仮面ライダームラサメ   作:正気山脈

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「はぁ、はぁっ……」

 息を切らし、冷気の残る街を一人の少年が走り続けている。
 少年の名は駿斗。いつか戯我に追われた頃のように、仮面ライダーたちの姿を求めて疾走していた。
 しかし、一向に見つからずに足が停まってしまう。

「そう言えばこれ、勝手に持ち出しちゃったけど良かったのかなぁ」

 肩で息をしながら、ポケットの中にある二つの道具を取り出す。
 ソニックペガサスのモンストリキッドと、ペルセウスの髄液。リキッドはともかく、髄液はそのまま使うのは危険だ。持ち込むのも奪われる危険を考慮すると愚策のように思える。

「うん……まぁ、良いよね。灰矢さんたちに必要かも知れないし」

 しかし、まるで誰かと話でもしているかのようにそう独りごちると、駿斗はすぐに捜索を再開した。


第二十二頁[そして白馬が哭いた]

 磐戸で突如起こったワイルドハントを、消耗しながらも鎮めつつあったLOTの封魔司書たち。

 しかし、その躍進もロゴス・シーカーの幹部、戯我と化したカリオストロによって止められる。

 なぜならば、彼は若葉を人質として伴っていたからだ。

 

「日本のトップがいるとは好都合ですねぇ。では、この人間を斬り刻まれたくなければ、武器を捨てて両手を挙げて地面に這いつくばりなさい」

 

 赤い悪魔のような戯我に姿を変えたカリオストロを睨んで、ロゼは問いかける。

 

「どうして彼女を……!」

「おやぁ、聞こえませんでしたか? できないのなら……また血が流れる事になるんですがねぇ」

 

 カリオストロの持つ魔剣、クロケア・モルスの刃が再び若葉の首元に浅く食い込む。

 このままでは殺されてしまうが、どの道カリオストロは無事で帰すつもりもないだろう。一体どうすれば良いのか、と焦るロゼに、晴明が密かに声をかけた。

 

「ここは彼の言う通りにしましょう」

「日本支部長……!?」

 

 抗議しようと振り向き、直後にロゼはハッとする。

 晴明の目は、まだ諦めていない。むしろ、何か狙いがあるように思えたのだ。

 彼の事を信じると決めて、ロゼはレリックライザーを地面に置いて膝と手を地に着ける。

 

「あなたもですよ。その剣を捨てなさい」

 

 カリオストロに促され、晴明はゆっくりと破敵剣を握る力を緩める。

 そして完全に指から落ちようとした、その寸前。

 

「急々如律令」

 

 晴明が唱えるのと同時に、破敵剣に刻まれた北斗七星の紋様が輝きを増し、刀身から十二体の戯我が飛び出した。

 配下たる十二天将を不意打ちで召喚する事で、若葉を助け出そうと言うのだ。

 まずは貴人が赤い光をカリオストロと若葉にひとつずつ放ち、同時に天空が目晦ましに濃霧を発生させる。

 

「なにィ!?」

「きゃっ!?」

 

 磁力を与える光を浴びた二人は、赤同士であるために反発し合い、そのまま若葉はカリオストロの腕から引き剥がされた。

 そしてすぐに、砂塵に紛れてロゼもレリックライザーを拾う。

 

「今なら!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

「変身!」

《舞え! 優雅なる赤薔薇の戦乙女! エレガントヴァルキリー!》

 

 素速くリキッドを装填して変身すると、ブリューナクはミラージュを生み出しながら突撃。

 さらに騰蛇と白虎、青龍や朱雀に玄武も攻撃に加わり、カリオストロの背後にいる下級や中級の戯我たちを一掃していった。

 邪魔立てもなくなったので、エレガントミラージュ全てを赤い悪魔の方に送り込み、ブリューナク自身は若葉を逃がすためにその体を抱える。

 

「よし、先輩を確保! これで……」

「これで、なんです?」

 

 突如として目の前から聞こえた言葉を耳にして、紅い戦乙女は愕然として顔を上げる。

 磁力の反発によって先刻まで背後に倒れていたはずのカリオストロは、自分を迎え入れるようにそこにいた。

 

「なん……で!?」

 

 驚くブリューナクの言葉を聞きながら、悪魔の戯我はその場で三度剣を振った。

 両者の間にはそれなりの距離がある。少なくとも、剣を振ったところで届くような間合いではない。

 だが。

 少し前にバラバラに斬り裂かれた灰矢のAパワーアーマーを思い出すと、咄嗟に左へとステップして回避に動いていた。

 

「ほほう、良い判断ですね。ギリギリですよ」

 

 カリオストロがぽつりと呟く。

 その直後、ブリューナクの横腹の装甲が断たれて僅かな傷を作り、戦っていた騰蛇と朱雀の首が落ちて消滅する。

 

「ぐっ、う……!」

「ロゼちゃん!?」

 

 深い傷ではないが、苦悶するブリューナクと悲鳴を上げる若葉。

 如何に強力な武器と言えど、封魔霊装の装甲を斬るのは容易い話ではない。

 それを可能にできるとすれば、それは。

 

「これぞ私の愛する遺物、クロケア・モルスの能力ですよ」

 

 ケタケタと嘲笑うカリオストロが、再び剣を振る。

 瞬間、黄色い靄が立ち昇って刀身が僅かに『ブレた』かと思うと、風を斬るような音と共に、その軌道上の空間までもが靄を発しながら霧の寸前まで歪んでいく。

 その状況に気がついたブリューナクは、ハッと息を飲んでその軌道上から逃れた。

 数刻の後、歪んだ空間が元に戻って靄が消えるのと同時に、その歪みの中にあった道路標識や建造物に一直線の傷が走る。

 

「こ、これは……!」

 

 晴明もロゼも見ていた。この魔剣の持つ、驚くべき特性を。

 刀身の歪みの正体、それは『空間の断層』である。剣を振る事でこの断層を飛ばし、その裂けた層の内側に入っているモノの繋がりを断つのだ。

 そして断層が閉じた瞬間、内側に入っていた物体の強度やあらゆる物理的法則を無視し、切断する。ブリューナクが負傷したのも、断層の範囲内にいたのが理由だ。

 つまり、この剣は物体を直接斬っているのではなく――。

 

「空間を斬り裂く剣!?」

「ご明察」

 

 ヒュンッ、とカリオストロは再び剣を何度か空振らせる。

 否、しっかりと斬っているのだ。自身の視界にある『空間』を。

 

「まずい!!」

 

 目を見開き、ブリューナクは攻撃に巻き込まれないよう若葉を突き飛ばし、ミラージュを生み出して保護させる。

 そして自身は飛翔し、飛び交う空間断層が閉じる前に回避せしめた。

 

「あ……っぶない!?」

「ハハハ! 避けましたか、ではこれならどうです?」

 

 今度は縦に一度だけ剣を振り下ろす。すると、カリオストロの目の前の断層が左右に拡がり、真円の『穴』を形成する。

 一体何をするつもりなのか。身構えるブリューナクの前で、赤い悪魔はその穴の中へと飛び込んだ。

 

「えっ!?」

「こちらですよ」

 

 次に声が聞こえた時には、彼はブリューナクの遠く後ろ、それもエレガントミラージュの前に立ちはだかっていた。

 そして剣で叩き斬り、若葉を人質にすべく身柄を奪う。

 

「しまった!」

「クククククッ! クロケア・モルスの能力には、こういう使い方もあるのですよ。裂け目を拡げて、別の裂け目へと移動する……さらに!」

 

 またも魔剣を振って空間に裂け目を作ると、今度はその穴の中に若葉を押し込んだ。

 直後、若葉は十二天将たちとカリオストロの連れた戯我との戦闘の只中に飛ばされる。

 

「きゃあああっ!?」

「くっ!? 白虎、青龍! 止まれ!」

 

 晴明が声をかけ命令すると、攻め手を抑えざるを得なくなった十二天将たちは、次々とクロケア・モルスの兇刃の前に破れて全滅していった。

 さらに若葉も再び空間の裂け目を通してカリオストロの方へと引き寄せられ、また人質となってしまう。

 

「そ、そんな……」

「まぁこのように、モノを自在に出し入れする事もできるんですねぇ。リキッドを仕込んでおけば、抜刀した瞬間に変異するのも容易い話。さらに」

 

 言いながら今度はブリューナクの頭上に断層を作ると、それがまた広がって穴を形成し、中から安全ピンの抜けた手榴弾が10個以上もこぼれ落ちる。

 仮面の中で目を剥き、爆風に備えるため彼女は自身の顔や体を覆うように防御の姿勢を取った。

 

「くうっ!?」

「このようにできるのですよォ!」

 

 対仮面ライダー用に作られているのか、爆発によってブリューナクの装甲が激しく損傷し、変身が解除されてしまった。

 彼女がよろめく様子を愉快げに眺めた後、カリオストロはタンタンッとその場でステップを踏む。

 すると足で踏んだ場所から金色の鎖が形成され、それが自在に動き出し、若葉を後ろ手に拘束して大きく足を開く形になるようにして縛り付けた。

 さらにロゼや晴明の前にも同じものが出現し、ジャラジャラと音を立てて蛇のようにしなりながら巻き付いて来る。

 

「きゃあっ!? な、何を……」

 

 突然四肢を戒められ、狼狽する若葉。カリオストロは彼女に視線を這わせ、黄色い靄を放つ剣先を突きつけた。

 

「さぁて? 人質を助け出そうとした罰を与えるとしましょうかねぇ」

 

 言いながら、今度は若葉に向かってクロケア・モルスを振り被る。

 彼女自身の身体に傷はない。しかし、空間の断層がゆっくり閉じると同時に、若葉の纏う衣服を裂いていく。

 何度も、何度もそれが繰り返されるのだ。羞恥と恐怖から、若葉は思わず叫び出していた。

 

「いやあああああ!?」

「ハハハハハ! このまま丸裸になるまで斬り続けて、身も心もたっぷり陵辱して差し上げますよ!」

「やだ、やだぁぁぁ!! お願いだからやめて!!」

「恨むなら非力な封魔司書を恨むんですねぇ! ハァハハハァーッ!!」

 

 カリオストロの嘲笑う声と、若葉の悲鳴が街に響く。

 その時だった。赤い悪魔の側頭部に、小さな石がぶつかった。

 

「ア?」

「わ……若葉を、放せ! 戯我!」

 

 見れば、そこにいたのは駿斗だった。顔を青くして身震いしながらも、若葉を助けるために注意を引いたのだ。

 

「白多先輩!?」

「ダメだ来るな! 逃げるんだ、速く!」

 

 雁字搦めにされたロゼと晴明が叫ぶが、駿斗には聞こえていないのか、それとも確固たる意志故か。

 カチカチと歯を鳴らしつつも、まだカリオストロに立ち向かおうとしている。

 

「ぼ、僕は、僕は若葉を……助けるんだ!」

 

 頑として言い放つ駿斗。拳を握り、無謀にも飛びかかった。

 だが。

 カリオストロが真っ直ぐに剣を突き出した瞬間、空間の断層が駿斗の胸を、心臓を捉え――。

 

「え」

「邪魔ですよ」

 

 裂け目が閉じるのと同時に、彼の心臓に致命的な大穴を開けた。

 

「あ、う……がっ!?」

 

 止まらない出血。

 胸を押さえ、苦悶と恐怖に満ちた表情で、駿斗は崩れ落ちた。

 

「駿くん!?」

「がぁ、う……わか、ば……」

「いや……いやぁ!! ダメ、死なないで!!」

 

 徐々に双眸から光が失われていく駿斗の姿を見て、若葉はほとんどボロキレ同然の衣服がもっと酷い有様になるのも構わず、涙ながらに必死にその場で足掻く。

 カリオストロは冷めた表情で死に向かっていくその非力な人間を眺めていたが、やがてそれもどうでも良くなったのか、トドメを刺すため再び無言で剣を振り上げた。

 そして無慈悲に振り下ろそうとした、その寸前。

 二つの銃声がそれぞれ別の方向から木霊し、カリオストロの手から魔剣を取り落とさせた。

 

「なっ!?」

 

 驚いたカリオストロが銃弾の飛んで来た方を見れば、そこには隊服を纏った仮面姿の紫乃と、反対方向にはパワーアーマーの残骸から這い出てきた血まみれの灰矢がいた。

 

「オレの友を……よくも……」

 

 歯を軋ませ、睨みつける紫乃。悪魔が剣を拾おうとした瞬間、さらに発砲して若葉からも剥がす。

 その隙をついて、灰矢は疾走して若葉を救助、裸同然の彼女に上着を被せる。そしてロゼと晴明の鎖を砕いた後、重傷の駿斗に治療を始める。

 まずは霊薬を飲ませ、傷を手で力強く押さえる。しかし、当然ながらそれで簡単に負傷が癒えるワケではない。

 

「クソッ、ヤベェぞ。霊薬の効果が薄い、本格的な治療が必要だぜ」

「ならオレがすぐに終わらせてやる」

 

 そう言って紫乃はドライバーにレリックライザーをセットして、二つのリキッドを取り出し起動する。

 

《サンダー! ハウンド!》

「カリオストロ、貴様だけは決して許さん!」

「人間風情が猪口才な事を! 返り討ちにして差し上げますよ!」

「変身!」

《天を裂く紫電の咆哮! サンダーハウンド!》

 

 ムラサメへの変身を終えると同時に、カリオストロもようやく剣を拾う。

 そこへ、晴明がハッとして助言を放った。

 

「紫乃! 彼の遺物(クロケア・モルス)は空間を斬り裂き、自在に操る力を持っている! 断層に触れないように、そして空間移動に気をつけて立ち回るんだ!」

「了解した!」

 

 二人の会話を聞きながら、カリオストロは噴き出しそうになるのを堪えつつ、魔剣を振る。

 ただ気を付けたからと言って、この力への対処などできるはずがない。そんな確信を心に持ち、眼前に出来た次元の裂け目に飛び込む。

 続けてムラサメの背後を起点とし、通り抜けるための穴を遠隔設置。一刀の元に首を斬り落とすべく、剣を振り抜かんと飛び出した。

 しかし背を向けているはずのムラサメはその場で伏せ、さらにG(ガン)モードのAウェポンの銃口を背中越しに向けて発砲する。

 

「なギャッ!?」

「フン」

「ま、まぐれ当たりはそう何度も続きませんよ!!」

 

 撃たれた顔を押さえ、カリオストロは再び異空間に隠れ潜む。

 そして死角となる背後の位置からまた斬りかかろうとするのだが、これもムラサメが寸前で腹に蹴りを叩き込む事で失敗に終わる。

 

「うげぇ!? な、なぜ!?」

「クロケア・モルス……なるほど確かに強力な魔剣だが、使い手がこの程度ではな」

「何をォ!!」

「貴様は三つ見落としている」

 

 やたらめったらに剣を振るカリオストロの攻撃を避けて前進しながら、ムラサメは語る。

 

「ひとつ、貴様自身は一流の剣士ではないこと。剣の性能に頼るばかりでは勝ち続けられるはずもない」

「ぐ……だ、黙れぇ!」

 

 そんな指摘を受けても、赤い悪魔は斬撃を止めない。

 ムラサメはその剣から生み出される断層の尽くを回避し、ついには左手一本でカリオストロの腕を掴んで攻撃の手を止めさせた。

 

「なにィ!?」

「ふたつ、空間の断層を発生させて攻撃するには、オレの立つ場所に向かって剣を振らなければならないこと。こうして完全に振り切る前に止めてしまえば、能力を封じるのは容易い話だ」

 

 言ってムラサメは刀を振り下ろし、眼前の赤い戯我を胸から脇腹にかけて袈裟に斬った。

 怯むカリオストロであったが、攻撃を受けてすぐにムラサメを突き飛ばし、距離を取る事に成功。

 今度こそ、とばかりに背後の空間に穴を作り、カリオストロは再度姿を消した。

 かつてローマのカエサルが使ったとされるクロケア・モルス、その力に絶対の信頼を置いているカリオストロの次なる手は、複数の出口を用意する方法だ。

 ムラサメの背後にふたつ、どちらも手榴弾を放り込み、本体である自身は逆に真正面に作ったもう一つの穴から出て来て攻撃する。フェイントを織り交ぜた完璧な作戦だ。

 

「なら、ならば! これもかわせますかァ!?」

 

 作戦の決行。考えた通りに背後に二つ、入口に使った穴の後ろに一つ空間移動の穴を生み出し、カリオストロは爆弾を投げ込もうとする。

 だが、計画は失敗した。手榴弾が落ちるよりも前に、ムラサメは大きく前へと走り出していたからだ。

 焦って逃げようとしても、もう遅い。白き戦士の一刀は、またもカリオストロの身体を薙ぎ払う。

 

「な!? なぜ!?」

「……最後。オレたちの使うリキッドに対する研究不足だ」

「なんだ、と?」

「サンダーハウンドは聴覚や嗅覚を鋭敏化する力を持っている」

 

 それを聞いて、カリオストロの目が段々と大きく見開かれていく。

 つまり、ムラサメは最初から視覚のみに頼っておらず、視界から敵が消えた後に突然出てくる臭いや音で位置を特定していたのだ。

 しかも正確性は先程から見ている通り。カリオストロにとって、このサンダーハウンドは非常に相性の悪い相手と言える。

 

「こ、こんな事が……おのれぇ!」

 

 ダンッ、と大きく踏み込み、大上段から斬りかかるカリオストロ。

 同時に足で踏み鳴らした位置が金属化し、金色に輝く刃が先端に付いた無数の鎖が四方八方からムラサメを襲う。

 だが彼は慌てる事なく、ドライバーにセットされたリキッドを操作した。

 

《ハウンド!》

「急々如律令」

Calling(コーリング)!》

『ウォオオオーン!!』

 

 ムラサメがトリガーを引いた瞬間、白い霊犬が飛び出して鎖に向かっていき、全てを噛み千切る。

 カリオストロはその様子に声を上げる暇もなく、クロケア・モルスの能力を使う事すらできずに顔面を殴り飛ばされ地に倒れた。

 

「ぐげぇ!?」

「錬金の能力に、その見た目。お前が使っているのはバルベリト・ギガのリキッドだな」

「う、うぐ」

「恐らく上級に位置するはずだが、肝心のお前自身が使いこなせていないらしい。まぁ元々錬金術師というより詐欺師なんだ、お似合いだな」

「このガキ……!!」

 

 歯軋りをしてまた斬撃を繰り出そうとしたところへ、AウェポンGモードの銃撃が飛ぶ。

 そうして態勢を崩して魔剣を取り落した隙に、必殺技を発動させた。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング!)

「これが最後の景色だ」

《サンダーハウンド・クロマティックストライク!》

 

 ムラサメの双拳に雷が轟き、恐怖に引き攣った表情のカリオストロは地面を金属化させ、身を守る壁として自分の周りを囲ませる。

 しかし、それでは逆効果にしかならなかった。逃げ場がなくなった上、ムラサメは容易く金属の障壁を破壊して追い詰めていく。

 もはやこれまでだ。カリオストロ自身だけでなく、晴明やロゼ、灰矢から見てもそう思える状況だった。

 だが。

 

「ぐ……しまった……!?」

 

 ムラサメは突然、変身が解除されて苦しんだ様子で膝をつく。そのまま必殺技は不発に終わった。

 病状を抑制する薬の効果が切れ、その上に副作用で思うように動けなくなってしまったのだ。

 最初は突然の出来事に面食らっていたカリオストロだが、やがて自身が再逆転したのだという事実を認識すると、喜色満面になった。

 そして、蹲る紫乃を何度も蹴りつける。

 

「ヒヒ、クフヒヒヒヒヒ! 素晴らしい! まだ私は運に見放されていなァーい! かつて牢獄に囚われていた私を、あの御方がエリュシオンに導いた時のようにィ! 極限まで追い詰められた時にこそ! 道は開かれるのだァ!」

 

 言いながら、クロケア・モルスを拾い上げるカリオストロ。

 舌で刃を舐めずり、紫乃の前で剣を頭上に掲げる。このまま振り下ろし、首を斬り落とすつもりだ。

 

「まずは貴様からだ! 死ねぇ仮面ライダー!」

 

 空間を裂く剣が、音を立てて首筋に向かって行く――。

 

 

 

「ちっくしょう! このままじゃ紫乃のヤツが……!」

 

 薄れゆく意識の中、頭上でそんな声が聞こえる。

 駿斗がゆっくり顔を傾けると、紫乃がカリオストロに蹴られているのが見えた。

 

「し、の……くん……」

 

 穴が開いて止めどなく血が流れるが、意識を手放さないようグッと唇を引き締め、駿斗は考える。

 事もあろうに、この自分の生死が懸かった状況にありながら、紫乃を助ける方法を思索しているのだ。

 

「ぼ……く、は……」

 

 どうすれば良いのか。

 そう口にするよりも前に、頭の中で声が響く。

 

『忘れているのか? お前が研究室で持ち出したモノを』

「……あ……!」

『使え。アレを、使うんだ。そうすれば()()は――』

 

 脳内に聞こえる、自分自身の、しかし別人のような声。

 駿斗の唇の端が小さく、歓びの形に歪む。

 そしてすぐさまポケットから小瓶を取り出すと、負傷した自分の心臓にその内容物をぶちまけた。

 

「駿斗!? お前何やってんだ!?」

 

 突拍子もない行動に愕然とし、灰矢は立ち上がる駿斗を止めようとする。

 しかし、心臓に穴が開いているとは思えない程のスピードで、彼はその腕を避けた。

 見ればその胸からはボコボコと血が泡立っているが、同時に傷口が塞がりつつあるのも見て取れる。

 一体何が起きているのか。その時、ロゼは駿斗の足元に落ちている小瓶を見つけ、目を剥いた。

 

「そ、それは……ペルセウスの髄液!?」

 

 駿斗が胸の傷にふりかけたのは、取り込んだ者に英雄の力を与え、生命力を高める魔法の液体。

 無論、再生能力が高まっているとは言え、これで出血や傷が塞がるのには時間がかかる事になるだろう。

 それを知ってか知らずか、駿斗はもうひとつの、研究室から持ち出したそれを起動した。

 ムラサメの扱うモンストリキッド――。

 

《ソニックペガサス!》

 

 スイッチを押し込んだ瞬間、そのモンストリキッドは白銀(シルバーホワイト)から黒檀(エボニーブラック)に染まる。

 そしてそのカートリッジの端子を、自分の胸に突きつけた。

 

「く、ククク……フフフフフ、ハァハハハハハァーッ!!」

 

 駿斗の声だが、明らかに別人の高笑いの声。

 茫然自失状態の封魔司書と若葉の前で、彼は流れる血液を真っ黒なインクに変えて、異形の怪物へと変貌していく。

 さらにその手に持つリキッドは、胸の奥へと溶け込んで行ってしまった。

 

FALL-DOWN(フォール・ダウン)! ペルセウス!》

「ようやく俺様の出番が来たようだなァ」

 

 屈強な肉体を持つ怪人で、口部には牙がずらりと並び、身体は鎧のように黒い金属質の甲殻で覆われている。

 また、両足のくるぶしの辺りには小さな翼が生えている他、胸に赤黒い『尾を喰む蛇』の紋様が浮かび上がっていた。

 魔剣を振り下ろそうとしていたカリオストロは、その姿を見ると手を止め、怪訝そうな表情になって剣先をその怪人に突きつける。

 

「さっきの小汚い人間ですか? 一体何を――」

 

 そこから先は、言葉にならなかった。

 空気を突き破るような音が聞こえたと同時に、握っていたはずのクロケア・モルスが宙を飛び、カリオストロは道路の上で空を仰いで倒れていたからだ。

 

「……あ……?」

 

 何が起きたのか、何をされたのか。

 一切を理解できないまま、立ち上がろうとすると今度は顔面に激痛が走る。

 顔を蹴り上げられた。それも、目に見えない程の速度で。

 危険と見て足速に逃げようとするが、もう手遅れだ。一瞬の内に回り込まれ、黒い拳の連撃をその身に受けた。

 

「ロゴス・シーカーに、てめぇの席はいらねぇんだよ。詐欺師野郎が」

 

 空中を舞っていた魔剣が目前に落下し、黒い怪人はそれを手に取ってカリオストロを横に薙ぐ。

 そして空間断層が閉じ、赤い悪魔は上半身と下半身がプツリと途切れてしまった。

 

「あ、あが」

 

 ゆっくりと身体が落ちていく感覚。激痛と、死に近づく恐怖。

 それら全てを一掃するように、黒い怪人は素速く接近してカリオストロの首に牙を立てる。

 

「くたばれや」

 

 バキッ、という骨髄の砕ける音。血液(インク)と髄液が溢れ、奪って培った色が失われていく。

 あっという間にバルベリト・ギガ、カリオストロを平らげてしまったその怪物は、元の駿斗の姿に戻った。

 しかしその人相はどう見ても別人のそれであり、邪悪さを全面に押し出したその笑顔を見て、一同は困惑する。

 

「さぁてェ! 次はお前らの番だぜ、封魔司書ォ!」

「お前は……何者だ!?」

 

 自分の知る友人とは全く異なる姿と言動に、狼狽する紫乃。

 尋ねられて、駿斗と同じ顔で話すその怪物は、身に纏うシャツを脱ぎ捨てる。

 その胸の中心には、今までにはなかったはずの、そしてあの怪物にはあった蛇の紋様があった。

 

「俺様はウロボロス・ギガ……ロゴス・シーカーの幹部の一人だァ!」

 

 駿斗の口だけではなく、胸の蛇からも聞こえる声。

 新たな敵に、変わり果てた友の姿に、紫乃は絶句するしかなかった――。




付録ノ二十二[クロケア・モルス]

 ガイウス・ユリウス・カエサルが愛剣とし、死後ネンニウスに奪われた常勝の魔剣。
 豪華な純金の装飾が施されているが、死神の名の通り、この剣によって傷を負った者は必ず死を迎えるという逸話が残されている。
 その逸話の真実は『空間断裂能力』にあり、毒などが仕込まれているのではなく、単に『斬られれば死は免れない』という事なのだ。
 特に常人の動きや目ではこの剣の作る空間の断層から逃れるなど不可能に等しいもので、剣を奇跡的に奪われた際は、形勢が逆転している。
 ネンニウスが死した際は一緒に埋葬されたはずであるが、ロゴス・シーカーによって掘り起こされたのか、カリオストロ伯爵が所持していた。
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