どうもこんにちは。北条雄緋です。
「待てーーー!!」
2月に入って寒さがさらに増したような気がするのは気のせいでしょうか。暦の上では2月の初めは大寒というものすごーーーく寒い時期なのですが、今日をもって立春になると。
「鬼はーーー外ーーー!!」
2月4日からが立春になるんですね。もっと詳しく知りたいと言う方は、二十四節気で検索検索ぅ!
「福はーーー内ーーー!!」
「痛い!!」
どうもこんにちは、北条雄緋改め鬼です。なんだかよく分からないのですが追いかけられてます。いやあの、警察とかそういうのではないので、変なやつだということを勘違いしないでください。街中を歩いていたらガールズバンドの子たちに会って、気がついたら追いかけられて豆を投げられてました。お陰でヘトヘト。
「あっいた! 鬼は外!!」
「鬼じゃない痛い!!」
鬼にも痛覚があるから、とても痛い。というか皆さんコントロールいいね。なんでピンポイントで痛いところ当ててくんの? なんて文句を言っても立ち止まっているとめちゃくちゃ投げられるので、只管逃げるしかなく……。
「あっいた、居たわ雄緋よ!」
「待てー!! 鬼は外!!」
ちなみに追いかけられている理由は判然としません。誰かと相談して鬼役をするとかいう馬鹿な真似を引き受けた覚えもないです。なんで?
「ちょ、行き止まりかよっ」
「追い詰めたわ雄緋! 覚悟しなさい!!」
「くっ……」
遂に俺は街角の路地裏にて追い詰められてしまった。なんだろう、目の前でゆく手を阻むこころがいつになく大きく見える。というか目の前に抱えた笊の中に入った豆の量がバグ。
「待て! 話せばわかる!!」
「話す必要なんてないわ! 豆を投げればみんな笑顔になれるわ!!」
「俺が笑顔になれないんだよ!!」
なんとかして打開策を探そうとするもここは何の変哲もない街の一角のブロック塀で囲まれた奥地。そんなに都合よく一発逆転のアイテムなんかが落ちているわけではない。
「大丈夫よ、その後きっと笑顔になれるの!!」
「痛さと引き換えに得る笑顔なんて要らない!! 笑顔のために何かを犠牲にするなんて間違ってる!!」
決まった……。めっちゃカッコいいこと言ったな俺。その姿はさながらRPGゲームの最後で悪に堕ちた過去の仲間を正気に戻そうと奮闘する主人公。
まぁ、痛いのは嫌だし、真理だよね。
「残念だけれど……敵同士なのね……」
「そうだな、だから……」
「えぇ、豆まきよ!!」
「そうなるよねやっぱり?!」
こころの手に豆が一杯握られる。
あっ……その量は、
「こっちよ、雄緋!」
「な?!」
背後から声が聞こえた。俺が振り返ると、どう言うわけだかさっきまで壁となって俺の逃げ道を塞いでいたブロック塀に上からかけられた縄梯子が。
「誰だか分からないが恩に着る!!」
「あっ、待ちなさい雄緋!!」
俺は颯爽と梯子を駆け上りブロック塀を登る。大量の豆を握っていたこころは咄嗟に縄梯子に登りに行くことができず、俺を向こう側に引き上げることで役目を終えた縄梯子をこころがこちらに来る前に引き上げる。
「絶対にまた後で豆まきするわ!」
「ご勘弁願いたい!!」
俺は登り切ったブロック塀から向こう側へとなんとか飛び降りる。そして俺の目の前にいたのは。
「大丈夫? 雄緋」
「友希那……良かった、マジで助かった」
「そう、良かったわ」
「ありがとう、というかもう風邪治ったのか?」
「風邪? あぁ、もうバッチリよ」
俺は助けてもらった友希那にお礼を言いつつ、路地裏を通り抜けて表の通りの方へと歩き始める。
「それで、どうして弦巻さんに追いかけられていたの?」
「えっ? いや……心当たりはないけど」
「こころだけに?」
めっちゃキメ顔してるけど、寒いよ? 風邪移された?
「……まぁいいや。それで、多分節分だから、豆まきされてるんだよな」
「豆まき……? 貴方は鬼か何かなの?」
「そういうことじゃない? みんな鬼は外ーって投げてくるし」
「……そう」
「あともう一つ聞きたいことがあったんだけどなんで縄梯子なんか持ってんの?」
ふつうに考えて俺もまさかブロック塀に縄梯子かけられてるなんて想像もしてなかったよ。普通にあの大量の豆の嵐にボコボコにされるものだとばかり。俺ほぼ諦めかけてたし。
「実はこの間、商店街の巨大アスレチックに参加したのよ、優勝したら猫カフェの貸切権を貰えると聞いたから」
「……あー、あのSHINOBIだっけ?」
「そう。惜しいところまで行ったのだけれど、あと少しで届かなかったのよ」
「……うん。それで?」
どっからどう考えてもそっから日常生活で縄梯子を持ち歩くことへとロジックが繋がらない。全然理由になってないもんね。俺はあまりに気になりすぎる続きに耳を傾ける。
「もしもまたあのアスレチックが現れても良いように、こうして縄梯子を持ち歩いているのよ。これがあれば引っ掛けて登るだけで大抵のアスレチックは攻略できるわ」
「えぇ……」
絶対出てこないよ? あのアスレチックがそう頻繁にポコポコ出てきたら今頃街は大パニックだよ? いや一日あのセットが組まれただけで結構大騒ぎだったと思うけど。
「私たちが目指すのは頂点、すなわちネコよ。妥協は許されないわ」
「縄梯子を使って攻略するのは妥協では?」
「……ごほん、手段は問わないのよ」
不正だろってツッコミを入れようとした、その時だった。
「あっ、友希那先輩……と、雄緋さん!!」
「あら美竹さん、偶「鬼はーーー外!!」」
「ぎゃあああ蘭もかよ?!」
「ちょっと待って、私にも当たっているのだけど?!」
突如曲がり角から現れた蘭の投げる豪速球の豆、豪速球? 豪速豆が俺と友希那に降り注ぐ。多分だけど蘭の反応的に狙ってるのは友希那ではなく俺らしい。ならば友希那を巻き込むのも可哀想だな。
「くっこっちだ!! さっきはありがとうな友希那!!」
「待てぇーー!!」
「……何だったのかしら、あっ、にゃーんちゃん」
俺は絶賛追いかけっこ中です。俺が走って逃げる横をあっという間に前へと飛んでいく豆。フライング豆。
「鬼はーーー外!!」
「待って!! 鬼じゃないから投げないで!!」
「雄緋さんは鬼なんです! 諦めて御用になってください!!」
「いやです!! 豆痛いのやだ!!」
なんだか字面だけ見たらものすごくぐずってるだけの子どもみたいに見えるかもだけど、必死なんだよ。痛いもん、あっ痛い! たまーに当たったらヤバいでしょってレベルの豆がピンポイントで直撃している。というか街中歩いてて追いかけられて豆当てられたらそりゃ逃げるでしょ、誰でも。
「わがまま言わないで大人しく投げられててください!!」
「わがままじゃねぇっ正当な権利の主張だぁっ?!」
叫んで逃げてはいるものの、このままではジリ貧。俺の体力とて無限ではない。すでに追いかけられ始めてから1時間近くが経過している。賞金結構貰っても良いぐらいのレベルで追いかけられているのだ。
「どうして雄緋さんはお縄につかれないんですか?!」
「だって捕まったらありったけの豆まき攻撃食らうだろ?! 嫌だわ!!」
「そんなことしませんってば!!」
「へ、そうなの?」
「引っかかったぁ!!」
「ずるい痛い痛い痛い!! 痛いっ!!」
姑息な真似を!! ってつい叫びたくなるぐらいにはずるい。いや、というかこれで引っかかる俺が甘ちゃんなだけかもしれない。
「なんでお前ら揃いも揃って俺に豆を投げつけてくるんだよ?!」
「節分だからに決まってます!」
「だとしても俺に投げられる謂れはねぇ!」
どうやらまともに話が通じる相手ではないらしい。どうする? さっき極めて狡猾で非難に値する手段によって痛いっ、距離を詰められたせいでさっきから俺に直撃する豆の量がとんでもない量になっている。あと威力も大きくなってて普通にめちゃくちゃ痛い。
「鬼なんですよね? じゃあ黙って豆当てられといてください!」
「黙ってられるか?!」
知ってる? 痛いんだよ? 虐めてる側はやっぱり虐められてる側の痛みとか分からないと思うんだよ。物理的、精神的問わずね。今は専ら物理的だけど。
「豆を当てられる気持ちになれ!」
「追いかける身にもなってください!」
追いかけられる身になってください。だめだ、話が通じる相手じゃないらしい。かくなる上は只管に逃げるほかない。
「あっ、雄緋さん」
「ましろっ、その人捕まえて!!」
「へ、へっ?!」
突然道端に現れたのはましろだった。ましろは蘭から捲し立てられて困惑している様子だった。
「あ、あの蘭さん」
「何っ、今急いでるんだけど!」
「その、モカさんが」
「モカが何?!」
「『蘭の秘密暴露大会やるけど来るー?』って誘われたんですけど……」
「はぁぁぁっ?! ちょどこでやってるの?!」
突然血相を変えて豆から手を離した蘭はましろから詳しい話を聞いているらしい。そしてこちらを一度だけ振り返ると唇を噛み締めながら反対方向へ駆け出していった。どうやら豆まきを中断してまででも早急に何とかしなければいけない問題があったらしい。
「はぁっ、はぁっ、助かったよましろ……」
「い、いえ。何か困ってたみたいだったので」
「流石は『後ろに向かって……豪速豆』……」
「豪速豆……?」
脳が酸欠でまともに話せなかった。
「そ、それでどうして豆を投げられていたんですか?」
「それが俺にも、さっぱりで、はぁっ……」
「節分だから……鬼になってるとかですか?」
「断じて鬼じゃないです……。まぁ蘭以外にも、こころとか香澄とかその辺りにも追いかけられてるんだけどな」
「……何か恨みを買ったとか?」
「怖いからやめろ……」
どこで買ってるかとか分かんないからね。今の時代。自分の知らないところで恨みを買ってるとか普通にありそうで怖すぎて。
「でもそのメンバーなら、楽しがって投げてるだけとか……」
「まぁこころと香澄ならそれで分からなくもないんだけど。……蘭がそんなぶっ壊れたテンションで投げてくることある?」
「……蘭さんは、なさそうですよね」
「だよねぇ」
共通点すらなさそうだし。少なくとも香澄とこころが結託してたとして、蘭がその話に乗ることはなさそう。
「……もう素直に家に帰るとかってダメなんですか?」
「それがさ、俺の家……普通にフリーアクセスらしいんだよね」
「……フリーアクセス?」
「たまーに起きたら人がいる」
「おばけ?!」
「いやいや人間だって!」
と思ったけどその事実だけ見たらめちゃくちゃ怖かったわ。
「そういうわけだから万が一家に隠れて踏み込まれた時逃げ場がなくなるから、家に帰るというのは少々リスキーなんだよね」
「そ、そ、それじゃ、私の家なんか……」
「ましろの?」
ちょっと気になりはするし、助けて欲しい気持ちも山々なんだけど、なんだかさっきの友希那よろしく俺への豆まきに巻き込まれそうでなんだか申し訳なさの方が募る。最悪家の中が豆だらけになりそう。
「ありがたいけど……今回は遠慮しと「あれ、雄緋さん」……レイヤ?」
「レイヤさん、こんにちは」
「ましろちゃんも、こんにちは」
休み休み話に興じていると現れたのはレイヤだった。思えば今日会う人みんなボーカルだな……。
「あの、そういえば、雄緋さん。お話があるんですけど」
「俺に? 何かあった?」
「雄緋さん……」
レイヤは押し黙ったかと思うと俯いて、何かを葛藤しているようだった。
「えっと、何かあった?」
「……本当にごめんなさい!」
「へ?」
懐から取り出されたそれは。
「……豆? まさか……」
「鬼は外ー!」
「うわぁ!! ましろありがとうさらば!!」
「わっ……行っちゃった……」
さぁ、やってまいりました。本日の鬼ごっこの時間(part.3)でございます。ヤバい。そろそろ足がガクガク行ってきている。だってこの歳になると運動することが減るから、仕方ないね。
「なんでみんなして追いかけてくるの?!」
「こうするしか、ごめんなさい!」
「謝るぐらいなら豆投げんなぁ?!」
蘭はちょっと時間の経過とともに追いかけるペースかなり落ちてきたから逃げるのそこそこ楽だったんだけど、いかんせんこの子、体力が有り余っていそう。少なくとも疲労困憊のこの体で戦うのは分が悪すぎる。
「俺は鬼じゃないぞ!!」
「分かってます! だからごめんなさい!!」
「会話が噛み合ってないっ!」
俺は後ろから飛んでくる豆を避け続けるが、流石にもう限界が近い。というかもう殆ど避けきれてない。
「RASのみんなのためにっ、当たってください!」
「理由つけられてもダメなもんはダメ!!」
痛いから。
「心苦しいですけど、私にはこうするしかないんですっ!」
「その理由を教えろよせめて!!」
さっきから理不尽な暴力に遭い続けてるんです。せめて私がこんな目に遭っている理由だけでもお聞かせください。辛いんです……。
「理由は……くっ、ごめんねみんなっ」
「せめて俺に謝れ?!」
なんか話聞く限りではバンドメンバー人質にでも取られてます? って感じの言動なんだけど。まぁそれとこれとは別問題だよね。俺が豆嵐を喰らい続ける理由にはなり得ない。
「くっこうなったら!!」
「何をする気ですかっ?!」
「追いかけられてます助けてぇ!!」
「ひ、卑怯な手を……」
一頻り叫んだ俺は人目のありそうな方の道を選んで逃げる。一応常識を持ち合わせたレイヤだ。一般人の目があるところであまりにも無謀なことはしてこないだろうと踏んだのだ。そして俺は少し大きめの通りに逃げると、そのままさらに別の裏の通りの方へと逃げた。
「はぁっ……はぁっ……撒いたか?」
「あれっ、雄緋くん?」
「逃げる!!」
「えっちょ待ってよ?!」
もう狙ってるだろ、なタイミングに出会した彩。うん、これは豆を撒かれる雰囲気だ。
「どういうこと?! 逃げられるぐらい、私嫌われてるのぉ……?」
「えっちょ。違う! 豆、撒かない?!」
「豆……?」
どうやら豆まき目的ではないらしい。なんかもう誰が怪しくて豆撒いてこないかとか、疑心暗鬼になってきた。
「撒かないならいいんだ」
「節分だからってこと?」
「だろうな。なんかみんなに会うたび撒かれてるんだよ」
「……楽しそう」
「おい」
楽しそうって理由だけで豆投げられてちゃたまったものじゃない。……いや、なんか笑顔になるために豆投げるとか言ってたやつもいたけど。
「えっと、それどうするの?」
「どうするもこうするも、逃げるしか今のところ」
「どこかに隠れたりしないの?」
「隠れられるなら隠れたいけど……はぁ」
「そ、相当困ってそうだね」
そりゃさっきから追い回されてるからね。
「そ、その匿ってあげようか、なんて」
「えマジで? ……あ、でももし見つかったら豆投げられるよ?」
「私まで?!」
「うん。多分」
あ、めっちゃ葛藤してる。
「ま、大丈夫だよ、そんな簡単に街中で見つかったり「あっゆーひくんだ!!」言ったそばから、またな彩!」
「あっ……。私も参加してみたり……ってあれ、メール?」
今度俺を追いかけてきたのは。
「待てぇー!」
「くっ、また会ったな! 香澄ぃっ!」
「ゆーひくんに豆まきするのが節分だからっ」
「俺に当てるな!!」
豆を撒くのは鬼に対してなんだよ。なんでだ……。
「そ、そもそもなんで俺に豆撒いてんの?!」
「ルールだからだよっ」
「ルール?!」
そんなトンチンカンなルール古今東西探してもないよ絶対。
「節分の日に1番多くゆーひくんに豆を当てた人が一日ゆーひくんのこと独り占めできるんだよっ!」
「ちょっと待って俺そんなの聞いてない」
優勝賞品が俺ってこと? それ当事者の俺に対して話通してないよね?
「言ってないもん!」
「ふざけんなぁっ?!」
俺はそんな理不尽に負けないために全力疾走を仕掛ける。そして見つけたのは。
「あっ友希那!! 助けてくれ!」
遠目に見つけたのは先ほど助けてくれた友希那だった。
「雄緋?! ……鬼は外!」
「ふぁっ?!」
突然前からも飛んできた豆。え、さっき助けてくれたよね?
「事情が変わったわ、諦めて喰らいなさい」
「嫌だ!!」
俺は方向転換して駆け出す。後ろからは合流した友希那と香澄が追いかけてきている。
「そろそろ体力もないのにっ」
そして俺の視界の端に映ったのは。
「ま、ましろっ、助けてっ、助けてぇっ?!」
「あっ雄緋さん! 鬼は外!!」
「突然の裏切り?!」
俺は高速ターンで方向転換してまたもや駆け出す。あーーーなんか嫌な予感してきた。結局さっき香澄が見つかった地点の方向へと帰ってきてしまう。
「あ、彩……、う、た、助けて!」
「雄緋くん?! 来てくれたんだっ」
「へっ?」
「ごめんね? 鬼は外っ!」
「買収されてんなぁ!!」
結局7人全員に追いかけられた結果、流石に捕まった俺は丸一日拘束されることとなった。なんてこった……。