ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

3 / 89
深夜テンションです。りみりんが色々ぶっ飛んでます。許して……許して……。





初詣のために【ポピパ】

悲報、三ヶ日今日で終わり。

 

俺の頭には昨晩からこんな言葉がずっと浮かんでいる。え、だって正月休みもう終わり? 年末年始過ぎた? テレビとかまだまだお正月特番やってるよ?

ところがどっこい、大変お気の毒ですが、正月休みは消えてしまいました。今日で、消えます。俺の正月何してたかって問われると、元日、パスパレとイチャ……戯れて、1月2日、Roseliaと戯れて。俺の正月休み、1人の時間がほぼありませんでした。どういうことなんだよと、いやさ、1人じゃなくて、寂しくなくて良かったね、とかそんな中途半端な慰めは要らないよ。

違うのだよ、今俺が心の底から求めているのは日頃疲れ切った心を癒し、これから始まる一年への準備、チャージ期間としての正月だよ!! 初詣すら行ってません。だから俺は。

 

 

 

「この時間なら……大丈夫だよな?」

 

只今の時刻、04:30。朝日は出ておりません。なお1月1日とかではありませんし、今日見るであろう日の出は初日の出にはなりません。大晦日から終夜元日エンジョイするわけではなく、三ヶ日の最終日、朝から神社に来ています。我ながらかなり発想がイカれているのかもしれない。

けど、もう俺は学んだのだ。昼過ぎぐらいに初詣行くかーなんて思考回路してたら誰かが押しかけてくるんだもん。そりゃあもう気合い入れて朝から突入するしかないよね。

 

「着いたけど……まじ人がおらんな」

 

きっと元日こそ人手は多かっただろうし、参道の両端に並ぶ屋台も盛況だったのであろう。だが、こんな時間には流石にまだ屋台の店主も店を出す準備すら始めていない。というか俺が来る時間が異常なんだよな。

 

「……まぁ、静かな神社も乙なものかな」

 

こないだからうるさかったし。よし、登るか。目の前に傾斜をつけて待ち構えている参道の石畳を踏みしめた。

 

「坂長くね……」

 

すぐ登れるかなーとか、思ってた時期が私にもありました。参道なっがい。長過ぎってぐらい長くてもう足の筋肉が痛い。これはもう普段の運動不足が祟ってるだけかもしれないけど、新年明けていきなり筋肉痛とかやだなぁ。でもこんなの実質山登りみたいなもんよ。今でこそ初詣という目的があるから登れるけど、そうじゃなきったらもう登る気は起きない。

 

「ま、無病息災のついでに「あ! ゆーひくんだ!!」……厄年かぁ」

 

振り返るまでもなく、斜め後ろから聞こえてきた声がいきなり近くなってものすごい衝撃とともにやってきた。

 

「ぐはっ」

 

「明けましたおめでとぉー!」

 

「……はい」

 

元気が過ぎるぞ。というかこの遭遇率どうなってんの? 朝だぜ? 朝は朝でも曙よ。いや、空まだ真っ黒なんだけど?

 

「ちょ香澄っ、ダメだって!」

 

「あ、あはは……あけましておめでとうございます。香澄が、ごめんなさい」

 

新年早々俺にタックルを繰り出してきたのは猫耳少女、ではなかった、猫耳の髪型の少女の率いる、率いる? ガールズバンドグループ、Poppin'Partyの皆様方でした。こちらを見つけるなり駆け出してきた香澄の後を追うように4人もこちらに駆け寄ってくる。

 

「ゆーひくんも朝から初詣っ?」

 

「そうだけど、なんでいんの? 俺が言うのもなんだけど、朝っていうかまだ下手したら夜だよ?」

 

自分のことを棚にあげてるけど、だって外真っ暗なんだもん。神社の境内とかぼんやり灯された灯り以外の光源がないんだよ。普段なら参拝客が列をなしてるはずの本殿の前も人はスッカスカ、というか人っ子1人見かけない。

 

「楽しそうだったので」

 

朝からいる理由にはなってないんだけどなぁ、なんて思ったけどこのウサギ大好き天然少女に聞き返したところで多分無駄かな。

 

「沙綾ちゃんが家のこともあって忙しそうだったから……日中じゃなくて早朝なら余裕あるかなって」

 

「あー……。こんな正月から店開けてんのか、大変だな」

 

どうやらこのパンの少女がこの時間帯にこの5人組の揃う理由だったらしい。

 

「あはは、買いに来られるお客さんも居たので、それはそうと雄緋さんはどうかしたんですか? こんな朝から」

 

「えっ? あー……いや」

 

どうしようかね、まさか誰にも1人の邪魔をされたくなかったから、なんて目の前に人がいるのに言うのは少し憚られるし、けどかといってそれ以上に納得させられるような理由は思いつかない。いやだってそうでしょ、こんな時間に初詣きているやつは誰だって相当の理由抱えてるよ、多分。

 

「人には言えない、ってやつですか」

 

「いやいやそんな物騒なんじゃないけど」

 

「物騒じゃなくて人には言えない……、そ、それってまさか?!」

 

「え、なになに有咲?」

 

「い、い、言えるかぁーこんなの!」

 

朝からうるせぇ、と思ったけどこんなやつ前にもいたなぁ……。それはさておき、この金髪盆栽少女はあらぬ誤解をしているらしい。大方誤解の方向性の予想はつくけど、こんな神聖な場所でそんな破廉恥なことするわけないでしょうよ。

 

「あっ、どうせだったらゆーひくんもこれからさーやの家行こうよっ!」

 

「へ? いやいや俺これから初詣……」

 

まずい、この流れは非常にまずい。ちゃんと、これから参拝するんだって意思を伝えて

 

「香澄、ナイスアイディアだよ。それじゃあ連行しよっか」

 

「ちょ、初詣っ!」

 

「じゃあいっくよーーー!」

 

「え、わぁぁぁーー?!」

 

無 理 で し た ☆

 

 

 

 

 

「ぜぇっ、ぜぇっ……はしるの……はやすぎ……」

 

足ちぎれそう。腕痛い。あと握られてた手首かなり痛い。

 

「ってあれー? みんなはっ?」

 

「お前が……置いてきたんだろ……?」

 

なんか後ろの方から駆け足の音が聞こえてきた。後ろから追っかけてきたおたえとかりみとかのものだった。まさか正月の朝っぱらからこんな走ることになるとは……。これなら家でゴロゴロしてた方がよっぽどマシだったかもしれない。

 

「香澄ちゃんはやいよぉ……」

 

「りみ頑張って。後で沙綾がチョココロネくれるから」

 

「ほんとっ? ……よしっ」

 

「ほら……香澄走るの早過ぎだって……はぁっ、はぁっ」

 

抗議の目線を向けるが、香澄は一切気にするような様子はない。こいつ大物になるな、間違いない。

 

「って、あれー有咲は?」

 

「はぁっ……有咲ならもう多分後ろの方で……、あ、いたいた」

 

沙綾が指さす方向には、半分ぐらい白目を剥きながらこちらにゆらゆらと近寄ってくる人影。この言い方だと完全にただの不審者だね。要約すると体力を使い果たした有咲がいました。

 

「……かす……み……、ほんとに……」

 

なんとかこちらまで辿り着いたけれど、もはや文が言えていない。というか何が言いたいのか、吐息で全部途切れてしまって分からない。まぁ、香澄への抗議だということだけは確かだろうか。

 

「有咲きたし、それじゃ山吹ベーカリーで、新年会やっちゃおー!」

 

「香澄、もう1月3日だよ」

 

「あの、おたえちゃん。気にするところそこじゃないんじゃないかなぁ……」

 

りみの言う通りだよ、朝だよ。朝なんだよ。

 

只今の時刻、5時30分でございます。新年会? 朝のお勤めか何かの間違いでは? もしかして前夜から飲み歩いて、6軒目とかの山吹ベーカリーで締めだったりする? いやいやこいつら高校生だよな。そんな大学生みたいに馬鹿みたいなどんちゃん騒ぎの荒れた生活習慣送るなんてことないよね。

 

「さて、とりあえず私の家まで一旦帰ろっか?」

 

今いる商店街の入り口から沙綾の家、もとい山吹ベーカリーまで戻る。他のお店はまあ当然のごとくシャッターが下されている。まぁお正月だもんね、いやというかまだ早朝だもんね。普通閉まってるわ。

けどどういうわけか山吹ベーカリーはすでにシャッターも開いていた。

 

「よし、と、ただいまー、あれ、お父さん?」

 

沙綾たちに連れられるように店の中に入った俺たちの目の前に現れた沙綾のお父さんは、下を俯いて、娘の帰宅にも顔をあげようとはしなかった。

 

「こんにちは。どうかしたんですか」

 

「……すまん」

 

何故か頑なに顔を上げずに俯き続ける沙綾のお父さん。

 

「えっと、どうしたの?」

 

「材料が切れたので……。パンが、……作れなかった」

 

「……へ?」

 

「……今日は、臨時休業だ。あと新年会? とやらも、すまん、出せるパンがない」

 

「え? ええっっっ?!」

 

5人が声を上げて固まっている。俺どうしよう、完全部外者なんだけど驚くフリしておくべき? てか俺ここにいて大丈夫? お父さん初対面ですよね? というか俺の存在に多分気づいてないよね。まぁいいや、驚いたフリしとこ。

 

「え、こ、こ、コロネは……」

 

というか1番悲壮な顔を漂わせているのはりみだった。1番楽しみにしていそうだった香澄はぽかんとした表情を浮かべている。

 

「すまんりみちゃん……。……作れないものは、どうしようもないんだ……」

 

「は、走ったのに……、コロネが……ない……っ」

 

「え、えっと……りみりん?」

 

俯いて表情が見えないが、プルプルと拳を作って震えていた。そして。

 

「……え、と、りみりんどうしたの?」

 

ぽかんと突っ立っていた香澄の方に近寄って。

 

「お前が走ってココまで連れてきたからこちとらクタクタなんじゃどうしてくれるんや?!」

 

「ひぃぃぃりみりんごめん!!」

 

「ごめんで済んだら警察要らんやろがい!! どない落とし前つけてくれるんじゃ?!」

 

「ひぃぃぃぃっ?!」

 

「へえぁっ?!」

 

え、どゆこと? さっきまで大人しそうだったりみが豹変したように関西弁で捲し立ててキレ始めた。え、怖い。

 

「あん?! というか雄緋さんよ、あんたがおらんかったらそもそも走ることなんざならんかったわどないしてくれるんや!!」

 

「ひぃぃぃごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

 

違うんです誰にも会わないように04:30とかいう訳の分からない時間に初詣に出かけたらどういうわけかそこの猫耳少女に見つかってしまっただけなんですぅ俺は悪くないからああぁぁぁ……。

 

ガクンガクンって視界が揺れてます。胸ぐら掴まれてるんです。助けて……。

 

「ちょ、ご、ごめんりみりん!! 私が材料買ってきて作るからぁぁっっ!!」

 

沙綾の懇願によりなんとか怒りは収まったとさ。

あ、お昼過ぎには解放されたけど、初詣行けませんでした。え、理由? 疲れてたし坂を登る気力もなかったし、疲れたんだよ畜生め。

 

初詣? あー行けたら行くわ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。