その木々の下に潜み、巨大な暗い青の杭を中心に囲むようにして集まる、三本角を生やした三つの影。
青杭には八首の大蛇が巻き付いているような彫刻がされており、それらの目が脈動と共に青い輝きを放っている。
祈りを捧げるように杭を前に目を閉じて座している彼らの内、ふと目を開いて口を開く者がいた。
「金鬼が敗れた。相手は霊装使いだ」
発言したのは、真っ黒な肌色に加えて忍者装束を纏う、鋭い目つきのリーダー格らしい鬼。
それを受けて残る二体、青色の体色の髪の長い女性型の鬼と、緑の肌で細身の少年のような姿をした鬼が大いに驚く。
「彼が!?」
「そんなバカな、人間如きが僕ら『
「だから私は霊装使いには油断するなとあれほど言ったのに……!」
頭を抱える青い鬼。そのまま黒鬼へと、震える声で叫ぶ。
「どうするの
「案ずるな
隠形鬼と呼ばれた黒い戯我がスッと立ち上がると、二人の鬼の戯我も同じく真剣な面持ちで立つ。
「この場所を警護し、そしてここに『御霊』を降臨させる……ただそれだけで、ヤツらの尽くを皆殺しにできるのだからな」
「そして今や、それを成し遂げられるのは僕ら三人だけ」
「そういう事だ
三体はその言葉の後に頷き合うと、数体のオニをその場に配置しつつ残りを引き連れて散開。
山の中では、杭がひたすらに色を吸収し続けていた。
「調伏したオニたちの色が宙に舞っている?」
キンキ・ギガとその配下の鬼たちを倒した後、ロゼは目を丸くしてそう言った。
紫乃はAガジェットを片手に、彼女に向かって頷いている。
「ハウンドで周辺を探知させてみたが、間違いない。色の痕跡がそこら中に散らばっているようだ」
言いながら紫乃が画面を見せると、目では見えない細かな粒子が霧のように散らばり、とぐろを巻くように山の周辺を漂っているのが分かった。
これを辿れば鬼たちの本拠地に着くのではないか、そんな事をロゼが口に出そうとしたが、それは灰矢によって遮られる。
「俺も前に探知したが、その色の流れを頼りにしても無駄だ。特定の場所に向かってるワケじゃない、この山そのものに色が吸収されてるからな」
「では、この山自体が戯我ということ!?」
「そういうワケじゃねーと思うが」
うーむ、とロゼの疑問にへの答えに詰まる灰矢。そこへ、ポツリと紫乃が呟いた。
「テスカトリポカの時と同様に、生贄を捧げて何かを呼び出そうとしている……?」
ハッと灰矢が目を見張った。この山を遺物として利用し、戯我として神を呼ぶための素材としているのならば、この現象にも説明はつく。
鬼たちが人を積極的に襲うのも色を奪って神へ献上するためと考えられるし、数を集めた鬼がそのまま生贄にも使えるのだ。
しかし、ロゼは首を横に振って意見を投げかける。
「仮にその通りだとして、わざわざこんな山の中を選ぶのは不自然だと思うのだけど? 街の構造物でも成立するんじゃない?」
「それはなんとも言えんが……祭具となる遺物に森林の中で使わなければならない制約があるのか、もしくは呼び出すモノ自体が特殊な環境下でなければ応えないのかも知れない」
「本当にいるかしら、そんな神様」
心当たりがないようで、ロゼが腕を組んで唸る。紫乃の方も同じく悩んでいた。
そこへ、灰矢が「なあ」と二人に呼びかける。
「あれこれ考えてても仕方ないだろ、まずは首謀者の鬼どもを懲らしめてやらなきゃよ」
「……それもそうだ。本拠地は分からんが、ハウンドのお陰で概ねの戯我の位置は把握できた。行くぞ」
そう言って足を進めながらも、紫乃はふと考えてしまう。
戯我が侵入しないように貼った結界は、いつの間にか破られていた。そこがどうしても引っ掛かっているのだ。
市街地で戯我が出現するケースは特に珍しいものではない。結界がそこまで万能な代物ではないためである。
封魔司書の扱う結界の主な効力は、戯我の力の抑制。身体能力や敵愾心を減衰させ、活動時間・活動範囲を制限する事ができる。LOTの拠点は『龍穴』という霊的な力の漲る場所に建造されており、これを利用して結界を作るのだ。
ただしその力も隙がないワケではなく、龍穴と連動している都合上、噴き出る霊力が乱れるか龍穴から遠い場所に設置するとそれだけ結界も弱まる。また、結界自体に殺傷能力はないので戯我を倒す事もできない。
加えて、戯我の大部分は夜に活性化する性質を持つので時間が近付けば結界内でも活動できるし、そもそも強力な戯我であれば力ずくで侵入可能だ。
故に紫乃にはそこが腑に落ちなかった。見つかるリスクを侵してまで、結界を破壊する理由は何か?
「紫乃、鬼はどこにいる? もう近いのか?」
その言葉で、紫乃は思考のキャンバスから現実に引き戻される。
「ああ……前方に鬼の一団がいる、もうじき会敵するはずだ。各自、武器の用意をしておけ」
灰矢とロゼは頷き、各々レリックライザーを手に取る。
オニとコオニたちはまだ、一行の接近に気づいていない。
仕掛けるなら、今が好機だ。紫乃はそう判断して、二人に目で合図を送る。
だが。
突然背後の木の上から、ミシッという音を耳にすると、紫乃は咄嗟に振り返ってレリックライザーを向ける。
「紫乃!?」
「行雲くん!?」
二人が驚くのも構わず、紫乃は発砲。光弾は真っ二つになり、木々に命中した。
「ほう、やるな。僅かな足音だけで俺の位置を特定したのか?」
目に見えない何かが、声を発する。『それ』は徐々に黒い肌の鬼の姿へと変わり、紫乃の目の前で完全に実体となった。
「だがそんな芸当など関係ない、貴様ら封魔司書はここで死ぬのだからな」
見れば、他の鬼たちも素早く集まり、既に紫乃たちを包囲している。先頭に立っているのは、少年のような姿の緑肌の戯我と青い肌の女性型の戯我だ。
「こいつら、さっきのキンキ・ギガと同じ鬼の頭かよ!」
「相手も三人なら……私たちひとりずつで対処しましょう」
そう言いながら、ロゼはライズホルダーのバックルにレリックライザーをセット。残りの二人も、同じく変身のために装着してリキッドを二種取り出した。
すると、黒い鬼はコキコキと肩を鳴らして三人を睨みつける。
「金鬼を倒した実力は認めてやろう……だが、貴様らはもう終わりだ」
黒い鬼は正面の紫乃を見据えたまま、その手に大振りの剣を取った。
「風鬼はその女を、水鬼は金髪の方をやれ。俺はこの銀髪を倒す」
『応!』
呼びかけられて緑の鬼が刺叉で武装し、青の鬼も薙刀を装備。
そしてそれぞれロゼと灰矢へ突撃、封魔司書たちを分断させる。
激しい攻撃を避けながら、紫乃はモンストリキッドを起動して即座に変身に移った。
《
「変身!」
《
「行くぞ……!」
「藤原 千方の四鬼が一角、隠形鬼! 参る!」
ムラサメへと変身を果たした紫乃と、オンギョウキ・ギガ。
二人は刃を打ち鳴らすのを合図に、包囲していたオニたちも加わり、戦いが始まった。
「オリャアッ!」
「くっ!」
ムラサメとオンギョウキの戦いが始まったのと時を同じくして。
緑の鬼の戯我、フウキ・ギガは仮面ライダーブリューナク フラッシュケンタウレスカラーに襲い掛かっていた。
刺叉でブリューナクのAウェポンLモードの柄を突いて攻撃を封じ、掌に生み出した空気の塊を撃ち出して吹き飛ばす。
「どうしたどうした、弱いねぇ封魔司書のお姉さん!」
そう言ったフウキが刺叉で突いて再び槍を押さえつけると、今度は突風を引き起こす。
凄まじい向かい風にブリューナクはバランスを崩してしまい、さらに刺叉を突き出されて転倒してしまう。
「これじゃ攻撃が……!」
「でぇーい!!」
蹴りが肩に叩き込まれ、流れるように風の刃が無数に追い討ちをかける。
「ああっ!!」
息もつかせない連続攻撃の嵐に、ブリューナクは反撃の暇さえ与えられず、ただただ守る事しかできなかった。
一方的に技を繰り出し続けるフウキは、再度彼女を転倒させると、退屈そうに息をつく。
「やれやれ、こんなもんかよ。金鬼は一体なんだってこの程度の相手に負けたんだか。それとも僕との相性が悪いだけかな?」
そう言ってブリューナクの首を刺叉で突き、身動きの取れない彼女を空気弾で包囲する。
これでフウキが念じれば、四方八方から無数の空気弾が襲い掛かるだろう。
万が一これで討ち漏らしたとしても、その時はもはや虫の息。周りのオニたちの餌食となるのみだ。
「これで終わりだね」
フウキが刺叉を握る手に力を込め、前へ押し出して空気の塊でブリューナクを攻撃しようとする。
が、その瞬間。ブリューナクは自らのリキッドを操作し、エレメントカラーの力を発揮した。
《フラッシュ!》
「
《
ブリューナクの右手の五本の指先から熱閃が迸り、フウキの右肩と左眼を焼いて貫いた。
「ギャッ!?」
「やぁっ!!」
仰け反るフウキを逃さず、前へ踏み込んで首根っこを掴んだブリューナクは、そのまま彼を盾にして空気弾から身を守る。
「こい、つゥ!!」
このままでは自分自身の技でやられる。
その愚を犯す前に、フウキは向かって来る空気弾を寸前のところで操作し、空へと放った。
さらに、刺叉の石突をブリューナクの腹にぶつけて首を離させ、距離を取る。
「よくも僕の眼を、ォォォ……このメスゴミめェ!! タダじゃおかねぇぞクソが!!」
怒り心頭と言った様子で、罵詈雑言を撒き散らしながら、刺叉を地面に何度も叩きつけるフウキ。
対し、態勢を立て直したブリューナクはフラッシュとケンタウレスを外して、新たな二本を取り出していた。
織愛から貰ったオーキッドパープルとアイビーグリーンのリキッドだ。
「残念だけれど、私も負けるつもりはないわ」
《ポイズン!》
《コカトリス!》
それらのモンストリキッドを起動すると、先のカートリッジの代わりに装填する。
さらに音声を聞きながら、右手でグリップを握った。
《
「カラーシフト!」
《
ブリューナクの頭上と足元に、それぞれ紫と緑の花の紋章が現れ、インクの飛沫が舞う。
二色のインクを浴びた女騎士の姿は大きく変貌し、重厚な鎧から鶏の翼の意匠を凝らしたフリルスカートが特徴的な魔女のローブを思わせる装甲となり、腰の背部からは蛇を思わせる尻尾が生える。
さらに頭部は兜のような形状から、魔女の帽子と鶏の鶏冠を組み合わせたようなものに変化した。
《恐るべき猛毒の魔女! ポイズンコカトリス!》
『コケェェェーッ!』
電子音声と鶏の鳴き声が響き、ブリューナクは魔法の杖のように槍を掲げる。
「いざ!
「ほざけェ!!」
怒声と共に、フウキが突撃して刺叉を突き出す。
それを見計らって、ブリューナクはモンストリキッドを押し込んだ。
《ポイズン!》
「
《
すると、ブリューナクの左手から毒の霧が放たれる。
そこに怒りのまま飛び込むフウキであったが、まだ判断力は残っているのか、突風を起こして毒霧を吹き飛ばしてしまう。
「ボケが!! そんなもので僕を倒せると思っていたのか!?」
毒霧は風に流され、周囲のオニたちが吸い込む。
直後、オニたちは首を押さえて苦しみ悶え、次々と戦闘不能になっていく。
「なっ!?」
少し吸っただけでこの惨状。
フウキは自身が浴びた際の悲劇を想像し、幾許か冷静さを取り戻したように眉根を寄せて後ずさる。
「だ、だが毒霧なんて風の力を持つ僕には通用しない! 相性が悪すぎたみたいだね」
「そうかしら?」
仮面の奥でフフッと笑うと、ブリューナクはもう片方のリキッドを操作する。
《コカトリス!》
「
《
引き金を弾いた瞬間、彼女の背後に緑色に輝く二つの球体が出現する。
それらは禍々しい光を帯び、縦に割れた瞳孔のようなものが内部で彫刻され、まるで眼球そのものであった。
ブリューナクの背後を漂うその緑に光る球体は、フウキに向かってサーチライトのように眩い光を放つ。
「はっ!?」
咄嗟に飛び退くが、間に合わない。光は彼の両足を捉える。
そして光に照らされると同時に、フウキの身体に異変が起こった。
まるで足が石にでもなったかのように、感覚が麻痺したのか全く動かないのだ。
「な、ぁにぃ……!?」
転倒してしまったフウキは、身を起こす事さえできなくなっていた。
その目前に、ブリューナクが迫る。必殺技の準備を整えながら。
「うおおお!? や、やめろぉぉぉ!?」
「嫌よ」
《フラッシュ! ポイズン! ケンタウレス!》
三種のリキッドを取り、Rモードに切り替えた自身のAウェポンへとリードしていくブリューナク。
それが終わると、銃口を素早くフウキの頭に向けた。
《
「あなたは既に、私の勝利の構図の中にいる!」
《トライカラー・クロマティックブラスト!》
装甲各部が展開し、三色の閃光が放たれ、フウキの頭を目掛けて飛び出す。
「待て、待てまバッ」
光弾の一撃は呆気なく緑の鬼の首から上が消し飛び、必殺を受けた彼の身体は、べしゃりと力なく仰向けに倒れた。
そのまま頭が黒ずんで消え失せるのを眺めつつ、銃を構え直して残りのオニたちに警戒しつつ、ブリューナクはぽつりとひとりごちる。
「ムラサメとユーダリルは大丈夫かしら……」
同じ頃。
ユーダリルに変身した灰矢は、スイキ・ギガと交戦していた。
今回もAウェポンを弓形態として使い、ガイアトータスの盾によって薙刀を防いでいる。
「セヤッ!」
「うおっと!」
《トータス!
「ターゲット・ロックオン!」
薙刀で突きを繰り出すのを察知して、ユーダリルは肩の盾を分離。
装甲が自動的に攻撃を受け止め、その隙にスイキの真横に回ったユーダリルが光の矢を射出する。
「ぐうっ!? この!!」
その一矢を腕で受け流しつつ、反撃とばかりにスイキは自身の周囲に水の玉を形成し、それをウォーターカッターよろしく凄まじい勢いで噴射した。
だがそれさえも、自動防御の装甲によって妨げられ、無傷で凌がれてしまう。
「そ、そんな!?」
「んー……惜しいね。お前さんが人間の女だったら口説き落としたいところなんだが、相手がインクじゃそういう気分にゃならんなぁ」
「戦いの最中にふざけた事を!!」
侮られていると感じたのか、スイキは歯を軋ませてユーダリルを睨む。
そんな視線も当の本人はどこ吹く風、笑いながら再度矢を発射する。
「そう何度も通用しない!」
薙刀を振り回してそう叫ぶと、矢は叩き散らされ、消滅した。
さらにスイキは続けて高速回転する手裏剣めいた水の刃を無数に飛ばし、背後へ回ろうと疾駆する。
それでもユーダリルは冷静に動き、水刃を装甲で防御すると、弓で余裕綽々と薙刀を止めた。
「ちいいっ!」
「諦めな。お前じゃ勝てねぇよ」
スイキに蹴りを入れ、ユーダリルは言い放つが、彼女は飽くまでも抵抗を続ける。
「確かに力量差は一目瞭然。しかし、私は『オロチ様』復活の時まで負けられんのだ!」
「何……!?」
彼女の出した名前を聞いて、ほんの一瞬だけユーダリルの動きが止まる。
好機と見て、スイキは薙刀を振り、胸の装甲に傷をつけた。
反撃がないので、彼女は調子付いて続けて薙刀で突き、ユーダリルへの攻撃を繰り返す。
「よし、行ける!」
「……」
さらに薙刀を振り下ろしたところで、ユーダリルはその斬撃を右手で受け止める。
そしてスイキをじっと見ながら、問いを一つ投げかけた。
「お前らの狙いはあの神話の大蛇の復活か? それでこの街にどんな被害が出るか分かってんのか?」
「フン! 貴様ら人間がどうなろうと知った事ではない、むしろ好都合だ! ゴミ共を纏めて一掃できるのだからな!」
「そうかい」
どこか苛立った様子で返答すると、ユーダリルは薙刀の刃を握り締め、粉々に砕いた。
そしてホルダーから新たにモンストリキッドを二本取り出し、起動する。
「なっ……!?」
「守るのはもう終わりだ。その話を聞いた以上、一気に狩らせて貰う」
《アクア!》
《クラーケン!》
ネイヴィブルーのリキッドとワインレッドのリキッド。片方は、キンキの時にも使ったものだ。
二つを入れ替える形で装填し、真っ直ぐにスイキを見て、ユーダリルはグリップを握った。
《
「カラーシフト!」
《
トリガーを引き込むと、頭上と地に二色の照準が出現。
青と赤のインクで塗られ、ユーダリルの装甲が変貌していく。
マントが消えて赤いアンダースーツとアーマーが露出し、その上に青いジュストコールが装備される。
頭部は海賊の鍔広帽とイカの頭を複合したような形になり、両脚にはイカの吸盤らしきものが追加されていた。
《豪快なる波濤の海賊! アクアクラーケン!》
姿が変わるなり、ユーダリルはすぐに弓を分割して双斧を装備。
そして、武器を失ったスイキに向かって突撃した。
「うわあああああ!?」
半狂乱になって、スイキが水の刃を乱れ飛ばす。
だが、水手裏剣が命中しても全く動じない。今のユーダリルに一切通用していない。
「な、なんで!?」
「バーカ。海賊が水を恐れるかよ」
言いながら烏賊の海賊は斧を振り、何度も何度もスイキの身体を斬り裂き続ける。
その度に血飛沫のようにインクが散り、地面を汚した。
「がっ!? あぐっ、ぎいっ!? や、やめなさい! やめろ!」
今度は水の球体を無数に生み出し、それを水圧弾にして放ち押し潰そうとする。
直後、ユーダリルはまたもレリックドライバーを操作した。
《アクア!》
「ターゲット・ロックオン!」
《
ユーダリルの周囲に水の壁が生み出され、それが水圧弾を全て防ぐ。
「なっ……あ、あああ!?」
さらにその水壁を利用して放射された水の一撃が、スイキの身体を吹き飛ばして転倒させた。
水の攻撃に耐性がある上に、自分よりも遥かに水の力の扱いに長けている。
スイキは肉体だけでなく、精神面までも叩きのめされてプライドがズタボロになっていた。
そこへ無情にも追い撃ちをかけるかの如く、ユーダリルはドライバーのグリップを引く。
「さぁ、こいつで仕上げだ」
《
トリガーを引き、跳躍する。そして両足が突き出されると、イカのように足が10本に増殖。
そのままドリル状に高速回転し、スイキへ迫る。
《アクアクラーケン・クロマティックストライク!》
「ひぃっ! 消えたくない、消えたくな――」
「ドォラァッ!」
スイキの願いも虚しく、ユーダリルの脚はスイキの身体を貫き、形容し難い断末魔と共に木っ端微塵に爆散させた。
他の鬼たちはそれを確認すると、散り散りに逃げ始める。
それを追う事なく、ユーダリルは深く息をつき、斧を手に走り始めた。
「はやいとこ連中をブチのめさねぇと……!」
そして、ロゼたちがフウキらと戦っているのとほぼ同じ時。
ムラサメは、襲い来るオニたちを全滅させつつも、オンギョウキに苦戦を強いられていた。
オンギョウキ・ギガは『影分身の術』を使い、自身と同じ姿をした複数の分身体を生み出して、それらに混じって攻撃している。
分身を攻撃しても消滅するだけで本体にダメージはなく、しかし分身からの攻撃はムラサメに通る。おまけに、分身は何度でも増やす事ができるようであった。
「シッ!」
刀を振り、黒鬼を斬り続けるムラサメ。だが攻撃したものはいずれも分身体で、虚しく空を切る感触が伝わった。
本体のオンギョウキの方は、特に笑うでも憐れむでもなく、また分身を生み出す。
そしてその分身はムラサメに剣を振り、絶え間ない連続攻撃で追い詰めていく。
「あと僅かだ。もう少し時が経てば、ついにヤマタノオロチ様の御霊がこの山に降りる」
「ヤマタノオロチだと……!?」
ムラサメが、オンギョウキの声を聞いて目を見開いた。
――ヤマタノオロチとは、日本神話において三貴神の一柱たるスサノオによって滅ぼされた蛇龍。
頭と尾が八つあり、生きた人間を食らい酒を好むとされる。当然これも戯我であり、人間の色を食らっていたのだ。
洪水の化身ともされ、水の神にして山の神として祀られている他、かの有名な鬼の頭領『酒呑童子』の祖であるという。
「まさか、この山に色が取り込まれていたのは!」
「そうだとも、俺が媒介に選んだ故だ。もうじき復活に必要な色も溜まる頃合いだろう」
オンギョウキが肩で刀を担ぎ、待ち遠しいとばかりに恍惚とした表情で言った。
対して、ムラサメは当惑している。
「バカな! 山一つ捧げたところで、ヤマタノオロチが完全な形で復活する事などあり得ない!」
「知っている。だが、不完全でも我らが祖は山より洪水そのものとなって降臨なさる。下界の人間どもの住処は尽く押し流され、潰れてなくなる。そうして更地となった磐戸を中心に世界を塗り替え、オロチ様を完全復活し、鬼の住む都を作るのだよ」
「……そのためだけに街の結界を破壊したのか……!」
グッと刀を握り込むと、ムラサメは裂帛の気合いと共に分身のオンギョウキたちを斬り伏せる。
「お前たちの目論見通りにはさせん!」
「フン! 俺に一太刀も浴びせられない貴様如きに何ができる」
オンギョウキはそう言いながら、再生した分身たちをけしかける。
それを見たムラサメは、サンダーとハウンドのカートリッジを抜き取り、二種の別のリキッドを手に取った。
「お前を塗り潰す色は決まった」
《アイス!》
《セイレーン!》
「カラーシフト」
《
ムラサメの姿が、紫電を纏う白犬から青氷の人魚へと変わり、さらに装填したばかりのマリンブルーのリキッドを押し込んだ。
《セイレーン!
「急々如律令」
瞬間、強烈な超音波がオンギョウキの耳を襲う。
「ぐっ!?」
あまりの高音に本体がよろめき、弱ったところで分身の姿も歪んでいく。
それを目にして、即座にムラサメが動いた。
「セアアアッ!!」
逆手に持ったAウェポンTモードを振り、動きの止まった分身を殲滅。さらにオンギョウキ本体へと高速で接近する。
「これで終わらせる……!」
「図に乗るな!」
音波で感覚を狂わされつつも、オンギョウキは自身の身体を透明化させ、追撃から逃れようと動く。
だが、ムラサメもそれを読んでいた。
「逃さん!」
《アイス!
「急々如律令!」
発動と同時に地面に冷気が流れ込み、オンギョウキの両足を氷で拘束。これで透明化しようと関係なく、逃げる事ができなくなった。
「なにぃっ!?」
「覚悟しろ……!」
《サンダー! ファイア! ウィンド!
ドライバーの左腰から三色のリキッドを取り出したムラサメは、そのままそれらを刀へ順番にリードし、腰を落として構える。
オンギョウキは刀を氷に打ち付けて逃れようとするが、既に必殺技は発動してしまった。
《トライカラー・クロマティックスラッシュ!》
「これが最後の景色だ!」
タンッと踏み出したムラサメの高速の斬閃が、オンギョウキの身体を何度も何度も斬り刻む。
「がァァァッ!?」
そんな断末魔と共に、オンギョウキは頭だけとなって地面に落ちた。
「おのれ封魔司書め、人間め……オロチ様さえ復活すれば、我ら鬼が地上を支配できたはずなのに!」
並んだ牙を剥き出しにして、オンギョウキが天に向かって呪詛を吐き散らす。
「我らは諦めぬぞ! 生き残った次世代の鬼たちが、きっと新たな四鬼へと進化して貴様らに立ちはだかる! いつの日にか酒呑様や茨木様のような上級以上の戯我も復活するだろう!」
「……」
「神々の時代が終わりを迎えたように、貴様ら人間の時代を終わらせる者がいつか現れる! その時が来るのを、震えて待つが良いわ!」
徐々に黒ずんで塵になっていきながら、オンギョウキは虚空に叫び、消える。
ムラサメは刀を納め、変身を解除してぽつりと呟く。
「それでもオレは……今の『人が人として生きる景色』のため、戯我を斬る刀として生きるだけだ」
もう周囲にオニの気配はない。どうやらこの山にいたオニたちは全員、倒されたか逃げてしまったようだ。
また、山が色を取り込む状態も収まっていた。
不思議に思っていると、紫乃の前に大きな杭を担いだユーダリルが現れる。
「よう。こっちは終わったぜ」
「見れば分かるが、それは……まさかヤマタノオロチの?」
「ああそうさ、どうもこいつはオロチの骨を加工して作ったらしいぜ。これを山に刺して、色を食わせて魂を呼び寄せるつもりだったんだろ」
「恐ろしい連中だ」
そんな話をしている内に、ロゼも二人に合流した。
彼女の方は、残ったのオニやコオニの対処を行っていたようだ。じきにLOTから事後処理のための封魔司書も来るという。
「それにしても、あの鬼たちは一体どこで、どうやってヤマタノオロチの骨なんて調達したのかしら?」
「……見当もつかんな」
口ではそう言いつつも、紫乃とロゼにはひとつだけ心当たりがあった。
以前にテスカトリポカの復活を目論んでいた白スーツの男、その背後にいると思われる『あの方々』。
今回も前回も、神を現代に呼び出そうとしていた点で共通している。二人には、そこが偶然とは思えないのだ。
「ともかく、ようやく俺たちの任務は終いなんだ。早いとこ帰ろうぜ?」
「そうだな」
灰矢に促され、一行は下山し磐戸支部の図書館へと戻るのであった。
※ ※ ※ ※ ※
翌日の午前。
灰矢は、磐戸市内のとあるオープンテラスのカフェで、ひとりコーヒーを堪能していた。
織愛や紫乃には『デート』と伝えているのだが、彼の前には誰もいない。
しばらくすると、灰矢の背後のイスに一人の黒髪の女性が座る。
その女性はサングラスをかけており、スレンダーで真っ白な肌の上に白いワンピースを纏っている。
「情報は手に入ったか?」
背中合わせになりながら、灰矢は彼女にしか聞こえない声で話しかけた。
「うん。だけど、概ね最初の予想通りだった。それでも聞く?」
「頼むよ」
女性は小さく頷き、口を開く。
「『キュクロプスの眼』はまだ存在する。恐らく、この磐戸に」
「……!」
「だけど、アナタのお目当ての相手がいるかどうかは分からない。詳細はこのSDカードに入れてある」
「そうかい。ありがとよ」
灰矢は背中越しに差し出されたその小さなメモリーカードを受け取り、服の内ポケットにしまった。
そして席を立とうとした時、不意に女性が声をかけて来る。
「あまり詮索するつもりはないけど、これを聞いてアナタはどうするつもりなの? かなり危険よ、ソレに関わるのは。何が目的?」
「……そんなに面白いモンじゃねえよ……」
改めて立ち上がる灰矢。
その両眼には、静かだが獰猛な殺意に満ちた光が宿っていた。
「ただの復讐さ」
付録ノ八[
封魔霊装の持ち主に与えられる装備。
多くは近距離武器から遠距離武器への可変機構を内蔵しているが、稀にそれにとらわれない特殊装備も生産される。
レリックドライバーに使用した遺物を元に構築された、遺物のコピー品でもある。
そのため、武器の特性もそれに準じたものとなる(ムラサメの場合は破魔の水気を帯びた太刀)。
ただし手に入れただけで都合良く手に馴染む事はないので、武器を扱うには霊装使い自身も相応に訓練を重ねる必要がある。