ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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Q. 雄緋はお子ちゃまですか?
A. 精神年齢は(偶に)ガキです。










盲目のバレンタイン【リサ&日菜&つぐみ】

あー……頭痛い。あ、どうも、二日酔いなうの北条雄緋です。街の路地にひっそりと出来てたバーでお酒を飲んだり、人生の辛い部分について考えたり、キスをしたりする夢を見ました。そういや今日街で偶然出会った薫や千聖が、挨拶をしても顔を赤くしてよそよそしい態度取ってきたんだけど、あの2人何かあるのかな……。あ、手作りのチョコもくれた。冗談抜きでめっちゃ美味しかったし、嬉しくて小躍りしてた。

 

 

 

……そうだよ、チョコだよ!

 

今日何日か、みんな知ってるよね。そう、2月14日。俺の二日酔いなんかよりこっちの方がよっぽど重要だよ。バレンタインデーなんですよ。世のピュアっピュアな男の子たちがクラスの女子から貰える何かを期待して、そして貰えなかったやつは落胆し、その格差社会をまざまざと見せつけられる、血を血で洗う戦の日。高校の時はまさに阿鼻叫喚の地獄だった……。あ、俺? 察しろ。

 

まぁとは言っても? もう俺大学生だし? お酒飲める程度には大人だし? まっさかチョコの一つや二つ貰った程度で一喜一憂するほどお子ちゃまじゃないし?

え、薫と千聖から貰ったチョコ? ……嬉しいものは嬉しいんだよ、お子ちゃまじゃねぇ!

とにかく、何があろうと平常心を保っていられると思ってたんだよね。それが命取りだったとは……。

 

ごめん、バイトには行けません。今、羽丘女子学園にいます。この学校を南北に分断する家庭科調理室で私はチョコを作ってもらっています。……本当はこの後が恐ろしいけれど、でも今はもう少しだけ、現実逃避をします。彼女たちが作るあのチョコも、きっといつか俺の空腹を満たすから……。

とか言ってる場合じゃない。今いるの、女子校です。

もう一回言うよ?

 

今、女子校にいます

 

ダメだ。いよいよ捕まる。なんかこの間取調べを受けたような記憶が微かにあるけど、今度こそいよいよガチの国家権力のお縄についてしまう。

でも一つ弁明をさせて欲しいんだ。

 

『あっ、いたいた雄緋くん』

 

『日菜?』

 

『実はちょっと協力してもらいたいんだけどー、あ、拒否権はないよ!』

 

『はい?』

 

有無を言わさず捕まえられたんです。これから捕まるんじゃないんよ。もう捕まった上でここにきてるんよ。というか誘拐もとい拉致されてるんだよ。ちなみに学校に入る許可は日菜がどうにかするらしい。どういうことだってばよ。

まぁ……。そういうわけで、女子校の廊下を歩く冴えない男子大学生として好奇の目線を浴びながら、俺はこの家庭科調理室の控室みたいなところで待ってます。なんでも家庭科調理室では今まさに競技が行われているとのことらしい。大体何があったかは察してるけど。

 

「雄緋くんお待たせぇ!」

 

「おかえり日菜。この拘束をなんとかしろ」

 

「まぁまぁ、ちょっと待っててね、今運ぶから!」

 

あーこの会話でなんとなく察した人はきっと聡い人だ。現在、椅子に座ったまんま後手に組まされ、拘束を受けております。なんなの? 捕虜なの? 奴隷なの? というか、今日バイトなんですよ、って言ったらなんでもまたもやまりなさんが丸め込まれたらしい。良かった……なんていう気持ちと同時に可哀想な気持ちと、後吹き飛んでいったガラス代の穴埋めとなるバイトの収入が減ることへの心配が募る。お陰で夜しか眠れません。

 

「意外と雄緋くんって重いんだねー」

 

「だったら普通に歩かせてくれない? もう逃げないから」

 

「あははーだめー」

 

許さん。

そういうわけで俺は妙にピリついた空気の家庭科調理室のど真ん中へと運ばれてきました。

 

「で、俺は何すればいいの?」

 

「チョコを食べていただいて、感想をいただこうかと!」

 

「そっかそっか。なんか今日もしかしてつぐみそっち側なの?」

 

悲報、常識人枠、0人。

 

「と、いうわけで、アタシたちの作ったチョコ」

 

「食べてくれるよね?」

 

「はい」

 

食べない、なんて言ったら俺動けないままこの世にグッバイしそう。それぐらい禍々しいオーラが溢れている。特にリサ。

 

「じゃあ、順番としては私、日菜先輩、最後にリサ先輩で、作ったチョコを雄緋さんに食べてもらおうかと!」

 

「えーあたしが1番最初がいいなー」

 

「まぁまぁヒナも、ワガママ言わないの」

 

「……あっ。良いこと思いついたんだけど、あたしが作ったやつで雄緋くんのお腹全部一杯になったらるんってするよね?」

 

「アハハ、ヒナー、冗談きついよー! アタシのも食べてくれるよね?」

 

「そうですよ! 私のチョコだって、雄緋さんなら、食べてくれますよね?」

 

俺は無言で首を縦に振り続けました。ちょっとでも横に振ったら俺の胴体と頭がおさらばしそう。リサだけじゃねぇや怖いの。

 

「うーんでもそれだけだとやっぱりまだ面白味が足りないなー」

 

「まだエンターテイメントを求めるのか……」

 

芸能人としての性とかそういうのなのかな。いや、でも日菜がそんな枠に囚われるとはとてもじゃないけど思えない。

 

「あ、そうだ。どうせなら、誰が作ったやつか、ちゃんと当ててもらおうかな☆」

 

「……はい?」

 

「だーかーら、アタシたち3人が作った雄緋のためのお菓子、まさか分からないなんてことはない、よね?」

 

「えっ」

 

やばい。プレッシャーが凄すぎてやばすぎてヤバい。とにかくヤバい。

いやいや冷静に考えてだよ? これまで別に食べ比べだとかそういうのしたことないし、少なくともそんなん食べたことはあったとしてもその味を覚えているかは別問題だ。

 

「おーリサちーのその案に賛成!」

 

「……雄緋さんなら、分かってくれますよね?」

 

そんな目で見ないで……。自信なんて皆無なんだから。

でも知ってる。こういうのって拒否権ないんだよね……。だってほら、既に俺の視界暗くなってるもん。これってそういうことなんでしょ? 俺、これ、知ってる。

 

「これで何も見えてないですよね?」

 

「見えてない見えてない」

 

「それにしても雄緋くんが縛られて、目隠しされてる姿……」

 

「ヒナも思った? なんか……」

 

「興奮しますね!」

 

「やめろ」

 

大いなる普通に戻ってくれ。このぶっ飛んだ天才ちゃんと、あの正月以来若干メンヘラ気味の聖母の中だと君は比較的まともな方なんだ。

 

「まーまー、全部当てられたら無事に返してあげるから!」

 

「え、一つでも外したら?」

 

「……1日奴隷」

 

「ひえっ」

 

「もちろん外れた分は全部だからね!」

 

「あはは☆ それじゃあ、まずはどれからいこうかなー」

 

「何でもいいから早くしてくれ……」

 

「じゃあ雄緋さん、口開けてください。あーん」

 

「ん……」

 

口の中に放り込まれたそれは形としては丸っこい。サイズは大きめの飴玉ぐらいで、……なんだろうな。外側は殻のようになっていて、歯でそれを噛み砕くと中はちょっとドロっとしてる……。うん、なるほど、苦くはない感じ。けど苦さと甘さなら甘さの方が圧倒的に強い。

 

「うーん、まぁ味は分かったぞ、大体」

 

「じゃあ作ったのは誰でしょーか!」

 

「そこなんだよなぁ……」

 

一つ言っていい? 分かるわけないんだよ。実質完全に1/3を当てるゲーム。

多分これを含めて3つ食べることになる。で、それを作ったのはリサ、日菜、つぐみの3人。即ちこれから食べるチョコを順番にA,B,Cとしたら。考えられる組み合わせは。

 

AのチョコレートBのチョコレートCのチョコレート
(リサ)(日菜)(つぐみ)
(リサ)(つぐみ)(日菜)
(日菜)(リサ)(つぐみ)
(日菜)(つぐみ)(リサ)
(つぐみ)(リサ)(日菜)
(つぐみ)(日菜)(リサ)

 

なるほど、6通りね。正解は当然この中の1つで、1/6で助かると。つまり奴隷になる確率が……これ高校の数学でやったやつだな、余事象だから5/6。

高確率奴隷。

 

「で、作ったのは?」

 

「うーん、なんか優しい味がするから日菜ではないかな」

 

「ぶーぶー、それどーいうことー?」

 

「拉致したやつが文句言うな」

 

「……確かに」

 

納得すんのかよ。

 

「で、うーん。雰囲気的に、リサかな……」

 

「まぁ、正解は後でまとめて言いましょうか。消去法が使えちゃうので」

 

「じゃあ次のチョコ! 雄緋くんの口に! あーん」

 

「うむ……」

 

しっとりとしたチョコケーキみたいなのを切って、一口大にしたみたいな感じかなぁ……。層になってる部分は結構板状の硬いチョコみたくしてる感じがある。味としてはまぁ、甘くもなく苦くもなく、ぐらいかなぁ。さっきよりは確実に甘くない。それぐらいしか言えなさそう。

 

「誰が作ったでしょうか?」

 

「これは……。つぐみかな。なんか作り慣れてる感ありそうだし、つぐみならお店の手伝いでそういうお菓子系も作るだろうし」

 

「なるほどねー。じゃあ最後のチョコだよ。はい、雄緋。あーん」

 

「ん……」

 

かなりビターな味。苦いけど俺はこれぐらいの苦味も結構好きだからいけるな。口当たりの感じだと固形のチョコか。まぁ味からして既製品ではないし、既製品を溶かして型で固めたとかそういうのでもなさそう。それに奇を衒うようなモノではない。順当で王道なバレンタインチョコ、という感じがする。

 

「ど、どうかな?」

 

「苦い、結構、大人の味がする」

 

「雄緋くんがなんだか渋い顔して縛られてるのるんっ、てくるから写真に撮っておこうっと」

 

「あー……。この反応日菜、確定だわ」

 

「えっ、なんでぇ?!」

 

「チョコに苦さで悶絶する表情を見たいって感じがしたから。残念だったな、苦いのでもいけるタチなんだ」

 

「……あーあー、どうなっても日菜ちゃんしーらない」

 

「ふっ。図星だったか……」

 

どうやら俺は作られたチョコの裏の意図まで読み取ってしまったらしい。やはり視界が奪われているからこその第六感のようなものが冴え渡っているのかもしれん。

……それに、このチョコが日菜だとすれば、

A リサ、B つぐみ、C 日菜 でちゃんと過不足なく出来てる。あーはい。完璧ですよ。残念だったな、俺は奴隷になんてならない……。自由なんだ!!

 

「……じゃあ、雄緋くん。一応もう一度だけ答え聞いておくね? どうぞ」

 

「食べた順に、リサ、つぐみ、日菜だ!」

 

「……そっか。じゃあ拘束も解くから、自分で目隠し取っていーよ」

 

「おっ、これは正解……あるか?」

 

両手の拘束が解かれたので、視界を覆う目隠しとなっていたタオルを取る。そして……久しぶりに俺の目が見た光景は。

 

「ひぐっ……ぐすっ」

 

「り、リサ先輩……。ハンカチ、使ってください……」

 

「ぐすっ……ありがと、つぐみ……」

 

「え……?」

 

「正解は順に、つぐちゃん、あたし、リサちーなんだけど……。まぁそれどころじゃないよね」

 

「ちょ、え?」

 

「普通に作った人が雄緋くんに食べさせるのが当たり前だから簡単だと思ったんだけど、まぁ、今はそんなことどうでもいいよね?」

 

「あの……私たち、出ておくので、ちゃんとリサ先輩に謝ってくださいね?」

 

困惑する俺とリサをおいて、日菜とつぐみが調理室を後にする。俺はテーブルの側で蹲って泣いているリサの近くにしゃがみ込む。

 

「な、なんでリサ泣いて……」

 

「アタシ……雄緋が苦いの好きだと思ってっ」

 

「……え?」

 

リサの作ったチョコ。つまり最後に食べたCのチョコ。それを食べた時の自らの発言を振り返る……。

 

 

『雄緋くんがなんだか渋い顔して縛られてるのるんっ、てくるから写真に撮っておこうっと』

 

『あー……。この反応日菜、確定だわ』

 

『えっ、なんでぇ?!』

 

『チョコに苦さで悶絶する表情を見たいって感じがしたから。残念だったな、苦いのでもいけるタチなんだ』

 

『……あーあー、どうなっても日菜ちゃんしーらない』

 

 

「……あ」

 

……俺が苦さに苦悶する表情を期待して、日菜がこのチョコを作ったとばかり思って、要約するなら、性格悪い味、みたいな反応してるよね……。仮に作ったのが日菜だったとしても折角作ってもらったのにそれは駄目だろって冷静になったら分かるけど、その上これ作ったのが本当はリサなんだったら……。

 

「ごめんね……アタシ、ぐすっ、そういうつもりじゃ、なかったんだけどっ」

 

「いや、その……」

 

「本当は、ううっ、喜んでもらいたかったけど、ひぐっ、ごめんねっ」

 

「こっちこそごめんリサ!!」

 

俺は猛省して勢いよく頭を下げる。

 

「ひぐっ、でも……あはは、アタシのチョコ……嬉しくなかったよね……ごめんねっ」

 

「そんなことない!」

 

「だって、苦くしようとしたのは……本当だもん……ごめんっ、ねっ……」

 

「でも……でも! リサのチョコは美味しかったし、嬉しかった! 俺のために作ってくれるだとか……。本当は対面でちゃんと貰いたかったけど! ……ごめん!!」

 

「……ぐすっ、謝るぐらいなら……ハグ」

 

「……ごめん」

 

「ひぐっ……アタシ、これで雄緋を許せるぐらい、チョロいんだよ?」

 

「……うん」

 

「……どうせ気づかないだろうけど、こっち、向いて?」

 

「……うん」

 

「バカ……」

 

 

バレンタインのキスは比喩でもなんでもなく甘かった。

 

……あ、それと、日菜にも謝りに行ったら俺を誘拐したからとかなんとかで紗夜さんからお説教食らってました。怖かった。

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