現ヘルメス・トリスメギストスたるセピアは、司令室の椅子に腰掛けながら戦況をモニタリングし、歯噛みしていた。
「あのGクロス……恐らく、ウロボロスやテュポーンのような再生能力があるな」
敵は数が多く無限に湧いているのではなく、海に落ちた個体がテュポーン内に戻り、増援が現れたように見せているだけなのだ。
しかしGクロスたちが数に物を言わせて防衛ラインを超えているにも関わらず、テュポーン自身はほとんど動いていない。
神々の力やアルゴー号を警戒しているにしろ、ここまで沈黙を貫いているのはセピアにとってあまりに不気味だった。
「ひょっとして何かを待っているのか?」
あまりに露骨でそれ自体が罠の可能性もあるが、そこを踏まえてもセピアはこう考えざるを得なかった。
しかし、何か狙っているのだとしても、詳細までは知りようがない。
そんな折、アレックスから通信が入る。酷く慌てた様子だ。
「どうした?」
『モルガンから通達です! まだ遠くにいるようですが、反対側から上空にいくつか船影が見えると!』
「なに!?」
間違いなくクロノスが寄越した幽霊船だろうとセピアは気付き、同時に外からの咆哮を聞く。
テュポーンが動き始めているようだった。この挟撃の状況を作るのが、敵の狙いだったのだ。
セピアは一度深呼吸し心を落ち着かせつつ、アレックスへ告げる。
「……モルガンに連絡してくれ。彼女に出陣して欲しい」
巨大な蛇神の姿をした戦艦、フォルス・テュポーン。
ロゴス・シーカーとの決着をつけるべくその内部に侵入したLOTの封魔司書の一人、行雲 紫乃は、脊柱エリアを通って頚椎のフロアに到着していた。
そしてその白く殺風景な空間の中心に、ある人物の姿を見つける。
「駿斗……いや、ウロボロス……!」
戦いとは縁がなかったはずの普通の高校生だった白多 駿斗に寄生し、彼に英雄の髄液を投与した張本人である、ウロボロス・ギガだ。
駿斗の顔をしたその怪物は、別人のように唇を歪めてくつくつと笑い出す。
「ほぉ。こいつは驚いたぜ、もうここまで来れたのか」
「お前から駿斗を解放するためなら、オレはどこへでも追い駆けてみせる」
「クククッ、愚かだな。不死身の俺様に勝てないと知っていながら、バカ正直に挑みに来るんだからよ。しかも一人で! ヒャッハハハハハ!」
「オレはもう、ひとりじゃない。そして」
言葉を紡ぎながら、紫乃はカレイドライザーとプリズムエリクシルを取り出す。
そして、それらをライズホルダーにセットしてカレイドライバーに変え、ウロボロスを見据えながら身構えた。
《超色彩集!! プリズムエリクシル!!》
「必ずお前に勝ち、駿斗を取り戻す……!」
《
「やってみろやクソガキィ!」
《ソニックペガサス!》
ウロボロスは紫乃と駿斗から奪った二本一体型のリキッドを起動し、自分の胸に端子を押し込む。
それと同時に、紫乃はトリガーを引いた。
「変身!」
《
「ブッ殺してやるよぉ! ヒャーァハハハハハーッ!!」
《
仮面ライダームラサメ千紫万紅が太刀形態のAウェポンを手に取り、水平に切っ先を向ける。
対する堕天騎士ペルセウスは、以前とは少々異なる姿に変わっていた。
青銅の鎧を纏う鋭い牙が並んだ屈強な怪物の風貌は、頭部に牛のような大きな角が生えた事でより凶悪化し、さらに左腕には蛇が髪のように無数に生えているおぞましい形相の女の頭部になっており、両足は大きな翼の付いたブーツ状の装甲で覆われている。
そして左腰には、クロケア・モルスではなく、鎌のように湾曲した刀身の剣を帯びていた。
「アダマント製の神鎌剣、ハルパーか……!」
ハルパー。ヘパイストスによって鍛造され、様々な神に使われた伝説の武具。
クロノスはかつてこれを用いて、ウラノスを神の王座から落としたのだという。
「光栄に思いな! テメェをブチ殺してやるために、わざわざ手に入れて来たんだからよ!」
「殺されるつもりはない」
「クク……関係ねェな! テメェにその気がなくてもなァ、俺様が殺してやるって言ってんだよォ!」
狂気の叫びを発しながら、瞬きする間もなくペルセウスが飛ぶように距離を詰めた。
さらに、今まさに右拳を握って思い切り振り被ろうとしている。
「はっ!?」
「ヒヒヒッ! ドォーン!」
「ぐ……!!」
咄嗟に反応できたため防御は間に合ったものの、あまりの怪力で背後へ押され、地面に擦り跡ができた。
続けて、ペルセウスは反撃の隙を与えないとばかりに拳を連続で叩き込んで来る。
この速さにも、ムラサメは先程と同じく腕を使ってギリギリで対応できた。
「前よりさらに速い……!? 力も以前から明らかに増している、また髄液を取り込んだか!?」
「御名答だぜ。アステリオスやベオウルフの髄液をちょっと拝借してなァ」
「なんてヤツだ……!」
「クヒヒ! とはいえ、普通の人間はそんなに取り込んだら無事じゃいられねぇ。寄生した肉体が余程頑丈じゃない限り、崩壊するだろうぜ。その点に関しては駿斗に感謝しねェとな?」
見た目は身体に刻まれた刺青のようだが、もはや今のウロボロスは数多の英雄の肉体の長所を寄せ集めて作ったキメラのようなものだ。
純粋にパワーとスピードが高まったというだけではなく、英雄の力を取り込んでいるが故に技の冴えも高まっており、フェイントを織り交ぜた拳打や空中から放つ軽やかなキックが容赦なく襲って来る。
それでも、ムラサメはひたすらに太刀で受け流したり回避したりなどで防ぎ続けた。
「ヒャハハハハッ! どうしたどうした! 攻撃して来いよ!? それとも……遠慮する理由でもあんのかァ?」
駿斗の肉体だから全力を出せないのだろうと思って嘲笑い、今度はハルパーを抜刀。
咄嗟にAウェポンによって身を守るものの、反り返った鎌状の刃を持つその武器の間合いを見誤ってしまい、ムラサメは腕に傷を負ってしまった。
滴る鮮血を、満足気にニヤつきながら眺めるペルセウス。
すると、ムラサメが刀を下ろしてプリズムエリクシルのシャッターを開き、腰のリキッド二本に手を伸ばす。
「そうだな。そろそろ小手調べは終わりだ」
「あァ~ん?」
訝しむペルセウスの声を無視しつつ、彼は二本のリキッドを起動し、装填した。
《バブル!》
《スープーシャン!》
「カラーエクステンド」
《
複眼が左右でパステルブルーとラズベリーパープルに分かれ、強く発光。
今までムラサメが使っていないはずのリキッドが発動した事で、ペルセウスは侮ってかかるのをやめて飛び下がり、黙って剣を構える。
《バブルスープーシャン!!
「さぁ……行くぞ!」
「面白ェ、かかって来やがれ!」
ハルパーを手に、翼を拡げてペルセウスが先に仕掛ける。
瞬間、プリズムエリクシルにセットされたバブルのリキッドが発光。
ムラサメの全身が大きな泡によって覆われ、刃が触れて弾け飛ぶ。
「うおっ!?」
その際に液が散ってペルセウスの顔や体に付着し、焼けるような音を立てて僅かに溶解させた。
戯我の肉体を溶かす泡。直に触れていたら大きなダメージを受ける羽目になっていただろう。
「随分やべェの持ち込んで来るじゃねェか……!」
「臆したか?」
「誰が!!」
ペルセウスは怒声を発し、今度は頭上から鋭い蹴りを放つ。
すると今度はムラサメの左腕にシカのような二本の角がついた籠手が装着され、その一突きによってキックを相殺。そのままの勢いでAウェポンを袈裟に振り上げ、反撃に転じる。
しかしその刀に反対側の足で再度蹴りを入れられ、飛び上がる形で回避されてしまった。
「チッ!」
「危ねェ危ねェ」
「ならば!」
次の攻撃が来る前に、ムラサメは素早くセットしたリキッドを別のものに入れ替え、そして再度複眼の色を変化させる。
《イリュージョンケットシー!!
「これでどうだ!」
クリスから授かったリキッドだ。両眼が妖しく光ると、ムラサメの姿がぐにゃりと曲がって無数に分裂する。
「うっ!? これは!!」
ペルセウスが見せられているのは、イリュージョンリキッドの能力による幻覚。
これによって幻を見せ、自分の居場所を特定できなくしたのだ。
しかし、ペルセウスは慌てずに腕を広げて大きく剣を振り抜き、不可視の刃を放った。
「そのリキッドは前に見てんだよ!! どこにいるか分かんねェなら……全部ブッ潰す!!」
何度も何度も飛ぶ斬撃が幻影のムラサメを断ち斬り続ける。
だが、全ての幻を掻き消しても、本物の姿は現れなかった。
「なに!? いない!?」
それもそのはず、イリュージョンの能力は分身を生み出すのではなく、飽くまでも幻を見せるというもの。見える場所にいるはずがない。
直後、地面に映る影に、ほんの一瞬だけ空を飛ぶペルセウスを飛び越えるもうひとつの影が見えた。
「はっ!?」
振り返ると、そこにはケットシーリキッドと七星戯の
「シッ!」
「が……!」
そのまま蹴撃が胸に直撃し、ペルセウスは地面に激突。
仰向けに倒れていたが、ムラサメが着地するとすぐに身を起こして睨み上げる。
「クソッ……良い気になってんじゃねェぞ、目障りなガキがァ……!」
「やはり再生するか。だが、そうでなくてはな」
駿斗とウロボロスを分離するには、抵抗できなくなる程度まで弱らせる必要があるのだ。
必ず友を助けるという決意を固めて、ムラサメは再び太刀を構える。
※ ※ ※ ※ ※
一方、磐戸市にて。
ここには、LOTとモルガン派の連合軍の防衛ラインを突破したロゴス・シーカーのGクロスたちが既に上陸し始めていた。
「人間共は見つけ次第殺して『色』を喰ってやる!」
「略奪は戦の華だ! 根こそぎ蹂躙してやれェ!」
戯我たちは続々と降り立ち、逃げ惑う人々を追いかける。
だが、その人間たちの流れに逆らう者が二人いた。
「ん!? 何者だ!?」
《
青と紫のゴシックファッションを纏う双子の兄妹。ロッソとヴェールだ。
彼らは何も答えず、それぞれのフォージバイザーに二つのリキッドをリードさせ、その姿を変異させる。
《嘆き荒ぶ獄水の魔人! フラックス、
「今までこんな野蛮な連中と共闘していたとはね。つくづく自分が嫌になるよ」
《憎み貶す獄土の魔人! トレンブル、
「嘆くのは後だよ兄様! 速く蹴散らしちゃお!」
北欧のヴァイキングのような風体のフラックスハイランダーと、法衣を纏うトレンブルクラッシャー。
二人の
だが、戯我たちもそう易々と倒されはせず、両腕を交叉させて斧と戦棍を受け止めた。
「誰かと思えば、裏切り者のガキ共か!」
「モルガン・ル・フェに与するクズが! 貴様らも纏めて死ねェ!」
攻撃を受け止めた戯我が武器を押し退け、複数体で取り囲む。
しかし、兄妹は慌てない。Gクロスたちの挟撃をひらりとかわしながら、バイザーのボタンを押してリキッドを手に取る。
《
「消えるのはお前たちの方だ」
《オルク! ローレライ!
「やっちゃうよ!」
《テッソ! レーシー!
再度ボタンを入力すると、オルクの力によってフラックスの筋肉量が大幅に増大し、さらにトレンブルはテッソの能力で小型化して無数に分裂しつつレーシーリキッドで透明化した。
「なにぃ!?」
「ぜぇい!!」
フラックスは斧を力強く振り下ろし、眼の前のGクロスを一刀両断。
そして口腔から歌声のような音波を放つと、全員の視線を自身の方向一点に集中させる。
「な、なんだ!?」
「身体が勝手に……!!」
ローレライリキッドの能力。これにより、音を聞いた者たちを操ってフラックス自身の方に誘導しているのだ。
それは彼に攻撃が集中する事も意味するが、そこを補うのがトレンブルである。
戦棍を持った鼠のように小さなトレンブルたちが、思い思いに足や首などを狙い、Gクロスの攻撃を阻害し始めた。
「兄様、今の内に!」
「よくやった!」
そしてフラックスの射程距離まで近づけたところで、トレンブルが逃げて斧の強烈な一撃がGクロスを破壊。
こうして町や住民への被害を削減しつつ、確実に敵を討つ事に成功する。
「よし、行ける!」
「これなら私たちでも……みんなを守り切れる!」
そう口に出しながら戦い続ける双子たちだが、ある事に気づいてその腕が止まった。
敵を何度倒しても、その襲撃の回数がほとんど減っていないのだ。
それどころか、防衛ラインを抜けてどんどん増えていく始末。
「ど、どうなってるの!?」
「おかしい……そもそもLOTにあれだけの戦力がいながら、どうしてこの程度の相手に突破されたんだ!?」
困惑する二人だが、前線にいるLOTの面々と連絡を取る暇などない。
そして目の前のGクロスの頭に斧を振り下ろした直後、驚くべき事態が目の前で起こる。
頭を真っ二つに裂かれた戯我の、明らかな致命傷がみるみる内に再生し、塞がってしまった。
「そんな……再生能力があるのか!?」
その言葉の直後、正気を失っているかのように戯我が笑い出した。
「イヒ、イヒヒヒヒ……」
「すげぇ気持ち良いぜ……これがテュポーンの細胞を移植した強化型Gクロスの性能!」
動揺している間に、身体が元通りになったGクロスの戯我たちが殴りかかってくる。
二人共腕で受け止めるが、戯我の一撃は先程よりもパワーを増していた。
それが連続して叩き込まれるので、思わずたたらを踏んでしまう。
「くうぅぅぅっ!!」
「この威力は……!?」
肉体強化の効果時間を終えた後とはいえ、強烈な素手の攻撃に二人は圧倒されていた。
ついさっきまでは明らかに別人。フラックスとトレンブルは目を白黒させながら、距離を取って武器を構え直す。
「まさか、こいつらがさっき言ってたテュポーンのせい!?」
「移植された細胞に順応し始めてるのか! マズいな、急いで倒さないと!」
「で、でも」
無限に湧いて再生する怪物を相手に、一体どうやって戦えばいいのか。
二人共そんな疑問が浮かぶが、フラックスは頭を振って強く拳を握り締めた。
「ヴェール、僕らが諦めてどうする!? この街を任されたんだぞ、仮面ライダーに!!」
「兄様……」
「希望はあるはずだ!! 絶対!!」
そうこうしている間にも、敵は数を増やしていく。
ロッソは意を決して左手のフォージバイザー・フラックスを外し、以前使っていたフォージバイザー・ボルケイノを装着し直した。
そしてそのバイザーに合わせたリキッド二つを手にして、それらをリードする。
《ドレイク!》
《アスモデウス!》
「行くぞ!」
《
現れるなり、燃え上がる大剣を振るい、取り囲んで来た敵を一網打尽にするボルケイノドラグナー。
斬り裂いた箇所を燃やす事により傷口を塞いで再生阻止を試みるものの、ウロボロス同様に時間を巻き戻して肉体を復元しているようで、たとえ消し炭になってもGクロスは修復されてしまう。
それでも、彼は足掻き続けた。
「一分……いや、一秒でも一瞬でも良い! 紫乃たちが戦っている間に、少しでも長くこいつらを足止めしないと……! 僕らの手で被害を食い止める!」
さらに上空から降りて増え続けるGクロス。
ボルケイノは諦めずに、フォージバイザーのボタンを操作すると、自身の持つ全てのリキッドを取り出した。
「これ以上やらせちゃいけないんだ!!」
「まさか……!? 兄様、それはダメだよ!!」
トレンブルからの制止に耳を貸さず、ボルケイノは次々にリキッドをバイザーへリードしていく。
《ドレイク! アンフィスバエナ! イフリート! アスモデウス!》
「う、ぐグ……グ、ガ……が、ヴ……」
《グランガチ! フォルネウス! オルク! ローレライ!》
「グウウウウウアァァァァァーッ!!」
《
合計8種もの戯我の力が、ボルケイノの身体に集中し異形化する。
だが当然、それによって肉体にかかる負荷も凄まじい。
ボルケイノは牙を剥き出しにして悲鳴じみた咆哮を発し、燃えたぎるような全身を走る痛みに耐えながら、Gクロスへと必殺の攻撃を仕掛けた。
《
「い゛ッけェェェェェェーッ!!」
《ドレイク! アンフィスバエナ! イフリート! アスモデウス! グランガチ! フォルネウス! オルク! ローレライ! ボルケイノ・クロマティックオーバーレイ!》
強靭な肉体から発せられる灼熱の噴炎が、周囲の敵も上空から新たにやって来るGクロスも燃やして消滅させる。
いくら時間を戻す事による再生能力があったとしても、肉体そのものが一瞬で失われてしまっては全く意味を持たない。
ロッソはフォージバイザーの力を限界まで引き出す事により、それを実現したのだ。
「はぁっ、はぁっ……ぐぅ、うげ……ぇ……」
しかし、4つ読み込ませるだけでも多大な反動を受ける以上、その倍の数を使って無事で済むはずがない。
攻撃を終えると即座に変異が解けてしまい、ロッソはその場で膝を付いて、地面に向かって激しく血を嘔吐した。
両眼からは血の混じった涙が流れ、呼吸も荒くなり、今にも倒れてしまいそうになっている。
そこへ、トレンブルが駆けつけた。
「兄様!! 大丈夫!?」
「や、やった……ぞ……これで、当分は……」
「うん、うん! いくらなんでもこれ以上の襲撃なんて――」
そう言おうとした直後。
空を見上げた二人の言葉は、途切れてしまう。
視線の先に、巨大な幽霊船とそれに乗り込んだGクロスが何体もいるのが見えたからだ。
以前も磐戸を襲撃した、死の世界より吹き荒れる遺物、ワイルドハントだ。
「う、うそ……なん、で!?」
狼狽するトレンブル。しかし彼女の腕の中でか細く息をするロッソには、その原因が分かってしまった。
「クロノス神は農耕の神……季節を、操る……!!」
これが、バルト・アンダースがワイルドハントを起こす事ができた理由。
彼の一言で全てを察したトレンブルは、声を震わせる。
「勝てない……勝てるワケが、ない……」
そんな現象を自在に操れる神を、どうして倒せるだろうか。
トレンブルの頭の中で、そのような考えが浮かび、徐々に諦めの二文字が迫ってくる。
故に。
「だったら!!」
《バーゲスト! カトブレパス! レーシー! テッソ!》
「
彼女はロッソと同じように8種のリキッドを取り出し、ひとつずつリードし始めた。
「よ、よせヴェール……お前まで再起不能になるぞ……!?」
「勝てなくたって何もしないワケにはいかないでしょ!? 兄様もこの街も、私が守ってやるんだから!!」
《バンシー! フレスベルグ! アルケニー! ウェンディゴ!》
「うう……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ーッ!!」
既に血の混じった喉で叫び散らしながら、トレンブルは全てのリキッドの力と繋がり終える。
そして、その強大な力を解放した。
《
「クロノスの思い通りになんて……させないんだからァァァァァーッ!!」
《バーゲスト! カトブレパス! レーシー! テッソ! バンシー! フレスベルグ! アルケニー! ウェンディゴ! トレンブル・クロマティックオーバーレイ!》
土礫と共に吹き荒れる嵐。風の刃を放つ強烈な砂塵は、幽霊船とその乗組員全てを飲み込んで木っ端微塵に斬り裂いていく。
原型を留めない程の損傷を受け、文字通り塵屑となったGクロスも、巻き戻す事ができず再生不能。
これでまた一時的に窮地を脱する事には成功したが、やはりその反動は大きい。
「ふぅ、ふ……うぶ、うぇ……がはっ!?」
変異の解けたヴェールは吐血の後仰向けに倒れ込み、焦点の定まらない瞳で淀んだ空を見ていた。
その傍らを、ロッソが這うようにして動き、静かに抱き締める。
もう二人に戦う力など残されていなかった。
それでも無情に、空の向こうから一体ずつGクロスが迫ろうとしているのが見える。
「ねぇ、にい……さま……」
「……なんだい?」
遠くなる意識の中、ヴェールの言葉にロッソが反応を示す。
「もし、もし私たちみたいな人造人間にも……生まれ変わりが、あったら……」
「……うん。その時は……」
双子たちの言葉は、ひとつに重なる。
『本当の、普通の人間に……なりたい……』
近くで聞こえる、地に降り立つ音。
きっとGクロスがすぐそこまで来てトドメを刺そうとしているのだろうと、二人は朦朧とする意識の中で同じように考えていた。
だが、いくら待ってもその瞬間は訪れない。
「勝手に死んだ気になって貰っては困りますね」
直後に聞こえたその言葉を発したのは、仮面ライダーだった。
フェイの変身する比翼 ソーラーフェンファンカラーだ。
比翼は翼から眩い光を放つと、その光が双子の負傷を癒やし、元通りにした。
「一度避難して下さい。ここは私が受け持ちます」
そう告げて比翼は前に出る。しかし当然、ロッソもヴェールも納得しない。
「一人で戦う気か!?」
「無茶だよ! アイツらは復元できないように一瞬で肉体を消滅させないと……」
ロッソとヴェールが話そうとしているところで、巨大な影が幾つも傍に降り立つ。
一瞬敵が現れたのではないかと危惧するが、その正体は晴明と彼に助力する十二天将であった。
日本最強の陰陽師と式神たちは、双子の往く道を守るようにして配置に付いている。
「我々はひとりではない。あなたたちも。さぁ、行ってください」
晴明の言葉にも後押しされ、二人は目に涙を滲ませながら、言われた通りに去って行く。
そして、比翼へとGクロスが飛び掛かって来た。
彼は慌てる事なく
無論それでも復元は始まるのだが、比翼に慌てた様子はない。
「一見無敵に見えるその能力、でも明確な弱点がある。それが」
言いながら地面に落ちた腕や足などを拾い上げて、ソーラーフェンファンの回復能力を発動。
接合される前に、切断された身体のパーツを全て腕同士や足同士、欠損した胴体の断面に頭や別の胴体の切断面だけを繋げるなどして封じ込めた。
「これだ。しばらくそこで大人しくしているが良い」
攻撃によって負傷したワケではないため、これでは遡行による再生は不可能。ならばとGクロスから脱出したとしても、切断された部位のインクを失っているので結局死は免れない。
戯我たちは二度と元の姿に戻れないまま、永遠にこの状態で生き続けるか脱出して死ぬか。フェイは自分が担当していた戦闘区域でも、この二択を強いて無事に守り通したのだ。
足元から起こる絶望と怨嗟の泣き声を聞きながら、晴明は空を見上げる。
「彼らも無事だと良いんですが……」
ムラサメとウロボロスの戦いではこの手段は使えない。
我が子を思い、晴明は静かに嘆息しつつ、戦いに備えるのであった。
付録ノ四十三[ペルセウス]
ギリシア神話の英雄の一人で、ゼウスの血を引く半神半人。
ゴルゴン退治の使命を押し付けられた彼は、戦女神アテナと伝令神ヘルメスから『
そしてメドゥーサの血の中から生まれた
この後も帰還の途中、天空を支える重責を負わされ苦しむ巨神アトラスをメドゥーサの力で石化させて助けたり、海で鎖に繋がれていた王女アンドロメダを救出して婚姻を結ぶと言った伝説を残している。