今回はアルム視点→レント視点です。
2/7 ラスト部分を追記修正及びそれに伴うQ&Aの内容変更。
「成程…それは、少し不味いかもしれん」
「不味い…ですか」
火山の探索をした次の日、アトリエでライザが調合をしている間に昨日の異変についてアンペルさんに相談した。すると、アンペルさんは少し険しい顔になってその事態を「不味い」と評した。…なんとなく不味いんじゃないかとは俺達も思ってはいたが、どう不味いのだろうか。
「島の漁師たちが最近不漁続きだと嘆いていただろう。あの時、私はその原因の予想としてどういった可能性を挙げた?」
「外海から魔物が…って話だったよな。…まさか、あの平原にヤバい魔物が出てきたってことか?」
「今日お父さんからも聞いたよ。旅商人が見慣れない大きな魔物を見たらしいから気を付けろって」
「でも、そんなの見かけなかったよ」
「偶々視界に入らなかったか、それともその場から去った直後だったかだろうな」
「…昨日の俺達は、運が良かったってことになるのか」
平原にとんでもない魔物が現れて、元からいた魔物がそいつに恐れをなしたから逃げたか一時的に隠れていた…というのが、アンペルさんの言いたい可能性らしい。
「その魔物が、アンペルさん達が言う【奴ら】である可能性は?」
「あり得なくはないだろうが…クラウディア、その見慣れない大きな魔物の特徴は聞いたか?」
「えっと…赤くて、翼があったって。あの魔物とは違うと思う」
「なんだそりゃ、まるで竜みてえだな。…ん、竜?」
「…村のわらべ歌にあったよね。「南に下る旅人は、決して街道を外れるな。西は悪魔の野が迫り、東の城には竜が住む」って」
「…東の城って、流星の古城の事だよね?」
…話が繋がってしまった気がするな。
「つまり、あの時平原には古城に住む竜がいたことになる…?」
「そのわらべ歌が、真実を歌っているとするならばな」
「…マジで遭遇しなくて良かったな。かなり疲労してたしよ、俺達」
「なんなら、あの時古城に踏み込んでたら、縄張りを荒らす侵入者とか思われて…」
「…本当に、運が良かったんだね、私達」
こういう危険も、冒険には付き物だとは分かっていたが…竜が唐突に現れるかもしれないというのは、流石に勘弁してほしいところだ。
「クラウディア、その旅商人に被害は?」
「えっと、特に無かったって」
「なら、とりあえずその魔物に関しては下手に刺激しないようにするべきだな。あの時みたいに、気づかれずに姿を確認できるなら最上だが」
これで人を襲いだしたら…討伐隊なんかが組まれるかもな。その場合、アガーテさん経由で俺達にも声がかかるかもしれない。
「で、万が一の時の為にあたしの錬金術があるのよ!」
そう言いながらライザがこっちに来た。調合が終わったようだ。
「随分と自信満々だな?」
「勿論よ、皆が信じてくれてるからね」
成程、確かにそれは自信に繋がるな。
「じゃあまずはコレ、【ノルデンブランド】!狙った敵を無数の氷の短剣で攻撃する道具よ!」
「竜相手なら、翼に当てれば飛行能力を封じられるか…?」
「何かえげつないこと言ってる…」
「実際それくらいやらなきゃ勝てねえだろ」
「じゃあ、アルム君が使った方が良いかもね。他のみんなじゃ近づくの難しそうだし」
あの技はまだ完成してないからな、もし使うなら相手の動きを封じてからにしたい。
「次にコレ、【プニゼリー】!おいしいだけじゃなくて色々と調子が良くなるわよ!」
「わ、可愛い!」
「わざわざぷにに似せなくても良かったんじゃねえか…?」
「調子が良くなる、か…よし、どうだタオ」
「何か力が湧いてくるような…って、何で僕で試すのさ」
お前が一番贔屓目無しの意見をくれそうだからだ。
「次はまとめて!【エナジーペンダント】、【グナーデリング】、【雷嵐の耳飾り】!不思議な力を持ったアクセサリーよ!」
「どれどれ…お、このペンダント、着けるだけで調子が良くなった気がするな」
「この指輪もだ。多分、実際に力が強くなっていると思う」
「この耳飾り、魔力を感じるわ。守ってくれるような…」
「自分の役割に合ったものを選ぼう。僕はペンダントと耳飾りかな?」
それなら、俺はペンダントとリングだろうか。
「更にこれ、採取用のハンマー!これで鉱石が採りやすくなるわ!」
「こ、これ僕が普段使ってるハンマーより重いよ」
「私じゃ、持ち上げるだけで精いっぱいだよ…」
「ライザは結構軽々と持ってきてたけどな…」
「…あの細腕のどこに、あんな力があるんだか」
杖で魔物を殴りに行っている時点で今更ではあるがな…
「で、後は武器!…と言いたいところなんだけど、全員分は流石に足りなかったわ。だから今日集めるわよ!」
「え、大丈夫なの?」
「隠れながら慎重に行くぞ。途中で見つけたら即撤退…アイツを見つけた時と同じ要領でいいだろう」
「…それでも見つかっちゃったら?」
「…俺とアルムで殿やりながら撤退するしかねえな」
そこまで近づかなくても、姿は確認できると思うが…いや、こっちの想定より視野が広いかもしれないしな。
「お前達ならそうそう判断を間違えることは無いと思うが、命を落とすような真似だけはするなよ。…お前達には、帰りを待っている者たちがいるんだからな」
…そう言うリラさんが、どこか悲しんでいるように見えた。…まさかリラさんには、もう…
「よーし、じゃあ火山まで慎重に、行くぞー!」
「慎重に行こうとしてる奴のテンションじゃねえよ…」
…行こうか。勝手を許してもらっている分だけ、心配させ過ぎないように、慎重に。
「さて、今日は必要な分だけ採取して引き上げるわよ」
昨日よりも魔物が少なく、旅商人が見たらしい魔物みたいな奴もいなかった平原を駆け抜けて火山にたどり着いたら、ライザがそんなことを言い出した。珍しいな、何時ものコイツなら時間かバッグがいっぱいになるまで探索しようとするのによ。
「さっきはああは言ったけど、とんでもない魔物がいるかもしれないって言うなら、やっぱり逃げられるだけの余力は残しといたほうが良いからね。せめて武器を新調するまではスルーよ」
「ああ、そうしよう」
「あ、それともう一個。タオ」
「何?」
「…悪いけど、あんたの武器だけもっと強化するための素材がまだ見つかってないって言うか、だから…」
「ああ、そういうことならいいよ。多分僕が一番武器の必要性低いだろうし」
「見つかり次第強化してあげるわよ。丁度リビルドって言う便利な技も教えてもらったからね」
余裕があればその素材も探しに行きたいとこだが…今は安全重視だからな。そこまでの余裕は無さそうだ。
「さてと、狙いは彗星岩よ!あの小屋があるところから降りたあたりの鉱床で採れるわ!」
「あそこか。採る役は誰がやる?」
「俺がやる。皆はその間の警戒頼むぜ」
さて、新武器の為に張り切っていくか!
「よーし、これで足りるわね!」
「お、マジか。どんな武器になるか楽しみだぜ」
よし、今日はこれで引き上げだな。戦闘もアクセサリーとノルデンブランドのお陰か昨日よりだいぶ楽だったし、日が上にある内に終わったぜ。2時くらいか?
…ただ戦闘中、結構衝撃的な出来事があったな。クラウディアがフルートをブーメランみたいに投げて魔物を攻撃するっていう、かなり自分の目を疑いたくなる光景だった。アルムすら「いや何やってんだお前」みたいな表情してたな…
それについてクラウディアは、「魔力でフルートを強化して、音に乗せた魔力を直接ぶつけるから結構強い技になったと思う」とか言ってたが、聞きたいことはそっちじゃねえよ。
「さて、後は例の魔物と遭遇するか否かだな」
「そうなんだよね…うう、何も起こらないでほしいなあ」
「その上で見つけるのが一番いいんだよね。…どこかに隠れて、来るのを待ったりできないかな」
「流石にそれは危ないんじゃねえか?その魔物だけが脅威ってわけじゃねえんだ」
隠れた魔物に後ろから襲われたりとかされかねねえからな。そういう危ない橋は渡らねえに限るぜ。
「だが、もし見かけたらその時は隠れてやり過ごした方がいいだろうな。下手に動く方が見つかる危険性は高い」
「それじゃ、コソコソと帰るわよ!」
だから今からコソコソするやつのテンションじゃねえって、それ。
「…それっぽいの、いる?」
「…今は居なさそうだ」
辺りに気を配りながら、小声で状況確認をしつつゆっくりとアトリエに戻る俺達。今のところヤバそうなのは居ないが…あの時と同じ、殆ど魔物を見かけない。何かありそうなもんだが…
「きゅ、急に上から来たりしないよね…」
「こ、怖いこと言わないで…」
「…居ねえから心配すんな」
翼があるって話だから、上の警戒も緩めちゃいけねえな。突然突っ込んでこられたら対処できるかどうか分からねえし。
「…あと半分だ。気を抜かずに行くぞ」
アルムがそう言った直後…
ガァァァァァァァァァァァァッ!!
「「「「「ッ!!?」」」」」
なんだこりゃ、雄たけびか!?いや、咆哮!?
「レント!」
「ああ!」
俺たち全員が隠れられそうなところを探す。…あそこか、ちょっと遠いな…なら!
「すまん、ライザ!」
「うえっ!?」
「クラウディア、タオ、悪い!」
「きゃっ!」「うわっ!」
アルムがライザを、俺がクラウディアとタオを抱えて物陰に急いで隠れる。…見つかってねえよな?っていうか、咆哮の主はどこにいる!?
「…アレだ」
アルムが指差したのは、廃墟みてえになってる遺跡の上。そこにいたのは…
「…オイオイ、本物の竜じゃねえか…!」
「ほ、本当にいたんだ…!」
翼を羽ばたかせ、我が物顔で空を飛ぶ、赤い竜だった。
「なんで、あんなところに?」
「解らねえよ。…原因を探ろうにも、今は近づけねえな」
「…何かを探しているようにも見えるな」
言われてみりゃ、周囲をキョロキョロと見渡してるようにも見えるな。…竜は暫くそれを続けてたが、突然高度を上げた。そして…
ガァァァァァァァァァァァァッ!!
もう一度咆哮し、東…古城の方まで飛び去って行った。…見つからずに済んだのか?
「…去ったみたいだな。どうする、奴が留まっていた場所の近くを見ていくか?」
「それくらいはした方が良さそうだな」
「…誰か、襲われてたりしないよね」
「う…もしそうだったら…」
それで誰かの命が奪われていたとしたら…最悪だな。
「今なら魔物もいない、急いで調査するぞ」
「う、うん」
「誰も襲われてませんように…」
「これ、お父さん達に言ったらなんて思われるだろう…」
「…流石に怒られはしねえと思うから、大丈夫だと思うぜ?まず信じてもらえるかだけどよ」
それならそれで、信じてもらうまで説明するだけなんだがな。
特に被害にあった人がいなかったことに安堵しながら、俺達はアトリエに戻って、錬金する前にアンペルさん達に事の顛末を話した。すると「早く島の大人たちに話すべきだろうな」と言われたから、急いで島に戻ってアガーテ姉さんを始めとした大人たちにこの事を話した。
流石に最初は疑われたが、俺達があまりに真剣な様子だったから信じてくれたみてえだ。で、当然この話はモリッツさんの耳にも届くんだが…
「街道にそんな魔物が出るとなると人の行き来に悪影響が出るな。…よし、早急に討伐隊を編成するぞ!」
判断が早えな。まあ、アガーテさんとルベルトさんがこの話を信じてるってのもあるだろうけどよ。が、そこに待ったをかけたのは村の古老だ。
「古城の竜は敬うべき島の守護獣じゃぞ!?それを討伐などと!」
…アイツ守護獣だったのか?初めて聞いたんだが。まあこのまま平行線で話が終わりそうだから、一旦アトリエに戻るか。…なんて思っていたんだが。
「人的被害が出る可能性を見過ごすつもりですかな?」
「おぬしが外から人を呼びこまなければいいだけじゃろう!そもそも、あの旅商人や錬金術士とやらのような怪しい輩がこの島をうろつくから、この頃村は災い続きなのじゃ!」
…あっ。
「…」
「お、抑えろよアルム?ここでお前が切れても何にもなんねえぞ?」
「解ってる。…だがこの怒り、何にぶつけたらいいと思う?」
「いやんなこと言われても…って炎が漏れてるぞオイ!」
「今ならあの竜も一撃で打ち抜けそうだ…そうだ、ちょっと行ってくる」
「ライザ早く来てくれぇぇぇぇッ!」
この後、駆け付けたライザが「わー!アルム止まって!ストップストップ!」って言いながら真正面から思いっきり抱き着いたらなんとか鎮静化した。身内を貶されたりすると沸点が超低くなるのは知ってたが、今回はマジでやばかったな…。因みに竜は、モリッツさんが討伐する方向で押し切った。
ところでライザは人前でアルムに抱き着いたことになるが、大丈夫なのかアイツ?
「――ってことがあってね。何とか止まってくれて助かったわ…」
「うん、それは良かったけど…」
「何、クラウディア?」
「…アルム君を止める為に抱き着いたんだよね?モリッツさん達が見てるところで」
「…あっ!?」
後日、そんな会話があったらしい。ライザは顔を真っ赤にして突っ伏したそうだ。やっぱ大丈夫じゃなかったな…
魔物がいなくなったのは、明らかな上位存在が出てきたのでみんなビビッて隠れたからでした。誰もいなかったのに竜が平原にいた理由は次話かその次辺りで明かします。独自解釈になりますが。
Q,アクセサリーの編成はどうなったの?
A,エナジーペンダントは全員選択しました。後は前衛組がリング、後衛組が耳飾りです。
Q,災い続きだっけ?
A,竜の件が無くても、地震とか結構あったみたいなので、このセリフは変えるところなさそうだな、と。
Q,真正面から思いっきり抱き着いたらアルムに色々当たったんでは?
A,勿論当たりました。鎮静化した理由の9割くらいがそれです。因みにレントはまさか抱き着くとは思ってなかった模様。
ここまで読んでいただき、有難うございました。