仮面ライダームラサメ   作:正気山脈

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「なぁ」

 緑色の光が満ちる、大きな満月の見える館。
 その中のモルガン・ル・フェが居住する一室にて、クリスチーナ・バグローヴィは退屈そうにソファーで寝そべり、彼女に問いかける。
 眼鏡をかけたモルガンは薄い黒のナイトドレスを纏い、テーブルの前で書物に向かっていた。

「アタシ行かなくて良かったのかよ、モルガン」
「何の話ですか?」
「ワイルドハントの事だよ、バルトが起こしたヤツ。あの中にはさ、ホラ……」

 あのアーサー王がいたはずだ。
 そう言葉にする前に、モルガンが本を閉ざした。

「ワイルドハントを止めるという事は、即ちバルト・アンダースと対立する事を意味します。軽々に行動はできません」
「まぁ、そうだよな」
「それに。それに……本物のアーサーは既に死んでいます。モルドレッドだって……」

 キュッと手を握り締め、モルガンは言った。
 そうして少しの間沈黙が続いた後、彼女はクリスを振り返る。

「ところで、クラレントの調子はどうですか?」
「あぁ、良い感じだ。不思議と身体に馴染んでるし、武器の方も悪かない。ただ……連中みたいにもうちょい強いリキッドが欲しいな」
「その点は安心して下さい、既に新型の開発に取り掛かっています」
「マジ!? ナイス!!」

 嬉しそうに、無邪気にはしゃぐクリス。その姿を見て、モルガンは懐かしそうに目を細める。
 遠い昔、どこかに行ってしまった子供を見ているような――。
 彼女をそんな回想から引き戻すのは、N-フォンの着信音だった。名前を見て、モルガンはすぐに通話に応じる。

「はい……そうですか、貴重な情報をどうもありがとうございます」

 二言三言交わすと、モルガンは通信を切って再びクリスへと視線を送った。
 先程の実の子を見るような朗らかなものではなく、真剣味を帯びた眼差しだ。

「クリス。あなたの出番です」


第二十三頁[紫電の霊犬と堕天騎士]

「戯我だと……一体いつから駿斗の中に!?」

 

 ワイルドハントの到来により、季節に似合わない寒気を伴う風の吹く磐戸の街にて。

 目の前に立つ少年、白多 駿斗は、普段の彼からは考えられない程に凶悪に歪んだ表情を見せつけ、紫乃の言葉に返答する。

 

「いつから、なんてモンじゃねェよ。最初から、この宿主サマが生まれた時からだ」

「バカな!? なぜ結界が効いていない……いや、それ以前に晴明が気付かないはずがないだろう!?」

「ハッ、そんなモン効かなくて当然だぜ。俺はこの脳天気なガキの脳味噌の中に、ずっと隠れてたんだからな。肉体的には人間である以上、誰にも気付かれないのさ」

 

 狼狽える紫乃を嘲笑い、駿斗の顔をした魔人、ウロボロス・ギガはハッキリと答えた。

 

「大体よ、考えても見ろよ? 『家族から本物のペガサスの羽根を貰った』なんてガキが普通の人間なワケねぇだろ? しかも、そんなバカみてぇな与太話を今もまだ信じてるなんて有り得ねぇっての!」

「それは……」

「まぁ、こいつにそれを信じ込ませたのは俺様なんだがなぁ。頭ン中で何度も誘導してよォ」

 

 ギリッ、と紫乃は歯を軋ませる。

 原初の人類(アダムとイヴ)が楽園の果実を食んだ時のように。蛇とは、人に囁き唆す存在だ。

 同じようにウロボロスも、幼い頃から干渉し続けていたのだろう。それを自分の判断であると、駿斗自身に認識させながら。

 

「これでもお前らには感謝してるんだぜ? 何せペガサスの羽根をリキッドに変えてくれたんだ、この俺様のためになァ!」

「違う! それは駿斗がオレに……祖父の形見だと……!」

「仕向けたのは俺様だ。だから俺様のモンなんだよ」

 

 それさえもウロボロスの狙い通りだったのか。紫乃は驚きつつも、納得せざるを得ない部分があった。

 織愛に提案し、所持していたペガサスの羽根をリキッドに変えさせたのも。この場にペルセウスの髄液を持って現れたのも、他ならない駿斗なのだから。

 紫乃はふらつく身体で踏ん張りつつ、レリックライザーの銃口を向ける。

 

「駿斗を解放しろ!」

「無理だねェ。ようやく最強の肉体と最強のリキッドを手に入れたんだ、簡単に渡すワケないだろ? 実力で奪ってみろよ、そんなボロボロでできるワケねェけどな」

 

 カリオストロを殺害し強奪したクロケア・モルスを肩で担ぎつつ、ウロボロスは言い放った。

 実際、今の状態でマトモに戦えるはずはない。そもそも仮にあの肉体へ致命傷を負わせようものなら、本来の駿斗の人格が戻る前に死んでしまうだろう。

 ウロボロスもそれを理解しているらしく、唇を歪めて四人を見下ろしている。

 

「諦めな! 所詮お前ら人間じゃ――」

 

 不意にウロボロスが口を閉ざす。

 見ればその左腕が、まるで壊れた機械のようにガクガクと動いているのが分かった。不服そうに、舌打ちの音が響く。

 

「チッ、まだ足掻けんのかよ」

 

 その言葉の意味するところは、ウロボロスは未だ駿斗の人格を完全には支配できていないという事実だ。

 まだ遅くはない。紫乃たちが希望を持ち始めた直後、しかしウロボロスは魔剣を振って別の空間に通じる穴を作り出した。

 

「丁度良いな。この身体が完全に馴染むまで、ほんの三日ほど時間をくれてやるよ。ついでに今日中にワイルドハントも終わらせてやる」

「なに?」

「大将首は全員落ちちまってるが、残党共の色を喰ってりゃ次第に力も高まる。そうなれば肉体の支配権は永久に俺様のモノって寸法よ」

 

 紫乃や晴明の表情が再び強張った。そんな事を許してはいけない、そうなる前に止めなくてはならない。

 だがそんな思いも虚しく、ウロボロスは断層を拡げてできた穴へとバックステップで飛び込んだ。

 

「次に会った時がテメェらの最期だぜ。首を洗って待つか、尻尾巻いて逃げ出すか。好きな方を選ぶんだな」

「待て!」

「あばよ雑魚共!」

 

 愉快げに高笑いをしながら、駿斗の身体を操って姿を消してしまう。

 そんな彼を追いかける事さえままならず、紫乃は地面を殴った。

 

「どうして、どうしてこんな事に……!」

「紫乃くん……」

 

 慟哭する紫乃を、自身も苦々しい表情で見つめるロゼ。

 しかしこのまま留まるワケにも行かず、ほとんど放心状態となった若葉を連れ、一行は図書館の地下へと戻るのであった。

 

 

 

 真夜中。肌寒い街を黒き怪人、ペルセウスがクロケア・モルスを手に駆け回っていた。

 狙いはガス状の戯我、レイス・ギガ。彼一人でその日の内に殲滅し終え、にわかに気温が戻り始めている。

 

「ヒャハハッ! 愉快だぜ!」

 

 戯我から色を奪い、ウロボロスは楽しげに笑いながら変異を解除する。

 そんな彼の脳内では、もうひとりの人物の声が、本来の肉体の持ち主である駿斗の声が響いていた。

 

『お前は一体なんなんだ、僕の身体を使って一体どうしようって言うんだ!?』

「さっきからうるせェヤツだな。思い通りにならねェ道具ってのはこれだから……」

『何を!?』

「こっちはお前が母親にクソと小便の世話をさせてる頃から知ってんだ、もっと仲良くしようとか思わねェのか?」

『ふざけるなよ! なんで戯我なんかと!』

 

 頭の中で怒鳴り散らす駿斗に呆れ返った様子で、ウロボロスはベンチを見つけてそこに座り込む。

 

「おいおいおい、酷い言い草だな兄弟。これで本当に同じ血を継いでるのかねェ……」

『兄弟? 僕はともかく、家族は普通の人間のはずだぞ』

 

 自分の中から聞こえる問いに、ピタリと口を閉ざすウロボロス。

 饒舌であった相手がいきなり押し黙ったので、駿斗が不気味に思っていると、肉体を奪ったその張本人はニィッと唇を歪めた。

 

「そうだった、お前まだ何も知らねェんだな」

『なに……?』

「確かにお前の父親は人間だが、そいつは俺様の親父とは違う。ただし」

 

 指を組んで空に浮かぶ月を楽しそうに睨みながら、ウロボロスは告げる。

 

「俺様を作ったのはお前が『じいちゃん』と呼んでいた男で、お前の中に俺様を埋め込んだ張本人だぜ」

『……な……』

 

 まるで理解が出来ない、とばかりに駿斗が絶句した。

 昔から自分が慕っていた祖父が、偉大で勇敢な冒険家の祖父が。

 このウロボロス・ギガを自らの手で生み出し、そして駿斗の身体に植え付けたのだという。

 しかし恐ろしい事に、そう考えれば今回の一件に合点の行く部分もあるのを、駿斗自身も理解していた。

 ペガサスの羽根を渡したのは祖父だ、伝説の生物が実在すると語ったのも祖父だ。それを信じ込ませたウロボロスの存在も、信憑性に拍車をかけている。

 

『……何者、なんだ。じいちゃんは……』

 

 自分自身の肉体であるにも関わらず、自らの意思が徐々に薄れていくのを感じ取りながらも、駿斗がまた問いかける。

 するとウロボロスは、やはり愉快そうに下卑た笑みを浮かべた。

 知りたくなどない、恐ろしいという駿斗の本心を読み取っているのだ。

 

「良いぜ、教えてやるよ。そいつの名は――」

 

 ウロボロスが嬉々として語った真実。

 それは駿斗の心を折り、肉体の主導権を握るには十分すぎる効果があった。

 

『な、なんだって……でも、そうだとしたら……そんな……!?』

「まァそういうこった。さて、そろそろ寝るか」

 

 自分の中で駿斗が消沈し始めている事を認識して頬を緩ませながら、ウロボロスは適当なホテルに不法侵入し、一夜を過ごす。

 

 

 

 同じ頃。

 LOTの地下研究施設では、回収されたAパワーアーマーの修理や装備の点検などが行われていた。

 ワイルドハントによる街の被害はどうにか食い止める事ができたが、既に次なる戦いが待っている。

 ウロボロスの手で奪われたソニックペガサスから生み出される、黒きペルセウス。

 これに対抗するため、会議室では晴明と織愛の主導で作戦が練られていた。参加しているのはロゼと灰矢と菫、そしてようやく症状が安定した紫乃だ。

 

「で、どうすんだ? 例のモンストリキッドが奪われた以上、唯一デュアルリキッドを使えるロゼが戦うのが適任だと思うぜ?」

「強ければ良いという話ではないと思います。向こうは白多先輩を人質に取っているようなものです、もし何かの間違いで致命傷を負わせてしまったら、今度こそ……」

「そりゃそうなんだけどよ、だったらどうすんだよ? あのペルセウスのスピード見たろ。ただでさえ倒せるかどうかってレベルなのに、手加減までしたらこっちがやられちまう」

 

 悔しげに頭を抱える灰矢と、ぐっと言葉を詰まらせるロゼ。

 目で捉え切れない速さでカリオストロ(バルベリト)を叩きのめし、消滅させた姿を思い出す。アレではユーダリルの弓矢はまず命中せず、ブリューナクのエレガントヴァルキリーやブリリアントヴィーヴルも簡単には通用しないだろう。

 駿斗を元に戻すには、ペルセウスを倒すのが前提条件だ。それさえままならないとなれば、最早手段はない。

 加えて、ロゴス・シーカー幹部と語ったウロボロスが一人で現れるとも考えにくい。戯我を随伴させ、街を襲うはずだ。故に少なくともペルセウスを足止めするため、一人は戦力を割く必要がある。であれば、多数の戯我を一度に相手にできるブリューナクを回すのは避けたいところだ。

 

「オレが戦う」

 

 手詰まりかと思われたところに、声をかけたのは紫乃だった。

 灰矢は溜め息を吐き、首を左右に振る。

 

「いいか、ハッキリ言うぜ。お前には絶対無理だ。多対一ならともかく、タイマンでどうにかできるワケねぇだろ」

「それでも。オレは、アイツの友だ」

「だからってなぁ。第一、ソニックペガサスになれないお前が一番パワー不足なんだぞ? スピードだってブリューナクでも無理なのに追いつけるワケが……」

「オレ用のAパワーアーマーが残っているはずだ。それを使う」

 

 ハッとロゼと灰矢が目を見開く。

 確かに、パワーアーマーを使えば少なくとも現状の戦力としての不足分は補える。

 ただしそれは、あくまでもブリューナクと比した場合の話。ペルセウスと真正面からぶつかり合うには、まだ厳しいものがあるだろう。

 そうだとしても紫乃は退かないだろう。話を聞いた晴明もそれを理解してか、ひとつの提案を投げかけた。

 

「良いでしょう、君が戦う事には賛成です。ただし……パワーアーマーだけでは不足です」

「だったらどうすれば良い?」

「私の方で、期日までに秘密兵器を配備します。もちろん、ペルセウスとクロケア・モルスの対策となるものを、ね」

 

 微笑む晴明の言葉に、紫乃は頭を下げて感謝を表明する。

 灰矢は肩を竦めながらも文句はない様子であったが、ロゼは何かを言いたそうに俯く。菫は黙ったままであった。

 そして話が纏まって会議が終わりかけたところで、今度は織愛が口を挟んだ。

 

「日本支部長。ペルセウスに関してはワイルドハント程の緊急性や被害規模が出るとは思えないんですが、パワーアーマーを投入して許されるんでしょうか」

「バレなきゃ良いんですよ」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 そして、その日はやって来た。

 自室で目を覚ました紫乃は、念の為に発熱や症状の再発が起こっていないかをチェックし、滞りがなかった事を確認してから部屋を出ていく。

 するとその扉のすぐ脇で、ロゼが背中を預けて待っていた。

 唇を一文字に引き結んだ真剣な面持ちの彼女に見つめられ、紫乃は一瞬ドキッと胸を打たれるものの、すぐに小さく頭を振って向き直る。

 

「おはよう紫乃くん」

「あ、ああ。おはよう。なぜここに?」

 

 ロゼは僅かな間を置いた後、遠慮がちに微笑みながらも答えた。

 

「出撃の前に、少しだけお話でもと思ったのだけど。どうかしら?」

「……そうだな」

 

 頷いた紫乃は、ロゼの隣に並んで歩き出した。

 二人の向かう先は、織愛や晴明たちの待つ支部長の執務室。両者とも、足取りはゆっくりだ。

 どちらもどう話を切り出したものか分からないのか、しばらくは黙っていたが、やがてロゼが先に口を開く。

 

「心配ね」

「何の話だ?」

「新山先輩のこと」

「ああ……」

 

 力を失ったように目を伏せる紫乃。

 あの一件の後、若葉は精神的に大きく疲弊してふさぎ込んでしまい、今も療養中である。

 何を話しかけても、いつものような楽しそうな笑顔は返らない。放心状態で、生気のない瞳で空を見上げるばかり。

 駿斗が無事に戻って来ない限り、永遠にこのままだろう。だからこそ、今回の作戦は成功させなければならない。

 

「若葉のためにも、必ず連れて帰らなければな。オレが全身全霊で戦って成し遂げる」

「……」

「ロゼ?」

 

 返事がない事を不思議に感じ、紫乃は何があったのか問いかけようとするが、それより前にロゼが彼の腕を引っ掴む。

 しかも、いつの間にか進路は執務室の方向を外れ、トレーニングルームへと向かっている。

 

「おい!?」

「いいから、来て!」

 

 部屋の扉が開き、何が何やら分からない内に紫乃は中へと投げ出された。

 驚きつつも抗議をしようと試みるが、その前にロゼは彼の上に馬乗りになって、脚で両腕を塞いだ。

 

「う、動けん……ロゼ、何のつもりだ!?」

「……だって」

 

 視線を上げた瞬間、紫乃の頬に水滴がぽつぽつと伝う。

 屋内なので雨が降るはずはない。ロゼの両眼から、それは落ちているのだ。

 

「絶対に勝つ保証なんかない。死ぬかも知れないのよ、あなた。白多先輩みたいに、いなくなっちゃうかも知れないなんて……!」

「……それは今回に限った話じゃない。封魔司書にとっていつもの事だろう」

「今までとは状況が何もかも違うじゃない!? 勝つための対策だってしてあるけど、通用するかどうかも分からないわ!!」

「だったらお前が行けば勝てるのか?」

 

 冷たい声で告げる紫乃に、グッと声を詰まらせる。

 そして力が緩んだ隙をついて、紫乃は逆にロゼを力づくで押し倒した。

 

「勝ち目の薄い戦いでも、オレは必ずやってみせる。駿斗や若葉の、この街に住む者たちの『生きる景色』を守る。それが使命だ」

「紫乃、くん」

「お前も分かっているだろう!? 自分が何をするべきなのか、オレたちのやるべき事は何かを!!」

「……でも、私それでも……」

 

 直後、ロゼは目前にある紫乃の顔を見て瞳を潤ませ、泣きじゃくり始める。

 

「あなたを失うのが怖いよ……」

 

 今度は紫乃が言葉を失った。

 出会ったばかりのロゼなら、こんなにも我侭な弱音を吐く事はなく、また他者に自分の弱味を見せる事もなかっただろう。

 そして紫乃も、以前のままなら説得などせず、ロゼの話など最初から聞く耳持たずに迷う事なく戦いへと赴いていた。

 迷いのない頃の二人であれば、きっとぶつかり合う事などなかっただろう。だが、だからこそ二人は互いを想い合う心を手に入れる事ができたのだ。

 彼女の首から下がるネックレスを、そして泣き続ける姿を見て、紫乃は深い溜め息と共に立ち上がって隣に座った。

 

「それを贈る時に言った事を、覚えているか」

「……『必ず勝って生きて帰る覚悟』……絆の証だって」

「ああ」

 

 起き上がって同じく座り込むロゼへと、紫乃は頷く。

 

「オレはあの時もう既に誓っている。悲しみの象徴にしないために、勝って生き続ける事を」

「私だって……」

「……それでもまだ不安なら。もうひとつ、誓いを立てる」

 

 それを聞いて、ロゼが怪訝そうに首を傾げる。紫乃の方は、どこか緊張した様子になっていた。

 

「オレ、は。オレは……オレは、お前が好きだ」

 

 突然に告げられた言葉、訪れる沈黙。

 数秒の後、顔を耳まで真っ赤にしたロゼがその静寂を破った。

 

「んなっ!? な、ななななな何を!? いきなり!? 今!? なんで!?」

「そんなに驚くな……正直、こんな気持ちになって自分自身で一番驚いてるんだ」

 

 ロゼほどではないが、言い終えた後で紫乃も赤面している。

 さらに紫乃は、咳払いしてから話を続けた。

 

「さっきも言った通りオレは死ぬつもりなどない。お前にも死んで欲しくない。だから告白の返事を今は聞かない、代わりにオレと駿斗が生きて帰ると信じて欲しい」

「紫乃くん……」

「お前の気持ちがどうであれ、オレはその答えを受け入れる。二人でこの戦いを生き延びて、帰った後でお前の口から聞かせてくれ」

「うん……」

「約束だ」

「うん!」

 

 サッと自らの細い指で涙を拭うと、ロゼは元気良く立ち上がって、唇を釣り上げ紫乃を見据えた。

 

「だったら何が何でも、負けられないわね!」

「ああ。戦いに集中しなければな」

 

 同じく紫乃もスッと立ち上がり、再び二人で並んでトレーニングルームの出口へと歩き出す。

 

「行こう、支部長たちが首を長くして待っている」

 

 そう語った紫乃と頷くロゼに、もはや迷いも恐れもない。

 ――戦士たちは今宵、負けられない戦いに赴くのだ。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「クックックッ……耳障りな腑抜け野郎の声ももう聞こえねェ、ようやく! 俺様はこの体を完全に支配した……!」

 

 同日夜、磐戸のとあるホテルの屋上にて。

 街を見下ろすウロボロスが、魔剣クロケア・モルスを携えてそう呟いた。

 彼の背後に控えるのは、力で捻じ伏せ従属させた多数の戯我たち。下級・中級のみだが、戦力としては十分だ。

 

「さァ野郎共! 封魔司書を潰しに行くぞ!」

 

 剣を掲げて叫ぶと、それに応じて鬨の声が上がる。

 かくして、戯我による侵略は始まった。静かな街に残る人間たちから色を喰らい尽くすため、我が物顔で走り回って行く。

 

「……ん!?」

 

 そんな戯我の隊列の視界に、三つの影が見えた。

 ひとつは地を走る灰色の仮面の戦士、仮面ライダーユーダリル。空を飛んでいる赤い戦士はエレガントヴァルキリーカラーの仮面ライダーブリューナクだろう。

 そのユーダリルの隣に、四足歩行で疾走する何かがいる。白い犬のような姿だ。

 

《ソニックペガサス! FALL-DOWN(フォール・ダウン)! ペルセウス!》

「フン、畜生なんて連れて何を――」

 

 言いながらウロボロスがリキッドを起動し、自分の胸に突きつけて姿を堕天騎士(ペルセウス)へと変異させ始めた。

 その瞬間、白い犬のシルエットが猛然と加速する。この距離からであれば回避は容易であると判断したペルセウスは、悠然と剣を構えようとした。

 だが、その判断は誤りだった。加速したその犬の姿がどんどん大きくなっていくのだ。

 

「……は?」

 

 それは犬ではない。犬型に変形した、ムラサメ仕様のAパワーアーマーだった。

 普通の動物に見えたのは、ユーダリルやブリューナクの傍にいたのではなく、その後方を走っていたからだ。

 一瞬の内にペルセウスとの距離を詰めた巨犬は、噛み砕かんばかりの凄まじい勢いでペルセウスへと牙を突き立て、跳躍。

 さらに吐き出して地面に叩きつけ、人型変形の後に足で踏み潰さんとした。

 

「ぐおォォォッ!?」

「『トツカノツルギ』――抜刀」

 

 冷静にそう告げた後、パワーアーマーの背負った巨大な太刀で武装する。

 AウェポンG-T(ジー・ティー)、通称トツカノツルギ。ムラサメのパワーアーマーの専用武装だ。

 その斬撃が、さらにはブリューナクとユーダリルの銃と弓から発せられる矢弾の嵐が、敵軍の戯我を殲滅していく。

 

「容赦ねェなテメェ!! 宿主がどうなっても良いってか!?」

「勘違いするな、これは駿斗から貴様を引き剥がすためだ。それに仮にも『死と再生の蛇竜(ウロボロス)』を名乗る戯我が、この程度で死ぬとは思っていない」

 

 図星を突かれたように呻くペルセウス。ムラサメは足を上げ、彼が立ち上がろうとした瞬間、ゴルフスイングの要領で刀を振り上げた。

 

「ガッ!?」

 

 ペルセウスが刃を身に受け、木の葉のように吹き飛ぶ。

 しかしその頑健な体は切断などされず、反撃開始とばかりにクロケア・モルスを抜剣しようとした。

 瞬間、ムラサメは両腰に備わった円筒状の物体を一つ手に取り、砕く。

 すると、その砕けた物体から激しい勢いで霧が吹き出し、あっという間に視界を埋め尽くしてAパワーアーマーの姿さえ隠した。

 

「十二天将が一体、天空の霧を詰め込んだスモークグレネードだ」

「それが何だってんだァ!?」

 

 ペルセウスが剣を振る。空間ごと敵を斬り裂く兇刃を。

 いくら姿が隠れようとも、アーマーのような巨大な存在など目を閉ざしても感じ取れる。

 故にこんな霧など無視して切り刻める、はずだった。

 しかし、空間の断層は霧の向こう側にいるムラサメを捉える事などなく、目の前で閉じるだけに終わる。

 

「……な、なんだ!?」

 

 再度振るが、結果は同じ。

 その間にムラサメは拳を突き出し、ペルセウスを殴りつけた。

 だが霧の外へ出る事は許さず、身体を引っ掴んで地面に叩きつけ、剣を振り下ろす。

 流石に何もせず受けたくはないのか、ペルセウスは地面を転がるように動いて攻撃を凌いだ。

 

「テメェ何しやがった!?」

「やはり晴明が睨んだ通りか」

「質問に答えろォ!!」

「オレはスモークグレネードを使っただけだ」

 

 淡々と語るムラサメに苛立ちつつ、ペルセウスは空間断裂が機能しない理由を考える。

 空間を斬る事そのものは問題なくできていた。断層が発生しているのがその根拠だ。では、パワーアーマーの方へ断層が飛ばなかったのは何故か?

 致命傷を避け続けながら考えている内に、一つの結論に思い至る。

 

「まさか……そ、そうか、この剣は『所有者の視界内の空間を斬る』能力……! しかし今、視界は……!」

「そう。視界全面が『霧』だ。晴明はあの戦いの中で霧の内側にまで斬撃が届いていない事を、しっかり見ていたんだ」

「クッ!?」

 

 このままでは振りだと悟って、ペルセウスは背後に断層を作って『穴』を拡げようとする。

 だが、いざその穴を作って入っても、遠隔設置ができなかった。

 そうこうしている内にパワーアーマーの腕が伸び、ペルセウスを引きずり出してしまう。

 

「無駄だ。霧中では穴から移動する事もできない、目に映る範囲にしか動けないからな。これがクロケア・モルスの最大の弱点だ」

 

 続けて遠慮なしにトツカノツルギの一撃が叩き込まれ、ペルセウスは倒れ込む。

 既に今の一方的な攻勢で何度も大きな傷を負っているが、その度に身体は再生していた。

 ムラサメの睨んだ通り、このウロボロス・ギガを取り込んだ肉体は、容易く死ぬ事はないようだ。

 

「どうする? 霧の中で分が悪いなら、この場を離れてみるか?」

「ふざけろ……多少スピードで勝ってもそのリーチじゃ、俺様がすぐ捕まっちまうじゃねぇか」

「分かっているのなら、もう手詰まりだという事も理解しているはずだがな」

 

 降伏を促すかのようなムラサメの言葉。

 それを聞いたペルセウスは俯いていたが、すぐにくつくつと喉奥から笑い始めた。

 

「俺様が手詰まり? そうかい、手詰まりか……」

 

 ペルセウスが顔を上げた、その直後。

 一陣の風が霧を噴き散らし、爆炎がパワーアーマーの足を焼いた。

 

「なに!?」

「違うんだなァァァ~これがァーッ!!」

 

 ペルセウスが歪み切った笑顔を見せ。振り返れば、そこには二つの異形が立っている。

 それぞれ赤と緑の腕甲を装備した、同じく赤と緑の怪人。

 ロゴス・シーカーのロッソとヴェール、即ちギガノイドのボルケイノドラグナーとスパイラルジャグラーだ。

 

「こいつら、また……!?」

 

 再度立ちはだかる双子たちに驚いていると、ドラグナーの方が再び炎を放ってスモークグレネードを破壊した。

 

「よくも……よくも、伯爵様を。僕らの生みの親を!」

「愛してあげようと思ったのにこんな仕打ちを! 許さない、絶対に許さないわ!」

 

 今度はジャグラーが鎌を振り上げ、襲いかかって来る。このままでは一対三、しかもペルセウスにはクロケア・モルスもある。敗北は必定だろう。

 しかし、そこへ一本の光の矢が割り込み、さらに赤い戦乙女がボルケイノドラグナーを食い止める。

 戯我を倒し終えたブリューナクとユーダリルが助けに入ったのだ。二人はムラサメへと目配せし、ムラサメも小さく頷く。

 そして改めて、トツカノツルギの切っ先をペルセウスへと突きつけた。

 

「何を吹き込んだ!?」

「べっつにぃ? カリオストロは封魔司書に殺されたって教えてやっただけさ」

「こ、の……外道が!! それは貴様の仕業だろう!?」

「都合良く動いてくれる道具(ガキ)を使っただけだぜェ!! 要は勝ちゃ良いんだよ、勝ちゃなァ!!」

 

 目にも留まらぬ早業で、今度こそクロケア・モルスの一太刀が空間の断層を飛ばす。位置はコックピットを正確に捉えていた。

 このままでは断層の閉じた瞬間に斬られてしまう。ムラサメはペルセウスの方へ前進し、断層の範囲から逃れようとする。

 だが。

 

「バーカ。俺様を詐欺師野郎と同じに考えんなよ」

「ハッ!?」

 

 次の瞬間には既にペルセウスは跳躍して背後まで移動しており、さらに檻のように無数の断層を作りあげて退路を封鎖していた。

 超高速戦闘を可能とするソニックペガサスのリキッドを使っているからこそ、バルベリトの時と違ってクロケア・モルスの機能を引き出した戦い方ができるのだ。

 どこへ何歩移動しようと、これでは完全に破壊されてしまうだろう。

 ムラサメはダメージを最小限に抑えようと地面に伏せようとするものの、追撃に放たれた斬撃がパワーアーマーに命中。

 そして断層が閉じると、ムラサメのAパワーアーマーは斬り刻まれて崩れ落ちてしまった。

 

「ムラサメ!?」

「チィッ……!?」

 

 ムラサメが残骸の下に埋もれてしまった。しかしブリューナクもユーダリルも、彼を助けに行く事ができないでいる。

 一方のペルセウスは、自身の勝利を感じ取って高らかに笑い声を上げていた。

 

「ヒャハハハハァ! 仮面ライダー、随分と呆気ねェなァァァー!」

「そう思うか?」

「……あァ?」

 

 声は紫乃のものではない。残骸の積もった場所とは別の方向から、その少女の声は聞こえた。

 見れば、そこには大剣を担いだ仮面ライダーが立っている。ショッキングピンクとロイヤルブルーで彩られた、猫のような姿。

 クリスの変身した、仮面ライダークラレントである。彼女もまた参戦していたのだ。

 

「誰だか知らねェが何の用だ? 俺様に殺されに来たのかァ?」

「大した事じゃねぇ。ただ、お前の持ってるリキッドを奪いに来ただけだ」

「ハン! じゃあやっぱ殺されに来たんじゃねェか、クソガキ」

「それから」

 

 クラレントが何事かを言おうとしたところで、パワーアーマーの残骸が吹き飛ぶ。

 

「な……!?」

「そいつを甘く見ると、痛い目に遭うぜ」

 

 目を剥くペルセウスの視線の先。

 そこにいたのは、今までのAウェポンT/Gとは形状を異にする、刀身に北斗七星の紋様が入った太刀を持つムラサメの姿であった。

 

《AウェポンT/G-SSS(ティー・ジー・トリプルエス)!》




付録ノ二十三[十拳剣(トツカノツルギ)]

 日本神話において『十握剣』『十束剣』など、様々な表記で書かれる長剣。
 固有の名称ではなく、様々な神が様々な場面で度々使用しており、神話の時代では(神々の中で)一般的な装備だったと考えられる。
 拳十個分の長さを持つ大きな刀身の剣で、イザナギがカグツチを斬る際に使用した『天之尾羽張剣(アメノオハバリノツルギ)』やスサノオがヤマタノオロチとの対決で振るった『天羽々斬剣(アメノハバキリノツルギ)』が有名だろう。
 神々の持つそれは、当然ながら常人に扱える代物ではない。
 故に、同じ素材が使われたAパワーアーマーが扱うAウェポンにもその名が使われたのである。
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