仮面ライダームラサメ   作:正気山脈

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第四十七頁[眩き銀翼の天馬]

 灰矢の決死の一矢により、クロノスの胸の時計が破壊された後。

 磐戸近郊の海上でも、静止した時が動き出していた。

 

「なんだ……!? 親父、どうなってる!?」

 

 テュポーンに寄生したウロボロスは、計画外のこの状況に首をきょろきょろとさせている。

 自分を閉じ込めていた結界は消えたものの、封魔司書たちも神々も動き始めているからだ。

 そして、ある可能性に思い至って目を見開いた。

 

「ま、まさか……ウソだろ!? 失敗したってのか!?」

 

 自分たちのみが動けるはずの時間が止まった世界で、敵の始末に失敗して解除させられるなど、考えられない。

 考えられないが、この戦況を見る限りウロボロスにはそうとしか思えなかった。

 一体どうすれば良いのか。動揺の中で必死に思考を重ねているところで、魔女の声がかかる。

 

「どうやら、形勢は変わりつつあるようですね。我々にとって有利な方向に」

「モルガン……!!」

 

 凶悪な大きい牙を軋ませ、ウロボロスはモルガン・ル・フェを憎々しそうに睨みつけた。

 

「良い気になってんじゃあねぇぞボケ共! どの道テメェらは、アルゴー号の機能を維持できなくなってんだ! 全員纏めて俺にブッ殺されるしかねぇんだからよぉ!」

 

 ウロボロスの言う通り、モルガンだけでなくアメン・ラーや三貴神たちも既に戦闘継続が困難な状態に陥っている。

 Gクロスの戯我も未だ多く残っており、総崩れになるのも時間の問題だった。

 

「まずはお前だクソ魔女!! ミンチになっちまえェェェーッ!!」

 

 拳を握り込み、高く天に衝き上げる。

 そのまま拳を振り下ろしてモルガンを押し潰そうとした、その時。

 頭に青い宝石でできた雄大な角を生やす、フォルス・テュポーンに匹敵する程の巨体を持つ有翼にして金色の猛牛が激突し、蛇神を突き飛ばした。

 

「ゴガッ!?」

 

 不意打ちだった事もあり、ウロボロスは飛沫を立てて海面に倒れてしまう。

 その隙に、モルガンはアルゴー号まで逃げ果せた。

 一方の海水まみれになったウロボロスはすぐに体勢を立て直すものの、周囲にいた全てのGクロスが大牛の口と鼻から発せられた暴風の如き吐息で風化・消滅する様を見て、瞠目する。

 

「ぐ、天災牡牛(グガランナ)……牡牛座の化身だとォ……ま、まさか!?」

 

 視線を上げると、その金牛、グガランナの頭上に二つの人影が見えた。

 否、それは人ではない。

 

「ハァ~イ、ウロボロス。見た目だけは随分大きくなったみたいね」

 

 その内の一人は、宝玉の力で冥界に落ちたはずの女神、イシュタル。

 光の球を雨のように降らし、臆する事なくウロボロスに攻撃している。

 

「控えよ下郎。このバアル・ゼブル、そして妻たるイシュタル。冥界より再び現世に舞い戻ったぞ」

 

 もう片方の影、バアルもそう言ってウロボロスとの距離を詰め、その高い鼻を戦棍で圧し折った。

 肉体はすぐに復元するものの、状況に理解が追いつかないのもあって、ウロボロスはよろめいている。

 

「な、なんでだ……なんでテメェらここにいやがる!?」

「エレシュキガルのお陰よ。あいつ、あんたとクロノスのせいで人間世界が滅ぼされるのは嫌みたいだからさ。LOTに協力するのを条件に、私たちの権能を一時的に戻した上で帰してくれたってワケ。現世に留まれる疑似神体のオマケ付きでね」

 

 余裕の表情で、バアルの腕に抱きつきながらせせら笑うイシュタル。

 その嘲笑にウロボロスは怒りで表情を歪ませるも、すぐに鼻を鳴らして落ち着きを取り戻す。

 

「だが俺様の勝ちは揺るがねェ! エレシュキガルから力を取り戻したところで、全盛期の力を出し切れるワケじゃねェだろうが! そもそもお前らだけで地球を守り切れるつもりかよ!」

 

 再度来るグガランナの突進を受け止め、反撃の拳を見舞い、ウロボロスは言う。

 しかしイシュタルの余裕は崩れない。

 

「何を言ってるのかしら。これからあなたを倒すのに、一分もかからないわよ」

「なんだと……!」

「あなたの粗末なモノじゃ、私を逝かせられないってこと。やりましょう、バアル様」

 

 彼女の言葉に頷き、バアルは右側へ飛翔。イシュタルは左に飛び、グガランナはそのままもう一度突進する。

 今度は拳でグガランナに応戦するが、しかし金牛は命中する前に大きく口を開いてその拳を咥えて止め、噛み砕く。

 

「グッ!?」

 

 悶絶するウロボロス。時間を巻き戻す事による再生が始まるものの、グガランナが噛み付いているせいで完治しない。

 ならばとあえて身を引いて噛まれた腕を無理矢理千切ると、今度は至近距離からの突進によって、胸を角で貫かれた。

 そして再生が始まる前に、イシュタルはその角でできた穴に光の輪を通して再生を妨げ、バアルと共に中に入ってテュポーンの動力たる心臓に辿り着く。

 

「見つけたぞ蛇め!」

「思った通り、本体は細くて短くて貧相だこと」

 

 またもイシュタルからの嘲笑を受ける事になり、心臓に宿った刺青のウロボロスはテュポーンの口を借りて叫ぶ。

 

「これで倒したつもりか!! 心臓を貫いたところで、俺様がいる限りテュポーンは――」

 

 瞬間、バアルが動いた。

 刀身が真っ黒なナイフを投擲し、眼の前にある巨大な心臓に刺した。

 そしてしっかりと刺さったのを確認して、イシュタルの方は鏡面が真っ黒な丸い鏡を取り出して心臓を映し出す。

 

「あ? なんだそりゃ……?」

「実は、冥界に行った時に()()()の信者に出会ってな。少し事情を話したら、これらを貸してくれた。喜べ、この狭い場所から出してやる」

 

 バアルがそう言った直後、鏡から突然に黒煙が噴き出した。

 

「ま、まさか!?」

 

 その正体に気付いたウロボロスは心臓から離れようとするものの、一手遅かった。

 鏡の中から巨大な漆黒の腕が伸びて心臓を掴み、血管めいたコードを全て引き千切った上で鏡の中へとウロボロスごと引き摺り込む。

 黒い煙を吐く鏡、それはアステカのとある神が住む世界への入口。真っ暗な闇だけが広がる空間。

 内部に入ると黒い腕は煙となって消え、その奥に神と人間の姿が見える。

 神の傍に控えているその人間は、顔中に包帯を巻いた白スーツの男だ。

 かつてウロボロスがアダンの体内に寄生していた頃、彼を騙した上で処分しており、亡霊である事を示すように身体が透き通っている。

 

「我が神、こいつです! こいつが以前私を騙して殺した男、あなたの復活の邪魔をした愚か者です!」

 

 白スーツの男はそう言って指を差し、それを聞いた神は心臓に宿るウロボロスをギロリと睨む。

 ジャガーのような白い斑点が付いている腰まで伸びた艶めいた真っ黒な長髪に、肌は浅黒く顔には青緑色の液体で戦化粧を施し、煙管を咥えている。

 上半身は素肌だが下半身には大熊の毛皮で作っているらしい腰布を纏い、失われた右足は黒曜石の蛇を義肢として使っているようであった。

 

「よくもやってくれたな蛇野郎。信者を殺しやがって。このテスカトリポカに喧嘩ァ売って……いつまでものうのうと生きてられると思ったら大間違いだぞコラァ!!」

「ヒッ!?」

 

 全能神テスカトリポカを名乗るその男は、金色の瞳を滾らせて叫び、パチンと指を弾く。

 すると周囲の闇の中から無数のジャガーが出現し、白スーツの亡霊もジャガーとなって心臓に飛びついた。

 そしてその柔らかな臓器に、何度も何度も牙が突き立てられ、食われては再生を繰り返す。

 同化しているウロボロスには、当然激痛が走った。

 

「ぐ、あああああ!? に、逃げ……!?」

 

 テュポーンの心臓からの脱出を試みるものの、それは叶わない。

 剥がれる事ができないのだ。ウロボロスにも分からない奇妙な力により、心臓から離れられなくなっている。

 

「フォルス・テュポーンは俺に捧げるための『生贄』として心臓を毟り取られた。お前ごとな。あのナイフにはそういう意味があるのさ……つまり、お前自身も供物の一部と定義されている以上、この世界からもその心臓からも脱出できない」

「な……」

「一生ここで、俺らの口を慰めるための贄になるんだよ」

 

 そう言いながらテスカトリポカも巨大な心臓に近付き、鋭い牙でかぶりつく。

 散々に人々も神も引っ掻き回した不死の蛇は、自身の行いが巡り巡った結果、これから永久にジャガーたちの餌となるのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「ロゼ、クリス、アダン……下がっててくれ。若葉を頼む」

 

 一方、進化したソニックペガサスリキッドによって仮面ライダームラサメ エクシードとなった紫乃は、後ろにいる四人にそう声をかける。

 そしてクロノスと対峙し、自身の持つAウェポンの太刀の剣先を突きつけた。

 

「駿斗は必ずオレが取り戻す!」

「そうは行かん……駿斗は私の依代としたまま、その賢者の石を頂く!」

「クロノォォォォォス!!」

「ムラサメェェェーッ!!」

 

 二人は咆哮すると同時に疾駆し、ムラサメは刀を振り下ろし、クロノスはクロノライザーでそれを受け止める。

 続いてクロノスが左足で回し蹴りを放つが、それを読んでいたムラサメは肘でその蹴りを打ち払う。

 攻め入る機会と見てAウェポンTモードの斬撃をムラサメが試みるものの、クロノライザーからの銃弾によって妨げられ、距離を取られてしまう。

 戦力的には未だ五分五分。ならば自身の能力によって優位に立つ事ができるはずだと、クロノスは銃の時計を一回転させる。

 

「どのような力を手に入れようとも! 時を操る私に勝つ事はできない!」

Jacked Color(ジャックド・カラー)!! タイムイーター!!》

「時に食われるが良い!」

Trimming(トリミング)!!》

 

 銃口から発射される黒い光の弾丸がムラサメを包み込む。

 命中した者の時間を食う力。これを受けると時間が止まったかのように動けなくなり、外部から衝撃を受けない限り元の状態に戻らない。

 だが、ムラサメの身体を包んでいたはずの黒い光は、全身から発せられた無数の彩りの光によって掻き消された。

 

「ぬぅ!?」

「セァァァッ!!」

Sparkling Color(スパークリング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)! セブンスターズ・クロマティックメテオスウォーム!》

 

 不意を打たれて思わず動きを止めてしまうクロノスに、ムラサメは容赦なく思念操作によってAウェポンの必殺技を発動する。

 七色の輝きが太刀に集約し、そこから放たれる斬撃が時空の神を襲う。

 だがクロノスは咄嗟に自らを加速させて右へステップし、掠めるのみに留めた。

 

「この姿は駿斗から分離する力と同時に……クロノス、お前を倒すための力も持っている。時空神の神血によって、今のオレに時間操作の能力は通用しない!」

「そうか……ならばこれはどうだ!」

Jacked Color(ジャックド・カラー)!! タイムチェイサー!! Trimming(トリミング)!!》

 

 今度はムラサメを追尾する光の弾が撃ち出される。

 逃げても逃げても徐々に加速して必ず命中するこの攻撃を前に、彼はあろうことか立ち止まっていた。

 そして腕を交差させると。

 

「ハァッ!!」

 

 気迫の込められた叫び声と共に、全ての弾丸をサイキックによって捻じ曲げ相殺した。

 

「……強いな」

「当たり前だ。駿斗が、灰矢が……みんなが今この瞬間を紡いでくれたんだ。この翼は決して折られはしない!!」

 

 その言葉を聞くと、クロノスは一瞬目を見張るが、すぐに余裕の笑みに戻る。

 

「フフ……みなが時を紡いだ、か。ならば問おう、ムラサメ!」

 

 気迫を込めてムラサメの周囲の空間に無数の裂け目を生み出し、クロノスが自身の眼の前に形成した穴に向かって銃弾を連射。

 すると、全ての時空の裂け目から光の弾丸が飛び出し、四方八方からムラサメに襲いかかって装甲に火花を散らせる。

 

「くうっ!?」

「何事もなくともこの世界、この宇宙の破滅は確実に訪れる! 形あるものだろうが形のないものだろうが、時が進めば必ず風化し滅びるからだ!」

Rejacked Color(リジャックド・カラー)!! Last Trimming(ラスト・トリミング)!!》

「君はそれを受け入れられるのか!? 己の死! 友の死! 大地の死! 思い出……心の、死を!」

《クロノグラフ・アクロマティックタイムプレス!!》

 

 怯んでいる隙に再び必殺技が発動し、先程と同じように光の礫が室内全体に広がってムラサメに襲いかかる。

 しかし、同じ手はそう何度も通用しない。

 ムラサメは銀色の翼を展開させて自身の前面にサイキック能力による念動波の壁を生み出すと、それを維持したままクロノスに向かって超高速で突進していく。

 

「ハァァァァァーッ!!」

「甘い甘い!」

 

 強力な念動波でクロノスの放った光を捻じ曲げ無力化しながら、真っ直ぐにぶつかって行こうとするムラサメ。

 だが今度はショートテレポートによって回避され、背中に銃口が突きつけられる。

 そしてクロノライザーのトリガーが引かれるが、その一撃もまた念動力によって弾いた。

 

「人も神も多面的……様々な色を持っている。だが死は、破滅だけは無彩にして一面なのだ。何者にも等しく訪れる、絶対の事象だ」

 

 言いながら再びムラサメの前へとテレポートし、クロノスはスイッチを押し込んでから時計の針を何度も回し続ける。

 

All Jacked Color(オール・ジャックド・カラー)!! Last Trimming(ラスト・トリミング)!!》

「誰にも乗り越えられんのだ! 私が導く以外には! それでも私を討つか、封魔司書ォォォォォーッ!!」

《クロノグラフ・アクロマティックタイムディゾルブ!!》

 

 クロノライザーから放たれる、極大の閃光。

 ムラサメはもう一度テレポートで回避を試みるが、移動した瞬間には軌道が曲がり、追いかけて来る。これも追尾性能を持つのだ。

 今はソニックペガサスエクシードのスピードで勝っているが、恐らくタイムチェイサーと同じで、これもどんどん加速するはずだとムラサメは思う。

 回避不能の必殺を前に、オリエンタルトリニティをセットしたカレイドライザーを使おうとするが、その手も読まれてクロノスの銃弾によって取り落としてしまった。

 

「くっ!」

「終わりだ!!」

 

 極光がさらに加速する。もはやこれまでかと思った、その時。

 

「紫乃くん!」

 

 ロゼが呼びかける声と共に、眼の前にあるものが投げ渡された。

 それは――ユーダリルのレリックライザーだ。

 ムラサメはそれを半ば反射的に取り、サイキックによって手を使わずにリキッドを装填する。

 

《ガイア! トータス!》

「ターゲット・ロックオン!」

Calling(コーリング)!》

 

 そして指先で引き金を弾くと、ユーダリルが現れて亀甲型の六つの装甲が光条を完全に防ぎ切る。

 

「何……!?」

 

 突然に現れた、クロノス自身が殺したはずの仮面ライダーの姿に目を剥く。

 浮遊するユーダリルは振り返ると、フッと笑いかけた、気がした。一瞬の事ですぐに消滅してしまったが、少なくともムラサメにはそのように思えた。

 その様子に目を丸くしつつも、ムラサメも時空の神を見据えて言葉を発する。

 

「答えよう、クロノス。オレはそれでも進み続ける。自分たちの力で、破滅を乗り越えてみせる」

「……では如何にして越える」

「さぁな。先の事は何も分からん」

「なに?」

 

 ムラサメの返事を聞いて意外そうに訊き返すクロノス。

 そのまま、ムラサメは言葉を続けた。

 

「お前の言う通り、人はいずれ死ぬ。宇宙さえも消えてなくなるのかも知れない。だが、そうはならないかも知れない」

 

 クロノスはますます怪訝そうな表情になるが、しかし割り込む事はしない。

 

「まだ未来は無地だ、だからこそいくらでも景色を彩る事ができる。ならばいつの日か自分たちの手で破滅を覆す事もできるだろう。お前の言う神人にならなくともな」

「あまりに楽観的な考えだ、気楽が過ぎる。君の言葉とは思えん……そんなものは絵空事に過ぎない」

「確かに昔のオレなら同じように切り捨てただろう。だがオレは『人間』として他の人間や神々と関わり合って……理解したんだ」

 

 グッと拳を握り込むと、ムラサメは強く言い放った。

 

「凝り固まってひとつの場所だけに拘れば、いずれ大事なものを取り零す。クロノス、お前の全宇宙全時空を救うという使命は素晴らしい事だと思う。だが……そのために宇宙のリセットで全てを破壊し、生命を思う通りに変質させて支配する事は、本当に正しいのか!? お前の恐れる破滅と何が違う!?」

「……」

「オレたちを信じろ、クロノス! そう悲観的になるほど、この世は残酷なものに満ちてはいない!」

「……信じろ、か。(ウラノス)に命を狙われたこの私に、よもやそんな言葉をかけるとはな」

 

 自嘲気味に笑うと、クロノスは再び時計を回転させ、気迫と共に叫ぶ。

 ムラサメもそれに応じ、レリックドライバーを操作した。

 

「ならば力で示せ、ムラサメェェェッ!!」

All Jacked Color(オール・ジャックド・カラー)!! Last Trimming(ラスト・トリミング)!!》

「超えてみせる……そして、駿斗を元に戻す!!」

Reloading Color(リローディング・カラー)!! Last Calling(ラスト・コーリング)!!》

 

 トリガーを引き、全身に無彩色のオーラを纏って右足に力を込めるクロノス。

 一方のムラサメは背中だけでなく両手両足の翼、及び装甲を二段展開させて無数の色彩を宿した光を放つ。

 そして、両者が跳躍した。

 

《クロノグラフ・アクロマティックタイムディゾルブ!!》

《エクシード・クロマティックオネスティストライク!!》

 

 咆哮めいた排熱音、激突する二つのキック。

 光と光がせめぎ合い、純粋な力をぶつけ合う、人と神との戦いを制したのは。

 

「――見事だ」

 

 ムラサメだった。

 閃光を纏う蹴撃はクロノスの胴を一直線に捉え、変異を解除させて駿斗とクロノスを分離させる。

 それと同時にラジエルの書も飛び出し、必殺技の衝撃で全てのページが抜け落ちて空に舞い上がると、表紙を残して何処かへと散らばって行く。

 だが、ムラサメはそんな事には構わず素早くオリハルコンのリキッドをその場に形成すると、それを器としてクロノスを内部に封印すべく手筈を整えた。

 

「認めよう。今は君たちの勝ちだ……だが忘れるな。破滅は必ず訪れる。その刻が近付けば、自ずと人間や神々は私の力を求め、同じように戦争を起こすだろう」

 

 肉体が液状となってリキッドの中へと消え始めながらも、クロノスは語る。

 

「それを恐れるのならば、せいぜい己の成すべきを見失わん事だ。大事なものを取り零さんようにな……」

 

 最後にそう言い遺して、クロノスの姿は完全にリキッドの中に消えた。

 駿斗もすぐに意識を取り戻すだろう。長きに渡るロゴス・シーカーとの戦いは、これで幕を閉じたのだ。

 しかし。

 突然の地響きと共に、脳髄エリアの天井が崩れ始める。

 

「な、なんだぁ!?」

「きっとクロノスがいなくなったから、誰もテュポーンを維持できなくなったのよ! 脱出しなきゃ!」

 

 テュポーンの崩壊はまるで止まる気配がない。

 一行は若葉と駿斗を中心に集まり、レリックドライバーを装着する。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 時を同じくして、海洋上のLOTの面々も、崩れ行くテュポーンを見ていた。

 

「マズい、テュポーンが!?」

「このままでは中にいる者たちが……!!」

 

 スサノオとアメンが口走ると同時に、巨大なる蛇神は完全に形を失う。

 まさか全滅してしまったのか。一同の脳裏にそんな考えがよぎった、その時だった。

 沈みゆくテュポーンを背にして、一つの影が前に出る。

 ムラサメだ。駿斗を横抱きにし、翼を拡げ船の方へ飛んでいた。

 さらにその後にエレガントヴァルキリーカラーで飛翔するブリューナクが続き、AストライカーFに乗ったクラレントと若葉、ゲイボルグも続く。

 彼らの姿を見て、イシュタルは我慢できずに飛び出した。

 

「若葉ぁー!!」

「イシュタル様!?」

 

 再び彼女に会えると思っていなかったのか、若葉も思わず仰天する。

 そのままイシュタルはクラレントの後ろにいる若葉に抱きつき、Aストライカーを揺らしてしまってこっぴどく叱られるのであった。

 一方、船に降り立った紫乃は駿斗を下ろし、ロゼと共にアレックスへと報告する。

 クロノスを封印し、ラジエルの書の表紙を回収した事。ページは再び失われてしまった事。

 そして、仮面ライダーユーダリル、灰矢が激戦の末に活路を開いて戦死した事を。

 

「そう、か……やはり……仲間を失うのは、辛いな……遺体も残らないとは」

「……」

「だが彼のお陰で戦いは終わった。とにかく今は、磐戸に帰還して休むとしよう」

 

 アレックスは空を見上げた後にそう締めくくって、瞼を袖で拭う。

 しかし、その時だった。

 

「まだだ」

 

 唸るような低い声で、アダンがそう告げる。

 傍らにいるモルガンは、きょとんとしながら尋ねた。

 

「アダン……何を?」

「まだ終わりではない。やり残した事があるだろう、戦うべき相手がまだいる」

《キュクロプス!》

 

 そう言いながら単眼の怪人になってJモードのAウェポンの穂先を紫乃に向かって突きつけると、再び低い声で言い放った。

 

「構えろ、仮面ライダームラサメ。今ここで……全ての因縁に決着をつける」

 

 燃え滾るような瞳で申し出るアダン、キュクロプス・ギガ。

 紫乃は目を剥きつつも、彼の目を静かに睨み返すのであった。




付録ノ四十七[仮面ライダームラサメ]

【挿絵表示】

 南総里見八犬伝に登場する犬塚 信乃(イヌヅカ シノ)の持つ破魔の刀、叢雨丸を起源とする封魔霊装。
 当時はモンストリキッドが存在しないので、変身方法も姿も大きく異なると思われる。そのため、犬塚 信乃の変身する姿は便宜上『仮面ライダームラサメオリジン』と区別される。
 現代において封魔司書・行雲 紫乃が変身した仮面ライダームラサメは、ロゴス・シーカーを壊滅させるなど数々の功績を残した。
 たとえそれが表舞台の歴史に残らずとも、彼は何度でも戦い続けるだろう。
 そしてムラサメの伝説は、これからも続く――。

 こちらの挿絵はうしとうなぎさんが書いて下さりました!
 うしとうなぎさん、本当にありがとうございました!
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