仮面ライダームラサメ   作:正気山脈

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「くそぉ!! なぜだ、なぜこんな事に!?」

 図書館地下にあるLOT磐戸支部の拠点。
 普段は封魔司書が戦闘訓練や研究を行っているそこは、今は内部から攻撃を受けていた。
 巡回に使っていない休眠(スリープ)状態であったはずのAオートマータが、突如として起動し暴走し始めたのだ。

「一体、私はどこで何を間違えたと言うんだ!!」

 執務室で頭を抱えて嘆くのは、本部から査察に来ていたアレックスだ。室外では既に他の封魔司書が応戦しているが、万が一にこの部屋まで攻め入られた時のため、銃で武装している。
 非常に間が悪い事に、彼の側近である本部エージェントの翡龍は磐戸の警邏でこの場にいない。つまり、戦力となる仮面ライダーが一人もいない警備の薄い状態で起こされた事件なのだ。仮面ライダー不要論を掲げていた彼にとっては非常に屈辱的な、まさしく身から出た錆と言うのが相応しい状況となってしまった。
 だがこの部屋にはもうひとり、武装した封魔司書が待機している。
 支部長の織愛だ。翡龍がここに帰って来るまでの間の時間稼ぎの策を練るのと、強力なオートマータの頭数を減らすべく必死に頭を働かせていた。

「……今恨み言を宣うつもりはないですが、どう考えてもあなたがアレを作ったのが原因でしょう。ブラウベルク卿」
「ぐ!」
「もうそろそろ白状して下さい。このAオートマータの暴走! 何か心当たりがあるんじゃないんですか!」

 形振り構っていられなくなったようで、机を叩き激しく尋問する織愛。
 すると、動揺を見せたアレックスは渋々といった様子で固い口を開き始める。

「じ、実は……あの自動人形を作るに当たって、人工知能の部分は専門外であるから外部の人間に手伝って貰っていたのだ。もちろん、本部までは立ち入らせていないがな! LOTであることも明かしていない!」
「間違いなくそれですね。その人の名前は?」
「確か明智 魯捺羅(アケチ ロダラ)とか言ったな。しかし、あの穏やかそうな優男が犯人とは思えんが――」
「……」
「織愛支部長?」

 沈黙したまま表情の凍りつかせた織愛を見て、アレックスは困惑をあらわにする。
 やがて、ギギギと首をアレックスに向けた彼女は、貼り付けたような笑顔で手招きをし始めた。

「両脚拡げてそこに立って貰えます?」
「え? な、何故……」
「いいから速く。今すぐに」

 絶対に有無を言わさぬ態度と口調。
 恐る恐るアレックスが立ち上がり、指示通りに足を広げた、その直後。
 勢い鋭く織愛の足が股間に思い切り叩き込まれた。

「ほげええええええええええ!?」
「何をやってんですかこのバカブタァ!!」

 悶絶し、股間を手で押さえて内股で仰向けに倒れ込むアレックス。
 織愛はそのまま腕を蹴って払い除け、両足を掴んで素早く持ち上げると、今度は彼の股間を足でグリグリと体重をかけて踏みにじる。いわゆる電気アンマだ。

「や、やめてくれぇぇぇタマが! タマがぁぁぁ! 私には妻子が、家庭がぁぁぁ!」
「潰さないから黙って聞きなさい! 自分が何をしたか分かってないなら教えてあげますよ! 良いですか、魯捺羅というのは……!」

 怒鳴って股間を踏みながら、織愛は話す。
 話の内容を聞いて、アレックスの表情はみるみる内に青褪めていった。


第三十三頁[紅蓮を描く破壊神]

 日本支部を訪れ、倒した戯我の(エネルギー)が山中に集まっていることを突き止めた後。

 紫乃とロゼは菫と話し合い、共通の敵である天海を倒すため、彼女の提案に乗って一時的に協力関係を結ぶことになった。

 菫は既にアダン及びクリスとも連絡を取っており、話を纏めて不用意に手を出さないよう呼びかけていた。

 

「とりあえずこれでよし。向こうも応じてくれたわ、安心して紫檀」

 

 色の集まる地点への移動中に、菫は紫乃に向かってそう告げる。

 しかし紫乃は露骨に眉をしかめ、ふいっと顔を背けた。

 

「オレをその名で呼ぶなと言ったはずだ。オレは行雲 紫乃だ、物心付いた頃からな。他の名前なんぞ知らん」

「……」

「協力には感謝するが、ちゃんと頭に叩き込んでおけ……『オレはお前の家族じゃない』」

 

 強く言い放った後、それでも食い下がろうとする菫へと指差し、紫乃は続けて「何度も言わせるなよ」と釘を刺す。

 次第に菫の顔は俯き始め、それきり沈黙してしまう。

 その物寂しい背中を見かねて、ロゼはひそひそと紫乃に耳打ちを始めた。

 

「ねぇ……流石に言い過ぎじゃないかしら?」

「なぜだ。お前もあいつを気に入っていなかったようだが」

「それはいきなり紫乃くんにキスしようとするから止めに入っただけで……第一、あなたの肉親なんでしょう?」

「寝耳に水だったがな」

 

 不服な気持ちを隠そうともせず、フンッと息をついて紫乃は続ける。

 

「そもそもの話、オレは自分の家族を探そうなどとは一度も思った事がない」

「え……」

「灰矢からは『刀ではなく普通の人間として生きろ』と言われたが、それとこれとは別問題だ。本当に会う必要があるか? 顔を全く知らない、育てられてさえいない、血が繋がっているというだけの人間に? お互い困惑するだけじゃないのか?」

 

 その後に続いて「一体何の意味があるんだ」という言葉が喉から出かかったものの、言葉にはならなかった。

 自分を見るロゼの姿が、その表情が、あまりにも悲しそうに見えたからだ。

 すると彼女の方も紫乃の様子を察したようで、頭を振って無理矢理に笑みを取り繕う。

 

「なんでもないわ。それより、早く合流地点に行きましょう」

「……ああ」

 

 紫乃は戸惑いながらも、ロゼと菫の後をついていく。

 途中で天海からの妨害に遭う事も想定していたが、意外にも敵勢力からの襲撃はなく、一行はすぐに山の手前まで辿り着いた。

 そしてそれほど時を待たずして、二つの影が彼らの前に現れる。

 アダンとクリスだ。どうやら彼らの方は、道中で既に合流していたらしい。

 

「よう、まさかいきなりこんな事になるとはな」

 

 気さくに声をかけたのはクリスの方だ。紫乃は油断なく、レリックライザーに手をかけている。

 それを見るなり、彼女は溜め息と共に小さく両手を上げる。

 

「警戒すんなって紫乃。今は戦う気ねぇよ」

「……確認するが、互いに京都にいる間は共闘を維持するという事で良いんだな?」

「こっちはそのつもりだぜ」

 

 言った直後、クリスはアダンの方に視線を向けた。

 

「仕方なかろう。元より貴様と決着をつけるのは天海の後だと言ったからな」

 

 自分の腕を組みながらそう言って、アダンは紫乃を見下ろす。紫乃も、不服そうにアダンの顔を睨み上げていた。

 協力関係が築かれたばかりだというのに、既にピリピリとした空気が漂う中、少しでも気を紛らわせようとロゼはある疑問を口に出した。

 

「そういえば菫さん、紫乃くんのお姉さんということは、あなたにとってキュクロプスの眼……というよりロゴス・シーカーは仇も同然のはずですよね? どうしてアダンの味方を?」

「えっ、菫が紫乃の姉ちゃん!?」

 

 菫と紫乃の事情についてたった今初めて知ったらしいクリスが、愕然として声を上げる。

 その狼狽える姿をよそに、菫は答えを返した。

 

「勘違いしているのかも知れないけど……私がモルガン側に付いているのは私自身のためであって、そこにいるデカブツのクソ野郎のためではないわ」

「……」

「確かにこいつさえいなければ、私は家族と離れ離れになんてならなかっただろうけどね」

 

 そう言って菫は、黙っているアダンの脛を思い切り蹴りつける。が、まるでダメージがないのか、アダンの頑健な肉体は全く動じていなかった。

 菫はそれを見てつまらなさそうに舌打ちし、苛立った顔を笑みの形に作り直して、今度は紫乃の顔を眺める。

 

「弟が見つかった以上、次はLOTから引き剥がして自由にしてあげたいところだけど。その前に、私はあの人の望みを叶えるために動く。要は恩返しね」

「モルガンの望み……それは、ロゴス・シーカーの望みとどう違う?」

 

 紫乃がそのように口を出した瞬間、菫は喜色満面の笑みになり、さらに言葉を紡いだ。

 

「良いわ、あなたには教えてあげる」

「おい、何を言うつもりだ」

「うるさいわねデカブツ、良いでしょう? 戦い続ければ遅かれ早かれ知る事になるわ」

 

 相手を全く恐れていないのか、菫は睨みながら物怖じせずにそのように言い放つ。

 しかしアダンはアダンで、怒鳴るでも暴力に出るでもなく、ただ黙って腕を組んでいた。

 どうやら彼には異論がないと判断したらしく、全員で目的地に向かって歩きながら、菫はにこやかに紫乃へ説明を始める。

 

「あなたたちはロゴス・シーカーの目的を『人の時代を終わらせて再び神の時代に回帰させること』と聞いている……そうよね?」

「概ねそういう内容だと認識しているな」

「でも、その最終地点がそもそもバルトの真の目的とは違う可能性が高いというのは?」

 

 いきなり飛び出した内容に驚き、紫乃もロゼも目を見張った。

 そしてそのまま、菫に続きを話すよう促す。

 

「何もモルガン様は最初からロゴス・シーカーに所属していたワケじゃない。バルト・アンダースの存在に不穏なものを感じて、その素性を暴くために潜入していたのよ」

「素性……」

「まぁ、断定できるような証拠は未だに見つかってないけど。ただ、彼の真の目的はある程度掴んでいるわ」

 

 不敵に笑う菫。その姿を見た紫乃は、僅かに目を細めて思考する。

 そんなことまで知っているという事は、彼女は相当モルガンに気に入られているのだろう。

 であれば、他にも重要な情報を握っている可能性がある。その点はLOTとしては見過ごせなかった。

 

「バルトは他の神々も蹴落とそうとしているの。ロステクオークションの時みたいに表向きには支援しているように見せているけど、実際には神々を唆して競合させたり、LOTにぶつける事で消耗させ合ってる」

「つまりヤツの目的は……!!」

「『人と神を全て排除し、自分が唯一神としてこの宇宙を支配すること』でしょうね。恐らく」

 

 ロゼはその言葉を聞いて息を呑み、身を震わせる。

 呆れる程に遠く壮大な野望。普通なら不可能だと笑い飛ばすような話だが、これまでのバルトの行動や底知れない力が、事態の深刻さと真実味を感じさせた。

 

「だが……成し遂げたとして、ヤツはその後どうする気なんだ? そもそもそんな事が可能なのか?」

「可能ですとも、拙僧も手伝っております故」

 

 ――瞬間。

 突如として頭上から降り掛かって来たその声に、全員が一斉に空を見上げる。

 そこにいたのは、黒い僧衣の上からボロボロの修道服を羽織った男だった。

 彼の正体を察してか、紫乃は睨みながら言い放つ。

 

「……まさか貴様は」

「いかにも、南光坊天海と申します。どうぞよろしく」

 

 黒衣の宰相、天海僧正は、ニヤァッと大きく唇を歪めてそう返した。

 一行は各々レリックライザーを手にし、菫の方は慌てて隠れる。

 そして天海に銃口を向けつつ、紫乃は再び言葉を投げかけた。

 

「Aオートマータの暴走は貴様の仕業か?」

「そうですよ。アレのAIは私が作ったものですし、ちょっとした細工もしておいたのでね」

「フン! だが自分からのこのこと倒されに現れるとはな……この先に問題の物があるのは間違いないらしい」

「やはりご存知でしたか、当然でしょうな。ですが? しかしながらぁ? 少し表現が正しくありませぇん」

 

 パチンッと天海が指を弾く。

 すると、周囲の木々を掻き分けるようにして、鎧武者のゾンビの戯我とAオートマータが、全員を包囲する形で姿を現した。

 

「こいつらは!?」

「拙僧は倒されに現れたのではありません。もう舞台が整いましたので、全てを破壊しに来たのですよ」

 

 じりじり、と機械の兵隊と鎧武者たちが紫乃たちに詰め寄る。

 混乱が起きないようにするためか、そこで真っ先にアダンが口を開いた。

 

「あの鎧武者には手を出すな! 倒すべきは天海とオートマータのみ!」

 

 これには紫乃もロゼも素直に首肯する。

 鎧武者の戯我を倒したところで、骨杭にエネルギーが蓄積されるだけなのは周知の通り。ならば、やはり倒すべきは天海だ。

 だがそんな言葉と判断に対しても、嘲笑うかのように天海は頭を振った。

 

「ですから違うんですよ、そうじゃあない。拙僧は『もう整った』と、そして『全てを破壊する』と言ったのですからねぇ」

「なに……?」

「くくく。では……『昇れ』」

 

 詠唱の後に天海の額が赤く閃いた瞬間、周囲にいたオートマータたちに異変が起こる。

 全身がメキメキと音を立てて細長い針のように圧縮されたかと思うと、彼の言葉に従って空へ空へと高く浮かび始めたのだ。

 そして再び、天海が命令を下す。

 

「では『穿て』」

 

 瞬間、もはや点しか見えなくなるような距離まで離れた針が猛スピードで降下を始める。

 次に何が起こるのかを理解し、紫乃は叫ぶような大声で咄嗟に全員へと呼びかけた。

 

「避けろっ!!」

 

 その声にハッとして、空を見上げていたものたちは一斉に前へ飛び込む。

 直後に針が地面に突き刺さったかと思うと、まるで爆弾が炸裂したかのような破壊音が鳴り響いた。

 見れば、針の刺さった土面が抉れてズタズタに裂け、木々が倒壊して粉砕されており、完全に周りの地形が変わっている。

 幸いな事に菫も回避に動いていたので彼女は無事で済んでいたが、この惨状に一行は戦慄するばかりであった。

 

「な、なんだ……この威力は!?」

「ふざけんなよオイ!? どんな手品を使えばこんなえげつねぇ事になるんだよ!!」

 

 紫乃もクリスも歯噛みし、よろめきながらも態勢を立て直す。

 

「いくらなんでもこれほどの力……ただ遺物を持っている人間や戯我なんかじゃあり得ないわ!? こんなことができるとすれば、それは――」

 

 この事態を引き起こして笑っている男を見上げたロゼがそう呟き、息を呑んでその正体の推測を口にする。

 

「神……!?」

 

 当事者である天海はくつくつと笑い、地上で慄くLOTとモルガン派の連合軍を見下ろしていた。

 

「ではそろそろ始めるとしましょうか。最後の仕上げも、たった今終わったところですからね」

「なんだと? ……まさか!?」

 

 アダンが問い、直後に目を見張って周辺を見回す。

 その行動の理由を、初めの内は紫乃たちには理解できなかったが、遅まきながら気づく。

 警戒していた鎧武者の戯我たちが消滅している事に。

 

「まさか自分で攻撃して……骨杭を起動するための『色』に変換したのか!?」

「その通り。拙僧は被害をより拡大させるためにあなた方を待っていたのであって、杭の作動自体はやろうと思えばできたんですよ」

 

 戯我の消滅に伴い、その体内に溜まっていた『色』は山頂付近にある骨杭へと吸収されていく。

 すると、紫乃たちの立つ大地が鳴動し、山からけたたましい咆哮が木霊する。

 

「く、まずい! ヤマタノオロチが目覚めるぞ!」

「ククフフ……それも違います。アレはヤマタノオロチなどではなぁい……」

 

 地響きと共に、山から天へと駆け昇ったのは――洪水を引き起こす青い八ツ首の蛇ではなく、燃え盛る一体の紅蓮の龍だった。

 

「あ、アレはなに!?」

「炎の……いや、マグマの蛇龍……!?」

 

 火を吹きながらボコボコと波打つその体を見て、それが溶岩の肉体である事に紫乃は気づいた。

 しかし、件の龍はその場から動かず、そもそも生きているのかどうかすら定かではない。

 すると天海は、笑みを崩さないままその龍の頭上に移る。

 

()()は旱魃の魔神、天地を食らう蛇龍王……ヴリトラですよ。ただし、ガワを再現しただけですのでこのままでは何もできません。そこで」

 

 釣り上がった唇をさらに大きく歪め、天海は額に親指と人差し指を持っていく。

 するとグチュッという何かが開いたような音が鳴り、そこに宿る赤い光がより強く輝きを増していく。

 

「神我合一」

 

 次の瞬間、赤い閃光と共に天海と蛇龍の影が重なる。

 丁度ヴリトラの額から、まるで角のように天海が生える形となっていた。

 

「合体しただと!?」

「ククフフフ! 驚きましたか? 神我合一にはこういう使い方もあるんですよ」

 

 紫乃たちの姿を見下ろしながら、ヴリトラと融合した天海が言い放つ。

 見れば僧衣は消えて別の衣服に変化しており、素肌の上に虎皮の法衣を纏い、首には数珠だけでなく毒々しいコブラが絡みついている。

 さらに肌は赤褐色となって腕が四本に増え、頭には三日月の髪飾りを戴き、額には菩提樹の実のような真っ赤な瞳が現れていた。

 

「その、姿……ま、まさか!?」

 

 その神々しくも禍々しい姿を見て、アダンが。

 紫乃でさえ、驚愕と焦燥に目を剥いた。

 

「ルドラ……なのか!?」

 

 ――ルドラ。

 インドの神々は多様な化身(アヴァターラ)や人格などを持っている事が多く、ルドラもそのひとつ。

 宇宙を統べるとされる創造(ヴィシュヌ)維持(ブラフマー)破壊(シヴァ)の三大神の内、シヴァの()()である。

 人々がその怒りを恐れる荒ぶる神で、暴風を引き起こす事で命を奪い尽くしつつも慈雨によって豊穣を齎すという、凶暴さと慈悲深さという二面的な性質を持つ。そしてシヴァも同様、宇宙の破壊と創造という二面性を有している。

 ルドラとは彼から分離した存在なのだ。それはさながら、蛇が脱皮をするように。

 

「だが……ヤツ自身がルドラやシヴァ神であるはずはない! 如何に荒ぶる神とはいえ、ルドラそのものは悪神ではないからな……」

《三貴合一! オリエンタルトリニティ!》

「オレが暴いてやる! その化けの皮!」

 

 紫乃はそう言うと、レリックライザーをベルトにセットし、スプレー缶型のモンストリキッドであるオリエンタルトリニティを取り出す。

 そしてそれを起動すると、レリックドライバーへと装填した。

 

Shining Color(シャイニング・カラー)! PRIMAL GRADATION(プライマル・グラデーション)!》

「変身!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 トリガーを引くと、ノズルから紫乃の周囲に三色の粒子が散布され、アンダースーツを構築。

 

(ソウル)(アーツ)(ボディ)! 光に翼を得たるが如し! 神をも超える煌きの龍! オリエンタルトリニティ!》

 

 さらに白い装甲が赤・緑・青で色づき、龍を思わせる姿の流麗な戦士、仮面ライダームラサメ オリエンタルトリニティカラーが完成する。

 それに続く形で、ロゼたちもすぐ動き出した。

 

「これ以上好き勝手にはさせない!」

《エレガントヴァルキリー!》

「やってやらァ!」

《バインドバジリスク!》

「フン……」

《タイダルコロッサス!》

 

 三人とも変身を完了し、各自武器を構える。ブリューナク(ロゼ)は長槍、クラレント(クリス)は大剣、ゲイボルグ(アダン)は投槍だ。

 体格差を活かし、飛行できるムラサメとブリューナクは視界の外から、クラレントとゲイボルグは地上で左右から突撃する。

 四方からの高速での挟撃。しかし、天海はその場からは一切動く事なく、ただ四本腕からそれぞれの人差し指をクイッと上げた。

 すると、マグマの蛇龍の身体から鱗か皮が剥がれたかのように溶岩の一部が分離して飛び出し、それがオートマータと同じように針状の形を成す。

 

「なっ!?」

「『穿て』」

 

 ヴリトラから生み出されたその針は、四人の仮面ライダーの方に向かって無数に打ち出され、攻撃を中断し回避に動かざるを得なくなった。

 ムラサメは刀で打ち払い、直撃こそ防いだものの、脇を通り過ぎた熱は装甲を焼き僅かに溶かす。

 他の面々も同様のようで、凌ぐ事はできても炎熱を受けて装甲が変形したり黒く焦げていた。防御が間に合っていなければ、もっと悲惨な状態になっていた事は想像に難くない。

 一行に緊張が走る中、天海は変わらずくつくつと喉奥で笑う。

 

「見るのは初めてのようですね? これが『アストラ』ですよ」

「……インドの神々が扱うという神通力の矢……機械人形の暴走も神通力によるものか! まさか、貴様は本当にルドラだというのか!?」

 

 ゲイボルグに問われると、天海は目を細めて空を仰ぎ、語り始めた。

 蛇龍の肉体から再び針を形成し、ミサイルのように飛ばしながら。

 

「どこからお話しましょうか。拙僧はかつて、織田 信長様に仕えた武将のひとりだったのですよ。当時は明智 光秀という名でしてね」

 

 マグマが凝縮された針弾をかわしつつ、ムラサメは反撃の糸口を探る。

 ブリューナクがライフルモードのAウェポンでヴリトラを攻撃しているが、弾丸は命中しても溶けてなくなっている。

 ヴリトラは『木・岩・武器・乾いた物・湿った物・ヴァジュラのいずれによっても傷つかず、昼も夜も殺されない』という能力を得ており、それによって無類の強さを誇っていた。この姿でもそれが引き継がれているかは不明だが、少なくともこのマグマの肉体をどうにかしなければ突破は不可能だろう。

 では、ルドラを名乗る天海本人はどうか。

 同じ考えだったのか、既にゲイボルグとクラレントが武器を振り上げ素早く飛びかかっていた。

 

「ラァッ!」

「むぅん!」

 

 大剣と槍の刃が肩周りから生えた二本の腕を捉えようとした、その瞬間に天海のその腕に一本の槍が握られる。

 黄金の三叉槍。トリシューラと呼ばれる、破壊神シヴァが持つ神槍だ。

 二人の一撃を容易く受け止め、逆に薙ぎ払う。

 

「くっ!?」

「信長様はそれはそれは素晴らしいお方だったのですが、同時に苛烈でもあった。必要以上に恨みを買って……拙僧が武力で止めねばどうにもならない状況になりました。ですがそんな時」

 

 攻撃を流しながら話す天海は、自らの額に浮かぶ赤い瞳を指で差した。

 

「『これ』と出会ってしまったのですよ。破壊神の涙(ルドラークシャ)と」

 

 天海の言うルドラークシャとは、シヴァからルドラが分離した際に生まれる赤黒い果実のような物体だ。

 本来であれば神の『外皮』は人格が剥離して別の肉体に変わる際に地上で溶け失せるのだが、稀に形となって残る場合がある。これはその一例である。

 これはルドラの肉片が玉状になったもので、神血が凝縮されているというだけではなく、暴力的な破壊の意思までも残留しているという。

 

「まるで生まれ変わった気分でした。破壊神(ルドラ)の思念と神通力が拙僧の脳内に直接染み渡り、この宇宙の真理に到達させて下さったのです」

「宇宙の真理だと……」

「ええ。それは即ち『破壊と再生の輪廻』! 天を治めし者が後に世を乱すのであれば破壊し! 無秩序となった世界を作り直した上で、新たに天を取る者を立てる……拙僧はこの日本で幾度もそれを繰り返して来たのです」

 

 薄らと笑みを浮かべながら、天海は再接近したゲイボルグを三叉槍で払い、さらに地上のクラレントに蛇龍の尻尾を叩きつけ、飛び回りながら射撃攻撃しているムラサメとブリューナクに向けてアストラを発射する。

 仮面ライダーたちの攻撃は全く届かず、手痛い反撃を食らうばかりだった。

 

「信長様の後は影武者を立てて秀吉に殺させ、後の動向を見定めました。そしてヤツめが狂って世を乱せば家康様に仕え……江戸幕府が続かぬとなれば倒幕の志士たちに手を貸した」

「……狂っている」

「ククフフフ。いずれは地上に存在する全ての国々でこれを行いますよ。ロゴス・シーカーにいればそれが可能だ」

 

 言いながら天海は四本の腕を大きく広げ、風と共に赤い光を集め始めた。

 大技が来る。しかし、それが分かっていても誰にも止められない。攻撃全てをヴリトラのマグマによって受け止められてしまう以上、阻止するる手立てがないのだ。

 

「この宇宙は拙僧が平定し! 破壊し! 再び創造し破壊し創造する! それこそがこの明智 魯捺羅 天海(アケチ・ルドラ・テンカイ)の使命ェェェ!」

 

 マグマの針が何本も形成され、天海の眼の前に集まり、赤い光と共に融合していく。

 そうして形成されたのは、燃え滾る一本の真っ赤なマグマの矢であった。

 

「拙僧の邪魔をするのならば……あなた方も破壊して差し上げましょう! 我が真のアストラ……滅暴風の矢(ルドラーストラ)で!」

 

 天海の手に金色の弓が握られ、矢が番えられる。

 直感的に、四人は恐怖した。

 あの矢にはルドラの持つ荒れ狂う嵐の力が宿っており、さらにマグマの肉体を持つヴリトラが素材となっている。

 もしもあれを京都の街に放つ事を許してしまったら、着弾と同時に灼熱の嵐が吹き荒れ、地面がマグマに染まると同時に空へ昇って、再び雨のように溶岩が降り注ぐことになるだろう。

 そうなれば本能寺の焼き討ちなど比ではなく――LOT日本支部どころか、京都の全てが壊滅するのだ。

 

「っらぁぁぁぁぁ!!」

《バインド! Calling(コーリング)!》

 

 真っ先に行動に走ったのは、クラレントだった。

 リキッドの発動と同時に地面から何本かの鎖が伸び出すと、それが天海の四本腕と首を絡め取った。

 が、それらは圧倒的な筋肉によって、十秒と経たない内に呆気なく全て引き千切られてしまう。

 

「チィッ!?」

「もう遅いですよ」

 

 次の手を繰り出す暇もなく、破滅の一矢は解き放たれた。

 まだ街には人々が残っている。何も知らない者も、戯我と戦う封魔司書も。それら全ての命を食らいつくさんとするように、音を立てて灼熱の塊が飛んで行く。

 その射線上に、突如ひとつの影が躍り出た。

 ムラサメだ。彼はスプレーのダイヤルを赤色に合わせ、神の力を行使する。

 

《ソウルアマテラス!》

「それを待っていたぞ! 喰らえ、急々如律令!」

Calling(コーリング)!》

「八咫鏡!」

 

 音声が響くと同時に、ムラサメの周囲に光の障壁が現れ、砕けながらも矢を受け止める。

 因果応報。何もかもを破壊する暴風とマグマの矢は、そのまま同じ速度で天海へと真っ直ぐ跳ね返って行った。

 如何にヴリトラとの融合によって強力かつ堅牢な肉体を得ているとはいえ、所詮は再現されただけの偽物の龍の体躯。ルドラの必殺の一撃を反射してしまえば、確実に致命傷を与える事ができるはず。

 ムラサメはそう考え、そして実行に移したのだ。

 

「終わりだ、紛い物の神! 自らの力で滅び――」

「無駄ですよぉ?」

 

 矢が突き刺さるかと思われた、その時。

 天海の唇が大きく歪み、屈強な腕が矢を掴み取った。

 破壊の力はなおも継続しており、その手を砕こうとしているが、彼に焦る様子はない。

 そして。

 

「そぉれ!」

 

 そんな掛け声と同時に全身が赤く発光すると、矢の方が先に粉々に砕け散った。

 天海はその身に宿るルドラの神通力を最大限に励起し、自らに向けられた破壊の矢を、同じ破壊のエネルギーによって相殺したのだ。

 結果として、天海への被害は手が少し傷つくのみに留まった。

 

「な、ん……だと……!?」

「んん~、抵抗は終わりですかなぁ?」

 

 再び、天海は滅暴風の矢を生み出そうとしている。

 ムラサメがもう一度八咫鏡を発動するには、クールタイムが必要。そしてそれを待つ余裕はなく、天海が時間を与える事などあり得ない。

 既に矢は形を成しており、弓にセットされていた。

 

「では今度こそ……全てを破壊致しましょォォォォォーッ!」

「さ……せ、るかァ!!」

《アーツツクヨミ! Calling(コーリング)!》

「急々如律令!」

 

 今度は緑にダイヤルを合わせ、押し込む。

 するとムラサメの周囲に浮遊する八つの勾玉が出現し、それらひとつひとつが光の壁を展開して、放射された矢を妨げるように動いた。

 八尺瓊勾玉によるバリアだ。だが、通常の戯我の攻撃ならいざ知らず、ルドラの矢となれば話は変わる。

 矢の破壊力を削ぎ落とすために放ったはずが、八咫鏡と違って気休めにすらならずに全て破壊された。

 

「くっ!?」

「もう悪足掻きは終わりのようですねェ! このまま京都は! 文字通り火の海となって消し飛ぶのですよォ!」

 

 燃え滾る紅蓮の矢が、京都の町に降り注ぐ。

 その寸前、円状に整然と並ぶ十二本の光の柱が京都の各地に出現し、巨大な障壁が赤い破壊の矢を受け止め相殺した。

 

「む!?」

 

 天海が目を見張り、ゲイボルグたちも驚愕する。一体、何が起きたのか。

 思い当たる可能性を口に出したのは、ムラサメだった。

 

「まさか、島副支部長が? 十二天将の力を使った?」

 

 現在の彼らの戦況が分からなくとも、敵の狙いが京都である事は明白。

 ならば、大規模な結界を展開して確実に攻撃を止められる状態を作っておけば『万が一』が起こる事はなくなる。その考えのもと、島は動いたのだろうとムラサメとブリューナクは予想した。

 まだ結界は壊れていない。僅かばかりの延命だが、ムラサメたちにとってはこの上ない僥倖だった。

 

「こいつの攻撃を完全に防御する事は不可能だ……ならば!」

「また矢がブチ込まれる前に、今度こそぶっ倒すぞ! ロゼ、アダン!」

 

 ムラサメとクラレント、二人の声に応えるように、ブリューナクとゲイボルグは頷く。

 

「ククフフフ……全く揃いも揃って諦めが悪い。先程手も足も出なかったばかりでしょうに。ですが良いでしょう、拙僧も全力で叩き潰して差し上げましょう!!」

 

 炎を纏い、弓から三叉槍へと武器を持ち帰る天海。

 人間と神の戦い、勝利を掴むのは果たして――。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 京都への襲撃と、時を同じくして。

 

『……目覚めよ。目覚めよ、少年』

『さっさと起きろボウズ』

 

 光の差さない真っ暗な深い闇の中で、駿斗はそんな声を聞いた。

 

『起きろって。ダチと女ァ助けたいんだろうが』

『少年、目覚めるのだ』

「う……?」

 

 混濁する意識が醒め始め、徐々に目が開かれていき、視界に二つの人影を捉える。

 そこにいたのは、見慣れない異国の風貌の男たち。

 一人は赤い衣と兜を被り、鎌のような形状の反り返った剣を持つ長髪の人物。

 もう一人は、身軽な布の服と革鎧を装備した短髪の男。手には槍と盾を携えている。

 

「ここは……? あなたたちは、誰だ?」

 

 頭を手で押さえながら、駿斗は尋ねる。今自分がどういう状況に立たされているのかも判然としないまま。

 

『私はペルセウス』

『俺はアキレスだ』

 

 彼らの口から飛び出して来たのは、ギリシア神話の英雄の名。

 それを聞くと、駿斗は一瞬困惑で瞠目した後、ハッと息を呑んだ。

 

「そうだ、思い出したぞ! 僕はバルト・アンダースに会って、眠らされて……ここは僕の精神世界か! まだウロボロスに身体を乗っ取られたままなんだ!」

 

 こんな事をしている場合ではない、とばかりに、駿斗は暗闇の中でもがいて走り出す。

 しかし、そんな闇雲な行動で身体を取り戻せるはずもなく、ペルセウスとアキレスによって止められた。

 

『落ち着け少年。我々の話を聞いてくれ』

「話?」

 

 言われてみれば、と駿斗は思い留まる。

 そもそもなぜ彼らは自分の精神世界の中にいるのか。また、何のためにここにいるのか。詳しく話を聞くべきだと感じたのだ。

 駿斗の心が静まったのを感じたらしく、アキレスから先に語りかけ始めた。

 

『ボウズ。俺たちはな、ウロボロスが接種した髄液に宿った残留思念みたいなもんだ』

「残留思念……!? で、でもそれならどうして二人だけ? アダン、というかウロボロスは他にも接種してたんじゃ?」

『その通りだ。俺らだけがボウズの精神に干渉できるのには理由がある』

 

 英雄たちの思念と繋がれる理由。駿斗は考えるものの思い当たるものはなく、二人の方を見て答えを待つ。

 

『ウロボロスのものとは違う、君自身の中に流れている神の血……それが影響しているんだ』

『俺たちも神の血族だからな。ボウズがこうしてまだ自我を保っていられるのも、その血のお陰かも知れねぇ。皮肉なモンだがよ』

「僕の血……神血……」

 

 瞬間、駿斗の目が大きく見開かれた。

 彼の身に流れる神血と、ペルセウス及びアキレスの血。そこに、バルトの正体に繋がるヒントがあると理解したからだ。

 

「それって……!! だとしたら、このことを一刻も早く紫乃くんたちに伝えないと!!」

 

 再び焦って行動しようとする駿斗であったが、二人の英雄も再びそれを止めた。

 

『待つのだ少年。今動くのは無理だ、バルトの屋敷から脱出する方法が分からない。ウロボロスも隙を見せないだろう』

『俺たちが協力してやる。だから今は潜んで時を伺え、野郎が油断して外に出るその時を』

「……はい!」

 

 自分の得た情報を、確実に紫乃たちLOTへ伝えるために。

 駿斗は雌伏し、英雄たちと話ながらウロボロスが行動を起こすのを待つ事にした。




付録ノ三十三[ヴリトラ]

 インド神話に伝わる蛇龍の魔神。旱魃の象徴。
 古き時代、夏が訪れると同時に出現して山に水を閉じ込め地上を干上がらせる。それを打ち破るのが、雷雨の象徴たるインドラの役目。
 不死者であり、昼夜の内はどんな攻撃でも肉体を傷つける事ができない力を得ているが、インドラはヴァジュラや泡によって討伐を可能とした(泡はインドラが神通力を込めてアストラにしていたのかも知れない)。酒を飲まされて酔っている間に殺されたエピソードも存在する。
 ただし殺されても翌年には必ず復活するので、かつてはワイルドハント同様この現象が毎年起きていたという。現代では神が世界を人類に任せたこともあり、インドラと共に現れなくなった。
 また、別の国々や土地でも類似したエピソードが存在する。バビロニア神話ではティアマトを滅ぼすマルドゥーク、イラン神話ではアジ・ダハーカとスラエタオナの戦いなど。
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