ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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ピコピコパン泥棒事件【沙綾&ひまり&モカ&あこ】

俺は普通の大学生バイトファイターの北条雄緋。幼馴染でもなんでもない知り合いの山吹沙綾とその親御さんが経営している地域のパン屋さんに行って、怪しげな者たちの犯行を目撃した……山吹沙綾に頼まれ、事件を解決することになった。うん、目撃したのは俺じゃないんだ。済まないな。だが俺は。

 

「この中に、パン泥棒の犯人がいるッッ!!」

 

まるで探偵のようなことをしていた。

事の発端は朝食用のパンを買い出しに出た事だった。俺は行きつけであるやまぶきベーカリーに来店し、自分の好みのパンを買い、満足感と共に帰宅する……。本当ならこうなるはずだった。

しかし、店に入るとそこは店内には似つかわしくない重々しい空気。店員として手伝いをする沙綾、その他にも見知った顔が3人、青葉モカ、上原ひまり、宇田川あこがいた。その4人が何やら物々しい雰囲気を醸し出しながら睨みあいを効かせる中で、俺は入店してしまったのだった……。まずはそこから語ろうと思う。

 

 

……

 

 

「あっ、雄緋さん、いらっしゃいませ……って言いたいところ、なんですけど」

 

山吹(やまぶき) 沙綾(さあや)(17)

やまぶきベーカリー店員(てんいん)

 

沙綾はベルを鳴らしながら入ってきた俺を一瞥して何やら不安そうな顔をした。きっとこの場の雰囲気も何かがあってのことだろう。そして、沙綾は何か思案顔になり、突然良い案を思いついたとばかりに入店した俺に向かって食い気味に声をかけた。

 

「そうだ雄緋さん! 私と協力してこの中からパン泥棒の犯人を見つけ出してください!」

 

「は、パン泥棒?」

 

話についていけずにそう聞き返すと、沙綾が向かい側の壁際に並んだ3人を指差して叫ぶ。

 

「そうなんですよ! さっき私が大きな物音に気を取られて少し目を離していた隙に、今日の目玉商品で並べてた、『ピコピコパン』が消えていたんです!!」

 

「待って何その『ピコピコパン』って」

 

パンが消えたとか泥棒が云々とかの前に、まずそのパンのネーミングが気になりすぎる。名前を聞いてもどんなパンなのかが全く想像がつかない。やたらと破裂音が多くて発音しにくそうなパンというイメージ以外何も残っていない。

 

「一口食べたら甘味と酸味と塩味と苦味と旨味が口中に広がって、頭の中まで『ピコピコ』して幸せになれるパンですよ!」

 

「薬物? というか食レポしろと言ってないんだわ。味はどうでもいいから外見とか教えてくれる?」

 

「って、そんなことどうでもいいんです! 兎に角犯人を見つけ出してください! ピコピコパンを並べる前から消えたのを確認するまで、私と一緒にずっと店内に居たのはこの3人だけなんです!」

 

「なるほど容疑者ってこと?」

 

沙綾に促されるままに目線を動かすと、疑われたことに文句を言いたげな3人が口を開いた。

 

「ちょっと! 私も忙しいから早く帰りたいんだけど!」

 

上原(うえはら) ひまり(16)

来店客(らいてんきゃく)

 

「モカちゃんも早く帰って、折角買いたてほやほやのパンを食べたいな〜」

 

青葉(あおば) モカ(16)

来店客(らいてんきゃく)

 

「あこだってお腹ぺこぺこだよ?!」

 

宇田川(うだがわ) あこ(16)

来店客(らいてんきゃく)

 

「……なるほど、そういうことか」

 

「……えっ、まさか雄緋さんもう分かったんですか?!」

 

「あぁ、3人とも、何かと口実をつけて逃げようとしている。つまり……」

 

「つ、つまり?」

 

「この中に、パン泥棒の犯人がいるッッ!!」

 

「だからそれは知ってますって」

 

めっちゃ普通に怒られた。いやだって、この3人がみんな逃げ出そうとしてるって言ってたからかっこつけただけなのに、被害者からすればやはり死活問題なのだろう。なにせパンが盗まれる、それに留まらず容疑者が全員友人。友情崩壊は待ったなしである。

 

「そもそもこの3人のうちの誰かが盗んだってことなら、今この場で持ってるかどうか調べたら分かるんじゃない〜?」

 

「でかしたモカ! なら身体検査をすれば……」

 

「えっ、それって雄緋さんに全身弄ってもらえるってこと?!」

 

「はいはい! あこが1番!」

 

「も、モカぁぁぁっ?!」

 

図りやがった……。俺が男であるが故にどうしたって身体検査なんて出来ようはずもないのに悪戯に時間をかけることで痕跡を消すチャンスを狙っていたんだ……。

 

「モカちゃんはそういう意図で言ったわけじゃないよー?」

 

「そうだよね、モカは真面目に犯人を……。ゆ、雄緋さん! まず私自身の身の潔白を証明したいので……触ってくれませんか?」

 

「沙綾は潔白も何も店員だよね? 後半の言い草も問題だけど、自演だったら俺流石に怒るんだけど?」

 

モカは混沌の店内を眺めながらニヤニヤとしている。くそっ……完全にモカの掌の上だ。現時点で間違いなく怪しいのは……。

 

「モカも時間稼ぎとは姑息な……。というよりパン泥棒だよな? なら怪しいのはモカだろ!」

 

「え〜、何でですかー?」

 

「パン好きだし、こっそり食べまくってそう」

 

「そんな風に思われてたなんてモカちゃんショック……」

 

目に見えて落ち込むモカ。いやそれもそうか……。犯人探しとは言いつつも、この3人のうちの1人が犯人、それがモカじゃなかったら、俺はモカ自身の人格否定なんてことをしてしまっている……。良心が……。

 

「あっちがっ……。わ、わかった! モカの身の潔白を示すために、まずはモカのアリバイを聞こう! その大きな音? が聞こえた時モカは何してた?」

 

「おっ、探偵っぽくなってきましたな〜。モカちゃんはずっとカウンター前に居ましたよ〜? さーやとお話ししてたー」

 

「それはそうだけど。モカは会計しようとしてたけど、雑談をずっとしてたら外から大きな音がしたんだよね」

 

「うんうん」

 

「よし、一旦情報を纏めよう」

 

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沙綾、モカ

《証言》

 

 

「つまりこう。沙綾の目の前で犯行は難しいか……。なら他の人のアリバイも聞こうか。じゃあひまり」

 

「え、わ、私?!」

 

「狼狽えることか? ……妙だな」

 

「びっくりしただけですって! 音がした時の辺りは、そうだなぁ、入り口の近くに居た気がする? それで外から大きな音がしてドアの方を振り向いたんです!」

 

「ふむふむ、入り口近くと」

 

俺は手持ちのメモ帳にひまりが居たらしい場所を書き込みつつ、話を聞き続ける。しかし、ひまりの次の言葉に驚くこととなる。

 

「でもその前に中央の台見た時、ピコピコパンなんてなかった気がするけどなぁ……」

 

「へ? パンがなかった?」

 

「もしかして沙綾はそもそもピコピコパンを店頭に出してなかったとか?」

 

「えぇっ?! そんなことないよ!」

 

「なるほど気になる証言が」

 

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パン、沙綾、モカ、ひまり

《証言》

ひまり『音が鳴る前に台を見た時にはパンはなかったから、沙綾はそもそもパンを置いてなかったのでは?』

 

 

「沙綾、本当にパンは店に並べたのか?」

 

「はい。ポップとかは用意してなかったんですけど、その台のところに……。あれ、でもうーん」

 

「何か気になることでも?」

 

「い、言われてみると自信が」

 

「おいおい……」

 

沙綾の記憶があやふやなのは気かがりだが、取り敢えずひまりの行動は確認できた。それなら残りはあこだけだと思い、あこの方を見る。

 

「って、あこ。どうした?」

 

「え? な、なんでもな、あー、深淵の力に呼び出されて……」

 

「……怪しい」

 

妙に挙動不審だ。あこの厨二病を彷彿とさせる言動はともかくとして、目を向けられただけで挙動がおかしくなるのは怪しい。いやでもそう考えるとひまりが入り口近くに居た確証もないし、そもそも妙に長い雑談をしていたモカの行動も怪しく思えてくる。いや、本当にそもそもパンはあったのか? ピコピコパンなんてものは無かったんじゃ……。

 

「えっと。ゆ、ゆーひ……?」

 

「あ、いや悪い。あこのアリバイは?」

 

「あこは窓沿いの台に並んでるパン、例えばコロネとか見てたよ! 本当だもん!」

 

「……と言っているが」

 

俺はそれを証明できる人を探そうと他の3人の方を見る。するとモカがあっ、と小さな声を上げた。

 

「そういえば音がした時、発生源探そうとしてキョロキョロとしてたら、あこちんが窓沿いのパンを眺めてるの見た気がする〜」

 

「なるほど? ……まぁそれも気になるな。それで、あこは何か気になったこととかはないか? ……例えば、ひまりが入り口から動いたりとか、モカがやたらと長く雑談してたりとか」

 

「え? ひーちゃんは分からないけど、でもモカちんはここに来る前に溜まったポイントカードで一杯パンを買うんだ! って話してたよ!」

 

「ポイントカード?」

 

「これだよ〜?」

 

モカが見せてきたのはスタンプが大量に押されたポイントカード。どうやらやまぶきベーカリーの期間限定のポイントカードで、キャンペーンに参加してスタンプを全て貯めると好きなパン1個と交換できるというものらしい。モカはどうやら相当本気らしく、そのポイントカードを複数枚掲げていた。どれもスタンプは一杯である。そしてカウンターに置かれたパンの山もすごい量である。

 

「これ使ったらいっぱいパンが貰えるんだよね〜」

 

「流石にこれ全部くださいって言われた時びっくりしちゃったなぁ……」

 

「確かあこが何回かカウンターの方見た時も、自信満々に掲げて『支払いはこれで……!』って言ってたよ!」

 

「なるほどな……。取り敢えず証言と情報を一旦まとめるか……」

 

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パン、沙綾、モカ、ひまり、あこ

《証言》

ひまり『音が鳴る前に台を見た時にはパンはなかったから、沙綾はそもそもパンを置いてなかったのでは?』

モカ『あこはずっと窓沿いのパンの方を眺めていた』

あこ『何度か振り返るとモカはポイントカードでカウンター上の大量のパンを購入しようとしていた』

 

 

「こんな感じか。ちなみに沙綾は何か覚えてることとかないのか?」

 

「それがモカの持ってきてくれたパンが多すぎて呆気に取られちゃってあんまり……」

 

まぁそれもそうか。カウンターに積まれたパンを見れば、むしろそこがパンを陳列しているのではないかと錯覚するほどである。

とにもかくにもこれで全員の証言は揃った。そろそろ推理すべきだろう。ここからがむしろ探偵としての腕の見せ所のはずだ。

 

「犯行のタイミングをまず考えると、沙綾が気付いてないのはモカのせいということか」

 

「えー、でもモカちゃんの無実はさーやも、あこちんも証明してくれてますよ?」

 

「そうだけど、沙綾の記憶があやふやな以上、誰かが嘘をついてる可能性も拭いきれない」

 

そうだ、これはよくある論理クイズで見るやつだ。多分3人のうち犯人だけは嘘の証言をしていて、その嘘を見抜けば犯人がわかるとかいう典型だろう。

 

「きっとこの3人の証言に、1人の証言だけ嘘が紛れてて、それが分かれば犯人が分かるはず」

 

「モカちゃんはあこちんの無実を証明してるから、嘘を言うメリットもないですよね〜?」

 

「それは……確かにそうだな。ひまりの証言は、沙綾に確認する他ないな。本当に沙綾はピコピコパンとやらを並べたのか?」

 

「う、うーん。並べたような、並べなかったような……」

 

どうやらその様子を見る限り、沙綾と自信はないらしい。そのパンを並べた記憶がないのなら、そもそもパン泥棒自体いないことになる。というかひまりの証言はそんなに検討する余地もないだろう。

 

「ならあこの証言は。モカの無実を証明するような証言だな」

 

「でしょ?! あこも嘘言わなくていいもん!」

 

「でも、何であこは何度も振り返ったんだ?」

 

「そういえばあこちんが振り向いたら丁度パンがあるところだね〜」

 

……ん? モカの発言を聞いてピンときた俺はもう一度メモの方を見る。メモに記されたみんなの位置関係を改めて見直した。

 

「……あ。パンの位置からして盗れるのはあこしかいないような……」

 

「えっ?! あこじゃないもん!!」

 

「いやでも確かにそうだよね……。私が入り口にいて、モカと沙綾がカウンターにいたなら」

 

「どうなんだ? あこ?」

 

「ち、違うもん!」

 

「あこ。悪いことしたなら、素直に謝らなきゃダメだよ? 今なら私も、勿論私のお父さんだって、怒ったりしないだろうから」

 

沙綾の、まるで弟や妹を諭すような声を聞いたらしいあこは下を向いたままプルプルと震えた。俺を含めたみんながあこの言葉を待っていた。しかし。

 

「……ひぐっ、ぐすっ、違うもん! 違うもん!!」

 

「えっ、あっちょ」

 

顔を上げたあこは叫びとともに、涙を流す。……俺はなんということを、自分よりも遥かに幼いあこを詰って、挙げ句の果てに追い詰めて泣かせてしまうだなんて。無配慮な自分を呪うとともに恨んだ。

 

「……ごめんな、あこ。俺が疑いすぎたよ」

 

「……えっ」

 

「沙綾。ピコピコパン? その分の料金俺が払うよ」

 

「えっでも」

 

「犯人探しなんてやめよう……。この中に1人だけいる犯人を探し出すなんて残酷すぎる。きっと盗んだ1人も、態度には出さなくても後悔してるんじゃないか? こんなことになってしまって」

 

店内が静まり返る。そうだ、探偵ごっこで人を追い詰めることを楽しんでいるなんて。俺はなんて最低な奴なんだ……。

 

「みんなで美味しくパンを食べよう、な?」

 

「……うんっ!」

 

「雄緋さん……」

 

「……感服〜」

 

「じゃあ、私奥からもっとパン持ってきますね!」

 

うんうん。終わりよければ全て良し。俺のお金が多少飛ぶぐらいなんてどうってことはない。犯人を知るより俺は、ピコピコパンが何なのかを知りたい……。犯人を追い詰めるのは探偵の仕事じゃないんだ。きっと。俺の使命は……ここにいるみんなが楽しい時間を過ごす方法を見つけ出すことだったんだ……!

 

 

……

 

 

後日、家に帰ると何故かいつもにも増して部屋がピカピカ&物凄く豪華だけど、手作り感溢れる、沁みた味の料理が並べられていたのだった。

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