ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

47 / 89
GWは小説を書きまくろうとしてたら、3回目のワクチン接種による発熱で暫く倒れてました。というかまだしんどい。

本編どうぞ。






たえデレラ異世界転移【たえ&薫&麻弥&りみ&ひまり】

校門の前に据え付けられた看板。普通に考えて、高校の校門前にある看板なんてのは、例えば交通ルールを守るという注意喚起の看板とか、そういうものがせいぜいだろう。だが、この看板からはオーラが、風格が、溢れ出ているのである。それこそ、本当に光源が当てられているのではないかというぐらいの輝きを放っているし、その輝きは両隣でハートマークを浮かべる熱烈なファンを虜にしていた。

 

「薫先輩……あぁ……」

 

「薫さんってどうしてこんなにカッコいいんだろう……」

 

「……えぇ」

 

「いいなぁおたえちゃん。ヒロインを出来るなんて……」

 

看板にどでかく書かれたタイトルには、『たえデレラ』などというなんとも聞いたことがあるようなないような文字列がいた。純白のドレスを着たたえは何故か赤いリンゴを齧りながら、それを大きく手を広げ迎えにいく薫。

そんな宣伝用のポスターやら看板やらを見て、薫のファンたちは黄色い歓声を上げているのである。事実、隣で声をあげているりみとひまりも、そんな衝撃のステージを今日見られるということもあって、そのうち卒倒でもしそうなぐらい興奮をしている様子だった。

 

「いや、まず『たえデレラ』ってなんだよ……」

 

「なんでも『シンデレラ』の脚本を麻弥先輩が色々弄ったらしいですよ!」

 

「だろうな。だって毒りんごは『白雪姫』だし……」

 

たえが齧っているこのりんごが毒りんごなのかどうかは定かではないが、少なくともシンデレラのストーリーにりんごが出てきた覚えはない。どっちかというとかぼちゃの馬車とかそっちだろう。それと序でに言えば、告知看板の薫とたえの間に描かれた青いギターは『シンデレラ』にも『白雪姫』にも見覚えがない。というかそんな現代チックなギターが出てくる御伽噺は聞き覚えがない。そんな点を考えても、相当程度には原作に対して改変が加えられているらしい。

 

「でもでも、本当ラッキーだったよね! チケット当選するなんて!」

 

「うんっ。本番はまた今度って言ってたけど、まさかその前に見られるなんて〜」

 

きっと、みんな。頭の中に『?』ってなってるだろう。今日観に行くのに、本番はまた今度ってなんぞや? と。俺も最初りみとひまりに誘われた時何が何やら分からなかった。

で、話を聞くと今日は『完成記念式典・プレミア公演』ということらしい。どういうこと? お前ら普通の一高校の演劇部だよね? なんでそんな映画のクランクアップ記念の試写会みたいなノリで公演開けてるの? 実は興行収入でめちゃくちゃ稼いだりしてる? 薫の人気っぷりを見れば物凄い収入になりそうではあるけれども。

 

「でも開演時間までまだかなり時間あるよね?」

 

開演予定は18:00とかで、今はまだ16:00。多分当の演劇部やらは上演準備で多忙を極めているだろうが、単なる観客にすぎない俺たちからするとこの2時間はものすごい暇な時間である。

 

「あ、なら演劇部の部室行ってみましょうよ!」

 

「え、今は絶対忙しくてそれどころじゃなくない?」

 

「薫さんのこと出待ちできるかなぁ……」

 

あ、だめだこの子達。推しの尊さか何かに頭をやられて、完全に思考回路が短絡してしまっている。恋は盲目とはよく言ったものだ。

 

「よーし、そうと決まれば早く行こうー!」

 

そしてひまりの案内で、羽丘の演劇部の部室とやらに向かうことにした。

 

 

 

案の定部室の近辺の廊下に着くと、部員かどうかは分からないながらも、生徒が慌ただしく荷物の搬出をしたり、忙しなく部屋を出入りしたりしている。

 

「なぁ……。やっぱり忙しいんじゃ」

 

「あ、薫先輩だ!」

 

「本当だ」

 

だめなファンか。

 

「おや……子猫ちゃんたちが迷い込んでしまったようだね」

 

と思ったらこの演者も演者であったか。教室の窓から目敏く俺たちの存在に気が付いたらしい薫はつかつかと近寄りドアを開けた。

 

「折角来たんだ。ゆっくりしていってくれ」

 

「い、いいんですか?!」

 

「お邪魔します!」

 

本当にお邪魔になってないか、なんて思ったが、まぁ薫がそう言っているのだから大丈夫だろう。今の部室の中には会場準備の人たちはある程度出払ったのか、主演である薫と、たえの姿だけがあった。

 

「あ、りみ」

 

「おたえちゃん。おつかれさま」

 

「薫先輩もお疲れ様です! これ、差し入れです!」

 

「おや、嬉しいね。ありがとう」

 

「私も食べていい?」

 

「もちろんだよ?」

 

ひまりとりみがずっと大事そうに持っていた袋の中には小腹が空いた時に食べられるようなお菓子が沢山包まれている。お腹が相当空いていたのだろうか。何やら高級そうな赤の袋に入ったお菓子を、たえがかなりのスピードで平らげていく。

 

「……えっと。それで、『たえデレラ』ってどんな話なんだ?」

 

「麻弥が『シンデレラ』を元に書いてくれたお話なんだ……。あらすじだけでも教えてあげよう……。

 

あるところに、'たえ'というとても愛らしい娘が居りました。その娘は病弱で常に美しいギターの音色を聴いていないと、倒れてしまう特殊体質でした

 

「おいちょっと待て」

 

「おやおや……どうしたんだい?」

 

「特殊体質過ぎない?」

 

俺の耳がおかしくなかったらだけど、ギターの音が聞こえなくなった瞬間倒れるってことだよね? そもそも病弱は良いとして、それは最早そのギターの呪いか効能かどちらかなのでは?

 

たえは必死にギターを練習し、自分で満足の行くようなギターの音色を奏でられるようになっていました。しかし、ある日突然たえの周囲を眩い光が包み……。その光に導かれるまま目が覚めたら

 

「……目が覚めたら?」

 

なんとたえは遥か昔、ギターなんてものが存在していない時代、世界へと転送されてしまっ「ちょっと待てや」……何かな?」

 

「……え? 異世界転移ものか何か?」

 

「そんな近年流行の小説の傾向に囚われたものじゃないよ……」

 

「いやいやどっからどう考えても」

 

たえが異世界へと転移してしまった際に、たえの持っていた青いギターはどこかへと消えてしまい、ギターの音色を聴くことが出来なくなったたえは倒れてしまいました

 

「……おい、やっぱり異世界に転移してるじゃねぇか」

 

やっぱり流行に乗っかった感が満載である。多分タイトルをつけるなら、『ギター命の私がギターのない世界で音楽革命』とかそんな感じだろ。

一体今の話のどこに『シンデレラ』の元々の要素があったというのか。かぼちゃの馬車もガラスの靴も、意地悪なおばさんたちも出てこなさそうである。

 

「薫先輩はどこに出てくるんですかぁ!」

 

「それは観てからのお楽しみだよ」

 

「おたえちゃん、宣伝が上手いなぁ……」

 

「……とはいえ、折角私を求めて遥々この舞台に巡り会った子猫ちゃんたちに何のお土産も渡さないと言うのは、あまりに儚い……」

 

「……と、言うと?」

 

薫がバッと手を前に捧げながら跪く。その角度的にはどうやら俺も子猫ちゃんのうちの1匹としてカウントされているらしい。やめてくれ。熱量はひまりとりみと比べると遥かに劣っているだろうに。

 

「私はたえちゃんがギターの音色を取り戻そうと奮闘する時に颯爽と現れる異世界の音楽の伝道師なんだよ……」

 

「異世界の音楽の」

 

「伝道師?」

 

「めっちゃ面白そう……」

 

え、まじで? カオス展開が容易に想像つくのだが、ここから面白さを抽出するのは難しくない?

 

「おたえちゃんの儚い現世での御魂を繋ぎ止めようと薫さんが自分の身を削りながらも必死の形相でギターというアーティファクトを生み出すシーンが目に浮かぶ〜」

 

うん、やっぱりそこまで妄想を巡らせるような面白さを見出すのは難しくない?

 

「うん、りみが考えてるようなシーンあるよ」

 

「す、すごいよりみ!」

 

「薫さんの出てくる脚本を書く才能ならあるかも……」

 

それはそうと急に饒舌になりすぎでは? 2人の薫に対する入れ込み様は物凄く、嫌と言うほどに理解ができたが、残念ながら俺にはここまでのめり込むような情緒が理解できない。根本的に薫に対する捉え方が違うのかもしれない。

瞳に幾重ものハートマークを溢れさせている2人に乾いた笑いを溢しながら、ふと教室前方の時計を見る。談笑をしていたせいか、時刻は16:30を回り、教室に稀に出入りする演劇部員たちの動きもより一層慌ただしくなってきた。その時、またも教室前の廊下を駆けてくる足音が聞こえてくる。

 

「薫さーん?! たえさーん?! あ、ここに居たんですか!」

 

「おや……麻弥。そんなに息を切らせてどうしたんだい?」

 

「どうしたもこうしたも、リハーサルの時間とっくのとうに過ぎてますから! 早く来てください!」

 

慌ただしく駆け込んできた麻弥は肩で大きく息をしながらもすごい剣幕である。けど、そんな大慌ての麻弥とは対照的に椅子に腰掛けたままの薫とたえは全く焦る素振りを見せない。

 

「そういえばリハーサルの時間そろそろでしたっけ」

 

「そろそろも何も、もう予定だったらリハーサル始まってますよ?!」

 

「私の中では、リハーサルは16:40からだった記憶なんだけどね……。まだ16:30になったばっかりだ。そう焦ることもないよ、麻弥」

 

「は、はぁ? ……あ、あの時計止まってますから!」

 

「え?」

 

麻弥が指さした先には先程俺がチラリと見た教室前方の時計。その時計は未だに変わらず16:30を指し示し続けている。

 

「さっき言いましたよね?! あの時計電池切れですけど代わりの電池ないから今日は使えないってぇ!!」

 

「……儚い」

 

「儚いですね」

 

「ほら! 早く行きますよ!!」

 

麻弥に手を引かれ、ポージングを決めながら引きずられていく薫とたえ。本当に時計が止まっているのかと思い、スマートフォンの画面をつけてみれば、確かに現在時刻は16:51と表示されていた。

 

「……遅刻だな」

 

「遅刻しているのにあの余裕……。カッコいい……!」

 

「わかる……。あんな余裕のある大人に憧れるなぁ……!」

 

「えぇ……」

 

余裕がある大人は遅刻なんてしませんなどという俺の正論は聞き入れられることなく、この思考が逆上せた乙女たちに辟易するのだった。

 

 

 

「会場の皆さま、本日は本校演劇部主催、『たえデレラ、完成記念式典・プレミア公演』にお集まりいただき、ありがとうございます。まもなく開演いたします。はじまりはじまりー!」

 

講堂のある席に着いた俺たち。数分ぐらい経って、場内アナウンスが流れると、目の前の深い緋の幕が上がっていく。そして同時に、会場全体が拍手喝采に包まれた。

 

時は現代。この花咲川の街に、花園たえという、それはもう周囲から崇め奉られるような偉大なギタリストがいました。たえの奏でるギターの音は自由奔放ながら、確かなテクニックと情動の籠った、聴くものの心を震わせるような力を持っていました。しかし、たえは昔からそのようなギターを奏でる力を持っていたわけではなかったのです。これは、Poppin'Partyの花園たえとして名を轟かせる前の、不思議な不思議なお話

 

ナレーションが一通り終わると、舞台上にはスポットライトがぼんやりと当てられ、そこにゆっくりと歩み寄ったのは、主役とも言うべきたえだった。

 

『そういえば今日、あの日か。懐かしいな』

 

棒読み。なぜここまで感情を無にできるのだろうかというほどの清々しい棒読み。哀愁に浸る気持ちはその声色からは全く感じられない。なんでこんなキャスティングをしたのだろうか。

 

たえが思い浮かべたのは、3年前のある日。虚弱で、美しいギターの音色を聴いていなければ失神してしまうような自分に失望したたえが、漸くギターを弾けるようになった、そんな日常に訪れた奇怪で、摩訶不思議な体験のことでした。

 

『私は、あの日から成長したのかな』

 

ここでスポットライトが消されて、神妙なBGMが流れる。それは回想シーンに入ることが感覚的に伝わってくるような、ノスタルジックな音楽だった。

 

私は、3年前の今日、当然光に包まれ、目が覚めたらギターの存在しない、太古の世界に転移していたのだ。そこには現代で通用する音楽理論だとかいうものは存在しなかった。楽器というものも、叩いて音を鳴らすような原始的なものしかなかったのだ。ギターの音色を聴いていないと心臓の動悸が止まらず、数分で意識を失ってしまう私は酷く焦ったのを覚えている

 

『どうしよう。このままじゃ、死んじゃう』

 

『どうしたんだい? 子猫ちゃん……』

 

会場が静まり返る。あの、薫様の、登場だったからだ。

 

生命の危機に瀕した私が聴いたのは、どこか懐かしさを感じる温かい声。王子様のようなその声に、私は一瞬で恋に堕ちたのだ

 

『その、ぎたあというものの音を聴かないと、君は死んじゃうんだね?』

 

『はい、助けてください』

 

私は懇願した。掠れ始める声を上げて、ギターの音を伝えて、こんな音色が聴きたいと、嘆願したのだ。無理だということは、分かっていた。だってこの人はギターを知らない。この時代にギターはない。だから、私の一生はここで終わるんだって、諦めていた。けど、カオルサマは違った

 

『君が来た未来にしかない音色……。儚い……』

 

『御託はいいから、死ぬので、早く』

 

『そう急かさないでくれ。ぎたあが無かったとしても、その音色を聴く方法はないわけじゃない』

 

『どういう……』

 

『この世界には、音色を創る、そんな方法があるんだよ』

 

『音色を……創る?』

 

固唾を飲んで、舞台上を見守った。そして。薫がこちらに振り向いて、あのカッコつけた表情で。

 

『ビートボックスさ』

 

「え?」

 

「「きゃぁぁぁあああ!!」」

 

客席から歓声が上がる。え、今ビートボックスって言った? そんなことないよね? 音楽理論が存在してない、ギターもない世界でビートボックスとかないよね?

 

『この口で、君の命を紡ぐのさ』

 

「「きゃあああぁぁぁ!!」」

 

そこからは凄まじかった。薫が台の上に乗り上げ、渾身のビートボックスでギターの音色を披露。ノリは新春隠し芸大会のそれ。しかし、俺以外の観衆たちはそのギターの音色とやらに酔いしれていた。

正直、俺が異世界に来たのかと思った。

 

こうして、花園たえは元気を取り戻し、カオルサマと一緒にギターの音色を探し求めてこの世界の旅を始めた。そして、花園たえは魔法使いから貰った毒リンゴを齧り、呆気なく現世に帰ったのであった。おしまい

 

「え、終わり?」

 

「おたえと薫先輩の別れ、悲しすぎるよぉ……」

 

「おたえちゃんも薫さんも、お互いが信じる音楽の道を突き進んで、一生を全うしたんだね……!」

 

「え、どこからその感動の要素汲み取ったの? というかシンデレラは? ギターという名のアーティファクトを生み出す物語は? 毒リンゴは何?」

 

「煩いですよ! 人が感動の余韻に浸ってる時に口出さないでください!」

 

俺は物凄く怒られた。なんでこんなに理不尽な形で怒られたのだろうか。

俺は物凄く後悔した。なんでこの観劇のために時間を割いたのかと……。

 

『たえデレラ』は、羽女演劇部史上、最高の観客動員数を記録した。

なんでや、シンデレラ関係ないやろ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。