エジプト付近にある海中遺跡の第一層にて。
アレックスは、本部にいるセピアから通信を受け、それに応答していた。
今の彼女は仕事モード、つまるところヘルメス・トリスメギストスとして振る舞っている状態だ。
「はっ……現在、仮面ライダー三人が海底遺跡にて対処中です。Aダイバーでは入口までしか進めないので、私は彼らが戻るまで待機するしかなく」
『そうか。くれぐれも、艦が破壊されないように注意を』
「心得ております」
神妙な面持ちで答え、そして通話が切られる前にひとつ質問を投げかけた。
「そろそろ教えていただけませんか?」
『ん?』
「あのカレイドライザー、一体何の遺物の破片で造ったのです?」
それを聞いて、セピアは「ああ」と得心したような声を発し、質問に答える。
『破片じゃない。アレには遺物そのものをまるごと使った』
「それはまた……一体どのような?」
『賢者の石の力を十全にコントロール可能な遺物……それは、ヘパイストス神の炉にある火を灯した
最初は意味を理解していなかったアレックスだが、話を聞いている内に、徐々にその正体に思い至った。
「もしやそれは『プロメテウスの火』の事を仰っているのですか!?」
『そうだ』
「確かにアレほどの神秘ならば賢者の石を御するのも可能でしょうが……しかし、その火を使った結果、人類に何が起こったのかご存知でしょう!?」
プロメテウスの火。
かつて神の時代のギリシアでは、人間は神によって火を奪われてしまい、自然の脅威に晒されて死を待つばかりであった。
それを哀れに感じたプロメテウス神はゼウスの目を盗んで灯火を作り、こっそりと人間に与えたという。
かくして人間は火を扱う技術を身に着け、調理したり暖を取る事ができるようになったが、同時に武器を作って戦争の準備を始めるようにもなってしまったのだ。
この顛末が神の怒りを買う事になり、プロメテウスは磔刑に、人間に対しては災いを振り撒くパンドラの箱が作られる事になったという。
『お前の言う通り、かつては災いを招く事になった。だが、それは火の一面的な部分に過ぎない』
「と、言うと……?」
『鍛冶の神たるヘパイストス様は数々の道具を製造した。武器も造った。それらを使って神も人も互いに争った。では、ヘパイストス様は悪神か?』
アレックスは口ごもる。セピアはそのまま、話を続けた。
『人も神も多面的だ。そして、知識を得る事は悪ではない。確かに争いの火種となり文明を破壊する事もあるかも知れないが、人の歴史はそんな愚かな過ちばかりではなかったはずだ。扱う者が道を誤らなければ、それは救済の力になる』
「彼にはそれを成せると?」
セピアは何も言わなかったが、しかし否定もしない。
きっとそれは、言わずとも彼を信じられるという事だろうとアレックスは認識し、深く頷いた。
「わかりました。私はただあなたと彼らを信じ、見届けましょう。彼らが無事に帰還し、そしてクロノスを共に討つ事を」
その言葉の後、セピアも満足した様子で了承する。
紫乃に託した力が人類の『希望』となるか、それとも『災禍』を世界に招くのか。
いずれにせよ、アレックスはただ艦内で待ち続けるのであった。
海中遺跡にて始まった、封魔司書たちと堕落した太陽神・アモンの戦い。
追い詰められつつも魔神の隙を突き、カレイドライバーと賢者の石を使おうとしたムラサメであったが、その時に予想外の事態が起こる。
使う手筈だった賢者の石が、何も反応を示さなかった。
ムラサメは、力を扱えなかったのだ。
「いかん、このままでは……!」
「フゥ、フゥ……よこせぇ! たいよぉぉぉ!」
右眼を貫かれて暴れ狂っていたアモンは、徐々に落ち着きを取り戻し始め、再びムラサメに向かって腕を伸ばした。
カレイドライバーでの変身に失敗している今の彼は無防備な状態。このままでは剛腕に押し潰され、倒れてしまうだろう。
「させないわ! クリス!」
「おうよ!」
《バインド!》
「カラーシフトォ!」
《
そこへ、ブリューナクとクラレントが介入した。
エレメントカラーを入れ替えてバインドケットシーとなったクラレントは、跳躍と疾走を繰り返しながらアモンの周囲を駆け、さらにリキッドを操作する。
《バインド!
「オラァ!」
トリガーを引くと同時に、魔神の両腕と首に鎖が絡みつく。
アモンは苛立ちながら凄まじい力と勢いで引きちぎるが、その度にまた鎖が現れては行動を阻害する。
「そうだ……こんなに飛び回られたり鎖に絡まれちゃ」
「私の動きに集中できないわよね?」
《輝け! 華麗なる紫薔薇の竜乙女! ブリリアントヴィーヴル!》
鬱陶しそうにクラレントと鎖とを振り解こうとするアモンの眼の前に、そんな声と共にカラーシフトしたブリューナクのブリリアントジェムが飛来した。
そして、破裂。それに伴い、光が溢れ出す。
「ギィッ!?」
眩い閃光に両眼を灼かれて、再び堕落の魔神は苦悶する。
それを見て彼女らは頷き合い、変身が解けてしまった紫乃の方に疾走した。
「紫乃くん! 一旦撤退しましょう!」
「……だ、だが……」
躊躇する紫乃だが、そこへクラレントのチョップが額に飛んだ。
「ここでお前に倒れられたら勝ち目ねぇんだよ! 時間稼いでやったんだから、さっさと来いこの野郎!」
返事を聞かずに紫乃の腕を引き、二人はそのまま魔神の飛び出して来た穴の方に向かう。
そしてクラレントは入口を大量の鎖で塞ぎ、紫乃たちと共に奥へ奥へと降りて行った。
しかし穴を封鎖したところで、敵は必ず追いかけて来る。一体どうするつもりなのか、尋ねようとしたところでブリューナクが口を開く。
「紫乃くん、大丈夫。あなたならきっとその賢者の石を使えるはず!」
「だな。っつーか、さっきも言ったけどどの道使えなかったらアタシら全員ここでお陀仏だぜ」
ブリューナクは紫乃を横抱きにして滑空しながら、クラレントはケットシーの能力で壁を蹴りながら、広い穴の底を目指して降りていく。
「しかし、オレには実際に扱う事ができなかった……一体どうしろと言うんだ?」
少々弱気な言葉を聞いて、ブリューナクはそっと彼の手を優しく握った。
「私にも分からないけれど……セピアちゃんはあの時、使い手の想像力と創造力が充分じゃなかったから誰も起動できなかったって言ってたわよね? だとしたら、今まで色んな種類のリキッドを使いこなしたり、多くの戯我の行動を見て対策を練って来た紫乃くんなら、できないはずがないと思うのよ」
「それは他の封魔司書にも言える話だ、オレだけが特別なワケじゃない」
「ええ、そうよ。セピアちゃんは
紫乃はハッと目を見開く。
賢者の石やカレイドライザーは、封魔司書がより強大な力を得るために作られたものである。さらに、使い手に相応の資質が求められるのも事実ではある。
だが、それは選ばれた血統や特別な人間でなければ扱えない、という事にはならない。
仮に神血の持ち主や人ならざる者が使う必要があるのなら、ヤマトタケルや晴明でも良いという事になってしまうし、とうの昔に他の誰かが扱っているはずだろう。セピアが、ヘルメス・トリスメギストスがこれらを託した事からも明らかだ。
「あなたがこれまでに培って来たものを使うのよ! 戯我との戦いで、ヤマト様との修行で!」
「それを言うんなら、キュクロプスの眼にいた頃の事だってそうだぜ。クソみてぇな連中に付き合わされたが、あの時の鍛錬は今でもアタシらの身に染み付いてるはずだ」
クラレントもそう言って、仮面の奥から紫乃に微笑みかける。
そして地上が見えてくる頃に、再びブリューナクが声を上げた。
「これまでにやって来た戦いは絶対無駄じゃない! 無駄になんかしちゃいけない! 白多先輩を救うため、私たちの未来のために……ここで奇跡を掴み取りましょう!」
一行は地に降り立つと、さらに奥へと進んでいき、穴の先にあった大きく広い空洞のような場所に到達。
ここならば、アモンの巨体に暴れられてもあまり問題ないだろう。そう考えて、ブリューナクとクラレントは身構える。
きっと彼女らは勝ち目がなくとも時間を稼ぐために戦う。紫乃にはそれが分かっていた。
必ず変身を成功させなくてはならない。二人を死なせないために。そう思ってプレート状のリキッドを抜き取り、再び装填しようとする寸前、手を止める。
「そうだ……闇雲にやってはいけないんだ」
全員の命の危険が迫っている事と発動できない事から焦燥していたが、このリキッドにはエレメントカラーもフィジカルカラーも指定されていない。
角度によって変わる多様な彩りを持ちながら、全くのまっさらなのだ。即ち、これを扱うためには新しく思い描くしかない。想像力と創造力を必要とするのは、そういう事である。
「……どうする……」
アモンやクロノスに勝つのならば、
しかし、紫乃は頭の中ですぐに否定する。当然ながらゼウスの姿など見たことがなく、そして想像で補ったところで、神血でない以上それは所詮紛い物。そんな半端なものでクロノスを打倒する事などできるはずがない。
だからと言って、神話の生物を構築しても対抗できるとは限らない。相性の良いエレメントも考える必要がある。余程強大で、特別なものでない限り――。
「いや、違う。違う!」
雑念を払うように頭を振って、自分の考えを再び否定する。
これでは先程までと同じなのだ。特別な力を求めれば、自分自身にも同様の資質を必要とする事になる。
とはいえ平凡な力を得ても、それこそ意味がない。
一体どうすれば良いのか、思い悩みながら視線を落とす。
落としつつも、ふと先程のロゼの言葉を思い出していた。
「オレがこれまでに培って来たもの……それは『剣術』と、ハイブリッドを含めた『リキッドの能力を自在に活かす技術』……」
特別なひとつのリキッドにだけ頼るのであれば、それらは捨て去る事になるのではないか?
そう考えた時。紫乃の頭の中で電光が閃いたかのように、昨日セピアが語った言葉が浮かび上がった。
『でも、その力で神様を倒しても意味ないんじゃないかな? だって、十年先か百年先かは分からないけど、神様は復活するんだよ? 倒しても倒しても』
「……そうだ。なぜ忘れていた」
必要なものは『神を討つ力』ではない。
なぜなら、それは既に紫乃自身で技術として、何度も何度も磨き上げているからだ。
だとすれば、手にすべき力はただひとつ。
「ルオオオオオッ!! たいよう、たぁいよおおおおおっ!!」
「クソッ! もう来やがった!」
アモンが鎖を破壊して穴から落ちて来たのは、その直後。
紫乃を守るためにブリューナクもクラレントも飛び出そうとするが、それを他ならぬ彼自身が止めた。
「二人とも下がってくれ」
「紫乃くん?」
「オレは……知らず知らずの内に、また戯我を斬るだけの刀であろうとしていたのかも知れない。危うくまた大事なものを取り零すところだった」
そう告げた後「だが」と続け、手にした賢者の石を握り込む。
「結論は出た。後はここから……形にするだけだ!」
紫乃のその思いに呼応するように、リキッドが淡く発光する。
そして板状であった剥き出しのその表面に、新たにカレイドライザーと同じクリアブルーの外装が形取られていく。
続いて作られた左右に開く黄金のシャッター、あるいは門のようなそれには、左手側には霊犬や人魚や不死鳥などの幻獣が、右側には雷や氷や炎などの元素が彫刻されていた。
求めていた力がついに形となり、その事実を知らせるように起動音声が鳴り響く。
《超色彩集!! プリズムエリクシル!!》
「できた……これがオレの、ウロボロスとクロノスから友を救うための力!!」
そのまま紫乃は、完成したプリズムエリクシルリキッドをドライバーに差し込んだ。
《
「変身!!」
《
叫びと共に、指先がカレイドライザーのトリガーを弾く。
瞬間、ドライバーから無数の光の五芒星が飛び出し、彼を取り囲むように円状に配置される。
五芒星はそれぞれ鏡のように紫乃の姿を映しつつ、賢者の石と同様に見る角度によって色が変わるようになっており、多彩な光を放っていた。
《千変万化に瞬く色彩!!》
その音声と同時に、インクを散らしながら星が動き出す。
紫乃を中心として回転し、徐々に高速化して無限の色彩を放つ光の嵐となり、彼の体にホワイトゴールドのアンダースーツを構築する。
《絶望を断つ光芒一閃!!》
さらにスーツの上から装着されるのは、各部を黄金で縁取られている青紫色の装甲。
外見そのものはハウンドカラー系に似ており、頭に犬の耳のような部位が伸び、クラッシャーから牙が覗く。
ただしオリエンタルトリニティに比べて装甲はやや薄くなった上で
《解き放て!! カレイドプリズム!!》
最後にけたたましい咆哮が響いてマットホワイトの複眼が発光し、光の嵐が真っ二つに裂けた。
現れたその戦士を目の当たりにして、アモンは身震いの後に大きく後ろに下がる。
それ程までに、今のムラサメに脅威を感じ取っているのだ。
「き、さま……なにもの、だ!」
「仮面ライダームラサメ 千紫万紅!! 戯我の手から人間を守る者だ!!」
堂々と名乗りを上げ、ムラサメがAウェポンT/G-SSSを振りかざす。
アモンは彼の放つプレッシャーに怯みながらも、焦点を定めて拳を握り込んだ。
「よこせ、たいよぉぉぉぉぉぉ……ごういつ、ごういつぅだぁぁぁぁぁ!」
「やらせはしない」
叫声と同時に放たれた拳。その一撃は、しかしムラサメ自身を捉える事なく、その残像を切り地面を抉ってめり込んだ。
アモンだけではなく、ブリューナクとクラレントも目を見張る。
その場の誰も気づかないような、瞬きする間もない内にムラサメは魔神の頭の上に乗っていたのだから。
「ウソだろ、速ぇ!? どうやった!?」
ムラサメは仮面の奥で含み笑いを発しつつ、アモンの頭頂部を思い切り踏みつけてから跳躍。
そしてGモードのAウェポンと元々持っていたレリックライザーの銃口を魔神の両翼に向け、何発も弾丸を放ち、無数の風穴を開けた。
「グオオオ!? こぉのぉぉぉ!!」
痛みで両眼が怒りに染まって血走り、着地寸前のムラサメに向かって拳を振り抜く。
今度は避けずに、両腕を使って受けるムラサメ。しかし攻撃を受けても今度は吹き飛ばされる事などなく、そればかりか逆にアモンの拳を弾き返した。
凄まじいスピードで動ける程に軽いのにも関わらず、その装甲は驚くほど硬いのだ。少なくとも素手の打撃攻撃は通用しない。
焦りからぎょろりとした目をせわしなく動かし、より大きく見開いたまま、今度は口から炎の球を乱れ撃つ。
その攻撃をもムラサメは回避し続けるが、突如として足が止まってしまう。
ほとんどヤケで放ったように思われたたった今の攻撃は、消えずに残って炎の壁となり、ムラサメを包囲していたのだ。
「もえつきろぉ、ふうまししょ……!!」
炎の壁は徐々に迫って来ており、飛んで逃げれば確実にアモンの攻撃が来るため、逃げ場はない。
しかしムラサメは慌てる事なく、両方の手をドライバーに伸ばした。
「そう来るか。ならば!」
《
プリズムエリクシルの前面にある門のようなパーツを手で左右に開いた瞬間、その音声が流れる。
露出した内部では賢者の石が七色に光を放っており、何かを待っているように緩やかな鳴動を続けていた。
すると、ムラサメの両眼が閃光を放つと同時に、ライズホルダーの左腰に保持していたファイアとフェニックスの二つのリキッドが外れ、プリズムエリクシル前面のスリットへと吸い込まれるように装填された。
《ファイアフェニックス!!》
「カラーエクステンド」
《
カレイドライバーのトリガーを引くとその音声が流れ、背中に青紫色のフェニックスの翼が生えた。
レリックドライバーによるカラーシフトに似ているが、装甲の色や形状などに変化はなく、白い複眼のみがそれぞれファイアレッドとソレイユオレンジに変わっている。
だがムラサメはそのまま炎の中へとゆっくり歩みを進め、無傷で通り抜けた。
「なっ!? が、ガアアアアアッ!!」
信じられないものを見たとばかりに再度炎を吐き出すアモン、しかしムラサメは双翼を盾のようにして動かし、その炎を完全に防いで前進を続ける。
「ど、どういう……こと、だ!?」
「ファイアリキッドは炎に耐性を与え、フェニックスリキッドは防御能力を向上させる。この二つのカラーを賢者の石の力で『
ドライバーからひとりでにファイアリキッドが抜け、代わりにホルダーからアイスブルーのリキッドが飛び出すと、そのまま空になったスリットへ装填された。
《アイスフェニックス!!》
「ハイブリッドカラーの組み合わせだったとしても、だ」
《
ファイアレッドの複眼がアイスブルーに切り替わり、その場に冷気が立ち込めてアモンの蛇のような下半身が凍結する。
「ガッ!? こ、このォ……!」
怒りに身を震わせ、アモンは地面に向かって炎を放出。
それによって凍った身体に熱を取り戻すが、ムラサメは既に動いている。
《貪狼ノ型!》
武器を両手で持ったまま、Aウェポンの七星紋が発光する。当然、指で触れる事なく。
本来なら自ら操作しなければ発動しないはずの力が、オートで機能した。まるでムラサメ自身の意思を反映しているかのように。
「はっ!?」
「遅い!」
気づいた時にはもう遅く、アモンの顔面が高速化したムラサメの拳に抉られ、頭を垂れるかのように地面へと叩きつけられる。
そして反撃に転じようとすれば、今度は廉貞ノ型を触れずに発動し、跳躍によって回避される。
ムラサメは一体どんな手品を使っているのか。その能力に先に気づいたのは、クラレントだった。
「そうか、賢者の石の特性が念じればどんなモンにも変わるってんなら……それが今、そのままアイツの能力になってんのか!」
「――
ブリューナクもその正体を知り、ハッとして口に出す。
リキッドを自由自在に操ったのも、七星紋を触れずに機能させたのも、念じる事によって行ったのだ。
ムラサメは僅かに振り返りながら首肯し、二人の言葉が正解である事を示す。
「この生体装甲とスーツは全て、賢者の石によって生成された『オリハルコン』でできている。柔剛軽重自在で、所有者の意思次第で絹のようにも液体のようにもなる神秘の金属……これを全身に搭載する事でオレの思念を拡張させて身体の内外に巡らせ、波動のように放つ事で物体を操る力をも与えているらしい」
言いながら、ムラサメは眼の前で実演して見せるように、手で触らずに素早くAウェポンをTモードに変形させた。
そして天井に向かってレリックライザーから弾丸を発し、その弾道を思念波によって曲げ、アモンの背中を撃ち抜く。
さらに態勢を崩したところで、アモンの額に一太刀浴びせ、その傷口へと続けざまに銃弾を連射した。
「ぐがあああ!?」
痛みにアモンが呻き、腕を振り回す。
その隙に、ムラサメはその攻撃を掻い潜りながら、またも思念波によってリキッドを操作した。
今度はマジックバイオレットとピュアホワイト。複眼もそのように変化する。
《
「カラーエクステンド」
《
ムラサメの全身から激しい稲光が放たれ、苦悶するアモンの身体を追い打つように焼く。
リキッド内に直接干渉して濃縮するプリズムエリクシルの能力により、雷撃もまたパワーアップしているのだ。
しかしそれでもなお、アモンは身を起こして抵抗を続けようとする。
「ま、だ……まだあきらめぬ……たいようぉぉぉ!!」
「そうか。では、面白いものを見せてやろう」
言いながらムラサメがレリックライザーを前に掲げると、ホルダーから再び二本のリキッドが飛び出して装填されていく。
「お前を塗り潰す色は決まった」
《アイス!》
《セイレーン!》
「急々如律令」
《
思念波によるポンプアクションの後、引き金を弾く。
すると、銃口から光と共に召喚されたのは、アイスセイレーンカラーのムラサメ自身であった。
「なん、だと!?」
アモンが驚きのあまり目を血走らせて瞼を震わせる。
プリズムエリクシルによってレリックライザーにも変化が起き、ムラサメの分身体が生み出されたのだ。
これもまたムラサメの思念に合わせて動く。サイコエネルギーを帯びたAウェポンを使って本体と同時に斬りかかり、アモンを翻弄する。
そしてセイレーンの能力によって耳元に超音波を浴びせ、再び隙が生まれたところで左右から顔面に蹴りを叩き込む。
「ぐ、ぎ……ガァァァァァッ!!」
しかし錯乱しながらも元神としての力は健在で、強大な炎のブレスによる反撃で分身を消滅させた。
続いて自らの両拳に炎を纏わせると、本体に向かって突き出さんとする。
だが、渾身の一撃は最初と同じくムラサメの残像のみを散らせて空振りに終わった。
プリズムエリクシルによって発露したサイキック能力により、短距離ながらテレポーテーションをも可能としたのだ。
「どこに……!?」
姿を見失ったアモンの巨体が、狼狽しながらも周囲を見渡すが、ムラサメを捕捉できない。
先程の事を思い出して頭上に手をやるも、そこにもない。
直後。その音と声は
《
「終わりだ、堕落した太陽神よ」
《
気づいた時にはもう遅かった。ムラサメは二つの武器を手放してグリップを引き、引き金を弾く。
両眼が煌き、音を立ててクラッシャーが開口。全身の装甲が展開して、放熱器官の生体ダクトが露出する。
そして高く跳躍した後、熱と共に紫白の光粒子を噴出し、獣の咆哮のような音を口部から鳴らしながら、雷光を収束させた右足をアモンの下顎を目掛けて真っ直ぐに突き出した。
《サンダーハウンド・クロマティックアトリビューション!!》
「セァァァァァッ!!」
「ぎぃぃぃぃぃぃっ……!?」
雷の速さで放たれたキックが、顎を貫かんばかりに強く打ち込まれる。
アモンはインクを吐いて仰向けに倒れ、ラジエルの書の頁を三枚吐き出して動かなくなった。
「すげぇ、あのアモンを一方的にぶっ倒しちまった……!」
「いや、まだだ。まだやらなければならない事がある」
徐々に消滅していくアモンに近づき、ムラサメはその頭に自らの両手を置く。
何をするつもりなのか。彼女らが見守る中、彼は掌から念動波を解き放った。
それを受けたアモンは、インク状になった後に二つに隔てられる。今までと同じ容姿だが体格の小さくなった魔神アモンと、翼を広げるガチョウを模した冠を被った神・アメンの姿に。
「サイキックで神から魔神の力を分離させた!?」
「そんな事までできんのかよ!?」
アメンが元の状態に戻ったのを確認してから、ムラサメは思念波を全開にしてアモン側を完全に消滅させる。
そして成功に安心した様子で深く息をついた後、ブリューナクたちの方を振り返った。
「これがオレの手にするべき力……これさえあれば、駿斗を救える」
「そうか! 確かにそれなら、ウロボロス・ギガから引き剥がす事もできるかも知れないわ!」
「尤も、生物に対して念動波を使う場合、今のように抵抗できない状態にしなければならないがな」
三枚の頁を手に入れてそう言った直後、突然地響きが起こる。
どうやらこの遺跡はラジエルの書を手にしたアモンによって保たれていたらしく、主がいなくなった事で維持できなくなりつつあるようだ。
「脱出する、急ぐぞ!」
そう告げたムラサメは、アメンの傷を塞いでから彼を担ぎ、三人で急いでAダイバーのある最上層に向かった。
※ ※ ※ ※ ※
「磐戸に放った斥候用のGクロスは全て封魔司書の手で破壊されたようです」
一方。バルト・アンダースの潜む神界の館にて、天海は彼の前で跪き、そのように述べた。
報告を受け、そのバルトはフードの奥でフッと笑う。
「そうか。LOTの様子はどうだった」
「観測できる限りでは、ムラサメ・ブリューナク・クラレント・ゲイボルグは不在。対処に現れたのはユーダリルと比翼のみです。いつ彼らが磐戸に戻るかは私にも分かりません」
「ふむ」
「それから、比翼は新たなデュアルリキッドを使っていました。Gクロスも破壊できる性能です。とはいえ」
天海はバルトの顔を見上げ、ニィッと唇を釣り上げる。
「ヤツらにけしかけたのは、飽くまでも
「頼もしい限りだな。モルガンたちが動きを見せないのは不気味ではあるが……ウロボロス、そっちはどうだった」
駿斗の肉体を奪い、壁に背を預けて腕を組んでいるウロボロスに問うと、こちらも邪悪な笑みを浮かべて頷く。
「頼まれてたモンは用意した。いつでも行けるぜ」
「よし。ではもうひとつ、
バルトが含みのある口調で言うと、ウロボロスもまたくつくつと笑う。
この場でその意味を理解できなかったのは、天海とビヨンデッタだけだった。
だがバルトが椅子から立ち上がって先に口を開いた事で、質問の機会は逸してしまう。
「必要なものは揃った、そろそろ最後の仕上げに取り掛かる。それが終わり次第……」
クロケア・モルスの鞘を握って地に打ち付け、バルトは声高に宣言する。
「再び戦争を始める! 神と神が血で血を洗う、第二の
付録ノ三十八[オリハルコン]
古代ギリシャと古代ローマの文献に登場する物質。オレイカルコスとも。
表の世界では、主にその正体は真鍮か銅、鉱石や宝石、顔料に絹という説もある。しかし、神秘の関わる裏の世界では違う。
その真の正体は、触れた人間の思念に応じて硬度や重量、形状すらも自在に変化させる遺物である。
現代では製法が遺失しているが、セピアはこれを賢者の石とヘパイストスの炉火を組み合わせる事によって変身時にのみ鋳造できるようにした。
オリハルコンの真価はその『所有者の意思に応じた変形』にあり、これを全身に帯びて賢者の石と併用する事で所有者の思念を拡張強化し、思念の波動を生み出す事を可能とした。
日本におけるヒヒイロカネと呼ばれる金属もこれと同じと考えられている。