ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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恋愛取材(尋問)【彩&千聖】

それは家に届いた1通の手紙から始まった。俺はその手紙に連れられるがままに街へ繰り出し、指定されたビルの下に辿り着く。そこには。

 

「あら、遅かったのね」

 

「は?」

 

「じゃあ早速入ってよ!」

 

俺が辿り着いたのは、芸能事務所だった。

いやいやいや、ちょっと待てちょっと待て。辿り着いた先が芸能事務所だったとして、どうして完全部外者の俺がそこに突入することになろうか。目の前でニコニコと笑う彩と千聖の態度も怪しいし、抵抗をしようとした俺だったのだが。

 

「あれ、雄緋くんが帰るって言うなら、私たちここで叫ぶよ?」

 

「え?」

 

「襲われたーって、ね?」

 

「ピンクの悪魔め……」

 

俺はその脅しに屈する他なく、渋々自動ドアの奥に進む。構造的には裏口の類なのだろうが、俺が逃げられないようにその通用口の後ろから2人が着いてきている。要は嵌められたのである。

 

「千聖ちゃんに教えて貰ったこれ、効果抜群だね!」

 

「そうでしょう? これを使って……ふふ」

 

どうにでもなあれ♪

 

 

 

「で、俺を態々呼び出してまでする用事ってなんだ?」

 

ビルの一室、応接間のような部屋に連れ込まれた俺は2人と向かい合って茶色の長ソファに座らされる。当然穏やかな休息の時間を邪魔されたものだから俺の機嫌は悪い。だが、そんな悪態も当の2人は全く気にもとめないらしい。

 

「実は今度雑誌の取材が入っていて、それがかなりプライベートなこと含めて質問されるようなのよね」

 

「はぁ」

 

「だから雄緋くんに記者の役をやって貰って練習しようと思ったんだよ!」

 

「俺である必要性は?」

 

「ないよ!」

 

「帰ります」

 

「待って待って!」

 

いやいや、これは帰っても良いところだろう。むしろここまでよく我慢した方ですらある。記者の役なんざ、パスパレの内輪で替りばんこにやればいいものを。

 

「想定質問集みたいなのは用意してあるから!」

 

「そういうことじゃないんだよなぁ」

 

「雄緋が記者の役をしてくれることで、適度な緊張感があるのよ」

 

「そういうことだよ! 緊張感だよ!」

 

「スタッフさんにやって貰えば……」

 

「スタッフさんに赤裸々に語るのは恥ずかしいじゃない。適材適所よ」

 

「うんうん、適材適所だよ!」

 

彩が完全に言葉を反復するbotのようになっているが、そこまで理詰めされてしまうともう反論の余地がない。これ以上は不毛な文句を垂れるだけだ。

 

「分かったよ……。じゃあその質問集とやらを貸せ」

 

「はーい! 上から全部の質問をしていってね!」

 

「分厚……」

 

彩から手渡された冊子は想定質問集にしては不思議なほどに分厚い。が、明らかに手書きで書かれたものらしく、多分この字は彩とかその辺りが書いたのであろう。完全自作の想定質問集ということらしい。

 

「じゃあ最初の……は? ……これ本当に聞くのか?」

 

ページを捲る。そこに踊る文字。無慈悲にも俺の頭に湧いて出た疑問には肯定が返された。

 

「『スリーサイズを、上から』」

 

「秘密です!」

 

「何で聞かせたんだよ!」

 

「だって記者の人からだよ? 聞かれるかもしれないじゃん!」

 

「聞かれないだろ! グラビアアイドルじゃねぇんだから!」

 

というよりも、初手でこれを聞いてくる記者がいたとしたらそいつはシンプルにただの変態か何かである。ついでに言うとこの冊子を作って最初にこの質問を持ち込んだバカは煩悩まみれである。

 

「千聖ちゃんもほら!」

 

「えぇ、上から順に「待て待て待て」……何?」

 

「何でナチュラルに言おうとしてるの?」

 

「だって雄緋になら知られても問題ないじゃない、というか教えたいわ」

 

「変態なの?」

 

「これが芸歴の長さの持つ貫禄なんだね……」

 

「違うよ?」

 

もしかしなくても、この冊子を作ったのは千聖のような気がする。というか教えたいとか言われても反応に困るからやめてほしい。喜べばいいのか呆れたらいいのか怒ったらいいのか、感情の変化が忙しい。

 

「次は、『演劇に対する拘りや想いを聞かせてください』、これだよ、こういうのでいいんだよこういうので」

 

「私はそうだなぁ、まだ役者の仕事を貰って日が浅いけど。私じゃない私を演じる……みたいな? 多分この質問は千聖ちゃんの方が深みがありそう」

 

「ハードルを上げないでちょうだい……。そうね、私にとって演劇は人生そのもので、物語の中の人物に命を吹き込むようなもの……かしら」

 

「子役から経験してると重みが違うな……。1番思い出深かったのは?」

 

「そうね……。ベッドシーンかしら?」

 

「え、待って千聖ってベッドシーンとかやったことあんの?!」

 

「私も初耳なんだけど?!」

 

思わず心から漏れ出た叫びは部屋の壁に反響する。俺や彩の驚きにも慌てることなく澄ました顔を崩さない千聖に宿っているのは女優としての風格そのものだ。

 

「アイドルがベッドシーンなんて炎上ものだよ?! どんな話でベッドシーンしてたの?!」

 

「恋人同士の役なんだけど、事後に眠りについた翌朝、まだ寝惚けた恋人役(雄緋)にキスをせがむ話よ」

 

「……ん?」

 

「お、大人だぁ……もっと詳しく!」

 

「あら、彩ちゃんも現場に居たじゃない」

 

「……えっ?!」

 

「雄緋、次の質問を」

 

「待って?!」

 

「えー、『アイドルは社会的に』」

 

「待ってってば!」

 

「……『アイドルは社会的に恋愛はご法度と評価される面もありますが、お二人は恋愛経験はおありですか』」

 

俺は彩を適度に無視して次なる質問を読み上げる。なるほど、確かに記者からプライベートなことを質問するとなれば、こういった恋愛関係の質問が飛んでくることはあるかもしれない。下手をすればこの質問に対する回答一つで大炎上である。勿論この質問を作ったのも2人だろうから想定解はあろうが、どう返してくるのか。

 

「私は……実は今、いい感じの人が1人」

 

「……えっ?!」

 

「私も、彩ちゃんと同じで片想いをしている人なら」

 

これはたまげた。その答えを記者に対してもするのかと問うと、2人は何度も頷く。

 

「え、取材なんだよな? 大丈夫? というか好きな人いんの?」

 

「えぇ。まず嘘は不誠実、私たちの交友関係を知られていないなら誰かは特定されないわ。好きな人がいるのはその通りよ」

 

「おぉ……。というか青春してるんだなぁ……」

 

まぁアイドルとはいえ普通の女の子と言われればそうなのかもしれない。俺からすれば現実をある程度知るとそういった青春が霞んで見えて仕方がないのだが、この2人が青春の宝石を探し求めるというのなら応援ぐらいはしてあげよう。

 

「雄緋くん、その文の下に追加の質問あるでしょ? 早く読み上げて?」

 

「え? 『気になる人とは誰ですか?』」

 

「誰だと思う?」

 

何故か彩と千聖は向かい合っていたソファから立ち上がり、回り込んでこちら側に距離を詰めてくる。強いて言うならば圧が強い。

 

「当てられたら、キスしてあげるわよ?」

 

「いやいや……え?」

 

何かのスイッチが入ったように迫ってくる2人に俺は身を翻そうとした。しかし、立ち上がる余裕もなかった俺は、そのまま慌てて2人を止めた。

 

「待て!」

 

「どうかした?」

 

「これ、取材の練習なんだよな?」

 

「えぇ、最初に言ったじゃない」

 

「お前らは取材の一環で記者にキスをするのか?」

 

「まさか、するわけないよ!」

 

「雄緋以外にキスなんてするわけないじゃない」

 

「ならロールプレイ中もすんなよ!」

 

「……はぁ」

 

「ダメね、これは」

 

俺は真っ当な正論を言ったはずであったが、何故か2人には盛大なため息を吐かれる。俺からすればそこまでの反応をされる謂れはない。

 

「じゃあ次は交代ね!」

 

「私たちが記者の役をするから、雄緋が答えていってちょうだい」

 

「は? 何で俺が」

 

「私たちも記者の気持ちを理解したいのよ。良いから早く座りなさい」

 

「はい」

 

有無を言わさぬ目力で俺は屈して、諦めたように長ソファにもう一度腰掛ける。そして想定質問集とやらを渡すと、何故か両隣に彩と千聖が座ってくる。

 

「おいちょっと待て」

 

「まだ文句があるの?」

 

「近くない?」

 

「近くないよ?」

 

「……もういっか」

 

長ソファに座ったら距離を詰められた経験だなんて今に始まったことじゃない。CiRCLEのラウンジでも幾度となく経験したし、一々それに文句を言っていても何も進まないということも経験した通りだった。

 

「率直に聞くね? 私たちのことどう思ってる?」

 

「記者の立場逸脱してない?」

 

「良いから。私たちは雄緋に聞いているのよ? 今度来るとかいう記者には微塵も興味を持っていないわ」

 

それなら記者からの取材だなんて口実でしかないじゃないかと目で訴えかけたが、それを聞いてくれるような雰囲気ではなかった。

 

「雄緋くんに聞きたいことがあるから呼んでるんだよ? それで、『私たちのことをどう思ってる?』」

 

「彩たちか? 彩は頑張り屋で……偶に空回りはするけど見ていて応援したくなる感じだな」

 

「えへへぇ……そんなぁ、褒めすぎだよ……」

 

「彩ちゃん? 肝心な部分が聞けていないのにダメじゃない」

 

「千聖は打算的なのはそうだけど、本心はパスパレみんなのことを想ってて、優しいなと思うぞ」

 

「ふふ……。そう、かしら……。ふふふ……」

 

こいつらやたらトリップしてるな……。多分この状態に入ったら暫くまともな受け答えは出来ないだろうが、その隙に帰ってやろうか。そんな風に思っていると意外なほど2人は早く復帰してきた。

 

「そ、そうじゃなくて! 女の子として見た時……どうかな……なんて」

 

「女の子?」

 

「そう! 恋愛対象として!」

 

「俺にロリコンの気はないぞ」

 

「私たちはロリじゃないわよ!」

 

「高校生じゃん……。兎に角、ノーコメント」

 

「そんなぁ……」

 

「目に見えて落ち込むなよ……罪悪感湧くから。……その、可愛いとは思うぞ」

 

「ほんと?!」

 

テンションが暴走気味の彩をとりあえず抑え込み、比較的冷静そうな千聖に早く次の質問を振れと合図する。思い出したように手元で開く冊子に目を向けた千聖から次の質問が来た。

 

「『ぶっちゃけ、元カノいたことある?』」

 

「答えなきゃダメ?」

 

「えぇ」

 

「……ある」

 

「誰? なんて名前の人? 電話番号は? 出身は? 住所は? いつの話? どういう関係性でどういう馴れ初めでどんな交際を経てどういう経緯で別れたの?」

 

「怖いから! 質問責めすんな!」

 

「……えっ?! 雄緋くんって元カノいるの?!」

 

「反応遅いな。まぁ……な」

 

やばい、空気が地獄すぎる。彩はさっきの有頂天のテンションから一転、完全に抜け殻のように反応が乏しく、千聖は千聖で小さな声でブツブツと何かを呟いている。

 

「俺に元カノが居たことがそんなに重要なのか?」

 

「当たり前だよ! 私のファーストキス……うぅ」

 

「え、えぇ……」

 

「……ねぇ雄緋。その元カノさんと会ってお話しはできないかしら?」

 

「は? 無理無理無理。いやというか俺が無理」

 

「大丈夫。取り次いでくれたら私が丁寧に対応してお話を進めてくるから。良いわよね?」

 

「ダメです」

 

というか後輩の女の子に元カノと連絡を取らせるってどういう新手の拷問なんだ。

 

「何でダメなの?」

 

「何でって……。連絡取るメリットないし、そもそも知り合いが連絡取るとかならまだしも無関係の後輩が連絡取るとか訳わかんないし……」

 

「なら彼女とかなら良いのね? 私を彼女にしなさい」

 

「ダメです」

 

「千聖ちゃんずるいよ! 私も彼女になる!」

 

「彩でもダメです」

 

「なんで!」

 

「高校生が彼女とかなったら俺が社会的に死にます」

 

「大学生なら良いのね? 今から海外の大学で飛び級で入れるところ探そうかしら」

 

「そういうことじゃないから!」

 

あとそもそも世間体を気にするならアイドルと交際するのタブーだってさっき質問で言ったところだろうが。俺がファンにボコボコにされる。……そういやこの間のウェディングの記事大丈夫なのかな。

 

「はぁ……。雄緋くんが何も肝心なところ教えてくれない……」

 

「肝心なところってなんだよ……」

 

「元カノさんの有無こそ教えてくれたけど、元カノさんのこと何も教えてくれないし……」

 

「俺だって思い出したくはないんだけど……」

 

というか誰だって好き好んで、無闇矢鱈と過去の恋愛を探られたいということはなかろう。俺が際立って変だとかいうそういう話ではない。

 

「トラウマ……とかかしら?」

 

「まぁ、良い思い出ではないな」

 

「私が塗り替えてあげるわよ?」

 

「更に血みどろの思い出が出来上がりそうだからダメ」

 

「血みどろの思い出が出来上がる自覚はあるのね」

 

そりゃあまぁ、俺だってポンコツではない。変な修羅場を自ら作りに行くほど愚かではないのだ。

 

「雄緋くんの血……ごくり」

 

「怖いからやめろ」

 

「流石に冗談だよ? でもどうしよっかなぁ」

 

「どうしようって何が?」

 

「一問一答で雄緋くんの元カノさんの話聞き出そうと思ってたのに」

 

「拷問?」

 

幾らなんでもオーバーキルもいいところな酷すぎる扱い。エンターテイメントにもならない、もとい誰も幸せにならない取材である。

 

「そんなの聞いてどうすんだよ……」

 

「大切な人の過去を知って、苦しみを共有したいというのは、悪いことかしら?」

 

「悪いことじゃ……。……何か良い話風に持って行こうとしてない?」

 

「……雄緋くんの好み探れないかなぁ……なんて」

 

「そっちがメインだよな?」

 

そりゃあ過去の辛い出来事なんかを誰かに打ち明けて楽になるなんてことはあるかもしれない。が、それを幾分か下のこの子達に話してまで楽になるべきかと問われればそうではない。

 

「雄緋のタイプの女性なんかは気になるわね」

 

「気にならなくて良いから……」

 

「ガールズバンド向けのアンケートでも9割以上の人からその質問出てるよ?」

 

「割合高っ……、というか何そのアンケート」

 

以前どっかの誰かに取調べもどきを受けた時なんかもタイプの女性だとかを聞かれた覚えはあるが、俺のその問いに対する回答はそれほどまでに需要があると言うのか。結論から言えば俺にだって勿論性癖とかタイプとか、そういうものはあるが、それはおいそれと他人に話すものでもなかろう。

 

「みんな気になってるんだよ? 好みのタイプは?」

 

「……言わない」

 

「……千聖ちゃん。仕方ない、よね?」

 

「えぇ。これだけ真剣に聞いてもはぐらかされるんだもの」

 

「今の真剣だったの?」

 

なんならてっきりそのアンケートでっち上げだと思ってたよ? が、確かに彩と千聖の醸し出す雰囲気はどこか畏れを抱きたくなるほどに粛然としている。

 

「聞き方を変えるね? ……私みたいな女の子、嫌い?」

 

「……へ?」

 

「彩ちゃんだけじゃないわ。……私のこと、嫌い?」

 

「ちょ、その聞き方……」

 

ずるいだろうと反論出来るほどの空気でもない。

 

「……嫌いじゃない」

 

「良かった。ねぇ、私のこと、好き?」

 

「まぁ……」

 

「雄緋、私は。私のことは、好き?」

 

「その……」

 

俺の両腕を抱えながら小さく震える2人の表情は見えない。この状況で否定など出来ようはずもない。

 

「……彩のことも、千聖のことも、好きだぞ」

 

但し人間的な意味で。但し人間的な意味で。

なお、俺の言葉を聞き届けた2人は気がつけばソファの両サイドでグッタリと気絶していた。

……俺の音声が切り抜かれて拡散された結果、他の子たちからも取材と称した誘導尋問が始まったのは言うまでもない。









パスパレの花嫁の絵くださいって言ってたら遂に公式から供給がありました。尊い。
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