ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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花より太鼓【ドラム組】

「雄緋さん! お祭りしませんか!!」

 

勢いよく蹴破られたうちのドア。そろそろ壊れるんじゃないかと思うぐらい粗雑な扱いを受け続けている不遇なドアだが、それは俺が住んだが運の尽き。そんなボロボロのドアから姿を現したのは、どこぞの幼馴染集団の姉御肌だった。

 

「おう巴、ドアは優しく扱え。それはそうと何だって?」

 

見る限りドアの損傷は平常運転として置いておき、巴の発言をもう一度問いただす。

 

「お祭りですよお祭り!」

 

「……何故?」

 

なんかあったっけな今日。別段何かしらの催し物をやるとかそういった趣旨の話は何も聞いていないのだが。

 

「今って桜が満開じゃないですか」

 

「え? あー、そうなの?」

 

「というわけでお祭りしましょう!」

 

「論理関係すっ飛ばさないで?」

 

だから桜が満開→お祭りの流れが理解できないんだよな。

 

「花見ってこと?」

 

「お祭りです!」

 

「何の?」

 

「桜を見る祭りです!」

 

「花見じゃねーか! ごほっごほ……」

 

叫んだ拍子に思い切り気管支に痰が絡まり咳き込んだ。数日前どこぞのぱちものの薬のせいで体が縮み挙げ句の果てにはボーカルの面々から飼育(意味深)お世話されそうになったものだからな。すっかり体が鈍り、精神的にも限界を突破して悟りを開いたのである。

 

「え、大丈夫ですか?!」

 

「大丈夫だ、問題ない。ちょっと……この体に戻ってから体が慣れなくてな」

 

「……うわぁ」

 

「……何だよ?」

 

「その歳で厨二病は痛すぎるので身の振り方考えた方が良いですよ……」

 

「ちげーよ!」

 

ドン引きされたけど、厨二病故の化身モードとかそんなんじゃなくて事実なんだよって説明してやりたい。絶対信じてもらえないからもう諦めるけども。

 

「で、その花見か祭りか知らんが。いつやるの?」

 

「今でしょ?」

 

「違う、そうじゃない。何日にやるのかって聞いてんだよ」

 

「今日です!」

 

「今からじゃねーか!」

 

偉大な先生方の名言はまさに今この状況を的確に表現していた。俺はそんな巴に連れ出されるがままに部屋を出る。部屋の前ではあこが既に待機していた。

 

「お、姉妹揃っていたんだな」

 

「そうだよ!」

 

「お、そうだあこ。雄緋さんが漆黒のパワーで変身したからこの体に慣れてないみたいなこと言ってたぞ」

 

「え、え、え?! どうやって目覚めたんですか?! 教えて!!」

 

「ややこしい説明やめろぉ!!」

 

今日も喉が痛い。

 

 

 

そんなわけで宇田川姉妹に連れられた俺は商店街に程近い公園に向けて移動した。4月になってからというもの、急激に気温も上昇して、少し歩いただけでも額には汗が浮かぶ程度の頃合いになっていた。

 

「ゆーひなんでそんなキョロキョロしてるの?」

 

「商店街と今折り合いが悪くてな」

 

「あー、指名手配されてましたね、なんか」

 

「なにそれカッコイイー!!」

 

「かっこよくねぇ!」

 

不名誉オブ不名誉だよ指名手配とか。それも世紀の大泥棒とかでお尋ね者になってるとかならまだ悪名高い方で有名になってるというか、漫画とかアニメの主人公になれそうな指名手配ならまだしも、俺の罪状浮気(冤罪)だからな。下衆オブ下衆なものでかっこよさはかけらもない。

 

「それでずっとアタシの陰を歩くみたいに変な歩き方してるんですね」

 

「商店街の方にバレたら俺はいよいよ骨を埋めることになるからな」

 

ただでさえ買い物をする場所の候補が減り、人の目が恐ろしさを増しているのに、さらに恨みを買った末路だなんてそれだけはごめんである。というか巴の近くにいるのもそれはそれで勘違いされてさらに過激派の暴動を引き起こしそうだが。

 

「そういうわけだから早く公園に行きたいんだけど」

 

「あ、もう着きますよ?」

 

そんな会話を挟んで住宅街の角を曲がると、そこそこ広めの公園が現れる。公園に生える木々は緑に溢れ、公園の中央には大きな桜の木が鎮座していた。桜の花びらの房にはまっすぐ伸びた陰がその色味をさらに深くしていた。なるほど、ここで、祭りを開こうというわけか。

 

「で、花見って」

 

「祭りですって!」

 

「なんでそんな頑なに祭りに拘るんだよ!」

 

「ソイヤッって叫べないでしょ?」

 

訳がわからないよ。……昔の偉い人はこう言っていたらしい。分からないものはわからない。理解を放棄せよと。

 

「……もういいや。花を見るって、他に準備とかないのか、弁当とか」

 

「さーやに頼んで今パンを持ってきてもらってるんだよ!」

 

「……後で商店街に磔にされないかな俺」

 

「え?」

 

「こっちの話だ。……で、もう一つ、もう一つだけさ、あと巴に聞きたいのは、あれ何?」

 

もうね、さっきからツッコミが追いつかないんだわ。さっき桜が陰に入ってるとか言ったけど、それどういうことかというとですね。

なんか物見櫓みたいな構造物が公園の中に建築されております。

 

「あれは太鼓用の台です! 麻弥先輩とマスキが作ってくれてるんですよ!」

 

「あ? 太鼓? というかドラマー主催なの? これ」

 

「たまたま集まったメンバーがドラムばっかだったんですよね、お、麻弥先輩たちも来た」

 

桜の木の1番上よりも高い物見櫓からワイルドに飛び降りた麻弥がこちらに気付いたのか手を振って駆け寄ってくる。その手には工具やらが握られていて、どうやら本当にあの櫓は自作のものらしい。

 

「こんにちは雄緋さん! 雄緋さんも参加するんですか?」

 

「参加するしないの選択肢がなかったからね」

 

横目で睨むがどこ吹く風。ここまで来たのだから乗り気になる以外の選択肢は取りようがないのだが、強制連行の実行犯にこの態度を取られるのは話がまた別である。

 

「というかあの櫓すごいな、自分たちで組んだのか?」

 

「はい! キングも手伝ってくれましたから早く終わりましたよ!」

 

「そんな、麻弥さんに比べたら私なんて」

 

マスキの麻弥を見る目は完全に憧れを超えたそれである。そもそも俺のような常人からすればそこそこ立派ななりに見えるその櫓を2人の力で組み上げたことがまず偉業なのであるが。

 

「それに工具とか建材もしっかり用意されてましたし、簡単でしたよ?」

 

あっ(察し)。この世には知らなくていいこともある。不思議な力なんてものはごまんとある。つまりそういうことだ。

 

「あはは……。メンバーはこの5人だけなのか?」

 

「あれぇ? かのんとつくしもいたよーな?」

 

「あ、花音さんとつくしなら小道具類を買いに行くって、商店街の方に行ったぞ?」

 

「え?」

 

花音を? いやまぁつくしもいるのは分かってるけど。絶対にそれ、所謂死亡フラグというやつでしかなくて。いやいやでもまさか、そんな予定調和な'go back to the future'な展開など、ありえない……と思いたいが。誠に残念だが俺からすれば、今のそれは迷子の2文字を連想する他なく。

 

「……雄緋さん。それって」

 

「……うん。多分」

 

起こるべくして起こる、これだって謎の力の一つなのだが、迷子という名の確定イベントは巴も予感づいたらしい。そんな折、風と一緒に舞う花びらに紛れて、駆ける音が聞こえて来る。

 

「みんな、大変だよーーー!」

 

公園の入り口の方から聞こえて来る大きな声は、急いでここまで来たことを示すような不規則な呼吸の音にせめぎ合いながら、その声の主とともに辿り着く。

 

「さーや!」

 

「とりあえずこれ、パンね。それで、花音先輩とつくしが」

 

「……迷子?」

 

「そうなんです!」

 

「遭難です?」

 

「つまんないこと言ってる場合じゃないですって!」

 

いや本当にね、我ながら口に出してすぐそれどころじゃないなと思ったし、敢えてこのタイミングで言うほどの洒落でもなかったって反省したよ。それはそうと、懸念していた嫌な予感なるものはやはり当たるものらしい。俺はここに呼ばれたことの意味を、予期しない形ながらも自覚した。

 

「……探しに行ってくるわ」

 

「あ、私も一緒に行きます!」

 

「……え?」

 

「え、ダメでした?」

 

……よーく考えよう。俺、これから、商店街、行く。隣、沙綾、いる。沙綾、商店街の、育ち。

これから起こりうる全てを察した俺は、時間が惜しいと思いながら走り出す。沙綾もついてくるが、俺はこの悲しい事実を伝えてあげないといけない。

 

「二手に別れて探そう、そうしよう」

 

「え? 一緒じゃダメなんですか?」

 

「石投げられたい?」

 

「指名手配のこと気にしてるんですか? 大丈夫ですって!」

 

「俺のメンタルが大丈夫じゃないんだ……!」

 

道路を全力疾走する俺の、自らの近い将来の苦を憂う涙は風のように流れていく……というのは大袈裟だが、心は泣いている。沙綾は優しいからそんな風に俺を励ましてくれるが、商店街のおっちゃんたちからすればそんなもの関係ない。片っ端から女の子に手を出す(冤罪)俺は絶対悪である。

 

「私はその……勘違いされても、いいですよ?」

 

「俺が生活できなくなるんだって!」

 

主に行動範囲的な意味で。ガールズバンド各所との問題ではないのだ。無念。

 

「……ほんと鈍感だし唐変木」

 

「え、なんて?」

 

全力で街を駆け抜ける俺の背中を追う沙綾がボソリと何かを言ったのだが、走りながらだったためよく聞き取れなかった俺は聞き返した。

 

「指名手配されて当然だなって、言ったんですよ!」

 

「突然の裏切り?!」

 

泣きました、俺は冤罪ふっかけられるポンコツ大学生です。

あー、とか言ってる場合じゃない。元々の目的は花音とつくしを探し出すことである。探し出すと言っても、2人が雑多なものを買いに行ったという情報以外は大したヒントがないが、そもそもヒントを貰ったところであの天性的な類い稀なる才能を持ってすれば、短時間の間にも県境をいくつも跨ぐことすら花音ならできそうだ。……いやそれは流石に馬鹿にしすぎか。

 

「そういや、花音とつくしはどこいったんだって?」

 

「あ、私が電話を貰った時は、どこかの袋小路に迷い込んだって言ってたんですけど」

 

「え、てことは周りの目印とかは?」

 

「家の壁しか見えないって言ってました」

 

「本当にどこなんだよ……」

 

これじゃあ探すにしても無理があると思った俺は、息を整えるついでに足を止めてスマートフォンを取り出す。そして2人の居場所を知るべく花音に電話をかけた。

 

「もしもーし、聞こえるか? 花音、つくし」

 

『あ、雄緋くん!』

 

「お、聞こえる聞こえる。で、どこいるか分かるか?」

 

『それが、歩いてるんだけど、ずっと細い通路の両側が家になってて……』

 

というか移動しているのか。そうなると、そもそも商店街のどこ辺りにいるかとかすらまともに参考には出来なさそうだ。

 

「というかつくしもいるんだよな?」

 

『はい、いますよ!』

 

「どっからそこに迷い込んだんだ?」

 

『それが……、私もそんな方向音痴とかじゃないんですけど、分かんなくって……。携帯の衛星地図とか見ても、電話の電波は届いてるのに、何故か圏外表示になるんですよね……』

 

「へ?」

 

『いやぁ……。ここまでいくともう花音先輩の力というか……、何故か迷子になっちゃったと言いますか……』

 

『ふえぇ?! 私にそんな力無いよ?!』

 

『でもほら、私の方向指し示すアプリの画面、方位磁針クルクル回ってますもん!』

 

『ほ、本当だ……。すごいね……』

 

いやいや花音さんや、すごいねとか感嘆してる場合じゃないよ。これはもう……詰みというやつですね。だってもう、こんなのどうしようもできないじゃん。人智を超えた何かしらの力が働いてないと、そんな怪奇現象というか、物理法則ガン無視みたいな事情起きないだろうよ。彼女はまさに迷子になるという目的を持って生を受けたと考える方が、自然ですらある。

 

「と、とにかく商店街であることには間違い無いんだな?」

 

『う、うん……。多分……?』

 

『あ、……なんか香ばしい匂いがする……』

 

「香ばしい匂い?」

 

「あ、その匂いが何かわかったら、そこから店の系統とか絞り込めないですか?」

 

「そ、それだ! どうだ? 2人とも」

 

画面の向こうでは2人がすんすんと鼻を鳴らすシュールな音声が途切れ途切れに聞こえてくる。

 

『なんだろう……。食事系の何か……美味しそうな』

 

「食事系の匂いか……。まぁ匂い源が分かったらまた教えてくれ」

 

どうやら俺の携帯の充電が不幸にも十分にあるわけでもないらしく、万が一の連絡に備えて、悩む時間は電話を切ることにした。手短にそういったことを伝えると、電話を切り、後ろにいた沙綾の方を振り向いた。

 

「よし、行くか」

 

「はいっ」

 

俺たちの探索は、これからだ——!

 

 

 

と思った? 沙綾と行動を共にして、商店街に堂々と足を踏み入れたわけじゃん。

 

「おいそこの愚か者……」

 

「はっ殺気?!」

 

「つぐみちゃんと浮気相手じゃ飽き足らず今度は沙綾ちゃんかぁ、えぇぇぇっ?!」

 

「違うんです違うんです違うんです!」

 

「そこまで否定しなくてもいいのに……」

 

「誤解は今のうちに解いておかないと面倒なことになるって知ったから!」

 

だがまぁ、そんな誤解を解く間にも彼女たち2人が迷子になっている時間はどんどんと過ぎていくのであって、そんなことに悠長にはしていられない。

 

「くっ、さよなら俺の平穏な商店街ライフ!」

 

「わ、わぁぁぁっ?!」

 

「逃げたぞ!!」

 

追われることを恐れた俺は沙綾を伴いながら、慌てて近くの建物の陰に身を潜めようとして……。

 

「よいしょってうわぁっ?!」

 

「きゃぁっ?!」

 

ゴチーン、という重たい音が鈍痛とともに頭に響く。物陰から飛び出して来る人に気づかなかった俺は尻餅をついて衝撃を交わしつつも、人体でも群を抜いて硬い部位をぶつけた痛みは相当である。

 

「う、うおぉ……」

 

「いたた……、あ、雄緋くん!」

 

「へ? あ……」

 

棚からぼた餅、物陰から飛び出してきたのは花音で、偶然にも2人の迷い込んだ袋小路がここに通じていたらしかった。

 

「ご、ごめんね?! 痛くない? 大丈夫?」

 

「俺は大丈夫だ……問題ない。花音こそ大丈夫か?」

 

「う、うん」

 

何はともあれ、これでようやくメンバーは全員揃った。メンバーが揃ったのならば、あとは宴の時間である。

 

「2人が買い物終わってんなら、公園行くか……」

 

「はいっ!」

 

仲間を2人増やし、パーティーグッズみたいなものから、ちょっとしたお菓子や飲み物の詰め込まれたビニール袋を手に提げて、俺たちは公園へと帰還する。散々駆け回って、すでにヘトヘトだが、楽しむ時は楽しむがモットーである。

 

「よっしゃ、花見するか」

 

「だから祭りですって!」

 

「ソイヤッソイヤッ、祭りするぞ祭り」

 

公園に集いし7人のドラマーたちは、己の信じるドラムのビートを刻み続ける。

 

「よっしゃ、最初の和太鼓はやっぱり」

 

「おねーちゃん!」

 

「ジブンも巴さんの太鼓のパフォーマンス家になるっす!」

 

「ソイヤッソイヤッ」

 

そのどこまでも熱い思いが公園全体に響き渡る。

いざ、散りゆく儚い桜を目に焼き付けん。

やっぱり日本人の心には桜が咲いているのだ。

 

 

 

……え? 花見なのに桜要素が薄い? 花より太鼓だ。

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