仮面ライダームラサメ   作:正気山脈

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「皆こっちだよ!」
「速く避難して下さい!」

 磐戸のショッピングモールで、見失った紫乃たちを探していた若葉と駿斗。
 突如として襲撃の知らせを受け、彼らはその場に居合わせた八重垣 菫と共に避難活動を行っていた。
 灰矢も一緒だったのだが、彼の方は紫乃たちと合流すべく現場へ向かっている。
 しばらくの後、魔祓課の警察官や私服の封魔司書たちが救助に現れたため、三人は一旦自分たちも避難する運びになった。

「はぁ、紫乃くんたち無事だと良いけど……」

 疲れた様子で駿斗が良い、その場にしゃがみ込む。
 一方、若葉は菫の事が気になるようで、その場で目を輝かせながら質問していた。

「ねぇねぇ菫さん! 情報屋って言ってたけど、どうしてその仕事をしようと思ったの?」

 興味津々な彼女の姿を、菫は微笑ましく思いながら、質問に答える。

「実はね、探している人がいるの。その人の行方が分かるかも知れないと思ったから、情報を収集・提供できる立ち場になったのよ。LOTや警察は良いお客様だわ」
「へぇ~……その探してる人って?」

 その問いを聞くと、菫の表情はどこか寂しそうなものに変わった。

「私の弟よ。生きているのなら……多分、あなたたちくらいの年頃かしらね」


第十六頁[暗黒の力、ギガノイド]

 荒廃した磐戸市の繁華街、そこで激しくぶつかり合う四つのシルエット。

 紫乃とロゼが変身した仮面ライダー、ムラサメとブリューナク。

 さらにロッソとヴェールが変異したギガノイド、ボルケイノドラグナーとスパイラルジャグラーの戦いだ。

 

「キャッハハハハハハ!」

「くうっ!」

 

 暴れ狂う風と共に、ジャグラーは振り上げた大鎌を手足のように操り、じわじわとブリューナクを追い詰めていく。

 素速く立ち回って攻撃を避けようにも、向かい風が体の自由を奪っている。

 ただし槍を振っていなす程度の事はできるため、刃が直撃するまでには至っていない。

 

「うぅ~ん、しぶといわねぇこの女! キャハッ!」

「どっちが……!」

 

 愉快げに笑い声を上げるジャグラーに苛立ちを募らせ、反撃としてAウェポンLモードを突き出す。

 だが、ジャグラーは風に流されるように、あるいは軽やかに踊るように攻撃を避けている。

 そして攻撃が空振りになったのを見計らって、石突を振ってブリューナクの側頭部へと叩き込んだ。

 

「あぁ!?」

「キャハハハハ!」

 

 よろめいてしまったところで、大振りの一撃が胴を横に薙ぐ。

 攻撃を受けた箇所から火花が散って生体装甲に大きな傷ができ、ブリューナクはダメージから槍を取り落としてしまった。

 ドラグナーと交戦していたムラサメは、それを見て思わず声を上げる。

 

「ブリューナク!?」

「余所見はいけないと言ったはずだよムラサメ!」

 

 救援に向かおうとしたところで、竜の持つ無骨な剣が行く手を阻む。

 幸いにも彼女はすぐ立ち上がったが、攻撃の手が止まるワケではない。歯噛みしつつ、ムラサメは斬撃を刀で受け止めた。

 

「邪魔だ、どけ」

「随分と必死だねぇ? そんなにブリューナクが僕のモノになるのが嫌かい?」

「当たり前だ!」

 

 挑発に対して叫声で返し、しかし冷静に力を緩めてバックステップで剣を避けるムラサメ。

 思わぬ行動にドラグナーは態勢を崩し、そこへ拳が顔面に叩き込まれた。

 

「ぐ!?」

「貴様らの行動や態度を見ていれば分かる、どうせロクでもない事をするつもりだろう! そうはさせん!」

 

 ムラサメが再び右拳を握って足を前に踏み出す。それを見たボルケイノドラグナーは、再びパンチが来ると見て剣で防御姿勢を取った。

 だが予想に反し、その拳はドライバーのリキッドを軽く叩く。

 

《サンダー!》

「急々如律令」

Calling(コーリング)!》

 

 両掌から迸る雷が迫り来る。

 隙ありと見てフェイントで放たれた雷撃だが、それでもドラグナーは身を伏せ、回避した。

 

「ハハハッ! この程度なら……」

 

 嘲った直後に、笑い声がピタリと止まる。

 自分が立っていた場所、その背後では、ブリューナクとスパイラルジャグラーが戦っていたのだ。

 そうなれば必然的に、雷撃は――。

 

「キャアアアアアアッ!?」

 

 けたたましい悲鳴。ムラサメの放った雷は、最初からジャグラーを狙っていたのである。

 

「今!」

 

 それを好機と見るや、ブリューナクは長槍を一気に目の前の相手の腹部に押し込み、手痛い一撃を見舞った。

 さらにムラサメと同じくドライバーを操作し、さらなる攻撃に移る。

 

《フラッシュ! Calling(コーリング)!》

神器解放(レリクス・ドライブ)!」

「く、やらせるか!」

 

 今度はドラグナーの方が気を取られ、ジャグラーを守るべく駆け出した。

 その背中を、武器をGモードに変形させたムラサメが狙って勝負をかける。

 

《アイス! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「ここだ……!」

「甘い!」

 

 必殺技の発動を見越して、照準が定まらないようジグザグに動き回るドラグナー。

 だが。気づけば、攻撃するべき相手の眼前のブリューナクは、右手の五本指を自身の方に向けていた。

 

「はっ!?」

「喰らいなさい!」

 

 指先から五つの光条が放たれ、ドラグナーはかわし切れずにその胸を焼かれる。

 さらに、動きが止まったところでムラサメがトリガーを引く。

 二人の狙いは、ジャグラーではなく最初から彼の方だったのだ。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)! モノカラー・クロマティックバレット!》

「貰った!」

「がぁぁぁっ!?」

 

 弾丸を受けて背中から凍りつき、吹き飛ばされてジャグラーの元に転がされる。

 1ヶ月という期間とは言え、何度も戦闘や訓練を共にしていた二人にとって、この程度の連携は朝飯前だ。

 しかしながら、二体のギガノイドもこれしきで音を上げはしない。必殺技を受けてもすぐに立ち上がって、再び戦闘態勢に移る。

 

「なるほどこれがレリックドライバーの性能、厄介だ」

「でもでもロッソ兄様! 私たちもまだまだ本気じゃないもん、ね! ね!」

「ああヴェール。見せてあげようか、僕らの本気の力を」

 

 そう言って二人は、フォージバイザーの左側面にある二つのボタンの内、奥側のボタンを押す。

 すると、直後にバイザーから音声と音楽が流れた。

 

Pile(パイル)!》

「まずはこれだ」

「私はこれ~」

《ドレイク! Forcing(フォーシング)!》

《バンシー! Forcing(フォーシング)!》

 

 自身のバイザーのユニットへと両者がリキッドをかざし、再びグリップのスイッチを同時に入力する。

 瞬間、ボルケイノドラグナーは脚が延長・大型化、スパイラルジャグラーの方は口部が開いて風と共にけたたましい爆音を発した。

 そして突風がムラサメとブリューナクの二人を吹き飛ばし、巨大な両脚から繰り出される蹴撃が真横から襲う。

 

「ぐあああ!」

「きゃあああ!」

 

 ギガノイドからの痛烈な攻撃に悲鳴を上げ、膝をつきかけるムラサメたち。

 だが足を踏ん張って耐え、次なる追い撃ちに警戒し武器を構え直す。

 

「この力は一体!?」

「まさか、レリックドライバーと同じようにリキッドの能力を扱えるというの……!?」

 

 そんなムラサメらの言葉を嘲笑い、ドラグナーとジャグラーは再びボタンを入力した。

 

Pile(パイル)!》

「同じじゃないさ」

「そーそー! 私たちの場合は、そんなのよりもっと強く戯我とひとつになれるんだからね!」

「こんな風に!」

 

 言って取り出したのは、さらにもう一種類のリキッド。

 これもフィジカルカラーであり、封魔司書たちを大いに驚かせた。

 

《ドレイク! アンフィスバエナ! Forcing(フォーシング)!》

《バンシー! アルケニー! Forcing(フォーシング)!》

 

 二つの色彩が融合し、またも二体のギガノイドの身体を変質させ、強化せしめる。

 ドラグナーは脚の巨大化に加えて尻尾が伸び、さらに竜の頭部に変異。

 そしてジャグラーは開口と旋風の後、背中から鋭い爪が生えた蜘蛛のような八つの節足が伸びた。

 

「ハァッ!」

「えぇい!」

 

 尻尾から生えた竜頭が炎の息吹を放ち、蜘蛛の足爪が素速く動く。

 彼らの狙いは、ブリューナク一人に絞り込まれていた。

 その動きを察知して、ムラサメが彼女を守るため立ち塞がる。

 

「させるか!」

「ムラサメ!?」

 

 このままでは炎が全身を襲い、そして鋭利な爪が彼の五体を斬り裂くだろう。

 しかし、その二人の仮面ライダーの前に、灰色の装甲が飛来し、火炎の息吹も尖爪の連撃も全てを防いだ。

 一同が驚いている間に、続けて新たな人影がムラサメの隣に立つ。

 それは弓立 灰矢が変身する、仮面ライダーユーダリルだった。

 

「来たか、ユーダリル!」

「待たせちまったな。これで三対二だ」

 

 フッと笑い、AウェポンBモードを構えるユーダリル。

 だがそれでもなお、兄妹は余裕を見せつけるように笑っている。

 

「愚かだな、君たちは。今更一人増えたからってなんだって言うんだ?」

「もう良いよ兄様! 一気にこらしめちゃおうよ!」

「そうだねぇヴェール、必殺技で終わらせてしまおうか」

 

 くつくつと喉奥で嘲笑って、ギガノイドたちがまたフォージバイザーを操作しようとする。

 その一瞬を見計らい、ムラサメは叫んだ。

 

「ソニックペガサスを使う! フォローを頼むぞ!」

『了解!』

 

 ムラサメの言葉を受けたユーダリルたちは、二手に分かれて武器をドラグナーらに向ける。ブリューナクは、LモードからR(ライフル)モードに変形させていた。

 ドラグナーとジャグラーは一瞬そちらに気取られてしまい、肝心のムラサメの行動への対処が疎かになってしまう。

 

《ソニックペガサス!》

「お前たちを塗り潰す色は決まった!」

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

「カラーシフト!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 空翔ける神速の大将! ソニックペガサス!》

 

 ギガノイドたちの目の前で、ムラサメは背に大きな翼の生えた白銀の将軍の姿に変わる。

 さらにその圧倒的なスピードを維持したまま、ジャグラーへと前蹴りを放つ。

 

「ハァッ!」

「ひっ……あああああ!?」

 

 猛然と向かって来るのがあまりに恐ろしかったのか、彼女は自らの持つ鎌を盾のようにしてしまう。

 その柄は無論ながら簡単に砕け、ジャグラーの顔面へと足が叩き込まれた。

 

「きゃあああ!!」

「ヴェール!? お前、妹をよくも!!」

 

 ドラグナーは怒声を発し、剣を振り上げてムラサメに斬りかからんとする。

 しかしそれも、左右からのブリューナクとユーダリルによる弾幕射撃が進行を許さなかった。

 

「く!?」

「そこで大人しくしていなさい!」

「お前ら……ぐわっ!?」

 

 怒りの矛先を変えようとした直後、今度は殴り飛ばされたジャグラーがドラグナーの胴に衝突。

 そしてそのまま、ムラサメは必殺技の態勢へと移行していた。

 さらに、背後では残る二人の仮面ライダーも武器にリキッドをリードしようとしている。

 

「ロッソ兄様! 私あいつら嫌い!」

「僕ももう沢山だ! こんなオモチャはいらない、全部消し炭にしてやる!」

 

 我慢の限界が来たらしく、背中合わせになったギガノイドたちは今度こそフォージバイザーのグリップのボタンを押し込み、必殺技を発動した。

 

Remixed Color(リミックスド・カラー)! Last Forcing(ラスト・フォーシング)!》

「消え失せろ仮面ライダー!!」

「いなくなっちゃええええ!!」

《ボルケイノ・クロマティックインパクト!》

《スパイラル・クロマティックインパクト!》

 

 ドラグナーの両腕から巨大な炎の塊がムラサメに、ジャグラーの手から凄まじい竜巻が放出されてブリューナクへと向かう。

 それに対し、ムラサメもブリューナクも一切躊躇なく真っ直ぐ立ち向かい、必殺を発動する。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)!》

「これが最後の景色だ!」

Last Calling(ラスト・コーリング)! ソニックペガサス・クロマティックストライク!》

 

 シルバーホワイトの装甲各部が展開し、排熱と同時にムラサメは自らの右足をドラグナーへと向ける。

 一方、ブリューナクは二種類のリキッドによってAウェポンでの必殺技を繰り出した。

 

《ポイズン! コカトリス! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「決めて見せる……!」

Last Calling(ラスト・コーリング)! バイカラー・クロマティックブラスト!》

 

 猛毒の光弾が放たれ、竜巻の先にいるジャグラーを目掛けて直進する。

 そのような行動を見ても、自分たちの攻撃は確実に通ると踏んでいるようで、ギガノイドたちの余裕は未だ崩れない。

 だがそこで、ユーダリルが動く。

 

《アクア! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「狙わせて貰うぜ!」

Last Calling(ラスト・コーリング)! モノカラー・クロマティックシュート!》

 

 ガイアトータスの分離装甲が竜巻を弱め、さらに激しい飛沫を上げる水の矢が炎球の中心を射抜いた事でその威力を散らす。

 

「なっ!?」

「ええっ!?」

 

 無警戒であっただけに、これにはドラグナーもジャグラーも舌を巻く。

 そしてムラサメのキックが薄くなった炎を突き破り、光の弾が嵐を抜けて毒を放出する。

 仮面ライダーたちの必殺技はギガノイドの技を打ち負かし、さらに飛び蹴りがドラグナーを、弾丸がジャグラーを直撃する。

 

「が!?」

「きゃあ!?」

 

 よろめくギガノイドたち。しかし、ダメージが浅いのか倒れはしなかった。

 それもそのはず、炎と嵐の激しさは弱まっていたものの、ムラサメたちの方の必殺の威力も殺していたのだから。

 

「そんな、仕損じたの!?」

「だったらもう一撃……ぐっ!?」

 

 言いかけたところで、ムラサメが地に膝をつく。

 ソニックペガサスの出力による反動と、破壊力が弱まって相殺したとはいえ必殺技とぶつかり合ったために僅かながら負傷してしまったのだ。

 そんなムラサメを見てブリューナクが駆け寄ろうとするが、彼女も無傷ではない。これまでの積み重なったダメージから、痛みに苦悶していた。

 唯一継戦が可能なのは、後から到着したユーダリルのみ。そんなライダーたちの体たらくを、ドラグナーらが嘲弄する。

 

「これで勝負は決まったようだねぇ?」

「キャハハ! 今度は二対一になったし、こっちの方が有利に……」

 

 スパイラルジャグラーがそう言って、兄と共に仮面ライダーたちにトドメを刺そうとした、次の瞬間。

 ボルケイノドラグナーの左腕のフォージバイザーが輝きを失い、彼は人間の姿に戻ってしまった。

 

「何!? 僕が(エネルギー)切れだと!?」

 

 驚愕するロッソ。その発言を聞いて、ムラサメは気付く。

 恐らくあのフォージバイザーとそれで変異するギガノイドは、基本性能こそ現状のレリックドライバー製の封魔霊装の上を行っているが、運用面で問題を抱えているのだ。

 要は燃費が悪いという事だ。戦闘の前に住民たちから色を食っていたのも、そうしなければ長時間戦えないためなのだろうと彼は結論づけた。

 そしてそのエネルギーは、先程のような必殺技やモンストリキッドを使った能力発動の際、そして攻撃を受けても消費される。

 先にドラグナーの方の変異が解けた理由がそれで、彼はムラサメからの攻撃を既に何度も受けているのだ。加えて、ジャグラーの方も焦りを見せているため、時間の問題だろう。

 

「兄様、ここは出直そう!」

「させるかよ!」

「うるさいわよ! また今度遊び相手になってあげるから、邪魔しないで!」

 

 ユーダリルが撤退を阻止しようと弓を構えると、まだ変異を維持できているジャグラーは、フォージバイザーの二つあるボタンの手前側を押す。

 すると、ロッソとギリギリのところで変異の解けたヴェールの周囲に点線のようなものが敷かれ、それが立方体を形取った。

 

Cut(カット)!》

 

 直後に流れる音声と同時に、ロッソたちの姿がその場から完全に消失する。

 

「なに!?」

 

 放った頃には遅く、その一矢は空を切ってしまう。

 

「しまった、逃げられた……!」

 

 変身を解除して、灰矢は歯噛みする。紫乃とロゼも元の姿に戻り、深く息をつく。

 敵は退却したのだが、ほとんど見逃して貰ったような結末で、三人に勝利の実感など得られるはずもなかった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「こっちだ」

 

 ギガノイドとの戦を終えて。

 紫乃はロゼと共にLOTへの事後報告を行い、改めて一緒にショッピングモールへと足を運んでいた。

 もう夜になってしまっているが、買い物(デート)の続きだ。

 生き延びる事ができたとは言っても、先の戦闘の結果は苦々しい。少々気分は沈んでいるが、だからこそ紫乃は彼女を誘い、ロゼもそれに応じた。

 

「行雲くん、一体どこへ?」

 

 問いかけられるが、紫乃は何も答えない。代わりに、目的地に着いたのでその店を指で差した。

 そこは、若葉たちと話していたペアアクセサリーの専門店だった。

 

「本当は色々見て回った後にここへ来たかったが、襲撃があったからな。後日に回すのも嫌だった」

「それは、どうして?」

「……オレは普段からお前には助けられてばかりで、その感謝を伝えられる内にちゃんと伝えておきたかった。それに」

 

 眉根を寄せ、真剣な顔つきで紫乃は語る。

 

「あのロゴス・シーカーの二人は強敵だ。今回は運良く生存できたが、次はそう上手く行くとは限らない」

「いつ死んでもおかしくないから、ということなの?」

「違うな。オレたちが『必ず勝って、生きて帰る』という覚悟を決める」

「覚悟?」

 

 彼の言葉に訝しむロゼ。そのまま続けて、紫乃は言った。

 

「絆の証として贈り物をするんだ、それはきっと大切な思い出になる。しかし死んでしまえば哀しみの象徴になってしまうだろう。だから次の、その次も、ヤツらのせいで色を奪われた人々のためにも……勝って生き残らなければならなくなるんじゃないか?」

「なんというか……不思議な考え方ね?」

「こうなったのはお前たちの仕業だがな。きっと、昔のオレなら死んででもヤツらを倒す事に固執しただろう」

 

 そんな風に言葉を紡ぐ紫乃の表情は、その紫色の瞳は、どこか晴れやかな光を宿していた。

 彼の眼に思わず見惚れてしまい、ロゼは息を呑んだ。

 

「お前が生きていても良いと言ってくれたから、オレは少し変われたんだ」

「……!」

「本当に心から感謝している」

「そ、そう! こちらこそ感謝してるわ! えっと、じゃあその……中に入りましょうか!」

 

 紫乃の笑顔を見て慌てふためきながらそう返し、二人は肩を並べて入店する。

 店内には様々な銀細工の綺麗なアクセサリーがあり、特にネックレスが多く見られた。

 その中でもロゼが心を奪われたのは、太陽と三日月の意匠が施されたリング状のものだ。

 

「リングにお名前を刻印する事もできますよ」

 

 店員からそのように言われ、ますますロゼはそれが気に入った。

 紫乃も同じらしく、二人の名前を刻むように伝える。

 そして受け取った太陽の方を紫乃が、月の方はロゼが首から提げた。

 

「ね、行雲くん」

 

 ショッピングモールを出るなり、振り返ってロゼが話しかける。

 

「なんだ?」

「えっと、その……これからは、ね。紫乃くんって呼んでも良いかしら?」

「別に好きに呼べば良い」

「良かった。じゃあ……紫乃くん。今日は本当にありがとう、大切にするから」

 

 僅かに濡れた瞳と、夜風になびく長い髪。

 そしてほんのりと赤く染まった頬が、照れた彼女の笑顔が、何より心からの嬉しそうな言葉が。

 ほんの一瞬、紫乃の時間を止める。

 

「――あ、ああ。それは良かった」

 

 僅かに返答に間が空いた事を訝しむロゼだが、紫乃がまるで顔を見せまいとするかのように先を歩いてしまったので、慌てて後を追う。

 その紫乃の方は、徐々に熱くなっていく自分の顔と高まる胸の鼓動に、困惑していた。

 

「……なんだ、この感じは。オレはどうしてしまったんだ……?」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 同じ頃。

 緑色の微光が灯る奇怪な洋館の中で、ふたつの影が踊るように工房のような部屋の中に入り込む。

 ロッソとヴェールだ。彼らの視線の先には、黄色いサフランの花のような装飾がされた剣を手入れしているカリオストロの姿がある。

 

「伯爵様、ただいま戻りました」

「ごめんなさーいカリオストロ様ー! 色切れ起こしちゃった!」

 

 兄の方は申し訳無さそうに一礼し、妹はどこか馴れ馴れしくそう言った。

 カリオストロはというと、別に怒るではなく、むしろにこやかに笑みを浮かべて応対する。

 

「おお、我が愛しのホムンクルスたちよ。成果は聞いているよ。仮面ライダーを追い詰めたようだね。君たちを教育したアダンくんも、きっと鼻が高い事だろう」

「はい……しかし」

「分かっているとも、エネルギー消費にはまだ改善の余地がある、近い内に調整して解決しようではないか」

「もう対策を考えているとは。流石ですね、伯爵様」

 

 ロッソが褒め称え、ヴェールは拍手。それを満足そうにカリオストロが受けた。

 

「これからは増々忙しくなるよ。君たち兄妹も……そして、我々幹部もね」

 

 黄色い輝きを放つ剣を鞘に納め、ニヤリと笑うカリオストロ。

 二人も愉快げに唇を歪ませ、フォージバイザーを撫でるのであった。




付録ノ十六[バンシー]

 アイルランドやスコットランドにかけて伝承された、人の死を予告する妖精。通称『泣き女』。
 姿形については一定しておらず、美しい少女の幽霊とも醜悪な怪物ともされている。
 伝染病や災害の前触れでもあるとされる他、彼女の乳房を吸う度胸のある人間や接吻することができた人間は望みが叶うと伝えられている。
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