ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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D・MAKER様からのリクエストを基にした作品です。リクエストありがとうございます。





修羅場を超えて行け【リサ&燐子】

修羅場。それは長い人の一生の中で選択を誤った時に訪れる天に与えられた試練である。時に理不尽で、時に自業自得であるその試練は、人に己の選択の愚かさを自覚させるになお余りある恐怖と混沌を与えてくるのである。

 

「アハハ☆ いくら燐子でも、それは看過できないかなぁ?」

 

「……圧力には、……決して屈しません!」

 

「……覚悟、出来てるよね?」

 

助けて。

あの、俺が覚悟できてないです。違うんです、色々あって話をそれなりに合わせていたらなんだかいつのまにかこうなってたんです。だからまたかよ、なんて言って見捨てないでください。

助けてください。

 

「……今井さん。雄緋さんが……怖がってますよ?」

 

「……えー? そんなことないよね? 雄緋」

 

「え」

 

「ないよね?」

 

「怖くないです!」

 

「言わされてます……よね?」

 

「あ……えっと……」

 

助けてください……。なんて泣き言を言う前に、まずは一体全体どうしてこんな修羅場に巻き込まれることになったのか。

 

 

 

話をしよう。

あれは今から36万……いや、盛ったな。3時間ぐらい前だったか。まぁいい。

俺にとってはついさっきの出来事だが……君達にとっても多分さっきの出来事だ。意味がわからない? 早く要件を言え? そう急かすな。

兎に角俺がCiRCLEでいそいそとバイトに励んでいた時、ラウンジで燐子に居合わせたのだ。その時はこんな険悪なムードはなく、ただ練習の小休止というか、一休みの空気の柔らかさすらあった。俺はまりなさんから散々咎められているのに性懲りも無く雑談に興じた。

 

思えば、これが間違いだったのだ。誠実に、目の前のスタッフ業務の遂行に邁進し、私情の混同なきよう職務に当たれば良いだけの話であった。

 

『あ……雄緋さん……』

 

『おお燐子。……あ、クロスワードか?』

 

いつぞや見た光景を思い出す。まりなさんに怒られた記憶がありながらも、またあんな卑猥な……いや、性悪なクロスワードをやっているのかと気になった俺はその冊子を覗き込む。

 

『その……手伝ってもらっても』

 

『ちょっとだけだぞ?』

 

我ながらちょろい。自覚はある。が、俺が手伝おうとソファで隣に腰掛けた瞬間、燐子はササッと距離を詰めた。

 

『……近くない?』

 

『いえ……! これぐらいなら……普通です』

 

その良い匂いがするのはそれはそれとして感触というか……うむ。これは中々に壮観というか、世の男どもみなが求め

 

『アハハ……何してんの? 二人とも?』

 

 

  /|__________()

〈    To Be Continued │

  \| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄()

 

 

 

対戦ありがとうございました。

俺はその瞬間、人生の終わりを悟った。こうやって人は修羅場というものに遭遇し、世の儚さを知って、命の短さを嘆くのだろう。あぁ、儚い。

俺の目の前には青筋を浮かべて、とても美しく恐ろしい笑顔を讃えたリサが。

 

『……今井さん。クロスワードパズルを二人で解いている()()ですよ?』

 

『へぇ。でもそんなに近いと解きづらいんじゃない?』

 

『そんなことありませんよ。ねぇ、雄緋さん?』

 

 

 

という夢を見たんだったら良かったんだけどなぁ……。そんなわけで俺は今地獄を見ているわけである。事の発端は俺がバイト中に雑談に感けたことと言えばそれはそうだけど、まさかここまで地雷原を踏み抜くなんて想定はしていなかったもんだから、臨戦体制の二人を前にして俺はビビり散らかしているのだ。

 

「燐子……アタシ、そんなに変なこと言ってないよね? クロスワードを解くのに、そんなにくっつく必要ないって、間違ったこと言ってるかな?」

 

表面上はそれほど声を荒げたり、捲し立てたりしてこないリサだが、威圧感が段違いである。リサの全身から溢れるオーラというか、そういうところからして別格なのである。

 

「……こうすると、こうすると、リラックス出来て、疲れが取れるので、ちゃんと……意味があります……!」

 

「へぇ。でも、クロスワードは息抜きのためにやってるんだよね? 息抜きのためのクロスワードで疲れるならそもそも意味ないよね?」

 

YA☆BA☆I。

完全にリサが論破モードというか、なりふり構わず燐子を言いまかそうとしている。こうなると口数の少ない燐子の方が不利なようにも思われた。だが、意外にも燐子はキチンと反論すべきところでは……いや、反論すべきではないかもだけど、しっかりと言い返してはいた。

 

「……だからこそ、疲れないためには、雄緋さんが……必要なんです。息抜きのために、必要なんです」

 

強いて言うならこの修羅場からとっととドロンしたいところなので、どっちかの肩を持つとかいうわけではないのだが、既に修羅の顔を浮かべるリサに立ち向かう燐子が少々不憫にも思えて、ついつい応援したくなってしまった。いやまぁ、そもそも燐子がもう少し距離を取れば解決するんだけども。

 

「そっかそっか☆ じゃあアタシが『息抜き』しても問題ないよね?」

 

「へ? 息抜き?」

 

「……何をするつもりですか?」

 

「それはー。よいしょと、……えいっ☆」

 

「へぇぁ?!」

 

どういうわけか、クロスワードの冊子の前に鎮座していた燐子とは反対側に座ったリサ。何をするかと思えば、俺の腕を抱え込み、さらに頬をスリスリと俺の頬に擦り付けた。鼻腔の奥にまで漂うリサの匂いと皮膚と触れ合う髪の感触に意識を刈り取られそうになりながらも、理性をどうにか腕を包んだ膨らみから逸らさせる。いやでも、むにむにする、何がとは言わないけど。

 

「……何をしてるんですか? 今井さん」

 

「これ? 『息抜き』だよ? 雄緋のほっぺたスベスベしてて気持ちいいんだよねぇ」

 

「……ずるいです」

 

「ちょ」

 

負けじと燐子まで同じような体勢に変え、俺の理性は一瞬で冥府に送られた。……ところをすんでのところでどうにか繋ぎ止めた。危ない、社会的地位とか信頼を全てドブに捨てるところだった。

 

「『息抜き』してるだけだから文句ないでしょ? というかアタシが息抜きしてるところだから、邪魔しないでほしいなーって」

 

「……わたしも、元はと言えば息抜きをしてました」

 

「息抜きってクロスワード? それなら今やればいいんじゃないかな?」

 

「……くっ、手強いですね……」

 

何が? 何が手強いの? というか息抜き云々って言ってるけど俺が前提の息抜きをやめろと声を大にして言いたいし、巻き込むなと言いたい。が、そんなことを言った瞬間俺は消し炭になるだろうことは容易に想像がつくので、そんな愚かな、自らの命をボッシュートするような真似はしない。

 

「雄緋ー。練習疲れたから、いつもの()()、やって?」

 

「……へ?」

 

「……今井さん。なんですか?」

 

やばい俺もわからん。いつものアレとはなんぞや? リサが上目使いでウィンクしてきたものだから思わず思考回路が停止していたわけなんだけれども、まだピンとこないぞ。

 

「……もー。恥ずかしいから、出来ないんだよね? じゃ、アタシから……」

 

「え? あ……」

 

ずっと近かったリサの顔。気がつけばさらに近くなってすっかり俺の視界の全てを覆う。それどころか全身の感覚が一点に集中して、またも脳内が休眠状態に入る。

 

「……ぷはぁ。アハハ……可愛いっ」

 

「……今井さん?」

 

「んー? どうかしたの? 燐子」

 

「……ずるいです」

 

「……へ? ちょ……」

 

何が何か分からないまま、俺は顔を無理やり左へと向けられ、またもや不意打ちを喰らう。既に俺の思考と感覚のキャパは限界を超え、ふと気を抜いて仕舞えばそのまま卒倒しそうなほどには刺激的だった。

 

「あ……」

 

「燐子もやるねー。でもそれはアタシの専売特許の息抜きなんだけどなー?」

 

「……今井さん限定じゃ……ありませんから!」

 

「じゃアタシも、もう一回……」

 

またも顔が反対を向くとなったその瞬間、足音が聞こえてきて、帰ってきた意識が遠くにいたそれを捉えた。

 

「……え? リサ? 燐子? 何をしているの?」

 

「……友希那さん。今、良いところですから」

 

「あの……そろそろ練習を再開したいんだけど」

 

「友希那」

 

「何? ……はっ、リサ……?」

 

「ワカルヨネ?」

 

コクコクと2度頷いた友希那がくるりと向きを変え去っていく。俺が必死に送ったヘルプの表情をチラ見したのに、だ。薄情者だと叫んでやりたかったが、今俺が友希那の立場でも一目散に逃走を選ぶので、まぁギリギリ許してやらんこともない。後で恨むけど。

 

「……今井さん? 友希那さんが呼んでいるなら、早く行った方が良いですよ?」

 

「えー? でも練習を再開したいなら、燐子だって行かなくちゃだよね?」

 

「……何のことだか」

 

そんな折、またもやラウンジに足音が響いた。ついに俺を助けてくれる救世主の登場、だと思っていた。

 

「まりなさん?!」

 

「雄緋くん! またサボってるのね!」

 

「……燐子」

 

「……今井さん」

 

「え? あれ、2人とも?」

 

何か示し合わせたようにアイコンタクトを取った2人はソファから立ち上がり、テーブルの向こうのまりなさんの方へとつかつかと歩み寄る。一瞬で消えた熱と感触に落胆を隠せない正直な自分の気持ちを恨みつつも、何をするのかと見守っていた。

 

「まりなさん。今、アタシたち大事なお話してるんです」

 

「うーん。それもわかるんだけど、そろそろ仕事に戻ってもらわないと」

 

「……まりなさん。後にしてもらえませんか?」

 

「え、そんなこと言われても」

 

「後にしてもらえませんか?」

 

「いやだから」

 

「後にしてください」

 

「……えっと」

 

「後にして、くれますよね?」

 

「……はい」

 

向こうでは説明、もとい話し合いが進んでいるらしい。できることなら、今このチャンスを存分に活かしてこのラウンジから脱出したいのだが、いかんせんここの出入り口が3人の議論によって塞がれていて不可能だ。要は逃げることはできない。終わった。

 

「えっと、雄緋くん?」

 

「あ、どうしたんですか……まりなさん」

 

「……今日もう上がりでいいよ!」

 

「……へ?」

 

「私にはどうにもならないから……頑張って生きて帰ってきてね!!」

 

「……は?!」

 

そう言い残すとダッシュで去っていくまりなさん。おいおい嘘だろ……。まりなさんが居れば百人力だと思ってあの2人を言いくるめてくれるものだとばかり期待していたのに……。遂に退路が全て絶たれた。そうこうしているうちにまりなさんを笑顔で見送ったリサと燐子が、またもや火花を飛ばしあっていた。

 

「あの……お二人とも、そのぐらいで……」

 

「え? 何か言いましたか?」

 

「へ?」

 

「何か言いたいことあるの?」

 

「……いえ! 何も!」

 

怖すぎるよ。こんなのどう言い返せというか、そろそろ帰っていいですかとか言えるってんだよ。

 

「そうだっ。雄緋、今日の帰り、一緒に、2()()()()でカラオケ行こうよ。練習したい歌もあるんだよねぇ」

 

「……え?」

 

「……雄緋さん? 今日の帰り、一緒に、わたしの家に来ませんか? もちろん2()()()()で。おすすめのゲームがあって」

 

「あ、いや……ちょっと」

 

これは所謂、死亡フラグが立ったというやつか? もしこれがどちらか片方かだけからのお誘いならほいほいと誘われて行っているだろうに、いかんせん今の2人からは人を容易く失神させるほどには悍ましい負のオーラが漂っている。軽率にじゃあこっちで、なんて言おうものなら俺に明日は来ない。

 

「ねぇ、アタシのこと、選んでくれるよね?」

 

「わたしと一緒に、ゲームしたいですよね?」

 

逃げるべきか? いや、そもそも逃げられる気がしない。誰かを囮にーとかすればワンチャンあるかもしれないがその囮が居なきゃ皮算用である。というか、逃げたところで何も解決していない。そうだよ、この2人がこんな病みモード全開で行き続ける限りは俺はこの2人から逃げ続けることになる。

 

「その……順番にカラオケもゲームもするというのは」

 

「え? アタシはずーっと、雄緋のこと独り占めしたいんだけどなぁ?」

 

「あ、いやそれはちょっと……」

 

自由の保障が大事、なんなら古事記とかにもそう書かれている、多分。

 

「わたしだって……一生雄緋さんのこと……。ふふふ……」

 

「待って怖い怖い怖い」

 

その笑い方、何を考えてるか分かんないからやめて?

 

「というかアタシ聞いたよ? 日菜と星見に行ったって」

 

「……ふぁっ?!」

 

……まずい。これはまずいぞ。まさか天体観測のことがバレているとは。いやまぁ、日菜が紗夜に叱られたって言っていたからそこから漏れたと考えるのが妥当か。だが、知られているということは。

 

「一緒の寝袋で、寝たんだよね?」

 

「……あ、いや」

 

「……どうなんですか、雄緋さん」

 

「まぁ……。……はい

 

たしかに、起きたら隣に日菜が居ました。もうねびっくりした。ほぼ全身密着してるし、日菜は俺にしがみつきながら俺の胸元によだれ垂らしてたし。起きたら昨日は(運転が)激しかったね、とか顔を赤らめて日菜が言ってきたから、あ、俺遂に犯罪に手を染めちゃったんだって勘違いしたし。紗夜と面談だなって、真実を話すように言ったら、既成事実にして責任取らせようとしたって、これまたえげつない爆弾を放り込んできたから肝が冷えたけど。

まぁテントから出て紗夜さんが凄い眼圧で仁王立ちしてた時が一番ビックリした。心臓止まるかと思った。日菜も真っ青な顔でズルズルと引き摺られてたし。

 

「へぇ。……日菜さんと、夜を共にしたと」

 

「まぁ言い方はあれだけど」

 

「なら、花咲川の生徒会長であるわたしとも一緒に寝るべきですよね?」

 

「どうしてそうなった?」

 

論理を超えて行け。

 

「……へぇ。あの夜、アタシの上で愛を囁いてくれたのに、嘘だったんだ?」

 

「待って待って待って俺そんな記憶ない! 改竄されてる?!」

 

日菜の既成事実並に記憶がありません。

 

「……日菜さんだけじゃなくて、今井さんにも手を出してたんですね……」

 

「虚言だから信じるなぁ!!」

 

もう何も信じられないよ。

 

「……わたしにも手を出していいんですよ?」

 

「出しません!」

 

「アタシだって、ハジメテも何もかも全部雄緋に……」

 

「ダメだから!」

 

手を出したらいよいよ捕まるんだよ。社会的に終わるんだよ。そう言い聞かせて俺は逃げようとした。しかし。

 

「……アハハ、逃げちゃダメだよ? これからカラオケで2人きりで……ね?」

 

逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……。じゃないや、逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ。本能がそう囁いている。けど、腕を掴まれて身動きが取れず。

 

「ちょ、り、燐子?」

 

「わたしの家で、イイコト、するんですよね?」

 

「いや……その……」

 

「ほら、早く選んで」

 

「わたしか」

 

「アタシ」

 

「「早く」」

 

Q.救いはないんですか?

A.あるわけない、諦めろ。

俺は修羅場を嘆きながら、薄らと目を閉じた。目が覚めたとき全部解決していますように……。

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