ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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重たい女神【リサ】

「で、アタシが何でか分かんないけど、過激みたいな扱い受けるんだよねぇ」

 

「……そっすね」

 

ここは数々の思春期特有の悩みを抱える子達が相談に訪れる、雄緋の家。どうやら今日も深刻な悩みを抱えた迷える子羊が1匹……。その様子を少し覗いてみよう。

やたらと新品のような輝きを放つテーブルを挟んで、1組の男女が話し合っている。女性の方は派手な風貌をしつつも、その表情には翳りが差し、その重たそうな話を男側がそこそこに聞いていると、そんな様相である。相談の場面であるはずなのだが、相談に乗っている立場であろう男はもはや話に興味を示すことも薄くなり始めているようだ。

 

「何で? 何でアタシばっかりこんな感じなの?」

 

「そんなこと俺に言われても……」

 

そうです、相談に乗っているのは他でもない、俺です。俺だよ俺。そしてテーブルを挟んで向かい側に座っているのは、Roseliaのベーシスト、今井リサだ。この恐ろしく高いお金を払って買い上げたテーブルの白さを全て塗りつくさんとするほどの負のオーラで部屋を侵略しているのである。

まぁそんな負のオーラを出すのも無理はない。彼女の悩み、それは。

 

「何でアタシ、ヤンデレって扱い受けてるの?」

 

ヤンデレキャラとして扱われてしまうという、哀しき性であった。

説明しよう。ヤンデレとは、ある対象に常軌を逸するほどに執着し、その不完全燃焼な好意を自分自身で上手く消化できずに周囲に危害を加えたり、またその執着の対象を自身の心理的ないし物理的支配下に置いたりと、異常な行動を取る性質のことである。

 

「言うほど、リサってその……ヤンデレ? の扱いを受けてるのか?」

 

「十分すぎるぐらい受けてるよ!」

 

「例えば?」

 

「たとえばそうだなぁ。……独占欲が強いみたいな言い方されたりとか」

 

「独占欲ねぇ」

 

リサが持つ独占欲か。確かに友希那の幼馴染としてのポジションは絶対誰にも譲らない、みたいな独占欲はあるのかもしれない。それが単なる幼馴染の枠を越えるかのようなほどの尋常でない好意かと問われれば、その実態は詳しく知らないが。

 

「アタシそんなに独占欲強いのかなぁ……」

 

「なんかその、リサは好意を持っている人をどうしたいかとか、そういう欲望みたいなのはあるのか?」

 

単純にふと湧いて出た疑問。もしもその欲望みたいなものが言語化された時に、あまりにおかしいものであれば独占欲が強いかどうかなどが判断しやすいだろう、そう思ったのだ。

 

「……えっ?! ちょ、それ今ここで言うの?」

 

「そりゃあ俺がジャッジするんだったらここで言うしかないだろ」

 

「……え、本当に言わないとダメ?」

 

「……? まぁ、嫌なら良いけど」

 

「わ、分かったから、ちょーっとだけ待ってね……」

 

そんなに心の準備を要する物なのかと疑問に思っていたが、修学旅行の夜とかでよくある、『好きな人いるー?』『いないよー!』みたいな、そんなノリみたいなものなのかもしれない。俺が脳内で修学旅行のロールプレイをしていると、リサがその準備とやらもできたらしい。

 

「で、相手をどうしたいんだ?」

 

「……その。例えばその人の周りに女の子とかが近寄ってくるのとか嫌だし……。その人には一生アタシのことだけ見て生きてほしいっていうか、その人を笑顔にするのはアタシだけでいいから……。それで、ずっとずっとアタシのこと愛して欲しいというか……。ちょ、やっぱ恥ずかしいから今のナシ!!」

 

「無しって言われてもほぼ全部言ったしな……」

 

好きな人には自分のことをずっと好きで居て欲しい、という気持ちが理解できないわけではないが、まぁ世間一般のそれからするとリサの感覚は少し重いと言う評価を受けてしまって致し方ないものなのかもしれない。

 

「……重いのかな」

 

「……うーん。でもまぁ、まだ可愛いものじゃないか?」

 

「かわ……ご、ごめん何でもない。続けて?」

 

「監禁とかそういう危害が加わるのに比べたらマシかなって。寧ろそんなにリサに愛される人は幸せ者だと思うぞ」

 

「……そっか。……うん、うんうん☆」

 

リサは満面の笑みを浮かべているし、慰めの言葉はどうやら響いたらしい。まぁ事実、これほど一途に愛してくれるリサに想われる人間なんてのは、前世で相当に徳を積んだ人間だとか、そういうのなんだろう。

 

「あ、そうだ! 参考までに、雄緋は恋人とはどんな風な関係がいいとかってある?」

 

「恋人? 長らくいた覚えがないぞ」

 

「願望でいいから!」

 

「えー。まぁ束縛はキツいと気疲れしそうだな……。理想はこう……お互い同じ部屋にはいるけど基本無干渉で、けどたまに彼女に甘えたりとか……」

 

「……うんうん」

 

「……これ恥ずかしいな」

 

「でしょ?!」

 

喩え願望であったとしても、それをいざ言葉にして誰かに伝えると言うのは拷問並みに恥ずかしい。顔から火が吹き出そうだ。

 

「……アタシだと、束縛ってキツイのかな……?」

 

「俺基準で?」

 

「……うん」

 

小さく呟くリサは手を震わせている。物凄く小さく、怯えるような素振りすら見せている。それがとても可哀想に見えてきた。

 

「……いや、そんなことないと思うぞ。好きな相手からの束縛だったらある程度なら耐えられそうだし」

 

「ほ、本当に?!」

 

「え、あぁ」

 

さっきまで小さく縮こまっていたリサが蕩けた顔を隠す様子はない。俺の言葉の一つ一つで一喜一憂するリサは見てて面白いものがあるが、あんまりにも話が逸れすぎたので元の話に戻すことにした。

 

「で、ヤンデレ扱いの話だろ」

 

「……はっ、そうだった」

 

「他にもヤンデレみたいな扱いをされる言い方ってどんなのがあるんだ?」

 

「独占欲とか嫉妬以外なら……。……その、好きな相手のこと知りたいって思いすぎちゃうところとか」

 

好きな人のことを知りたい、か。とはいえ、その気持ちはヤンデレ云々の前に、どんな奴にでも一定以上は持ち合わせているような感情だろう。その人のことを知り尽くそうとするとまではいかずとも、相手のことを知ってからでないと恋愛云々には踏み入れられないだろうから。

 

「それは普通の感情だと思うけどな。どんなことを知りたいって思うんだ?」

 

「えっ? ……それも言わなきゃダメ?」

 

「まぁ言ってくれると」

 

「まずやっぱりその人がアタシ以外の女とどれぐらい関わってるかは知りたいよね。出来ることなら一緒に居れない時間は誰とも会わないで欲しいけどやっぱりそれは難しいから、どんな話を何分話したかどんな表情でどんな気持ちでどんな仕草で話したかを記録しておきたいなぁ。結局一緒に居る時間以外に何してるのかなってことかな。ずっとアタシのこと考えてくれるなら嬉しいけどそうじゃないだろうから出来ることならずっとアタシのこと意識させたいし。欲を言うとアタシが居れない時間のことは全部録画していつでも見返せるようにしておきたいけどそれは現実的に難しいからやっぱり1番は24時間アタシとずっとくっついてるのが理想かなぁキスとかハグとかもっとすごいことでもずっと出来るしアタシの匂いつけてアタシだけのものって分かったらもし24時間一緒に居るのが無理でも他の女も近づこうとしないだろうからね」

 

「う、うん? 早口過ぎるのと文が長すぎて内容さっぱりなんだけど」

 

「あはは☆ 気にしないで気にしないで! まとめるとアタシと居る時以外どんな感じなのかなってことを知りたいってだけだから!」

 

「あー。確かに気になるときはあるよなぁ……」

 

一緒に居る時に何をしているかなんてのはわかるのは当然だが、一緒にいない時こそ相手が何をしているかなんてのは気になるものだろう。そう考えるとリサの言っていることは異常と言うのは言い過ぎな気がする。

 

「まぁよく分かんないけど、リサのそれは普通なんじゃないか?」

 

「そ、そうだよね?! 良かったぁ」

 

心の底から安堵したって表情のリサ。

 

「で、レッテル貼りの所以はそれぐらいか?」

 

「他はねぇ……。……うーん、スキンシップ激しめって言われたりするかなぁ」

 

「スキンシップ?」

 

頭を撫でたりとか抱き締めあったりするとかそういうことだろう。そんなことはカップルであれば普通にしていることだと思うのだが、言われるほどにリサのそれは激しいのだろうか。

 

「激しいって何するんだよ?」

 

「……それ今言うのはちょっと」

 

「恥ずかしい?」

 

俺が尋ねるとコクリと頷くリサ。まぁ、そこで赤裸々と性事情とか語られ出しても俺も反応に困るからよしとしておこう。

 

「……言うのは恥ずかしいけど、実践するとかなら良いけど」

 

「実践? 言うのより実践する方が恥ずかしくないのか?」

 

普通なら言葉に出している方がまだ気持ち的には楽なんじゃなかろうかと思うのだが、リサ曰くそういうことではないらしい。これが乙女心は複雑とか言われるところだろうか。そうだとすれば俺には乙女心なるものを一生理解できないかもしれない。

 

「というかさ、その!」

 

「ん?」

 

「もしも将来恋人が出来た時のためにシミュレーションというか、練習しておきたいかなー? なんて」

 

「練習? むしろそういうのは好きな人とやるべきじゃ」

 

「良いの! というか雄緋のこと結構好きというかその……兎に角練習したいんだってば!」

 

「別に過激なやつじゃなかったら良いけど……」

 

激しいとはいえ高校生の初心なカップルのスキンシップだとか可愛い物だろうし。どうせ大したことはないとたかを括っていた。なお、その見通しは甘かったことを知るのだがそれはもう少し後のことだ。

 

「本当?! じゃあ……その、ベッド行こ?」

 

「ベッド?」

 

「テーブル挟んでだったら距離あるから! ね?」

 

「あ、あぁ」

 

いきなりベッドに行こうなんて言い出すから、完全に激しいという度を超えたスキンシップが飛び出してくるのかと思ったが。まぁそれでもこれほど繊細なリサだ。そんなぶっ飛んだスキンシ

 

「服……脱ぐね?」

 

「ちょっと待て」

 

ぶっ飛んでた。てかクライマックスだった。

 

「……何?」

 

「なんで脱ぐの?」

 

「だってカップルでベッドの上って……。絶対そういうことするじゃん……」

 

「でもダメです」

 

「……じゃあ服脱がなきゃいい?」

 

「そういうことじゃねぇよ」

 

信じた俺がダメだったのかもしれん。いやまぁそうだよな。ヤンデレのレッテル貼りされるって相談だったのに、普通のが来るわけなかった。これはヤンデレとか関係ない気がするけど。

 

「というかスキンシップ激しいとかは、そんなヤンデレとかではないじゃん?」

 

「それは……その……」

 

「何か他のないのか?」

 

ベッドで隣に腰掛けたまんま俯くリサにそう問いかけたのだが、考え事をしているからなのかその返事とやらはない。まぁ、出鼻を挫かれたのだから、色々と考え直している部分があるのかもしれない、そう思っていた。

 

「……ちゃんとヤンデレって言われるからには、それなりの事情があるんだよ?」

 

「……は? 何の話ってえ」

 

急に顔を上げたから驚いた俺の体はベッドへと倒れる。そして、部屋中央の電灯から俺を隠すように、リサの顔がそこにあった。

 

「え?」

 

俺はベッドの上に押し倒されていた。

 

「私、スキンシップ、激しいんだよね」

 

「わ、分かったから……な?」

 

「……こんだけしても気がつかないんだもん。アタシ、悪くないよね?」

 

「……へ? 何のはな……ちょ……」

 

倒れ込んでくるようにして視界が埋め尽くされる。リサの長い茶髪のウェーブが俺の視界をカーテンのように覆い尽くして、頬が上気したリサの顔だけが目に映っていた。リサの口から漏れる熱い吐息にクラリとした。

 

「……ん。まだ分からない?」

 

「……なにが」

 

「……じゃあ、本番にしていい?」

 

「本番って」

 

さっきからリサから告げられる言葉のどれもがまるで意味を成していなかった。

 

「全部ただの建前だから。……アタシ、結構ガマンしたんだよ? それならちょっとぐらいご褒美貰っても……いいでしょ?」

 

「建前……? 我慢……?」

 

「……誰にも渡さないから」

 

 

 

視界が全て真っ黒になって数瞬、突如としてガラスの割れる音が響く。俺は驚きのあまり、完全に閉じていた目を思い切り開いて、何が起きたかを目の当たりにする。部屋のガラスを割って乱入してきたのは……。いつか見た光景だった、友希那の登場だった。

 

「待たせたわね」

 

「……友希那?」

 

「リサ、気持ちはわかるけれど、やりすぎはいけないわ」

 

「……うん、そうだよね☆」

 

「……へ?」

 

さっきまで視界がぐるりと回転したり、覆い尽くされたり、熱に襲われたり、何が何か分からなかったのだが、リサが起き上がって漸くどんな状況だったかを知った。そしてリサに物を言おうとした時。

 

「……テッテレー! というわけで、もしもアタシが突然暴走したら、雄緋はこんな反応をする、でした!」

 

「……はい?」

 

本当に訳がわからず、やたらと楽しげなリサと感心したように頷く友希那を交互に見返す。何が起きたんだ、本当に。これは何だ?

 

「ドッキリよ、雄緋」

 

「どっ……きり」

 

「さしもの雄緋もまだまだ初心なんだねー?」

 

「……うるさいわ。……リサのヤンデレの演技とやらが上手すぎたんだよ」

 

「褒められちゃったかぁ」

 

俺の心臓が何度も飛び跳ねそうになるほどには迫力があった。勿論リサに迫られたことでドキドキしたとか、そういう場違い的な興奮もあるが、主にはこの後どうなるか分からないという、リサが悩んでいた云々の怖さにドキドキとさせられていた。

 

「今日は付き合ってくれてありがと! これは、お礼……」

 

「……、え?」

 

「私からもよ。雄緋、こっちを向きなさい」

 

お礼とは名ばかりの不意打ちが飛んでくる。さっきから全く平常心を取り戻さない心臓を宥めすかしながら、手を振って帰っていく友希那とリサを見送った。床に砕け散ったガラスの破片がぽかんと間抜けヅラを晒す俺を揶揄って笑っているようだった。

 

「……って、ガラス割っていきやがったなあいつ!」

 

助けてもらったとはいえ……。はぁ、またお金が……とほほ。

 

 

 

 

 

「リサ、ずるいわよ。次は私も呼びなさい」

 

「あはは、そうだね。……でも、アタシも誰にも負けたくないから。友希那もそうでしょ?」

 

「……えぇ、勿論。リサにも負けないわ」

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