流石にここまで開くのは問題なので、もう少し頻度を上げたいと思います。投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
それでは本編をどうぞ!
「「Trick or Treat!」」
「今日何日か知ってる?」
俺の快適すぎる朝が、今日も今日とてどこかへ飛んでいってしまった。ここのところ急に外も冷え込むようになり、木々も赤く染まり始めるような秋の朝。当然こんな寒い日の朝というのは誰だって布団が恋しいものだ。だってそうだろう?
そんな布団との戯れの邪魔をされ、泣く泣くインターホンのために這い出て、表に出たらこれである。魔女のコスプレをしたりみとジャック・オー・ランタンのコスプレに身を包む七深が現れたのだ。
「雄緋さん、Trick or Treatです」
きっとハロウィンという行事はみんな知っているだろう。10月31日に、近所の子どもたちがお化けに仮装し、家々を回ってお菓子を集めるというあれである。俺も小さい頃は前日ぐらいに布っきれを買って、切り抜いたりした衣装を纏い、バスケット片手にお菓子を貰いにいったものだ。そんな懐かしさも思い起こしたのだが、問題は今日の日付である。
「お菓子くれないとイタズラしますよ〜」
「ハロウィンってそこそこ前に終わったよね?」
そう、ハロウィンの時期はとっくのとうに終わりを迎え、むしろ世間ではクリスマス色のムードにすらなりつつあるというのだ。煌びやかなショップの並ぶ通りを歩いても、近所の商店街を歩いても、徐々に年末の足音が聞こえるようになっている。そんな最中に現れた魔女とかぼちゃというわけで、俺の頭の中としては、はてなで一杯というわけである。
「ハロウィンが終わったからと言って仮装をしてはいけないってわけじゃないですよね?」
「早朝からその格好で外歩いてたんだとしたら、下手したら通報ものだと思うけどな……」
暗い色の外套を羽織り、恐らく仮装以外で見ることは少ないだろうとんがった帽子や、頭部にかぼちゃをくり抜いたような何かを被ったやつ。ハロウィンのイベント会場ならまだしも、早朝の住宅街にいたら間違いなく事案発生である。
その中身が誰だったとしても、かぼちゃを被ってる状態じゃ誰なのかなんてぱっと見じゃ分からないし。玄関の扉を開けてすぐ叫ばなかった俺の胆力を褒めて欲しいぐらいだ。
「雄緋さん、その……部屋にだけでも入れて欲しいです……」
「ん? どうしたりみ」
「……寒い」
「へ? 寒いってぶふっ?!」
申し訳程度に肩あたりに掛けられていた外套なのかマントなのかよくわからない黒い布を、りみが自ら取る。すると、りみの纏っていた洋服はオフショル、風通りの良さそうなほどに素肌が見えている腕周り。凡そ11月とかいう冬の時期で外を出歩く格好ではない。しかも朝、このクソ寒い時間にである。
「素肌見えすぎだろ! そりゃ寒いって!!」
「というわけでお邪魔します〜」
「あぁ……部屋の中あったかぁ……」
さっきまでは玄関のドアのところで通せんぼするみたいに出迎えていた俺だったが、ガタガタと震えそうになっているりみと、割と余裕そうな七深も部屋に迎え入れることにする。こんな朝早くからの来訪で追い返そうとも思ったが、流石にこの状態でもう一度外に追いやるのは鬼畜の所業かと思い出来なかったのだ。
とりあえずは凍えそうになっているりみのために暖房のスイッチを入れ、まだ少しだけ寝ぼけた頭を覚まそうと眠気覚ましのコーヒーを入れる準備に取り掛かった。……いやまぁ、朝から衝撃的なものを見たおかげで眠気はかなり飛んだんだけども。
「それでも寒い……」
「やっぱりその格好で外に出るのは無理があったんですって」
「暖房もそんなすぐには効かないからな、取り敢えずなんか上着羽織っとけ。掛かってるやつ使って良いから」
ポッドで沸かしたお湯を三つのマグカップに注ぎながら部屋の方に振り向いた。……と、俺の言葉よりも先にりみは上着の存在に気がついて、羽織ろうとはしていたらしい。
「めっちゃええ匂い……」
「あー、私も寒いので借りて良いですか?」
「ダメ」
生憎俺とて自分の上着が嗅覚的な欲望を満たすためのものとして使われることは望んでいない。凍えて震え上がっているりみに貸すのならまだしも、明らかに別用途を求める七深に貸す、もとい与える上着はないというわけである。
りみに比べたら、七深はよっぽど暖かそうな格好をしている。少なくとも素肌が見えてるなんてことはないし、たった今ローテーブルの上に出した、湯気の立ち上るココアでも十分だろう。
「ほら、熱いから火傷するなよ。何杯でも飲んでいいから」
「わぁ、ありがとうございます」
震える指先でマグカップの取っ手に触れようとしたりみは、予想以上に熱くなっていたマグに触れたようですぐに手を離した。だが、すぐに口元まで恐る恐る運ぶと、生き返ると言わんばかりに美味しそうに飲み干している。多分、雪中遭難をした人間が辛うじて温かい食事を得るときはこんな反応なんだろう。
「あ〜、……天国」
「そりゃあ良かった。次はもう少し常識的な格好で来てくれ」
「りみりん先輩、ここまでくる道中でも寒そうにしてましたもんね」
だったら止めろよ、と言いたくなるぐらいだが、そういう常人の判断が出来ていればこうはなっていない。ガールズバンドの彼女たちに普通のことを求めても、皮肉なことに無意味ということらしい。
「なんでその格好で来ようってなったんだ?」
「そういえば雄緋さんにハロウィンの仮装で迫ったことってなかったなと思ったんです」
「思い立った辺りが既におかしいけど」
「迫られたくないんですか〜?」
「そういうことじゃなくてだな」
いの一番に仮装して誰かに迫ろう! ってなるのがまぁ色々と問題だし、おまけにこの格好でまだ目覚めてもない街中を練り歩いて男の家に来ようとするのが最高にクレイジーである。俺とて多少誘惑をされたりすれば靡くかもしれないが、流石にこの状況で誘惑に負けてしまうほどではない。というより先に良心の呵責が働いてしまう。
朝、突然に鳴ったインターホンに呼ばれて扉を開いて、凍え死にそうな知り合いのか弱い女子高生が佇んでいて、どうしてそういう発想に至るだろうか。そうなるやつは別の扉を開いているに違いない。
「そういうわけでりみりん先輩と相談して、迫るついでに脅かして、一緒にのんびりお菓子を食べようかなって」
「何がそういうわけだが分かんないけども。こんな朝っぱらから無謀な仮装に臨んだと」
「朝5時前から着替えてって準備したんですよ?」
「んー、無駄な努力」
そんな時間ともなれば街は確実に真っ暗だろうし、その時間に家に集まってとなればもはや危ないぐらいの時間帯ですらある。
超早起きもしなければいけないだろうし、彼女たちの努力を認めてあげたくもなるが、俺がもしもその場にいれば、間違いなくそんな馬鹿な真似はやめておけと叱りつけてることだろう。
「うーん、可愛くなかったんですかね……」
「そんなことないよ、七深ちゃん。七深ちゃんのカボチャの衣装、丸っこいところが可愛いもん」
「だな。可愛いとは思うぞ、普段とは違う突飛さも相まって」
「ということは普通じゃないのかなぁ……」
一体全体、『可愛い』なのか『普通であること』なのか、成功の基準はどっちなのかと聞きたいぐらいだが、折角頑張ってくれたことだし、彼女たちが工夫、努力したところぐらいは褒めてあげたいものだ。
見たところでは、魔女のコスプレも、カボチャを象ったような衣装とそのくり抜きのカボチャも、当人たちの手が加わった様子はある。それがどの程度なのかは分からずとも、おそらくではあるが市販品ではないのだろう。
「にしてもちゃんとコスプレのクオリティもあるって、凄い頑張ったんだな」
「それはもう、私たちといえばやっぱりホラー好きですから。細部までこだわり抜いてるんですよ? 例えばこのカボチャだったら、電気もない暗い空間なら……」
「ん? 電気消して……ってうわ」
こだわり抜いたと豪語することを証明しようとしているらしい七深は立ち上がり、扉のすぐそばにある電気のスイッチに手をかける。カチッという音と共にまだ太陽が差し込もうとしていない部屋の中は暗くなり、僅かにスイッチがオンの家電製品から漏れる小さなランプぐらいが部屋の中で存在を主張していた、はずだった。
七深の声がする方をジッと見ていると、あらまびっくり、七深が深く被っていたジャック・オー・ランタンのくり抜かれた目のあたりから紫の光が。妖しく光る紫の光はどこか不気味で、しかもそんな不気味な雰囲気を助長するかのように、不定期に光源が揺れ動いて、暗く光る紫色の輪っかの形も変化している。まるで、人魂が風に靡いて揺れるようなホラー要素がご丁寧にも出されているのである。本当にどうやってこんな仕掛けを作っているのだろうか。
「これ、凄いですよね」
「マジでどうやってんだ?」
「くり抜いた部分の内側に小さい紫のランプをいくつか仕込んであるんです」
「はぁ……」
「七深ちゃん、何日も前から頑張って準備してたもんね」
もう一度部屋の電気をつけると、怪しげに光っていた紫の光は目立たないようにすうっと溶けて消えていった。スイッチのカチッという音に合わせて頭のカボチャを脱ぎ捨てた七深からそれを受け取り、裏を見る。電池とそれに繋がれたコード、紐に下げられた小さなランプは布か何かに包まれている。これを被った人間が少し動けば紐自体が揺れるおかげでこのランプまで揺れるということらしい。
個人で作る分ということを考えれば、凝りすぎなぐらいに作り上げられたジャック・オー・ランタンだったらしい。先程までランプがついていたせいでほんのり温かいカボチャを部屋の隅に戻しながら、感心の大きな息を漏らした。
「まぁ、目元の近くで光るので、予想以上に眩しくてこれを被ったらただでさえ狭い視界がほぼゼロになるんですけどね」
「とんでもない欠陥カボチャだな……」
中々に目に悪そうな仕様だったらしい。まぁあんなライトを目の近くで複数照らすなんて、色がどうこうとかの話を抜きにして目には悪影響しかなさそうである。
「でもりみりん先輩の仮装とか小道具も凄く凝ってて可愛いですよね」
「え、そうかなぁ……。えへへ」
「まぁ、可愛さってのは勿論そうだよな。って、小道具?」
俺が疑問を口にすると、小さく声を漏らしたりみが体の横に置いていた杖らしき何かを手に取る。それは少々形が不規則だが、30〜40cmぐらいの棒の先にプラスチックか何かの球体がひっついている。いかにも、という感じで、多分あれも電池か何かで光りそうな雰囲気を醸し出している。
「魔法使いの杖みたいだな」
「そうなんですよね」
「しかもこうして振ると……」
「……おぉ」
りみが杖の上の方にあったボタンか何かを押すと、その球体の先は小さく光る。そしてその杖を少し高く掲げたりみは素早く1回それを横に振った。すると、ただ弱々しく白い光を放つだけだったその杖の放つ光の色は急に緑や、赤みたいな暖色の色も混ざるようになっていた。
振るたびにその色はパッとすぐに切り替わるようで、そのクオリティの高さはもはや、子ども向けのホビーを製造するような会社が出す、戦隊モノのおもちゃとしてよくある何かに匹敵しそうだ。少なくとも一回こっきりの仮装に持ってくる技術力ではない。
「すごいな、これを自分で作ったのか?」
「そうですよ。しかもこうやって光らせている間とか、そのちょっと後ぐらいはほんのり温かいので……」
「温かいので?」
「こうやって首の後ろからマントの中に差し入れて、冷えた肌を温めたりとか」
「あっ、だめだもう孫の手にしか見えない」
少しだけ真っ直ぐに伸びた、ほんの少し太めの木の棒を握りしめたりみは首の後ろから背中の方にその棒を差し入れている。完全に孫の手を使って背中をかいている人の図である。先程まで子ども心をくすぐるような光るおもちゃの魔法使いの杖だったはずが、一瞬にして孫の手の少し便利なやつ、ぐらいにしか見えなくなってしまった。
かといって必死になって仮装のために用意した小道具を孫の手と一蹴してしまったのは少々言い過ぎだったかもしれない。自分の失言を反省して、2人の努力を讃えようとした。
「ま、まぁとにかく2人ともがこの仮装に全力を出してくれたのはそうなんだな、お疲れ様。何かして欲しいことはあるか?」
そこまで言って、冒頭でハロウィンのあの決め台詞を言われたことを思い出した。そういえば一応はお菓子をあげれば良いのだろうか。迫る云々はダメとして、お菓子をあげるぐらいならば、この努力に見合うお菓子と言わずともあげられるだろう。俺は重い腰を上げてキッチンの方に行こうとすると、後ろから手を引かれて振り返った。
「「Trick or Trickで!!」」
イタズラをされたのだった。