ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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えー、暫く更新が滞っており、すみませんでした。ちゃんと定期的に更新していきます。
では、本編どうぞ。










パスパ霊能者の災厄【彩&りみ&七深】

雷鳴り止まぬ森の奥。寂れた鉄門に閉ざされた洋館。窓ガラスは割れ、烏がガァガァと叫び、侵入者を拒むがごとく、茫々と生い茂る高い草。

 

「こ、ここが心霊スポットと名高い洋館……!」

 

「おぉ〜。悍ましい雰囲気が外にいても伝わってくるよー」

 

「悍ましいって言ってる割にはりみちゃんも七深ちゃんもかなり声弾んでない?! 怖くないの?!」

 

「むしろ楽しみでドキドキするぐらいです」

 

「う、うそっ?! 私がおかしいの?! ねぇ、雄緋くん?!」

 

「いや知らねぇよ」

 

こんな山の奥に連れてこられた俺は心底機嫌が悪いのである。いやというか、普通誰でもそうなるでしょうよ。こんな山奥にある心霊スポットだとかなんとかに連れ出され、天候は荒れるわ、普通に怖いし。

 

「それにしても、本当にここ行くんですか? かなり霊の圧力を感じますけど〜」

 

「ちょ、そんなこと言わないでよ?!」

 

「そもそも、何でそんなに怖がってるのに来たんだよ? というか俺を巻き込むな」

 

「怖いんですか?」

 

「怖くねーし?」

 

「え、えっとね。実は今度から新番組をやることになったんだよ」

 

彩はそう言うと、スマートフォンでSNSを立ち上げた。山奥だけれどもなんとか電波は通じているらしく、SNSは速度が遅いながらも、タイムラインが表示された。そして彩が投稿している内容には。

 

「『パスパ霊能者』……?」

 

「そうっ。冠番組貰ったんだよ! けど……」

 

「けど?」

 

「私どういうわけだか分からないけどMCじゃなくてロケに行く羽目になったんだよ?! 訳わからないよね?!」

 

あっ……。多分彩が言いたいのは、冠番組なんだからボーカルである私はスタジオ収録の際にMCを務めるだけの仕事だと思ってたら、実際にロケに行くのは自分たちでこんな恐ろしい場所に足を踏み入れなければいけない、という文句らしい。でもまぁ、彩がMCは多分現状無理そうなので、リアクションの大きそうな彩をロケに駆り出そうとしたテレビ局のスタッフはきっと有能である。そして今日はそのロケの予行演習みたいなものと。

 

「あはは……。えっと……頑張ってください?」

 

「というより、そろそろ行きません〜? 暗くなったら帰るの大変ですし」

 

「そうだよ、帰りの車も運転するの俺なんだから、早く帰らせろ」

 

「そ、そうだよね。よし……行こう!」

 

廃墟と化した洋館は、玄関に入る前から既に雰囲気たっぷりである。どっからどう見ても『お化け出ます!』と言わんばかりの寂れ具合。蔦が壁面を多い、人の手が全く入っていないであろうことがすぐにわかる。

 

「それに、あんまり遅くなるとここだけの話。ここ、出るらしいですよー?」

 

「で、出るって?」

 

「なんでも、17時になると、無人のはずのこの洋館の屋上にある鐘塔から鐘が鳴り響いて、同時に地獄の釜の底から這い出るような囁きが聞こえてきて、……一生ここに囚われちゃうとか」

 

「ひぃっ?!」

 

「すごい雰囲気だねぇ……」

 

「感心してる場合じゃないよ?! そんなやばいところなの?!」

 

「流石に迷信だろ……」

 

「で、でも!」

 

「だって一生ここに囚われるなら、そんな噂が外で広まる訳ないんだから」

 

「そ、そっか……」

 

そもそもこの科学が発達した現代において、一見超常現象にしか見えないような摩訶不思議な出来事は、大抵科学の力でその原理を解明することが出来るのである。人類は歴史とともにさまざまな学問を発達させてきた。その進化とともに、迷信や心霊なるものの類いは、実は思い込みであったと証明されているのだ。だからお化けなんていない。絶対にいない。いる訳ないだろ。絶対。

 

「でも帰ってこれなくなった人がいるそうですよ?」

 

「や、やっぱりダメじゃん! あ、いやでも雄緋くんがいるなら別に一生ここに閉じ込められても……」

 

「おい、俺はゴメンだぞ、こんなところで閉じ込められて死ぬのなんて」

 

少なくとも、俺にはここで閉じ込められて生を終えることに価値を見出すことはできない。それが喩えどんな人間と一緒に閉じ込められるとしても、だ。

 

「というかおい、早く行くぞ」

 

「はーい」

 

そして、重々しく軋みながら、玄関の重厚そうな木の扉を開け放つ。中は真っ暗で、天窓からわずかに入る雲越しの太陽光だけが館内を不気味に映し出している。

 

「真っ暗だな。……っておい、お前らも早くこいよ!」

 

「え、だってこう言うのって、全員が入ったら閉じ込められて……っていうのが定番なんですよ?」

 

「だからって俺を売るなよ?!」

 

「雄緋さん怖いんですか〜?」

 

「ここここここ怖くねぇ! 不安なだけだ! いいからはよ来い!」

 

「はーい」

 

俺を放置しようなどと言う愚か者が館内に入る。その瞬間。

 

バタン!

 

「わっ?!」

 

勢いよくしまった背後の扉。冷や汗が流れる。これは、やばい。先程恐れていた定石が現実のものとなってしまいそうで。

 

「まさか……、うわぁっ?! 開かないっ、開かないよ?!」

 

「うっそだろおい?!」

 

「あーだから言ったのに」

 

「閉じ込められちゃいましたね」

 

とは言われても俺1人閉じ込められた方がそれはそれで大問題だ。絶対怖い。というか本当に、一応この明らかにやばい雰囲気がぷんぷんと立ち上るこの空間に閉じ込められたというのに、どうしてこの2人はそんなにも冷静なのか。

 

「よ、よし。脱出路を探そう! きっとどこかから出られるはずだよ!」

 

「言われずとも」

 

「えへへ、肝試しだぁ」

 

楽しそうな人2名。人生の危機に瀕した人2名。愉快なパーティーで洋館探索が始まったのである。始まったのであるが……。

 

「ど、ど、どこ行く?」

 

いかんせん怖すぎる。館内は真っ暗だし、耳の奥にまで浸透してくるような空間音や、肌に張り付くような冷たい空気——。

 

「ぴとっ」

 

「ふぁーーー?!?!」

 

「ちょっと雄緋さん。騒ぎすぎですよー?」

 

「だって?! いきなり首筋に冷たい指が触るとか心臓止まるかと思ったわ!!」

 

「ふー……」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

「ゆ、雄緋くんどうしたの?!」

 

「どうしたもこうしたもねーわ?! やっていい悪戯とガチでダメな悪戯があるだろ?!」

 

「ごめんなさい興味本位で……」

 

「興味本位で人を弄んで楽しいか?!」

 

ごめんなさい強がって。いやもう、これぐらい大声で威圧してないと、本当に怖いんだ。いやさ、怪談噺とかなら全然良いんだよ。怖い話ちょっとしたぐらいで幽霊とか出てくる訳ないし。悪霊退散とか言いながら陰陽師に除霊をお願いする必要なんてのもないし。

だが、現地となると話は別だ。だって怖いよ。怖いもんは怖い。暗がりから何か出てきたらどうすんの? 武器とかないよ? 防具もないよ? 倒せないよ? カッコいいスキルとかお化けを吸い込む魔法の掃除機とかないよ?

 

「さっきから雄緋さん、ぶつぶつしゃべってどうしたんですかー?」

 

「何でもない、なんでもない!」

 

「とりあえず端っこから手分けして回りましょうか」

 

「そ、そうだな。広いもんな、この洋館」

 

「えっ、じゃ、じゃあ、私とりみちゃんと七深ちゃんで……」

 

こいつら……。何をどう考えたらナチュラルに1:3のグループ分けができるというのだろうか。

 

「おい、俺を1人にするな?!」

 

「か弱いか弱い女の子3人ですよ〜? 人数は多くしておくに越したことないですよ」

 

「は、はぁっ?! か弱い男の子だっているんだよ!」

 

「まぁでも4人で回ったら時間かかりますから。よろしくお願いします〜」

 

「え、ちょ、おい、待てよ?! 待って……!」

 

洋館の右手側にある一階の部屋の奥。そっちへと3人の姿は消えていく。俺は1人取り残され、天窓からのわずかな光の束にすがっていた。

 

「……え、俺マジで一人で探索するの?」

 

俺の問いかけに答える人はいない。そりゃそうだ。というか居たらそれはそれで怖いからダメ。居ないでくれ、絶対。あ。いやでも誰かしら居てくれた方が怖くない、ちゃんと実体を持った何かしらであれば。

 

「く、ひ、左側……行くか」

 

脚は震えている。そりゃそうだ。怖いもん。ほんと怖い泣きそうガチで。

 

「うわっ、扉開いた……入ろう」

 

いやだってほら。扉開いただけで驚いてるんだよ? そんなビビり1人にしちゃダメですって。そんな根性なしをこんないかにもな洋館で1人にしたらダメだって。というかこんなところで1人行動とか、確実に死亡フラグ立ってるじゃん。犯人がいたらきっと今頃俺刺されて消されてるよ。

 

「ここは……食堂……?」

 

何やら中央に上板が長くて広いテーブルが広がっている。当然テーブルの上には埃が溜まっており、長年にわたり使いこまれた形跡が残っていない。

一応テーブルの中央には燭台が置いてあるが、古ぼけて黒ずみ、きっと美しく食卓を彩っていたであろう時もあるだろうに、そんな姿は想起することはできない。

壁には何やら肖像画のような。この家の主人か何かなのだろう。が、ここで壁にかかった肖像画は本当にやばい。よくあるパターンならこれが動いて襲いかかってきたりなんて……。

 

「いや……ダメだ。ダメだ考えるな考えるな」

 

その瞬間。

 

ガタッ。

 

「ぎゃあああっっ?!」

 

し、心臓が止まるかと思った。だって、ひとりでに物音なんて鳴るわけ……なるわけ……。

 

「あ、あ……誰か助けて……」

 

調子に乗ってて本当にすみませんでした。無理です無理です怖すぎます。なんなんですこの状況誠にもってありえなくなくなくなくないですか?

 

ゴロゴロガッシャーーーン!!

 

「ひぎゃぁぁぁあああっ?!」

 

どうやら外ではすぐ近くに雷鳴が轟いたようで、あまりの音のデカさにビビった俺は完全に腰を抜かした。というか窓らしきものがあるはずなのに、板で目貼りされているらしく、ここから脱出することは叶わないらしい。

 

ガタガタっ。

 

「ひぃっ?!」

 

どどどどどどういうこと? 今確実にテーブルがガタッって揺れたよねありえないよね? ダメだもう帰ろう。1人でここを探索とか絶対無理。無理なものは無理。どう頑張ってこの世にはどうにもならないことがあるそれが今まさにここに。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

俺はダッシュでエントランスホールに駆け戻り、プライドとか全てを捨て去って、情けないとは思いつつも、大声で3人の名前を呼ぶ。

 

「彩ー?! りみー?! 七深ーー!」

 

が、全くと言っていいほど返答はない。それどころか不気味なほどに物音一つ聞こえなかった。

 

「な、なんで……」

 

流石にこれだけ大声で騒いでいれば、まず間違いなく聞こえているはずだ。それなのに返事がないというのは……。

 

ボーーーン。ボーーーン。

 

「……鐘の音? ……声? 誰かいるのか……?」

 

刹那、俺の脳に蘇る記憶。

 

『なんでも、17時になると、無人のはずのこの洋館の屋上にある鐘塔から鐘が鳴り響いて、同時に地獄の釜の底から這い出るような囁きが聞こえてきて、……一生ここに囚われちゃうとか』

 

鐘の音。囁きのノイズ。……ダメだ……ダメだダメだ。

 

「あ、あ、あぁ……」

 

フリーズした。目の前が真っ白になる。視界がグルングルンと回って、天井を向いた。

 

 

 

「……テッテレー! ドッキリ大成功ー!」

 

「……は」

 

と思ったら、聞こえてきたのは愉快な彩の声。

 

「どうでしたか雄緋さん〜。怖かったでしょー?」

 

「ど、どういうこと……?」

 

「ちょっとだけ雄緋さんを脅かしてみたらどうなるのかって、見たいなって話になったんです」

 

「……よ、よかった……よかった……」

 

「あ、あれ? な、泣いてる?」

 

「……泣いてねー」

 

マジで。マジで。

もうなんだかドッキリで良かった、という安心感と、駆り立てられた恐怖心とで、感情が停滞していたからか。

 

「えっと……大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫」

 

とにかく蹲って、顔を伏せてみっともない自分の顔を隠す。

だって怖かったんだよ……。怖いものは幾つになっても怖いんだよ……。20歳を超えたとしてもいつまでも少年の心を持って生きてるんだ……。

 

「よ、よしよし……大丈夫ですよー?」

 

3人が必死になって慰めてくれている。……にしても、情けないことだ。自分のことながら。

 

「う……大丈夫……大丈夫……」

 

「……それにしても、雄緋さんが泣いてるところ……新鮮ですね」

 

「……うん。なんだか、もうちょっと苛めてあげたくなるぐらいです」

 

「もうやめて……」

 

流石にもう懲り懲りだと、しばらくお化けとか霊とかそういう存在には触れたくないと、溢れ出始めていた涙を拭い、立ち上がる。

 

「ご、ごめんね? やりすぎちゃった……?」

 

「……いいや。耐性もつけられたから。大丈夫だ。帰るぞ」

 

「は、はい!」

 

俺たちはこの謎の森の奥の洋館から立ち去ろうと歩き始める。赤く、薄汚れたレッドカーペットは歩いても埃一つ舞うことなく、踏みしめることができた。

彩が重厚そうな入り口の扉に手をかける。思い切り、彩が力を込めて、押した。……はずだった。

 

「あ、あれ? 開かない……」

 

「「「……え?」」」

 

「17時になりました。風紀を乱す貴方達を、一生ここから逃がしません……」

 

 

 

パスパ能者○○

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