仮面ライダームラサメ   作:正気山脈

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第四十六頁[弓立 灰矢]

「クソ……モルガンのヤツ」

 

 海上にて、心臓からフォルス・テュポーンの肉体に寄生したウロボロスが呟く。

 現在、時空を操る力によって宇宙全体の時が停止している。しかしクロノス自身とウロボロス及び寄生先のテュポーンだけは、クロノスの神血を濃く宿す存在なのでこの状況でも動く事ができるのだ。

 そのためウロボロスは、事前にクロノスと打ち合わせて、時間が止まった後は邪魔な神々とLOTを処刑するように言われていた。

 しかし、今の彼は狭い結界の中に閉じ込められている。事前に未来を観測したモルガンが豊穣神ダヌーの力を行使し、結界を生み出して内側に封じ込めたのだ。

 

「チィッ、折角のボコ殴りタイムだってのに動けやしねェ。まぁ、時間の問題だけどなァ」

 

 狭い結界の中でガンガンと掌を障壁に叩きつけながら、ウロボロスは言った。

 ラジエルの書の頁による補強を失った今、アルゴー号の動力のみではここに集った神々を長時間アルゴノーツとして実体化し続ける事はできない。

 今は時間停止中なので何も影響はないが、頁が抜き取られた時点で既に神々は消耗している。ウロボロスにとっては総崩れにする絶好のチャンスなのである。

 

「この結界が解けたら、真っ先にブン殴ってグッチャグチャの挽き肉にしてやるからな……モルガァァァン!!」

 

 長い舌をチロチロと動かしてヨダレを撒き散らしながら、モルガンを睨んでウロボロスが叫んだ。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 ――数年前。

 

「よう、お前が日本支部長の言ってた紫乃か」

 

 磐戸で初めて灰矢と紫乃が出会った日。

 今よりも幼かった頃の紫乃は、暗い瞳で灰矢を見上げていた。

 灰矢は屈んで視線を合わせつつ、改めて声をかける。

 

「もう聞いてるよな? 俺が弓立 灰矢だ、お前の先輩って事になる。よろしく」

「……」

「そう睨むなよ。何があったか知らねぇが、仲良くしようぜ」

「……馴れ合うつもりはない」

 

 そんな返事が聞こえて、灰矢はきょとんとした。

 

「オレは……戯我を斬る刀だ。ただそれだけで、良い」

 

 さらに紫乃はそう言って話を打ち切り、フイッと顔を背ける。

 すると、灰矢はそんな彼の小さな頭をわしゃわしゃと撫で始めた。

 当然紫乃からは驚愕と抗議の声が上がる。

 

「何をする!?」

「ハハッ、怒れるじゃねぇか。刀ってのは怒ったり泣いたり笑ったりなんかしないモンだ」

「オレは泣いたりなんかしない!! もう……放っておけ!!」

 

 そう言って紫乃は灰矢の手を叩き、またそっぽを向いた。

 しかし灰矢はそれでもニッと笑って見せ、紫乃に構う。

 

「じゃあ、泣けるようになりな。泣きたくなるくらい辛い事があっても、別に我慢なんかしなくて良いんだぜ。強いのと強がるのは違う」

 

 灰矢の言葉にピクリと反応を示すが、紫乃は何も答えない。

 だがそんな出来事があってからも紫乃は灰矢と共にLOTでの戦いと捜査の日々を過ごし、徐々に打ち解けていく事になる。

 

 

 

 そして、現在。

 時の止まった世界で、灰矢はクロノスと対峙していた。

 当然ながら灰矢が神血を宿しているはずなどなく、クロノス自身この事態に動揺しているのが見て取れる。

 

「なぜただの人間が動ける……!?」

「ヘヘ……ゆっくり考えな、俺に倒された後でな」

 

 灰矢はドライバーに指をかけ、真っ直ぐに眼の前にいる時空の神を見据えながら、トリガーを引く。

 

「変身……!!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 息を切らせつつも全身にインクを纏い、灰矢は姿を変える。

 

《嘶け! 深き森に羽撃く百発百中の悪魔!》

「仮面ライダーユーダリル、最期の大仕事だ……キッチリ決めさせて、貰うぜ!!」

《ワイルドバルバトス!》

「オラァッ!!」

 

 双斧を手に駆け出し、ユーダリルは素早くそれを振るって斬撃を繰り出す。

 クロノスは時空を司る存在。戦いにおいてもそのクロノライザーだけでなく神の権能を行使し、加速・減速やテレポーテーションなどによって、先程も一方的な勝利を収めていた。

 しかし今はその能力を使わず、両腕を交叉させて斧による攻撃を受け止めている。

 

「く!?」

「ヘヘヘ……どうした? 使えよ。さっきみたいに……時間を操作、してみろよ。加速して俺を攻撃したり、巻き戻して傷を治したりよ」

 

 小さく笑いを零しながら、今度は蹴りでクロノスの足を打ち、体勢を崩したところで首筋に斧を叩き込む。

 斬れはしなかったがクロノスはたたらを踏み、その隙に乗じてBモードに変形したAウェポンの矢が胸を射った。

 先程の勢いはどこへ行ったのか、時空の神はほとんど反撃せずにされるがままだ。

 すると、ユーダリルはくつくつと笑い出す。

 

「やっぱできねぇんだな? 思った通りだ。もし少しでも時間を動かしちまったら、またさっきと同じ方法で止め直さなきゃいけないんだろ? だから……邪魔されないように先に手早く俺たちを始末しようとした。そして『宇宙全体の時間を止める』となったら、今はそっちに力を集中させるしかねぇ。そうなりゃ必然、戦闘能力も落ちる」

「ぬぅ……!!」

「俺をどうにかするしかないぜ、この止まった世界を維持したいならな!!」

 

 そう言いながら再び武器を双斧に切り変え、破竹の勢いで叩き込む。

 クロノスは右手の銃で反撃するが、ユーダリルは意に介さずに回避しつつ、胸に斧の刃を食い込ませ、斬る。

 勢いのまま攻め立て続け、クロノスの見せる僅かな隙を突き、戦いを優位に進めた。

 そして斧を逆袈裟に斬り上げて両腕のガードを解いたところで、必殺技を食らわせようとドライバーに手を伸ばす。

 だが、次の瞬間。

 ユーダリルの腹部の左側へと、クロノスの強烈な回し蹴りが突き刺さった。

 

「ぐあっ!? う、が……あ……!!」

 

 その一撃を受けると、ユーダリルの攻勢は急激に衰えてしまう。

 見れば、攻撃を受けた部位には亀裂が走っている。

 

「そういうことか、その傷は天海の矢を食らってできたものだな。ルドラーストラを受けて生きていられるとは驚きだ」

 

 今度は頭部に銃口が突きつけられ、ユーダリルは必死でかわすべく跳んで避けた。

 銃弾は地面を抉るのみに終わったが、蹴られた後で激しく動いたせいか横腹の亀裂はより大きく拡がっており、身体の自由が奪われていく。

 

「ルドラの破滅の力は私が時間を巻き戻そうとも元には戻せない……呪いのようなものだ。そして呪いと違い、決して浄化などできない」

「はぁ、はぁ……ぐ……くっ!?」

「だから時が止まっても徐々にその身を侵される……君がこの静止した世界で未だに動けるのは、時間操作を無視して肉体が破壊され続けているからだろうな」

 

 こつこつと足音を立てながら近づき、銃口を向けたままクロノスは語った。

 

「しかし、それももうすぐに終わる」

 

 言いながらクロノバイザーの時計の針に指をかける。

 ユーダリルが満身創痍の今、必殺技で完全に決着をつけるつもりなのだ。

 

「君のその雄姿を称え、今すぐ楽に死なせてやろう。そして、君の名を永遠に私の記憶に刻みつけよう……人の世の最高の戦士の一人として」

「……だから、なんだ……ってんだ」

「なに?」

 

 直後、銃を構えるクロノスを睨み上げながら、ユーダリルはよろめきながらも立ち上がった。

 

「能書きは……聞き飽きてんだよ!! 何もかも破滅するからって……勝手に自分から宇宙をリセットするような、お前が……永遠に自分の記憶に刻みつける? 笑わせんじゃねぇ!!」

 

 咳き込んでクラッシャーから血を噴き出し、それでも足に力を入れて堪え、再びドライバーに手をやる。

 そして血を垂れ流したまま、身体に走った亀裂を止められないまま、クロノスに向かって叫んだ。

 

「与太話なんざいらねぇ!! 俺は!! お前を止めて……こいつらがちゃんと生きていける世界を守らなきゃならねぇんだよ!!」

「今私を倒したとしても、破滅の未来が訪れれば君が守ったものも死に絶える。それでも止めるというのか? 何の意味がある?」

「仮にその破滅ってヤツが来ても、こいつらがきっと世界を守る……俺が今こうしてお前を止めようとしているように……必ずな!!」

「……そうか」

 

 罅割れ行く戦士の姿を眺め、クロノスはそれ以上の質問をやめた。

 そして再び身構え、真っ向からユーダリルに立ち向かう。

 

「来い、封魔司書」

「オオオオオオオオオオーッ!!」

 

 獣の咆哮めいた叫びと共にワイルドイーグルに手をやってドライバーを操作し、ユーダリルが猛然と飛び出していく。

 迎え撃つクロノスは、スイッチを押し込んで時計の針を何度も回転させた。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

「この一撃で、全部終わらせる!!」

「この一撃で、君の時は溶けて失せるだろう」

All Jacked Color(オール・ジャックド・カラー)!! Last Trimming(ラスト・トリミング)!!》

 

 前へ前へと疾走するユーダリルが、光を纏って右足を前に突き出す。

 

《ワイルドバルバトス・クロマティックバスター!》

 

 射ち出された一本の矢のように、凄まじい速さで飛んでくる彼のキックを、クロノスは真正面からその胴で受け止めた。

 地面に僅かな轍を作った後、口から血を垂れ流すが、未だ健在。

 そして自分に必殺の一撃を放ったユーダリルの首を引っ掴み、その胸に向かって銃口を押し当て、引き金を弾く。

 

《クロノグラフ・アクロマティックタイムディゾルブ!!》

 

 閃光と共に、色を失った世界で飛散する鮮血。

 ユーダリルへの変身が解除されると同時に、身体に大きな風穴の開いた灰矢の無惨な姿があらわとなる。

 

「勝負あったな」

 

 そう言ってクロノスは手の力を緩めようとするが、その左腕を灰矢の両手が掴んだ。

 ルドラの破壊現象がさらに深刻化し、胸に腕を通してもなお余るほどの穴を開けられてなお、彼は微かに呼吸を続けていた。

 想像を絶する生命力と執念にはクロノスも瞠目し、その姿に見入る。

 やがてクロノスは慈悲に満ちた口調で、もはや虫の息といった様子の灰矢に尋ねた。

 

「言い遺したい事でもあるのか?」

 

 すると灰矢は腕を握る力にさらに力を込めつつ、胸の穴から風の音が漏れ聞こえる中で、掠れて血の混じった声で言葉を発する。

 

「ル……ラー……ラ」

「なに?」

 

 よく聞き取れず、クロノスは灰矢を無自覚に、ほんの僅かに自分の方に()()()()()()()()

 瞬間、レリックドライバーから鳥の嘶く声と共にワイルドイーグルが飛び出した。

 その嘴に挟まっているのは――天海から奪った破壊神の涙(ルドラークシャ)だ。

 

「ルドラーストラ……!!」

「ハッ!?」

 

 クロノスが気付いた時には、破滅の矢と化したワイルドイーグルは既に胸の時計に突き刺さっていた。

 あらゆる存在を砕く滅暴風の矢(ルドラーストラ)。灰矢自身がルドラと一体化しなかったためその力は不完全であり、受けた者を必ず破壊するような呪いめいた現象は起きていない。

 だがその一矢は確かにクロノスの目論見を破壊し、宇宙全域で静止していた時間が再び刻まれ始めた。

 

「ヘヘ……狙い通り、だぜ……やっぱ、その時計が……時間を止める力の、要……だった、か……」

 

 ルドラークシャを咥えていた事でワイルドイーグルも砕け散るのを見ながら、灰矢は指で銃の形を作り、クロノスは膝を折って愕然と己の胸を見下ろす。

 灰矢はそんな神の姿を見て笑っていたが、やがて徐々に意識が手元を離れていく感覚に陥り、両眼が閉ざされていく。

 

「灰矢!!」

 

 その意識を繋ぎ止めたのは、紫乃だ。

 ロゼとクリス、若葉とアダンも、今にも砕けそうな灰矢の方に駆け寄っている。

 

「死ぬな……!! 灰矢!!」

 

 溢れる血を止める事ができず、どうやっても助からない彼の姿を見ても、それでも紫乃は灰矢の身体を抱えて声をかけ続ける。

 やがて両眼から大粒の涙が零れ落ちると、灰矢は紫乃の頬に手をやり、そっと拭った。

 

「んだよ……お前、紫乃……ちゃんと、泣けるようになってたんじゃねぇか……良かった、な……」

 

 血が溢れて身体が壊れ裂けて行くのも構わず、灰矢は微笑み、紫乃の頬を優しく撫でる。

 そして自分の周りに集まったロゼたちの方にも視線を送り、すぅっと目を細めた。

 

「……あぁ……良かった……俺さ、もう……家族いねぇ、からさ……死ぬ、時ゃ……独りだろうな、って……でも……」

 

 咳き込んで血を吐き出すと共に、足から少しずつ身体が砂のように崩れていく。

 それでもなお、灰矢は言葉を紡ぎ続けた。伝えなければならない言葉を、全て伝えるために。

 

「最期に……傍に、お前らって、家族が……いて……ほんと、よかった……ありがと、な」

 

 その言葉を最後に、灰矢は瞳を閉ざし、項垂れる。

 糸が切れてしまったかのように全身から脱力し、サラサラと灰になって人の形を完全に失う。

 紫乃はその灰矢の残骸を握り締め、静かに涙を流していた。

 

「灰矢……」

「灰矢さんが……そん、な……」

 

 ロゼが若葉と共に泣き崩れ、クリスがその二人を支えるように抱き寄せる。アダンはただ立ち尽くし、灰色の塵を見下ろして身体を震わせていた。

 そんな中、呆然としていたクロノスはようやく我に返り、胸の時計を押さえながら紫乃を睨む。

 

「まだだ……ムラサメ、貴様の持つそれは賢者の石だろう! その万能の秘薬さえあれば、不完全なルドラの力で破損したこの時計は元に戻る! 計画も継続できる! 奪わせて貰うぞ!」

 

 紫乃はその言葉を聞きながら、ゆっくりと立ち上がって瞼を腕で拭い、カレイドライザーを手に振り返る。

 

「絶対に渡さない……この世界の時間も、命も、全て!! もうこれ以上、お前には何ひとつ奪わせはしない!!」

「何を……!」

「そして、クロノス!! お前を倒す方法は、既にこの手の中にある!!」

 

 その言葉と同時にライズホルダーにセットすると、紫乃は右手を掲げてサイキックを行使した。

 すると、玉座の近くにあった赤い血溜まりが、球状となって彼の手元に集まっていく。

 

「なんだ、それは。血液か? そんなもので一体何を……」

「分からないようだな。これは駿斗が流した血だ」

 

 紫乃からの言葉を聞いて、ハッと目を剥くクロノス。

 今使っている身体の持ち主である駿斗は、確かに戦闘の直前に自らの腕を撃ち抜いていた。

 ただそれから少なくない時間が経過しているので、その血は既に黒く乾いていてもおかしくないはず。

 なのに、()()()()()()()()()()()()()()鮮やかな赤色を保っている。

 クロノスにはすぐにその謎の答えが分かった。駿斗が、自分で流した血の時間を止めたのだ。

 

()()()()()()は本来、ペルセウスの髄液を組み込む事でフルに性能を発揮できるものだったが……今お前が封じ込めたつもりでいる駿斗が以前に接種した! 時の神の神血に覚醒した上でな!」

「ま、まさか!?」

「駿斗はとっくにお前を倒す事のできる可能性に気付いていた、だから時を止めた! そしてプリズムエリクシルには、リキッドに直接干渉する力がある……お前たちの作らせたこのリキッドを、駿斗の神血で調色する!!」

 

 紫乃はそう言って黒いソニックペガサスリキッドを分割し、プリズムエリクシルに装填。

 すると賢者の石がリキッドに流入して駿斗の血液と混ざり合い、その色を変化させていく。

 直後に、今までとは異なる音声が響いた。

 

《スペシャルワンダー!!》

「お前を塗り潰す色は決まった!!」

 

 プリズムエリクシルから赤紫のクリアカラーに変わったリキッドが一本ずつ飛び出し、紫乃はそれらを手に取ってカチリと組み合わせる。

 瞬間、リキッドの両側から、白銀の翼のような装飾が羽ばたくように大きく飛び出した。

 

《天馬翔来!! ソニックペガサスエクシード!!》

 

 続いて紫乃はライズホルダーからカレイドライザーを抜き、元々持っていたレリックライザーをセット。

 そして、たった今手に入れたソニックペガサスエクシードを装填する。

 

Loading Color(ローディング・カラー)!! MIRACLE GRADATION(ミラクル・グラデーション)!!》

「変身!!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!!》

 

 紫乃の身体を埋め尽くす、幾色にも煌めく膨大なインク液。

 そのインクが黒いアンダースーツと透明な赤紫色の装甲を構築し、白い複眼を輝かせる。

 ソニックペガサスカラーとは全く異なる西洋の鎧に似た形状の装甲で、両手足に翼のような器官が付いた姿。

 

《時を超え空を駆ける絆の翼!!》

 

 最後に背中に銀色の翼を背負い、武器である太刀を握って、その戦士は完成した。

 

《天元突破!! ソニックペガサスエクシード!!》

「仮面ライダームラサメ エクシード!! オレたちの力で……クロノス!! お前を打ち破る!!」

 

 剣先を突きつけながら、ムラサメは叫ぶ。対するクロノスも、狼狽えながらも拳を強く握り、立ち向かっていく。

 LOTとロゴス・シーカーの巨神戦争(ティタノマキア)、その最終ラウンドが、今幕を開けた。




付録ノ四十六[彼岸の夢]

「ん……」

 ふと目を開いた時、灰矢は青い空の下で、腕を枕のようにして草だらけの河川敷に寝転がっていた。
 見知らぬ場所なのだが、どこか懐かしい。自然の香りが、体を癒やしている気がする。

「俺は……なんでここにいるんだっけか」

 ぼーっと太陽のない空を眺めながら、ひとりごちる。
 すると、彼の耳に懐かしい声が聞こえた。
 驚いて振り返ると、河川敷の上に三つの人影が立っている。
 灰矢の良く見知っている姿であった。

「あぁ、そうか」

 僅かに目を細めてから立ち上がると、灰矢は彼らの方へと歩いていく。

「親父、お袋、美弦(ミツル)。待たせてゴメンな。今、行くよ……」

 灰矢は小さな少女の手を握って隣を歩き、そのまま共に歩き去って行った――。
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