ロゴス・シーカーの総帥たるクロノスを下し、フォルス・テュポーンが完全消滅した後。
紫乃はアルゴー号の甲板から降りて港の陸地に立った後、アダンの変異したキュクロプス・ギガの持つAウェポンJモードの穂先を突きつけられていた。
「分かっているはずだ、俺とお前の因縁は途切れてなどいない。言ったはずだ、決着は必ずつけると」
突き刺すようなキュクロプスの視線。
彼は本気で、紫乃と刃を交えようとしている。
「俺と戦え……仮面ライダームラサメ。これが最後の勝負だ」
彼らの動向を見守る駿斗や若葉、クリスたちの間に言葉では言い表せない緊張が走った。
やがて紫乃は小さく口を開くと、レリックライザーを手にしてライズホルダーのバックル部に装填する。
「良いだろう」
「紫乃くん!?」
「止めるな、ロゼ。戦う事でしか伝わらないものもある」
《サンダー!》
《ハウンド!》
二本のリキッドを起動、ドライバーにセットすると、キュクロプスは槍を両手で構え直して腰を落とす。
そして紫乃はトリガーを引いて、真正面から彼と対峙する。
《
「行くぞ、アダン! お前を塗り潰す色は決まった!」
「来い!」
「変身!」
《
紫と白のインクが飛び交い、それぞれがアンダースーツと生体装甲を形成。
そして、その場に三角の耳を生やした白い犬を彷彿とさせる、紫電を放つ甲冑の戦士を生み出した。
《天を裂く紫電の咆哮! サンダーハウンド!》
『ウォオオオーンッ!』
雷と獣の咆哮が鳴り響き、太刀を握って仮面ライダームラサメがキュクロプスへと飛びかかる。
「セアアアッ!!」
「破ァァァッ!!」
太刀と槍が何度もぶつかり合って火花を散らす。
キュクロプスが突きを放つと白き戦士は身を捩ってそれを回避し、ムラサメが蹴りを繰り出せば単眼の巨人が腕でガードする。
激しいながらも一進一退の攻防が続くが、ドライバーを操作したムラサメの方が先にその均衡を破った。
《サンダー!
「急々如律令!」
紫の雷が掌に集まり、それを放つべく腕を掲げるムラサメ。
しかしその寸前、既にキュクロプスも動いていた。
《アクア!
「破ァ!」
灰矢から譲り受けたアクアリキッド。槍の先端に流水が集まり、雷撃を受け止めるばかりか、そのまま自らの力として吸収した。
「なに!?」
愕然と声を上げるムラサメ。
さらにキュクロプス自身の能力による稲妻も付与され、強力な突きがムラサメを襲う。
「ぐあああ!?」
咄嗟にAウェポンで受け止めるものの、膂力の差は圧倒的。
ジャベリンの連撃によってついには自身の太刀が手元から離れて地面に突き刺さり、窮地に陥る。
戦いを見ていたロゼとクリス、駿斗と若葉、そしてLOTの面々は思わず声を出しそうになってしまう。
「終わりだ、ムラサメェッ!」
《
ムラサメがよろめいた瞬間、トドメとばかりにキュクロプスが動く。
必殺技の発動だ。穂先にさらに水と雷が集約し、巨大な電撃の刃を形成した。
《アクア・クロマティックシェイバー!》
「破ァッ!!」
雷を纏う水刃が、胴を目掛けて一直線に突き出される。
身を守る武器を失っている今、一同の脳裏に最悪の事態が浮かんだ、その時だった。
ムラサメの右手にカレイドライザーが握られ、素早くリキッドが装填される。
《
「まだだ!!」
「むぅ!?」
《フラッシュケンタウレス・クロマティックサモンバースト!!》
トリガーを引くと同時に出現する、槍を携える美しき
その光の如き一閃が、キュクロプスの手からAウェポンを弾き落とさせた。
「ぐ……!? この!」
「うっ!?」
しかし地面に落ちる瞬間、キュクロプスはその右足で、クー・フーリンよろしく槍を蹴り上げて飛ばす。
これによりムラサメの手からカレイドライザーも落ちてしまい、互いに徒手で戦うしかなくなった。
キュクロプスは両の拳から雷を発し、その剛腕からムラサメに拳打を見舞う。
「破ァァァッ!!」
「オォォォッ!!」
ムラサメも負けじと、キュクロプスの腕や肘を打って無理矢理に軌道を逸らす事で、攻撃をいなし続ける。
そして腕が上がっている隙に、その横腹へと鋭い回し蹴りを鞭のように叩き込む。
だが。
「掴んだ!!」
「くっ!?」
キュクロプスは一瞬の内に、その足を野太い腕で捕まえる。
一撃を受ける覚悟で、キュクロプスは腕を逸らされたフリをして、あえて自らのガードを解いていたのだ。
後は全力で雷撃を放つのみ――
「喰らえムラサメェッ!!」
「お前も道連れだ!!」
《サンダー!
「急々如律令!!」
ムラサメは雷を足へと伝達させ、キュクロプスは腕から雷を発する。
全く同じタイミングで行われた攻撃は、互いに互いの雷光を相殺し、結果として両者とも己の後方に吹き飛ばされた。
「が、っあ……ぐ、が!?」
「くぅっ!? う、ぐ」
すぐに体勢を立て直し、睨み合う二人。
ここまでの攻防は全くの互角。先の戦いで負った傷もあり、既にこれ以上打ち合う余裕もない。
ならばここで全力を出し切るのみ。そう思い、ムラサメもキュクロプスも最大出力の必殺を発動させた。
《
「行くぞ……アダン!」
《サンダーハウンド・クロマティックストライク!》
「セアアアアアッ!」
「破ァァァァァッー!」
装甲の展開したムラサメが右足に紫電を集めて跳躍し、突き出す。
キュクロプスは自らの拳に緋色の雷光を束ね、突き上げる。
二色の稲妻が再び激突し、まるで神の怒りであるかのように激しい音を立てて暴力的な閃光を発した。
そして互いの攻撃が相手の身体を捉えた直後、煙を巻き上げてムラサメもキュクロプスも吹き飛び、その変身状態が解除されてしまう。
「相打ち!?」
「……いや、見ろ!」
クリスが指を差すと、そこには変異が解かれてなお拳を握り込むアダンと、息を切らして立つ紫乃の姿があった。
地に落ちたキュクロプスのモンストリキッドは煙を吹いて砕け散っており、しかしそれには目もくれず真っ直ぐに紫乃を見据えている。
「今度こそ……最後の……一撃、だ!」
拳を振り上げ、ゆっくりと近付き、紫乃の顔面に狙いを定めるアダン。
紫乃も満身創痍ながら、握り拳を作って眼の前の大男を睨んでいる。
そして、振り抜かれた二つの拳が交差し。
アダンの顔面に、紫乃の拳が打ち込まれた。
「ガハッ……!?」
その最後の一撃で、アダンはついに大の字に倒れ、空を仰ぐ。
勝者は紫乃。ロゼと駿斗たちは安堵の溜め息を吐き、二人の方に近づこうとした。
だが、それは他ならぬ当事者の紫乃によって腕で制される。
「……敗れたか……」
見れば、アダンが身を起こしていた。
そして片膝を立てて座り込み、項垂れる。
まるで首を差し出しているかのように。
「斬れ。抵抗も言い訳もせん。これまで他者の命を散々に弄び続けた事、それは俺に責任がある。お前は俺に復讐するべきだ」
「……」
「灰矢が死ぬ事になったのも俺のせいだ。だから――」
「分かった」
紫乃からのそんな返事を聞いて、ロゼとクリスとモルガンは驚き、思わず駆け寄ろうとする。
が、今度は駿斗と若葉が彼女らを抑えた。
そのまま紫乃は地に突き刺さった太刀を抜くと、ゆっくりとアダンに近付く。
アダンは頭を俯かせたまま目を閉ざして、時を待った。
しかし、いつまで経っても何も起きない。
怪訝そうに顔を上げると、紫乃は刃を収めて自身に向かって手を差し伸べていた。
「一体……何の、真似だ!?」
怒鳴り声に近い声量で叫ぶアダン。
すると紫乃は、あっけからんとした様子で答える。
「オレは人殺しはしない」
「俺は人ではない! 人と神の手で造られた、ただの醜い……怪物だ!」
「なら、どうして灰矢はお前を助けた?」
思わぬ問いに、アダンが言葉を詰まらせてしまう。
紫乃はそのまま、彼に語りかけ続ける。
「オレも助けたんじゃない、命の行く末を奪ったんだ。『死んでも良い』『自分を殺せ』などという勝手を抜かすな、自分を卑下するな……全部、かつてあいつがオレに言った言葉だがな」
「……弓立 灰矢……仮面ライダーユーダリル」
「灰矢ならきっとこうするだろう。そして今のオレには、あいつの気持ちが良く分かる」
目を細め、懐かしむように紫乃は言った。
「きっと灰矢はお前の事も他の人間と同じだと思っていたはずだ。そしてオレもそう思っている……だからこれまでの行いを悔いるなら、死ぬな。自分の背負ったものと戦って、戦って……生きて償い続けるんだ」
考えもしなかった事態。
しかし、以前にも灰矢は似た言葉をオノゴロ島で自分にかけていた事を思い出し、アダンは瞠目する。
「灰矢の事を想ってくれて、ありがとう」
最後に耳に入ったその言葉を聞いて。
アダンはその瞳から、静かに涙を流した。
「く……っ! う、ぐ……!」
溢れ出る嗚咽を堪え、地面に手をついて顔を歪めるアダン。
そして彼の傍にモルガンが寄り添い、頷き合って共に紫乃の手を取る。
――天変地異を引き起こす程の蛇神がいたのがウソのように、空は澄み渡り、美しい景色が広がっていた。
※ ※ ※ ※ ※
月日は流れ、3月。学生たちは春休みの時期。
LOT磐戸市部長の織愛は、傍らに立つ龍仮面の男、フェイと共に事務作業を行っていた。
二人の左手の薬指には、キラリと光るリングが嵌まっている。
「……んふふふふふ~」
そして時折手を止めると、その指輪を見つめてニマニマと笑う。
大戦の後、織愛とフェイはすぐにオノゴロ島で結婚式を挙げた。
その時の写真が執務室にも飾ってあり、晴明らを初めとした周囲からの祝福と愛する者と結ばれる幸福感で、写真の中の織愛はとても晴れやかな笑顔を浮かべている。
織愛は当時の事を思い出してまた笑顔になりつつ、フェイに問う。
「ねぇフェイ? 子供何人くらい欲しい?」
「へっ!? い、いやいや! 今はそういう話をしている場合では……」
「あ、でも私が妊娠しちゃったら支部長代理をフェイに任せなきゃいけないのね。流石に負担が大きいかしら」
すると、それを聞いたフェイは不思議そうに首を傾げる。
「いや、それぐらいなら任せて下さい。夫として責務は果たすので」
一瞬の沈黙。しかし織愛はその間をすぐに破り、席を立ってフェイに抱きつき、仮面を剥いで唇を彼の頬に何度も押し付けた。
「んもぉぉぉ~! 大好き、ほんと大好き!」
「わっ!? ちょ、ちょっと危ないです、それに今仕事中~!?」
ばさり、と書類が床に落ちる。
そこには『仮面ライダーユーダリル候補生』として、ロッソの顔写真が映っていた。
「オラァッ!」
一方、磐戸の街ではクリスの変身する仮面ライダークラレントが大剣を振るい、戯我を薙ぎ倒していた。
「へっ、どうした!? 掛かってこいよヘボ共!」
モルガン派を除くロゴス・シーカーが事実上壊滅したとは言え、その残党はまだ生き残っている。
彼女はLOTに身を置いてそれらを討ち、過去の自分との決着をつけようと考えていた。
今のクリスは、磐戸の封魔司書なのだ。
現れた中級の戯我たちを殲滅すると、クリスは処理班に連絡を回して変身を解除し、ベンチに腰掛けて息をつく。
「まだまだやる事ァ山積みだなぁ」
そう言って空を見上げ、真っ白な雲に向かって手を伸ばす。
「いつか絶対追いついてやるからな、相棒……」
同じ頃。モルガンの住む神界では、小さな子どもたちが集まってまるで公園にいるかのように遊んでいた。
彼らはいずれも、少し普通の人間と異なる容姿をしている。頭に小さく角が生えていたり、獣の耳が生えていたりといった具合だ。
そんな子どもたちの中に、エプロンを纏った少女がいる。
「ほらほら、あんまり夢中で走ったら危ないよ~」
ヴェールだ。以前の施設での経験を活かすため、人ならざる行き場のない子どもたちの世話を買って出たのだ。
彼女は子どもたちと遊び、そして楽しそうに笑い合っている。
その様子を微笑みながら見守っているのは、黒き魔女モルガン・ル・フェ。隣にはアダンがおり、共に座っていた。
モルガンはそっとアダンの方に寄り添い、その腕を抱き寄せて頭を彼の肩に預ける。アダンの方は特に抵抗する事もなく、ただ静かにヴェールたちを眺めるのであった。
そして場所は変わり。
紫乃は表情を強張らせ、椅子に座って長い息を漏らしていた。
「どうしたの? もしかして紫乃くん、緊張してるかしら?」
そんな彼に声をかけたのは、ロゼだ。紫乃と違い、彼女は気楽そうに首を傾げている。
「緊張もするだろう……何せ」
言いながら、紫乃は床にある物を見下ろす。
それは旅行用鞄、つまりはキャリーバッグだった。
「お前の両親に会いに行くんだから……」
紫乃の答えを聞き、ロゼはクスッと唇を釣り上げる。
二人がいる場所は空港。ロゴス・シーカーとの戦いを終えてしばらく戯我に大きな動きもないだろうという事で、思い切って春休みの期間を使ってフランスまで出かけようとロゼが提案したのだ。
駿斗たちと過ごす事も考えたのだが、彼らは彼らで用事があるという。ロゼも、ついに交際を始めた先輩たちに気を使ったのかも知れない。
ロゼの両親がいるLOTフランス支部に挨拶に向かうという事もあり、承諾したは良いものの、ともかく紫乃は今になって緊張し始めている。
「でも紫乃くん、向こうに付いたらスイーツを食べれるのよ? エクレアの本場で、マカロンだってあるわ!」
「確かに」
甘い物の話を聞くとすぐに気を取り直す紫乃。
フランスへ行く話を切り出す時もこうして誘ったのだが、そのあまりの切替の速さにロゼは思わず噴き出してしまっていた。
「まぁ、今更ジタバタしてても始まらないし。そろそろ行きましょうよ」
「……そうだな」
紫乃はフッと笑みを見せ、立ち上がる。
そして窓の外に広がる青空を見て、不意に灰矢の姿を思い出す。
紫乃が笑い、泣き、真っ当な人間として生きていける世界。それを紡いだ真の英雄の姿を。
「さぁ、行くか」
――オレたちの描く未来へ――。
ここまでのご愛読、ありがとうございます。
仮面ライダームラサメはこれにて完結致しました。
前作・仮面ライダーアズールに比べて作り込みの甘い部分もあり、前回以上に反省点が多い作品となりましたが、同時に学び取れたものも多かったと思います。
改めてもう一度、本当にありがとうございました!
最後ノ付録[仮面ライダーダイナスト]
「道を開けろ
少年は今、魔王となる。
次回作、仮面ライダーダイナスト
2023年公開予定