ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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両手に迷子【千聖&花音】

「……どこ行ったのかしら」

 

「……そっすね」

 

そろそろ正月気分も抜けてきた今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。あ、私でしょうか? 元気でございます。色々あったけどこの生きにくく世知辛い世の中をあれだこれだと足掻きながら日々を生きております。今もね、無理難題をふっかけられて、それと戦っているんですよ。無理難題って何か、それはですね。

 

「一体花音はどこにいるの……?」

 

「こっちが聞きたい」

 

今週の『花音を探せ』。今回のゲストはアイドルバンドと女優、二足の草鞋を履いて芸能界を席巻している白鷺千聖さんです。そんな白鷺千聖さんをお招きして、今回も迷子となっている松原花音さんを探すこの企画。何回目でしょうかねほんと。

ちなみにどういう経緯で俺がそんなクソみたいな企画に参加しているかと申し上げますと、完全な巻き込まれ事故です、はい。この白い悪魔に

 

「何か失礼なことを考えていないかしら?」

 

「いえ、何も」

 

天使にお誘いを受けて、というか手伝いを請願されました。いやまぁ最初に迷子になってるんじゃないかって言ったのは俺なんですけどね。断ることもできないまま……という次第です。本当は夕方からのバイトの前に食材の買い出し行かなきゃと思って、家から這い出てきたんですけど、本当に偶然たまたま遭遇してしまってですね。クソが。

 

「というか貴方ももっと真剣に花音を探す方法を考えてくれないかしら?」

 

「至って真剣なんだけど? 俺は買い出しの途中なんだって」

 

俺だって予定の中に突然『花音 迷子のお呼び出し』なんて予定が飛び込んできたから早く見つけたいんだよ。

 

「というかさ、電話かけても出ないんだろ? そんなのどうしようもなくない?」

 

「そうなのよね……。正直連絡が取れなきゃもう思いつかないわ」

 

電話かけたら、迷子の花音をこの場所に来させることは出来なくとも居場所突き止めるぐらいはできると思ったそこの貴方。

 

ざ〜んねんでした、音 信 不 通です☆

いやどうするんだよ本当。詰んでるだろこれ。

 

「花音が行きそうな場所の心当たりはあるけれど……」

 

「おっ、あるのか? ならもうしらみ潰しに」

 

「そんなことしてたら日が暮れるわよ。それに花音が電車に乗ってたりなんてした日にはこっちが遭難よ?」

 

「いやどういうことだよ。……あっ」

 

俺が反論したら睨まれた。自覚はあるらしい。

 

「高校生にもなって電車にすらまともに乗れないポンコツ女優さんがいるって聞いたんですけどマジっすか?」

 

「……まさか、そんな人がいるだなんて私も初耳だわ」

 

自分のこと、棚に上げてやがる。

 

「いやーありえないよねー、まさか駅の案内板をちゃんと見てなお反対方向の電車乗るとかさー、えー?」

 

「それ以上口を開くようなら社会から貴方の存在そのものが消えることになるけれど?」

 

「調子に乗ってすみませんでした」

 

だって普段から小馬鹿にされがちだからこういう時ぐらいちょっと優位に立ってみたいじゃない? マウンティングというか優越感に浸りたいというか。大人気ないけど。

 

「……とにかく、現状花音の居場所を特定する方法なんてないから、心当たりのある場所を確かめてまわるしかないわね」

 

「俺帰っていい?」

 

「だめ」

 

「はい」

 

じゃあととりあえず千聖から心当たりのある場所を聞き出してみる。なんでもこの近辺だけでも数カ所あるらしく、その心当たりというのは過去の経験の蓄積とのこと。過去の経験の蓄積あるならもう少し迷子の対策なんとかなんないの? って思ったけど『迷宮のジェリーフィッシュ』だからね、仕方ないかな。

 

「……ふーん、じゃあ俺は川を挟んで東側……って、何その体勢?」

 

手分けしようぜって言おうとした瞬間、俺の左腕が凄まじい速度で掴まれる。

 

「いえ? それじゃあまずは川の東側から行きましょうか?」

 

「あの……腕……」

 

「何か問題でも?」

 

「大アリです」

 

一応、もしかしたら気になってる人もいるかもしれないから言及しておくけど、千聖は最低限帽子を被り、眼鏡をかけて、とぱっと見ではそれが白鷺千聖であると分からないような工夫はしているらしい。けどさ、この絵面やばいじゃん?

 

「仮にもアイドルって自覚あんの? というかこの間俺の家入り浸ってたけどさ」

 

「少なくとも貴方にアイドルを説かれるほど落ちぶれてはないわね」

 

「いや落ちぶれてるよ?」

 

「……本当に?」

 

「本当に」

 

「どういうところが?」

 

「えっと……世間体を気にしないところとか?」

 

「貴方より社会の厳しさは知っているつもりだけれど」

 

「そういうことじゃねぇよ」

 

なんだろうなぁ。初めて会った時はこの人こんなんじゃなかったんです。本当なんです。もっと自分自身が厳しい芸能界で生き抜いていくためにどうすればいいかとか色々葛藤してさ。いや、これはこれで人間味が出てていいと思うんだけど、俺は一体何を語っているんだ。

 

「まぁそういうわけだから、早く花音を探しに行きましょう?」

 

「待って? どういうわけ?」

 

というか振り払おうとしたらめっちゃ強い力で締められたあっ痛い痛い痛い。

 

「だから、腕なんで組んでるの?」

 

「……私が迷子になるかもしれないからかしら?」

 

「いや何で俺に聞くんだよ。世間体とか色々気にしろよ」

 

俺は一体なんでこんな説教をかましているんだ?

 

「うるさいわね、私は今腕を組みたい気分なのよ」

 

「どういう気分だよ」

 

「……いや?」

 

「ずるくない?」

 

こいつ多分わかってやってんだろと。ここでの上目遣いはずるいわ。というか嫌じゃないよ? 嬉しいよ? 嬉しいけど恥ずかしい、そんな複雑なお年頃の男の子の気持ちを分かってほしいとまでは言わないけど。なんかこう色々当たって、柔らかいなぁとか。

 

「変態」

 

「俺は悪くない」

 

「……触る?」

 

「……は?」

 

千聖はホールドしていない方の俺の腕をこちらへと持ってくる。そして掌を。

 

「ストップぅ!」

 

「……触りたくないの?」

 

「触りたい! じゃなかった、自制してんだよ!」

 

「……目がぎらついてるのに?」

 

「生理現象!」

 

「私は良いのよ?」

 

「さーーーて、花音を探しにいくぞぉーーーー!!!!」

 

待ってろ花音ーーー!

 

「チッ」

 

今こいつ舌打ちしやがった。

 

「……雄緋?」

 

可愛い。間違えた。あざとい。

 

 

 

そういうわけで俺の左腕はホールドされたまま花音の居場所の心当たりだという所へと歩く。住み慣れた街のはずなのに、いや、上京してからめっちゃ年月経ってるなんてことはないのだけれど、先の見えない不安感だとか、逆にこの迷宮に囚われてしまいそうな錯覚のせいか、見たこともない街を歩き回っているよう。

 

「……ここにもいなさそうね」

 

「だなぁ」

 

「……足がもう疲れたわ」

 

「……どうしろと?」

 

「……おんぶ?」

 

「恥ずかしくないの?」

 

「流石に恥ずかしいわ」

 

良かった、一般的感性はどうやら持ち合わせているらしい。

 

「というか、これ本当に見つかるのか?」

 

「見つかるか分からないけれど、でも見つけないわけにはいかないじゃない」

 

「いやそうなんだけどさ……、花音のスマホとはまだ連絡取れないのか?」

 

一度立ち止まってポケットからスマートフォンを取り出す千聖。というかこいつさりげなく、いや、堂々と抱きついてやがる。これ周囲から見たらただのイタイ2人組だよ。とりあえず引き剥がした。

 

「……あっ」

 

「どうした?」

 

「……私のスマホの電池が切れちゃったわ」

 

「まーじか」

 

どうやら花音と千聖、2人揃ってスマートフォンの電池が切れたらしい。絶望的では……。

 

「……なぁ、どうやって探すんだ? 本当に」

 

「今考えているから、貴方ももう少し考えなさい」

 

「えぇ……」

 

巻き込まれただけなのになぁ。乗りかかった船、とかよく言うでしょ? 違うんだよ、巻き込まれた船なんだよ。乗せてくれと頼んだ覚えもないよ。

 

「つべこべ言わずにちゃんと考えてくれないかしら? キスするわよ?」

 

「考えてるよ、というかどういうことだよ」

 

誰ださっきこいつに一般的感性が備わっているって言った奴。

こいつのテンションはそろそろぶっ壊れ始めたらしい。あの、もう一度弁明したいんですけど、初めて会った時はこんな人じゃなかったんです。むしろ現実を誰よりも直視して、冷淡に見えながらも友人想いの健気な少女だったんです。本当なんです。

 

「貴方からまともな意見を聞いたことがないのだけれど。協力してくれないなら押し倒すわよ?」

 

「もうその辺りで本当勘弁してください……」

 

キャラ崩壊著しいから勘弁して……。というか疲れてるからか言動ぶっ壊れすぎでしょう。何があったんだよ。

 

「キスなら良いってこと?」

 

「そんなこと言ってないです」

 

「でもリサちゃんとはこの間キスをしていたじゃない」

 

「えっなんで知って……あっ」

 

墓穴掘った。めっちゃ睨まれてる。んでめっちゃ背伸びして頑張ってるけど、俺も背伸びしてかわそうとした。

 

「えっ? ん……」

 

「んっ……、ちゅ……ん……。ふふっ。ヒール履いてるから、逃さないわよ?」

 

そのなんとも言えない妖艶さに思わず惚けてしまって、ちょっとぼーっとしてました。

よし、冷静になろう。というかやっぱりこいつ頭のネジが数本吹き飛んでるらしい。色んな意味でぶっ壊れが過ぎる。頭の中にどこからか湧いて出てきた108の煩悩を、頭を振って退散させていると、不意にポケットにバイブレーションが。

 

「……あれ、電話だ」

 

「えぇ……? 誰から?」

 

「って花音じゃねぇか?!」

 

思わぬ電話の相手にびっくりしながらも俺は電話に応じる。

 

『あっもしもし雄緋くん……。千聖ちゃん知らない?』

 

「おーちょうど探してて」

 

俺は目配せをして千聖にスマートフォンを渡す。

 

「もしもし花音?」

 

『あっ良かった。お店に着いたんだけど、電話も通じないから、その千聖ちゃんどこにいるのかな……って』

 

「……え?」

 

悲報、迷子なのは千聖さんでした。

 

「……ぷっ」

 

「笑うな」

 

「はい」

 

ガチトーンで怒られた。

 

「そ、そう。それじゃあ今から向かうわね?」

 

『うんっ。あっそれと千聖ちゃんに一つ聞きたいことがあってね』

 

「聞きたいこと?」

 

『どうして雄緋くんと千聖ちゃんが一緒にいるの?』

 

「……今すぐ行くわね」

 

こいつ無視して電話切りやがった。絶対電話口の花音さん怒ってたじゃん。声のトーンが聞いたことないぐらい怖かったんだけど?

 

「……これ以上花音の機嫌を損ねないためにも、着いてきてくれるわよね?」

 

「はい」

 

断れないです。

 

 

 

2人が行こうとしていたカフェは最初に千聖と会った場所の近くで、どうやら余計なことをせずにもう少し待っていたら何の苦労もなく今日のお茶会は無事成功するはずだったらしい。少しだけファンシーなドアを開けると、そこの1番奥で水色髪の少女が窓から外の通りを見ながら座って待っていた。

 

「遅れてごめんなさい花音」

 

「ううん。私も着くの遅くなっちゃったから、こちらこそごめんね?」

 

うんうん、良かった良かった、平和だった。バンドの垣根を越えた大親友の揺るぎない友情は守られ

 

「それでね、どうして千聖ちゃんと雄緋くんが一緒に居たのかなぁ?」

 

「ふふっ、花音も一体どうして私と雄緋が一緒に居ると知って電話をかけてくることができたのかしら?」

 

友情って、なんですか?

 

「……お互い様、かな?」

 

「えぇ。この後一緒に色々回りましょうか?」

 

「うんっ、そうしたら丸く収まるもんね」

 

友情、ありました。

 

「あの、俺の都合は?」

 

「千聖ちゃんが迷子になった責任は取ってもらわないと」

 

「え、俺のせいじゃ」

 

「『花音のことだから迷子になってるかもしれないし、探しに行ったら?』って言われたから……」

 

「え、言ってない……あー嘘、言ったような気がする」

 

「ふふっ、そうよね?」

 

「えへへ、雄緋くんとのデート楽しみだなぁ。私ともキスしてくれるよね?」

 

「あっはい」

 

言いくるめられました。いいですか皆さん。この世界は理不尽です。そんな理不尽に虐げられても根気強く生きていきましょう。

ちなみにこの後お茶会をして、ウィンドウショッピングに付き合わされ、挙げ句の果てにカラオケにまで巻き込まれました。え? JK2人とベタベタしてさりげなくキスもして両手に花? うるせぇバイト遅刻したんだよ、まりなさんごめんなさい。

 






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