ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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花園ランド攻防戦【たえ VS ?? VS ??】

『ここに理想の花園ランドを建設するの。こっちがオッちゃんの部屋で……』

 

 

 

 

 

……はっ?! 今なんだか、すごい深淵の世界を覗き込んだ気がする。見てはいけない世界を見てしまったような、そんな何か。だが、それが何かは思い出すことは出来ない。これが夢というやつだろうか。悪夢だね。

 

「……なに馬鹿なこと考えてんだろ」

 

あんまり無用な時間を過ごすわけにもいかず、俺は今日は一日CiRCLEのシフトに入っているものだから、モゾモゾと布団への未練を残しつつも体を無理やり起こした。

 

「また怒られるのもやだし、……行くかぁ」

 

俺はついこの間大目玉を食らってばっかりなものだから、その時のまりなさんの怒りの表情を思い起こして、体を震わせ、家を出た。

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

「オッちゃんお腹空いたの? ちょっと待っててね」

 

「……」

 

時は夕暮れ。バイト終わったんです。今日は怒られませんでした。帰ってきました。ドアを開けました。

 

……?

 

え、みなさんはこんな状況、経験したことありますか? 現実がどこにあるのかよく分からなくなった結果、一度俺は家を出てドアを閉める。鍵かかってたよね、しかも。

部屋間違えた? 合ってる、何度も腐るほど見てきた家の部屋番号。

遂に家追い出された? ありえるな。騒ぎ過ぎたし。大家さんが雷を落とした結果、俺の意思の介在の余地なしに追い出された可能性が捨てきれない。が、常識的に考えてそれはない。

 

 

……?

 

 

うん、とりあえずもう一回ドアを開けてみよう。見間違いかもしれないし。もう一回だけ確かめよう。

 

「……お邪魔します」

 

「ちょっと待っててね、冷蔵庫に刻み野菜置いといたから」

 

「失礼しました」

 

なるほど。

 

 

 

……?

 

 

 

「うわぁっ?!」

 

再度ドアを閉めて呼吸を確かめていると、途端にドアが開く。勿論俺が開けたのではない。

 

「おかえりなさい」

 

「……おたえさんや」

 

「どうしました?」

 

「なんでいんの? あとうさぎ」

 

「花園ランドができたんです」

 

「話聞けこら」

 

ダメだ、この暴走機関車と話を噛み合わせることができそうにない。けど俺とてバイト上がりで疲れているので、家に帰らないという選択もいまいち取り難く、諦めて俺は玄関に入る。

 

「なにか、怒ってます?」

 

「怒らないとでも思った?」

 

「あっそっか、あれやってないからですか?」

 

「あれ?」

 

たえはこちらにくるりと華麗なターンを決めて振り返る。

 

「おかえりあなた。ご飯にする? うさぎにする? それとも、わ・た・し?」

 

「……」

 

 

 

 

……?

 

 

 

 

「あれ、違いました?」

 

「うん」

 

「そっかぁ」

 

ちょっとだけ良いな、と思ってしまった俺を赦してほしい。だって、ある意味男の夢みたいなものだろ? 新婚三択って。仕方ないじゃん。あっでも帰ってきて大量のうさぎに家が占領されてるのはちょっと問題だな。

 

「まぁどうぞ、上がってください」

 

「一応言っとくけどここ俺の家なんだけど?」

 

既になんか足元にたえが飼っている、オッちゃん? だっけ、がいるけどね。占領されてるじゃん。リビングにつながるドアを開ける。

 

「は……?」

 

「ようこそ、花園ランドへ」

 

「なんじゃこりゃあぁっっ!?」

 

予想だにしてなかった、というか予想したくなかった光景がそこに。

一面うさぎ、いやそれは言い過ぎか。でもあちこちうさぎ。うさぎ。あっちにもこっちにもうさぎ。うさぎの向こうにもうさぎ。なんだかもうてんやわんやで何が起こっているのかすら分からない。

 

「どうしてくれるんだ?!」

 

「うさぎ可愛いでしょ?」

 

「ここまで多かったら可愛いとかのレベルじゃねぇ!!」

 

可愛がる余裕すらないだろこれ。というか自宅から連れてきたのか知らないけどこの量のうさぎどうやってここまで持ってきたんだよ……。

 

「はやくなんとかしろ!」

 

「騒いだらうさぎがびっくりしちゃう」

 

「びっくりしてんのこっちだわ!! なんでバイトから帰ってきたら家の中うさぎだらけになってんだよ?!」

 

「花園ランドだから」

 

「俺の家です!!」

 

「……住みたいの?」

 

「違う! いや違わないけど違う!!」

 

花園ランドに住む? 冗談じゃない。出口がないだとか、というかもう色々無茶苦茶がすぎる。いやこの間から散々な目には色々遭ったけどね、まさか家が魔改造されてるだなんて、唯一の心のオアシス! ……いやなんかたまに侵入者がいるけど。というか今現に大量発生してるけど、仮にもプライベート空間だよ。

 

「とりあえずうさぎだけでもなんとかしろ!」

 

「なんとかって」

 

「ゲージ入れるなりあるだろ?!」

 

見れば部屋の奥隅の方にゲージらしい籠が積み重ねてある。なんで解き放った……。

 

「うさぎが可哀想」

 

「俺のセリフだわそれ」

 

「仕方ないなぁ」

 

渋々と言った様子でうさぎを餌で釣るなりゲージの方へと戻していくたえ。というかなんでそっちが妥協してますみたいな態度なの? 魔改造したの君だよね?

 

「見てないで手伝ってください」

 

「あっ……はい」

 

部屋が返ってくるならもういっかぁ。

 

 

 

「ようやく全員戻った……」

 

大きなゲージに10匹を優に超えるうさぎを戻すわけだからその苦労は想像も容易だろう。だって戻してる途中でまたゲージから出ちゃう子とかいるし。あと偶に噛まれそうになる。なんか敵意を向けられてる気がする。ゲージの中からそんな視線を感じる。それはともかくとして肉体労働を終えて疲れ切った俺はなんか毛まみれの炬燵の布団の中に入る。

 

「私の花園ランドが……」

 

「前から思ったけど花園ランドって何物?」

 

「……? 花園ランドは花園ランドだよ」

 

「いやもっと具体的に何があるかとか」

 

花園ランドは花園ランドなんです、とかなんの説明にもなってないよ。

 

「私の好きなものが全部揃ってる場所」

 

「好きなもの?」

 

「まずうさぎでしょ、あとはハンバーグかな」

 

「うさぎのハンバーグ……?」

 

「カニバリズムだ……」

 

違うよ? じゃなかった、俺もなんか発想がぶっ壊れ始めてる。あっ、なんかゲージから飛んでくる敵意の目線が強くなった気がする。ごめんよ、食べないから許して。

 

「美味しいものもいっぱいあって、なんでも食べ放題で。ポピパのみんながいて、ギターも好きなだけ弾ける」

 

「理想郷みたいな」

 

「そうだよ。あっ、あと」

 

「ちょ近い」

 

ずいっと、ぬくぬくと炬燵に篭っていた俺の方に顔を寄せるたえ。部屋の中は獣臭かったはずが、どういうわけかたえの体からは生臭くない甘い香りが漂った。

 

「雄緋さんも」

 

「……えっ」

 

「大好きなので、欲しいです」

 

「そ、そう?」

 

照れる。近い近い。

 

「知ってますか?」

 

たえから放たれるオーラはいつもの気の抜けたものとは何から何まで違う。年頃の乙女を感じさせない妖しいオーラ。俺はそんなものに屈しないと平然を装った。

 

「何が?」

 

「うさぎって寂しいと死んじゃうんですよ」

 

「……それウソなんじゃなかったっけ」

 

「……知ってましたか」

 

そうだよ、これみんなデマらしいからね。科学的根拠はなくて単に突然死することがあるからそう感じるってだけだからね。

 

「うん」

 

「知ってますか?」

 

「今度はなんだ?」

 

「……えいっ」

 

「ちょ」

 

なぜか肩を掴まれ、俺の目線は天井のうねった白いラインを向いていた。しかしそんな光景もドアップのたえによって遮られた。

 

「うさぎって万年発情期なんですよ」

 

「そ、そうなのか? 分かったから起こし」

 

「私、うさぎなんです」

 

「は……?」

 

「発情期です」

 

「……つまり?」

 

「襲っていいですか?」

 

「ダメ」

 

「答えは聞いてないです」

 

「おいってんっ……」

 

這い出ていなそうとした俺の体を上から押さえつけ、マウンティングの姿勢を取ったたえの唇がそっと紡がれた。発情期という割には穏やかだったそのキスも徐々に体の重みが加えられ、呼吸もできずに苦しくなる。

 

「んっ……ぶはっ、ちょ……やめろって」

 

「雄緋さんって」

 

「へ……?」

 

「色んな女の子から、こうやってされてますよね?」

 

「……そんなことは「全部見てますよ」……へ?」

 

さっきまではほんの僅かに穏やかな空気を醸し出していたのに、今のたえからは不穏な空気しか感じることが出来なかった。

 

「何言って……」

 

「うさぎって視野が広いから、色々見えるんです」

 

「ちょ……」

 

ずっとのし掛かられている俺はヤバいと直感的に察した。体を捩るも中々抜け出せそうにない。

 

「ちょっとだけ妬いちゃったので」

 

「おい……」

 

「発情期だから我慢できなくても仕方ないですよね?」

 

「待てって」

 

「花園ランドで、一緒に暮らしませんか?」

 

「くっ、ちょ」

 

パリン!!

 

「……?」

 

突如、ガラスが割れたような音が響き渡る。そして視界の端に大きな影が一つ、そしてさらに小さな影が連続して現れた。

 

「花園さん。そこまでよ」

 

「……友希那先輩?」

 

現れたのは。

 

「……ネコ軍団」

 

じゃない。ネコ軍団と、それを率いる。

 

「助けを求める声が聞こえたわ。我ら、Comprehensive Assault Team、通称CATに任せなさい」

 

「意味わかってる?」

 

「ネコよ」

 

違う、そっちじゃない。でもまぁ、助けに来てくれたということはありがたい限りである。このままじゃ完全にこの発情期のうさぎに襲われてたし。

 

「たとえ友希那先輩でも、邪魔するつもりであれば容赦はしません」

 

「そう。ならば仕方がないわね」

 

「ですね」

 

たえがゲージのドアを開け放とうと手をかける。今ここに、ネコVSうさぎという異種格闘技……、で合ってるか分からないけど、が開戦され……。

あ、いやちょっと待って。ヤバくね? お互いの生命の危機では? あとついでに俺の家大変なことならない?

 

「ストップ!! 待て!!」

 

「……どうしたの雄緋。貴方を助けるため、うさぎは致し方ない犠牲よ」

 

「そうですよ、ネコは尊い犠牲となるだけです」

 

やばい、バチバチと火花が散っている。ネコとうさぎの間でものすごい殺気の応酬が繰り広げられようとしている。

 

「このままだとうさぎかネコが傷つくことになるのにいいのか?!」

 

「……それは」

 

「……たしかに」

 

俺の言葉に一旦は矛を収めようという気持ちになったらしく、たえはゲージの蓋を開けることなく済んだ。……あぶねぇ。

 

「……友希那先輩」

 

「何かしら?」

 

「ネコって発情期あるんですか?」

 

「……はい?」

 

「発情期」

 

「あるんじゃないかしら」

 

2人はどうやら俺には意味のわからない次元で心を通わせ合っているらしい。あれ、互いに頷いて何故かこっちを見た。

 

「雄緋」

 

「何でしょう」

 

「発情期って知ってるかしら」

 

「そりゃね」

 

それ口実で襲われかけてたからな。

 

「ネコって明るいところにずっといると発情期になるそうよ」

 

「うん、それで?」

 

なんか嫌な予感というか、デジャヴだよねこれ。俺は立ち上がる。

 

「私はずっと明るいところにいたの」

 

「はい」

 

よし、逃げよ

 

「おい、なんで俺捕まえられてるの?」

 

「逃げようとしてたから」

 

うとしたら、後ろからたえに羽交い締めにされて動けなくなっていた。

 

「2人とも発情期なら、仕方ないわよね?」

 

「仕方なくないです!」

 

「出口、ないんですよ?」

 

「あります!!」

 

なんとか振り解こうとしたその時。

 

「……友希那ちゃん? たえちゃん? 何をしているのかしら?」

 

「……え」

 

「その声は」

 

「千聖とレオン……!」

 

「人の家に無許可で動物を連れ込んで、挙げ句の果てに雄緋を襲おうだなんて、お説教が必要かしら?」

 

特大ブーメラン刺さってるけど。

 

「友希那ちゃん? 豆まきの件だとかで、リサちゃんが怒っていたわよ?」

 

「なっ……あ、あ……」

 

「たえちゃんも、紗夜ちゃんに伝えておいたわ。学校で暫く教育的指導が必要だって」

 

「せ、殺生な……」

 

「まったく、勝手に家に動物を連れ込んで、ガラスを割って荒らし回り、終いには私の雄緋を襲うだなんて、反省しなさい!!」

 

反省してください千聖さん。というか最後なんつった?

 

「そもそも雄緋は私のものよ? 誰にも渡さないわ」

 

「ちょっと、それは聞き捨てならないわね」

 

「私だって、雄緋さんのことは渡しませんよ」

 

「……もう逃げても良いかな」

 

うさぎ VS ネコ VS レオンくん。絶賛公開中!!

 

ちなみに逃げたら逃げたで家の中大変なことになってたし、ガラスの修理代諸々で先月のバイト代が殆ど消えました。ちきしょうめ。

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