ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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コロン 10様からのリクエストを基にした作品です。リクエストしていただきありがとうございました。






過労によく効くRAS療法【RAS】

大学生はよく、人生の夏休みだと言われている。実際それは正しいだろう。俺だってきっと社会人のそれに比べれば休暇を満喫しているし、金欠とは戦いつつも時間だけは有り余る、そんな時期だというわけだ。人によっては資格勉強に費やす奴もいれば、研究室に篭りきりになる奴もいるし、俺みたいにふわふわと生きる奴もいる。人それぞれではあれど、その人の好きなように時間を過ごす、それが出来るという点で夏休みなのである。

だが、そんな俺たち大学生にも夏休みなるものはある。謂わば人生の夏休みにおける夏休み。まさに天国。

そんな天国を前に立ちはだかる最後の関門こそ、レポートとテストの嵐である。

 

『くっそ、どんだけ書きゃいいんだよ……』

 

一向に終わりの見えない文字数。何度読み返しても意味のわからない文献。最早日本語としての意味をなさない文字列。

 

『……こんなの授業でやったか?』

 

講義内容の隅を突くような問題。どう考えても教授の自己満足であろう出題。問に対する回答として的外れどころか自分で読んでもちんぷんかんぷんなレスポンス。

そんな苦行を乗り越えて……乗り越えて……乗り越えようとした結果。

 

結果。

 

結果……。

 

「あー、……辛い」

 

俺はこうして数日前からずっとベッドに横たわっているわけである。別に季節の変わり目に風邪を引いたとかそういうわけではない。ただ単純に、『過労』、これだけである。せっかくバイトのシフトも減らしてどうにかこうにかテストラッシュ、レポートラッシュを乗り越えようとした結果がこれである。

 

「動いちゃダメですよ!」

 

「……はい」

 

疲れが溜まりすぎた結果発熱し、どこから聞きつけたかRASの5人が駆けつけていたのだった。……こいつらの相手したら更に疲労が溜まるのではないかという危惧はあるけど。

 

「おい、何か失礼なこと考えてねーか?」

 

「……なんでもないです」

 

普段は丁寧な口調で喋っているはずのマスキも俺の不穏な思惟にはこの反応である。我を忘れたかのような威嚇に怯んだ俺は大人しく縮こまる。

 

「なんだかもっと疲れそう、って顔してたね」

 

「Why? ワタシたちが看病しにきたのよ? 疲れさせるわけないじゃない!」

 

看病……。それ自体はありがたいが、碌なことになった覚えがないのだ。そもそも疲れが溜まって発熱しているのだから、ただただ静かに寝かせてくれればそれでもよいのに、である。そりゃあそっとしておいて、なんて表情にもなるだろう。

 

「ま、体調管理できてないなんて、プロ意識に欠けるわね!」

 

「チュチュ様はこう仰っていますが、実際には昨日からずっと心配で慌てふためいておられましたよ!」

 

「あー!! 言わなくて良いのよ!!」

 

心配してるなら騒がないでください。いやまぁ、俺の気持ちが届くことはなかろう。

 

「チュチュ、静かにしてあげて」

 

「……悪かったわ、Sorry」

 

と思ったが、レイヤに諭されたチュチュは一瞬で静かになった。これはまさにレイヤの落ち着きがなせる技なのだろうか。俺はレイヤに内心感謝を持ちながら、ここまでご足労いただいた真意を問う。

 

「それで、何しにきたんだ? 生憎遊んでやるのは無理だぞ」

 

「雄緋さんを癒しに参上したんですよ! ちなみに発起人はチュチュ様です!」

 

「だから一言余計なのよ! ……その、疲れが原因なら、その疲れを取れば良いと思ったのよ、早くCiRCLEに復帰してもらう必要もあるなら尚のことね!」

 

「そうか……チュチュも、ありがとうな」

 

どうやら快適な睡眠を妨害しにきたとかそういうことではなく、ちゃんと意図があってここにきたということらしい。まぁ純粋な嫌がらせとかなら俺とてブチギレる他ないと思うが、一先ず安堵の息をつく。

 

「その、先陣を切るのは誰かいるのっ?」

 

予想していなかったであろう、妙なほどにしおらしい感謝の言葉への恥ずかしさを隠すためなのか、目を逸らして無気質な部屋の家具を見つめながら叫んでいるチュチュ。どうやら先鋒となれるほどみんなの心の準備は十分ではなさそうだったが、誰が行くのかという空気感の中、一人の手が上がった。

 

「……ロック?」

 

「は、はい!」

 

沈黙を切り裂いたのは普段はむしろ消極的なところが目立っているようなロックだった。俺は少しだけ驚きながらも寝床に伏せた状態でロックの顔を見上げた。ロックはRASのみんなからの止める声も聞こえないというままにつかつかとベッドサイドにまで近寄って腰を下ろした。

 

「その、どうしたんだ? ロック?」

 

「私は……私は、耳かきをします!」

 

「……耳かき?」

 

どこからともなく現れた茶色い棒にキョトンとした俺はゴロリと仰向けから横向きへと体勢を変えられる。突然行われる耳かきに困惑していたが、俺の右耳の中を凝視するロックが放つ謎のオーラに押し黙る他なかった。

 

「全然耳かきせずに放置していましたよね? その、私が取ってみます!」

 

「お、おぉ? じゃあ、お願い」

 

気圧された俺の耳の穴の中に徐に侵入していく耳かき棒。一人暮らしを始めてから1人で済ませることが多くなっていた耳かきを誰かにやってもらうのは不思議な感覚だった。

 

「うわぁ……中……すごいですね」

 

「そんなに?」

 

「……溜まってますよ? 私が定期的にお掃除してあげますね?」

 

耳をかく音と、ロックのどこか艶かしさを感じさせる吐息混じりの声に思わず不思議な気分になる。

 

「わ、こんなにおっきいの……」

 

「……おぉ」

 

出し入れする棒の先に乗ったおっきいの(意味深)耳垢に感嘆の声を上げる俺たち。ロックの微笑んだ顔が先程までの異物を押し出した快感に染まったロックの声と表情と混ざり合って、奇妙な感覚に陥る。そして反対側の耳もやってもらおうと体を捻った時、声が響いた。

 

「待てよロック」

 

「……ますきさん?」

 

「次は私の番だ」

 

「……分かりました」

 

渋々と言った様子で耳かきをマスキに渡したロックは引き下がる。代わりにベッドに乗り上げたますきは、何故か正座を少し崩したような形で座り、ぽんぽんと自らの太ももを叩いた。

 

「ほら、ここ」

 

「……頭を乗っけろと?」

 

マスキは答えるでもなくコクコクと頷くばかり。俺もここは言われた通りにするべきかと頭を載っける。すると、少し経ってから穴の中を進んでいく棒。穴が押し広がるような感覚を覚えつつも、後頭部に感じられる柔らかな感触を俺はさりげなく楽しんでいた。

 

「ほぉら……もう少しで……出そう……」

 

「もう出そうなのか?」

 

「喋るな……手元震えるから……」

 

どうやら真剣、それもものすごく繊細な作業が求められているらしく、俺が声を出そうとしたらそれを静止する答えが飛んでくる。俺は静かに黙りつつ、こっそり頭を委ねた太ももの感触をこっそり分析するみたいになっていた。

……一応言っておくと断じて変態ではない。

 

「おっ。これでラスト……と」

 

「……ありがとな、マスキ」

 

「いつでもしますから、これぐらいなら」

 

怪我させることなく耳かきを終えて、落ち着いたのであろうマスキから頼もしい答えが返ってきたわけだが、両耳の耳掃除を終えて早速とばかりに声を掛けてきたのはチュチュ、そしてパレオだった。その声に反応するように2人の方を見ると、何故かそこには施術台のような何かが置かれている。一体どうやって持ち込んだのか。

 

「ユウヒ! 次はワタシたちがマッサージをするわ!」

 

「マッサージ?」

 

「はい! チュチュ様が雄緋さんの体を触りたそうにしていたので!」

 

「Huh?! そ、そんなことないわよ!」

 

兎にも角にもどうやらマッサージをしてくれるということらしいので、体が怠くて仕方がない俺は喜んでその台の上に寝転がる。すると、数秒もしないうちに4本の掌が俺の体を這うように触れる。そのまま皮膚を、肉をゆっくりと押し込んでいき。

 

「……おぉ」

 

「ものすごく凝ってますね。ずっと同じ体勢で作業でもしておられたのですか?」

 

パレオには完全に、レポート地獄との闘いを生き抜いてきた俺の生活習慣を暴かれてしまったらしい。俺が寝転んだまま僅かに頷くと、それらの生活習慣によって凝り固まったであろう肩甲骨や肩周りに手が伸びてきた。

 

「デスクワークのやりすぎは身を滅ぼしますよ?」

 

「今揉んでもらって実感してる。以後気をつけるよ」

 

パレオに肩周りの筋肉を揉んでもらうだけで、なんだか頭痛まで取れそうな感じだった。まさに極楽という表現がふさわしい。肩こりが少しマシになるだけでこれほど変わるだなんて、マッサージをしてくれるチュチュとパレオには頭が上がらな

 

「ほら、チュチュ様も一杯揉みましょう! 合法的に雄緋さんの全身を弄れるチャンスですから!」

 

どうやら下心も全開なようで、素直に受け取った俺が馬鹿だったみたいだ。それでも揉んでもらっている手前、文句をつけることもできず、結局チュチュの腕も俺の上体にのびていた。

 

「そうよ……。これはlegal、何もおかしくない……」

 

「そんな葛藤するぐらいなら別に良いぞ?」

 

「No! 貴方は黙って寝転がってなさい! はぁ……はぁ……」

 

明らかに呼吸が荒い。たかがマッサージぐらいで大袈裟な、なんてのは思うのだが、俺の腕を揉み解そうとしたその手はどこかぎこちない。でも……なんだろう。

 

「意外と硬いのね……。はぁ、はぁ、もっと触っていいのよね?」

 

「あ、あぁ」

 

「頑張って雄緋さんの体をマッサージするチュチュ様も……」

 

「パレオもやるのよっ! もっと、もっと……」

 

「はいっ、はぁっ、パレオもっ、はぁっ、はぁっ、いきます!」

 

犯 罪 臭 。

いやまぁ、決して何も疚しいことはしてないはずなんだけど、チュチュとパレオ、2人の言い草だとか吐く息に惑わされると完全に大人なマッサージをしている風に聞こえてしまいそうだ。一応この2人は年齢で言えば中学生なはずなのに、そんな子達にこんなことをさせて……俺は……。

 

……俺は。

 

よし。

 

ふむ。

 

「どうでしょうか? かなり解れてます?」

 

「あぁ……最高だ」

 

「当然じゃない! はぁっ、はぁっ……」

 

……はっ。

 

いやいや、俺は一体何を考えていたんだ。折角過労で倒れていた俺を心配してチュチュとパレオがマッサージに励んでくれたというのに、それに対して良からぬ妄想を働いた俺は外道か? 下衆か?

 

「ごめんな、疲れちゃったよな」

 

「そんなことないわ! こんなの……余裕に決まって」

 

「チュチュ様、少し休憩しましょう! ささ、こちらへ!」

 

椅子に座ったチュチュはぐったりとした表情で。パレオと手を震わせている。こんなになるまで尽くしてもらったと言うのに、やはり……俺は……。

 

「え?」

 

「……大丈夫です」

 

極度の自己嫌悪。それはもはや抜け出すことも叶わないように思われた負のスパイラルだったのに、そんな俺に手を差し伸べた人がいた。レイヤだった。

 

「レイヤ?」

 

「きっと雄緋さんは、迷惑をかけたとか、そういうことを気に病んでいるんですよね……」

 

違うんです。不埒な妄想を働いた罪悪感と自己嫌悪に駆られているだけなんです。

 

「でも私、思ったんです。普段から雄緋さんって何事にも全力を尽くしすぎてるんじゃないかって」

 

そうなんです。しょうもないことに全力を尽くしてしまった結果、俺は年端も行かない少女2人に劣情に似た感情を抱いてしまったんです。

 

「だから私たちで雄緋さんを癒せたらいいなって。そう思っただけですから。雄緋さんは気にしすぎないでください……。雄緋さんのことは私たちが助けますから」

 

やめて……。俺にそんな価値は……。少なくとも15歳にも満たない少女にあらぬ想像を犯してしまった俺の罪はもはや消えようがないんだ……。むしろそんなにみんなから助けてもらうほどの価値のある人間じゃ……。

 

「雄緋さんは私たちにとって、かけがえのない、大切な人ですから……」

 

だ……めだ……。そんなこと……そんな、優しい言葉……俺に、かけるべき……じゃ……。

 

「だから、私たち、ううん、私のことをもっと頼ってください。甘えて良いんです……。全部私が受け止めますから」

 

レイヤの温かな抱擁が俺を包んだ。俺はその時、真理に気がついた。そうか、ここがまさに天国。そうか、レイヤの言う通り俺は頑張りすぎたのかもしれない。普段から頑張りすぎて、その結果が過労となって倒れてしまったわけだ。

そうか。それならレイヤの言う通り、この時ばかりは甘えて、そして、また明日から頑張ればいい。明日、また元気を出して自分のなすべきこと、使命を全うすれ

 

「お母さんだと思ってもいいんです。ママって呼んでください……。ダメですか?」

 

……あれ?

 

「ほぉら、ねんねして……」

 

オギャッ。

 

「ママのおっぱい吸ったら寝られるかな?」

 

レイヤがおれのとなりにねころんで、せなかをとんとんとしている。なんだかまぶたがおもくなってきた。

 

「私が添い寝してあげますから……」

 

……すやぁ。










投稿間隔が相当空いてしまい申し訳ございません。またここから頻度を上げて投稿出来たらと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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