今回は終始アルム視点です。
3/28 誤字報告があったので修正
「おうアルム、脚はどうだ?」
「まだかなり痛むし、力が入れにくいな。…そういうお前はどうなんだレント。平気な顔して出歩いているが、安静にしろと言われたのはお前もだろう」
竜を討伐して、島に戻った俺達がまずやったことはエドワードさんに診察してもらうことだった。その結果、レントは軽い火傷と全身打撲で1日、俺は右足の筋肉痛と捻挫で2,3日安静にした方が良い、とのことだった。骨折など、大事には至ってないのは良かったが…
今は居間で椅子に座っているが、ぷにまくらを置いた別の椅子を持ってきてそこに右脚を乗せている。
「駄目だよレントさん、じっとしててって言われたんでしょ?」
「そうなんだけどよ、正直動かない方が体に悪い気がしてくるっつーか」
「そうかもしれないがな…俺が我慢しているのに、同じく安静を命じられたお前が平気で出歩いてるところを見るのは少し腹が立つ」
「おいコラ言い方」
こっちは言われるまでもなく碌に動けないというのに…
「アルムー、脚は大丈夫ー?…って、レント!?アンタも安静にしろって言われてるんでしょ!なんで出歩いてるのよ!」
「うげ、こんな早く来るのかよ」
「ライザお姉ちゃんが叱る時って、ミオおばさんに似てる気がする」
「親子だからな、似るだろう。ついでに、熱中したら止まらないところはカールさん譲りだろうな」
「え、錬金術やってる時のあたし、あそこまで行ってる?」
「心底楽しそうに笑ってるからな」
「ああ、イタズラを計画してた時の何倍も良い笑顔だと思うぜ」
「…そうかな。そういうことなら嬉しいな」
退屈を紛らわす為のものと本気で打ち込めるものでは、感情のこもり方が違うだろうからな。後者の方がより良い表情をするのは当たり前か。…イタズラを計画している時の笑顔は、俺は見たことが無いんだが。
「それでお姉ちゃん、手に持ってるそれは何?」
「あ、これ?軟膏よ。これならアルムの脚にも効くってエドワードさんからのお墨付きも貰ったの」
「そうか。有難うな」
「どういたしまして。…それじゃアルム、脚出して」
「ああ…ん?」
…脚出して?今?ちょっと待てそれはつまり…
「…自分で塗れるんだが」
「何言ってんのよ。できるだけ動かないに越したことはないでしょ?」
「いや、だがな」
「エルちゃんお願い」
「はい裾めくるよー」
「待て行動が早い」
そこでエルに頼むのは卑怯だろうライザ!力づくで止めることもやめろと強く言うこともできないだろうが!
「ありがとエルちゃん。さあ、早速塗っていくわよー」
「…ああもう、頼むからできるだけ早く終わらせてくれ」
抵抗しても無駄だな、これは…しかし、何かよく解らない恥ずかしさがあるぞこれ。
「アルム、脚はどうだ…って、何をやってるんだライザは」
「げ」
「…レント?お前も安静にしろと言われている筈だろう?」
「ほら、また怒られてる」
「…解ったよ、こっからは家で大人しくしとく」
「最初からそうしろ。…全く、こういうところはまだ変わらんな」
アガーテさんも見舞いに来てくれたようだ。そして怒られてレントは帰った。…この状況をこの人に見られるの、かなり恥ずかしいんだが。
「で、この状況は?」
「ライザお姉ちゃんがアルム兄の脚にお薬塗ってるの」
「ほう、随分と甲斐甲斐しいじゃないか」
「か…!もう、揶揄わないでよ姉さん!」
「ふふ、顔が赤いぞ?」
「…こっちも恥ずかしいので、止めていただけると有難いんですが」
「すまんすまん。お前達を見ているとつい、な」
ああもう、早く終わってくれライザ…
「…ん、良し!これで終わり!じゃあ、レントみたいに出歩かずじっとしてなさいよ!」
「ああ、そうするよ。どの道、この脚じゃ碌に出歩けないがな」
「いや、アルムなら夜こっそりケンケンしてでも散歩しそうだなって」
「…俺にどんなイメージを持ってるんだ?」
「あー」
「エル?」
何だその「アルム兄ならやりかねない」みたいな顔は。やらないぞ?いや、発想としてなかったわけじゃないが。
「ただいまー。あら、ライザちゃんとアガーテちゃん!アルムのお見舞いに来てくれたの?」
「ええ。ライザは薬まで塗りに来たそうで」
「あら、そうなの?ありがとうねライザちゃん!」
「い、いえいえ、それほどでも」
買い物から母さんが返って来た。…俺の脚の事を聞いたときは「頑張ったのね。でもやっぱり無茶はしてほしくなかったわ」と言われた。ああするのが一番確実だったとはいえ…流石に堪えるな、これは。因みにエルには「明日と明後日はわたしがアルム兄を見張る!」と言われ、父さんと母さんがエルに小遣いアップを約束していた。…大人しくせざるを得ないだろう、それは。
「アルム、本当にこんないい子逃しちゃ駄目よ?」
「ルーテリアさん!?」
「ライザがいるところで言うことじゃないだろ…!」
「もどかしいからな、お前らは」
「むーん、どうしたらもっと2人とも素直になるかな」
揃いも揃って余計なお世話だ、全く…!
「じゃ、じゃあまた午後にも来るから!またねアルム!」
「…ああ、またな」
ライザは慌てて逃げるように帰っていった。…ああもう、安静にしている筈なのに疲れた。
「どうした?疲れているみたいだが」
「アガーテさん、解ってて言ってるでしょう…」
「さあ、何の事やら。…アルムの脚の無事も確認できたし、アタシも帰るとするよ」
「また来てね、アガーテちゃん」
「今度一緒に遊んでねー!」
アガーテさんも帰っていった。…ちょっと揶揄いに来ただけじゃないか、あの人…
「ふむ、思ったより元気そうだな。なによりだ」
「ええ。皆が見舞いに来てくれるので、退屈もしていません」
午後になってから、アンペルさんとリラさんが見舞いに来てくれた。…しかし、アンペルさん。
「…その妙にたくさんある菓子類は一体?」
「見舞いの品だが?」
「こうは言っているが、7割ほどは自分用だぞ」
…有難いことは有難いから、素直に受け取るが。その量から7割ってかなり多いぞ。
「…何日分ですか?」
「そうだな…3日分といったところか」
「今の俺が言うのもなんですけど、かなり体に悪いのでは…」
「何度も言っているんだがな、改める気配がまるで無い」
「大変だね、リラさん…」
アンペルさんも、天然の気があるリラさんに苦労させられている側ではあるが。
「お邪魔します。…って、アンペルさんとリラさん?」
「邪魔するぞ。…何だこの菓子の量は」
続いて、タオとボオスが来た。2人同時は予想外だったな。偶然か、それとも何かのついでだろうか?
「お前にこいつを返すのを忘れていたからな。見舞いついでに持ってきたぞ」
「それは…竜眼か。また珍しいものを手に入れたな」
「竜の頭は吹き飛んだのに、これは残ったんだよね」
「一説によると、全てを見通す神秘の力を持っているとされる代物だ」
「そんなに凄いものなんだ…」
とんでもないものを手に入れてしまっていたみたいだな。まあ、後々ライザの錬金術の素材として活用することになるだろうが。
「ところでアルム、1つ相談したいことがあるんだが」
「何だ?」
「…親父がいつもの3割増しくらいで煩いんだが、どうすればいいと思う」
「…恐らく親バカを発揮しているやつだな、それは。慣れるしかないと思うぞ」
竜を討伐して以来…と言っても昨日の話だが。モリッツさんが今まで以上にボオスを自慢するようになったらしく、結果ボオスがそれに辟易しているという事態になっているそうだ。
因みにボオスが言質を取って俺達に協力を要請した件については「全くの予想外だったが、ボオスがそう判断したのならそれが正解だったのだろう」とのこと。やっぱり偉そうすぎるだけでそれなりに柔軟だよなあの人。
「アルムー、また来たわよー」
「アルム君、お見舞いに来たよ」
午前中の約束通りライザが来た。クラウディアも一緒のようだ。
「ちょっとは痛みは引いた?」
「少しはな。だがこの分だと、言われた通り後2日ほどは大人しくしていた方が良さそうだ」
「そうしときなさい。無茶して怪我が悪化しました、なんて誰も望んでないからね」
レントみたいに、お前やアガーテさんに追加で怒られたくないしな。
「それで、クラウディア。人が多いけど…大丈夫?」
「うん。少しでも早く治ってくれる方が嬉しいから」
「…成程、そういうことか。しかし、こういう怪我にも効くのか?」
「問題は無いだろう。あれは癒しの魔力だ、怪我や負荷の類には余程の物でなければ効果は出る」
「この冒険が終わるころには、僕たち全員クラウディアに頭が上がらなくなってそうだね…」
「クラウディアさんって、そんなに凄いんだ」
「ああ、少し同行しただけの俺でも解るぞ。攻撃しながら全体のサポートをするなんて、尋常じゃない」
「ここまでの逸材だというのは正直予想外だったな。いるかいないかで旅の快適さが大きく変わるレベルだ」
…褒めちぎられて恥ずかしいのか、クラウディアは顔を真っ赤にしている。だがまあ、妥当な評価なんだよな、これは。最初からサポートだけでも有難かったのに、最近はそれをしながら攻撃にも本格的に参加できるようになったからな。
「え、えっと、それじゃあ、吹くね?」
「思いっきりやっちゃいなさい!…一緒に軟膏塗ったら効果上がったりしないかな」
「もう一回?」
「何も言われない内から捲るなエル。…というか、そんなに頻繁に塗って良いものなのか?」
「臭いくらいしか問題は無いぞ」
「じゃあ良いわね!」
「うわ生き生きとしてる」
「一体何を見せられてるんだ俺達は…」
「新手のイチャイチャ?」
何処でそんな言葉覚えたエル。というか、またあんな恥ずかしい思いしなきゃいけないのか…とりあえず、どうにかしてクラウディアの演奏に集中しよう…
「凄く賑やかだったみたいね、アルム」
「大分恥ずかしい思いもしたけどな…」
夕方になって皆帰ってから、井戸端会議兼買い物から母さんが帰って来た。…結局、クラウディアの演奏には集中しきれなかった。痛みがそれなりに引いたので、効果はあったが。
「それだけお前は周りから大事に思われているということだ。それを裏切るような真似はするなよ」
「解ってるよ。…とりあえず、もう少し負荷を減らせるように技を改良しないとな」
「お姉ちゃんに頼めないかな、それ?あの靴も錬金術で作ってるんでしょ?」
「負荷を減らせる造りにしてもらう、か?1つの手ではあるが、そこまで頼りすぎるのもな…」
「あの子なら寧ろ、喜んでやると思うが」
「そうよ。遠慮せず頼っちゃいなさい?」
遠慮、か。最近はあまりしているつもりは無かったんだが…そうだな。結局、俺の方で改良案が思いつかない可能性もある。なら、ライザを頼る方が確実か。
「…明日、そうしてみるよ」
「ふふ、じゃあ話が纏まったところで、今から晩御飯の準備をするわよ」
「今日はわたしが手伝う!」
「あらエル、有難う」
「エルの料理か。どれほど上達したか、楽しみだ」
「…いつもなら俺も手伝えるのに、少し歯痒いな」
とりあえず今日の所はしっかり食べてしっかり休んで早く脚を治そう。またみんなで冒険に行くために、それと家の手伝いをする為に。
おまけ 午前中、軟膏を塗っている時のライザの内心
(よーし、塗るぞー。ただでさえ痛んでるところだから、力を入れずに優しくね。…あたしもこうやって、アルムに何かしてあげられるようになったんだなぁ)
(…こうしてみると思ってたより太くないって言うか。いや十分太いし逞しいんだけど、あんな凄い蹴りを打てるほどには見えないって言うか。…あ、でもやっぱり触ってみるとがっしりしてる)
(…なんかドキドキ言ってる。もしかしてちょっと恥ずかしがってる?男の子でもこういうのやっぱり恥ずかしいんだ)
(もし逆の立場だったら…駄目だ想像しちゃダメだ。アルムに脚触られるとかもうそれだけで沸騰しそう)
(うー、薬塗ってるだけなのにあたしまで恥ずかしくなってきた…早く終わらせよう)
――この辺で甲斐甲斐しいと言われる
(姉さん!そういうこと言うのやめて!余計意識しちゃうから!お嫁さんどころかまだ恋人同士ですらないから!)
(うー、もー!また何か言われる前にさっさと塗り終わっちゃおう!)
また自分から外堀を埋めに来たライザであった。まあ既に堀どころか開門しているも同然ですが。
Q,ライザってアルムにそんなイメージ持ってたの?
A,少なくとも家族とクラウディア以外の友人は全員このイメージで一致します。クラウディアはまだ関わり始めて短いので仕方ないです。そして、それはそれとして普段は真面目な奴とも認識されてます。
ここまで読んでいただき、有難うございました。