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「それでバトルロワイヤル方式の大会が開催されるんだー!」
「……ふーん」
完全に興味の薄れた俺の返事を意にも介さず盛り上がるあこ。ワクワクしているような声に聞こえるが、この空気はやばいということを俺は経験則的に知っている。今俺がどこにいるかって?
ゲーミングルームだ。それもパソコンがご丁寧に5台揃っている。
「んで、そのNFOの大会とやらが今日だから、今こうして特設ルームみたいな場所に5人とも集まってると?」
「そういうことになりますね」
「バンドの練習しろよ……」
「Roseliaとしての結束を強めるためよ」
物はいいようかとため息もつきたくなるが、本当に気になっているのはそこではない。NFO自体は俺も知ってはいるし、Roseliaの面々が偶に遊んでいるということも知っている。が、なぜ俺がここにいる?
「なんで俺ここに連れてこられたの?」
「それは直ぐにわかるよ☆」
「あ……ログイン、できますよ……!」
みんなは円卓のように並べられたパソコンを前に座り、まるでこれから大きなライブのステージに立つ前かの如く、いつにもなく真剣なオーラを纏いながら画面を見つめている。
「なんでみんなそんなに命かけてるみたいな表情してるの?」
それはこの試合から脱落すれば命を刈り取られるかのような、そんな緊張感を部屋に持ち込んでいた。少なくとも俺はここまでの緊迫感の中でゲームに勤しんだ経験はないし、これほどまでに追い詰められてゲームをしたいとは思わない。一体何が彼女たちを突き動かすのか。その答えを、俺は知ることとなる。
「この大会で1番上位の人が、後日、ゆーひと1日デートだもん!」
「ん????」
「デート……です」
「え?」
「物分かりが悪いのですか?」
なぜ俺今disられた? いやいや違う、そうじゃない。今大事なのはそこじゃない。
「まだ分からないのかしら? この大会で最後まで勝ち残った者だけが」
「雄緋を1日中、デートで独り占めできるんだよ?」
「……えぇっ?! 聞いてない!!」
「言ってない!」
いつも思うことだが、なぜ俺のプライベートはここまで誰かに強制されるものが多いのだろうか。俺も積極的に予定を埋めようとするタイプの人間ではないので、こうして予定を組んで遊びに誘ってくれる友人の存在が有難いのは確かだ。が、なぜいつも俺の了承を取るのが後になるのか。
「何か問題でもありましたか?」
「なんで俺の事後承諾になってんの?」
「いつものことなんじゃ……」
そうか、適応できない俺が悪いのか。たしかにこの世界は弱肉強食。環境に適応のできない生物は淘汰され、絶滅していく理で、その縛りの中で生物は生きているのだ。そんな悟りを開いた俺はこの状況に、素直に生きるということを学んだ。
「で、どういうルール?」
「他のプレイヤーもいるオープンフィールドで、長く生き残った1人だけが勝ちだよ!」
「今回は新規実装の『デヤンレ氷原』がステージですから、やり込みによる地形の有利不利もありませんからね」
「なるほど、それで友希那とか、経験が浅い勢のディスアドバンテージを無くすってことか」
「私の名前だけを例示された点は納得いかないわね」
まぁ友希那がパソコンのキーボードとかの扱いに慣れてない話は先日も聞いて大爆笑したところだ。なんでもチャット機能をまともに扱えなかったということらしい。
「そろそろ開始ですよ……!」
俺がチラリと覗いたパソコン画面。その中央上部にはカウントダウンらしいものが表示されていて、その数字が0になった瞬間、画面が急に切り替わりフィールドのランダムな位置に飛ばされたらしい。
「レベルも統一されるから公平に勝負できるのがいいよね!」
「時間をかけた努力が失われる感覚がするのは少しばかり悔しいですが。レベリングが意味をなさないというのは努力を否定されたような気分です」
レベリングが云々と言い出すあたり、どうやら紗夜はゲーム廃人の道を歩み始めてしまったらしい。前までは風紀委員として、花女に蔓延る不良生徒をバシバシ指導してきて、ゲームだとかを学生生活に不要だと豪語していたこともあったそうだが、その頃の紗夜に今の光景を撮影して見てもらいたいぐらいのハマりようである。
そうしてスタートしてから数分、件の紗夜の方から叫び声のようなものが聞こえて、俺は紗夜の画面を見に行った。
「きゃああ?! 後ろから攻撃を受けたのですがどういうこと?!」
その画面をずいっと覗き込めば、なんだか体力ゲージがオレンジ色になった紗夜の操作するプレイヤーが、白い木の影に隠れた画面になっていた。
「あ、紗夜さんに逃げられた!」
「宇田川さんでしたか……! 遠距離攻撃を正確に命中させてくる、流石の腕前です……!」
氷原をモチーフとしたステージということもあってか、全体的に白い雪に覆われた木々の下に身を隠した紗夜は、回復アイテムを使いながら周囲をグルグルと見回している。
「アイテムも使用できるルールなのか」
「はい、フィールドで拾ったものだけですが、って……雄緋さん?!」
「え?」
隣で画面に釘付けになっていた紗夜がいきなりこちらに振り返って大声を出すものだから俺の耳もキーンとしてしまう。そんな驚かれるほどのことをしたのだろうか。
「……その、近いです! いえ近いのは構わないのですが、その……そういうことは夜にお願いします」
「そういうことって何? 俺何かそんなやばいことした?」
「私の鼻の近くでそんな良い匂いをさせないでください! 興ふ……気が散りますから!」
「え、あ、ごめん」
謎に怒られてしまい反省をした俺は一旦距離を取り、また他の4人の様子を窺おうと見て回る。離れた瞬間紗夜から小さなため息のようなものが聞こえてきたのだが、それほどまでに真剣勝負ということだろう。
そうしていると、また1分も経たないうちに今度は反対側から叫び声が聞こえてきた。
「わぁ?! 何これ?!」
「今度はあこか?」
俺がぐるりと回ってその画面を覗きにいくと、さっきまで山の斜面の木に登って、背面から紗夜のプレイするキャラクターを攻撃していたあこが、どういうわけか移動の操作を受け付けないように固まっていた。あこは何かの攻撃を危惧してか、視点を周囲にぐるぐる回して索敵をしている。
「何これ?! 動けないってどーいうこと?!」
「ふふふ……あこちゃん、ごめんね? わたしも……負けられないから……」
「……まさか、バインドかけられた?」
「バインド?」
何やらスキルの名前らしいがよく分からないので声に出してみると、焦った声色のあこが説明をしてくれた。
「モンスターの行動を縛る呪文なんだけど……。そっか、バトルロワイヤルだから対人にも効果が出るんだ!」
「あこちゃん、仕留めにいくね……?」
「りんりんガチすぎるよ?!」
どうやら呪縛らしきものを解くためにあこが色々とコマンド入力みたいにしているようだが、生憎あこほどこのゲームをやり込んでいるわけではない俺からすれば、そんなコマンドがあるのかと感心するぐらいだったが、あこは苦戦しているようだった。
「ダメ! なかなか解けない?!」
「効果時間も長く設定してるから……! あこちゃん……いた!」
「もう指も疲れてきた……! ……ねぇゆーひ!」
「え、どうした?」
後ろから見守るだけだった俺を呼びつけたあこの形相は必死であった。俺もその焦りに釣られるようにあこに駆け寄る。
「頭撫で撫でして!!」
「は?」
「え?」
「早く!」
「あ、はい」
「あこちゃんでも……抜け駆けは許さないから……!」
どういう流れか当事者である俺もまるで理解できなかったが、俺はあこの髪を撫で回している。それにあこはデレデレしたりするでもなく、さっきよりもより早くタイピングしていた。
「えいっ!」
「逃げられた?!」
「連打で早めに切れるんだよね? この間攻略サイトか何かにも載ってたもん!」
「流石あこちゃん……」
「何が流石なのかさっぱり……」
互いの健闘を称え合うあこと燐子。それはそうとあこの頭を撫で続けている俺。一旦安全なところまで逃げたらしいあこはキーボードやマウスから手を離したまんた、なぜか目を瞑り始めた。
「え、あこどうした?」
「……えへへ」
意味ありげな笑みを浮かべるあこに俺は言葉を返すことも出来なかった。しかし、またもや聞こえてきた声の方を向く。今度はさっきあこを襲おうとしたばかりの燐子らしい。
「何故かステータスが……! これは……」
燐子の画面を覗き見ると、普段のスピードよりも圧倒的に遅い移動スピードと、ステータスに大幅なデバフがかかった燐子のキャラクター。燐子の職業はウィザードで、あんまり防御系のステータスが高くない。だからこそ少しのデバフによって大ダメージを喰らう可能性もあるのだろう。
「これほどのステータスが一気に下がってるというのは……。……はっまさか」
「そう、そのまさかよ」
「友希那?」
何故かテーブルの向こう側から自信満々に語り始めたのは友希那。一応バトルロワイヤルだというのにそんなふうに悠長にこちらに意識を向けている余裕があるのかと聞いてみたいところだが、多分友希那のことだから敵の出現まで考慮していなさそうだ。
「広範囲に効果があるらしい歌を歌っているわ」
「しかも連続で発動……ですか……」
「連続? よく分からないけど、どうかしら?」
友希那はこちらにふふんとドヤ顔すら見せるが、スキル発動を入力し続けているせいで過重にデバフが燐子に掛かっているらしい。どうやら友希那は自分が今何をしているかよく理解していないようだが、それが却って燐子の足を引っ張ってしまっているらしい。
「とにかく……友希那さんを止めないと……!」
「ふふ。効いているようね、燐子」
得意げな言い回しだが、実際には燐子のHPは全く減っていないので、そこだけを見れば友希那が物凄く害を与えているわけではない。しかし、その状態を他のプレイヤーに狙われて仕舞えば、燐子はなす術もなくやられてしまう。そのためには、友希那の無意識のスキル発動をやめさせないとダメらしい。
「……そうだ、雄緋さん……! 来てください……!」
「え? 俺?」
今プレイしているわけでもない俺を呼んだどうするんだと聞きたくなったが、大人しく燐子の画面がはっきりと見えるぐらいまで近づく。そして、燐子は移動の遅い自機の操作を諦め、こちらを向いた。
「……雄緋さん! ……その、ハグを……!」
「え?」
「早く……お願いします……!」
「え、あぁ」
その威圧に圧されて俺はゲーミングチェアに座ったままの燐子とハグをした。……うむ。
「……ちょっと、燐子。それは見逃せないわ」
どうやら効果は抜群らしい。友希那は取り乱したせいか無意識に押しっぱなしになっていたスキル発動を止め、やがてその友希那のスキルの効果も切れた。
「デバフが消えました……!」
「その、でばふが効くのね。喰らいなさい」
友希那はさっきと同じボタンを押してスキルを発動したらしいが、燐子はそれを察してかすぐさまその範囲から脱出していたので、友希那の歌の効果は不発に終わる。
「もっとでばふが効くようにしてあげるわ」
友希那はそれにも気が付かずにスキルを乱発している。……やはり、レベルは統一だとしても、本人のスキル不足は完全に無視できない要素らしい。あまりに初心者が友希那を心配した俺は燐子の席を後にして、友希那の様子を見にいくことにした。
「やっと来たわね、雄緋」
「まぁ……プレイング見てて心配だったからな」
「そうかしら」
「褒めてないぞ」
「そうなのね」
そこはゲームの専門用語も関係のない純粋な褒め言葉だったはずなのだが、友希那のそもそもの理解力の問題らしい。
「友希那はそもそもちゃんとプレイできるのか?」
「失礼ね。ところで、このゲージが減っているのは何かしら?」
「ん? そりゃHPだな。なくなるとゲームオーバーだぞ」
「そういえばどこかで聞いたことがあるわね」
こいつ……よくバトルロワイヤルに来たな……。というレベルの驚きを感じつつ、友希那に基本的な画面の見方や操作方法をチラっとだけ教える。
「それで、何故減っているの?」
「今も攻撃を受けてるからだな」
「誰から?」
それを察知して対策を練るのがバトルロワイヤルだろう、と言いたいところだが、いくらなんでも基礎知識のかけてる友希那が1人で対策できるわけでもないので助太刀する。
「おかしいわね。このHP、何故か今度は増えているわ」
そして、何故か友希那がアイテムを使ったわけでもないのに体力を回復させていた。俺も気になったので画面をよく見ると、向こうの距離が少し離れたところからリサらしき姿が見えた。そこで俺はリサのパソコンの方へと向かおうとしたその時。
「待ちなさい雄緋」
「……どうした?」
「待っていなさい。私が勝ち獲るわ」
誓い表明を受けたところで、俺はそのリサの画面を覗きにいく。そこには何故か仮にも敵である友希那に対して回復魔法を打っていた。
「えっと、どうしたんだリサ?」
「え? いやー、アタシヒーラーだから、攻撃手段そんなにないなぁも思って」
……なるほど、普段はパーティーを組んでダンジョンを攻略するのがメインだから、対人ではなかなか力を発揮しづらい職業もあるらしい。パーティーの回復役であるリサも対人戦では、その能力は何ら役に立たない。
「それで友希那が負けても可哀想だから、回復してあげよっかなぁって」
それじゃあいつまでもRoselia内の決着がつかないだろう。が、まぁ立ち回りとして他の人に恩を売っておくなんてことはあり得るかもしれない。サバイバルとは言え、臨時でチームを組んで戦うこともできる。だから俺はそのままリサの画面の行く末を見守ることにした。
「やっぱり回復役じゃ、難しいよねぇ」
「まぁこのイベントじゃあな」
「いつも回復してばっかりだもんなぁ……」
「まぁそれが役割だし」
「誰かリアルなアタシも回復してくれないかなぁ〜」
……??
「暇な雄緋が居てくれたら、回復してくれそうなのになー」
「くっ……」
面倒ごとだと察したので逃げたがったが、不幸なことに情に弱すぎる俺が完全にリサの掌の上で踊らされた形だ。
「……何をすれば」
「アタシにも、あすなろ抱き、……して欲しいな、なんて」
「……なるほど」
どうやら日菜から聞いた結果話が広がってしまっているらしい。俺は他のみんなの要望を叶えた手前断ることなんか出来るはずもなく、リサのために回復手段とやらを実行した。
……結局、このバトルロワイヤルは意外や意外、決着が着くまでにものすごい時間を要するのであった。果たして、誰が勝ったのか、それはまた別のお話である……。