坑道から入り江に、そして異界突入。今回はアンペル視点→リラ視点です。
「何、あの坑道の先に遺跡が?」
「は、はい…」
アルムがいつもの面子とランバーを連れて、朝早くからアトリエに駆け込んできた。何事かと話を聞いてみたら、無断で外に出たランバーをボオスが連れ戻そうとしたところを魔物に襲われて、離れ離れになってしまったらしい。
しかもその場所は、水没坑道の先にある遺跡だという。あそこに奥に繋がる道は無かったはずだが…いや。
「確か、一か所あったな。道のようになっていたが、水没して通れなかった場所が」
「あそこか。だが、潮の干満程度で引くようなものでは無かったと思うが…」
「実際に道があった訳ですから、そこの考察は後で良いでしょう。それより、ボオスは魔物に襲われてどうした?」
「…遺跡の方に逃げて行った。あそこに、逃げ場とか隠れる場所とかがあればいいけど、もし無かったら…!」
…急がなければならんな。こんなに早く、こんな形での友との別離など…こいつらには知ってほしくは無い。
「アルムに叩き起こされて何事だと思ったが…眠いとか言ってらんねえな、こりゃ」
「早く助けに行こう。いくらボオスでも、1人で魔物に追われ続けるのは怖い筈だし」
「うん。それに、みんなの友達だもんね」
「よし、眠気を吹っ飛ばしてから気合い入れて行くわよみんな!」
「ああ。…っと、その前にランバー。お前達を襲った魔物はどんな奴だった?」
「えっと、嫌な雰囲気のした、白くてデカいネズミみたいな奴だった」
「それは…!」
「ああ、フィルフサだ。そして、それが遺跡の近くに現れたということは…」
恐らく、その遺跡に【門】がある。…まさか、こんなタイミングで見つけてしまうとはな。
「急ぐぞ、お前達。ボオスの事もそうだが、その魔物の事もさっさとどうにかしないと拙い」
「ああ。坊主、お前はアガーテ女史に事情を説明しに行け。そして、危険だから後を追うなとも伝えろ」
「…はい」
説教は散々食らうだろうが…事が事だ、仕方がないだろう。
「よし、準備ができ次第すぐに遺跡に向かうぞ」
「ああ。…お前達の成長も、直に見させてもらう」
「元からそのつもりは無かったとはいえ…気を抜けない理由が増えたな」
「おう。ボオスを助けて、全員無事でここに帰ってこようぜ!」
さあ、調査開始だ。
「…ここだな。確かに以前、水没していた場所だ」
坑道を進むと、水が引いて新たな道が出来ている場所があった。…フィルフサは水が苦手だから、この辺りに奴らに関係ある物は無いと無意識下に決めつけてしまっていたんだな。全く、とんだ見落としだ。
「結構広いね。あの斥候も、ここを通って来たのかな」
「そうだろうな。奴の図体でも、十分に通れる場所だ」
「じゃあ、この先にまたあのフィルフサがいるかもしれないんだよね…大丈夫かな、ボオス」
「今なら私達でも戦えるんじゃないかな。アガーテさん達もいたとは言え、竜だって倒せたんだから」
確かに、今のこいつらにリラもいるなら将軍クラスでも1~2体くらいは行けるだろうな。
「最初は潜って先に何があるか見てみようかと思っていたが…やらなくて正解だったな。かなり先が長い」
「普通はまずその発想が浮かばねえよ…」
「今後も絶対に実行はするなよ。大抵の場合自殺行為だからな」
…好奇心が強いのも考え物だな。いや、私が言えたことじゃないが。
「さて、ここにも魔物はいるが…ランバーがある程度倒したらしいから、数は少ないな」
「アイツも結構やるようになってんだな…」
「もう少し減らしても良いんじゃない?帰りはボオスも一緒なんだし」
「間に合うこと前提なんだね…僕もそうであってほしいけどさ」
「なら、駆け抜けつつ可能な限り殲滅するぞ。素材は今回は無視だ」
「は、走りながらの演奏、出来るかな…」
素材は勿体ないが、今回は致し方ないな。私は戦闘にも参加できん、我儘は言えない。
…後、それは流石に無茶だろう、クラウディア。
「ちっ、滑りやすいな…!皆、足元には気を付けろ!」
「解ってる!リラさんもいるんだ、コケるなんてダサい真似できねえよ!」
「こ、この速さで走り続けるだけでキツいのに、足元に気を付けながら戦闘までするなんて…!」
「みんな戦ってる…!うん、よし…!」
「クラウディア!?本当に走りながら演奏する気!?」
「全く、顔に似合わず無茶をするな…」
「無理はするな!私達に任せておけ!」
「ここが、遺跡があったっていう入り江か。…奥に見えるアレがそうか?」
「島からそう遠くは無いよね。何で今まで見つからなかったんだろう…」
坑道を全速力で駆け抜け、ランバーから聞いた遺跡のある入り江にたどり着いた。途中何かの祭壇らしきものがあったが…それは後だ。流石に人命より優先するべきものじゃない。
「潮の潮流が入り江の手前で巻くせいで、船が近寄れないんだろう。…しかし」
「ああ。まさかと思ったが…大当たりだ。ここの遺跡に【門】がある」
まさか、このタイミングで見つけちまうとはな…
「門って…この世界と、フィルフサがいる異界を繋いでるんだっけ?」
「…まさかと思うが、その門の中に入っていないだろうな、ボオス」
「それなら急がなきゃ。あんな魔物が沢山いるところなんて、危ないじゃすまないよ」
…そうだな。その時は早く助けてやらなきゃならん。その危なく「なってしまった」世界からな。
「なら、引き続き駆け抜けるぞ。…今回はそれなりに魔物も多い、戦闘も多くなるだろうな」
「ああ。近づいてくる奴は片っ端から薙ぎ倒してやるぜ!」
「皆が早く進めるように、走りながらでもちゃんとサポートするよ!」
「途中でボオスが見つかればそれで終わりなんだけど…」
「ランバーが言うには、遺跡の奥に行ったらしいからな。それは無いだろう」
「それなら、本当に門の中まで行ってるかもしれないってことね」
「…無事でいろよ、ボオス」
そうして、遺跡の中を進んでいく私達。すると、途中で珍しい物を見つけた。
「これは…」
採取地を自ら作り出せる、【採取地調合器】とでも言うべき古式秘具。こんなところにあるとはな…
「コイツの事は、後で話してやるか」
今はボオスの事が優先だからな。そっちが済んでからでもいいだろう。
「アンペルさん、早くー!」
「ああ、すまん」
さて、そろそろ奥に着く頃だな…どうなっていることやら。
「これが、異界に繋がる【門】…!」
「…なんてこった」
遺跡の最奥にたどり着き、そこにある門を確認したが…封印として働くはずの聖堂が、湖の浸食による崩落で機能を失い、門が起動しちまってる。
「大きな何かが彼を追った痕跡が、微かに残っているな」
「…つまり、この門の先にボオスがいるんだろうな。…皆」
「行くに決まってるわよ。ねえ?」
「うん。じゃなきゃこんなところまで来てないよ」
「今更だよね、止めろとか帰れとか言うには。ね?」
「ああ。…クラウディアもすっかり度胸がついたな。タオ以上なんじゃねえか?」
「…否定できない自分がちょっと悔しい」
こいつらなりに、覚悟を決めてるみたいだが…
「冷や水を浴びせるようなこと言って悪いが…さっきも言ったように、異界にはフィルフサがうろついてる」
「私はアンペルの護衛に専念するから、お前達の手助けはできないぞ」
「うん。自分の事は自分で、でしょ」
「こんなことに関わるなんて、ちょっと前までは考えもしてなかったよ」
「うん、私も。勿論、後悔なんて全然してないけどね」
「ふふっ…」
そう笑って、ライザが門を真っ直ぐ見据える。…まさか。
「させる暇なんて、あるわけないでしょ!」
「あ、おいっ!?」
いの一番に飛び込みやがった!それに続き…
「全く。お前らしい物言いだな、ライザ!」
「誰にも言わず、真っ先に飛び込むところもな!おいしいとこ持っていきやがって!」
「早く行って、早く助けて来よう!」
「うん!皆と一緒なら、怖くないよ!」
他の面子も次々に門の中に。ったく、あいつ等…!
「手本を見せる暇くらい、作ってくれてもいいだろうが!」
「ふふっ…では、行くか!」
リラ、その微笑ましいものを見るような笑いを止めろ!
「ここが、異界…」
「凄く不気味だね。あのフィルフサの本拠地に相応しいって言うか」
門を通った先には…こいつらにとっては初めてだが、私にとっては忘れられない光景が広がっていた。…朱く、仄暗く、澱み、乾いた…そんな光景だ。
「タオ、あまり人の故郷を悪く言うもんじゃないぞ」
「故郷?え、誰の…」
「いや、いい。私も、同じ立場ならそんな感想を漏らしていただろう」
「…まさか、ここがリラさんの?」
「ああ。…ここは、この森には、もっと違う眺めと名があった。心を温める、美しい眺めと名が…」
…取り戻せるのなら、取り戻したい。どれだけの時間がかかろうとも。
「ごめんなさい…」
「お前は悪くない、気にするな。悪いのは…」
「フィルフサ…と、クリント王国ですか?以前、そんな話をしていたような」
「確かにこの世界の現状はフィルフサの特性によるものだが…奴らは元々遠くの地に住んでいた。クリント王国が何もしなければ、今でもお互い干渉なく過ごしていただろう」
「…ってことは、殆どクリント王国のせいなんじゃねえか」
「多数の避難民を出して、自国を滅ぼしたどころか…異世界にまでこんな被害を出していたのか」
改めて列挙されると、奴らの仕出かしたことの大きさが解るな。…本当に、腹立たしいにも程がある。
「そして、リラたちの一族…オーレン族は、フィルフサとクリント王国に追われ散り散りになった。そして、リラは門を通りこっちの世界に逃れてきた」
「そして、私はアンペルと出会い、各地の門を閉じる為の旅をしている」
「そうだったんだ…あれ、ちょっと待って?」
「ライザ、どうかしたの?」
「いや、なんか…リラさんさ。昔の異界の事とか、実際に見てきたみたいな言い方してた気がして…」
「ああ、実際に見てきたし、フィルフサとクリント王国の侵攻も体験している」
「…え、じゃあリラさんって今一体いくつなんですか?」
「タオ、女性に年齢を聞くのは失礼だぞ。オーレン族は私達より長生きなだけだ」
…私にはそこまで気を遣わなくてもいいんだが。ライザとクラウディアが「うんうん」といった感じで頷いているし、あの世界だとそれが普通の事なんだろう。…というか。
「それを言ったらアンペル。お前もあの世界の基準では相当な若作りだろう」
「え、そうなの!?」
「男にも年を聞くな。無粋だろう」
「…えっと、後で秘訣とか聞いてもいいですか?」
「無いぞ」
折角聞かれているんだから答えてやっても…と言いたいところだが、コイツは多分その辺りあまり気を使いそうにないからな。実際無いんだろう。
「…長生き、か」
「どうしたの、アルム?」
「いや、もし自分の故郷…クーケン島がこうなってしまったらというのを、少し考えていた」
「…想像だけでも辛いだろう、それは」
「ええ、そして思ったんです。…リラさんは、想像とは比べ物にならない「実際に喪った悲しみ」を、ずっと背負い続けているんだな、と」
「…そうだな。なんなら、その原因も、オーレン族からしたらかなり理不尽なものだ」
「…もし、昔のこの世界を取り戻せる手段があるなら、俺達も手伝います。お世話になりましたから」
「おう、リラさんには色々教えて貰ったからな。その分の恩はちゃんと返さなきゃな」
「僕とライザはどっちかって言うとアンペルさんだけど…同じことだよね」
「そーよ。アンペルさんも、出来るならどうにかしてやりたいって思ってるだろうしね。手伝う一択よ」
「…お前達」
全く。お人好しだな、お前達は…
「リラさん、アンペルさん。私ね、クーケン島に来て、ライザ達と出会って、友達になれて…本当に良かったって思ってる。アンペルさん達は?」
「…わざわざ聞くまでも無いだろう?クラウディア」
「これまでの旅で間違いなく、最高の出会いだよ」
この出会いは、未来永劫忘れることは無いだろう。そう確信させられるくらいにはな。
「…さあ、話はここまでだ。そろそろ追跡再開とするか」
「うろついているフィルフサとの戦闘は最小限に抑えろ。基本はボオスを探すこと優先だ。行くぞ」
さあ、こいつらの為にも急ぐとしようか。
「…ん、あそこ、少し明るい…?」
「ホントだ。なんだろう…?」
可能な限りフィルフサを無視し、将軍級もやり過ごしながら進んでいくと、アルムが何かを見つけたようだ。確かに少し明るいな。それに近づくと、木が燃えているような臭いがする。…つまり。
「…焚火、か?」
「ってことは、誰かいるのか?」
「も、もしかしてボオス!?」
「解らないけど…もし違ったとしても、話が聞けるかも」
「…この異界に、私達とボオス以外に誰かいるとしたら…」
オーレン族の同志…生き残りかもしれないな。もしそうなら、ぜひとも言葉を交わしたいところだ。
「…俺が見てきます」
「ああ、任せたぞ」
いざというときには、一撃の威力があるアルムの方が良いだろう。不意の一撃で勝負を決められる可能性が一番高いからな。
「…さて、ボオスは居るか…?」
そう言って、謎の光源がある場所をのぞき込むアルム。少しして…
「…みんな、ボオスがいたぞ」
「いたの!?あいつ、大丈夫だった!?」
「…まだ判らないが、恐らく寝ている」
寝ている?この世界で?いくらなんでも、そこまで剛毅ないしは馬鹿な人間には見えなかったが。
「何で寝てるって思ったの?」
「…なんというか」
少し言いよどんだ後、戸惑いを隠せない声色でこう言い放った。
「…フードを被った、恐らくオーレン族の女性が…ボオスに膝枕をしていた」
「「「「「「…は?」」」」」」
…予想できるか、そんなもの。
膝 枕 再 び 。今作のボオスは寝不足でここに来たので、救助された後色々限界が来て寝てしまいました。
何で彼女が膝枕をチョイスしたかは次回言います。
今回のQ&Aは今のところ無し。
ここまで読んでいただき、有難うございました。