ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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GWの小休止【日菜&つぐみ】

GW。世の人たちはみな連休だなんだとあちこちへ赴き、非日常を満喫するのであろう。テレビのニュースでは毎年の如く見たような、高速道路の大渋滞が空からのアングルで映されて、人々の営みが垣間見えている。

まるで達観したような、連休を悠々自適に暮らす人々を嘲笑するかのような言い方をしている俺だが、じゃあそんな俺はどうなのかと問われれば、勿論ありがたくこの休暇を享受していた。俺もそんな世俗の中の1人である。

 

「学校も何にもない休日って最高だなー……」

 

授業だとかゼミだとか、そんなめんどくさいもの全てからおさらば出来るし、バイトのシフトも出していないし、俺はまさに休暇を満喫する気満々であった。里帰りするには微妙に帰りづらい休日配置に帰省を諦めた俺が、GWをどう過ごそうかと思えば、その手段はもう遊び倒すぐらいしかない。勉強? しなくても生きていけるそんなもの。

だが、もう気がつけば三連休とやらは最終日らしい。ミッシェルになって色々やってるうちに気がつけば休みというものは消え失せていた。その失くなってしまった休みを取り戻すように俺は、日帰り旅行という形で……。

 

「ねー。まだ着かないのー?」

 

「渋滞してんだから仕方ないだろ……」

 

……おっかしいなぁ。本当は1人でこう、のんびりと車でね? 3連休の最終日だから高速道路の下りもそんな混んでないかなと期待しながら旅行しようとしたわけですよ。まぁたしかに、初日ほどは混んでなかったよ。けど違うんだよ、予定と。

 

「あたし流石にそろそろ飽きちゃったなー」

 

「ひ、日菜先輩っ」

 

「暴れんな。下ろすぞ? 高速道路で」

 

「パワハラ反対ー!」

 

車には日菜とつぐみが乗ってます。おっかしいなぁ……。

いやまぁ俺もね、折角旅行行くなら同伴者が居たらいいなとは思っては居たよ? 友達に聞いたら彼女と旅行とかいう羨ましい爆発すべきリア充が大量発生していたものだから、俺もそれに倣って愛しの彼女と2人でドライブデート! みたいなのを妄想していたわけよ。そしたらなんか、後輩のお守りになりました。違うんだ、俺が求めてるのはそうじゃないんだよ。

 

「というか、後部座席からじゃ景色横しか見えないもん。前の方見たーい!」

 

「ダメ。助手席に日菜が来たら、暴れられた時に事故起こしたら困る」

 

「あ、あはは……」

 

この間の天体観測とかやらはこっちも無気力状態で車を運転してたものだから多少騒がれても影響は出なかったが、今この状態で馬鹿みたいに騒がれると、高速ということも相まって大事故を起こしかねない。連休最後に事故で大怪我なんてのは勘弁である。

 

「もうすぐ渋滞してるエリア抜けますから、ね? 日菜先輩!」

 

「つぐちゃんがそう言うならー」

 

「……てかさ、なんでいんの? 本当に」

 

みんな、お前が乗せたんだろって思ったろ? 違うんだよ。駐車場から出て少し走ったところで信号待ちしてたら急にミラーに日菜の頭が映ったんだよ。気づいたら乗り込んでやがったってわけだ。最初は本当に心臓飛び出るかと思った。というか前の車に追突しかけた。

 

「え? だって雄緋くん、今から旅行に行くんだよね?」

 

「……そうだけど?」

 

「修学旅行の行き先決めるときの参考にしよーって、ね? つぐちゃん」

 

「ま、まぁ。行き先の案を作る時に役に立てばいいのかなって、思いました!」

 

違うよね? 修学旅行の行き先決めるのはまず生徒会じゃないよね? 学校でしょ? 流石にいくら生徒会長でも修学旅行の行き先とか決める権限はないはずだし、詭弁であることには違いない。大方、面白そうだからついてきたとかせいぜいそれぐらいだろう。

 

「……もうなんでもいいけど」

 

「そういえば行き先聞いてなかったですよね。どこに行こうとしてたんですか?」

 

「……箱根」

 

「温泉?! 温泉ってこと?!」

 

「あーうるさい! 騒ぐな!」

 

ものすごく後部座席で騒ぐ日菜を静かにさせていると、つぐみからも声がかかる。

 

「あれ、箱根に行くのに、車なんですか? この時期だと道路とか混みそうなのに」

 

「ん? あぁ。混みはするけど、移動中もプライベート空間でいられるからな」

 

「なるほど……、たしかに電車だと落ち着かないかもしれないですね」

 

「……あ、もしかして雄緋くん電車乗れないとかー? 千聖ちゃんみたいに」

 

「あれと一緒にするな……。初見で迷うことはあってもあんな悲惨にはなってないぞ」

 

「あーあ、知ーらない」

 

あんまりこっ酷く言うと今度とんでもない目に遭わされそうだからここら辺にしておこう。

そうこうしているうちに渋滞の続くゾーンを抜けたのか、スイスイと車が動くようになる。高速道路を運転すると言うのはやはりこうも気持ちがいいものか。少しだけ開けた窓から空気がさっと入ってきて頬を撫でるのが快感だ。

 

「それで、今日は箱根温泉に日帰りで行くってこと?」

 

「まぁな。泊まるほどじゃないし、というか明日朝から授業だし」

 

「雄緋さんと温泉旅行……。……枕投げとか」

 

「修学旅行じゃないんだから……。あと泊まりじゃないからな」

 

温泉旅館で枕投げをする不届きものにはなりたくない。枕投げでひと汗かいてその汗を温泉で流すなんてのもちょっと魅力的ではあるが、流石にやることが幼稚すぎる。

 

「……というかさ、俺、お前らがついてくるなんて想定してないから、部屋とかご飯とか1人で予約してるんだけど」

 

「……えぇっ?! あたしたちは部屋もご飯もなしってこと?!」

 

「そ、そんなぁ!」

 

「そんなこと言われたって勝手に車乗り込んでたのそっちじゃねぇか……」

 

いや、今更だけど、鍵俺が持ってんのにどうやって車に乗り込んだの? 流石に車のキーまで合鍵作りましたとか言われたら俺泣くんだけど。

 

「えっと、ちなみにご飯っていうのは……」

 

「宿で食べるのは夕ご飯だけの予定だったけど……」

 

「メニューは?」

 

「……国産牛のしゃぶしゃぶとお寿司」

 

「食べたい!!」

 

「……はぁ。宿の人に連絡して聞いてみるから……」

 

「ありがとうございます!!」

 

俺は緑の案内板で見る限り1キロほど先にあるとかいうSAにまで車を走らせ、流れに沿って側道に入る。後部座席ではまだ食べられるかどうかなんて確定すらしてないのに、2人でどこの肉だとかどうとかを話していた。

この膨れ上がる期待に応えられるのか、いやいや宿の人も当日にいきなり言われても困るし食材とか用意できてないし、そもそも用意してもらったとして財布から金が凄い勢いで飛んでいくなぁだとか、色んなことが頭をぐるぐる駆け巡っている。ちょっとぐらい請求しても許されそうだが、それは余りに情けないし。そんな葛藤を窓の外に吐き出したら丁度駐車場に空きを見つけたので車を停めた。

 

「トイレとか、今のうちに行ってこいよ。俺、これから宿に電話かけるから」

 

「はーい!」

 

めちゃくちゃ元気だなおい……。2人の中ではもう既にご馳走にありつけることで確定しているのかも知れないが、果たして宿の人にそんな無理が通るのかどうか、番号を調べて電話をかけた。

 

 

 

「ただいま戻りました!」

 

「ねーねーどうだった? いけた?」

 

「……行けました」

 

「え、本当ですか?!」

 

「当日キャンセルが出た分があるので予約内容も変更して、用意できるとのことです」

 

「ありがとー!!!!」

 

本当にありがとうございますと、俺はあと数十キロ先の旅館の方と、数時間後に一気に軽くなるであろう革財布に敬礼した。料金? 当然3人分だからな。日帰りとは言え、高いよ。

 

「しゃぶしゃぶ……」

 

「お寿司……」

 

「お手洗いは済ませたな? 出るぞ」

 

後部座席でトリップを決め込んで、まだ見ぬ極上食材に涎を垂らしそうになっている2人を尻目に、ドライバーは粛々と車を走らせた。

 

 

 

高速道路を降りた一行の車は、箱根湯本の街を訪れる。早川の流れに沿って道路が伸びて、その道路の並びには幾つもの土産物や茶屋、旅館が立ち並んで観光地の様相を呈している。観光地の良いところというのは、実際に店に入らなくても、こうやって目で見るだけでもその雰囲気を楽しめるところにあるのだろうか。

左右に迫る山々の木々の影に隠れるような家屋を見送りながら車は進む。俺は対向車や徒歩で歩く観光客らしき人を尻目に運転するのだが、その背景となる街の艶な雰囲気を楽しんでいた。

 

「ぐぅ……」

 

「……はぁ」

 

が、後部座席の2人はテンションをやたらとあげたのが祟ったか、揺られながらも睡眠に溺れていた。車のエンジン音に紛れて寝息が聞こえてくるのだ。外の風景を見て楽しもうとしている俺は、こいつらは観光に来た割にその辺りは完全に無視なのかと呆れながらも坂道を上っていた。

 

「……んんっ」

 

「あぁつぐみ。起きたんだな」

 

「……ここどこですかぁ?」

 

「箱根だ。目的地は割とすぐそこだぞ」

 

「……んんぅ」

 

どうやらつぐみもまだまだお眠らしく、生徒会長の寝息も健在である。だが、どうにか起きようという努力はしているらしい。目を何度も何度も擦っては、窓から見えている、道路の真上にまで枝を伸ばす木々や、1番下に荘という字を拵えて、いかにも旅館の風貌をなした建物に視線を向けている。そんな観光地らしさを実感すると漸く眠気もそこそこになってきたらしい。

 

「ここが、箱根温泉……」

 

「まぁ箱根温泉は温泉でも、目的地はもうちょっと先だけどな」

 

「温泉じゃないんですか?」

 

「いや、強羅温泉っていうところでな、カラフルな温泉があるって聞いたからな」

 

箱根温泉とは言いつつもそれはあくまでも総称で、実際には箱根周辺にはかなりの規模で温泉街が広がっている。さっき通ってきた箱根湯本なんてのは有名で、この辺りでは1番大きな類の温泉街になるが、その他にも沢山、特色豊かな温泉街がある。温泉ごとに特徴のある街がいくつもあるのも箱根温泉の魅力なのである。

 

「カラフル?」

 

「なんでも5色パステル温泉なんて言うらしいんだけど」

 

「……あはは、日菜先輩、寝てますね」

 

「だな」

 

起きそうにない。

でもまぁ、旅館に着くまでは後少しだし、今起こそうが着いてから起こそうがそれほど変わりがないし、着いたからでいいやとくねくねとした幹線道路を走らせて、坂を上った。

時折道路の近くを通る電車の音を聞き流しながら、談笑をしつつ山道を上っていると、視界が開けて街が見えてくる。依然として多くの木々が視界に溢れてはいるが、それなりに駅前のような発展を見せる街並みになってきた。

 

「お、あれだ。あそこだよ」

 

宿として俺が元々予約していた旅館が見えてきた。駐車場もそれほど埋まってはおらず、適当なところに車を停めた。

 

「日菜先輩! 着きましたよ!」

 

「……むにゃぁ」

 

「……紗夜が浴衣で」

 

「どこっ?! おねーちゃん?!」

 

「凄い起こし方ですね……」

 

「夢かぁ……」

 

「おはよう、チェックインするぞ」

 

渋々重そうな体を起こして車から降りた日菜とつぐみを連れて宿に入る。急遽予約内容の変更に応じてくれた宿の人にこれでもかというほど頭を下げまくった。

 

「よし、じゃあ早速温泉行くか」

 

「おー!」

 

「当然だけど、女湯と男湯別だからな」

 

「えーー!!」

 

「当たり前だろ……」

 

ここ旭湯じゃねーから。いやというか、旭湯のあの対応もおかしいから。

どうにか抵抗しようとする日菜とつぐみを引き剥がして俺は男湯にへと飛び込む。まずは運転に疲れた自分の体を労うための癒しのお湯を。日々の疲れを癒すってのはもうちょっと後でいい。どうせこの後美味しいご飯を食べたら、また帰りも運転しなきゃ行けないんだし……。

……あれ、なんで俺疲れを癒しに温泉に観光しにきたはずが疲れてるんだろ……。休みの日に休むために疲れて、疲れを癒すという無限ループを忘れるかのように俺は熱々の温泉にダイブした。

 

 

 

「……ふぅ」

 

温泉から上がって、本来楽しむはずだったお一人様ライフを満喫した俺は旅館の廊下を闊歩していた。え? 彼女とのリア充タイムが欲しかったんじゃないかって? うるせぇな居たら元から2人でデート行ってるんだよ余計なお世話だ、と誰に対するツッコミなのかすら分からぬものを無駄に考える。

いやでも、きっと、竹細工の灯籠でこんなに雅な橙に彩られた廊下で考えることではないのかもしれない。光が単に美しいのではなく、竹の節や竹そのものが構造上遮ることによって産まれる影の形が美しいのである。そんなものを眺めていれば、普段の冗長な悩みだとかは全てどうでも良くなったような気が——。

 

「ただい「えっ?」あ?」

 

自室のドアを開けて、襖の奥へと視線を向けた。そこには水色の羽織と緑の羽織でで上気した肌の一部を隠そうとしていた、2人の繊細で耽美な姿が。

 

「あ、おかえり。雄緋くん」

 

「えっちょ、日菜せんぱっ」

 

「あ、え」

 

「どーしたのつぐちゃん?」

 

俺は咄嗟に目を瞑る。これ以上はいけないという生存本能的なサムシング的な反射神経的なアレ的な何かのアレである。

 

「あ、これ? 雄緋くんもあたしの裸見るー?」

 

「早く着付けしろ!」

 

「ダメですってぇ日菜先輩! ってあ、あ、あ、私……あぁ……」

 

「見てないから!! 早く着ろよ!!」

 

まさか着替えてるとは思わないじゃん。こちらには背中側を向けてたからまだ良かったとは言え、部屋の鍵開いたままだったし、襖開きっぱなしは無防備過ぎるから気をつけろよと怒ろうにも怒らない、温泉街の夜の入りであった。

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