ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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3バカ抜き打ちテスト【こころ&はぐみ&薫&美咲】

キーンコーンカーンカーン……。

 

ここ花咲川では猛暑に喘ぐ民衆が納涼を求めて街を彷徨っていたが……。

そんな街中のとあるプレハブ小屋に突如鳴り響くチャイムの音。

 

「そろそろ来る頃かな」

 

俺の呟きに呼応するように、部屋の右前方の横開きのドアがガラガラと音を立てて開く。同時に脳内に鳴り響く、行進曲のギャロップ調。

 

「あれ、ここ、教室?」

 

「はい、おはよう」

 

AM 9:00 登校

北沢はぐみ

 

教室らしく黒板と机が並んだ風景には似つかわしくないドレス姿のはぐみが登場。

 

「えっ、ソフトボールの地区大会優勝パーティーをするってこころんから聞いてたのに」

 

「ほら座って。ソフトボールのパーティーをこころが主宰してるのも変な話だろ?」

 

「あぁそっかぁ!」

 

納得がいったらしいはぐみを席に着かせて、俺は次なる生徒を待ち構える。そしてほとんど間髪入れずに、続け様に入ってきたのは。

 

「あら、とっても笑顔になれるパーティー会場はここなのかしら?」

 

「はい、おはよう」

 

AM 9:01 登校

弦巻こころ

 

さらに現れた笑顔の体現者。やはりパーティーと聞いたからなのか派手なカラーリングのドレスを纏っているが、喩え、この着飾ったお嬢様であろうとこの教室の雰囲気を覆すことはできない。

 

「ほらほら座って。パーティーがなくともみんな笑顔にはなれるでしょ?」

 

「その通りね! みーんな笑顔になれるわ!」

 

こころもしっかりと座席についたタイミング。部屋の外からさらに足音が聞こえてきた。どうやら本日最後の生徒が登校してきたらしい。

 

「おや、『ロミオとジュリエット』の完成披露試写会の会場はここと聞いたのだけどね」

 

「違うぞ、おはよう」

 

AM 9:03 登校

瀬田薫

 

「早く座って。完成披露も何も、この間千聖に共演NGって言われてただろ」

 

「……あぁ。儚い……」

 

時間は掛かってしまったが、ようやく全員揃ったらしい。俺は教室の隅に佇んでいた副担任こと美咲にアイコンタクトを送る。

 

「よし、それじゃあ早速始めるぞ!」

 

敢えて語るまでもない。しかし様式美とばかりに、教室前方にデカデカと据えられた黒板一杯に、文字を書き殴る。

 

「俺がこのクラスの担任の、北条雄緋です!!」

 

「知ってるよー?」

 

「それで、あっちに座ってるのが」

 

「副担任の奥沢……ですって、慣れないんですけど」

 

「美咲と雄緋が今日の先生なのね!」

 

「はい静かに!!」

 

「それで、何をするんだい?」

 

「静かにって聞いてました?」

 

この教室には俺を含めて5人しかいないはずなのに、どうしてこうも騒がしくなるのか理解に苦しむが、そんな愚痴も言っている暇はない。俺はサッと黒板に書いた名前を消して。

 

「今日やるのはこれだ!!」

 

「……夏休み抜き打ちテスト?」

 

「単純な話です。匿名熊さんから相談がありました。このままじゃあ学力ないしそもそもの知能的な問題があるんじゃないかと!」

 

「相談?」

 

「ミッシェルと美咲が同じってことだよ!!」

 

「ちょ」

 

「雄緋も変なことを言い出すのね」

 

「そーだよ! みーくんとミッシェルじゃ全然見た目も違うよー?」

 

「あぁ、あんなに可憐な美咲とあれほどアクロバティックなミッシェルが同じ訳がないじゃないか……」

 

「ああこりゃダメだ」

 

俺は想像以上の状況に頭を抱える。同様に教室の隅でも頭を抱えているやつがいるが、そんな破茶滅茶な現状に一石を投じるべく。

 

「というわけで、純粋に3バカの中から、一番やばいバカを見つけ出します!!」

 

 

そう、説明しよう! 今回は現状を憂う匿名の熊の差金により、ハロハピ内の通称'3バカ'の中でも特に問題児を、この3人のどこがやばいのかを抜き打ちテストという体で洗いざらい調べるという企画なのだー!

 

 

「というわけで、これからテストを始めます! よーい、始め!」

 

俺の掛け声と共に配られたテスト用紙に颯爽と書き込み始める3人組。どうやらテストをちゃんと受けるという気概はあるようで、そこは素直に感心すべきだろう。そして肝心のテストの結果は……。

 

 

 

 

 

ドアを開けて、テストを受け終えた3人が待つ教室へ。俺が部屋に入るなり、先ほどよりも緊張感のある空気に様変わりした。それは俺の小脇に挟まれた、採点済みのテスト用紙のせいだろうか。

 

「それじゃあ、受けてもらったテストの振り返りをしていこうか」

 

「みんながどんな答えを出したか楽しみね!」

 

既にバラエティに染まり切った財閥の御息女に少々ビビりながら、俺は改めてテストの解答用紙を教卓にざっと並べる。

 

「1時間目の国語からするぞ。まずは、ことわざ・慣用句の問題からだが……。特に酷かったのはこころ!」

 

「あら、あたしからかしら?」

 

正しいことわざ・慣用句になるよう空欄を埋めなさい。(2点×5問)

 ✔︎

⑴ 猿も木から  笑顔  

 ✔︎

⑵ 豚に  笑 顔  

 ✔︎

⑶ 二階から  笑顔  

 ✔︎

⑷ 石橋を叩いて  笑 顔  

 ✔︎

⑸ 笑う門には  笑 顔  

 

「全部笑顔でゴリ押しするなぁ?!」

 

「どうして? みんな笑顔だと、もーっと幸せになれるわよ!」

 

「あぁ……。雄緋さん、多分何言ってもダメですよ」

 

なんだこの答案。笑顔に塗れすぎて、一周回って狂気すら感じる。石橋を叩いて笑顔になってるとかも想像したらシュールな光景だし、⑸に至ってはどれだけ笑うのだろうか。

 

「こころん流石だね! はぐみもみんなのこと笑顔にしたいな!」

 

「あぁ……。これを間違いだと言うだなんて、それこそ間違いというものだろう……」

 

「はぁ……。そんなこと言ってるけど、文学史の問題は、薫は酷かったからな?」

 

「おや、まさかそんなことがあるわけ」

 

次の文学作品の著者名を書きなさい。(3点×5問)

 ✔︎

⑴ 羅生門          儚い物語だったよ

 ✔︎

⑵ 源氏物語         源氏だろう   

 △-2

⑶ ロミオとジュリエット  シェイクスピアさ。

 ✔︎

⑷ オデュッセイア     シェイクスピアさ。

 ✔︎

⑸ 車輪の下        シェイクスピアさ。

 

「おや。どうして⑶は丸をくれていないんだい?」

 

「なんでお前は答案用紙で会話しようとしてんの?」

 

「質問に質問で返すだなんて……儚い……」

 

「ダメだこいつ……」

 

「雄緋さん。あきらめましょう。テストなんて最初から無理だったんですよ……多分」

 

著者の名前を書けと言っているのに、どうして出題者と対話しようとしているのだろうか。少なくとも語りかけられてきたところでコミュニケーションツールですらない。

 

「で、まぁそれはいいとして。お前はシェイクスピア以外の作家を知らないのか?」

 

「まさか、そんなことある訳ないじゃないか」

 

「じゃあなんでシェイクスピアで埋めようとしてんだ?」

 

「……ふっ」

 

あ、多分何も考えてないなこいつ。薫なら文学史の問題だとかはよく知っているだろうと思っていたが、お情けの部分点という、文学史の問題では中々見ない得点に終わってしまった。

 

「雄緋さん、このペースで行くと今日中におわんなくなっちゃうので」

 

「分かった、次は2時間目の数学の解答に行こう」

 

「数学ならはぐみ自信あるよ!」

 

「本当か?」

 

「え?」

 

「文章題の問題のはぐみの解答がこちら」

 

次の文章題に答えなさい。(15点×2題)

⑴ 雄緋くんはある日、商店街を訪れました。

最初にやまぶきベーカリーで1個150円のチョココロネを3個、1個120円のあんぱんを2個購入しました。次に北沢精肉店で1個70円のコロッケを5個購入しました。最後に羽沢珈琲店で1杯300円のカフェラテを頼みました。

さて、この買い物で雄緋くんが使った金額の合計はいくらでしょうか?

《以下答案》

   ✔︎

さーやは優しいから雄緋くんには値引きすると思う! 前にはぐみが行った時もチョココロネは1個オマケしてくれたから、買うのは2個でも大丈夫。 それからはぐみもコロッケは3つ以上買ってくれたお客さんにはオマケしてるし、雄緋くんがお客さんならもっと安くできるよ!

だから大体1000円ぐらいかな?

 

「はぐみ計算問題って解いたことある?」

 

「あるよ?」

 

「ならなんで勝手に問題改変した挙句、大体の値段しか出さないかなぁ?!」

 

もはや予想の斜め上のそのまた斜め上を行きすぎて、問題を作った時には想定していないような解答が飛んできた。オマケ云々は問題文には書いていないのだから、あくまでその問題文の設定で解いて欲しいところである。

 

「あっ、コロッケはこの間値下げしたから間違ってるってこと?」

 

「違うそうじゃない」

 

というか値下げ云々の詳しい事情までは流石にこちらでは把握してない。ダメだ……テストをやろうとしても、そのテストを違う方向からぶち壊されてしまっている。このままじゃ埒があかない。

 

「次の教科行くな。次は社会だけど、問題は薫!」

 

「おや、また私のことをお呼びかな?」

 

「お呼びも何も……これだよ! 歴史の問題の!」

 

2 次の歴史上の出来事を指定の語句を全て使って説明しなさい。(5点×2問)

⑴ 関ヶ原の戦い

指定語句:徳川家康・東西・江戸幕府

《以下答案》

   ✔︎

それは遥か昔の出来事だった。悲劇と呼ぶに相応しい、あまりに惨い争いだった。群雄割拠の時代を生き抜いてきた猛者たちが東西両軍に別れ、争う運命にあったのだ。

血で血を洗う残忍な争い。両軍ともに屍をただ積み上げるばかりで、戦況は膠着状態に陥っていた。謂わばそれは、無益な虐殺だった。その屍たちが作った道は、あまりに細く、短く。またその道を作るために費やした死兵はあまりに多すぎた。

今もその地には、過去を生きた亡霊の魂が眠っている。数え切れないほどの散って逝った御霊が嘆き、悲しみの傷を癒そうと静かに眠っているのだ。私はその儚い魂たちに黙祷を捧げよう。

その後、紆余曲折を経て徳川家康は江戸幕府を開いた。

 

「何? 小説かなんかでも書こうとしてんのか?」

 

「まさか。説明しなさいと言われたから説明したまでだよ……」

 

「薫くんすごーい! こんな文章書けるんだ!」

 

「だからそういうことじゃないから!」

 

「ふっ……」

 

褒められて天狗になったらしい薫は、思いっきり誤答扱いなのにも関わらず普段の澄ました表情を崩さないままだ。誇らしげな顔が妙に鼻につくが、俺はなんとか堪えた。

 

「で、指定語句は確かに全部使ってるのは偉いな」

 

「あぁ、そうだろう。もっと褒めてくれないか」

 

「最後何があった? 急に面倒くさくなったの?」

 

「儚い……」

 

「薫さん……」

 

自分に都合が悪くなるとそうやって逃げるのはどうにかしたほうが良いだろう。それはそうとこれ以上、この謎の語りに時間を費やすわけにもいかず、俺は新たな答案用紙を取り出す。

 

「次は理科だけど、これはこころが凄かったな」

 

「あら、あたしかしら?」

 

「その解答の一部がこちらっと」

 

2 次の各問に答えなさい。(5点×3問)

  

⑴ 夏の大三角に含まれる星を全て書きなさい。

 デネブ アルタイル ベガ  

△-3   

哺乳類(ほにゅうるい)に含まれる生き物の種類の名前を2つ挙げなさい。

 ヒト  ミッシェル

 

「こころ、凄いじゃないか……」

 

「ええ! これは自信があったわ! でも、なんでミッシェルはダメなのかしら?」

 

「哺乳類じゃないとか?」

 

「うーん、まぁ哺乳類ではないんだけど哺乳類というか……」

 

「ちょっと雄緋さん、こっち見ないでください」

 

着ぐるみのモチーフも哺乳類だし、中の人も当然哺乳類なのだが、ミッシェル自体を哺乳類と呼んで良いのだろうか。そこが俺からすれば訳がわからなかったので、取り敢えず三角をつけたというところだ。

 

「きっとミッシェルはミッシェルだから哺乳類じゃないんじゃないかな」

 

「でもそれだとヒトだって、はぐみもこころんも、薫くんも、みんな違うヒトだよね?」

 

「ダメだついていけない」

 

「分かった、次行くぞ次。次が最後の、英語だな。英語で問題があったのは、はぐみ!」

 

「え、はぐみの答えたので何かあったっけ?」

 

「大有りなんだよな……。これ」

 

次の英文を日本語にしなさい。(5点×2問)

  ✔︎

⑴ When I was a high school student, I formed a band.

ウェン アイ ワズ ア ハイ スクール スチューデント、アイ フォームド ア バンド。

 

「え、日本語にしろって言葉の意味知ってる?」

 

「え、日本語にしてるよ?」

 

「発音の日本語表記書けなんて言ってないからな?! 日本語に直した時の意味を書くに決まってるだろ?!」

 

「そうだったんだ……」

 

悲壮感漂うはぐみの気付きの声。まさか俺とて、日本語にしなさいと言われて発音を無理やり日本語にして書いて出してくるやつがいるとは想定していなかったのである。

 

「ふふ、個性があって素晴らしい答えじゃないか」

 

「ええ! 笑顔になれたならそれでいいじゃない!」

 

「薫くん、こころん……!」

 

「……美しい友情だな」

 

「なんか毒されてきてますよ、雄緋さん」

 

こうして、全てのテストの返却が終わった。3バカなどと形容されはするが、その3人はみな仲間思いで、個性豊かな者たちだと分かった。

おそらくバカが云々だとか、着ぐるみの中身と外が一致しないことの原因はもっと別のところにあるのだろう。テストをして原因がわかって解決するとか、そういう問題でもないのだ。それはきっとこの副担任の奥沢先生もよく分かってくれるはずだ。俺はそう信じている……。

 

「……これ、あたし、副担任は必要だったのかな」

 

……信じている。

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