ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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正月の溜まり場【パスパレ編】

謹賀新年。新しくやってくるこの年を謹んでお祝いしようという言葉である。今日は1月1日。恐らく殆どの人が家族や大切な人と共に年が明けた瞬間を祝い、家の近くの所縁ある神仏に詣でながら過ごす、そんな日。当然俺に待っているのも、そんな静かで、慎ましやかな1日だと、そんな風に思っていたのだ。

 

「やっぱり雄緋くんの家、快適だよねぇ」

 

「炬燵も完備ですもんね……、事務所より長居したいぐらいです」

 

「なんでいんのかなぁ……」

 

俺とて一人暮らしの身。それでいて一介の大学生。当然住んでいる家、賃貸だけどさ、広くないんだよ。他の人よりかは住環境重視するタイプだったから広い部屋なのかもしれないけど。

 

「はふぅ……、あったかいです……」

 

「あらイヴちゃん。みかんを剥いたけれど食べる?」

 

「だから何でそんな寛いでんだよ?! 他人ん家でさぁ?!」

 

「雄緋くん煩いよ……。どうしてそんなに怒ってるの?」

 

「当たり前だろ?! 元日! 俺! 一人暮らし!!」

 

あり得るわけないのだ。どうして男の一人暮らしを謳歌している俺のオアシスで、アイドル5人が堕落を貪っていようか。そんな夢のようなファンの夢が潰えそうな光景がどうして今俺の眼前にて広がっているというのか。

 

「あそっか、あけましておめでとうー! 今年もおねーちゃん共々よろしくねっ!」

 

「挨拶してないから怒ってんじゃねんだわ?! 明けおめ!!!!」

 

「雄緋、カルシウム足りてないんじゃない? そんなに声を荒げて」

 

「うるせぇ!! 怒ってる原因お前らだわ!!」

 

あまりにも新年早々叫びすぎたから俺の口をついて出るため息は大きい。てかこんな叫んで苦情来ないかな大丈夫かな、うんもう後の祭りだわ。

 

「……で、本当になんでいんだよ、正月の特番とかあるだろ?」

 

「あ、生放送に出演する分は終わったので、後は正月オフを楽しもうと……」

 

「おかしいんだよ、後半がさ。なんでここにいるのかの説明になってないんだわ」

 

「こんなにわかりやすい説明をしているのに分からないなんて、馬鹿なのね?」

 

あーキレそう。我慢してる俺を褒めて欲しい。てかなんだって俺がこんな立腹して、ついでに寒い室温に耐えながらさ、こいつらは炬燵占領してぬくぬくとしてるんだ? 訳がわからん。

 

「もーしょうがないなー、日菜ちゃんが説明してあげよう!」

 

「日菜の説明とか余計分からないと思うんだけど……」

 

まぁいい。どうでもいいや、とりあえず聞こう。どうせ「るんっ♪」ってしたからだとか、そんなんだろうけどさ。一瞬でもそう考えた俺が馬鹿だった。あぁ、千聖の言う通り俺は馬鹿だったよ、ええ?

 

「暇だから来たよ!」

 

「あーそうかそうか、帰れ」

 

溜まったもんじゃない。世間は元日だぞ? 大学も休み、バイトもなし、久しぶりにゴロゴロできる、人生の夏休みを満喫できるはずだった。しかもまだ昼前、どうしてこうなった?

 

「……やっぱり、ぐすっ、ユウヒさんにとってお邪魔でしたか……?」

 

「……え?」

 

炬燵の側面に入って温まっていたイヴの方を見ると、もうね、泣いてた。え、そんな泣くことなの? 泣きたいのこっちだよ? だとかそんな悪態つくのが申し訳なくなるぐらいの罪悪感が込み上げてくる。だってさ、震えてるんだよ。肉食獣に捕まる寸前の傷だらけの草食獣みたいに。

 

「いや……その、まぁ非常識だとは思うけど……そんなことは」

 

「あー、雄緋くんがイヴちゃん泣かせたー」

 

「え、ちょ」

 

「男の風上にも置けないわね」

 

「いやいや」

 

「それはちょっとるんっ、ってこないかなー」

 

「ジブンは残念です……、雄緋さんがそんな非情な人間だったなんて……」

 

「……ぐすっ」

 

「え……その……ごめんなさい……」

 

もう部屋の雰囲気は俺が謝る方向一択でした。もうなんかこの場にパスパレ5人がいるのが常識的に考えておかしいとかそんな正論がぶっ飛ぶぐらいの勢いで、圧力がかかってる。

 

「……私たちが、いちゃ……ダメ……ですか?」

 

「……ダメじゃ、ないです」

 

「……えへへ」

 

あ、かわいい。赤く目を腫らしたイヴの照れ笑い可愛いなぁ。

 

「よしよし、家主の許可も取れたし、今日はゆっくりしようよ!」

 

「だねっ、イヴちゃん、よしよし」

 

「ありがとうございますっ、アヤさん!」

 

そして俺は6人分のコップとお菓子を炬燵のテーブルの上に置いて、冷蔵庫からお茶を取り出す。まぁ、外雪降ってるレベルで寒いけど、お湯を沸かして淹れるなんて6人分しようと思ったら時間かかるし、いいよね、うん。

 

 

 

……は?!

 

「あら、気が利くのね」

 

「あっ、お菓子なら私も買ってきたよ!」

 

「あー、ありがとうじゃなくてっ、なくてっ!!」

 

俺が大声を出すとキョトンとした顔で5人が一斉にこちらを見た。あー、これもう詰みってことですね。

 

「……なんでそんなナチュラルに居座る方向に持っていけるんだよ」

 

「まぁジブン達、一応アイドルなんで」

 

「尚のこといちゃダメだろココ」

 

もうさっきから絶妙に話が噛み合ってないんだよ。追い出そうとしたけど、これはもう多分無理なやつだな。

俺は一通り注ぎ終えて、まだ半分ぐらい残ったお茶のペットボトルを冷蔵庫に戻し、部屋に帰ってくる。改めてこの状況を説明しよう。

俺がいつもよりちょっとゆっくり朝起きて、また新しい一年が始まるんだなぁ、って薄ら感動に浸っていたら、唐突にインターホンがなり、荷物かなんかだと勘違いした無様な俺が寒さを我慢して布団から這い出て、扉を開けるなりそこにはこの五人衆。雪崩れ込まれて、気がついたら寛いでて、そして今に至ると。

 

「いや、わけわからん」

 

「どうしたの? 独り言ボソボソって」

 

「何でもない、で、寒いんだけど」

 

「暖房はつけないんですか?」

 

「乾燥して喉が痛くなるからな」

 

「大変なんですね……」

 

「そうなんだよ、だから、寒いんだよね」

 

俺の露骨なアピールを全く意に介さず、雑談に興じる5人。そこで俺は溜まってた怒りのボルテージが爆発した。

 

「寒いから!! せめて家主に炬燵ぐらい譲れ!!」

 

「えー、でも私たち来客だよ?」

 

「招かれざる客なんだわ!!」

 

部屋の気温は多分一桁とか。炬燵に入ればきっとそれだけで温もりと安寧が約束されるというのに、当然5人が占領してて俺の入る余地はほぼなさそうだった。詰めたらいけるのかもしれないが、この5人、全く一人として動こうとしない。

 

「……でも、外は……寒いです……」

 

「泣き落としやめろ! てか俺も寒いの! 炬燵の外にいるんだよ!!」

 

ダメだ、指先が冷たすぎる。あと床と接地してる足の指の感覚がもうない。うん、もう、無理矢理入ろう。俺の家にも無理矢理入られたし。

 

「とりあえず寒いから入れろ!!」

 

「ええっ、冷気が来るじゃないですかっ!」

 

「その冷気に纏われ続ける俺の身になれ!!」

 

麻弥の抗議なんか気にする暇もなく、俺は自らの足から先を炬燵に突っ込ませる。あーーー、あったけぇ……。誰かの足とか蹴ったかもしれないけど冷たいし感覚ないしそこまで分かんないわ。俺は寒さに負けて、手前の面に入っていた彩の隣にすっぽりと入ってしまった。

 

「いたっ!! 雄緋くん今あたしの右足蹴ったでしょ!」

 

「あーごめん日菜。この炬燵6人も入れないから諦めてくれ。てか俺の角度からじゃ届かなさそうだから今蹴ったのは彩かイヴじゃないか?」

 

てかどう頑張っても4人が多分定員だよ。まぁ寒いから気にしてないけど、俺はなるべく体全部が入るように体を丸め込む。仰向けにしてると寒いから体を横に向ける。

 

「……わ」

 

「ん?」

 

と、途端にすぐ隣で寝転がっていた彩の顔が赤くなった。

 

「なんかあったか? 暑いなら人減るからすぐに出てくれて構わんぞ」

 

というか彩のおでこを触った感じかなり熱を帯びている。そりゃこんな外貨寒い中でずっと炬燵でぬくぬくしてたらそうもなるか。

 

「ち、ちが……あわわ……」

 

「はぁ?」

 

彩は何やらぶつぶつと小さく言っているのだが、早口すぎてよく聞こえない。

 

「……はぁ、女心ってのが分かってないなー、雄緋くんも」

 

「えぇ、どういうことだよ……」

 

日菜の呆れたような言い草は謎に俺の心に刺さった。

 

「ダメダメね……」

 

「だからどういうことだって……ん、どうした彩、近いぞ」

 

どういうわけか俺の胸元に顔を埋める彩に困惑する。あ。今めっちゃいい匂いした。じゃなくて、こんな姿ファンが見たら発狂するよ。そう思って止めようとした。

 

「……えへへ、あったかくて……安心するなぁって」

 

やばい、不覚にもドキッとした。まさか彩にこんなにときめかされるとは。一応2、3下の女の子だってのに。よし、よし、俺、落ち着け。ふぅ。

 

俺は賢者の心を取り戻した。けど、彩は再度俺の胸元に顔を埋め直した。しかもくすぐったい。

 

「ちょい、何してんの?」

 

「……この匂い、好き……すんすん」

 

「ちょ、くすぐったい」

 

突如彩が匂いを嗅ぎ始めたのだ。そんなの体臭とか気になるお年頃なんだから、やめてくれって止めようとしたら、彩の腕はいきなり俺の体の後ろへと回された。

 

「へ?」

 

「逃げちゃダメ……すんすんっ、ふーっ」

 

「ちょおっ、息、吐くなって、ひ……」

 

皮膚に直接彩の息がかかったんだ、くすぐったくても仕方ないだろ。というかこちょこちょのようにくすぐったいのに彩が抱きついてるから引き剥がせない、やばい。こそばゆくて今も身震いしたのに。

 

「んひっ、ちょ、おおっ、彩っ」

 

俺は思わず暴れてしまった。それが運の尽きだった。

 

「ちょ、雄緋ぃっ……足当たってぇ……」

 

「へ、へっ?」

 

何故か90度隣にいる千聖の方から聞こえてきたのは妙に艶かしい声。こいつ俺より年下だよな? なんでそんな声出せんのって感じ。

 

「あっ、雄緋さんがどさくさに紛れて、千聖さんのエッチなところ触ってます!」

 

「え、ええっ?! んひっ、ちょ彩タンマタンマ!」

 

「すんすん……」

 

俺の静止の声は彩に届かない。めっちゃこしょばい! やばい、動くの我慢しないといけないの分かってるけど、俺の意思と無関係に動いてしまう。

 

「雄緋っだめっ、んんっ……、そんなとこぉ……」

 

「ちょっ、ちさ、ともよけろよっ?! 彩ストップぅ!」

 

「クンクン……えへへへ」

 

「も、だめぇ……、んっ、んあっ……んあぁっ♡」

 

「まって! まって!!」

 

炬燵の中で始まった破廉恥な馬鹿騒ぎは、数分後、彩を無理矢理引き剥がしてなんとか収まった。というかなんでこんな動けないんだよと思ったら、彩が俺の上半身に抱きついて動きを封じているほかに、俺の片足はイヴと日菜によって抑えられていた。悪ノリ、良くない。

 

彩のちょっとだけ変態チックな吐息と緩んだ顔色。それから千聖の艶っぽい声と紅潮し蕩けた顔に少しだけ興奮してしまったのは内緒。

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