尾を噛む双頭のインクの蛇、ウロボロスは、息も絶え絶えにそこに入り込んだ。
「はぁ……はぁ、クソッ! チクショウ! あ、あのガキ……調子に乗りやがって!!」
ムラサメとの戦いの際、自身が寄生していたバルトアンデルスが分離されるというアクシデントが起き、彼は焦燥していた。
バルトアンデルスがかばっていなければ、確実に封印されていただろう。そうなれば、クロノスらの
少しばかりの苦楽を共にした相棒に、心の中で感謝を告げながら、ウロボロスは室内のあるものを見上げる。
「計画外の事もあったし予定より少し速くなっちまったが、やる事は何も変わらねぇ!! 今すぐ全員ブッ殺してやる!! 見てやがれ!!」
誰に対してでもなくそう宣言し、ウロボロスは眼の前にあるその臓器のような物体に、刺青となって寄生した。
時は僅かに遡り、LOTとロゴス・シーカーが睨み合う海上。
戦場に現れたモルガンは、巨大なる疑似蛇神のフォルス・テュポーンと真っ向から対峙していた。
最初は人間たちも神々もそれを無謀と思って援護しようとしていたのだが――。
「ツクヨミの兄者、あいつって一応は人間の魔女だったんだよな……?」
「そのはずですが」
戦うモルガンを眺めるスサノオとツクヨミは、彼女の戦い振りに呆然とする。
その姿は、自らが宿す『戦女神モリガン』と『豊穣神ダヌー』の力を同時に励起させた事により、大きく変化していた。
艶めかしい肢体をピッタリとした真っ赤なインナースーツで覆い、両腕や脚と頭に灰色狼の毛皮を持つ革鎧、背中には大きな烏の翼を生やし、両手には矛槍を一本ずつ所持する。
そして長く美しい髪を振りながらテュポーンの爪や牙や炎のブレスを軽々と回避し、周囲のGクロスを貫いたりテュポーンの指を切り落としたり、さらに多様な魔術で攻撃するなどして縦横無尽に立ち回っていた。
「アレは……バリバリの武闘派じゃな……」
「ですなぁ」
アマテラスとアメン・ラーも、彼女の勇猛な戦いには見惚れるばかりだ。
そしてアルゴー号から戦いを見上げるアレックスは、モルガンの所業に目を剥いている。
なぜなら、彼女はテュポーンたちから自分への攻撃は背中越しでも全て回避しているにも関わらず、自分からの攻撃は
「まさか……戦いながら未来予知の魔術を!?」
アレックスの予想は正解であった。
彼女は0.1秒から2.0秒先まで常に未来を予知し続け、それによって一切の被弾を回避しながら自分はあらゆる攻撃を当て続けるという、神の世界においても理解を超えた無駄も隙もない戦いをしているのだ。
魔術にも精通した戦女神たるモリガンの力を持つからこそできる芸当。誰の力も必要としないのではないか、とさえ感じさせる。
だが、ただ見ているだけで戦いが終わるワケでもない。
やがてLOT側の面々はすぐに気を取り直すと、各々Gクロスやテュポーンへと立ち向かっていく。
「手を貸すぞ、モルガン!」
「我が太陽の加護もお忘れなく!」
少しでも敵の数を減らせば、それだけモルガンがテュポーンに集中しやすくなる。
ガトリング砲で地上からGクロスを掃射する者たちを皮切りに、アメン・ラーの太陽光が大半の戯我とテュポーンの右翼を蒸発させ、三貴神とヤマトタケルが苦しむテュポーンを抑え込む。
モルガンはその支援に心の中で感謝を捧げつつ、未来を観測して次の手を読む。
直後に、その表情が動揺によって歪んだ。
「……これは一体……!?」
彼女の見た2秒先の未来。それは、完全に動きを止めて空を見上げているテュポーンの姿だった。
唖然としている間にその未来は到来し、今まで全く言葉を発さなかったフォルス・テュポーンは大口を上げて笑い始める。
「ヒャアハハハハハ!! 待たせたなクソ神ども、ここからは俺様のタァァァ-ンだァッ!!」
その話し方を聞いて、一同は面食らった。
ウロボロスだ。あの不死身の蛇が、テュポーンに寄生してしまったのだ。
負傷した翼を即座に完全修復させて、ウロボロス・テュポーンは拳を振り上げる。
※ ※ ※ ※ ※
「クロノス……なぜお前が駿斗の身体を!?」
潜入組のメンバーが合流し、脳髄エリアに辿り着いた直後のこと。
紫乃は、玉座に背を預けるクロノスが憑依した駿斗に対してそう言った。
すると駿斗の身体を奪った時の神は、彼の口を借りて喋り始める。
「なぜも何もない。初めから駿斗はこの時のために産まれたのだ」
「どういうことだ……!!」
問われると、鞘に納めたクロケア・モルスをパシパシと掌で弄びながら、クロノスが答える。
「父ウラノスの予言で、私はいずれギリシアの最高神の王位から蹴落とされると知った……その運命から逃れるため、手を打った。農耕の神と時の神、自分を二つの神格に分断する形でな」
「……そうして自ら力を削いで、わざとゼウスに負け王位を継承させたのか」
「その通りだ、アダン。しかしその後、予想外の事態が起きた。と言っても……私にとって非常に都合の良い事が、だがな」
過去を思い出して唇を歪め、両腕を拡げてくつくつと笑い出す。
「名を呼べぬ神……そうだな、仮に
「なに?」
「ヤツは信者を使って他の国々の神を凋落させる事によって、自身への信仰を集めた。そしてテュポーンの手で瀕死となったゼウスも例外ではない……蛇神をけしかけた後に行動を起こすつもりでいたが、アドナイのお陰でゼウスは最後のトドメを刺された」
紫乃はそれを聞き、思い至ったようにハッと目を見開く。
「そうか……アドナイが神の座を撤退して人の時代を創ったのはその後! お前、ゼウスたちと一緒にアドナイが完全に去るのも待っていたのか!」
「ククク。あの慈悲深い神ならば、必ずそうすると思っていたからな。文句を垂れていた他の神は自業自得だ、万が一に備えないから全てを失い破滅する事になる」
そう言った直後に、クロノスは「私は違う」と告げて玉座から立つ。
「バルトアンデルスという
「器……だと!!」
「そうだ。私が憑依しても問題ないよう、そして万一殺される事もないようにウロボロスを寄生させ、英雄の髄液も接種させた。ウロボロスにもLOTとの接触の際にペガサスの羽根を使わせるように指示しておいた。予言を退け……全神格を! 全戯我を! 全人類を! そして全宇宙全時空を! 我が掌中とするために!」
駿斗には全く似合わない、野心に満ち溢れている気迫の込められた声。
それを聞いて、我慢できないとばかりに若葉が割って入った。
「……あなた、は……あなたは、そんな事をしてどうするつもりなの!? 駿くんを使って宇宙を支配なんて、一体こんな事に何の意味があるの!?」
彼女の声は恐怖で震え、しかし立ち向かう勇気は萎縮しない。
そんな様子を気に入ったのか、それとも加虐心を刺激されたのか。クロノスは獰猛な笑みを浮かべ、愉快そうに返す。
「ほう。力を持たないただの小娘が是非を問うか。だが良かろう……今の私はとても機嫌が良い」
コツコツと足音を立て、一行の前にゆっくりとクロノスが降りてくる。
「私が求めているのは『永遠』だ」
「えい……えん……?」
「そうだ。人も神もこの地球、さらに宇宙さえも、未来永劫に不変不滅とは限らない……終わりは訪れ虚無に還る。それが百年先か、十年先か……あるいは一秒先ですらあるかも知れないが、ともかく異なる時空からの破滅はすぐ傍に迫っている。私はその滅びを回避し、永遠のものにしたいのだよ」
全宇宙。異なる時空。
若葉は勿論のこと、ロゼやクリスも、自分たちとの話のスケールの差に困惑していた。
LOT側もクロノスを除くロゴス・シーカーの戯我も、考えているのは今ここにあるこの世界の、地球の事だけなのだ。
しかし時の神であるが故なのか。クロノスの視点は少し違った。人々が考える未来の、さらにその先のヴィジョンを見ているように紫乃たちには思えた。
「その永遠を……どうやって手に入れるつもり? 時間でも止めようというの? それともノアの方舟のように生命を収容するものでもあるのかしら?」
「それだけでは足りない。一度地球の破滅寸前まで時間を加速させ、その後に生命全ての進化を促す。神の領域までな」
「なっ!?」
「無論、失敗するだろう。だが私は時の神。何度も巻き戻し何度でも繰り返そう。破壊と創造の先に、破滅に負けぬ新たな
質問したロゼが息を呑み、その常軌を逸した言葉に愕然とする。
それを気にせず、クロノスは演説を続けた。
「人間や他の神には無理でも私ならばできる、いや! 時を司る私にしかできないと言い換えても良い。この世界を平穏で美しく正しく破滅せず保全できるのは、私だけだ!」
願い続けた理想の世界がもう眼の前まで来ているからなのか、興奮した様子でクロノスは宣告する。
だが当然ながら、紫乃は真っ向から反発した。
「その永遠は、お前の独裁の上で成り立つものだろう! それにお前はそもそもテュポーンで今ある全てを滅ぼそうとしている、そんな事を仕出かすヤツの戯言に誰が耳を貸すか!」
「独裁か。それの何が悪い? 人間たちのように、下手に力や思想を持つ者を分散させるから争いが起き、差別によって分裂を招く。ならばアドナイのやったように、暴力も権力も一つに束ねるべきだ」
「そのためにどれほど犠牲が出ると思っている……!!」
「必要な犠牲だ。それに人間も本心では神による統治を望んでいる、愚かさ故にな。でなければ神頼みなどすまい? 本当に心から救いを求めているから、神に縋るのだろう? ならば支配を受け入れ、全て私に委ねろ。投げ出す事さえ許せぬ無意味な意地があるなら、それこそこの戦争で淘汰された方が良い」
自分の考えこそが正しいと断じ、クロノスが鞘からクロケア・モルスを抜き払う。
以前ウロボロスが使っていた際に、紫乃たちを苦戦させた空間を断つ剣。クロノスはその切っ先を、天井に向ける。
「さて……話はそろそろ終わりにしよう。私が全てをリセットし、頂点に君臨する時は満ちた」
その言葉と同時に、無造作に剣を振り下ろした。
すると彼の眼前の空間が裂け、その中から青白く発光する大きな懐中時計のようなものが現れる。
クロノス自身と共鳴するように胎動している事から、それが分離したもうひとつの神格だと一行はすぐに気付いた。
「ついにこの瞬間が来た……我が半身を迎え入れる時が! そして!」
言いながら剣を放り捨て、今度はそこからさらに三つのものを取り出す。
ひとつは以前も所持していたヌクテメロンの書。次に、透明なフォージバイザー用のユニットのような物体。
そして、それらを宙に投げて浮遊させた後、最後に取り出したのは――。
《レリックライザー
そのような音声を放つ、真っ黒な銃だった。
見た目はレリックライザーに酷似しているように見えるが、エレメント側のスロットが機械的な装飾で埋まっている。
全く未知のその道具に、紫乃やアダンらは目を見張った。
「それは……一体!?」
「私が破滅に抗うための力だ。ここまで来た褒美に見せてやろう! 神をも超越する我が力を!」
そう言って、クロノスが懐中時計を起動。瞬間、その内側に一瞬だけ半分に破れた本の表紙とページが浮かび上がる。
直後に、風の吹くような音と共に空間を裂いて無数の紙が飛んで来た。
「なんだ!?」
「ラジエルの書!? 一体どこから……いや、まさか!?」
クロノスは時空の神。肉体そのものが失われていなければ、時間を巻き戻して傷を治す事も可能。
即ち――失われたラジエルの書の頁も、時を逆行させて完全修復できる。半数以上を確保した時点で捜索を中断したのは、残りを自力で集められるからだ。
「おいおいマズくねぇか!? アルゴー号の追加動力にはラジエルの書の頁を使ってんじゃ……」
「いや……確かに心配だが、向こうの事を考えている余裕もなさそうだ」
クリスとアダンの会話を遮るように、クロノスはさらにヌクテメロンの書そのものを84本のリキッドに変化させ、先程と同様に時間逆行によってボルケイノ・スパイラル・フラックス・トレンブルのユニットも集合させる。
「刻限に宿りし84の
多数のモンストリキッドと四つのユニットが、クロノスの半身たる懐中時計と融合。
そして透明なユニットと時計がひとつに重なり、白と黒のモノクロカラーの時計型のユニットとなってレリックライザーDに装着された。
《クロノライザー!!》
音声を発し、その銃が手に握られる。
それと同時に、クロノスは自らの左腕に発砲した。
鮮血が地面に滴り落ちて紫乃たちが驚く中、張本人であるクロノスも目を丸くするが、やがてその表情を余裕の笑みに変える。
「駿斗め……最後の抵抗のつもりか? だが無意味だ。お前の意思もこれで消える」
時間が巻き戻り、傷が塞がる。
そしてクロノライザーのリューズのような部分のボタンを押し込むと、銃身を掴んでポンプアクションを行った。
《
「神意転変!!」
《
銃口を天井に向けてトリガーを引くと、クロノスの姿が透明なガラス球のような天球儀の中に収容される。
《古往今来尽未来際大千世界!! あまねく時空を支配する巨神の王者!!》
ガラスの中に無数の白と黒の時計の針が浮かび、内部にいる
そうして光の中で針が通過する度、刻まれた部位から血液のようにインクが溢れて纏わりつき変質する。
《刮目せよ!! シン・ティターン・クロノス!!》
最後に銃弾で内部からガラスが破られ、光の奔流と共に変貌した神が姿を現した。
筋肉質な漆黒のボディの上から、鎧のような透き通った蛇の鱗の模様がついた白い甲殻が身体を覆い、頭部は鳥の翼の意匠を持つ白い仮面のような外殻と黒いバイザーで守られている。
両腕の付け根と胸の中央には時計が埋め込まれており、額は灰色の宝石と共に砂時計のようなマークが刻まれているのが見えた。
「我こそは真・巨神魔皇クロノス……この世の時間と空間を統べる者」
直後、クロノスの胸の時計がゆっくりと動き始める。
「この時計の針が一周した時、宇宙全ての時が止まる……我が支配を受け入れよ!!」
その言葉と同時に、魔皇クロノスはクロノライザーを眼の前の人間たちに向ける。
紫乃たちは頷き合い、各々レリックライザーとリキッドを手に取った。
「お前の好きにはさせん! お前の野望を阻み、駿斗を必ず取り戻す!」
若葉が避難するのを確認して、一行はレリックドライバーにリキッドを装填。
そして、ほぼ同時にベルトを操作して叫んだ。
『変身!!』
《
《
五人の身体がインクに包み込まれていき、それぞれアンダースーツとアーマーが形成されていき、仮面の戦士が並び立つ。
《エレガントヴァルキリー!》
《ワイルドバルバトス!》
《ブリッツゲイルペンドラゴン!》
《タイダルコロッサス!》
《解き放て!! カレイドプリズム!!》
「これがロゴス・シーカーとの……クロノスとの最後の戦いだ! 行くぞ!」
仮面ライダームラサメの掛け声と共に、五人は一斉に飛び出した。
まずブリューナクがRモードのAウェポンで援護射撃しつつ、クラレントが高速で接近。
さらにその左側からユーダリルが光の矢を放ち、続く形でゲイボルグがクラレントとの挟撃を狙う。
そしてムラサメは、今度は出し惜しみせずにオリエンタルトリニティ・スプレーを手に取った。
「合わせろアダン!」
《ポイズン!
「うむ……!」
《アクア!
左右から毒の滴る刃と水流の一突きが、クロノスの逃げ場を塞ぐように向かっていく。
しかしクロノスは避ける事なく、クロノライザーに付いているリキッドと一体化した時計型の『クロノグラフユニット』の針を一回転させる。
《
「温い」
《
そして引き金を弾くと、黒い光の弾丸が銃口から飛び出して二人の身体に命中した。
「ぐっ……お!?」
「くっ!? これ……は……」
瞬間、黒いノイズがクラレントとゲイボルグの周囲を覆い、その動きを停止させる。まるで、その場だけ時間が止まってしまったかのように。
「なんだ……何をした!?」
「彼らは『時間を食われた』んだ。こうしてボーッと止まっている間に、刻一刻と時間が経過している事に気づいてすらいない……だが安心するが良い、少し衝撃を受ければすぐに元に戻る。こんな風にな」
言いながら再びクロノライザーで発砲しようとするが、その寸前にエレガントミラージュが立ち塞がり、銃床でクラレントとゲイボルグの肩を軽く小突いた。
「む?」
「衝撃を受ければ動けるんでしょう!? だったらこれで問題なし!」
ブリューナクの言う通り、二人はハッと顔を上げてすぐに意識を取り戻した。ノイズも既に消えている。
クロノスはそれを見るとニヤリと笑い、再びクロノグラフユニットに指を伸ばす。
そして、今度は
「なるほど、中々やる。すぐに対応して来るとは」
《
「ではこれならどうかな?」
《
またも銃口から光の弾丸が発射される。新たな標的は、ブリューナクだ。
彼女はその弾丸から飛んで逃れようとする。しかし、その白い光はどんなに曲芸めいたアクロバティックな飛行をしても、追いかけ続けて来た。
「振り切れない!?」
「時の流れには誰も逆らえない……『時間に追われる』が良い」
どこまでも追い縋ってくる光。次第に、そのスピードは速くなっていく。
そしてあわや命中というところで、その横からオリエンタルトリニティカラーのムラサメが割り込んで来る。
《ソウルアマテラス!》
「ならばその攻撃、オレの分身が引き受けよう」
《
物理的なものでなければ、攻撃を同じ速度で跳ね返す八咫鏡。
その機能が問題なく発動し、自動追尾の弾丸がクロノスへと牙を剥いた。
だがクロノスは回避するでも防御するでもなく、ただ左手を前に掲げる。
直後、光の弾丸はその動きが緩慢になった。クロノスが弾丸の時間の流れを遅くしたのだ。
そのまま悠々とクロノライザーから放った光弾が追跡弾を消滅させ、改めて時空の巨神はムラサメに照準を向ける。
「ん?」
しかし引き金を弾いた瞬間、その姿は視界から消えていた。
サイキック能力により、既にムラサメはショートテレポートを行使して背後に回ったのだ。そして今、剣を振り下ろす。
だがその剣は命中せず、クロノスの背中が先程ムラサメ自身がやったのと同じように消えてしまった。
「なに!?」
「なるほど、テレポート能力か。しかし時空を統べる神の姿になった今、それは私にもできる」
「くっ!?」
背後から聞こえた声に振り返らず、ムラサメはレリックライザーで発砲。
そして弾丸の軌道を曲げ、クロノスの声が聞こえた方向を撃ち抜かんとする。さらにそれに続いて、ブリューナクやユーダリルたちも各々の武器で射撃を行う。
しかしその銃弾も、着弾寸前で空間に裂け目が開き、そこに吸い込まれて命中せずに終わってしまう。そればかりか、ムラサメの目と鼻の先に裂け目が開いてそこから弾丸が全て飛び出して来た。
「くう……!!」
サイコキネシスによって弾丸を停止させ、難を逃れるムラサメ。
だがクロノスに対抗するための決め手がない。これほどの力の差があるなどと、誰も想像していなかった。
クロノス自身もそれを理解したのか、どこか残念そうに嘆息してクロノライザーに手をかける。
「どうやら君たちでは私を倒す事はできないようだな。では、そろそろ遊びは終わりにしよう」
《
そう言いながらスイッチを押し、荘厳な音声を聞きながら時計の針を一回転させ、引き金を弾く。
「時間に押し潰されるが良い」
《クロノグラフ・アクロマティックタイムプレス!!》
クロノライザーが煌き、室内に無数の粒子が散布され、それを浴びたムラサメたち仮面ライダーは全身から火花を上げて倒れ伏した。
空間を操る力によって部屋全体に、加えて時間を操る力で加速させて目にも留まらない速さで攻撃を行ったのだ。
仲間たちも含めて変身解除され、玉座の近くまで吹き飛ばされた紫乃は、クロノスを見上げて立ち上がろうとする。
「まだ、だ……オレたちは、まだ……!!」
「遊びは終わりにすると言ったはずだ」
冷酷に、クロノスが告げる。見れば、胸の時計は既に一周する手前まで来ていた。
「今より時を止め、その後に時空の超加速によって地球に天変地異を起こし、人類変革へのトリガーを引く」
「くっ……!?」
「だがこれから先の世界に、君たちのような不穏分子は必要ない。時が止まっている間に……殺してやろう」
どうすればクロノスを止められるのか。
視線を落とした直後、紫乃は
だが起死回生にはもう遅い。時計の針は、一周してしまった。
「さようなら、現人類。そして神の世界へようこそ」
時間が止まり、世界から色が失われ、無彩色に変じた。
クロノスとテュポーン以外のあらゆるものは活動を止め、時空の神の支配に身を委ねる事になる。
そしてクロノスは銃口を紫乃の頭に向け、処刑するためにトリガーに指をかけた。
――その時だった。
クロノライザーを、一人の男がその右手で掴み、照準を狂わせる。
「なに!?」
「ヘヘッ……どうやら……俺の悪運は、まだ尽きちゃいねぇらしいな……」
その正体は、灰矢。
レリックドライバーにワイルドイーグルをセットし、彼は再び神に挑もうとしていた。
付録ノ四十五[レリックライザーD]
LOTが造ったものではない事、そしてこの宇宙のテクノロジーで作られたものではないという事以外、一切詳細不明。
クロノスはライズホルダーを作らなかったため、この銃で仮面ライダーに変身できるかどうかも不明である。