紫乃がLOT本部から磐戸に帰還した、その一週間後。
ロゴス・シーカーの本拠地である館の前で、天海・ビヨンデッタ・ウロボロス・イシュタルの四人と数多くの戯我が集っていた。
彼らの視線の先、正面に立つのはフードを目深に被った白いローブの男、バルト・アンダースだ。
「よくぞ来てくれた、勇敢なる戯我の諸君」
東西関係なくこの場に集った無数の戯我たちを前に、少しも怖じせず、バルトが高所から演説を行う。
「長らく
以前より僅かに高くなったような声を発しながら、バルトは右腕を前に掲げ、天に向かってグッと拳を握り上げた。
「時は満ちた。今こそ、人の手から再び我ら神の時代を取り戻す時だ」
どよめきが起こる。
本当にそんな事が自分たちに可能なのか、一体どんな策があるのか。戯我たちが気にしているのは、そんなところだ。
それを黙らせようとするかのように、ローブをはためかせて腕を振り、バルトが叫ぶ。
「見よ! 人界を滅するために建造した、我らの究極兵器を!」
その宣言の直後、地面を割いて館を破壊しながら巨大な手が出現し、天に浮かぶ月を掴もうとせんばかりに腕が伸び出していく。
次第に腕だけではなく頭や胴体も出現し、その全体像が露わとなった。
宇宙空間に頭が届いているのではないかと思うほどの有機的な装甲と巨体に、蝙蝠のような膜の張った蛇皮の翼。下半身からは幾つもの蛇が生えて触手のように蠢いており、毒液や炎を滴らせている。
燃えるような橙色の瞳を燦然と輝かせるその脅威の怪物を誇らしげに見上げながら、バルトは再び口を開いた。
「あれなるは
その言葉の直後、喝采と歓声がその場を包み込む。
ビヨンデッタは妻たるイシュタルの隣で、密かに目を細めて歯噛みしていた。
土壇場でバルトを出し抜こうにも、あのようなものを持ち出されては返り討ちにされるだろう。行動を起こすならば、もはやこの戦争の最中にテュポーンの内部で襲うしかない。
バルトが隙を見せる事を心の中で願いながら、ビヨンデッタはテュポーンから発せられた光の柱の内側へ他の戯我たちと共に歩く。するとその光が収縮していき、内側にいた者たちは全員、怪物の姿をした戦艦の中に転送された。
周囲に目を配ると、ビヨンデッタは殺風景な白い壁と天井の部屋に、自身以外に誰もいない事に気づく。
どうやら、幹部にはそれぞれ守るべき持ち場を与えられているらしい。つまりこれで、イシュタルとも分断されてしまったという事である。
『では、進軍を始める。人間界に着いた後は、飛べる者は空から地上の人間を抹殺し、戦果を上げよ。飛べぬ者は空戦式Gクロスを纏って襲え。LOTは恐らく……主に空と海の両面からこちらに攻撃を仕掛けて来るだろうが、それらはテュポーンと水生系の戯我及び海戦式Gクロスで対処する』
別室にいるであろうバルトからそのような声が聞こえ、ホロモニターのようなものが眼の前に現れた。
どうやらバルトはこれで外の状況を見せてくれるようだ。今はテュポーンが、人間世界へのゲートを開いているところが映し出されている。
そして磐戸市が見える離れた海上に、津波と飛沫を上げて着水した――。
「……なに!?」
瞬間、ビヨンデッタは目を見開く。
テュポーンの周囲、海上には何隻ものAダイバーが、上空には飛行機能を持つAストライカー
そしてそれらとは異なる、星座の意匠を散りばめた巨大な戦艦が、港の近くでテュポーンを睨むように停まっている。
詳細を知らずとも、その船がLOTの持つものの中でも強大な戦力である事は容易に想像がつく。だからこそ、ビヨンデッタは驚愕していた。
「バカな……なぜ、ここに来る事が分かった……なぜこちらの作戦が漏れている!?」
※ ※ ※ ※ ※
時は、フォルス・テュポーンが決戦の場に降り立つ三日前まで遡る。
LOT磐戸支部に属する封魔司書の面々とアレックスら本部組、魔祓課の安藤 長宗、そしてモルガン派のロゴス・シーカーたちは会議場に集まり、ある人物から話を聞いていた。
その人物とは、封魔司書でもロゴス・シーカーでも魔祓課の警察官ですらもない。ただの人間の高校生、新山 若葉だ。
「みんな、これからのロゴス・シーカーの動きが大体分かったよ」
若葉はそう言って、事前に手に入れていた情報を纏めた資料を配布しつつ、スクリーンにも同じものを表示させる。
「情報によると、ウロボロスは駿くんの身体を使って、ギリシアである物を集めていたみたい」
「それが
「うん。狙いは多分、テュポーンを造る事だと思う」
ロゼの言葉に反応し、若葉が頷く。
ゼウスすら倒した強大なる蛇神テュポーンは、ガイアとタルタロスの間に生まれた子。故に、それらを集めているという時点で狙いは容易に想像できた。
しかし、当然ながらそこについて疑問も生じる。
「ヤツらはどうやってこの短期間にテュポーンを完成させる気かね? 卵から生み出すにしろクローンを造るにしろ、相応の時間と労力が必要なはずだが?」
「……いえ、ブラウベルク卿。思い出して下さい、ヤツの正体は」
「あぁ、そうか!? クロノスは時の神、失敗しても時間を巻き戻せるのなら何も関係ないではないか!?」
「それにクローニング技術はアダンやロッソ・ヴェールという成功例もあります、カリオストロがいなくとも難しい話じゃないんでしょう。そもそもテュポーンの卵はクロノスが所有していたという噂もあるくらいですし」
織愛からの指摘でアレックスはハッと目を剥き、一同は改めて敵の恐ろしさを思い知った。
そんな中、クリスは腕を組みながら資料を見下ろして、感心した様子で頷いている。
「よくもまぁこれだけの情報を集められたモンだな」
彼女の言葉に、紫乃も首肯した。
「あの駄女神には……イシュタルには感謝しなければならんな」
若葉がロゴス・シーカーの内情を把握しているのには、当然ながら理由がある。
オノゴロ島の一件でLOTから離れたイシュタル、彼女の書き置きの
だが手紙にはまだ続きがあった。
ロゴスの幹部であるビヨンデッタの立ち場を利用し、そこで情報を入手してLOTに流す、謂わばスパイの役割を勝って出たのだ。
元々気紛れで人間に対し残酷な一面も広く知られているので、ロゴス側に寝返る際にも幹部連中にすら特に怪しまれず、潜入捜査もある程度スムーズに進める事ができたという。
「先輩とあの女神の頑張りを無駄にするワケにはいかない。何としても、この磐戸防衛・クロノス封印作戦を成功させないと」
ロゼの発言に全員が賛同し、その中でもフェイがハッと思いついたように紫乃の顔を見上げ、二本のリキッドを手渡した。
「紫乃くん、君にこのリキッドを」
「これは……バブルとスープーシャン?」
「プリズムエリクシルの特性を考えれば、手札の数は多い方が良いかと。それにそのリキッドは対戯我に特化した性能ですからね」
実際のところ、今まで持っていなかったものを使えば奇襲になるはずだと紫乃も思い、提案を受け入れる。
さらにその話を聞いて、灰矢やロゼ、クリスもそれぞれリキッドを差し出す。
「よーし、アタシのイリュージョンケットシー持っていきな!」
「私はフラッシュケンタウレスを! 紫乃くんなら絶対使いこなせるでしょうから!」
「俺からはガイアトータスだ。守りの方もしっかり固めねぇとな?」
一方で、アダンと双子の方は何も渡す事ができなかった。
カラーの組み合わせは関係ないとは言え、アダンは他に所持するリキッドがキュクロプスしかなく、ロッソもヴェールもフィジカルリキッドしか持っていないためだ。
そして対等に戦う術を持たない故に、織愛や長宗のように仮面ライダーたちに何も授ける事ができない者もいる。
だが、それでも力になりたいという彼らの心は紫乃にも伝わっていた。
「ありがとう。これだけ思いを託されたんだ、オレは必ず……この戦いに勝ってみせる」
※ ※ ※ ※ ※
そして、現在。
艦体に星座の意匠が施されたAダイバーを超える巨大戦艦、LOT本部最大の戦力『アルゴー号』にて。
紫乃を先頭として、ロゼとクリスと若葉が三人組で、さらに灰矢にアダンのペアが甲板でテュポーンの姿を見上げていた。
彼らは敵の追跡を振り切り、内部に侵入する襲撃部隊の役目を与えられているのだ。
この場にいないフェイやロッソとヴェールは、街の防衛戦力の方に割り当てられている。
「おいでなすったぜ! ロゴスのクソッタレ共!」
「こっちがしっかり準備してあるとも知らずにね!」
クリスとロゼ隣同士に並んでがそう言い、にぃっと唇を歪める。
そして二人でレリックドライバーを装着して、変身のためにリキッドを取り出した。
ロゼの方はデュアルタイプのブリリアントヴィーヴルを使おうとしているが、クリスはどこか緊張した面持ちだ。
「さぁて……張り切らねぇとな。アタシ次第なんだしよ、この作戦」
唾を飲み込みつつ、彼女は呟く。
すると、その背後から紫乃が肩に手を置いて、声をかけた。
「そう気負いすぎるな」
「紫乃」
「お前ならやれる。頼むぞ、オレの相棒」
相棒。
クリスの頭の中で、その一言が何度も何度も音叉のように反響し続ける。
「ふ、ふふふ、ふふふふふふふ」
「ん……な、なんだ? どうした?」
段々とクリスの唇が釣り上がって行くのを見て、紫乃は首を傾げながら尋ねた。
彼女は返答する代わりに、二つの道具を手に取る。赤い龍の頭部のような形状の物体と、上下でジョンブリアンとエンペラーグリーンの二色という、
それが決起の表明となった。
《ペンドラゴンクレスト!》
「今のアタシは!! 無敵だオラァァァァァッ!!」
《迅雷風烈! ブリッツゲイル!》
まずはペンドラゴンクレストというらしいその道具の口部を開かせて起動し、そこにシリアルタイプのリキッドを装填。
そして、口を閉ざして龍頭を左腕側に向くようにセットする。
《
「変身!」
《
掛け声と共に指先でトリガーを弾くと、クリスの頭上に黄色と緑色の光の円環が現れた。
《
さらにその環を潜り抜けるように一体の赤く輝く龍が凄まじい速度で飛来し、リングから発せられる二色のインクを浴びながら、その大顎でクリスを呑み込んだ。
《一つに繋がりし今、叛逆者は龍王となる!》
直後、その龍もインクとなってクリスと一体となる。
そうして生み出されたのは、黄と緑をメインに配色したインナースーツの上に真っ赤なアーマーを装着した戦士。
背中からは赤いマントが風に揺れ、両眼は黄金に輝く。
《ブリッツゲイルペンドラゴン!》
「こいつが……仮面ライダークラレント エクセリオンだァァァ!!」
両腕を天に掲げ、大きな声で名乗りを上げると、クラレントはそのままロゼの方を振り返った。
「行っくぞロゼ! アタシが突破口を開いてやるからよ!」
「え、えぇ!」
「待って待って私を置いてかないでよぉ!?」
勢い付いた彼女に驚きつつも、変身したブリューナク ブリリアントヴィーヴルカラーは翼を拡げ、若葉をクラレントと同じAストライカーFに乗せテュポーンに向かって飛翔する。
一方。
フォルス・テュポーンの護衛と周囲の警戒、街への襲撃を任務とする機械の翼が付いたGクロスを纏う戯我たちは、想定を超えた防衛ラインを築いているLOTに目を丸くしていた。
「な、なんだこの数は!?」
「聞いてないぞ!!」
「こいつらなんでもう陣形を整えてるんだ!?」
Gクロスを装備した多くの中級以下の戯我たちがざわめく中、獅子の頭部と前肢に鷲の翼と下半身を持つ上級戯我、アンズー・ギガがこれではいけないと一喝する。
「狼狽えるな! こんなもので俺たちやテュポーンを止められん! この数を相手に、LOT如きが抗えるはずがないの――」
「ほう。妾たちを恐れぬのか」
突如として割り込む、空から聞こえた女の声。
そこにいたのは、天女の真っ白な羽衣を纏う女神。太陽の光を背負う彼女の名は、アマテラス。
しかも、一柱だけではない。
彼女を守るように、両隣に弟たる男神が浮遊している。豪放磊落に笑うスサノオと静かに佇むツクヨミだ。
「まさか……三貴神!? 日本の神の!?」
「あり得ない、なぜ実体がある!?」
戯我たちの間でさらなる動揺が伝播し、もはやどんな喝でも止められなくなる。
そしてアンズー自身、この異常事態に頭を抱えそうになっていた。
「ガハハ! 姉者! 荒事は任せろ!」
「このツクヨミ、日本を守るため全霊を尽くしましょう」
スサノオの起こす雷と嵐がGクロスを痺れさせ怯ませ、ツクヨミの素早い剣術が翼を斬り落とす。
さらにアマテラスは掌から細い光線を連射し、アンズーを含む戯我とGクロスとを焼き払っていく。
「ぐおおお!? な、なぜだ……実体を持ち、あまつさえ攻撃できるなど!!」
なんとか急降下して鬣の一部を焦がした程度の損傷で難を逃れたアンズーが喚くと、それを聞いていたアマテラスが鼻を鳴らした。
「気付かんか? あの船、お主らにはただのお飾りの宝船にしか見えぬか?」
そう言ったアマテラスが指差した先にあるのは、金色の戦艦アルゴー号だ。
LOT本部の最大戦力だけあり、この船には特殊な機能がある。それは『アルゴノーツ』と呼ばれるもので、乗組員として登録した者の身体能力を大幅に向上させるというもの。
しかしただそれだけではなく、登録したのが神格ならば、一時的に擬似的な肉体をも与える事ができるのである。
無論、神の場合は制約が課される。船からあまりにも遠く離れる事はできないし、登録しすぎるとアルゴー号自体のエネルギーが停止する。ただし、エネルギーの問題についてはセピアがラジエルの書を全て使って動力部を補強しているので解決している。
そして最大の弱点は、船が破壊される事。そうなると神は再び肉体を失い、無防備になってしまうのだ。
アンズーたちは状況を概ね理解し、まずは船の破壊のために動こうとした。
「ま、簡単に破壊させてやる気はないがの」
「なに!?」
「ここに来ておる神は妾らだけではないんじゃよ」
彼女の言葉を証明するかのように、船の中からひとつの影が躍り出て、戯我たちの前に立ち塞がる。それと同時に雲の切れ間から光が差し込み、海を照らす。
驚きながらも目をやると、そこには大声で高笑いを発する浅黒い肌の黒髪の男。頭には羊の角を生やし、さらに大きく翼を広げて太陽を背負う隼の冠を戴いている。
「わぁっーはっはっはっはっはーっ!! 我こそはエジプト神軍代表、アメン・ラーであるぞ!!」
「な、なんだぁこいつ!?」
「ここにはLOTへの恩返しのために参った!! 人界を侵略する愚かな賊よ、いざ覚悟!! 偉大雄大特大絶大無限大のォォォォォ!! 太陽ォォォォォビィィィィィーム!!」
少し前まで魔神アモンという名に貶められていた太陽の神は、ラーの力を取り戻し、太陽光の熱線で薙ぎ払う。
その一撃によって、アンズーはおろか範囲から逃れようと足掻いていたGクロスも一瞬で蒸発。
敵の数はまだまだ多いが、味方であるスサノオとツクヨミですらも、その所業に戦慄するばかりだ。
「む、無茶苦茶じゃなぁあやつ……本当に姉者と同じ太陽神か?」
「エジプト最大の神、これ程とは。味方で良かった」
ここまで強力ならばフォルス・テュポーンも案外あっさりと倒せるかも知れないという考えが二柱の頭によぎるが、しかし向こうもアルゴー号の特性を理解しているのか、迂闊に近づく事はしない。
だがそれも狙い通り。アメン・ラーの一撃は大きな脅威として『船には容易く近づけない』と印象づけ、敵を足止めさせる充分な成果を挙げた。
その膠着状態を利用するのが、この攻撃の真の意図なのだ。
「さあ、任せたぞ」
アマテラスは呟き、光線やスサノオの放つ雷の連撃に紛れて蛇神に接近していく五つの影を見送る。
AストライカーFを駆るクラレント・ゲイボルグ・ユーダリルと、自身の能力で飛ぶブリューナクとムラサメ オリエンタルトリニティカラーだ。
テュポーンが動けない隙を付いて、内部に侵入する。先程のアメンの一撃はそのためのものだった。
「必ず帰ってくるのじゃぞ。待っておるからな」
太陽の女神アマテラスに見送られる中、仮面ライダーたちはそれぞれの侵入経路を目指して飛んでいた。
入口はテュポーンの両脇腹や背中にあるので、敵に見つからないように注意を払いつつ、追跡から逃れて中に入る必要がある。
しかし如何に神々の攻撃でも、そういつまでも注意を逸らせるものではない。まだテュポーンまで遠くない距離がある内に、戯我の軍勢はムラサメたちの存在に気づいた。
「チッ! 流石にここまで近付くとバレるか!」
「戦うぞ!」
ユーダリルとゲイボルグが言い、射撃形態に変形させたAウェポンでそれぞれ戯我やGクロスを攻撃。
さらにブリューナクもライフルでの狙撃やブリリアントジェムによる閃光弾で敵の行動を妨害し、ムラサメはカレイドライザーとAウェポンT/G-SSSの二挺拳銃で撃ち抜く。
そして、この中で唯一射撃用の武装を持たないクラレントは、右手に剣を取った。
《Aウェポン
今まで使っていた大剣の2Cの上に、さらに黄金の『鞘』のようなものが装着されると、その鞘のスリットから透き通った分厚く赤い刃が飛び出す。
鍔にあったリキッドを装填するための穴も塞がれ、その代わりに縦に二本までリキッドをセットできるホルダーが鞘に備わった。
「振り落とされんなよ、若葉!」
「うん!」
移動をAストライカーFに任せ、剣を握ったままさらに加速。
追跡してくる敵を避けるが、やはりと言うべきか近付くば近付くほど数は増えていく一方だ。
「チッ、流石にこれじゃ振り切れねぇか!」
あまり長く敵を連れて飛び続けていては、若葉にも負担をかけてしまう。
そう思って空中を走り続けていると、目の前にGクロスが数体、背後にもグリフォン・ギガが現れ挟まれてしまった。
絶体絶命か。だが彼女がそう思った直後、連続した銃声と共にGクロスたちが蜂の巣になって海上へ落ちる。
驚いてその銃弾が飛んだ方を見ると、そこにはAストライカーに跨りながらVモードのAウェポンを構えるゲイボルグの姿があった。
「アダン!?」
クラレントが声を上げる間に、ゲイボルグはそのままキュクロプスのリキッドを取り出し、武器に装填する。
《
そして必殺技の発動で無数の雷霆の弾丸がグリフォンとGクロスを貫いて粉砕せしめ、クラレントに再び道を作った。
「さぁ、行け」
「……へっ、おうよ!」
意外な人物に助けられた事に面食らいつつも、クラレントは突き進んでいく。
後ろにはムラサメとブリューナクとユーダリル、少し遅れているがゲイボルグもしっかり追ってくれている。彼らの目指すべきフォルス・テュポーン内部への入口は、すぐそこだ。
だが。
いきなりテュポーンの燃える両眼が動き、この巨大過ぎる巨体にとっては蚊どころかノミ以下のサイズになるはずのクラレント・若葉の姿を、ぎょろりと捉えた。
「ひっ!?」
「こっち見――!?」
テュポーンの両肩から生えた無数の蛇がザワザワと蠢き、五人の仮面ライダーを捕捉。
さらにテュポーンと蛇の口部から、真っ赤な炎がチロチロと生み出されて大きな形を作っていく。
そして、超高熱の巨大な火球が発射された。
そこへ予測していたかのように、カレイドライザーを構えたムラサメが間に割って入る。
カレイドライザーには、既にサンダーとハウンドのリキッドがセットされていた。
《
「やらせはしない」
《サンダーハウンド・クロマティックサモンバースト!!》
手でポンプアクションの後に引き金を弾くと、銃口から紫電を纏う霊犬が何体も飛び出し、炎の壁を食い破らんと一斉に牙を突き立てる。
無論それで完全に散らせるはずもない。しかし、弱める事はできた。
ムラサメは迫り来る炎に真っ直ぐ立ち向かい、リキッドのダイヤルを操作する。
《ソウルアマテラス!》
「急々如律令!!」
《
八咫鏡による攻撃の反射。
想定の通り、炎を押し返してテュポーンの顔と両肩の蛇を焼き視界を封じた。
ムラサメは素早く、後ろの相棒に向かって声をかける。
「今だ……クラレント!!」
彼女は深く頷き、Aストライカーの速度を早める。
だが、その瞬間にテュポーンは両手で自らの脇腹を手で押さえ、入口を封鎖してしまう。
それでもクラレントは止まらず、バイクをオート操作に切り替えてドライバーからブリッツゲイルリキッドを抜いて、Aウェポンに差し込んだ。
《
「今更塞いだって無駄だ!! ブッた斬ってやるよ!! テュポーン!!」
《ブリッツゲイル・クロマティックエクスキューション!》
「その腕ェ貰ったァァァーッ!!」
剣を両手で握って天に掲げ、トリガーを引く。
すると大剣からより長大な光の刃が形成され、振り抜かれたそれが、背後の翼ごとテュポーンの左腕を一刀両断した。
堪らず悲鳴のような咆哮を発して、失った左腕の断面を押さえる蛇神。その肉体は、既にクロノスの力によって再生が始まっている。
しかし、LOTの面々もこの隙を逃すような事はしない。
「よし! 行くぞお前ら!」
クラレントは再びAストライカーを操縦し、左脇腹からブリューナクと共に素早く侵入。
同じくユーダリルとゲイボルグがバイクを動かして右脇の入口へ、ムラサメは背中の方から内部に潜り込んだ。
こうして奇襲作戦は見事に成功したものの、テュポーンは既に態勢を立て直している。クロノス攻略も磐戸防衛も、まだ始まったばかりであった。
※ ※ ※ ※ ※
「情報が漏れていた……LOT側に? まさか、まさか」
同じ頃。
テュポーンの背中側から通れる頚椎部のフロアを守護するビヨンデッタは、戯我たちの防衛ラインを突破したLOTとモルガン派の連合軍をスクリーンで見ながら、歯を軋ませていた。
自軍の情報漏洩の理由。心当たりがあるとすれば、疑いたくなくともひとつしか考えられない。
「裏切ったのか、イシュタル……!? この我輩を!?」
思い至って口に出した頃には、彼女は自らの背から大きな蝿のような翅を伸ばし、フロアを飛び出していた。
そして有機的な壁を突き破って無理矢理にショートカットし突き進み、愛しい彼女の元へと駆けていく。
「許さん……許さんぞォ封魔司書ォォォッ!! よくもイシュタルを誑かしたな!? 皆殺しにしてくれるわァァァーッ!!」
怨嗟に満ちた叫び声を残した後、壁は修復。
腰椎部から登って来たムラサメが辿り着いた頃には、部屋はキレイな状態のままもぬけの殻となっていた。
付録ノ四十[アルゴー号]
ギリシア神話において、王子イアソンが王位を取り戻す旅に出る際、船大工に作らせた船。名はその船を作った名工アルゴスから取ったもの。
ヘラクレスやテセウス、双子のカストルとポルクス、吟遊詩人のオルフェウスなど、50名を超える英雄たちがこの船に乗り込んで出航したとされている。
その真の機能は、船に登録した者を『アルゴノーツ』として身体機能を底上げするというもので、変身していない人間であっても強大な力を与える。さらにそれが神やその血を引く者なら、より大きな力を付与するのだ。
神々が退去した後は、封魔司書たちによって管理される事となり、封印された。
LOTが保有するこの戦艦は現在、ヘルメス・トリスメギストスの血筋の者でなければ起動・操作できなくなっている。
また、強力過ぎるが故に、この兵器を投入するのはAアーマー以上に『余程の緊急事態』でなければ本来あり得ない。