変化の連鎖は、10年前のあの日から   作:七人の母

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色々読んでたら触発されたので投稿してみました。
二次創作自体初なので色々拙いかもですが、読んでいただければ幸いです。

時系列は原作スタートの丁度1年前です。


原作開始前
アルムとライザ


「―さて、とりあえず親父に頼まれた分は終わったな」

 

ある晴れた日の朝、クーケン島にある島外れの農場で俺、アルムレウス・レーゼンは農作物を収穫する親父の手伝いをしていた。俺達が担当する区画の規模は、少なくとも午前中に1人でやれなんて言い出したら周りから総スカンを食らうであろうくらいには大きい。

元々家族の手伝いは日頃の感謝もかねてするべきものだと考えているのもあるが、40も半ばを過ぎてそろそろ腰の調子が怪しくなってきたらしい親父に、この規模の畑を1人で作業をさせる、というのはかなり不安だという事情もある。

 

「エル、そっちはどうだ?」

「こっちも終わったよー、アルム兄」

 

同じく収穫の手伝いをしていた妹、エルに声をかける。フルネームはエルマリア・レーゼン。濃い目の水色のショートヘアに大きめのぱっちりとした眼、11歳という年齢相応の幼い顔立ちと小柄さをしている。ちょっとお転婆なところもあるが家族想いで要領が良い。家の手伝いもお使いから農作業まで自主的にやるので、周りの大人からも評判がいい。そのおかげでお使いでもちょっとだけ値段をまけて貰えたり、余ったお釣りをちゃんと母さんに確認を取ったうえで自分の小遣いにしていたりする。まあ、自慢の妹である。ちなみに近所に住んでいるシュタウトさん家のミオおばさん曰く「うちの娘にももっと見習ってほしい」だそうだ。

…俺の名前について「物語の重要な敵役にいそう」なんて言い出されたときは、流石にちょっとだけムッときたが。溜めた小遣いで最近嵌っている騎士道物語系の本を買い集めているせいか、そういう考えが偶に浮かんでくるらしい。因みにその時何か言い返そうと思ったが、妹は敵どころかヒロインのような名前な気がしたのでやめた。

 

「そうか、なら…親父ー、そっちは大丈夫か―?」

「ああ、心配はいらん。終わってるぞ」

「なら良かった。最近母さんが心配してたからな。腰を庇うような動きが多くなってきたってな」

「気を付けてよお父さん。ぎっくり腰はシャレにならないっておじいちゃんたちみんな言ってたし」

「解っている。…いい腰巻とかあればいいんだが」

 

そしてこの全方位から腰の心配をされているのが俺達の親父、ウェイン・レーゼン。黒っぽい藍色のちょっとツンツン気味な短髪、少し皴があるものの精悍な顔つきに、190cm以上の長身を持つ。普段は穏やかで、子供たちには優しいおじさんとして人気があるが、農業には一家言あり、弟子が結構いる。…そこは普通先生と生徒とかじゃないのか?と思わなくもないが、指導するときは結構厳しかったらしく、師匠と弟子、といった方が表現としてしっくりくる状態だったそうだ。

因みに一番弟子とされているのがカールさん。ミオおばさんの旦那さんである。

 

「…よし、では帰るか」

「はーい」

「ああ。…ん?」

 

帰り際、ふと横を見てみると普段農場で見かけない人物がいた。さっき言ったカールさんと話している…ライザリン・シュタウト、愛称はライザ。白い帽子と黒いリボンを身に着けた、栗色の髪の少女。カールさんとミオおばさんの娘である。外の世界に大きな興味を持ち、面白いことを探して日々色々画策している、自称何の特徴も無い普通の女の子である。…エルはこの前、「あんなにばいーんとしてて特徴が無いとか…」と言っていたが、まあノーコメントで。

そもそも、個人的には見た目を抜きにしても特徴が無いとは言い難いと思っている。この島であれほど外に興味がある人間はほとんどいないし、屋根裏部屋を改造して秘密基地なんて作るし、いきなり魔法を使いだすし。魔法に関しては、なんとなく思い付きでやった「炎出ろ」で本当に出した俺も人の事は言えないが。

…ついでに言うと、俺の初恋の相手でもある。理由は…まあ、笑顔が眩しかった、とだけ。

しかし、農業に興味が無く、何かと理由を付けて逃げていたライザがなぜここにいるのか?疑問に思った俺は話しかけてみることにした。

 

「おはようライザ。珍しいな、農場にいるなんて」

「え?あ、アルム。おはよー」

「おはようアルム君。そっちはもう終わったのかい?」

「ええ。…で、ライザが遂に農業にやる気を出したんですか?」

「…えーっと」

 

そう聞いたら、ライザは顔を少し赤くして目をそらした。…なにか恥ずかしい理由でもあるのか?だとしたら聞かない方が良かっただろうか。

 

「ああ、なんでもアルム君とエルちゃんが真面目に手伝っているのを見て、自分もそうした方がいいんじゃないかと思ったそうだよ」

「お父さん!?」

「嘘は言ってないだろう?」

「いや、うん、無いけど!」

 

…意外と普通の理由だった。まあ、確かに切っ掛けとなった本人に聞かれるのは少し恥ずかしい理由だろうが…今まであの手この手でサボってきたあのライザが、それだけでいきなり農業の手伝いをしようなんて思うか?というのが正直な感想である。俺は勿論、エルも手伝い始めたのは去年のちょうど今頃だし、それを今まで知らなかったということは無いだろう。何故、今更になって?

まあ、そこを突っ込んで急にへそを曲げられても困るので、追及はしないが。

 

「きっかけが何であれ、ライザが農業を手伝ってくれるのは凄く嬉しいよ。そしてここからどんどん農業を興味を持ち、自分が畑の一部になる感覚を好きになってもらって、この農地を継いでくれれば…」

「いや、そこまでは流石にちょっと…」

「…カールさんって、農業のお話しするときなんか凄いよね」

「ああ…言いようのない圧が滲み出ているというか」

「…正直、ここまでになるとは思っていなかった」

 

カールさんの農業キ…じゃない、農業大好きっぷりは本当に凄まじい。元々好きではあったらしいが、親父の指導を受けてから土の声がどうとか畑の表情がどうとか言い出すレベルでのめりこむようになったそうだ。…どういう教え方をしたのか聞きたかったが、ここまでになっているのがカールさんくらいの為、たぶんこの人にそういう素質があっただけなんだろう。いやどういう素質だ。

というか、ライザが農業から逃げてた理由、この農業トークの圧力も何割かは占めていると思う。興味を持ってもらうなら初歩の初歩から一歩ずつの方がいいのに、カールさんはいきなりこれぞ真髄!ってレベルの感覚の話をしてくるのである。いきなり言われても訳が解らないだろうし、押しが強すぎて色々引けてしまうだろう。勿論、ライザ自身の性格とか感覚とか、そっちの割合の方が大きいだろうが。

 

「っと、これ以上仕事の邪魔するのも悪いですし、俺たちはこれで」

「うん。これからライザと仲良くしてくれると嬉しいよ」

「お父さん!…あーもう、またねアルム!エルちゃん!」

「うん!お昼過ぎたら一緒に遊ぼーね!」

「言われるまでもないだろうが、しっかりやれよ。カール」

 

そうして、ライザたちと別れ家に戻った。さて、昼からは何をするか。エルはライザと遊ぶつもりみたいだし…レントの奴の特訓にでも付き合うか?それともタオの本を読み解くための資料探し?いや、島の周りを改めて探索してみるのもいいだろうか。もしかしたら新たな発見とか変化があるかもしれないしな。

こういう島だからこそ、変化に出会うのが面白い。自分から見つけるのはなお面白い。それでも満足できなくなったら…島の外にでも、出てみようか。

 

 

 

 

「…ふー」

 

アルムたちと別れたあたしは、心を落ち着かせるように息を吐いた。…正直、周りからはバレバレな態度じゃなかったかな。もしそうだったらすごく恥ずかしい。特にアルムには今知られたくない。まだあたし覚悟できてない。

 

「どうしたんだい?既にかなり疲れてるみたいだけど」

「何割かはお父さんのせいだよ…いきなりバラさなくたっていいじゃん」

「ん、肝心なところは伏せたつもりだったけど…」

「そうだけどさー…」

 

肝心なところ、っていうのは…まあ、なんというか、うん。気が付いたら特定の異性…あたしの場合、男の子のことを考えるようになってたり、声が聞こえたり顔が見れるだけで嬉しくなったり、でも覚悟ができるまでは知られたくないってなるアレのこと。…要するに、恋である。

あたしは、あのアルムレウス・レーゼンという男の子に恋をしている。年はあたしの1つ上。後ろで束ねた藍色の長髪、レントのお父さんのザムエルさんと同じくらいの身長に、細く見えるけど結構鍛えられてる体。顔は…男前って言えばいいかな。鼻は少し高めで、眉毛は濃い目で目つきもちょっと鋭い。普段は落ち着いていて家族想いで、だけど時々あたしたちの想像を遥かに超えることをしてくる、彼に。

 

 

 

 

 

切っ掛けは10年近く前、あたしがレントとタオ、そして島の水源を押さえてるブルネン家の息子、ボオスの4人で水没区画を探検していた時に、あたしが足を滑らせて湖に落ちてしまった時の事だ。あたしは辛うじてレントに引っ掛かり、そのままレントがあたしを、タオがレントを引っ張って流されないように3人で踏ん張っていたんだけど、そこに偶々近くにいて、あたしが落ちる音を聞いたアルムが駆け付けた。アルムは自分が流れに飲まれないギリギリまで湖に近づいて、あたしの体を持ち上げるように引っ張り上げて助けてくれた。

…これだけなら、まだ惚れるところまではいかなかったと思う。助けてくれたっていうなら、レントとタオもいたし。肝心なのはここからだ。何とか救出されたあたしは、湖に落ちて体が冷えたことと、溺れそうになった恐怖で頭の中がぐちゃぐちゃになってた。多分、顔にもすごく出てたと思う。そんなあたしを、アルムは、ぎゅっと抱きしめた。そして、優しい声で言ってくれた。

 

『だいじょうぶ。もう、だいじょうぶだよ』

 

その言葉にあたしは安心しきって、緊張の糸が切れて、わんわん泣いた。怖かった、死んじゃうかと思ったって、全部吐き出した。その間も、アルムはあたしを抱きしめながら、優しく背中をトントン、と叩き続けてくれた。その時は、自覚は無かったけど。そこから、あの優しさと温かさから。あたしの恋は始まった。

…因みにこの後、アガーテ姉さんを呼んできてくれてたボオスに、逃げたと勘違いしてひどい言葉を投げかけそうになっちゃったけど、アルムが『ボオス?アガーテさんをよんできてくれてたの?ありがとう』って言って落ち着かせてくれたのでボオスにも素直にありがとうって言えた。多分アルムがいなかったら、あそこで「なんで逃げたの」とか言って、あたしたちの関係は凄く拗れてたと思う。そういう意味でも、助けて貰った。

 

 

 

 

 

そして、なんでその恋心が農業を手伝う理由になるのかというと…アルムとエルちゃんは、農業の手伝いをやるべきこととして捉えてる。で、あたしはそれを一切やってない。…つまり、あの2人からすると、あたしはやるべきこともせず好き勝手やってるだけの女の子に見えてしまうんじゃないかっていう危機感からだ。…見えてしまうっていうか、実際そうなんだけど。

そしてあたしは思った。そんなことで嫌われる可能性があるなら、大人しく農業手伝った方がいい、と。…まあ、あの2人がそれであたしを嫌うことは無いと思うけど、いきなり不安になっちゃったんだから仕方ない。絶対ヤダ。もし嫌われたら最悪引きこもるかもしれない。それくらいショック受ける、確実に。

…因みにこの理由、いきなり手伝う気になったことをお母さんに不審がられたのでアルムに惚れてるところから全部話した。感想は「前々から思ってたけど、やっぱりアンタにはあの子しかいないみたいだね」だった。…うぅ、お母さんにもバレてた。

 

「それじゃ、そろそろ始めようか」

「うん。…て、あ。鎌ってここにあるっけ?」

「あるよ。予備はやりすぎなくらい用意しておけ、っていつもウェインさんに言われているしね」

「…そうかもだけど、流石にそれは多すぎない?」

 

その心構え自体は農業以外にも役立ちそうだけど…一家で20本はいらないでしょ。やっぱりこう、農業の事になるとなんかタガが外れるなあ。

そこまでになるってことは、やり続けてると意外と楽しくなるのかな。アルムは「つまらないとは言わないが、カールさんは流石に何かが違う」なんて言ってたから、結局お父さんがちょっと特殊だってことで終わりそうだけど。

まあ、そんなわけで心機一転、家の手伝いもそこそこ頑張ってみることにしたわけだけど…

 

「さーて、じゃあ今までサボってた分張り切っていきますか!」

「そこまでやる気になってくれているなら、フルーツの品質の見極め方も教えようかな。今日は午後から遊ぶ約束をしたみたいだし、明日からになるけど」

「…うえ、そういうのはちょっと自信ないなあ」

 

っていうか流石に教えるにはまだ早くないかな、それ?あたしがやる気出したの、昨日の今日なんだけど。まあ何かの役に立ちそうだし、ちゃんと聞いておこう。

…後々、具体的には来年の夏ごろから、むしろあたしの人生に一番重要なスキルになるなんて、この時のあたしには想像なんて欠片もつかなかったけど。

 

まあそんな感じで、変わり映えのしない島の日常で、ちょっとだけあたしが変わった。そんなお話だ。

…いつか、アルムとの関係も変えられるといいなあ。もっと良くて、深い関係に。




本文中で書けなかったあれこれについて

Q,何でアルムは偶々ライザを助けられるところにいたの?
A,アルムも1人で探検してました。この一件以前はそこまで関りも無かったので、一緒に探検するほど仲良くなかったです。

Q,何でアルムはライザを落ち着かせることができたの?
A,当時既にエルが産まれており、妹に何かあったときの為にあやし方の勉強をしていました。にしたって、当時7歳くらいの子供がそうそうできることじゃないでしょうが。

Q,ボオスとキロはどうなるのこれ?ライザたちと拗れてないとこの2人あのタイミングで出会わなくない?
A,そこまで書くかは決めてないです。ただ、原作にあったイベントでライザが男に惚れるタイミングってここぐらいしかなくね?ってなったので思いっきり改変しました。
3/19追記 どうにかしました。


読んでいただきありがとうございます。良ければ感想、指摘等お願いいたします。
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