仮面ライダームラサメ   作:正気山脈

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第三頁[燃えよ、赤き翼]

 紫乃がラタトスクとミノタウロスを討伐した、翌朝の事。

 今まで通り、紫乃は磐戸高校の通学路をゆっくりと歩いていた。

 その道中、騒がしい足音と共に、背後から「おーい!」という元気な声が聞こえて来る。

 振り返ってみると、そこにはやはり若葉と駿斗が並んでいた。

 

「またお前らか」

 

 嘆息し、紫乃は若葉に向かって目を細める。

 すると一緒に走らされていた駿斗が、ぜいぜいと息を切らしつつ頭を下げた。

 

「ご、ごめんね」

「別に謝る必要はない。オレに何の用だ」

 

 隣を歩く二人を横目に、紫乃が言う。

 若葉は片手を上げてにこにこと上機嫌に笑いながら、紫乃に話しかけようとした。

 

「この間LOTで……むぐ!?」

 

 その寸前、紫乃の右掌が素速く動いてグッと若葉の口を塞ぐ。

 無表情な彼だが、その目つきは明らかに険しい。非難するような視線を若葉に送っている。

 

「外で軽々に組織の名前を出すんじゃない。誰が聞いているか分からないんだぞ」

「あ、あはは……そうでした」

 

 声を抑えて話す紫乃の手から解放されると、若葉は咳き込みつつ誤魔化すように笑う。

 そして、改めて紫乃へと質問した。

 

「向こうで聞き足りなかった事があるんだけど、遺物(ロスト・テクノロジー)って何?」

 

 ふむ、と紫乃は思索するように歩きながらこめかみに指を当てる。

 明かしても良い情報なのかどうか、どこまで話すべきなのか、考えているのだ。

 そして結論が出たのか、すぐに人差し指を離し、周囲で聞いている者がいないかを確認してから二人の目を見やった。

 

「まぁこのくらいは問題ない、話そう。遺物というのは……例えば、そうだな。お前たちも『草薙剣(クサナギノツルギ)』という名前は聞いた事があるだろう?」

 

 言われると、若葉はすぐに楽しそうに笑顔を浮かべて反応する。

 

「そりゃもちろん、知ってる知ってる! ゲームとかで有名な伝説の武器だよね!」

「というか日本神話ね……スサノオが退治したヤマタノオロチの尻尾から見つかった剣で、三種の神器のひとつだよ」

 

 補足を入れた駿斗の言葉に頷くと、紫乃はそのまま足を動かしつつ話を続ける。

 

「遺物はそういった、古の物語や伝承の中で語り継がれている武装あるいは道具などの事を指す。神器やオーパーツとも呼ぶものだ。現代では製法が遺失し、完全な再現が不可能となっている。かの有名なアーサー王伝説の聖剣もその類だ」

「だからロスト・テクノロジー、失われた技術か……」

 

 そうだ、と呟いて紫乃が首肯する。これは即ち、草薙剣に伝わる逸話が事実であり、同じような伝説の剣が他にも実在しているという事を意味するのだ。

 直後に忠告のため、再び紫乃の口が開かれた。

 

「ハッキリ言っておくがこれらの中には戯我以上に危険な物品も多い、万が一見つけたとしても絶対に触れるなよ。たとえそれが、贋作だと分かっていたとしてもだ」

「えっ、贋作って偽物って事でしょ? それは大丈夫なんじゃないの?」

「偽物なのは確かだ。しかし、もし魔術的な儀礼によって力を施されたものであるならば、贋作と言えど危険には違いない。それは謂わば『本物の贋作』だ。だから誰であれ気安く触れてはいけない……まぁ、中にはその危険物を利用しようと企てる輩もいるが」

 

 吐き捨てるように呟き、僅かに目を細める紫乃。

 それが怒りから来るものなのか、悲しみからなのか、あるいは何か別の感情なのか。駿斗にも若葉にも分からず、沈黙してしまう。

 しかしそんな気まずい空気に気付いたようで、紫乃はハッと顔を上げると、咳払いしつつ「とにかく」と話を進める。

 

「見つけたら必ずオレか織愛に報告しろ。分かったな」

「うん、ありがとう」

「他に何か聞きたい事は?」

「あ、それじゃあもうひとつだけ」

 

 駿斗が手を挙げ、小首を傾げて問いかける。

 

「君が変身したあの姿。仮面ライダー、だっけ? アレは一体?」

 

 それを聞くと、紫乃は先程と違って特に悩んだ様子もなく、すぐに答えを出した。

 

「本来あの装備は『封魔霊装 叢雨丸(ムラサメマル)』と言うんだが……どこで誰が見ていたのか知らんが、都市伝説として広まったらしくてな。それにあやかって、LOT日本支部長が変身後の姿を『仮面ライダー』と名付けたそうだ」

「そんな事があったのか……」

「まぁ、どちらで呼ぶにしろオレにはどうでも良い事だ」

 

 そうして3人が話している内に、目的地である磐戸高校の正門が見えて来るのに気がついた。

 駿斗はそれを認識すると、紫乃に微笑みかけて小さく手を振る。

 

「じゃあ、僕らは2年の教室に行くから!」

「まったねー!」

 

 若葉も元気良くぶんぶん手を振り、駿斗の腕に絡みついて校舎へと走っていく。

 

「……騒がしいヤツらだ」

 

 そんな事を呟きつつも、彼の表情に不満の色は見られない。かと言って楽しんでいる様子もないのだが。

 ともかく紫乃も彼らと同様に、自分の上履きを取るべく下駄箱に向かった。

 すると。彼の耳に、狐の鳴き声のようなものが小さく聞こえた。それも、学生鞄の中からだ。

 嫌な予感がしつつもチャックを開くと、そこから先日も現れた白い小狐がひょっこりと顔を出した。

 

「やぁ紫乃」

 

 返事をせず、紫乃は即座に鞄に手を突っ込んで小狐の頭を押し込もうとする。

 が、白狐はその腕をひょいっと避けると、クスクスと笑いながら鞄から飛び出し、下駄箱の上に座した。

 

「何をしているんだお前。いつ入った」

 

 じとっとした目つきで、その小狐を見上げる紫乃。

 相変わらず愉快そうに笑い声を発し、ふさふさの尻尾を揺らしている。

 

「そう邪険にしないでよー。ちゃんと学校生活を送れてるか確認しに来た……ワケじゃなくて、良いものを持ってきたんだ。二つもね」

 

 言いながら小狐が前足で尻尾をごそごそとまさぐると、そこから二つの物体を取り出して、ひとつを紫乃に放り渡した。

 モンストリキッドだ。カラーリングはソレイユオレンジ、即ち赤みのかかった橙色で、表面に翼を広げた大きな鳥の姿が描かれている。

 

「今回はフェニックスか」

「うん、完成だ。戦いの成果が芽吹いたんだ、誇りたまえ~」

 

 モンストリキッドは、戯我の素材――大抵、戦闘で消滅せずに残った骨や干からびた臓器などの残骸――を媒介として、錬金術師たちが鋳造した弾丸型の容器に封入し、さらに戯我の体液でもあるインクを一定量流し込む事によって完成する。

 インクはその戯我自身から採取したものでなくても構わないが、要求されるインクの量は個々の戯我によって異なる。

 そしてそれらの素材が揃った後、俗に魔術師や陰陽師といった名で呼ばれる者たちが儀式を施す工程を経て、初めて扱えるのだ。

 

「で、もうひとつは?」

 

 急かすように促されると、小狐は続いて持って来たもうひとつの品物を渡す。

 それは、一見すると少々厚めの白い携帯端末機器のようにも見える。しかしモンストリキッドをリードできる事から、一般に流通していない道具である事は明白だ。

 少なくとも紫乃はそれの正体を知っているようで、得心したかのように頷いている。

 

A(アーティフィシャル)ガジェット」

「ああ。君が前に壊してからようやく修理が完了したんだ、次は気をつけてね」

「……分かっている」

「それは良かった。じゃー、今日も授業頑張れぇー」

 

 からからと笑って尻尾を振り、小狐はその場から消失する。

 その姿を見送った後、紫乃は何事もなかったかのように上履きを履いて自分の教室に足を運ぶのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 放課後。紫乃は、再びLOTの軍服とマントを纏って真夜中の街を巡回していた。

 人目を避け、壁を伝いビルや建物の屋根を飛び回り、影の中へと溶け込むように。

 未だに見つかっていない敵の術者あるいは戯我の正体を探るべく、自らの足で調査に動いているのである。

 

「……さて」

 

 紫乃が辿り着いたのは、昨日の建設中のビルだ。調査を行うのであれば、まずはここから始めるべきだろうと考えたのだ。

 到着と共に、今朝方に小狐から受け渡された道具、Aガジェットを手にする。

 さらにそこに表示されている虫眼鏡のマークを指でタッチすると、音声と共に画面が切り替わった。

 

《サーチモード!》

 

 カメラを通し、ビル内の状況が画面に映し出される。さらに右下には小さく内部の地図も表示された。

 その後、紫乃はピュアホワイトのモンストリキッドを取り出し、それを起動。

 

《ハウンド!》

「急々如律令」

《霊犬憑依!》

 

 唱えて、Aガジェットの裏面にハウンドモンストリキッドをリードする。

 画面内に白い毛並みの霊体の大きな猟犬が一匹姿を現し、紫乃は指示を飛ばした。

 

「戯我の、もしくは怪しい人物の痕跡を見つけてくれ。頼むぞ」

『ワン!』

 

 了承するかの如く鳴くと、猟犬はカメラに映された室内で、クンクンと鼻をヒクつかせながら周囲を探り始めた。

 そして一吠えすると、映像と地図には霊犬が調査した箇所に犬のマークが映される。

 

「何か残っていれば良いが」

 

 呟きながら、紫乃は懐から透明な液体の入った小瓶と筆を取り出し、液を調査箇所に塗布する。

 この液体は戯我の足跡や体内から流れたインクなどに反応し、赤く発光する性質を持つ特殊な薬品だ。

 先日交戦したラタトスク並びにミノタウロス以外の痕跡がないか、これを使って調べようとしているのである。

 

「蹄の足跡はミノタウロス……壁にある何かを引き摺ったような傷は角が擦れた跡だな。リスに似た五本指の足跡はラタトスクか」

 

 現状、戯我の足跡は二種類しか見つかっていない。地道に調査し、ハウンドも成果を挙げる事を祈るしかないだろうと紫乃は考える。

 そうしてしばらく調査を続けていると、突然外の方で大きなブレーキ音が鳴った。

 

「なんだ?」

 

 入口の方から、いくつかの足音が近づいている。概ね何が起きようとしているのか察して、舌打ちした。

 レリックライザーを手にした紫乃は静かに、しかし素速く玄関口へと向かう。

 

「動くな!」

 

 叫びながら銃口を突きつける紫乃。入口には、いくつかの人影がそこにあった。

 代表格らしいのは、白いスーツと縞模様の青いワイシャツを纏う中年の男だ。眼鏡をかけており、片手にはアタッシュケースを提げている。

 彼の背後には黒スーツの男女の姿があるが、白目を剥いて涎を垂れ流しており、意識の有無さえ判然としない。

 紫乃の姿を見やると、男は背後の黒スーツ共々に身構えた。

 

「封魔司書め、やはり探りを入れに来たか」

 

 呟くと同時に、男はアタッシュケースを開いて中からあるものを取り出す。

 透き通った頭蓋骨のクリスタルだ。精巧に彫刻されており、眼窩の部分も正確に丸くくり抜かれている。

 それを目にすると、紫乃は仮面の下で大きく目を見開く。

 

「水晶髑髏だと……!?」

「フハハハッ、驚いたか?」

「お前ら一体何者だ」

「フン、私が素直に答えると思うかね。だがこれから命を落とす哀れな少年に、ひとつ教えてやろう……我々は素晴らしき機関より密命を帯びて動いているのだ」

 

 手に持った水晶を掲げながら、自慢げに白スーツの男は笑う。

 水晶髑髏あるいはクリスタル・スカルと呼ばれるそれは、各地の古代遺跡で発見される中南米の考古遺物、と呼ばれていたものである。

 オカルティストの間では『13個の水晶髑髏を集めれば世界の崩壊を防ぐ事ができる』といった根も葉もない噂が流れているが、実際に見つかったと言われる水晶髑髏は全て人の手で精緻に作られた偽物だ。

 無論、それは表向きの話であるが。

 発見が公表されていない水晶髑髏の中には、紫乃も言ったような本物の贋作もあるのだ。主に魔術的知識を持つオカルティストが自らの手で真作を再現しようと、魔力の込められた水晶を用いて。

 

「水晶髑髏が盗み出されたなどという話は聞いていないが……一体どこでそれを手に入れた。まさか、未だに水晶の真作を作ろうとしている者でもいるのか」

「フン! 万事が万事、貴様らの思い通りにはならんというワケだ。秘匿主義者どもめ」

「時代遅れのオカルティストが何を言う。今すぐそれを手放せ、後悔するぞ」

「なんだ脅しのつもりか? 貴様らに屈する私ではない!」

 

 ニヤリと唇を歪め、男は髑髏を握る手に力を込めて何事かを唱え始める。

 明らかに日本語ではく、異国の呪文だ。

 

「さぁとくと見よ! 水晶髑髏の力を!」

 

 すると、ドロリと水晶髑髏の眼窩から怪しい輝きが噴出する。それと同時に、部下らしい黒スーツの者たちの肉体がボコボコと泡立ち、目と口からインク液が溢れ返った。

 体内に戯我が潜んでいたのだと気づくのに、時間はかからなかった。

 紫乃もレリックドライバーを装着、すぐに二つのモンストリキッドを取り出して戦闘態勢に移る。

 

「飽くまでも戦り合うつもりなら、良いだろう」

《サンダー!》

《セイレーン!》

「お前の口から洗いざらい吐かせてやる」

 

 紫乃が起動したのは、マジックヴァイオレットとマリンブルーのリキッド。手に取ったそれらを、ドライバーに装填していく。

 

Loading Color(ローディング・カラー)! HYBRID(ハイブリッド)!》

「変身」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 交わる双つの色彩! ハイブリッドカラー!》

 

 トリガーを引き込むと二色の五芒星が頭上と足下に形成され、そこから飛沫のように吹き出したインクが、紫乃の姿を仮面の狩人に変える。

 忍と魚を組み合わせたかのような風貌で、変身と同時に雷が撒き散らされる。

 亜種形態(ハイブリッドカラー)のサンダーセイレーン。相性の良い組み合わせではないが、ひとまずこれで様子見しようというのだ。

 仮面ライダームラサメに変身した紫乃を見ても、白スーツの男の不敵な態度はまるで変わらなかった。

 

「なんだその貧相な姿は? 少しはこの私を楽しませて貰いたいものだがなぁ!」

 

 黒スーツの男たちから流れ出すインクが内側から肉を食い破り、全身を覆って怪物のシルエットを作り出す。

 黄色い毛並みの二本足で立つ鋭い牙と爪のジャガーの怪物、ジャガーマン・ギガだ。それが、10体近く生み出されている。

 しかし思考の自由は奪われているらしく、先程までと同様に涎を垂らしていた。ただひたすらに、目の前の獲物(ムラサメ)を喰らう事しか考えていないようであった。

 

「行くぞ」

《サンダー! Calling(コーリング)!》

「急々如律令」

 

 先手必勝とばかりにムラサメが動き、掌から雷光が迸って怪物たちの身を焼く。

 サンダーハウンドの時ほどの出力はないが、身体を走る電流はジャガーマンを痺れさせ、動きを鈍らせる事ができた。

 さらにそこへ、AウェポンT(タチ)モードを逆手に持ったムラサメの素速い斬撃が繰り出される。

 

「フッ!」

「ぎぃっ!?」

 

 怯んでいたジャガーマン一体の首が落ちる。

 それと同時に他のジャガーマンも動き、牙や爪を突き立てて来る。

 今のムラサメのフィジカルカラーはセイレーン、スピードに長けた形態だ。

 だが直後、首を失ったジャガーマンの切断面から粘性の高いインクが触手のように伸び出し、ムラサメの全身に巻き付いて拘束した。

 

「むっ……!」

 

 見ると、先程のジャガーマンを使役していた男が、呪文を唱えて粘液を操っているのが分かった。

 そしてジャガーマンたちの爪によって、ムラサメは傷を負った。薄い装甲が災いしたのだ。

 

「ちっ」

「フハハハハッ! 呪術師としての年季が違うんだよ、小僧!」

 

 さらに続けて白スーツの男が操るジャガーマンの一体が、拳を振り被って迫り来る。

 その時、ムラサメは密かに先程の攻撃のお陰で僅かながら自由に動かせるようになった左手を、レリックドライバーにセットしたモンストリキッドへと伸ばした。

 

「悪いがオレは呪術師じゃない。お前らと遊んでやる気も……ない!」

《セイレーン! Calling(コーリング)!》

「急々如律令!」

 

 トリガーを引くと共に、ムラサメの口部から放たれる超音波。

 それが戯我や白スーツの男の動きを制止せしめ、さらに首のないジャガーマンを転倒させる。

 

「今だ!」

 

 敵が呻いている間にムラサメは全身から雷を発して粘液を焼き払い、体勢を立て直す。

 腕が自由になると、この姿では不利と見たか、レリックドライバーから両方のモンストリキッドを抜いた。

 

「試してみるとするか」

 

 ムラサメがそう言って取り出したのはファイアレッド、さらに手に入れたばかりのソレイユオレンジという二色のリキッドだ。

 敵勢が怯んでいるその隙に、二つの弾丸の底部を押し込んで起動した。

 

《ファイア!》

《フェニックス!》

「お前たちを塗り潰す色は決まった」

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

 

 グラデーションカラーとなる事を知らせる音声が鳴ると、紫乃は仮面の中で目を細め、グリップに手を伸ばした。

 

「カラーシフト」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 グリップが引き込まれ、再び出現するリキッドと同じ色の五芒星。

 そこから溢れ出すインクが、鳥の鳴き声と共に、ムラサメの姿を変化させた。

 

《壮烈なる赤炎の天昇! ファイアフェニックス!》

『キュイイイーッ!』

 

 まず目に飛び込むのは、背中から鎧武者の大袖を彷彿とさせるように肩を守る形で生えた赤い翼。

 ボディカラーは赤とオレンジに変わった他、体格も大きく変わってハウンドよりも装甲が厚くなっており、鱗やヒレがなくなった。代わりに腕には翼、脚先には蹴爪が付いている。

 変化したその姿を見ても、白スーツの男は不敵な態度を崩さない。むしろ、鼻で一蹴する余裕すら見せている。

 

「所詮は悪足掻きのコケ脅しだ、やってしまえ!」

 

 眼鏡をクイッと掛け直して命じると、ジャガーマンは一斉にムラサメへと爪を突き立てる。

 それを見計らって、ムラサメは大袖を自在に動かして盾とし、攻撃を一度に全て防ぎ切った。

 

「あ、あ……!?」

「炎のイメージに引っ張られたか? 残念だったな、これはディフェンスタイプのカラーだ」

 

 目を丸くする白スーツに言い、ムラサメが太刀をカウンター気味に抜き放つ。

 ジャガーマンの一体が真っ二つになり、続けて閃いた剣撃が別の個体の頭を断ち斬る。

 

「くぅっ!? えぇい、全滅などさせんぞ!」

 

 数が徐々に、しかし確実に減っていくので、流石に白スーツの男に焦りが出始めた。

 その焦燥が決定的な隙を生む。ムラサメの指は、既にレリックドライバーのリキッドに伸びているのだ。

 

《ファイア!》

「急々如律令」

Calling(コーリング)!》

 

 右掌から生み出された津波のような猛火が、ジャガーマンたちの毛を燃やす。

 体毛の多い体に炎は有効であるらしく、屈強な肉体を容易く焼き、黒く焦がしていく。

 さらに凄まじい火勢によって、白スーツの裾にまでも火の粉が移った。

 

「ぬうおっ!? お、おのれおのれおのれ、おのれぇぇぇ!!」

 

 怒り散らし、スーツの男は水晶髑髏を持つ手に力を込める。

 すると、残ったジャガーマン・ギガの筋肉が大きく膨れ上がっていく。彼らの戦闘能力を強化したのだ。

 それでもムラサメは冷静に、モンストリキッドを起動して対処する。

 

《フェニックス!》

「急々如律令」

Calling(コーリング)!》

 

 猛禽の嘶く声と同時に、ムラサメは全身から炎を噴いて飛翔した。

 

「なにっ!?」

 

 ムラサメの翼と肉体は天井を砕き、壁に風穴を開け、四方八方からジャガーマンたちを斬り刻む。

 スーツの男は歯噛みし、懐から液体が入ったフラスコを三色分だけ取り出した。

 そしてそれらを地面に叩きつけて割ると、混ざり合う液体に向かって水晶髑髏を掲げ、呪言を叫んだ。

 

「我が声に応えよ魔界の蛇竜(ワーム)! その背を差し出し、我に傅け!」

 

 すると、液体は黒い鱗の巨大な蛇となってその場に現れ、命令通りに白スーツの男を背に乗せた。

 

「キシャアアアッ!」

「よし!」

 

 鳴き声を発するワーム・ギガに跨った白スーツは、アタッシュケースと髑髏を持ったまま、すぐさまその場から退却を始めた。

 劣勢と見て、ジャガーマンを囮にしたのだ。

 ムラサメも追跡に動こうとするものの、水晶髑髏の眼窩が輝くと、ジャガーマン・ギガの肉体がズルズルと蠢く。

 

「これは……!」

 

 斬り捨てられた者、それでもなお生きている者の区別なく、インクと化して夜の工事現場に溢れ返る。

 そしてそれらは融け合い、巨大なひとつの黒いジャガーの姿を形作った。

 

「フハハハ! これを出すのは少々計画外だが……テスカトリポカの化身体、オセロトルの再現だよ!」

 

 仮面ライダーに向かって吼えるその姿を見た白スーツは、優越感に満ちた笑い声を上げてワームと共に逃げ続ける。

 一方ムラサメは、強靭な爪と牙を持つオセロトル・ギガの攻撃を防ぎつつ、白スーツの男の追跡を行っていた。

 防御能力に特化した形態であるが故に凌ぐ事ができているが、これがサンダーハウンドやアイスセイレーンであったなら即致命傷を負っていただろう。

 

「く!」

 

 ムラサメ、紫乃は攻撃をいなしながら考えていた。

 あの男を取り逃がしてしまっては、今後任務の継続が困難になる。だからといってこのままオセロトルから逃げては被害が拡大し、事態の収拾も困難になるだろう。

 しかし、オセロトルの相手をしている間に白スーツの男を見逃す危険性は無視できない。

 

「なら……!」

Relording Color(リローディング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

 

 大振りなオセロトルの爪撃を避け、ムラサメはレリックドライバーを操作する。

 必殺技で一気に勝負に出ようというのだ。

 全身に赤い炎を纏い、翼を打って突撃するムラサメ。それを迎え討つべく、オセロトルは爪を振り下ろした。

 だがその一撃は、ムラサメの肉体が炎の塊となって散った事により、空振りに終わる。

 

「ギッ!?」

「これが、お前の見る最後の景色だ」

 

 それだけではない。炎の勢いは大きく増し、オセロトルの毛を焼き燃え盛る。

 あっという間に巨体が火の手に包まれた直後、炎の中からひとつの影が上空にて再生し、月光を背に右足を突き出した。

 ムラサメだ。必殺技によって身体を炎に変えて攻撃を無力化し、逆にオセロトルへと反撃していたのだ。

 

《ファイアフェニックス・クロマティックストライク!》

 

 翼を広げ全身の装甲を展開したムラサメの、烈火と共に放たれた強烈なキックが、巨大なジャガーの眉間に突き刺さる。

 攻撃を受けたオセロトルは一際大きな悲鳴を上げ、体液を撒き散らし消滅。雲ひとつない夜空に、インクの雨が降り注いだ。

 これで敵は片付いた。ムラサメはすぐさまAガジェットを取り出すと、画面にあるバイクのマークのアプリを起動する。

 

A(アーティフィシャル)ストライカー!》

 

 音声と共にAガジェットの画面からインクが噴出し、その形状を変化させていく。

 そして一瞬の間に、携帯端末だったそれは二輪のバイクへと『塗り変わって』いた。

 

《天を裂く紫電の咆哮! サンダーハウンド!》

「追跡を開始する」

 

 自身の形態(カラー)も変化させ、ムラサメはそれに跨る。

 先程、あの男の白スーツはフェニックスの火の粉によって僅かに燻っていた。嗅覚と視覚が強化されるサンダーハウンドでその臭いを辿れば、容易に後を追う事が可能と判断したのだ。

 さらに再びフェニックスのモンストリキッドを取り出すと、それをAストライカーにかざした。

 

《鳳凰憑依!》

「駆けろ……!」

 

 加速と共に車輪から翼が生え、Aストライカーが飛翔。高速道路をうねりながら走っていたワームに、大きく接近した。

 

「何ぃっ!?」

「見つけた」

 

 言いながらGモードのウェポンの銃口を突きつけたムラサメは、数発の弾丸をワームへと放つ。

 初弾はワームの眼前を掠めるだけに留まるものの、その一撃に驚いた事で動きが止まり、残りの弾は全て胴に命中する。

 

「ぐっ!?」

「捉えたぞ……!」

Relording Color(リローディング・カラー)!》

 

 Aストライカーの車体から飛び出し、ムラサメが跳躍。

 獣の咆哮するかのような音と共に白い装甲が展開し、紫色の光粒子が噴霧する。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)!》

「お前を塗り潰す色は決まった」

《サンダーハウンド・クロマティックストライク!》

 

 拳を突き出し、大口を開いて牙を突き立てんとする蛇竜に立ち向かうムラサメ。

 雷の落ちる爆音と同時に、ワームの長い体が粉砕。背中に乗っていた白スーツの男は、吹き飛ばされて高速道路に投げ出される。

 

「ぐぉぉぉ!?」

 

 悲鳴を上げて転がり、空を仰ぐ白スーツの男。しかしそれでも、アタッシュケースは放さない。

 そしてムラサメは容赦なく、刀を手に男を見下ろし、ゆっくりと近づいていく。

 

「お前は有力な情報源だ。確保する」

 

 徐々に白スーツの男に接近する足音。

 しかし、男は身を起こすと、ケースの取っ手についたボタンを押した。

 

「させ……るかァ!!」

 

 その叫び声と同時に、ケースの底部から黒い煙が吐き出され、二人のいる高速道路の一帯を覆いつくした。

 

「くっ!?」

 

 視界が遮られたかと思うと、その場から駆け出すような、大きな音が響く。

 見れば、白スーツの男が自身の両脚をジャガーのそれに変えて逃げているのが分かった。

 

「逃しはしない!」

 

 再び、飛び去る男へと銃口を向ける。

 だが。

 発砲の寸前、ムラサメの立つ周囲で、突如として爆発が巻き起こる。

 

「何!?」

 

 爆風を受け、怯んでしまうムラサメ。もう一度飛び去った方を見た頃には、既に男は姿をくらましていた。

 この戦いを傍観していた何者かが、妨害したのだ。

 

「……しまった。取り逃がしたか」

 

 変身を解き、紫乃は白スーツの男が飛び去った空を静かに見上げるのであった。




付録ノ三[ハウンド]

 日本においては早太郎伝説、あるいは悉平太郎伝説などで知られる白い霊犬。
 妖怪殺しの逸話を持ち、人間を騙して生贄を強要していた狒々(ヒヒ)という妖怪と激闘を繰り広げたという。
 霊犬は勝利を収めるものの、致命的な傷を負い、息を引き取った。その躯は寺の傍に埋められ、墓が奉られている。

 一方、イギリスでは黒妖犬(ブラックドッグ)あるいはヘルハウンドと呼ばれているものが同種の存在として生息していた。
 こちらは体毛が黒く、死の先触れや死の宣告人といった一面を持つ。
 そのため不吉な妖精として認知されているが、本来の役割は墓守であり、日本のものと同じく温厚な性格の持ち主である。
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