ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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流星堂のお宝鑑定団【有咲&蘭&イヴ】

越天楽の平調が聞こえてきそうな雅に飾り付けられた蔵の中。スポットライトがマイクを持った俺に当たる。

 

「えー、始まりました。質屋に眠る掘り出し物やご依頼の品を専門家の方に鑑定いただく、お宝鑑定団。司会の北条雄緋です。どうぞよろしく」

 

「おい、なんだこれ!」

 

「……えー、今回お邪魔させていただくのは、市ヶ谷家に所縁のある、流星堂でございます。流星堂の経営者のお孫さんに来ていただいております。市ヶ谷有咲さんです」

 

「あ、どうも……。じゃなくて! 私こんなの聞いてねーぞ?! ばーちゃん! どうなってんだよ?!」

 

「許可はいただきました。はい、そして、本日お越しいただいた、日本文化に詳しい専門家の方をご紹介いたします」

 

スポットライトが切り替わる。真っ暗になった蔵の中。天井のライトが切り替わって、黄色いライトが照らし出した先には。

 

「まずは、華道の大家、美竹流の精神を受け継ぐ1人娘、美竹蘭さんです」

 

「……よろしく」

 

「続いて、北欧にルーツを持ちながら、日本の伝統文化に明るい、若宮イヴさんです」

 

「若宮イヴです! 押忍!」

 

「お二方、今日もどうぞよろしくお願いいたします」

 

「ちょっと待った!!」

 

「……何?」

 

話の流れを完全にぶった切って俺の横に立っていた有咲が割って入る。その様子を見るにどうやら何も知らされていないようで、相当慌てた様子に見える。

 

「私何も聞いてない!! 雄緋さんもそうだけど、蘭ちゃんとイヴなんでいるんだよ?!」

 

「高名な専門家の先生を気安く呼び捨てで呼ぶなぁ!!」

 

「えぇっ?!」

 

「おっと失礼。じゃあもう一回説明するぞ?」

 

「え、あ、はい」

 

「流星堂を盛り上げようと、質屋に眠る骨董品を見つけ出そうという企画が立ち上がりました。司会として何故か俺が呼ばれました。専門家には蘭とイヴが来てる。君は出品者、いいね?」

 

「……え?! 私が勝手にばーちゃんのもの売るのかよ?!」

 

「鑑定するだけだから! では早速、一つ目の作品を持ってきてください」

 

「わ、分かりましたよ……」

 

なんでも事前にスタッフが有咲のおばあちゃんに交渉して出品するものは事前に調整していたらしい。そして、店の裏から、事前に用意されていた流星堂に長く眠っていた骨董品が前に出される——。

 

「えー、こちらはですね。……『性質転換クッキー』とありま「ちょっと待て」え?」

 

いやいやいやいや。

 

え?

 

おま、おま……これ俺がこの間痛い目みた弦巻財閥オリジナルのトンデモクッキーじゃねーか?! 何故だ……あれは俺の部屋の菓子コーナーの奥の奥に厳重に封印してあったはずだ……。一体どうしてそれがこの世に出てきているのだ?!

まずい……まずいぞ……。彩がヤンデレに堕ち、千聖がツンツンし、花音がクールになったかと思えば途端に3人ともデレデレになって蕩け切る(意味深)まで甘やかされて『(^ω^ ≡ ^ω^)おっおっおっおっお』ってなってしまったあの日の記憶がぁぁぁぁ!!

 

「待て、有咲。それはダメだ」

 

「このクッキーに纏わる話を読み上げますね? ペンネーム:世界を笑顔に教 様から。

『これは食べた人の性格が味によって変幻自在に変えられるクッキーよ! 食べた人みんながとーーーっても笑顔になるために作ったわ! 是非ともみんな食べてくれるかしら!』

とのことです」

 

「やっぱり……。あのクッキーと一緒じゃねぇか……。どうしてここに」

 

「あ、そのクッキーは今朝私がユウヒさんの家から持ってきました!」

 

「イヴが持ち込んだの?」

 

「はいっ! アヤさんとチサトさんからとても素直になれる美味しいクッキーがあると聞いて!」

 

素直になれるクッキーってそれもう自白剤入ってるでしょ……。というかクッキーは俺の家から持ってきましたってめっちゃナチュラルに不法侵入自白してきてるんだけど? 俺は一体どういう反応をすればいい?

 

2度とあの安息の地(自室)は戻らなかった。

私室と公共スペースの中間の場所となり、永遠に人が入り浸るのだ。

 

そしてどうにかしたいと思ってもどうにもなんないので。

——そのうち俺は考えるのをやめた。

 

「えっと、それで、これどうするんですか?」

 

「う、うーん。と、取り敢えず鑑定を」

 

「食べてもいいですか?」

 

「ダメ、ぜったい」

 

蘭がクッキーに手を伸ばそうとしたので、慌てて止めようとする。……が。

 

「あれ、食べちゃダメなんですか? もぐもぐ……」

 

「ちょ、イヴなんで食べてんの?!」

 

時すでにお寿司。すでにイヴはそのクッキーを躊躇なく食べていた。終わった……。これでイヴがヤンデレクッキーなんか引いた日にゃ……。あれって彩が食べてたやつだから、多分チョコ味だよね。

 

「うーん、チョコですかね?」

 

オワタ。

 

「いいか? 蘭、有咲。お前らは食うなよ? 絶対だからな?!」

 

「それってフリなんじゃ」

 

「フリじゃねぇ! ガチだから!! ……さて、イヴはどうなる?!」

 

のんびりとお茶の入った湯呑みを片手にクッキーを咀嚼するイヴに相対して、反撃の構えを取るという、傍目から見れば何が何だか訳の分からない光景が広がっている。けれど、待てど暮らせどイヴの様子がおかしくなる様子はなかった。

 

「なんともないですよ?」

 

「うーん、何か彩の時とは違うのかな……。と、とにかく! 鑑定額の発表をお願いします! Open the price!」

 

「よく分かんないけど、あたしは量的に1,200円ぐらいで」

 

「美味しかったので私は2,000円ぐらいだと思います!」

 

「というわけで、鑑定額の平均は1,600円ということになりました!」

 

 

性質転換クッキー○○評価額:¥1,600

 

 

「続いて参りましょう。有咲よろしく」

 

「はーい、とってきまーす」

 

うんうん、もうこの突発的なカオス空間に慣れてきたか。有咲も素質がありそうだな。それはさておき、有咲が持ってきてくれたのは……。

 

「えっと……詳しくは知らないんですけど、何か焼き物? で、高級そうな器です」

 

「はい。とても綺麗な絵付けがされている磁器ですね。伊万里焼ですかね、の器ということですね。では専門家の方。鑑定をどうぞよろしくお願いいたします」

 

壁際に座っていた蘭とイヴが立ち上がり、台の上に置かれた焼き物を様々な角度から見ている。取り出したルーペで細かい紋様まで見たりと、かなり本格的だ。

 

「……なるほど。この発色……。悪くないね……、って、こ、これって」

 

「とても和の心を感じます!」

 

「では専門家の先生に鑑定をしていただいている間に、こちらの磁器に纏わる話を、市ヶ谷さんにお伺いしようと思います」

 

「えーと、えっと、あ、これか……。

このお皿は私の家にあったお皿で、代々大切に桐の墓に入れたまま受け継がれてきました。表に出しておくと妹たちに割られてしまう危険もあるので、その前に鑑定していただきたくお待ちいたしました。まぁ学級委員長の私の家のなんだから、きっとすごい品だよね!』

とのことです」

 

「なるほど……。お持ちいただきました、ペンネーム:スギナ様、ありがとうございました。では専門家の方の鑑定結果が出たようです。Open the price!」

 

「じゃああたしから、多分だけど、500,000円ぐらいかと」

 

「私は……、ズバリ、300,000円です!」

 

「な、なんと?! かなりの評価額が出ました?! では若宮先生の見解をお願いします!」

 

「はい……。こちらの磁器からはSAGAを感じます……。とても高尚な魂を感じました!」

 

「なるほど……。美竹先「買います」へ?」

 

「……この焼き物、あたしが買います!」

 

「いやいやあの……美竹さん?」

 

「この器……。底の方は粘土の質感が素朴な味を出しつつ、上面の釉薬が雰囲気を壊さない程度にしっかりと存在感を示していて……。花器にピッタリじゃん。買うよ」

 

「で、でも美竹さん。評価額だと500,000円なんじゃ……」

 

「交渉するから。鑑定評価額と実際の取引額は一致しないんだよ」

 

 

伊万里焼の器○○評価額:¥x(ただしxは任意の自然数)

 

 

大事なこと? ゴリ押しです。

 

「ありがとうございました! それでは次に参りましょう!」

 

「はーい、もってきます」

 

そうして、次に奥の部屋から有咲が台車に載せて持ってきたのは箱に入った何かだった。

 

「……なんか見覚えあるな」

 

運ばれてきた長方形の箱はかなり細長い。真っ白な布に包まれて出てきたのは……。

 

「こちら、江戸時代に鍛え上げられた、妖刀・熊正、とのことです」

 

「あれこれって」

 

見覚えがあるなと思ったら、これは以前花咲川で時代劇を撮影した時にイヴが持っていた剣なのでは……。

 

「こ、これって?! 鑑定します!」

 

イヴもどうやら気がついたようで、飛びつくようにブシドーの塊に興味を示した。

 

「えっと……じゃあ、有咲。出品者からの話を」

 

「あ、はい。これかな……。ペンネーム:キグルミの人 様から。

持っているだけで全身が熊になってしまったかのような錯覚に遭います。構えると全身にブシドーが溢れ出て、クマの着ぐるみに身を隠したくなります。私はこの妖刀を手にした時から、日常のありとあらゆる場面でクマによるクマのためのクマとしてのクマ生を送っていくことを望むようになりました。是非皆さんも手に取ってみてください』

とのことです」

 

「絶対ダメじゃん。触った瞬か「この妖刀、オーラがすごいです!」言ったそばから?!」

 

まずい。まずいぞ。今日のイヴがアクティブすぎて、次々と曰く付きのやばいものを片っ端から引いてしまっている。そろそろ止めなきゃいけないんだけど、まずこれをなんとかしないとイヴが商店街を賑やかす熊になってしまうちょっと見てみたい気もする

 

「熊正……私のクマッブシドー精神をくすぐってきます! まさにこれぞ日本のクマッブシドーの現れですね!」

 

「やばいじゃん……」

 

ブシドー精神が熊に精神を乗っ取られてるよ……。このままだとイヴがクマ生を送るなんていう訳の分からない苦行を強いられることになる。

 

「私はこのままクマドーを極めて! 熊になります!」

 

ダメそう。

 

 

妖刀・熊正○○評価額:¥8,109,003

 

 

「流星堂は様々なものが置いてあって、見てるだけで楽しいですね」

 

「あれ全部ウチに置いてあったやつじゃねー?!」

 

言われてみれば……。クッキーと磁器と日本刀だもんね。骨董品屋さんで置いてありそうではあるけど(※ただしクッキーを除く)。

 

「さて、では次が最後の鑑定品ですね。どうぞ、持ってきてください」

 

「はーい」

 

有咲はもう何もこの企画を疑うこともせず、俺の指示に従順を極めている。まぁとんでもないような状況に幾度となく晒されている先輩である俺からの意見、アドバイスとしては慣れろ、気にするな、これに尽きる。

 

「で、なんですか? これ……箱被せられてて、結構でかいんですけど」

 

「あー。有咲、その箱、取ってみな」

 

飛ぶぞ(意識が)。

 

「はいは……ちょ?! 私の盆栽?! ああ?! 神田川?!?!」

 

「というわけで、本日最後の品は、市ヶ谷有咲さんが育てた盆栽、松の神田川になりま、ぐぇぇっ?!」

 

「てめぇっ?! こんな狭っ苦しい箱の中に神田川を閉じ込めやがってマジでふざけんなよぉ?!」

 

「ぎぶっ、ギブギブ……」

 

「うわああぁぁぁぁ神田川あああぁぁぁぁ!!」

 

「ごほっごほっ……えぇ。う、売るわけじゃないからこれ……鑑定するだけだから……よろしく……」

 

酸素が足りない……。そうか……これが密閉空間にいた神田川の辛さだったんだ……。呼吸はおろか光合成もできない窒息状態の神田川の苦しみだったんだ……。

 

「この神田川……、すごい……この枝を切って、この花器に生けたら……。そうだ、作品名は……『青葉』!」

 

「ぎゃあああ?! 蘭ちゃんやめて、やめてっ! 神田川を切らないであげてぇぇぇっっ?!」

 

「熊正が……切りたがってます……! いえ、斬りたがっているのです! お覚悟っ、お命頂戴つかまつるっっ!」

 

「いやぁぁぁぁっっ神田川ああぁぁぁぁっっっ?!」

 

ジョキンッ。

ザシュッ。

 

「あ……」

 

✉️ 1件

ごめん↲

さよなら

 

 

「あ……」

 

悲しみの向こうを超えて、絶&望の境地に辿り着いたかのような有咲の断末魔。

 

「神田川あああぁぁぁぁぁっっ?!?!」

 

神田川は犠牲となったのだ……。彼は……盆栽としての生を全うし……、生花……、生花? となり、そして竹入り畳表となり。その幹を真っ二つにされた……。

 

「神田川ぁ……」

 

利根川は売られ、多摩川は誤って剪定され、千曲川は生け贄となり。

神田川は尊い犠牲となった。

市ヶ谷有咲。類稀なる才能を秘めた彼女が育てる盆栽はとても質がいいと評判を呼びながらも、悲惨な運命を遂げてしまうのである。

 

「青々と茂る葉っぱ……切られてもなお力強く葉を伸ばす姿。……悪くないね」

 

「ブシドーを目指すのです……。ごめんなさい、斬った相手の名前は覚えない主義なんです……」

 

やめろ! 剪定バサミと妖刀・熊正で、その枝の全てを切り落とされたら、深い絆で盆栽と心を通わせている有咲の精神まで蝕まれる!

 

お願い! 枯れないでくれ神田川! お前が今ここで完全に切り落とされたら、利根川や多摩川、千曲川たちとの約束はどうなっちゃうんだよ?! 枝葉はまだ残ってる! ここさえ乗り越えられたらまだ光合成が出来るんだから!!

 

次回、『神田川 枯れす』。ミュージックスタンバイ!

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