ガールズバンドの恋する日常   作:敷き布団

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妄想捗る夏の海【彩&千聖】

「高校最後の?」

 

「うん」

 

「夏を楽しみたいから?」

 

「えぇ」

 

「海に行きたい?」

 

今日も俺の部屋は修羅場が起きている。修羅場といっても、居心地が物凄く悪いだとかそういうわけではないのだが、面倒ごとを持ち込まれているのには違いない。ただ、当の本人はそれを面倒ごとだと全く認識していないのが大きな問題であった。

 

「一緒に海に行こうよ!」

 

「イヤだ」

 

「なんで?!」

 

「俺が行きたくないから」

 

「高校最後の夏なんだよ?!」

 

「俺の高校生活はもう終わった」

 

音を立てて膝から崩れ落ちたのは丸山彩。高校最後の夏とやらをエンジョイしたいお年頃なのだろう。だが、非常に残念なことに俺に高校最後の夏なんてものは存在しない。俺の高校生活はとうに終わりを告げているのである。

 

「というか高校最後の夏なんだろ?」

 

「そうだよ!! 高校最後なんだよ!」

 

「だったらパスパレのみんなとか、花女の3年生で行くなりすればいいんじゃ?」

 

「……確かに」

 

論破される。それで納得できるのであれば、なぜここまで赴いたのか小一時間問い詰めたいぐらいだが、生憎俺も暇ではない。

 

「ちょっといいかしら?」

 

だが、そんなチョロいことで有名な彩を制して、話をぶった切ってきたのは白鷺千聖。簡単に言いくるめられてしまった彩の姿を見て、ため息をつきながら割って入ろうとしたらしい。

 

「高校最後の夏なの」

 

「そうだな」

 

「だからこそ雄緋がいなければいけないのよ?」

 

「意味がわかりません」

 

「そう、なら分からなくても結構」

 

そんな強引な、とは思ったけれども、いつにも増して今日の千聖はどこか怖い。彩がポンコツすぎた分、余計に怖い気がする。額にも青筋が浮かんでいるような気がするし、ここは変な口答えは得策ではなさそうだ。

 

「行きたいのは山々なんだけどな」

 

「そう、ならいいじゃない」

 

「やらなきゃいけないことが……」

 

「やらなきゃいけないことって?」

 

「……あっ、CiRCLEの売り上げ帳簿の記入とか」

 

「まりなさんに仕事を押し付けるなと伝えておくわね?」

 

「あっ……」

 

千聖が合図を出すと、彩が後ろで熱心にスマホを覗き込んでいる。多分その様子から見るにメッセージを誰かしらに送っているんだろうが、その相手は間違いなく……。

 

「どうしたの? やることがあるんじゃなかったの?」

 

「他にも、えーっと……えー……」

 

「あるのよね? あったなら言ってくれたら全て根回ししてあげるわよ?」

 

「……すみませんありません」

 

「よろしい」

 

ダメだ勝ち目がない。最初から逃げ道なるものは存在しないらしく、CiRCLEのことは完全に握り潰され、大学のことだって今は夏休み期間中だから秒でバレてしまう。何を言っても言い負かされる自信しかない。ここら辺が諦めどころなのかもしれない。

 

「やることが何もないのなら?」

 

「私たちと一緒に海で?」

 

「……いっぱい遊ばさせていただければ嬉しく思います」

 

「やったぁ! やったよ千聖ちゃん!」

 

「ふふっ、これで準備は整ったわね」

 

目の前でハイタッチをする2人。まぁそこまで喜んでもらえるなら、行く意味もあると言ったものだろう。そんな暢気なことを考えていると、彩が懐から徐に何かを取り出した。それをよくみると。

 

「え、鍵? 車の?」

 

「うん! 雄緋くんの車の鍵だよ!」

 

「なんで持ってんの?」

 

「えっ、みんな持ってるよね?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「彩ちゃん、お口チャック」

 

「ん!」

 

……そういうことか察した。そういえば俺にプライベートなるものはなかったことを思い出した。でも車のキーに関してはそんなに大量に存在したら、勝手に動かされたりするのが心配だけれども。

 

「それじゃあ、ドライブで連れて行ってもらってもいいかしら?」

 

「拒否権はないからな」

 

「千聖ちゃん、もう水着になっても大丈夫かな?」

 

「ダメだ、車の中でもちゃんと服を着ろ」

 

「彩ちゃん、その調子よ?」

 

「やめろ、運転中に気が散るから!!」

 

マイペースなのか、わざと揶揄って楽しんでいるかは知らないが、思った以上にテンションが高い2人に困りながらも、俺は足として車を出すのだった。

 

 

 

 

 

そういうわけで唐突に始まった海までのドライブ。助手席がどうのと揉めたが、一旦2人ともを後部座席に無理矢理押し込み、車内でも構わずに肌を曝け出す2人に手を焼きながらも遂に海岸線まで到着した。

車窓から見えるビーチには、夏も終わりに近づいているとはいえ、まだまだ日差しの強い砂浜に、疎らながらも人が集まっている。その多くは仕事を休みにして来ているであろう家族連れだとかだ。夏も盛りを少しすぎた一方で、ビーチは活気にあふれていた。

 

「うわぁ、カモメが飛んでる! 海だよ!!」

 

「彩ちゃん、分かったから乗り出しちゃダメよ? 危ないから」

 

「とても楽しそうだけどお二人さん」

 

「ん? どうかしたの?」

 

子どもさながらにはしゃぎ、車の窓から身を乗り出す勢いだった彩が座席に座り直し、キョトンとした顔を浮かべる。既に海に気持ちが向いたところで水を差すようで本当に申し訳ない気持ちなのだが、この2人は大切な視点を忘れているような気がしてならない。

人の多い砂浜。そこに現れるアイドル2人。もうお分かりだろう。

 

「どうやってこのビーチで遊ぶんだ? 絶対に人集り出来て遊びどころじゃなくなると思うんだけど?」

 

「あっ……」

 

「彩も千聖も、絶対目立つんだからすぐにバレるって」

 

「ど、どうしよう?!」

 

「慌てないで彩ちゃん。彩ちゃんのファンクラブの会員規則、彩ちゃんが変装をしていない時はプライベートだから、話しかけるべからずってね?」

 

そんな規則あるのか、なんて思ったが、それはあくまでファンクラブの会員にしか意味がない気がする。それでも彩は納得がいったようで胸を撫で下ろしている。

 

「でも千聖のファンとかはどうするんだ?」

 

「眼光で追い返そうかしら」

 

「あー確かに、怖いもんな」

 

「あら?」

 

これだよこれ。

 

そんな脅迫の目線に耐えながら車を駐車場らしきところに停める。ビーチは横に相当広がっているらしく、人が疎らだったのはそういう事情もありそうだ。取り敢えずは人に囲まれたりすることは無さそうだが、それでも気が気ではない。

 

「車には偶然たまたまパラソルとかシートも積んであったから、手分けして運びましょうか」

 

「なんで積んであるんだろうな」

 

「え? さっき私と千聖ちゃモゴモゴ……」

 

おしゃべりな彩は黙らされ、一式をビーチまで運び出す。いつの間にやら車に積まれていた荷物をビーチに下ろす。砂浜に敷くシートも、日陰を作るパラソルも差すと、そこは完全に海水浴場にありふれたワンシーンと様変わりしていた。

 

「わぁ、海に来たみたい!」

 

「海に来ているのよ、彩ちゃん」

 

「それじゃあ早速……」

 

「お披露目ね」

 

「お披露目?」

 

そういうと2人は自ら服に手をかけて、ラッシュガードのような羽織を取り、履いていたスカートも脱ぎ下ろした。そこにはパステルカラーの水着を着こなすアイドルが2人。

 

「どうかな? ……千聖ちゃんとどっちが似合ってる?」

 

「待って待って圧力がすごいから」

 

「慌てないで彩ちゃん。勝負は後でと言っていたでしょう?」

 

緊張をしているのか、日焼けをしているだけなのか、顔を真っ赤にさせた彩に詰め寄られるが、幸いにもそれを抑えてくれる千聖。

 

「2人とも似合ってると思うぞ、ビキニで明るさを出してる彩もパレオでミステリアスな感じの千聖も」

 

「えっへへ……そうかなぁ……」

 

「ありがとう、もっと舐め回すような目で見ていいのよ?」

 

「見ません。えっ、俺の目からそんな下心みたいなの溢れ出てる?」

 

「いえ? 出てないから言っているのよ?」

 

いくら肌成分多めだとは言え、知り合いの女子高校生に発情し出したら愈々終わりである。その辺りの尊厳は流石に保ちたい。

 

「えっと、それじゃあ」

 

「彩ちゃん、先手はずるいわよ?」

 

どう言うわけか手を掴まれ、パラソルの下へと引き込まれる。そしてどういうわけか、2人が水着を脱ぎ出そうとしていたから慌てて止めた。

 

「ちょっと待って何してんの?!」

 

「え、綺麗に焼きたいからサンオイル塗らないとと思って!」

 

「びっくりした……」

 

「まだこれからよ、ねえ?」

 

「え?」

 

砂の上に敷いたシートに2人並んでうつ伏せで寝転がっている。既に紐を解いた水着は力なくシートに落ち、辛うじて2人の胸部を隠している程度。そこで向けられる2人からの意味深な目線。

 

「言わなくても分かるでしょう?」

 

「雄緋くんに……塗ってもらいたいな、なんて」

 

「……は?」

 

「雄緋に体のあちこちを愛を込めて撫でられながらドロドロのオイルを塗りたくられたいのって言ってるのよ?」

 

「変な言い方しなくていいんだよ! 2人で塗り合えばそれでいいだろ?!」

 

否応なく変な妄想が掻き立てられてしまうような物言いに反駁するが、千聖からはクスクスと、まるで小悪魔のような笑いが聴こえてくる。俺の反応を見て揶揄っているわけだ。

 

「雄緋は女の子同士の方が好みなのかしら?」

 

「性癖みたいな話してないから!」

 

「わ、私千聖ちゃんとなら……」

 

「彩ちゃん……、当初の目的を見失ってるわね……。あ、彩ちゃんに塗ってあげるのはいいけれど、私は雄緋に塗ってもらうわね、何があろうと絶対に」

 

「そんな固い意思持たなくていいからさ……」

 

俺は諦めて、ご丁寧に開封状態で置かれたサンオイルの容器を手に取る。液体をたらりと手に取ると少し冷たい。

何も変なことはしていないと頭の中では理解しているが、なんだか後ろめたいことをしている気がしてならない。

 

「最初は彩ちゃんからでいいわよ?」

 

「雄緋くん……その、ゆっくり……ね?」

 

「ゆっくりな、ゆっくり……」

 

覚悟を決めて、掌にたっぷり溜めておいたのをまずは彩の肩周りに触れる。しかしその瞬間。

 

「ひゃっ、んっ……」

 

「ちょ、変な声出すなって」

 

「だって冷たくて……あっ……」

 

「彩ちゃんの声、官能的ね」

 

「千聖も変な実況しなくていいから! もう一気に塗るから!」

 

変な気を起こさないうちに塗ろうと、一気に背中の広い範囲を塗ってしまう。彩はやはり変な声を出してしまっているが、やがて馴染んできたのか、反応しないようになってきた。その頃には既に手足辺りも塗り終わっていた。

 

「それじゃ……」

 

「おい、なぜ仰向けになろうとしてるんだ」

 

「だって胸も塗らなきゃ」

 

「……自分でできるよな?」

 

「……日焼けしやすいんだよ?」

 

「……見てもいいんだよ?」

 

俺は瞬時に反対を向く。ここから先はあれだ、多分大人の領域とか言うやつなんだろう。少なくともこの2人よりはよっぽど先の人生を歩んでいるつもりだが、それでも公にしていい人生とダメな人生がある。これは後者なんだ。そう言い聞かせて俺は後ろ手でサンオイルの容器を投げる。

 

「2人でやれ、な?」

 

「むぅ……」

 

「仕方ないわ。雄緋はチキンだもの」

 

「知ってるけど……」

 

「おい、聞こえてるからな」

 

「文句があるなら振り向いてみたら? ま、どのみち塗り直すことにはなるでしょうから、その時は諦めて隅々まで塗るのを覚悟することね」

 

「くっそ……」

 

俺はそう遠くない将来の自らの犠牲と引き換えに、健全さを貫くことを決めた。まぁどうせその時が来たらまたのらりくらり逃げようとかいう、かなり楽観的な思考回路で。

それからものの10分強で声がかかりサンオイルは塗り終わったらしい。俺が抵抗しながらやるよりも明らかに早そうに見えるし、最初から俺がやる意味がなかったと問い詰めても、浪漫なんじゃないのかどうたらとか言われ、散々な目にあった俺は諦めてビーチに繰り出すことにする。

 

「って、どうした2人とも」

 

2人を誘って砂浜の方に出ようとしたのはいいものの、2人がパラソルの下から出てこずに慌てて急ブレーキをかける。

 

「海に来たんだぞ? 遊ばないのか? ビーチバレーとかでもいいし」

 

「……ボールとか持ってくるの忘れちゃった」

 

「あっ、でもまぁ泳ぐとか」

 

「私、日に焼けたくないのよね」

 

「なんで海来たの? というかサンオイル塗った意味は?」

 

「野暮よ、聞かないでもそれぐらい分かってくれないかしら」

 

「えぇ……」

 

せっかく海にまでわざわざ来たと言うのに、全ての時間をこのパラソルの下で過ごすだなんて、海の楽しさの半分も味わえていないような気がする。

 

「でもそれじゃあ何して過ごすんだよ?」

 

「わ、私たちの水着姿の鑑賞会……とか?」

 

「鑑賞会って言い方……」

 

「でも、雄緋なら好きなだけ見ていいわよ? 恥ずかしがらないでも」

 

「そんなこと言われても」

 

「私たちのじゃ……物足りないかな?」

 

「まさか、その可愛いと思うし……魅力的だとも思うし、ただその」

 

「確かにじっと見られていると思うと恥ずかしいわね」

 

どうあがいたって目を逸らしてしまう。単純に恥ずかしいし、それ以上に十分過ぎるほど魅力的であると思ってしまうが故に見られない。自分のトリガーを外すと言えば聞こえはいいものの、それは憚られる。何より、ずっとジロジロ見られるのだなんて気分が良いものではないだろうし、ただの知り合いに過ぎない俺にとなれば尚のことだ。

 

「うん……見られたくはないな」

 

「そうだろ?」

 

「もしもビーチの方で遊んだりしたら見られちゃうし……、やっぱりパラソルの下で雄緋くんと一緒がいいな……」

 

「それは同感よ、彩ちゃん。だからやっぱり、ここで穏やかな休日を過ごしましょう?」

 

「まぁ見られたくはないよな……。目立つのも嫌だろうし」

 

「……そうではないけれど、はぁ」

 

意味もわからないままため息をつかれたが、そうとなればレジャーに来ながら疲れを癒すこともできそうだ。幸い熱気を冷やしてくれそうな冷たい飲み物も拵えていたので、ここでゆっくりするのも一興だろう。ここから見える、波の押し寄せる風景も味がある。

 

「そうだ! じゃあ夏にしたいことの話とかみんなでしようよ!」

 

「夏にしたいこと、ね。海ももっと行きたいけれど、他にも花火だとかいっぱいやりたいことはあるわね」

 

「夏祭りとかも楽しそうだな」

 

「浴衣着て遊びたいなぁ……。雄緋くんも勿論来てくれるよね?」

 

「都合が合えばな?」

 

「大丈夫よ? 雄緋の予定は全て調整できるから」

 

「本当に?!」

 

「あぁ、謎の圧力がかかるらしい」

 

どういうわけだか、俺に入れられていた予定は簡単に消えてしまうことが判明したからな。あぁ、儚い、そんな声が海の向こうから聞こえてくる気がする。海の向こうは太陽の光の乱反射で煌めいている。眺めているととにかくもの思いに耽りたくなって仕方がない。

 

「えっとえっと、じゃあ夏祭りと、花火と、で、で、デー……トと」

 

「良いわね。雄緋とデー……、2人で……夜まで……。一杯甘えて……ふふっ」

 

「あ! 夏休みの宿題もみんなで……」

 

「宿題は自分でやるのよ? というよりまだ終わっていないの?」

 

「え? 宿題? ……彩」

 

俺よりも芸能人である彼女たちの方がやはり忙しいだろうか。忙しい身であるからこそ、今日のような、お出かけでリフレッシュするというのも大事なのだろう。そんなリフレッシュの一助となれれば俺は嬉しい。

まだまだ終わりの見えなそうな、高校最後の夏に作る思い出を語り合う2人を見ながら、少々センチメンタルな気分にも浸る1日となるのだった。

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