ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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恋する乙女裁判【裁判長:瑠唯&紗夜&日菜】

何も見えない真っ暗な世界にいた。周囲からは誰のものかもわからぬ声が聞こえてくる。どうやら俺はまたもや厄介ごとに巻き込まれてしまったらしい。自分の哀れな運命を実感して悲嘆に暮れていると、急に光が差し込んできた。突然の光源に目を眩まされて、まだ何も見えない。しかし、それでも腕を動かそうと……動かそうと……あれ?

 

「……ん? なんじゃこの拘束……って、え?」

 

「被告人、北条雄緋。前へ」

 

「えっ、ここどこって、え?」

 

 

 

開 廷

 

 

 

俺はいつの間にやら椅子に座らされ、目の前には厳粛な空気を纏い、木槌か何かを持った瑠唯がいた。その姿はまるで司法の番人。そして高い位置からこちらを見下ろした瑠唯は鋭い目つきのまま、重そうな口を開いた。

 

「ただいまより、裁判を開廷します。開廷にあたり、被告人の人定質問を行います。被告人は氏名及び好みの異性の特徴を述べてください」

 

「へ、俺? 北条雄緋で……、その後なんだって?」

 

「好みの異性の特徴です」

 

「ダメです、言いません」

 

「……チッ」

 

舌打ちされた? 気のせい? 会場……いやまぁ、敢えて言うならばここは裁判所、法廷なのだろうけど、傍聴席の方から不穏な空気が漂っているのだ。

 

「検察官は起訴状を朗読してください」

 

「検察官……?」

 

俺が左に目を向けると、ものすごく渋い目をした、それはもう風紀を絶対に守らせると言わんばかりの雰囲気を放つ紗夜がいた。

 

「公訴事実、被告人は5月15日午後1時頃、都内撮影スタジオにおいて、所轄の機関からの許可を得ずに、みだりに女性タレントと婚姻を模した撮影を行ったものである。罪名及び罰状、北条雄緋特別管理法第35条、贔屓・誘惑等による不法接待」

 

「さて、通常の刑事裁判であれば、被告人には黙秘権等が認められています」

 

「つまり言いたくないことは言わなくても不利益にはならないって?」

 

「はい、ですが。今回は北条雄緋特別管理法第261条の規定に基づき認めません」

 

「ふぁっ?!」

 

「被告人、検察官の述べた公訴事実に間違っていることはありますか?」

 

「待って、その前に色々と聞きたいんだけど?!」

 

「被告人、静粛に。直ちにここで厳罰に処してもいいんですよ?」

 

「裁判官の自覚ある?」

 

横暴な裁判官とは、司法の名が聞いて呆れる。それはそれで、たった今紗夜から読み上げられたものに関して、正直難解なワードが並びすぎてまるで内容が理解できなかった。取り敢えず分かったのはどうやら俺は今裁判にかけられているらしいということだけである。ひとまず失言は怖いので、全て否定しておこうか。

 

「それで、紗夜の言ってたことだけど、よく分からないし、やってません! 俺は無実です!!」

 

「静粛に。それでは証拠調べに移ります。検察官は冒頭陳述、並びに証拠の提出をお願いします」

 

「はい。被告人は公訴事実の通り、CiRCLEの従業員という立場を悪用し、知人の女性タレントに好意的な態度を見せることにより自身に好意を持つように仕向け、撮影スタジオで犯行に及んだものです」

 

「散々な言われようだな……。で、証拠はあるのか?」

 

まるで推理ドラマで苦し紛れに探偵に突っかかる真犯人のような口ぶりで、俺は紗夜に文句を込めた目線を向ける。すると、紗夜が懐から何やらビニール袋のようなものを取り出した。

 

「被告人が上記行為をしたという証拠は、こちらの雑誌に掲載されています」

 

「雑誌……、ってあっ?!」

 

その時俺は理解した。いきなりのことで何が何やら、何故被告人だなんだと言われなければならなかったのか理解の及んでいなかった俺だが、その雑誌の表紙を見て俺は察した。

その雑誌の表紙にはウェディングドレス姿のパスパレの面々、そして紗夜が大きな音とともに開いたページには俺が彩たちと撮影と称した行為とやらがデカデカと、読む人たちの心を揺さぶるような文句と共に掲載されていたのである。

 

「なるほど……それで俺が法廷に?」

 

「被告人は丸山彩、氷川日菜、白鷺千聖、若宮イヴ、大和麻弥の5名に対し、好意を抱かせるような態度を取った上で、欺罔して錯誤に陥らせたのち、婚姻を迫りました。上記の態様の如き行為は北条雄緋特別管理法第35条が禁止する接待行為に該当します」

 

「さっきから言ってるその法律なに? 俺の名前の入ってる法律なのに俺が聞いたことないんだけど?」

 

法律用語の詳しい云々はまるで分からないが、全く聞いたことも見たこともないその謎の法律によって罰せられるというのは流石に納得がいかない。

 

「北条雄緋特別管理法第35条は以下の通りです。

 

北条雄緋特別管理法 第35条 特定のガールズバンドに所属する女性と身体的接触を伴う接待を行った者は、別途政令で定める機関が寵愛を受ける女性の待遇に特別の格差を設ける措置を執ることを認めた場合を除いては、3ヶ月以上の懲役刑に処し、又は情状により、第380条に規定する保護監視処分を実施する。

 

というわけです。いいですか?」

 

「何も分かりません」

 

難解なワードが多すぎて本当に意味がわからない。おそらくこれを聞いている人みんながそう思っただろう。もっと簡単に解説をしてくれと。それにしてもその俺を管理する特別法とやらは条文がありすぎじゃなかろうか。もはやツッコミが追いつきそうにない。

 

「もう少し簡単に言いますと、『雄緋さんが私たちの扱い方に明らかに差をつけた場合は懲役刑になります』、こういうことです」

 

「……ふぁっ?!」

 

「被告人、静かに。それでは、証人尋問に移ります。証人は、前へ」

 

「証人……?」

 

俺がぽかんと空いた口を塞ぐ間も無く進んでいく裁判。瑠唯はノリノリで裁判官をやっているし、紗夜もイキイキとした様子でトンデモな法律をペラペラと語っている。そして瑠唯に呼び出されて現れた証人は。

 

「わぁ、本格的なんだ〜!」

 

「日菜?!」

 

「被告人、静かに。これ以上騒ぐようであれば即厳罰に処します」

 

理不尽な言論統制に屈した俺の前、何故かいたのは日菜。そうか、撮影に参加した側なのだから、日菜が現れたとてそれはおかしくはない。

 

「証人は前へ」

 

「氷川日菜さん。貴方は5月15日、スタジオで北条雄緋との雑誌の撮影に参加していましたね?」

 

「うんっ。というかおねーちゃん、いつも通りの喋り方でいいんだよ?」

 

「……ごほん。日菜、貴方は雄緋さんとどんな写真を撮ったの?」

 

「え? 雄緋くんが後ろからこう……腕を私の前に回して、ベールの上からあたしのことをぎゅっと……えへへ……えへへ」

 

ダメだ、日菜があまりにも事細かに俺の動作まで含めて説明してくれたものだから、俺だってあの時の自分の行動をありありと鮮明に思い出してしまう。そんな日菜の強烈な暴露にため息をついた紗夜は呆れたように言葉を続けた。

 

「……はぁ。それで、他の人に対しても、雄緋さんは色々としていたの?」

 

「うーん、イヴちゃんを口説いたり、麻弥ちゃんをお姫様抱っこしたりとか、彩ちゃんもプロポーズされてたしなぁ」

 

「プロポーズ……うらや……いえ。とにかく! このように、被告人の行動は明らかに撮影のモデルという職権を逸脱したものであり、私たちにも同様の撮影会を用意するなどしなければ、特別管理法の立法目的や行動の態様、その他の諸般の事情を考慮しても著しく不平等と言わざるを得ません!」

 

「つまりどういうことー?」

 

「日菜たちだけずるいわ! 私たちも雄緋さんに口説かれたいのよ!」

 

「どういうこと?!」

 

「被告人、静粛に」

 

もはや今の紗夜の発言が常軌を逸しすぎていて、俺の頭にまるで内容が残らない。詰まるところ俺の何が悪かったのかよく分からないし、不平等が云々と言われても、あれはバイトをして生きる日銭を稼ぐための致し方ない行為である。まさに情状酌量の余地があると言うべきである。

 

「つまり検察官の主張は、証人たちだけが良い思いをするのは不公平だと」

 

「そういうことです」

 

「どういうことなの……」

 

「では、被告人質問です。検察官から被告人に対して、質問があればお願いします」

 

瑠唯が紗夜を促すと、何やら色々と考え事をしっぱなしの紗夜の顔がこちらを向く。そしてつかつかと歩み寄るなり、俺の周りをグルグルと回りながら徐に口を開いた。

 

「雄緋さん、貴方は何故あのようなバイトに参加したんですか?」

 

「それは、金欠をなんとかするために、給料即日払いのバイトがあったので」

 

「なるほど、ですが、北条雄緋特別管理法第1151条の2では、雄緋さんが生活に最低限度の金銭に困った際には、私たちが管理をして生活の水準を落とさないようにする、ということが定められているのはご存知ですよね?」

 

「待って? 知らないし、そもそもその法律一体どこまであるの? 何が決まってるの?」

 

1151条ってことはそれより前に1000個以上条文があるということだよね? いくらなんでも俺を管理する……いやまぁここもおかしいけども、そのために必要な条文の数としては多すぎる気がする。

 

「ごほん。何故金銭面で困ることがないのにも関わらずそのバイトをしたのですか?」

 

「それは、その北条雄緋特別管理法? とやらを知らなくて」

 

「ですが法律の世界に無知は許されません。分かりますよね?」

 

「知らないけども……」

 

そもそもその法律とやらは本当に存在するのであろうか。どう考えても俺の名前がついている法律だなんてあるほうがおかしい。

 

「では、なぜ撮影会が実施された際に、その場から逃げ出すことなどをしなかったのでしょうか」

 

「え? 流石に無責任だし……」

 

「パスパレの皆さんが可愛かったから、ですか?」

 

「いやまぁ……それもまぁ」

 

「うちの日菜はどうでしたか?」

 

「え?」

 

「日菜は、可愛かったですか?」

 

「はい」

 

「そうでしょう。私の自慢の妹ですから」

 

「おねーちゃん……えへへぇ……」

 

どうやらこの妹馬鹿な姉は無意識に自分の妹を虜にしてしまっているらしい。こういうやつを天然ジゴロだとかって言うのだろう。全くもってけしからん、ふしだらなことである。

 

「日菜のどこが可愛かったですか?」

 

「へ?」

 

「ちょ、おねーちゃん?!」

 

「日菜の、どこが、可愛かったんですか?!」

 

「え、いやその」

 

「全部でしょう? 全部ですよね?」

 

「あっ、はい」

 

「おねーちゃん……恥ずかしいよぉ……」

 

今日の紗夜は色々とテンションがぶっ壊れてしまっているらしい。まぁ姉妹仲が悪いことに比べれば間違いなくこっちの方が良いに決まっているのだが。

 

「……ふぅ。話が逸れましたね」

 

「貴方が逸らしたんじゃ……」

 

「ごほん。次の質問ですが、もしも私が今度ウェディングの撮影を一緒にして欲しいと言ったら、貴方は参加しますか?」

 

「……え?」

 

あの恥ずかしさの塊のような撮影をもう一回しろと言われると、恥ずかしさが勝ってそれどころではなくなってしまう。

 

「私じゃダメなんですか?」

 

「ダメじゃ……ないです……」

 

「その言葉が聞けて安心しましたよ。満足しました、被告人質問は以上です」

 

「満足しましたって何よ……」

 

どうやら俺に対する尋問とやらはこれぐらいのようで、殆ど何も明らかにならないままに尋問が終わりを告げた。紗夜は満足そうな表情で椅子に腰掛けているが、俺からしたら未だにさっぱりなことばかりで落ち着けそうにない。

 

「では、検察官より論告と求刑を」

 

「はい。被告人の行為は思春期の恋する乙女の心を誑かすなど、極めて残虐的な性質を持ち、特に撮影に参加した5人の少女を完全に自身に陶酔するよう誘惑し、犯行の態様は悪質です。その上、被告人質問で同様の撮影を要求した私に対しても容易にそれを受け入れるなど、凶悪すぎるほどに優しさを見せ、誰かということを問わずに弄ぶ恐れもあります。誘惑による接待に対する罪悪感もなく、反省の色が見られません」

 

「……え? 悪質とかいうワード聞こえてきたんだけど?」

 

「被告人静粛に。続けて求刑を」

 

「はい。自力による更生の余地はなく、35人全員で矯正することが望ましいと考えられます。よって、被告人を保護監視処分とすることを求めます」

 

「は? 矯正? 保護監視処分?」

 

まるでここから監獄にでも入れられて指導を受けるのかといったような言葉の数々に動揺を隠せない。俺は一体何をされるんだ……。

 

「静粛に。では弁護人の最終弁論……、失礼、弁護人はいませんでしたね」

 

「……はっ?! そうだよ弁護人だよ! なんで検察官と裁判官がいて弁護人がいないんだよ!!」

 

そうか、感じていた違和感の一つはこれなんだ。明らかに俺を有罪の方向に進ませる議論ばかりで見落としていた。俺に味方してくれる弁護人がいないのである。傍聴人もザワザワとしているだけで、公判には影響を及ぼすものでもない。なぜ弁護人がいないのか。

 

「公平な裁判の結果を捻じ曲げられてしまっては困るので」

 

「公平って知ってる?」

 

「文句があるのであれば、自己弁護しろということです」

 

「裁判官辛辣すぎない? 裁判官の良心と推定無罪はどこへいった?」

 

「では判決を言い渡します。被告人は我々ガールズバンド一同が一度、みっちり教育し直すべきだと考えます。よって、保護監視処分とします」

 

「なぁ何? 保護監視処分って何? ってうわっ、何をするやめ」

 

俺はまたもや視界を奪われそのままどこかへと運ばれてゆく。裁判という名の出来レースの被害にあった俺は保護監視処分という、実質的にお世話をされ、教育を施されることとなったのであった……。

 

 

 

閉 廷

 

 

 

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