ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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脳みそ空っぽで書いています。





夜食には七草粥を【コンビニ組】

「あー冷える冷える」

 

雪こそ降ってはいないが、真っ暗な住宅街は寒々しい。星の瞬く夜空が映えるのはきっと周りの景色が暗くて、そして空気が澄み切っているからなのだろう。

 

「けど寒さがなぁ……」

 

いやぁしかもこんなに夜になったら急に冷えるなんて聞いてなかったから、防寒具とかその手の類一切持ってきてないから、外套も厚手のものというわけではない。元々夕方までには家に着いている予定だったのだが、新年会という名目で大学の友人と少し晩飯に行ったせいで時間が少し遅くなってしまったのだ。

 

「いよいよ一年も始まって、松の内も終わりか……」

 

そう考えるとちょっと切なさすら感じられるな。俺の正月、まぁほとんど寝正月になっちゃったけども、世間一般では今日で正月も終わりだからな。

 

「……七草粥でも買って帰るか」

 

晩御飯のせいで多少胃ももたれているし、酒を呷った日もあるから、ちゃんと健康にも気を遣おうかと思い、家の近くのコンビニに入った。

 

「らっしゃっせ〜」

 

「あっ」

 

そういやここ、なんかダメそうな予感がしたんだけど、まぁもう遅いよね。

 

「あれ、雄緋じゃん?」

 

「……ども」

 

カウンターの方から聞こえてきた間延びした声に少々の絶望を覚えつつも、何も気にしないようにして曲がろうとした直後だった。目の前に、あやつが現れたのは。

 

「ちょちょちょ、素通りはひどいでしょ!」

 

「いやいや、バイト中だろ? リサ」

 

先日私を危うく殺しにかかりそうだったリサ姉改め、リサ様です。え? 呼び方? だってあんなん見せられた後に姉なんて呼べねぇだろ常識的に考えて。というかさ、バイト中にそんな私語していいのかよって感じだよ、ガンガン私情で客に話しかけてるじゃん。

 

「それはそうだけど、ちょっとぐらいね?」

 

そんな顔で見ないでくれ。良心が痛むから。

この顔を見るだけで想起される修羅の表情を貼り付けたリサから早く逃げろと叫ぶ声と、この淡い嘆願の色の混じった憂いの目線を備えたリサを見捨てるのかと詰る声が頭の中で闘っている。

 

「えっと、雄緋、大丈夫?」

 

「……いや、なんでもない」

 

危ない危ない。意識が飛びかけてた。

 

「それで、何買いに来たの? こんな時間に、夜食?」

 

「え? あー夜食っちゃ夜食? 七草粥だけど」

 

「七草粥なんてウチ置いてあるかなぁー」

 

「……ないかな?」

 

「ここコンビニだよ? クリスマスケーキとかは取り扱ってても流石に七草粥はないかなぁ?」

 

言われたら納得いくんだけど、でも今からこの足で材料買って帰って七草粥作る気にはならんじゃん? だから手っ取り早く済ませたいなーと思ってコンビニに立ち寄ったのだけれど、流石に置いてなかったか。

 

「あ、そうだ。なんならアタシが作りに行ってあげよっか?」

 

「……はい?」

 

何だろうね、背筋がゾクリと。あっ、これ、あかんやつだよね? その時、俺は思い出した。お正月に自室を支配されていた絶望を。目から希望の光とかそういうのが全て消えちゃってた憂懼を。

 

「もうアタシも、モカも多分上がりの時間だし、折角だしそんなに七草粥食べたいなら作りに行ってあげるよって!」

 

「えっ、そんな食べたいなんて言ってないです」

 

「なんで敬語なの? それはそうとまぁまぁ、遠慮しないでって!」

 

「遠慮なんかじゃ」

 

「じゃっ、お店の前でちょっと待っといてね!」

 

断る暇もなく、約束を取付けられました。どうすりゃ良かったんですかね?

俺はもう仕方がなく、何か適当な大きめのペットボトル飲料を手に取ってレジへと持っていく。

 

「お〜、ゆーひくんは七草粥をご所望かなー?」

 

「……話聞いてたのか」

 

「うむうむ、モカちゃんがリサさんと一緒に作ってあげようー」

 

「……はい」

 

何だろうね、最近思ったんだ。断る気力だとかそんなのがなくなり始めてるって。もうダメになりそう。

 

 

 

そして俺は寒空の下コンビニの前で2人のシフト終わりを待ち、食材をスーパーで調達し家にたどり着いた。こんなことなら最初からスーパー1人で寄っときゃ良かったよ、なんて後悔してももう後の祭りだった。

 

「お〜、ここは久しぶりですな〜」

 

「あんまりジロジロみないでくれ、ってリサはリサで何してんの?」

 

「……ううん、部屋の匂い嗅いだだけだよ?」

 

「怖い、やめろ」

 

絶対あれじゃん、匂い嗅ぐってオンナの匂いとかそんな感じのあれでしょ? もうほんとうに勘弁してください……。

 

「さって、それじゃあアタシが腕によりをかけて作っちゃうぞー!」

 

「あたしは味見係で〜」

 

「えぇ……」

 

キッチンに2人立ち並んで、仲良く喋りながら七草粥を作り始めている。というか味見係って、絶対モカがここに来た理由それだろ。ちなみに材料費は流石に俺の財布から出してるんだけど、絶対食べたいからって理由だよね。

 

「あはは、モカ、味見までまだ時間かかるから座って待ってていいんだよ? 炬燵もあるんだし」

 

「いやいやーモカちゃんには、料理の見張りという役目もありますから〜」

 

「そっかそっか、邪魔だけはしないでね? モカが相手でもアタシユルサナイカラ」

 

「リサさんも変なもの入れちゃダメですよ〜? ちゃんと見張ってますから」

 

話が色々盛り上がってるみたいだし、まぁ俺はあんまり料理に口出しはしないでおこうか。そもそも基本そんな自炊とかできないし。

いやね、みんなきっと大学生になって一人暮らしとかし始めたら分かると思うんだよ。たしかに自炊は食費を浮かすためにはめちゃくちゃ重要。けどな、労力が半端ない。安い食材買ってきて、作ってー、なんて今までぬくぬくと実家で親の作る料理に甘えてきたこんなドラ息子が突然どうこうできるようになるわけないからな。

俺が作れる料理? カップ麺って料理に入るかな? あとは察しろ。

 

そういうわけで大学生で自炊ちゃんとしてる人本当に偉いと思うよ。少なくとも俺には無理だ。俺の友達なんかだと彼女と同棲して家事を折半して楽しく生きている人種もあるらしい。はぁー、爆発しろ。

 

「あれ、雄緋どうしたの?」

 

そんなこんなでキッチンから小さめの器を持って帰ってきたリサとモカ。

 

「いや、爆発しろって」

 

「えぇ?」

 

いやこれ俺の言ってることの意味、わかんねぇな。脈絡なさすぎてテロリストみたいな発言してるじゃん。訂正しようとしたら。

 

「なるほど、リア充が憎いとな〜?」

 

「なんで分かんの? まぁ、彼女居たら家事とか負担減りそうなのになーって、独り身の悲しい後悔だから、ほっとけほっとけ」

 

こんな話聞かせても仕方がないからな。いやね、大学生になったら彼女なんてすぐできるものだと思ってたんだよ。

みんな思うでしょ? サークル入ってー、先輩とご飯行ってー、同期の女の子とちょっといい雰囲気になって、気がついたらその子と付き合ってー、バイトに授業にサークルで、キラキラキャンパスライフ! とかね?

 

寝 言 は 寝 て 言 え 。

 

いやまじで何なんだよあんな妄想の産物みたいなのがさもスタンダードですみたいな言説流布したやつ、マジ許さん。世の中にはそんな社会に順応できない非リアも居るんだって、分かってくれ。ただし憐れむな、惨めになるから。

 

「そんな可哀想なゆーひくんにはモカちゃんがハグをしてあげよー」

 

「え? いやいや……あっ、あったかいな……」

 

「……アタシだって、ほら」

 

「あ……。……じゃないじゃない、ちょ、お前ら離れろて!」

 

彼女欲しいみたいなこと言ってたやつが何でいざ近寄られたら引き離すんだって?

 

うるせぇこちとら理性との闘いなんじゃ!! 手出すとやばいから! いや家にあげた時点でヤバいかぁ……心配になってきた。

 

「乱暴されちゃうー」

 

「アタシは……いいケド」

 

「違うから!! あーーーー七草粥食べたいなーーーーー!!!!」

 

「あっ、そうだった。こんな感じの味付けでどうかな?」

 

なんとか済んでのところで平常心を取り戻したリサがスプーンを口の前に差し出してくれる。その粥をゆっくり咀嚼する。

 

「……う」

 

「……う?」

 

「うまっ!!」

 

「えっ、そ、そう?」

 

「え、才能なのか? あー……彼女に美味しい料理を作ってもらいたい人生だった……」

 

「か、かの……?! う……」

 

「ほらほらリサさん? 作ったやつ持ってこよー?」

 

俺がその粥の完成度の高さに感嘆し、まだ見ぬ叶うことなき未来に憂いている間に炬燵の上には小さな鍋で作られた七草粥が運ばれてきた。

 

「全部食べてもいいからね?」

 

「え、こんな作ってもらって、それは悪いからリサもモカも食べていいんだぞ」

 

作ってもらっておきながら、俺1人で平らげるなんてしたら罰当たりですらある。そう思って、俺は食器を片付けている籠からおかゆの入りそうな器を二つ取り出し、スプーンも持ってくる。

 

「って、炬燵にスタンバイするの早いな」

 

「寒いからね〜」

 

俺がちょっと目を離した間に2人並んで炬燵に入って、七草粥を2人は待っていた。俺は粥を注いで、ことりと2人の前に差し出すと、対面に入ろうとした。

 

「えっ雄緋さー」

 

「……えっ?」

 

「まさかそんなことないよね〜」

 

「そんなことって……」

 

「ほらほらこっちきてよ」

 

リサに促されるまま、一度入りかけた炬燵から立ち上がり、リサとモカの方へと回り込む。そして並んで炬燵に入っていた2人が間を空けて、布団を少し持ち上げた。

 

「……どういう」

 

「だからー、ゆーひくんの場所はここでしょー?」

 

「……いやいや」

 

「雄緋はココ、来てくれるよね?」

 

あっ、またいつかの記憶が……。今が7日だからちょうど5日前ですね、なんて寒いジョークも言ってられないほどに寒い。いや、部屋が寒いということじゃないよ。

 

「だってその、ほら、狭いじゃん?」

 

「問題ないよ〜」

 

「狭いからこそ良いんじゃん? くっついた方があったかいでしょ?」

 

「炬燵だからどこいてもあったかいんじゃ」

 

「……はぁ?」

 

「はい」

 

諦めました。だって無理じゃん。どう断れと。

狭いよ? だって炬燵の一つの面に3人がぎゅうぎゅうで入ってる姿を想像してみてほしい。……使い方頭悪くない? 向こうの面スッカスカよ。

 

「……失礼します」

 

「どうぞどうぞー」

 

「こうしたらあったかいでしょ?」

 

あったかい云々とかの前に、これ当ててきてるよね? なんかこう柔らかいというか幸せ……じゃなくて不埒というか。モカはモカで完全に抱きつきにきてるじゃん。……やばい。何とは言わないけどやばい。

 

「七草粥食べる前に、作ったご褒美欲しいなぁ?」

 

「あっ、リサさんずるいです〜」

 

「モカは味見係だもんね?」

 

「むぅ……、今日は引いておきます〜」

 

何やら取引が交わされたのか、2人の間では停戦協定が結ばれたらしい。

 

「それで、……ご褒美、欲しいなぁ?」

 

「……何をご所望?」

 

金? 金ならあるよ、出します。なので勘弁してください。とか、そんなふざけたこと言える空気じゃなかった。

 

「……ちょっと労を労ってくれるぐらいで良いんだよ?」

 

「えっ? あーそれぐらいなら「恋人みたいな感じで」難しすぎて出来ないかもしれない」

 

「……してくれないの?」

 

確かに作ってもらったのは間違いないし、そのおかげで俺はこんな七草粥にありつけているんだから労うとかはしたいよ? 是非させて欲しい。けど、内容がさ、むずいのだよ。要求難易度がベリーハード。

 

「恋人みたいな感じでって……」

 

「えー、例えば」

 

リサは倒れ込んできて、俺の胸元に頭を擦り付ける。首筋のあたりにリサの艶のある茶色の髪が擦れて妙にこそばゆい。ふんわりと華のような良い匂いもする。

 

「……ぎゅってして?」

 

「……こう?」

 

「そのまま、耳の近くで……囁いてほしいなぁ」

 

「……まじ?」

 

「大真面目」

 

恥ずかしいとかどうこうの前に、なんかもう色々アウトじゃない? とか思ったけど目線が痛い。うん。腹を括った。

 

「その……リサ」

 

「もっと近くで」

 

「俺のために七草粥作ってくれてありがとう」

 

「……うん」

 

「美味しかったよ」

 

「えへへ。……アタシのこと、好き?」

 

「え?」

 

「す、き?」

 

「え、う、うん」

 

「ありがと☆」

 

「リサさんすとーーーっぷ」

 

「わっ」

 

モカの声で完全に現実へと引き戻された。危なかった色々と。なんか、耳元で囁かれるリサの声全部が脳の奥まで染み込んで蕩けそうで。抱きついてるところとかもなんか甘くて、恋人みたいな、というかこれじゃ完全に。

 

「……次はモカちゃんもね?」

 

「あはは、そだね、アタシばっかじゃモカにも悪いからね?」

 

「……言い方もずるいですね〜」

 

何やら2人の間で閃光が飛び交っている。雰囲気も心なしか怖い。

 

「……それで、ゆーひくん?」

 

「どうしたモカ」

 

「モカちゃんにもご褒美を〜」

 

「ど、どんな?」

 

もうあんまりにも心労が大きいのはやめてほしい。もう理性がもたなくなりそう。

 

「うーん、じゃあこれー」

 

そう言ったモカが差し出してきたのはお椀とスプーン。

 

「あーんして?」

 

「え」

 

「ほらほら〜」

 

ええいままよ。思い切りが良くなると怖いね、何でも出来ちゃう。

 

「……んっ、……おぉ、これは美味……」

 

咀嚼するモカの顔はうっとりとしていて、その味に酔いしれるようだった。だがそんな顔も何故か普段外で見る時よりもなんだか。

 

「……モカちゃんの顔見つめてどうしたの〜?」

 

「えっ、いや」

 

「そっかそっか、見惚れちゃってたか〜、モカちゃん美少女だからね〜」

 

「そういうわけじゃ……」

 

「へ〜、……んっ」

 

「んっ……?!」

 

気がついた時には眼前にはモカが迫っていて。

七草粥の味はさっきよりもずっと甘くなっていた。

 

 

 







この作品はリアルの時節にもそこそこ合わせつつ、適当に思いついたネタを書きたいキャラで書き上げて投稿しているだけなんですけど、リクエストBOXみたいなのって需要ありますかね? リクエストしていただいても書ける保証もないしそもそも作者が妄想を垂れ流すのがメインなのであまり重視するかは分からないですが……。もし宜しければ以下のアンケートでお教えください。需要が一定数ありそうならBOXを用意するようにします。

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