ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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メイドの日(5/10)ですからね。2日遅れです、はい。








メイドに説法【チュチュ&パレオ】

小鳥の囀りが真っ白い部屋に響き渡る……。あぁそうか。5月の早緑、寒く辛い冬を乗り越えた生命の息吹がこの無機質な大学生のワンルームにも届いているのだ……。そう、これこそが生命の神秘……。あぁ、尊ぶべき48億年もの歴史の結晶。人類が築き上げてきた500万年ほどの叡智、文化の真髄が今目の前に……!

 

「おはようございます♪ ご主人様!」

 

「……Good morning。……ユウヒ」

 

「……ん、んん? あ、おはようございます」

 

寝ぼけ眼を擦る。擦るに擦って擦りまくる。が、目の前に広がる衝撃的な光景は何ら変わるところがない。

朝目覚めて、伸びをして、目を開いたら、メイドが2名。

 

 

……?

 

 

「どうかなさいましたか? ご主人様」

 

「あ、いや……え?」

 

チュチュと、パレオが、あの超古典的なメイド服——黒ベースの服に白いエプロンドレスに、髪にはフリルのついたカチューシャだが——を羽織って。パレオこそノリノリで愉しんでいるようだが、チュチュは呆れ混じりの表情で視線を右往左往させている。で、たまにこちらを睨みつけられる。やめてください、朝起きたばっかりでそんな罵倒、罵詈雑言が聞こえてきそうな睨みつけはご褒美メンタル的に厳しいものがあるのだ。

 

「何よ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」

 

「いや、いつもは猫耳のヘッドホンつけてるけど、メイドのカチューシャも可愛くて似合ごふぅ?!

 

視界がぐるりと半回転ぐらいして、俺はさっきまで寝転がっていたベッドに倒れ込む。顎痛い。超痛い。

 

「な、んで……」

 

「お言葉ですが、ご主人様は女の子の気持ちをしっかり考えたほうが良いですよ!」

 

「褒めた……じゃん……」

 

頭の上でヒヨコが舞って、意識が飛び飛びの俺の耳に、パレオからの叱咤の声が聞こえてくる。なんでも率直に思ったことを言えば良いというものではないらしい。何故こんなコミュニケーションの基本のきを、自分よりも遥かに下の少女に教え込まれているのだろうか。恥ずかしくて顔向けが出来ない。あ、いや、顎が痛すぎて顔が上がらない。

 

「そうよ! 褒めるだけじゃNo!」

 

「チュチュ様は褒められたら照れちゃいますもんね!」

 

「パレオ!!」

 

何が何だかさっぱりである。褒めるだけじゃいけないのに褒めてもいけないとか一休さんのとんちじゃないんだから。顎痛いです。

 

「……ぐふっ。で、……それで、……何してんの?」

 

「見て分からないの?」

 

「……メイド?」

 

「そうです! 5月10日はメイドの日ですから! チュチュ様に相談を受けて「パレオ!」これは内緒でしたね、失礼しました!」

 

内緒の定義、とは。それはそうと、なるほどな。そんな記念日めいた何かしらがあるから、それに合わせてメイドの格好をしていると。だが、俺は使用人を雇うような相談も契約もした覚えはない。というかこの間の旅行やら云々で給金として出す金がない。

 

「あの、俺別にメイドなんか呼んでないんですけど……」

 

「はい、呼ばれてませんよ?」

 

「呼ばれてはいないけど、来てあげたわ!! 感謝することね!」

 

ありがた迷惑って知ってる? 本当に俺のことを思うのであれば朝はゆっくりと寝かせて欲しい。が、そんな俺の眠気との葛藤もつゆ知らず、朝だというのにやたらと元気いっぱいなチュチュとパレオはニコニコと俺の言葉を待っている。

 

「折角チュチュ様が勇気を出されたんですから、存分に使ってあげてくださいね!」

 

「Yeah! 何でも……いや、アレなお願い以外なら聞いてあげるわ!」

 

「アレなお願いって……そんな俺、鬼畜じゃないからな」

 

「流石ご主人様、そんなお優しいところをパレオは慕っております!!」

 

色々とやばい。朝からこのテンションに着いていくのが厳しいのはそうとして、ご主人様呼びだとか、メイド服もそうなんだけど、アニメとかの創作物の中からいいんだ。けど、現実で、今まさに俺が年下の少女たちにこんなことをさせているというのが犯罪的すぎて心が痛い。いや、頭が痛い。違うな、さっき1発入れられた顎が痛いや。

 

「では、早速私たちにご命令を!」

 

パレオがまるで忠犬のように答えて、尻尾を大きくフリフリとしている姿が目に浮かんだ。ご命令か。俺はこの背徳感に抗うことなく、素直に人間の醜悪な部分を晒け出すべきなのだろうか。俺は……このまま振り切って……倫理を捨て……。

 

「よし、じゃあ最初の命令だ」

 

「何よ!」

 

「……今から二度寝するから、静かにしてろ」

 

忠犬たちは静かに首を垂れた。

 

 

 

心地よい朝の時間を惰眠に費やして、そんな堕落の様相から抜け出す。そろそろ活動を始めようかと眠気覚ましのコーヒーが都合よく用意されていたので頂くことにする。……が、やはり慣れない。コーヒーの味は確かに俺好みで、まぁどうして俺のコーヒーの飲み方をこの二人が熟知しているかについての糾弾はともかくとして、お世話のそれは良いんだよ。いやでもね、お世話されること自体が……ね?

何を贅沢を言っているんだこの甲斐性無しって俺を罵りたいって言う奴もいるかもしれない。けどな、考えても見てほしい。自分よりも、下手したら妹とかのそれよりもさらに幼い子達に家まで上がり込まれて、メイド服を着させて(俺が着させたわけではない)、お世話をさせるって……。

 

 

……犯罪じゃん。これはもう紛うことない犯罪的なそれじゃん。

お前たちは自分の親や親しい者に胸を張っていえるか? 一回り歳下の子達をメイドとして仕えさせてますって。言ってみろよ、(社会的に)死ぬぞ。

 

「おはようございます! 二度寝はどうでしたか?」

 

「……まぁ、寝心地は良かったけど」

 

「ふっ、ワタシが最高なコンディションになるようにBed makingしているんだから当然じゃない!」

 

ベッドメイキングなんて眠る前にされたっけ? と俺が疑問符を浮かべていると、パレオがご丁寧にも説明しようとしてくれた。

 

「チュチュ様はご主人様がよく眠れるようにと、「待ちなさいパレオ」……添い「パレオ!!」してくださったんですよ?!」

 

「……はぁ」

 

「はぁぁぁなんで言うのよぉパレオォォォ!!」

 

寝起きでテンションの上がらない俺 VS 嬉々としてチュチュを弄り倒すパレオ VS 絶対に知られたくなかった事実を哀れにも暴露されて赤面しながら悶絶するチュチュ。

世界で一二を争うほどに不毛な争いの叫び声で眠気が殆ど吹き飛んだ俺は、仲良さげに揶揄い、揶揄われるチュチュとパレオを呆れた目で見つつ、1人洗面所へ。朝からご近所さんからの苦情を招くほどに騒ぎ立てているが、本当に大丈夫かと心配になる。そういえば最近大家さんから文句を言われることも減ったのだが、遂に諦められてしまっているのかもしれない。

 

「……まぁ、顔洗っ「何かお手伝いしましょうかご主人様!」ぎゃぁぁあああ?!」

 

俺が蛇口からの水に額をつけようとした瞬間に背後、それも超至近距離から声をかけられ震え上がる。声の主はパレオだったのだが、喉から心臓が飛び出るほどにびっくりさせられた。

 

「どうなさいましたか?」

 

「お手伝い、いいから。リビングで静かに待ってろ」

 

「承知しましたぁ!」

 

……たく。メイドなるものを雇ったばっかりに……。あれ、俺雇ってはないな。まぁいい、そのために俺のいつも通りの静かで優雅な朝……、あれ、俺結構な頻度で安眠を妨害されている気が……。……うむ、邪魔されるだなんて。

俺はどう説教をかましてやろうかと思案しながらリビングに戻る。が、しかし。

 

「……ん、……なにこれ?」

 

俺は驚きのあまり、またもや言葉を失う。さっきから突飛なことが起きすぎて心の安らぐ瞬間が全くと言って良いほど存在しないのだが、俺の心はまだ落ち着くことを許されないらしい。

 

「こちらは模様替えです!」

 

「知ってるよ。何故家主の許可を取らずに模様替えをした?」

 

先程は不毛な争いからそそくさと逃げ出すために意識すらしていなかったが、冷水で顔を洗ってから部屋に戻ると、その部屋の中央には真っ白の曲線美の美しいテーブル。まさに西欧の豪邸なんかの庭先にチェアと共に置いてあるようなアンティーク調のテーブル。申し訳程度にセットとなるチェアも用意されているのだが、俺の見慣れた自分の部屋との違いにあんぐりと口を開ける他なかった。

 

「ワタシたちがメイド服を着るんだから、それに相応しいセットが必要でしょう?」

 

「セットってな、ここ撮影のスタジオとかじゃないんだけど?」

 

俺の自室なんですけど?

 

「いいじゃない、こんなpreciousなテーブルがあれば、魅力的な空間になるじゃない」

 

「そうです、チュチュ様の言う通りですよ!」

 

「プレシャスなテーブルってもなぁ……。確かに高そうだけども」

 

近寄って手をついてみると、なるほど、テーブル中央の方の上面にも細かく紋様が彫ってあり、恐らく大量生産などではなく人の手の入った家具なのだろうということがわかる。自分ではまずここまで調度品に投資しようとは思わないので、今後の人生でも恐らく触れることのないであろう家具に、心が躍らないと言えば嘘になった。こういう機会でもないと家具の新調なんかすることもないものだから。

 

「これ結構なお値段しましたからね!」

 

「……ちなみに、額は?」

 

「それがですねなんと……」

 

パレオがわざわざ耳打ちで、目の前に鎮座している調度品の値段を告げてくる。俺はその額を聞いて、青くならざるを得なかった。

 

「……、え、ちょっ。……本当に?」

 

「はいっ! ご主人様のために!」

 

いやいやいや。そんな額、軽々しく誰かのために出しちゃあダメよって、言いたくなったけど、いやもう、頭の中で整理が追いつかない。というより、この2人にどうしてここまでの財力があったのか。

 

「そうよ! だから感謝しなさい!」

 

「……いやまぁ、ありがとうというか……えっ?」

 

だってそうだろう。この子達、年齢だけでいうならまだ中学生だよね? 俺が中学生の頃とか、お小遣いで買い食いでもするかーみたいなそんなレベルだよ? 海外から家具をお取り寄せしますなんて発想は中学生の頃、いや、今ですらない。

 

「あの、どっから出てんの? そのお金」

 

「それはもう色んなところから工面しました!」

 

パレオは大変だったんですよ、なんて言いながら詳しいことを何も言わないし、チュチュもお金を出した、なんてことしか言わないものだから、具体的なお金の出どころはさっぱりだった。だが、まず間違いないのはこの子達が自分の身を削ってそのお金を捻出したと、そういうことだろう。ならば俺がすることは一つしかなかった。

 

「ちょっと待ってろ」

 

「はい?」

 

何をするのかなんて反応をされたが、俺はベッドサイドのチェストから鍵付きの棚を開けて、ガサガサと物探しを始める。チュチュやパレオからは不思議な目線を感じたが、お構いなしに目的のそれを、書類やら通帳やらの中から探り当てた。

 

「えっと、何よそれ」

 

「……あのな。軽々しくそんな風に金は使う物じゃない。確かに俺も家具とか服とか、準備してくれたのは嬉しいけど、まだ中学生かそこらのお前らがお小遣いやら生活費やらなんやらで捻出してまでして欲しいわけじゃないんだ」

 

「ユウヒ……」

 

「というわけで、これ。こんだけあればさっき聞いた額なら足りるだろうから、出し合った分穴埋めしとけ」

 

俺もまさか、大学生ぐらいの立場でこんな説教めいたものをすることになるとは思っていなかった。とりあえず部屋の中に現金の状態として使わずに置いてある、謂わばヘソクリ、緊急事態用の現金を封筒のまま渡す。

その想いは言葉通りのそれだ。チュチュとパレオの気持ちは嬉しいが、まだ勤労なるものを知らない年端も行かない少女にそんな真似をさせるほど俺は畜生ではない。え、メイド服の格好させてるそれは違うんですだからその通報中の電話を置け。

 

「で、ですが! これではご主人様の大切なお金を……!」

 

「それを言うなら、買ってくれたその家具とかだって、2人の大切なお金だろ。使い所はもう少し考えないとな」

 

「……Sorry. ワタシも……その、パレオに無理強いしてしまって」

 

「そんな! チュチュ様は悪くありません!」

 

でもまぁ、これだけキツイ言葉をかけたんだ。もう流石にこんな頓珍漢な金遣いはしないだろう。自分で稼いできたお金ならまだしも、そういうわけでもなく、何よりこんなお金の使い方をするよりも有意義な使い方があるとは、なんとなくでも分かってくれるだろう。だから。

 

「……チュチュ、パレオ。ありがとうな。2人の気持ち、嬉しかったよ」

 

「ご……主人様……」

 

「……ユウヒ」

 

2人も分からないなりに、自分の行動を省みることが出来たのだろう。顔を埋めて啜り泣いているところを見ると、多少大人びていようとやっぱりまだまだ子どもということらしい。少ししょげた2人の頭を何度も何度も撫で回した。

 

 

 

「……もう大丈夫です!」

 

「なら良かった」

 

数分もすれば段々と心も落ち着いた2人が顔を上げた。清々しい笑顔だった。

 

「このお金は……」

 

「だからそれはお前たちにあげるから。まぁ色つけた部分は、そうだな……」

 

折角メイドの日ということらしいなら、こういうことにしておこう。

 

「今日は支えてくれるんだろ? まぁなら、お給料だと思って、頑張ってくれ、な」

 

2人の顔はさらに明るくなる。やはりこういう元気さを忘れてはならないのだろう。

 

「……ならば、精一杯ご奉仕させていただきますね!」

 

「えぇ! ユウヒがワタシたちが居なきゃ何もできなくなるぐらいにお世話してあげるわ!」

 

「まずは……、夜の……お世話を……!」

 

「それはいいから」

 

「ぬ、脱げば良いのね?! パレオ?!」

 

「だからいいって言ってんだろ!」

 

思考が何段階も飛躍しがちな2人を適度に抑えつつ、苦手ながらに家事の練習がてら、てんやわんやな1日を過ごすことになったのだった。

 

 

 

「あれ、お前ら学校は?」

 

「自主的にお休みですよ!」

 

……もう少し説教はいるのかもしれない。

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