれェ!」
雷を帯びる大剣を持って、紫乃に向かうキュクロプス。
このままでは紫乃は、分厚い鉄塊を脳天に叩き込まれて死んでしまうだろう。それを想定して、ロゼも必死に立ち上がって戦おうとする。
だが、その時。
「紫乃くん! 受け取って!」
少年の声が響き、紫乃の手元に向かってあるものが二つ投擲される。
モンストリキッドだ。しかし今までのものと形状が違っており、底部ではなく側面にスイッチがあり、カラーリングはどちらもシルバーホワイトだ。
また、リキッドにはそれぞれ端子が付いており、左右で組み合わせるようにできている。
「これは……!?」
受け取った紫乃が、リキッドが飛んで来た方を見る。
そこにいたのは、車から降り息を切らして駆けつけた駿斗だった。
彼の首に、ペガサスの羽根のペンダントはない。
「お前、まさか!?」
「良いから! それを使って!」
必死に叫ぶ駿斗。
紫乃は躊躇いながらも強く頷き、二つのリキッドを合体させ、天馬のレリーフが完成した状態で起動する。
《ソニックペガサス!》
「お前を塗り潰す色は……決まった!」
《
「変身!」
《
白銀の五芒星が頭上と足元に現れ、そこから噴き出す同色のインクが紫乃の姿を大きく変えていく。
力強い体躯にシルバーホワイトのアンダースーツとアーマー、さらに背中には翼が生え、風と共になびいて羽根が周囲に舞う。各部にはペガサスの意匠も施されている。
その見事な色合いの鎧兜はまるで織田 信長の使ったとされる南蛮具足のようで、将軍と呼ぶに相応しい風体であった。
《空翔ける神速の大将! ソニックペガサス!》
音声が鳴り、紫乃は、ムラサメは再び刀の切っ先をキュクロプスに向ける。
「仮面ライダームラサメ ソニックペガサスカラー。オレの友のためにも……貴様には、決して負けん!」
「てめぇ如きにやれるかよォッ!」
叫び、大剣を振り上げて疾駆するキュクロプス。
それと同時にムラサメも両翼を拡げ高く飛ぶように前へ踏み出し、素速く斬りかかった。
付録ノ十一[安倍 晴明]
かつて陰陽寮を統括していたという伝説の陰陽師。
その力は人智を越えており、数多くの怪物を調伏した逸話を残している。
また、彼は十二天将と呼ばれる強大な式神を従えている他、神の使いたる葛葉狐を母に持つという。
それ故、半分は戯我の血が混ざっていると噂されるが、真相は本人しか知り得ない。