仮面ライダームラサメ   作:正気山脈

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「太陽ォォォパンチ! 太陽ォォォキック!」

 磐戸市の海上にて。
 太陽神アメン・ラーは、フォルス・テュポーン内から出てくるGクロスを、奇天烈な命名からは想像もできないような破壊力の一撃で次々に瞬殺していた。
 近くで見ているスサノオですらその威力に舌を巻くばかりであったのだが、数が100を越えた辺りで、神々はある異常性に気付く。

「わっはっはっはっはっはっ! 数が全く減らんな! どうしよう!」

 戯我は確実に倒せているのだが、テュポーンから出てくるGクロスは一向に進軍を止める気配がない。
 最初に放った光線を使えば一気に殲滅できるはずだが、そう何発も使えるワケではなく、再使用にはチャージ時間が必要となる。
 アマテラスやツクヨミ、スサノオでも完全に敵の侵攻を止める事はできず、ついに防衛ラインを突破されてしまい、Gクロスたちは少しずつ街へと降りて行ってしまった。

「いかんな……頼むぞ、晴明! そっちは任せたぞ!」

 ここにはいない防衛チームの奮戦を願い、アマテラスはテュポーンへの警戒を続ける。


第四十二頁[その涙は蒼く]

 イシュタルと合流するため、フォルス・テュポーンの内部へと飛び込んだロゼとクリス、そして若葉。

 だが再会に喜ぶのも束の間、壁を突き破って出現したビヨンデッタ、暴嵐蝿神ベルゼビュートと対決する事になる。

 彼女らはベルゼビュートに一撃も与えられないまま、防戦一方の状況を強いられていた。

 

「オラァァァッ!」

 

 ただ一人、まともに攻撃を通す事ができるのはクリスの変身するクラレント エクセリオンのみ。

 高出力を維持して強大な戦闘力を発揮するシリアルリキッドを十全に扱い、パワーとスピードでベルゼビュートの猛攻に食らいついている。

 

「チッ……中々粘るな、小娘」

「ったりめーだ! こんなところで負けたら相棒に顔向けできねぇだろうが、よォッ!」

 

 言いながら、力強く大剣を振り下ろすクラレント。

 ベルゼビュートは当然それを受け止めて反撃しようとするが、そこへブリューナクが宝石弾とライフルから銃弾を、イシュタルが掌から光の球を放って妨害した。

 前衛のクラレントが攻撃を受けないよう、二人で徹底してサポートに回っているのだ。

 よって先に後衛の二人を始末すれば後が楽になるが、それを容易く許すほどクラレントは甘くない。

 だからと言ってベルゼビュートの方にも全く手がないワケではなかった。

 

「その心配ならもう必要ない」

「あァ!?」

「貴様らは全員……ここで死ぬからな」

 

 そう言いながら上空に大きく飛翔すると、両手に持った戦棍を振り被る。

 

駆逐(アィヤムル)! 追放(ヤグルシュ)!」

 

 そして武器の名を叫びながら、クラレントに向かってそれらを投擲した。

 二つの戦棍は雷と風の刃を発しながら、左右から挟み込むようにして目標に向かっていく。

 当然クラレントは全速で回避しようと疾走するが、まるで戦棍は自ら意思を持っているかの如く追尾し、距離を詰めて来る。

 

「うおおおぁぁぁ!? マジかよこいつ!?」

「無駄だ無駄、断じて無駄ァ! そのメイスは投げれば我輩の手足のように動かせる、逃げる事などできぬわ!」

「クソッ、絶対振り切ってやる……!?」

 

 さらに速度を上げようとした瞬間。鈍い音を立てて戦棍同士がぶつかり合い、軌道を変える。

 その動きに惑わされて思わず速度が落ちてしまい、クラレントはバキッと音を立ててその胸に重い一撃を二度も受けてしまった。

 

「クリス!!」

「思った通りだ。攻撃性能と速度に特化させた分、装甲を薄く作らざるを得なかったようだな。骨の砕ける音がここまで聞こえたぞ」

 

 ブリューナクが心配して悲痛な叫びを上げるのを聞きながら、ベルゼビュートはその両手に戦棍を戻す。

 そして、残る地上のブリューナクとイシュタルの方へと、武器の先端を向けた。

 

「これで目障りなクズは始末した。後は貴様らだけ……!?」

「オラァァァーッ!!」

 

 再び投擲しようとしたところで背後から聞こえた叫び声に、ベルゼビュートはギョッとして振り返る。

 見れば、先程胸部の骨を無惨に砕かれ倒れたはずのクラレントが、両手で大剣を振り上げて跳躍していた。

 声にならない悲鳴を発し、咄嗟に動くベルゼビュートであったが、避け切れずに蝿の翅を裂かれて地上に落ちてしまう。

 

「え、な、なんだ……!? あの一撃を受けてなぜ動ける!? 骨が砕けたのではないのか!?」

「アタシが知るか!」

「バカか貴様!!」

「見りゃ分かんだろ!!」

 

 クラレントは落下しながら再び剣を振り下ろすが、流石にその時には異形の神も落ち着きを取り戻しており、戦棍を交叉させて受け止める。

 そしてベルゼビュートは、冷静になるように頭の中で自分自身に言い聞かせ、状況を分析し始めた。

 今の復帰速度には確実に何か秘密がある。そしてそれは、彼女の使うあのリキッドに隠されているに違いない、と。

 では、このリキッドを作ったのは誰なのか。ベルゼビュートはすぐにその人物に思い至り、そして龍の頭を模したリキッドを装填するための入れ物、ペンドラゴンクレストを見てハッと顔を強張らせた。

 

「そうか、そういう事か……! モルガン、あの女狐め! エクスカリバーの鞘を素材に使ったな!?」

 

 ――ブリテン王アーサー、彼が使った聖剣エクスカリバー。

 今は湖に返還され失われたとされているが、その剣の真価は鞘の方にある。

 その鞘はただ持っているだけで機能し、どんな攻撃を受けても死なない、あるいは傷を負う事がなくなるという魔法の力を帯びているのだ。

 

「聖剣の鞘はモルガンが盗んだと聞く……それを組み込む事で肉体にかかる負荷を(ゼロ)にし、かつ絶対的な耐久能力を与えているのだとしたら……!」

「アタシにゃどっちでも良いさ、そんな事。お前をブッ倒せるならそれで良い!」

 

 そう言いながら、クラレントは肩に担いだ剣を振り、先端をベルゼビュートに向かって掲げる。

 対するベルゼビュートは、その言葉に真っ向から否を唱えた。

 

「無駄だ小娘……それでも貴様は我輩を倒せん! その聖なる鞘が貴様の力の源なら、我が不浄の悪魔の力によって無力化するのみ!」

「やってみなくちゃ分かんねぇだろ!」

 

 自信満々なクラレントと、頼もしそうに彼女を見守るブリューナクとは裏腹に、イシュタルの表情は優れない。

 彼女は一度見ているからだ。ビヨンデッタが、触れるだけで緊箍児をただの金属の輪に変える瞬間を。

 このままペンドラゴンクレストに触れられるような事があれば、本当にクラレントは殺されてしまうだろう。そして先程の攻防を見る限り、そうなるのは時間の問題だ。

 そこで彼女は、密かにブリューナクに耳打ちする。

 

「少しで良い、ほんの一瞬で良いから隙を作って頂戴」

「え?」

「お願い。私に……チャンスを」

 

 言いながらイシュタルが見せたのは、切り札と称した指輪だ。

 何か考えがあるのだろう。そう思ってブリューナクは頷き、イシュタルと合一状態の若葉も返答する。

 

「イシュタル様の考えなら、きっと行けるよ!」

「……本当にありがとう、若葉」

 

 合一していても思考の全てを共有できるワケではないため、若葉にも作戦の概要は分かっていない。

 だからこそ、イシュタルには都合が良かった。

 

「クリス! 伏せて!」

 

 ブリューナクの叫ぶ声と同時に宝石弾が発射され、クラレントはそれに応じて素早くその場で伏せる。

 そしてその場を覆う閃光に紛れ、イシュタルは一瞬でベルゼビュートの眼前まで接近した。

 

「貴様、今更出て来て何を!」

「愛しているわ、バアル様」

 

 そう告げてベルゼビュートに抱き着くと同時に。

 イシュタルは、若葉との神我合一を解除した。

 

「え……?」

「ごめんね、若葉」

 

 ベルゼビュートも若葉も、呆気に取られて一瞬思考が停止する。

 直後に、イシュタルは隙を突いて胸元から自分が着けているのと同じ指輪を取り出し、それをベルゼビュートの右手に嵌めた。

 その瞬間。二柱の神は、激しい苦悶の叫びを発する。

 

「あ、が……ぐあああああああ、あああああああがぁぁぁぁぁ!?」

「くぅ、ぐあ……ううううう!!」

「何をしたぁぁぁ!?」

 

 悲鳴を上げながらイシュタルに掴みかかると、彼女は痛みに耐えながら唇を釣り上げ、答える。

 

「私だって今日まで何もしていなかったワケじゃない……! この指輪はね……小型化した緊箍児よ!」

「なっ!?」

「指輪はペアになっていて、二人装着していないと作動しない! そして聖なる力を無力化できるのは装着する前だけ! 一度許してしまえば、緊箍児の影響を受けたあなたじゃ解除できない!」

「おの、れ……だがこんなもので、この我輩を倒せるとでも思うか!?」

「思ってないわよ」

 

 その言葉と同時に、二人に装着された指輪、その宝石が砕け散る。

 すると彼女らの頭上の空間に大きな黒い穴が開き、二人は重力を失ったかのように徐々にそこに吸い寄せられていく。

 

「な、なんだ……こ、これは!?」

「この緊箍児に付いた宝石はただの飾りじゃない! 冥界の門を開かせるために、エレシュキガルが用意したものよ!」

「なにィッ!?」

 

 冥界に連れて行かれるという事は、つまり問答無用で死ぬという事だ。その抵抗を許さないために、イシュタルは緊箍児を利用したのだろう。

 しかし、真の狙いはそこではない。

 冥界から閃光が迸った瞬間、ベルゼビュートの身体に大きな異変が起きた。

 異形の融合を果たしていた右半身と左半身が分離し始めたのだ。以前ムラサメによって、アモンとアメンが隔てられたのと同じように。

 

「そうか……エレシュキガルのいる冥界の門を潜るという事は、かつてイシュタルがそうさせられたように『権能を剥奪される』という事! つまりベルゼビュートは――」

「バアル・ゼブルとベルゼブブに分かれる……!?」

 

 ブリューナクとクラレントの出した答えを正解と示すかの如く、二つの影はそれぞれ別の個体として肉体を得た。

 イシュタルに抱き締められている嵐と慈雨の男神バアル・ゼブルと、蝿の悪魔たるベルゼブブに。

 

「ようやく元のあなたに戻りましたね、バアル様」

「イシュタル、君は……私のために、この仕掛けを?」

 

 美の女神は静かに頷き、薄く涙を浮かべてバアルの胸板に顔を埋める。

 妻からの心からの慈愛を感じ、バアルもまた涙した。

 だが、そこに水を差すような騒音が響いてくる。

 意思を持たない蝿の王が、耳障りな羽音を撒き散らしているのだ。彼の複眼に映る標的は、合一を解いて無防備な状態の若葉だ。

 彼女が危ない。イシュタルはそう思って藻掻こうとするが、透明な腕は既にイシュタルをも拘束している。

 そして巨大な蝿の怪物が若葉の方に羽ばたいた次の瞬間、二つの拳がそのベルゼブブの顔面にクリーンヒットした。

 

「せっかくの良い雰囲気を!」

「邪魔すんじゃねェェェーッ!」

Reloading Color(リローディング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

 

 ブリューナクとクラレントだ。彼女らは続け様にドライバーを操作し、二人で同時に跳躍する。

 

《ブリリアントヴィーヴル・クロマティックストレイフ!》

《ブリッツゲイル・クロマティックアクセラレーション!》

 

 紫の龍乙女のキックと赤き龍のエネルギーを纏う騎士の飛び蹴りが同時に炸裂、そしてそのたった一瞬でベルゼブブは完全に消滅した。

 それを見て安心したように、イシュタルとバアルは彼女らに語りかける。

 

「ありがとう仮面ライダー、私の大切なものを守ってくれて」

「今更遅いかも知れないが……いつか君たちが困った時には、私が必ず力を貸すと約束する」

 

 変身を解除して、ロゼは小さく頷き、クリスはニッと笑う。

 そして、イシュタルが少しずつ冥界に引きずり込まれていくのを見上げながら、若葉が涙ながらに近づいていく。

 

「イシュタル様……消えちゃ、嫌だよ」

「大丈夫、私は死ぬワケじゃないから。ただ少しの間いなくなるだけ。それに、今はもうあなたたちの生きる時代なの。私の力はこれ以上必要ないのよ」

「でも! でも……寂しいよ、私……」

 

 膝を付き、ポロポロと涙を零す若葉。

 イシュタルは彼女の頭をそっと撫で、バアルと共に穴の方へと向かっていった。

 

「ありがとう、若葉。あなたの大切な人も元に戻れるように祈っているわ」

 

 そんな言葉を残し、イシュタルとバアルは姿を消す。

 しばらくの間三人とも何も言えずに立ち尽くしてしまったが、やがて自分たちの果たすべき使命のため、再び歩みを進めるのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 同じ頃。

 フォルス・テュポーンの内部に侵入した灰矢とアダンが邂逅した敵、明智 魯捺羅 天海。

 彼は室内のテュポーンと合一する事により滅界蛇僧テンカイ・ルドラと化し、その強大な力を以て仮面ライダーユーダリルと仮面ライダーゲイボルグに戦いを挑んでいた。

 

「キェェェェェーッ!!」

 

 小馬鹿にされた仕返しとばかりに、テンカイは地面にトリシューラを突き刺し、スコップで土を掘る要領で針状のアストラを無数に飛ばす。

 テュポーンの力を継いだ剛腕から繰り出されるとはいえ、その動きは単調で読みやすく、二人は左右に散開してそれを避けた。

 だがテンカイも回避されるのは承知の上で、そのままの勢いで天井に槍を突き刺して振り下ろし、今度はゲイボルグに標的を絞り込んでアストラを放った。

 

「くぅっ!」

 

 対するゲイボルグはAウェポンを振り回して針を弾いて落とし、被弾を免れる。

 そしてテンカイの背後で弓を構えるユーダリルの動きに合わせて、自身は槍を投げつけた。

 

「そんな見え見えの攻撃は当たりませんよォ!!」

「チッ!」

「イヒヒヒヒ! そしてェ! 武器を手放しましたねェ!?」

 

 嬉々として、テンカイが三叉槍の穂先を突き出す。

 命中する寸前のところで槍の柄を掴んで防ぐものの、今のテンカイはゲイボルグ以上の怪力。

 次第に押し込まれていき、装甲に刃が少しずつ食い込んで削られていく。

 

「ぐ……!」

「往生際の悪い! 死ィになさい木偶人形がァァァ!」

「があああっ……死ぬのは、貴様だ!」

「なにィ?」

 

 負け惜しみだろうと思って目を細めるテンカイ。

 直後、外した投槍があるはずの背後から音声が鳴り響く。

 

Boosting Color(ブースティング・カラー)! Last Enhancing(ラスト・エンハンシング)! アクア・クロマティックシェイバー!》

「喰らえ!!」

 

 振り返って見れば、そこにはアクアリキッドをゲイボルグのAウェポンJモードに装填して再度投げようとしているユーダリルの姿があった。

 ゲイボルグは気付かれないよう初撃をワザと外して、ユーダリルへと槍をパスしていたのだ。

 ようやく二人の狙いに気づくも、もう遅い。トリシューラを掴んでいたゲイボルグの腕はテンカイの首に組み付き、退路を封じている。

 そして、ユーダリルの投げた水飛沫を放つ必殺の槍が、今度こそ蛇僧の胸に突き刺さった。

 

「ぎっ、い……貴様らァッ!!」

 

 怒号を発して激しくもがき、ゲイボルグの拘束から力技で抜け出すテンカイ。

 ゲイボルグはAウェポンを拾って追撃をかけようとするものの、床の中に潜行され機を逸してしまう。

 

「く、また隠れたか」

「今度は姿を消しても意味ねぇだろうな」

「どうにかしてヤツを捕らえる方法はないのか?」

「これから考える」

 

 短く答えた後、ユーダリルはふと思いついたようにクラーケンのリキッドを取り、差し出した。

 

「使え」

「なに?」

「その槍の機能はかなり便利だ、上手く扱えば野郎を出し抜けるはずだ。アクアの方もそのまま渡しておく」

 

 そういう事なら、とゲイボルグは素直に受け取る。

 するとそれに合わせたかのように、凄まじい速度で床から三叉槍を前に突き出したテンカイが飛来し、装甲を掠めた後にそのまま天井に溶け込む。

 アストラとして自身を飛ばしたのだ。

 さらにもう一度、天井から床へ、床から天井へと飛び出す角度を変えながら繰り返して翻弄し続ける。

 

「うおっ!? 野郎、形振り構わなくなって来やがったな!」

「いかんな……攻撃を当てようにも、この速さでは」

 

 こうも縦横無尽に室内を駆け巡られては、反撃のしようもない。

 しかも徐々に床と天井だけではなく壁にも潜伏し始め、テンカイが今どこにいてどこから仕掛けてくるのかさえ、二人には分からなくなってしまった。

 

「やべぇ、このままじゃ……」

「ヤツが出てくる場所を探知するしかないようだな」

「簡単に言ってくれるぜ。それができねぇから苦労してるってのに。どうやる気だ、一応言っとくがさっきの逃げる手は間違いなく通じねぇぞ」

「だろうな。だから別の手を思いついた」

 

 そう告げると、攻撃を防ぎながらゲイボルグがドライバーを操作する。

 

《タイダルコロッサス・コインヘン!》

「破ァ!!」

Calling(コーリング)!》

 

 直後に頭部のクラゲの触手のような髪が伸び、蜘蛛の巣めいて部屋中に張り巡らされる。

 それを知らずに飛び出してしまったテンカイは、見事に触手に絡め取られて先端の刃に身を刻まれた。

 

「ゲッ!?」

「捕らえたぞ!!」

「木偶人形、如きが……バカな!!」

 

 再び床の中に潜ろうにも、触手は強く身体を締め付け離さない。

 しかもゲイボルグは、そのままもう一度ドライバーを操作し始めていた。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

「荒浪に飲まれて消え去れ!!」

《タイダルコロッサス・クロマティックメイルシュトロム!》

「破ァァァァァーッ!!」

 

 拘束状態のテンカイの胸部へと、全力を込めた回し蹴りが叩き込まれる。

 その一撃によって大きな亀裂が走って深い傷を負わせるものの、それと同時に触手による拘束は解けてしまい、そのまま壁の中に逃げられてしまった。

 

「ならば!」

《タイダルコロッサス・コインヘン! Calling(コーリング)!》

 

 言うが速いか、再び触手を伸ばすゲイボルグ。

 恐らくもうテンカイに余裕はない。あと一撃同じように食らわせれば、自分たちが勝つはずだと信じていた。

 だが、彼は忘れていた。テンカイに二度同じ手が通用しないという事を。

 

「どこだ? どこから仕掛けて来る……」

 

 アストラの力を利用して飛び出して来るのを、今か今かと待ち続ける。

 その時だった。

 テンカイはアストラを使わずに半身だけを地面から出し、触手の及んでいない地点から弓を構える。

 

「はっ!?」

「油断なさいましたねェ!? これで死ぬのは!! そちらの方だ!!」

 

 嘲笑しながら、地面を構成しているフォルス・テュポーンの細胞を手で掬い取ると、それを矢の形に捻じ曲げる。

 そしてゲイボルグが向かって来る前に、すぐさま弓に番えて弦を引き絞った。

 

滅暴風の矢(ルドラーストラ)ァァァッ!!」

 

 矢が発射され、クラゲの触手を断ち切りながら真っ直ぐにゲイボルグに向かっていく。

 当たってしまえば最後、命はない。

 反応も遅れてしまい、もはやここまでかと覚悟を決めた刹那。

 

Getting Color(ゲッティング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

「させるかよぉ!」

『なに!?』

 

 その矢の前へと、ユーダリルが割って入るように飛び込んで来た。テンカイもゲイボルグも、予想外の事態に驚きの声を上げる。

 彼は既にワイルドイーグルを弓にセットしており、必殺の態勢を整えていた。

 

《ワイルドイーグル・クロマティックサジッタブレイク!》

「狙うのは……()()しかねぇ!!」

 

 鷲の嘶く声と共に、Aウェポンから光の矢が解き放たれる。

 そして二つの矢は互いを掠め合い、双方の軌道を逸して進路を変えた。

 ユーダリルの狙い。それはルドラーストラの行く先を変える事、だけではない。

 

「ぎいいいぃぃぃあああああァァァァァッ!?」

 

 逸れたはずのAウェポンから放った矢が、そのままヒビ割れたテンカイの額を抉る。

 ユーダリルの真の狙い、それは自身が射出した光の矢の進路をも変える事だったのだ。

 さらに、額に狙いを定めたのにも大きな理由があった。

 

「せ、拙僧の……眼がァァァァァ!?」

 

 その額から、ポロリと赤い菩提樹の実のようなものが零れ落ちる。

 テンカイ・ルドラの力の源、破壊神の涙(ルドラークシャ)だ。

 これがユーダリルの最大の目的。不意打ちの際に頭を狙って砕こうとしたのも、全てこれを外して力を奪い、ルドラの力を無力化するため。

 ――だが、ひとつだけ誤算があった。

 

「ぐっ、あ……くっ!!」

 

 ルドラーストラは確かに本来の標的であるアダンからは外れたが、僅かにユーダリルの左脇腹を僅かに掠めてしまったのだ。

 想定外の負傷に苦悶しつつも、彼は背後の男に叫ぶ。

 

「いま、だ……アダァァァーン!!」

 

 その大きな声を聞いて、弾き出されたようにゲイボルグが動く。

 しかし同時に、テンカイも呻きながら次の一手を打とうとしていた。

 

「まだ拙僧は死んでいない! 終わっていない! 最後に笑うのは誰か思い知らせて差し上げますよ!」

 

 ルドラの力は失われても、テュポーンとの合一は未だ有効。故に彼は地面に溶け込み、真っ先に逃走という手段を選ぶ。

 

《クラーケン! Enhancing(エンハンシング)!》

「へっ?」

 

 ただし、仮面ライダーたちがそれをみすみす見逃すはずはない。

 床の中に潜り込もうとした瞬間、先程の触手とは違うイカの足のようなぬるついたものが絡みつく。

 

「オオオオオーッ!!」

 

 そして獣じみた咆哮と共に、テンカイの身体は陸に打ち上げられ、その姿が晒された。

 

「もう逃げられんぞ、腐れ坊主が!!」

「ヒッ……!?」

 

 空中にテンカイを放り投げると、ゲイボルグは装填したリキッドを入れ替え、さらに武器を変形。

 バルカン砲の銃口を頭上のテンカイに向け、容赦なく引き金を弾いた。

 

《アクア・クロマティックヴォルテクス!》

「破ァァァァァ!!」

「キィェェェェェッ!?」

 

 爆音を鳴らしながら、至近距離から水圧弾を無数に放つ。

 その破壊的な威力の必殺により、今度こそテンカイの身体は跡形もなく砕け散っていくのであった。

 

「これが、人の世に潜んで破壊を繰り返した男の末路か……終わる時は存外に呆気ないな」

 

 変身を解き、アダンはそう言って溜め息を吐く。

 続く形で灰矢も変身を解除し、同じく長い息をついてから扉の方に目を向けた。

 戦いはまだ終わっていない。一刻も早く、バルト・アンダースを倒さなければならない。

 が、アダンはふと思い出したようにハッと顔を上げて振り返った。

 

「灰矢、これを」

 

 先程借りた二つのリキッドを手に取り、返却しようとする。

 しかし、灰矢は頭を振って受け取らなかった。

 

「そのまま持っとけよ」

「なに?」

「良いから。お前のリキッドや武器との相性が良さそうだからな」

 

 実際、タイダルコロッサスもアクアクラーケンも水と巨大海洋生物という共通点があるせいか、不思議とアダンの手に馴染んでいた。

 何より持ち主の灰矢自身が許可しているので、ここで無下にするワケにもいかない、と考えアダンは頷く。

 

「……そうか。ではもうしばらく借りておこう」

 

 ライズホルダーにそれらを装填し、アダンは扉に向かって駆け出す。

 その姿を見送りつつ、立ち止まった灰矢は自らの腹部の左側を押さえて、表情を苦痛に歪めた。

 

「ホント、終わる時ってのは呆気ないモンだよな……」

 

 言いながら、彼は僅かにシャツを捲って痛む箇所を確認する。

 まるで割れた陶器のように肌に小さな亀裂が走っており、徐々にそれが広がりつつあるのが見て取れた。

 ルドラはインド最強クラスの破壊神。掠めただけとはいえ、その力を受け継いだ者の矢を受けた以上、無事で済むはずがない。命を落とすのも時間の問題だ。

 しかし。

 

「まだだ……今はまだ、その時じゃねぇ……!!」

 

 そう言って灰矢は薬瓶を取り出し、一気に中身を呷った。

 回復の霊薬は灰矢の身体を癒やして、肉体の破壊の進行スピードを抑制する。

 これは一時凌ぎに過ぎないが、それでも最後まで抗い続けるために、地面に落ちたルドラークシャを拾い上げつつ、灰矢は再び戦いに赴く。




付録ノ四十二[アィヤムル&ヤグルシュ]

 ヤムという海竜神を倒すために、バアルが工芸の神コシャル・ハシスに頼んで作らせた二つの棍棒。
 それぞれ『駆逐』と『追放』という意味があり、バアルはこれらを使って見事に目的を果たした。

 ちなみに、こうなったのは元々ヤムが圧政者であり「万物の源たる自身こそ真の支配者」と主張した事が発端である。
 加えて、海の神にして竜たる彼には容易く勝てないと悟ったイシュタルが、美貌と音楽で籠絡しようとした際に「イシュタルが自分の妻になるなら税を軽くしてやっても良い」と宣ったのも原因で、バアルを激昂させる結果となった。
 力尽きる前には「バアルこそ真の神の王だ」と認めたものの、バアルにもイシュタルにも許されず棍棒で眉間や首を滅多打ちにされ、コシャル・ハシスの作った檻に閉じ込められた上で海に捨てられ、二度と復活しないよう念入りにもう一度トドメを刺されて絶命している。
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