ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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瑠唯の部屋【瑠唯 × ゲスト:湊友希那】

ルールル、なんていう清く高らかな歌声が音楽とともに聴こえてくる。聞いているだけで薔薇で清澄に彩られた部屋が脳内に浮かび上がる。西洋の客間にもよく似たその部屋に対面で向かい合うようにアンティーク調の椅子。そこに腰掛ける瑠唯は威厳を棲まわせたような佇まいをしている。ここは本当に俺の部屋なのだろうか——。

 

 

 

瑠唯の部屋

 

 

「本日お越しくださったのは、ガールズバンド界でその卓越した技術と経験で頂点を目指し羽ばたき続けるRoseliaのボーカルを務める、湊友希那さんです」

 

「こんにちは。狂い咲く紫炎の薔薇こと、湊友希那よ。よろしく」

 

やべぇなんか始まった。最近外に出向くことが多かったから久々の休日家でゴロゴロしよっかなぁとか考えてたら、あっという間に俺の部屋が魔改造されていって、気がついたらこんな部屋が出来上がって。で、気がついたら2人の対談みたいなのが始まってしまった。俺1人だけ取り残されてるんだけど、一体俺はここで何をすれ

 

「最初にお聞きしたいのですが、『狂い咲く紫炎の薔薇』という名前は少々長くありませんか?」

 

「……えっ?」

 

「態々11モーラもかかる二つ名で呼ばなくても『湊友希那』で十分だと思いますが」

 

「そ、それは雰囲気というか、カッコ「無駄だと思います」良……さ……」

 

オーバーキルェ……。

 

「まぁご自身がカッコいいと考えていらっしゃるなら私はそこまで否定しませんが」

 

「そ、そうよね。イメージ戦略としてもカッコ「まぁ私は少々冗長のように思いますが」……」

 

反論する気すら刈り取る言葉の暴力。友希那の目からは完全に始まった時の自信に満ち溢れた瞳が失われたと言うか。うん、ちょっとだけ可哀想。

 

「け、けども八潮さんも『正論爆撃機』という二つ名を持っていたんじゃなかったかしら。私の二つ名のセンスに口を出せるほどかしら?」

 

「持ってはいますが、自称することはありません。というより、私たちmorfonicaの二つ名を付けてくださったのは戸山さんや湊さんですよね?」

 

「……あ」

 

「そもそも湊さんのワードセンスの問題になるのでは?」

 

「とても良い二つ名だと思うわ。大事にしなさい」

 

掌クルックル。

 

「そろそろ本題に入ろうと思うのですが、湊さんはお父様が音楽を嗜まれていたということですけど、ご自身が音楽を始められたのはそういった点が大きかったのですか?」

 

「えぇ。私がRoseliaで頂点を目指そうとしているのも、突きつければ私の……ある意味ではわがままのような、音楽に対する想いからよ」

 

「非常に興味深いですね。Roseliaの楽曲は確か湊さんが全て作曲や作詞をされているんですか?」

 

「そうね。リサが作詞をした時もあるけれど、基本的には曲を作るのは殆ど私かしら」

 

「私もmorfonicaで作曲をしていますが、コツのようなものはあるんですか?」

 

「コツ……。音楽に直向きに取り組んでいれば、頭の中にメロディーがふっと湧き出てくるわ。だから強いて言うならば、己の音楽と向き合うことかしら」

 

「なるほど、作詞はどうですか?」

 

「作詞……。それも日常のなんでもないことも歌に乗せることだから、色々な経験をすることかしら」

 

「そうなんですね。この間珠手さんから聞いたことなのですが、あまり英語のテストの成績が芳しくなかったとか。英語が出来ないのに歌詞を書くときに困ることはないんですか?」

 

「えっ……あ……。……歌詞は自分の想いを乗せるものだから問題「でも言葉が分からないとそもそも伝えることは出来ないですよね?」……があることもあるにはあるかもしれないわね」

 

なんだろう……。多分友希那は頑張って受け答えしようとしているんだけど、そのどれもこれが論破されそう。その場その場で答えてる感が否めないようにも写る。

 

「というより、あの小テストの点数……。チュチュ……他の人に漏らした「それと今井さんから先日行われた校内のテストの点数の結果を頂きました」ちょっと?!」

 

「読み上げますね。現代文 48点、古文 62点、数学 45点、英語 32点。赤点ギリギリですね」

 

「あ……あ……」

 

「音楽以外はポンコツという噂はある程度正しいようですね」

 

「べ、勉強なんてそんなものやらなくったって「今井さん曰くこのテスト結果は氷川さんに報告するとのことです」リサァァ!!」

 

珍しく声を張り上げる青薔薇の歌姫。まぁ……この点数は多少怒られたって仕方ないよね。諦めてお説教を食らってもう少し頑張っていただきたい。

 

「紗夜……違うの……これは……これは……。体調が悪くて勉強に集中することができなかったから……」

 

「譫言のようなものを呟かれていますが、話を続けますね。話がズレてしまいましたが、具体的には湊さんは音楽に対してどれほどストイックに取り組まれているのでしょうか」

 

「す、ストイック? えっと……。ど、どういう意味かしら?」

 

「つまり禁欲的に」

 

「もっと簡単に言ってくれるかしら」

 

「どれほど真剣に取り組まれているのですか?」

 

「あ、あぁ! ……どう説明すればいいの?」

 

おい、こっちを見るな。さっきまで場所奪った挙句、散々家主を蚊帳の外においたまんまで対談を始めたくせに困ったらこっちを頼ろうとするな。お陰でさっきから2人の間で凄まじい言論の応酬が繰り広げられていたのに俺は何も発言することなくずっと話を聞

 

「例えばどのようなことを考えながら音楽を作っていらっしゃるのですか?」

 

「どのようなこと……? え、えっと……えっと」

 

「参考までに、今井さんからの情報によると作詞の際は部屋にある猫のクッションに頭を擦り付けて作詞するそうですね」

 

「ぶふっ!!」

 

「なっ?! そ、それは。それは、きっとリサの妄言よ」

 

「こちらがその映像とのことです」

 

俺の部屋のテレビの画面に録画映像が流される。そこにはベッドの上で不動のまま天井をしばらく見つめ、体勢を変えてベッドの上に置かれた猫の顔のクッションに何度も頭を埋め、突然何かを閃いたように顔を上げる友希那の姿が。えっ、というかなんでこんな映像あんの? 流石に隠し撮りというレベルじゃないというか、友希那の部屋の中にカメラ持ってリサが待機してで

 

「あ……あ……あ……」

 

「猫のクッションに頭を擦り付けることにはどういった効果があるんでしょう?」

 

「……リラックス効果よ」

 

「なるほど。リラックスすることで歌詞が頭に浮かんでくるとか?」

 

「……そう。これはにゃーん……、いえ、猫のご加護を受けることにより、スラスラと頭の中に歌詞が湧き出てくるようにしているのよ」

 

「ご加護? そんな非科学的なことありえませんよね?」

 

「……」

 

やばい。さっきから言葉のナイフがグサグサと鋭く友希那の心をピンポイントで貫いてる。そりゃ付け焼き刃の受け答えじゃ正論にボコボコにされるのは仕方ないよね。付け焼き刃、そう言葉のナイフだけにね。なーんちゃっ

 

「というより、なんでも猫がお好きなのだとか」

 

「……?! ……いいえ。誰から聞いたのかしら?」

 

「各方面から伺っていますが。猫を追いかけて池に飛び込んだ話や、練習場所のCiRCLEに大量の猫を連れてきてしまって、挙げ句の果てには自らが恰も猫であるかのように振る舞って、氷川さんに戯れついていたとか」

 

「……あ、……にゃーん」

 

もうやめてあげてください。友希那さんのライフポイントが0になってしまいます。え? 俺の財布の残高? とっくのとうに Z ☆ E ☆ R ☆

 

「またある方のタレコミだと、なんでもラニーニャ現象が猫の大量発生イベントのような何かと勘違いしていたとか」

 

「……違うの?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「……ごほん。ラニーニャ現象には猫は関係ありませんが。それはそうと、猫がお好きなんですよね」

 

「……まぁ、そういう考え方が出来ないこともないわね」

 

「音楽と猫ならどちらが好きなんでしょうか?」

 

「え? それは勿論……。……ハッ」

 

——刹那、友希那の脳内を溢れ出る思考の渦。

 

友希那は悩んだ。もしも仮にここで友希那自身が『音楽』が好きだと答えたとしよう。それは決して嘘などではない。彼女が心の底から音楽に人生の全てを、心血注いできたことは紛れもない事実であり、それは未来永劫不変の事実なのである。原始より、音楽は彼女にとって己の分身と言っても良いほどの存在だったのである。即ち彼女は音楽であり、音楽こそ彼女であった。彼女のこれまでの生涯は音楽と共にあったと言っても過言ではなかった。

ではここで「音楽」と答えるべきか? 答えはNOだ。それは彼女が愛してやまない『猫』という存在への謀反、裏切りであるのだ。猫。人心を惑わし、誑かして、その心を虜にしてしまう。その行動から仕草まで何から何をとってもまさに完全無欠、天衣無縫の生物。その可憐なる姿に心を魅了し尽くされた人間は1人や2人ではない。人類そのものが古来より関わりを持っていた生物ですらある。その猫の呪縛に取り憑かれてしまったのは湊友希那とて例外ではない。彼女は人知れず猫を愛し、猫にその心を傾ける。普段こそ冷静沈着に振る舞う彼女の心の平穏を唯一容易に壊し得る。それこそが湊友希那にとっての『猫』なのである。

ではここで「猫」と答えるべきか? 答えはNOだ。彼女は音楽と一心同体。この場で自らが愛するものを猫と断言して仕舞えばそれは彼女自身の自己否定をするに等しい。自らが人生そのものと疑わずに費やしてきた行いをも否定し得るのであり、彼女の存在の意義すらも揺るがす言説なのである。彼女が己のアイデンティティを喪失しないためには彼女自身が我が身を呈してでも守り抜きたい猫を捨する他なく、彼女は人生で一番とも思しきほど重大な人生の岐路に立たされたのである……ッ!!

 

この間、なんと3秒。彼女の軽く見積もっても80に近い年数を有する人生全てを決定せしめんが如き難題に直面した彼女。しかしながらその思惟は常人の思考回路を遥かに凌駕する。彼女自身である音楽か彼女の最愛の生物かの2択。それを選択する彼女の瞑想にも似た思考のプロセスを確かめるべく我々はアマゾンの奥

 

「にゃーん……ちゃんと音楽は違うようで同じなのよ。表裏一体なのよ」

 

「な、なんだってーーー?!」

 

そ、そうか。彼女にとって音楽は彼女そのものであり、それでいて猫だって彼女そのものなのだ。即ち湊友希那、音楽、にゃーんちゃんは違う形態を保っていると我々が認識しているに過ぎず、本質的にはそれらは全て同質的なものを指しており、それはまさに三位一体の様相を呈し、彼女という存在を形づく

 

「なるほど。ならば猫が作詞のモチベーションの源泉ということも腑に落ちますね」

 

「そうよ。まさに猫は猫であるが故に音楽の形態を持った猫であり湊友希那なのよ」

 

やばい。分からん。もう何が何だかわからんぞ。つまり湊友希那は音楽であるからしてにゃんにゃん鳴いているということなのか? 今の俺の目の前にいる湊友希那は我々がそうだと認識しているから『湊友希那』なのであって、違う時間軸の『私』から見ればそれは猫であるとも認識し得る存在なのか?! 分からん、わからんぞ!! 今俺が見ている湊友希那は一体どの湊友

 

「それで、音楽か猫、どちらが好きなんですか」

 

「両方好きよ。優劣の差はないわ」

 

「好きなものがあるというのは良いことだと思います」

 

「そうよね。にゃーんちゃんは世界を救うのよ」

 

「それだと猫の方が好きということになるのでは?」

 

「私が両方好きだと言えば両方好きになるのよ。分かったかしら」

 

「……分かりました。それではここで、湊さん宛のお手紙が視聴者の方から届いておりますので読み上げます」

 

え? 視聴者って言った? もしかして今俺の部屋……原型は留めてないけど全世界に電波に乗って公開されたりしてる? いやまぁ、テレビカメラに似た何かが搬入された時点で何かしらは察してたし今からどうこう言ってももう手遅れなんだけどさ。なるほど、公開処刑されることを今さら後悔しても意味ないと、公開処刑を後悔す

 

「では、ペンネーム『おねーちゃん大好き』さんから

 

この間CiRCLEでRoseliaが練習しようとしていた時、猫のフリをした友希那ちゃんがおねーちゃんにスリスリしてたのを見ました。どういうことですか? あたしのおねーちゃんに手を出すなら、いくら友希那ちゃんでも容赦しないからね。

 

とのことです。相当恨みを買っているようですね」

 

「ち、違うのあれは……。そ、そう、誤解よ。あの時こそ私は正真正銘猫だったのよ。私は猫になっていたからあの時の湊友希那は私の意思では動いていなかったわ」

 

「それだとやはり先程の湊友希那ないし音楽と猫が表裏一体であるということと辻褄が合わないのでは?」

 

「そ、それは……」

 

「よく分かりませんが、これだけ怒りを買っているのであれば素直に謝るのが吉かと」

 

「あ、謝るも何も「では登場していただきましょう。ゲストの氷川日菜さんです」えぇっ?!」

 

重厚そうな音楽とともに煙の中から現れたのは。

 

「あはは、友希那ちゃん。分かってるよね?」

 

「ひ、日菜?! どうしてここに」

 

「どうしてもこうもないでしょ? 知らなかったの? あたしと雄緋くん以外おねーちゃんに手を出しちゃダメって。おねーちゃんに手を出そうとしたんだよね?」

 

「そ、そんなことはっ、ひぃっ?!」

 

「ねぇ」

 

「な……あ……」

 

 

「 ユ ル サ ナ イ 」

 

 

ラーラーラーラーーー♪(放送事故)

※日菜ちゃんの怒りはこの後スタッフと紗夜さんが美味しく必死になって鎮めました。

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