ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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映えを求めて三千里【彩&ひまり&透子】

「というわけでー?」

 

「ひまりっ!」

 

「彩の」

 

「「スイーツ食べ歩きの旅!!」」

 

いぇーい。という明るい声がもう雰囲気からして伝わってくる。いや、良いですね。スイーツ。冬だけど。

 

「何、そういう企画なの?」

 

「企画……?」

 

「めっちゃタイトルコールみたいなのしてたじゃん……」

 

どうやら単にノリと勢いだけで食べ歩きに出向こうとしたらしい。俺? 巻き込まれたというか、メッセージで呼び出されて来たらいきなり電車に乗って連れ回されてます。もう慣れたからそれぐらいで騒ぎ立てないよ。大人なので。……大人なので。

ただ、大人だからこそ食べ歩きはちょっとしんどいよね。この間とある時代劇の撮影があったんだけど、そこであまりにも張り切りすぎて筋肉痛になりました。だから本当は歩きたくないぐらい。もう剣道のトレーニング……いや、あれはもはや剣道の域に留めていいものではなかったけれども、万が一あれの続編が出るとかなったら今度は殺陣のシーンとかは絶対に代役立ててもらおう。

 

「……で、ピンク髪二人組、どこ向かってんのこれ」

 

「呼び方ひどくない?!」

 

「それに彩さんと私じゃ髪の色ちょっと違いますからね?!」

 

だって共通点多いじゃん……。こうやって人を振り回したり、SNSに命かけてたり。あとちょっと抜けてるところとか。共通点を抽出したら2人まとめてピンク髪になるんだよ。

 

「えっと。この先の道を曲がったところにね……」

 

「最近流行りのパフェが有名なお店があるんですよ! ね、彩さん!」

 

「そうそう! この間透子ちゃんも写真撮って投稿してたらしいから、私たちも、って思ってね!」

 

「パフェかぁ……」

 

正直最近パフェがやたらと重くなってきたというか、甘いスイーツを大量に食べると体が少しばかり拒否反応を示し出してきたというか……。おいそこ、老化とか言うんじゃないよ。まだピッチピチの大学生だからな。

 

「というか、パフェなんて……。そんなの食べて彩は大丈夫なのか?」

 

「えっ?」

 

「この間千聖が言ってたぞ? 『彩ちゃんまた最近少し体型を気にしないようになってきたようなのだけれど……大丈夫かしら?』って」

 

「え、あ、あはは……。運動すれば……ね?」

 

「そうですよ彩さん!」

 

「ひまりもだぞ」

 

「え?」

 

「モカが言うには『ひーちゃん私がカロリー送ってるって理論否定しながらも、結局自分がいっぱい食べてるから太っちゃうんだよねぇ』、だってさ」

 

「あ、あ、あ……」

 

「大丈夫だよひまりちゃん! だって考えてみてよ?!」

 

「はぁ?」

 

「食べ歩きは美味しいものを食べるために、歩くんだよ?! 歩くのにはカロリーを消費するから食べたものは実質カロリーゼロ! 私たちはバンドの活動も頑張ってるからむしろ栄養補給!」

 

「あ、彩さん……!」

 

「私たちはステージで輝くために美味しいスイーツを食べるんだよ?! つまりファンのみんなのためにスイーツを探し求め「今の録音して千聖に送っとくから」わーーー?! 嘘! 嘘嘘! 冗談だよ?!

 

そんな、カロリーは高温にも低温にも弱いから実質カロリーゼロ……みたいな理論に匹敵するレベルのぶっ飛んだはちゃめちゃな理論が通るわけもなく。録音したというのは流石に嘘だけれども、もし今度千聖からその話聞かれたら今の話絶対してやろう。

 

「で、そんなことはさておいて、店はまだなのか?」

 

「死刑宣告がそんなこと扱いされた……」

 

「えっとですね。あ、この角を右に曲がって……」

 

「あっ」

 

その角を曲がればー。あの日見た、懐かしい景色がー。やってくるー。

 

「うへぇ……この坂道を登るのぉ……」

 

「が、頑張ろうひまりちゃん! って、雄緋くんどうしたの?!」

 

「脚パンパンでもう無理……」

 

\(^o^)/

 

 

 

 

 

「着いたぞぉ!!」

 

「やったぁ!」

 

「……」

 

え、テンション低いって? 許せ。

 

「すごい、外観からしてすごいオシャレ……!」

 

「なんだかファンタジーの世界に来たみたい! お菓子の家みたいな!」

 

横の2人はスマホを構えてお店を様々な角度から写している。元気だね……ほんと……。というかお店の中で食べるなら食べ歩きじゃないじゃん……。

 

「ほらっ、雄緋くんも一緒に写ろっ!」

 

「良いけど……。間違ってもSNSにあげるなよ? この間プチ炎上したの忘れてないならな」

 

「はい……」

 

「そういう細かいことは気にしちゃダメですって! ほらほら笑ってください!」

 

作り笑いがやっとの俺だったが、流石に記念に残るような写真に興を削がれるような表情をするわけにはいかず、どうにか大きな息を落ち着かせて、笑顔を作る。

 

「ちょっと、雄緋さん頑張って笑ってください! 表情硬すぎですよ!」

 

「もう少しだけ息を整える時間をください……」

 

「えへへ、ひまりちゃん。雄緋くんの表情を崩す良い方法があるんだけど、知ってる?」

 

「え、なんですか?」

 

俺の硬い表情を崩す方法? んなもん休憩させてくれ。という心の叫びが聞こえないままに2人はどうやら内緒話のように小さな声で話し込んでいる。俺はその間に酸素をどうにか体に入れて、上がった息を整えようと試みた。

 

「よ、よし。あ、彩さん、本当に良いんですよね?」

 

「うんっ、バッチリだよ!」

 

「何話してたんだ……」

 

「いいからっ、ほら、撮るよ!」

 

「は、はい。チーズ……」

 

「……え?」

 

両頬に触れた少しだけ熱を帯びた不思議な感覚にキョトンとする。それがキスであるということに気がついたのは、その唇が余韻を楽しむようにゆっくりと離れて数秒経った頃だった。

 

「……ちょ、彩さん。めっちゃくちゃ、恥ずかしいです」

 

「……えへへ」

 

「はっ……。……え?」

 

「……よし! 入ろっか!」

 

「お、おー!」

 

「えいえいおー!」

 

どうにでもなぁれ。

 

 

 

入り口に入ってすぐのテーブル席に着いた俺たち。なんだか隣の争奪戦とかいう不毛な争いが始まりかけたので、向こうに無理やり2人を座らせ俺が1人で反対側に座らせて貰った。せっかく来たカフェに争いを持ち込むの良くないもんね。

 

「こちらメニューになります。注文が決まりましたら、お申し付けください」

 

「ありがとうございます……。……で、何だっけ、パフェ?」

 

「うんうん! なんか透子ちゃんが言うには、期間限定メニューってことらしいんだけど」

 

「……そんなの、メニューにないっぽいですよね?」

 

この冬の時期の期間限定メニューということだから、みかんやりんご、いちごなどの果物が妥当なところだと思うのだが、メニューのどこを見てもそもそもパフェらしきものがまるで載っていない。まさか店を間違えたなんてあるまいし、どういうことかと話していると、ひまりが店員さんを呼び出していた。

 

「ご注文がお決まりでしょうか?」

 

「あ、あの、私たち期間限定のパフェを食べに来たんですけど、もう終わっちゃいましたか?」

 

「……まさか、あのパフェを?!」

 

「……え?」

 

店内の空気が……変わった……ッ?!

というか店員さんの反応もおかしい。あのパフェをも何も、仮にも自分の店で出してるんだから、驚くも何もないだろう。

 

なんて、思っていた時期が俺にもあった。

 

「お待たせいたしました! こちら『ウルトラハイパーゴージャスなミカンマシマシ・エクセレントスーパーフィーバーいちごデラックス全部乗せ卍卍卍からの秋冬が旬のフルーツオールマシマシ・りんご丸々1個大盛りピコピコデラックスパフェ春夏秋冬ver. 〜日本全国の美味しさを乗せて〜』になります!」

 

「……ぱふぇぇ?」

 

「お連れ様の頼まれた分もすぐお持ちいたしますので、お待ちください」

 

「あっ……はい」

 

パフェ。……パフェ?

俺の前にどどん、と置かれたそれは、まるでピッチャーのような容器に何重もの層を土台としてフルーツと生クリームとチョコレートソースが、全部可食部のフォンデュセットになってます、みたいな感じの『山』だった。というか向こうにいるはずの彩とひまりの頭のてっぺんが見えない。……え? 普通のパフェ無理って言ってたやつがこれ食べるの?

 

「なぁ彩」

 

「な、何っ?!」

 

「これ本当にカロリーゼロなんだろうな?」

 

「……うんっ!」

 

な訳なくて草。

いや待て待て待て。えっ。……えっ? 今から頼んで返品してもらえる? もっとこう……キラキラしてて可愛いねーこのスイーツ、みたいな。そんな会話を期待してたんだ。けども、これを見ての感想が『カワイイ』には絶対ならないんだよ。一部分を切り取ってようやく可愛いの要素を見つけ出せるのであって、これを見たら、『富士山を作ろうとした?』ぐらいの感想が出てくるんだよ。

 

「お待たせしました。お連れ様2人の分をお持ちいたしました」

 

どん! って音がテーブルから聞こえる。同じ高さのグラス……? 容器? が向こうに二つ並んでいる。

 

「こちら大量に食べ残された場合は量に応じて元の料金に加えて追加料金を頂く場合もございますので頑張ってください!」

 

「えぇ?」

 

「あ、あの。ちなみにこれ、何円ですか……?」

 

「こちらお一つで¥5,800になります!」

 

「ほぁ……」

 

出したことない声出ちゃった。

 

「あの雄緋くん……」

 

「……どうした」

 

「手持ち少なくて……今度返すからちょっと工面してくれたら、嬉しいなって」

 

「……任せろ」

 

「え?」

 

「……奢るから、全力で食べろ。いいな?」

 

「「……頑張ります!!」」

 

決意の叫びが響めいたときだった。俺の背後からドアベルのなる音がする。新しくお客さんが来たのだろうと気にも留めていなかったのだが。

 

「……あ! 透子ちゃん!」

 

「うそっ?!」

 

ひまりの声が店内に響く。俺が視線を背後に向けると、そこにいたのは。

 

「え? あ、ひまりさんと彩さんと、雄緋さん? って、なんですかそれ……」

 

今回の大元の遠因となった人物……。透子がいた。来店客に気づいた店員がこちらに駆け寄ってきたが。

 

「あ、連れなので! 大丈夫ですよ!」

 

追い返しました。

 

「え? あっ……まぁ。大丈夫ですけど。で、なんですか?」

 

「なんですかじゃないよ?! 透子ちゃんが前投稿してたやつなんじゃないの?!」

 

「え、えぇ?」

 

おかしいな。彩の必死の抗議もどうやら透子の反応とは噛み合っていないように見える。

 

「前投稿したやつ……っていっても、あたしがここのお店で前頼んだ期間限定のパフェって、先週末までのやつですけど……」

 

「え?」

 

透子の言葉を聞いたひまりがスマホを取り出し、SNSを開ける。

 

「あ、ああっ?! 全然違う?!」

 

見せつけられた画面に映っているのは他のお店でもあるぐらいサイズの、いちごのソースが食欲をそそるパフェ。

 

「えーっと。あたしもまた期間限定のやつ食べにきたんだけど……アハハ」

 

「なぁ、彩。ひまり。分かるよな?」

 

「うん。これは責任取ってもらわないと」

 

「透子ちゃん? お腹空いてるよね?」

 

「いやー、そのー用事を思い出したというか、ルイに呼び出されてるというかー?」

 

「いっつもミクロンって言ってたよな? このパフェもミクロンだよな?」

 

いや、分かる。自分でもかなり理不尽というか、ものすごい八つ当たりをしているのは分かっている。けど。けど……! こうでもしないと俺たちのブレイクされたハートをどうにかすることはできないんだ……!

 

「透子」

 

「これ食べるの」

 

「手伝ってくれるよね?」

 

「……ミクロン、じゃないっしょ……」

 

結局俺たち4人は、映えることには映えるこの超ウルトラスーパービッグジャイアントなパフェを撮り(画角は殆どパフェ本体で埋まってたけど)、実に2時間超というパフェを食べるだけだとありえないレベルの時間をかけてなんとか完食したのであった。

 

 

 

「……うぅ。食べた食べた……」

 

店を出た俺たちはみんな既に陸で呼吸できない魚のような目をしている。限界オブ限界。あとついでに俺の財布の紐は全開オブ全開。お陰で1万超飛んでいった。言い出しっぺの手前どうしようもないけど、ガラス代やら風呂の修理代やら出費が嵩んで生活が苦しい……。

 

「というかいきなりこれに巻き込むってひどいですよ〜……」

 

「でも透子ちゃんもこれ食べにきたんでしょ?」

 

「それはそうですけど……」

 

「透子が1人で食べるよりも、あのパフェ1/4個分少なくて済んだんだ。むしろ感謝して欲しいぐらいだ」

 

「1/4……?」

 

「彩さんどういうことですか?」

 

「えっ、私にもさっぱり……」

 

「みんな計算ダメなやつしかいないのか……」

 

おそらくこれ以上説明したところでわかってもらえそうにないので、適当にスルーしつつ、歩き始める。

 

「とにかくお腹いっぱいすぎて重いんですけど」

 

そう愚痴る透子の足取りは確かに重そうだ。まぁあの量のパフェを食べ切ったのだから、透子に限らずみんなのお腹が限界に近しいことは容易に想像がつく、というか俺も重たい。

 

「わかるー! はぁー、透子ちゃんが上げてたってパフェも食べたかったなぁ」

 

「写真見たら美味しそうだったよね。もう私食べられそうにないけど、お腹いっぱいだもん……」

 

「ふふ、彩ちゃん。ものすごく、一杯食べていたものね?」

 

「「……え?」」

 

「「あ……」」

 

背後から忍び寄る鬼哭啾々たる声。地獄の釜の底から這い上がってきたかのような声に震え上がった。だって、そこにいるはずがない……。

 

「ち、ち、ち、千聖ちゃん?!?!」

 

「彩ちゃん? 来週撮影があるのよね? そんなに一杯食べても大丈夫なのよね?」

 

「い、いやいや、今日のは私としても全く予測してなかった量というかもっと食べる量を少なくする予定だったというかびっく「彩ちゃん」はいぃぃっ!!」

 

あまりに鋭すぎる千聖の声に、彩含め、その場にいた一同が跳ね上がった。

 

「お説教が必要かしら?」

 

「ご、ごめんなさぁぁい!!」

 

まさか千聖が花音と一緒に同じカフェにいるなんてな……。

ごめんな彩。俺と透子は実は席の向き的に途中で気がついたんだけど、怖すぎてとてもじゃないが言えなかったんだ。

彩の斜め後ろの座席から尋常じゃない程威圧的な眼光で睨みつけられてるぞ、だなんて……。

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