「ゴホッゴホッ……風邪かな」
朝起きたばかりの俺は、止まらない咳に苛まれていた。体温からして熱があるというわけではないものの、どうにも体が怠く、痰が絡む。咳が止まらない辺りも見ると、春先ということもあり、季節の変わり目で風邪を引いてしまったのかもしれない。とりあえずこの酷い咳をどうにかしないことには始まらないと思い、俺は薬箱からそれらしい薬を飲む。
「あー、これだな……」
水と一緒にその錠剤を飲む。
次に目が覚めると。
体が縮んでしまっていた! え、何これ? 部屋に置いてある姿見を見るとそこに身長が1mにも満たないぐらいの俺がいた。あれ? 熱でも出て幻覚見てる? いやでも、ほっぺをつねると痛い。
「なんで、ちいさくなった?」
ん? というか自分の話し振りを自らの耳で聞いていてもやはり辿々しい。え、もしかして本当に俺。
そんな時、床に落ちていた瓶を見つける。これは、間違いなく俺が風邪薬として飲んだやつで。
『幼児化薬 効能:大体3歳児程度まで生理機能が低下、(株)弦巻製薬』
……あの弦巻財閥め。俺はまんまとしてやられたというわけか。弦巻印の薬を飲まされたということか……! まずい、これは大変まずいぞ。クッキーの時も散々な目を見たからな。
ピンポーン。
……まずい。誰かが来た。居留守を使おうと思ったが、無情にも俺の家のドアの鍵はフリー素材なので、容赦なく開いてしまう。誰が来た?
「おっじゃましまーす!」
「ほ、本当にいいんですか香澄さん」
「心配しなくてもいつも私、侵入してるから大丈夫だよ!」
「それ全然大丈夫じゃないんじゃ……」
廊下から聞こえてきた声に俺は震え上がる。そして、リビングに通じるドアが開き。
「……あれ、誰かしらこの子?」
「かなり小さく見えますけど、これって」
「あら、雄緋よね? どうしたの」
「ば、ば、ばぶぅ」
間違えた。もう頭の中が完全に思考停止してしまって、本来紡ぎ出せるはずの言葉が何も出てきません。やばいどうしようという考えばかりが先行して、もう何を話せば良いのかさっぱり。
「わ、わぁぁぁ可愛い! よしよーし!」
「はなせ! やめろ!」
「え、え、本当に雄緋くん?!」
「そうだ!」
「なんで小さくなったのかしら?」
「おまえのところの、くすりのせいだ!」
「あ、あの、これじゃないですか?」
レイヤが拾い上げたのは俺が小さくなった元凶。この際この家にナチュラルに侵入したことについては一切咎めないから(というより割と普段から侵入されてるから)、とにかく俺を元に戻してくれ……。
「幼児化薬……? そんな薬があるのね」
「初めて聞いたんですけど……。それ、元に戻るんですか?」
「で、でも。元に戻らなくても……可愛い!」
「そうですよ! 全人類が愛でるべきですって! ね、彩先輩!」
「え、う、うん! 全人類愛でるべきだよ、うん!」
後輩の言葉をオウム返しする彩ちゃんェ……。いやまぁ、そんなことはどうでも良いんだ。重要なことじゃない。今重要なのは流れが変わったというか、俺が危ないという予感がするということだ。つまりどういうことかというと。
「なんか……可愛がりたくなりますよね」
「どういうことだよ!」
「あの雄緋さんも小さい頃はちょっと生意気な感じなんですね……」
「しつれいだな!」
「ませてるだけじゃないかしら?」
「でも、それはそれとしてどうするんですか? これ」
「あ、ならPoppin'Partyでお世話するよ! 沙綾とか小さい子の扱い慣れてるし!」
「待ちなさい、それは見過ごせないわ」
「おいまて、おれだってそんなのごめんだぞ!」
お世話される? そんなの冗談じゃない。こいつらにお世話なんざされてしまえば俺の身がどうなるか分かったものじゃない。最悪『ばぶーきゃっきゃ』とか俺が言っていてもおかしくないからな。だが、俺のそんな必死の抗議など聞き入れられるわけなく。
「話は聞いたよ! 議論で決着をつけるしかないみたいだね!」
「まりなさん?!」
突如部屋に現れた我が上司。いやまじでどっから来た、とかそんな疑問が解決するよりも前にかの上司はこの混沌を沈めようと動いたのだ。
議長:月島まりな
出席者:戸山香澄、美竹蘭、丸山彩、湊友希那、弦巻こころ、倉田ましろ、和奏レイ
月島「ただいまから、北条雄緋(3歳)の処遇を決めるガールズバンド間会議を開催いたします! 意見がある方は挙手して発言してください」
戸山「はーい! 私から! さっきも言ったみたいにうちには小さい子の扱いに慣れた沙綾がいるから私たちポピパでお世話すれば良いと思います!」
湊「意義あり。小さい子の扱いに慣れているだけならうちだって、1人だけ歳下のあこをいつもお世話しているわ。Roseliaこそ適任よ」
美竹「それは本当に適任なんですか?」
湊「何かしら美竹さん」
美竹「それだとあこだけを下に見るようで、チームワークに欠けるのでは? その点あたしたちならチームワークは抜群です」
和奏「そうですよ! それにお世話だけなら私たちもパレオがチュチュのお世話で慣れているはずです!」
湊「くっ……」
丸山「ま、待って! 小さい子のお世話ならそう、私たちパスパレこそ向いてるよ!」
湊「苦し紛れの意見ね。どこにそんな要素があるというの?」
丸山「うっ、そ、そうだ事務所! うちの事務所なら託児所があるし! プロの人に見てもらえるんだから安全!」
弦巻「あら、ならあたしの家なら専属の黒服さんがつくわよ?」
丸山「むむむ……」
倉田「な、ならMorfonicaはどうですか?」
戸山「えー、なんで?」
倉田「う、うちにはるいさんがいます! るいさんとか子ども育てるの上手そうじゃないですか?」
戸山「……確かに、貫禄がありすぎて母親になってるというか」
湊「まって、それならリサだって適任じゃない。なんたって慈愛の女神よ? 適任よ」
美竹「適任適任って、それ以外の日本語知らないんですか?」
湊「なんですって?」
—— 音声識別不能 ——
月島「ストーーーップ!」
和奏「……スタップ?」
月島「それは細胞! じゃなくて、このままだと何にも話進まないから! 一旦議論を整理しよう!」
倉田「整理って言ったって……」
月島「まずは各バンド毎にプレゼンをしてもらいます! 幼児化した雄緋くんを任せるに値すると思うポイントを挙げてください!」
(7人が各々のバンドの特徴等をまとめる)
月島「みんなできたー? じゃあポピパからよろしく!」
戸山「はーい、ポピパはやっぱり沙綾! じゅんじゅんとさーなんのお世話で小さい子のお世話は慣れてる! それから有咲もなんだかんだ面倒見がいい、ツンデレだけど!」
月島「なるほどね……。推しポイントは2つと。Afterglowは?」
美竹「あたしたちは5人で協力して子育てできますから。チームワークは抜群だし、誰か1人に辛い作業を押し付けるとかが起きないから、子どもにとっても良い環境だと思う」
月島「ふむふむ……。パスパレは?」
丸山「は、はいっ。私たちが忙しい間は事務所に預けられるし、日菜ちゃんに任せておけば多分大体のことはなんとかなるよ! 千聖ちゃんや麻弥ちゃんもしっかりしてるしイヴちゃんも優しい!」
月島「じゃあ次は、Roseliaかな?」
湊「Roseliaは子育て界隈でも頂点を目指すわ。いつも私を完璧にお世話してくれるリサにかかれば雄緋のご飯のお世話もお着替えもお遊戯もお茶の子さいさいよ」
月島「えっーと、ハロハピは?」
弦巻「専属の黒服さんが24時間警備してくれるわ! あたしたち5人の力があれば雄緋をずーっと笑顔にしてあげられるし、何より元に戻す薬が出来たらすぐに戻せるわよ!」
ゆーひ「そうだよ、くすりだよ! はやくつくれ!」
月島「はいはい、赤ちゃんは静かにしててねー! 次はMorfonicaかな?」
倉田「えっ、え、わ、私は力になれるか分からないですけど……。つくしちゃんとかいっぱい妹とかいるし、ルイさんはお母さんみたいだし……。だから、えっと、いいと思います!」
月島「うーん。なるほどね? 最後はRASだね」
和奏「チュチュのマンションなら雄緋さんをお世話するスペースも設備も揃ってますし、みんなじゃじゃ馬の集団を一つに持っていった経験を活かして、やんちゃ気味な雄緋さんをしっかりお世話できると思います」
月島「な、なるほど。……うーん、難し」
ゆーひ「ちょーーーっとまった!」
月島「んー? どうしたのかな、雄緋くん?」
ゆーひ「さっきからだまってきいてたら、さんざんおせわおせわって、じぶんのことぐらいじぶんでできるっての!」
(一同沈黙)
ゆーひ「な、なんだよ」
戸山「強がっちゃって可愛いー!」
美竹「本当に、悪くないというか、飼いたい」
丸山「え、え、可愛いー! なでなでしてあげるね!」
ゆーひ「だーーーー!! がきあつかいするなー!!」
—— 音声識別不能 ——
和奏「ダメだよ、みんなに迷惑かけちゃ」
ゆーひ「れ、れいや?」
和奏「みんな雄緋さ……雄緋くんのことを心配してるんだから、ね?」
ゆーひ「れいやまま……」
倉田「雄緋さんが堕ちた?!」
弦巻「すごいわ、これが母性ね!」
戸山「レイヤちゃんばっかりずるいよ! 私もハグしてあげる!」
湊「そんなにみんなで囲んではかわいそうよ。雄緋、こっちに来なさい」
ゆーひ「やだ!」
湊「なっ?!」
美竹「残念でしたね、湊さん」
—— 音声識別不能 ——
ゆーひ「じゃなくて、みんなそろいもそろってがきあつかいすんなよ!」
倉田「可愛がってるだけじゃ……」
ゆーひ「それががきあつかいっていってんの!」
弦巻「3歳で反抗期というやつかしら?」
湊「そんなに早い反抗期、聞いたことがないわね」
ゆーひ「せいしんねんれいはだいがくせいなんだよ!」
丸山「精神年齢なんて言葉知ってるんだ、偉いね、よしよし!」
ゆーひ「まるやまァ!」
月島「うーん、結局のところ、雄緋くんはどうされたいの?」
ゆーひ「どうされたいもなにもおせわなんてされたくない!」
月島「えー、この意見に賛成の人は挙手を」
(一同沈黙)
月島「賛成0、反対7。よって全会一致で否決です!」
(拍手喝采)
ゆーひ「ふざけんなよ!」
月島「えーでも多数決で決まったことだし……」
ゆーひ「ぼうりょくだ! しょうすうはをひていするな!」
戸山「よーしよしそんな難しい言葉知っててえらいねぇ♪」
ゆーひ「だぁぁぁぁ!! ごほっごほっ」
湊「叫びすぎたら喉を痛めるわよ? お水を飲みなさい」
ゆーひ「ありがと……ごくごく」
弦巻「お礼を言う時は相手の目を見て言うのよ! そうしたらもっと気持ちよく笑顔になれるわ!」
ゆーひ「ようちえんかよ! なぁ!」
月島「あちゃー。議論が紛糾しちゃったなぁ」
ゆーひ「ふんきゅうもなにもおれのいけんがんむしするからだろ!」
月島「もういっそのことこれから持ち回りでどこが1番上手くお世話できるか試してみる?」
ゆーひ「もういいもん……」
倉田「あっ拗ねた……」
ゆーひ「……おせわってなにされるの?」
戸山「ポピパに来たら一緒にキラキラドキドキしようね!」
美竹「Afterglowなら……6人で夕焼けを眺めたり、とか?」
丸山「あ、折角だからパスパレの衣装着て写真撮影しよっ!」
湊「6人目のRoseliaとして練習に励んでもらうわ」
弦巻「ハロハピでミッシェルの付き人なんてどうかしら!」
倉田「え、Morfonicaに来たら、テスト対策の勉強会とか……」
和奏「うーん、RASで一緒に音楽作ってみるとか?」
ゆーひ「どれもおせわとかそーいうのじゃない!」
月島「あ、CiRCLEのシフトの時間増やしてもいいよ?」
ゆーひ「ろうどうはくそ!」
戸山「よぉし、わかった!」
美竹「何か良い案でも思いついたの? 香澄」
戸山「雄緋くんをみんなが平等にしっかりとお世話できるようにルールを作ろう!」
弦巻「それは良い案ね! 早速作りましょう!」
ゆーひ「は?」
月島「はい、採決を取ります! 賛成7、反対0、棄権1の賛成多数で決定!」
ゆーひ「なにが?!」
我々、ガールズバンド一同は、ここに、雄緋条約の締結を宣言する。
第一条 この条約は北条雄緋に適切なお世話を施すことを目的として締結される。
第二条 この条約を批准するいかなるガールズバンドも抜け駆けをしてはならない。
第三条 この条約を批准する全てのガールズバンドは北条雄緋を全力で愛でなければならない。
第四条 この作品はフィクションである。
Poppin'Party○○○○○○○IKasumi Toyama
Afterglow○○○○○○○○LRan Mitake
Pastel✽Palettes○○○○○LAya Maruyama
Roselia○○○○○○○○○NYukina Minato
ハロー、ハッピーワールド!○Kokoro Tsurumaki
Morfonica○○○○○○○○IMashiro Kurata
RAISE A SUILEN○○○○○IRei Wakana