今回はアンペル視点→アルム視点です。
「…成程、古城に住み着いた竜は、奴ら…フィルフサを倒すためにクリント王国が召喚したものだったのか」
「そうみたいです。…やはりフィルフサはあの白い奴の事だったんですね」
ライザに湖の魔物をおびき寄せる香料の調合を任せている間、アルム達が聞いてほしい話があると言って来たので聞いてみたが…まさか、【フィルフサ】の名を知っていたとはな。古城にあった石板に書いてあったそうだが、それが状況や内容からしてクリント王国製の召喚機であることはほぼ確定。同時に…
「あの古城は対フィルフサ用の城塞だった、ということだろうな。…リラ」
「ああ、アルムとレントだけでなく、全員がもう一人前以上の戦士だ。真実を話して協力を仰いだ方が良いだろう」
「真実…?」
「ああ。全てではないが…フィルフサとクリント王国について、な」
そこから私は、アルム達にフィルフサとクリント王国の関係について話した。クリント王国が滅んだ原因は、フィルフサとの戦いによる消耗によるものだということ。フィルフサは元々異界と呼ばれる場所に生息している生物だということ。クリント王国は錬金術で作った門でこの世界と別の世界を繋ぎ、そこから資源を持ち帰り繁栄したこと。その繁栄を支える為に色々な世界に門を繋げたが、その内の1つからフィルフサまで呼び込んでしまったこと。そこからあらゆるものを食い荒らされ、鎮圧こそできたものの国力を使い果たし、衰退するしか道が無くなってしまったこと。それがたったの一季節の間に起きたこと。そして…
「嘗てフィルフサ…と、クリント王国に、とある――」
「アンペル」
「…すまん、流石にこれはまだ言うには早いな」
フィルフサと、錬金術を悪用したクリント王国のせいで、異界…リラの故郷が荒廃しきってしまっていることなんて、な。まだ、こいつらには少し重すぎる。
「…そんな魔物の話、クリント王国の昔話に出てきてねえよな?」
「そんなのあったら、誰でも覚えてる筈だしね」
「門とフィルフサの事は、滅亡の寸前まで機密として隠されていたそうだ。そして、それらの情報は一切の記録を許されず、殆ど抹消されている」
「…国民にとっては、はた迷惑な話だな」
「うん…生まれた国も、住んでた家も、全部壊されて。それが全部、上の人達の国を栄えさせる行動のせいだったなんて…」
何かしたわけじゃなく、ただ上の巻き添えを食った市民たちの怒りや絶望はどれほどのものか…想像を絶するな。
「そして、その門を早急に封印し、二度とこちらにフィルフサが来れないようにすること。そして、二度と門を使わせないこと。それが私達の旅の目的だ。この森にフィルフサが出た以上、近くに必ず門がある。奴らを通せるほどに機能を保った門がな」
「…具体的には、どれくらい急ぐ必要がありますか?」
「乾季が訪れるまでに、だな」
「…乾、季?」
「奴らは極端に水気を嫌うからな。逆に言えば、それが無いなら我が物顔で世界を食い荒らす。森に出た個体は、何時からなら侵攻できるかを探るための斥候だろう」
「水気を、嫌う…も、もしかして」
錬金釜をかき混ぜていたライザが急に手を止め、何かに気づいたように声を挙げた。…ああ、クーケン島にはそんな話があったな。
「村に伝わってる【乾きの悪魔】って…フィルフサ?」
「恐らくな。少なくとも特徴は合致する」
「あ、あんなのが乾季になったら沢山出てくるなんて…みんなに話して、門を探す手伝いをしてもらった方が良いんじゃ」
「いや、駄目だ」
「え…」
気持ちは解らないでもないし、普通なら提案としては悪くは無い。が、これに関しては流石にな。
「言っただろう、二度と門を使わせないことが目的だと。アレの存在が広まるようなことがあれば、絶対に利用しようとする者が現れる。可能な限り、知る者は少ない方が良い」
「そうですか…ボオスとアガーテさんには、話したほうがいいんじゃないかと思ったんですが」
「…あの2人か」
確かに、人格的には問題は無いだろう。が、それでも「起きてしまったこと」の大きさを考えると…
「いや、やはりやめておいてくれ」
「解りました。…ただ、もしどちらかが本格的にフィルフサ絡みの何かに巻き込まれた場合は、流石に話さざるを得なくなると思います」
「…だろうな。そうなったなら仕方がない」
そうそう起きないだろうし、起きてほしくも無いがな。
「さて、これで今話せることは大方話したが…後は何か聞きたいことは?」
「それなら…ふと思ったんですが、森に出てきたあのフィルフサ。アイツはあの時以来姿を見せていませんが…」
「恐らく例の竜が倒したんだろう。元々奴はその目的で召喚されたものなんだからな」
「…成程、言われてみれば確かに」
他には…もう無さそうだな。さて、これで話は終わりだ。次にするべきは…
「ライザ、手が止まっているが例の香料は?」
「あ、それはもうできてるよ。序にタオの武器のリビルドも。今作ってたのは虫取り網」
「随分早いな。話もちゃんと聞いていたんだろう?」
「うん。でもこう、なんか意外と同時進行で出来るようになっちゃったって言うか」
「…そうか」
…本当に、とんでもない才能に出会ったものだ。
「それで、どうするんだっけ?」
「今日、正午過ぎ辺りに仕掛けるそうだ。魔物が港の外れにある海岸に「偶然」上陸したところを俺達が「錬金術を用いて」討伐する…という手筈になっている」
「…改めて聞くとこう、大人の悪いところを知っちゃった気がするなあ」
「…言うな」
畑作業を終えて、ライザの家の屋根裏部屋に居る俺とライザは、湖に入り込んだ魔物の討伐手順を確認して同時にため息を吐いた。成功すればアンペルさんの目的も果たせるだろうし、こっちもより周りをはばからず動くことができるようになる。…が、島にとっての脅威だとより思わせる為に上陸させるというのは中々に賭けというか。
因みに各々がどう動くかも事前に打ち合わせ済み。…クラウディアの「なんかすごく悪い事してる気分…」という言葉が大人2人以外に地味に突き刺さった。
「バレたらマズいんじゃないかな、これって」
「だとしても、押し通せる可能性は無くも無いが。アンペルさんが「魔物がいたという証拠をその魔物の討伐という形で一刻も早く提示して、島民を安心させたかった」とか「竜を討伐した実績がある彼らになら任せられると判断した」とか言えばな」
「…なんか、アルムもちょっと染まってる?」
「…理解が出来るだけだ」
アンペルさんなら多分こういうことを言う。思っていてもいなくても。…良い人なのにどうにも胡散臭い言動が似合ってしまうのが、なんだかな。
「まあ、準備はちゃんとしてあるし、後は時間が来るのを待つだけだね」
「そうだな。…折角だ、この時間に解読を進めよう」
「あれ、それってタオがアンペルさんに貰った本?」
「ああ。あいつ、大体もう読み方を覚えたらしいからな。一応アンペルさんに確認を取って借りている」
こういうのが後々何かに活きるかもしれないし、そうでなくとも新しい事を知れるからな。損は無い。
「まだ読み始めたばかりだから、碌に内容は解らないんだがな」
「ふーん…」
そう言いつつ、ライザが俺の隣に移動してきた。
「…読みたいのか?」
「ん-ん?」
なら何故わざわざ隣に…まあ別に構わないんだが。
「…」
「…」
「…ライザ?」
「なに?」
「…視線を感じるんだが?」
「そりゃそーよ、見てるもん」
前言撤回、少し構う。なんで本を読んでいる俺の横顔なんてわざわざ見てるんだ、なんか恥ずかしいんだが?
「…楽しいか?」
「うーん、楽しいって言うより飽きないって感じ?アルムの真剣な表情って結構新鮮だしね」
「…そうか」
確かに、戦っていない時に気を張ることは殆ど無いが…
「…」
「…」
「…集中しづらいんだが」
「頑張れ♪」
…何を言われても止める気が無さそうだと確信したので、時間が来るまで解読を進めることにした。全く、何だそのやたら良い笑顔は…
「お前達、良い所に!」
「姉さん?どうしたの?」
昼食をとってから、事前の打ち合わせ通りに噴水の近くをライザと2人で歩いていると、アガーテさんが慌てた様子で走って来た。…来たか?
「港の近くに見たことのない魔物が現れた!恐らく、お前達が以前言っていた外海からの魔物だ!」
「…!」
やはりか。出来るだけ自然に振る舞い、尚且つ迅速に行動する。…騙しているようで、というか実際騙しているから少し心が痛いが…
「アガーテさん、避難誘導は!?それと、港に上がってきそうですか!?」
「誘導は偶々いたリラさんが手伝ってくれている!港に上がってくるかは解らん!」
「なら、港に向かいます!行くぞライザ!」
「うん!」
実際は外れの海岸に向かうだろうが…いきなりそこに行くのは不自然だしな。
「アルム、ライザ!何があったの!?」
「タオ!出たわよ、外海の魔物が!」
「えっ…!」
「武器を今すぐ取ってきて、出来たらレントも呼んできてくれ!」
「わ、解ったよ!」
タオとレントはこういう演技に自信が無いらしいので、呼んでくる役と呼ばれてくる役として後で合流する。アガーテさん達との会話で出来るだけボロを出さないようにするためだ。
「お前達、来たか!」
「リラさん、魔物は!?」
「ああ、アンペルの予想通りのヤツ…いや、それよりも大きい!」
「え…!」
それでも竜より強いということは無いだろうが…速攻で沈められるか?大きい奴は大抵タフだからな。
「魔物は港に向かっていますか!?」
「まだ見える範囲に出てきただけだ、判断が出来ん!だが、奴がどう動いても対処できるように心の準備をしておけ!」
「「はい!」」
…結構演技上手いな、リラさん。
「みんな!」
「クラウディア!」
「お前も来たか」
「うん、港に大きな魔物が出たって…」
「港に上がってくるかもしれないから、いつでも行けるように準備お願いね!」
「うん、解った!」
そうして港にたどり着き、外海の魔物の姿を確認した。…確かにかなり大きいな。竜ほどではないが…
「あれが…」
「ええ、漁師達を干上がらせてた原因の魔物よ!」
「来るか…?」
「…いや、脇に逸れていくな。あっちには…」
「確か、小さな海岸が…拙い、そこから上陸してくるか!?」
「直ぐにそっちに向かいます!」
図らずもアガーテさんのお陰で、自然と外れの海岸に向かう理由が出来た。本来ならそのままリラさんが続ける予定だったが…これでより怪しまれなくなるな。
「来たぞ、アルム!」
「タオ、レント!奴は外れの海岸に向かった、行くぞ!」
「おう!」「うん!」
これで全員が揃った、後は魔物を倒すだけだ。
「コイツか…確かにデケえな」
海岸に上陸(正確には砂の中だが)していた魔物を見て、レントがそう言う。確かに大きい、が…
「だけど、あの時の竜みたいな怖さは無いかな」
そう言うことだ。油断をするつもりは勿論ないが…あの竜と比べたら、こいつが脅威とは思えない。
「僕はいつどんな魔物でも怖いけどね…でも、やるしかないよね」
「さーて、折角上陸してもらったところ悪いけど…」
「さっさと終わらせるとするか」
先手必勝。最初から大盤振る舞いだ…!
「ルフトッ!」
「「フラム!」」
まず俺がルフトを、タオとクラウディアがフラムを放ち、砂ごと魔物を吹き飛ばす。
「おら、よぉッ!」
そこにレントが飛び込み、魔物を剣で全力で斬り上げる。
「あたしからも、ルフトっ!」
魔物は空中でルフトを食らい、更に体が少し浮き上がった。そこに…
「浮かされたところ悪いが…今度は、思い切り、落ちろッ!」
俺が跳びあがって、踵落としで叩き落す。そしてそのまま、追撃を仕掛ける。
「ノルデンブランドッ!」
「エクリプスジャベリン!」
四方八方から氷の刃と魔力の槍が突き刺さり、悲鳴を上げる魔物。だが、まだ終わらない!
「最後の一本!」
俺の真下に一際大きな槍が出現する。穂先は勿論魔物に向いている。
「これで、止めだッ!」
俺が魔力の槍を、炎と風を纏わせた蹴りで魔物に飛ばす。それは一直線に魔物の頭に突き刺さり、それが止めとなったのか完全に動かなくなった。…討伐、完了だ。
「よーっし、何もさせず倒せたわね!」
「なんつうか、あっけなかったな」
「そりゃ、竜と比べたらそうなるよ」
「私達も、ちゃんと強くなってるんだね」
「そうだな。さて、とりあえずどう報告しようか…」
「お前達!」
アガーテさんが走って来た。加勢しに来てくれたのだろうか?だが…
「…もう、倒したのか」
「おうよ、竜と比べたらなんてことなかったぜ」
「これが錬金術の力よ!…なーんてね」
「…はは、改めて思うよ。本当に凄いな、錬金術というのは」
「俺達もそう思ってますよ、常日頃から」
少し前までの俺達なら、竜はおろかこいつでも、今とは逆の結果しか生み出せなかっただろう相手だからな。本当に凄まじいものだ。
「後は、この魔物が不漁の原因でしたって証明できればいいんだけど…」
「そうだな…腹の中に食いたての魚が残ってないか見てみようか」
「う…その中身、想像するだけでキツそうだよ…」
「腹の中でドロドロに溶かすんだったか。確かにあまり見たくはねえな…」
「私も…ちょっと目を逸らしておくね」
「俺は少し興味があるな。アガーテさん、お願いします」
そうして切り開かれた魔物の腹から、溶け始めていた魚の死骸が大量に出てきた。…成程、食べた物は腹の中でこうなるのか。確かに理由が無かったらあまり見たいものでは無いな。
兎に角これで、コイツが不漁の原因であるという証拠は出てきた。漁師さん達も納得してくれるだろう。
「これで何度目か分からないが…お手柄だな。お前達」
…普段なら素直に喜べるところなんだが、今回は事情が事情だけに本当に少し心が痛い。しかも、この後いろんな人たちから色々言われるだろうからな…今だけは、褒め言葉が少し憂鬱だ。
多分ボロを出してはいない、はず。
Q,森に出てきたフィルフサって竜が倒したの?
A,原作では特に何も言われていない筈ですが、状況的に急にいなくなる理由ってこれしかなくないか?と思いました。
ここまで読んでいただき、有難うございました。
9/26 アンペルたちの事情説明部分に加筆修正