ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

11 / 89
CiRCLEで働く大学生、北条雄緋。
バイトファイターとも名高い、彼の素性が、秘密が、今暴かれる——。









ネガティブ・モード【ましろ】

みなさんも思ったこと、ありますよね。

こいついっつもガールズバンドの女の子たちとイチャイチャしてばっかだな、とか。

こいつバイトファイター自称してる割には、バイト行ってるの見たことなくね? だとか。

いやね、俺も思ってたんですよ。なんか迷子のクラゲちゃんを探し回って流されるままに買い物行ったりだとか、全身がミッシェルになってしまっていてそもそも家を出ることが出来ないような状況だったり。

 

思ったよね?

 

"こいつ、クビになんねぇの……?"

 

 

ふっふっふっ……。その疑問の答えを、教えてしんぜよう。

 

「ま、まりなさん……」

 

「……何?」

 

「……無断欠勤しまくって、すいませんでしたぁぁぁ!!」

 

「……すいませんでした、とかじゃないレベルで無断欠勤してるよね?! えぇっ?!」

 

「すみませんすみませんすみません」

 

CiRCLEの事務室。ものすごく単調なテーブルやパイプ椅子、ホワイトボードなんかの事務用品が並んだ部屋のど真ん中で俺は土下座をしています。

事情は先程の会話というかモノローグを聞いていただけるとすぐにわかると思います。前述の通り、迷子騒動に付き合ってたりとか、ミッシェルになったりとかで、バイトの日を悉く休んだり遅れたりしてました。言い訳ですけど。つまりそういうことです。

 

「というか休むなら休むでさぁっ?! 休みますだとかせめて一言連絡いれなさいよ!! 報・連・相も知らないのぉっ?! ねぇ!!」

 

「すみませんすみませんすみません」

 

北条雄緋、人呼んで、『すみませんbot』。

 

「ねぇ反省してるの?! 話聞いてないでしょ!!」

 

「ごめんなさい」

 

心の中だけでもボケていかないと、自分の失態に向き合うことが出来ない愚かな人間なのです。ちょけてる時点で向き合えてないけど。

 

「あのね? 雄緋くんも大学生なら、なんとなく分かると思うけどね? アルバイトでも仕事なんだよ? 普通にもしも企業に就職してそんなことやってたら普通にクビだよ?」

 

「申し開きもございません」

 

怒ったまりなさんクソ怖い。いやほんと。

まぁ、そんな鎮められないお怒りを抱かれた雇用主に全力で詫びるために、今日は大学の講義終わりに久方ぶりにシフトに入り、勤務が終わったところでこういうお説教を受けているというところなのです。ちなみにですけど、今日店の中に来た瞬間目が合ったから挨拶したんですけど、ものすごく綺麗にシカトされました。そりゃそうだよね、怒ってるよね。

 

「はぁ……まぁいいけどね……。どういうわけだがお客さんも全然来なかったし……」

 

「……え、そうなんですか?」

 

拍子抜けした。お許しをいただけたようです。それはそうと、意外にも俺が休んでいる間は人が来なかったらしい。いやーヨカッタヨカッタ。

 

「そうなんだよ〜。ひどくない? みんなカウンターまで来たと思ったら急に踵を返して帰るんだよ?!」

 

「えぇ……」

 

近場に似たようなライブハウス、それも学生が使用しやすいようなリーズナブルなライブハウスが出来たなんて話も聞いたことがないし、急激に利用客が減るだなんて事情は特段思いつかない。というか、みんなカウンターにまで来て、そっから利用せずに帰るというのだから、もはやそれは何か別の事情があるような気すらする。

 

「なんかねー? あ、そうだそうだ。この話雄緋くんに聞こうと思ってたんだった」

 

「え、俺にですか?」

 

「そうそう。なんだかね、この間たえちゃんが予約の確認ってことで、来たんだけどその時雄緋くんがどうだとかぶつぶつ言ってるのが聞こえてね」

 

「……俺が? 何言ってたんです?」

 

「えー? いや、はっきりとは聞き取れなかったんだけど、この日は花園ランドに招待するから、とかなんとかって」

 

「……ぇ」

 

招待? 花園ランド?

 

説明しよう。花園ランドとは、よくわからん。たえがよく言っている、ウサギがいっぱいいる、(たえにとっては)天国のような楽園? なんだそうだが、これの何がやばいって、発言というか発想自体もやばいけど、なんでも逃げ場がないということらしい。要するに出口がないのだとか。

え、俺監禁される?

 

「あっ、そういえばたえちゃんだけじゃなくて、彩ちゃんも何か言ってたなぁ」

 

「……え、なんですか今度は」

 

「いや、前にロケで使った無人島があって、今度また行くことになりそうだから、雄緋くんも連れて行くんだー、とかって話してたかな」

 

「拉致じゃないですかー」

 

「あ、お土産よろしくね!」

 

無人島っつってんだろ。

 

「……まぁ、そんな話があったよー、ってだけ」

 

「情報提供ありがとうございます」

 

「……で、本題に戻るけど! いい加減バイトサボりすぎだよ?! 何があったの?! この間とか連勤の日も休んだよね?!」

 

「その日はミッシェルになってて……」

 

俺は事細かに何が起きたのかを一応説明したのだが、まぁ当然そんなとっぴもなく、絵空事のような話信じて貰えるはずがなく。

 

「……えぇ? とにかく! 次サボったらクビだからね! ちゃんと働いてね!」

 

「……すみませんでした」

 

そんなローテンションのままCiRCLEを出ました。がっつり怒られた……。いや当然だけども。普通にこれだけサボってたら即刻クビになってもおかしくないぐらいだよね。そう考えると、まりなさんはまだ優しさの塊なのかもしれない。

 

「……はぁ」

 

無断欠勤した癖に怒られて落ち込んでじゃねーよ、とかそんな辛辣なこと言わないでね。自分の中でも怒られたこと意外と心に来てるから。俺だって何もバイトサボりたくてサボったわけじゃないんだよ。この世ってやっぱ理不尽なんやなって。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「えっ?」

 

夕陽に煽られながら落ち込んでいた俺の背中に声がかかる。そんな小さな声の主が誰かと思って振り向くと、そこにいたのは。

 

「あっ『後ろに向かって全速前進』」

 

「いきなりdisられた……、一応心配して声をかけたのに……」

 

「ごめんね? 今俺も心の余裕が絶妙になくて」

 

いやこれは俺も酷かったな。それはともかく俺に声をかけてきたのはネガティブの権化。いやこれも失礼だな。morfonicaのボーカル、倉田ましろだった。

 

「い、いえ。その……落ち込んでるように見えたから、声をかけたんですけど。お邪魔でしたか……?」

 

「いや! そんなことないよ? というかごめんね本当に」

 

「い、良いんです。私なんてどうせ……」

 

ネガティブモードに入りました。

 

「どうせ個性の強い他の人たちの影に埋没する運命なので……」

 

「えぇ……。えらく落ち込んでるんだな……」

 

なんというか、ネガティブモード云々以前に、何やら深い悩みを抱えているようだった。少なくとも、非常に深く致し方ない事情によりバイトを無断欠勤することになってしまって、それを上司からこっぴどく叱られた俺よりも、遥かに深い悩みのように思える。

 

「私……個性、ないですよね」

 

「まぁ」

 

「即答……。やっぱり……」

 

個性って何だっけ……。影が薄い、みたいな意味合いで使うなら、今のましろはまぁまず埋没しそう。それぐらいテンションも低い。個性がない、と影が薄いって全然イコールじゃないけど。

まぁ、とはいえ、学校で勉強して、良い大学に入れと親や先生に口煩く詰られ続け、そしてこれから周囲に引っ張られるように企業に就職して、社会の歯車になって、そんな何の変哲もない平凡で幸せな人生を現在進行形で送ろうとしている俺に個性とか聞かれてもな。

 

「ましろの思う『個性』ってなんだ?」

 

「……ぇ」

 

「話長くなりそうだな、折角だし、店とか入ろうか。仮にも先輩だし奢るぞ」

 

「え、ありがとう、ございます」

 

一応俺大学生だしな。金なら……あるとまでは言わないけど、多分高校生の小遣いよりはよっぽどある。派遣のバイトも行ってる時あるからね。そういうわけで、どうやら人生を深く思い悩むましろの話を聞くために、近場のカフェに行くことにした。

え、CiRCLEの前のカフェ? 馬鹿野郎、んなとこでずっと話聞いてたら寒すぎて風邪引くだろうよ。吹きさらしだぞ。

 

「ここでいい? コーヒーとか飲める?」

 

「え……は、……うーん。はい、まぁ飲めないということは……多分……」

 

「不安な返答だな。まぁいいや」

 

多分この子、自我とかそんなに強くなさそうだもんね。意見とか聞きすぎるのも酷な気がする。そう思って半ば強引に入ったお店はカフェ、だけどどちらかというとコーヒーショップだとかそっちに近い感じのお店。あ、ちなみに羽沢珈琲店じゃないよ。なんか、顔を合わせづらかったもので。看板娘さんと。今度会った時どうしよう、ドSになればいいのか?

まぁ、にしても悩み事ね。大学生なら、というか成人してるなら悩みなんかお酒入ったらびっくりするほどすんなりと吐き出せたりするから楽なんだけどな。他にも色々吐いちゃうけど、やばい事とか物理的なものとか。

うん、話題が汚い。折角こんな整って落ち着いた空間にいるんだからもう少し言動……思考? を慎め、私。

 

「さて、……頼みたいものあったらなんでも頼んで良いからな」

 

「はい……」

 

一応メニュー表を見る限り、軽食も揃ってるし、ドリンクもコーヒーだとかカフェオレだとか、それだけ、ということではないらしい。大体頼むメニューを決めて、店員さんにオーダーを通すと、俺は本題に入ろうと、対面に座る彼女の不安げな顔を見る。

 

「で、個性がなんだって?」

 

「その……私、……引っ込み思案というか、臆病というか、控えめというか。……ぁぁ」

 

「おい、消えるな消えるな。それで?」

 

「もっとキャラを強くしたいというか。埋もれないようになりたいんですけど……」

 

個性が埋没するのはまぁ仕方ないというか、morfonicaに限らずガールズバンドの子たちはみんな個性の塊みたいなものだからな。まぁ、決してましろの個性がないとは言わないけれども。

 

「キャラクターを濃くするとか……?」

 

「ど、どんな風に」

 

ここで、『いや、知らないよ、自分で考えろ』と突き放すこともできるが、テーブルの向こうでほとほとと困り果てた少女を前にそんな仕打ちはあまりに酷だ。というか、本当にネガティブモードから一生帰って来れなくなりそう。片道切符はいくらなんでも可哀想だ。

 

「うーん、例えば奇抜なファッションをするとか」

 

「……変な人に見られるかもしれないじゃないですか」

 

「じゃあ、口調を特徴的にするとか」

 

「そんな作り物、絶対ボロ出ますよ……」

 

「……派手な言動をするだとか」

 

「そんなことする勇気ないです……」

 

「全部否定で返すなぁぁぁっ!?」

 

「ひぃぃっ!!」

 

あっやっば。ここコーヒーショップなのに思い切り叫んでしまった。やべぇ、周囲のお客さんも店員さんも、目の前で俺の発言を否定をし続けてきたましろすらも、ものすごい形相でこちらを見ている。

 

「……ごほん、失礼」

 

「……知らない人のフリをしても」

 

「相席してるのに無理に決まってるだろ、諦めろ」

 

少なくとも俺が開き直って言うことじゃないわ。

 

「そんなぁ……」

 

「と、とにかく。ネガティブになるのもわかるけど、全部否定から入るのやめよう」

 

「個性、薄くなるから……ですか?」

 

「いや、単純に俺がイライラする」

 

「とても恣意的な理由……」

 

それな。というかこの会話からして俺の方がよっぽどやばいよ。

 

「まぁ、流石にそれは冗談だけど、否定ばっかしてても自分の可能性を狭めるだけだからな」

 

「な、なるほど……、参考になります」

 

というか個性が薄くなるというか、ネガティブであること自体も一つの立派な個性だと思うのだけれど、おそらく本人の反応的にネガティブ度合いも改善したいのだろう。

 

「まずだ、周りに埋没しない個性って、どんなものだ? ましろの考える範囲でいいから」

 

「私の……。……め、目立って、他の人から注目される……というか」

 

「なるほどなるほど?」

 

「ありのままの自分を出してて……恥ずかしがらないとか? 自信に満ち溢れている、だとか?」

 

「んー、なるほど」

 

「他の人と自分はやっぱり違うんだというか、自分は選ばれし才能があるんだー……みたいな?」

 

「ふむ。わかった」

 

「え、え?」

 

「よし、ましろは俺が改造する」

 

「……えっ?!」

 

そうと決まれば、ましろの手を無理やり引いて、店を出る。思い立ったが吉日。そう伝えると、ましろはこれから巻き起こるであろう自分の開花の瞬間を想像してか、頬を赤らめながら想いを馳せているようだった。それだけの期待をされているのならば。

 

よ か ろ う 。

 

その期待に見事応え、大改造を施そうではないか。'現代を生きる個性の魔術師'とは私のことだ。匠の挑戦が、今、始まる——。

 

 

 

「あれ、シロいんじゃ……ん?」

 

「あっ透子ちゃ……、……こ、小娘よ」

 

「そ、その格好……」

 

「ふっ、我のこの世の悉くを蝕む漆黒の衣を纏し形態を目撃してしまうとは……、哀れ……だが、これで終焉の時だ……」

 

「マジダサいよ? あたしが今度選ぼうか?」

 

服のセンス並びに'現代を生きる個性の魔術師'の美的センス、才能ナシです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。