変化の連鎖は、10年前のあの日から   作:七人の母

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今回アンチ・ヘイトタグが仕事します。主にクリント王国に対する発言。
クリント王国とオーレン族の真実を知る話。今回は終始アルム視点です。


王国の罪と、それがもたらしたものは

「…あー、何だ。無事で良かったよ、ボオス」

「…ああ。…ランバーは無事だったか?」

「特に怪我は無かった。今は…さっきまでのお前みたいに限界が来て寝ているか、そうでなければ説教でも食らっているだろうな」

 

オーレン族の女性に膝枕されているボオスを発見し、その無事を確認した俺達は、まずボオスを助けてくれたらしい女性から話を聞くことにした。彼女の名はキロ・シャイナス。オーレン族の霊祈氏族の生まれなのだそうだ。なんでも彼女は、ずっとここに残ってフィルフサと戦い続けているらしい。曰く「自分が信じるものの為に、自分の命をかけるだけ」とのこと。リラさんもその言葉に同意している辺り、オーレン族というのは全体的に戦士というか、誇り高いというか、そういう気質を持っているようだ。

今日もいつものようにここに拠点を置きつつフィルフサと戦っていたら、ボオスがフィルフサに追われて門を通ってきたので救出。事情を聴くためにいくらか話をした後にボオスが疲労と眠気の限界に来てしまったので、とりあえず膝を貸すことにしたそうだ。…この時、ボオスの意識は朦朧としていたらしく、自分がどういう状況になっているか解っていなかったようで、しばらくして来た俺達がボオスの友人だと名乗ったので、キロさんがボオスを起こしたのだが…起きたボオスは、自分がキロさんに膝枕をされていたことを認識した瞬間、顔を赤くして狼狽していた。…気持ちは解る。覚悟を決めても恥ずかしいからな、それは。そんなボオスに俺が出来たことは、ありきたりな無事を喜ぶ言葉をかけることだけだった。

…キロさんの起こし方が「ボオス、起きて」と言いながらボオスの頬をぺちぺちと叩く、というものだったことはボオスには伏せておこう。正直、物語の中で見た距離感が近すぎる幼馴染のそれとしか思えなかった。実際は出会って3時間経っているか否か位の筈だが。

 

「それで、その…キロ、何故俺に膝枕を…」

「友の為に危険の中に飛び込んだ勇士に、岩や丸太を枕にして寝ろなんて扱いは私にはできない。それらよりはましな選択だと思ったから膝を貸した」

「…こんな状況で言うことじゃねえけどよ。全く色気ねえ理由だな」

「一応我らの間でも、普通は仲睦まじい間柄でしかやらない行為だという認識ではあるぞ」

「…だから、一瞬迷った。見られたのは少し恥ずかしい」

 

その辺りは俺達もオーレン族も変わらないらしい。まあ、異性と体を触れ合わせる行為である以上、そういう認識にもなるだろう。

 

「しかし、まさか同胞の生き残りにここで会えるとはな。私は白牙氏族のリラ・ディザイアスだ」

「あの白牙氏族の…私も、会えて嬉しい。ボオスの友人達、君達の名前も聞かせて」

 

名前を聞かれたので、俺達も名乗ることに。…ライザとアンペルさんは錬金術士であることも明かしていたが、特にこれと言って反応は無かった。この惨状が根本的にはクリント王国のせいだというなら、その王国が用いていた錬金術にも良くない感情を抱いてもおかしくは無い筈だが…まあ、そこは後で良いか。

 

「ところでリラ、ここは何処だ?今までの門から入ったところとは明らかに違うが」

「ここは我らの聖域、森を潤す水源地だ。…まさか、ここにこんなにも近い門があったとはな」

「え、ここが水源?」

「むしろ、カラッカラに干上がっているように見えますけど…」

 

こうなった原因は、フィルフサ…ではないよな。ここが水源だったというなら奴らは絶対にここには近づけない筈だし、近づけないなら何もできない筈だ。だとすると…

 

「…まさか、クリント王国が何か?」

「察しが良いな。…今から、長くて酷い話をしよう」

 

そこから始まった話は、本当に酷い話だった。今から数百年前、クリント王国の人間が門を開いて現れ、この世界に攻めてきた。理由は勿論、自国の繁栄のために資源を持ち帰る為。幾つか門を開き、有用な資源がある世界を探していたところ、この世界が選ばれてしまった。その資源とは、魔石とは比較にならない程の純度を持った砂粒程の結晶らしい。

しかし、この世界でそれを採掘をしようとしても、そもそも数が少ない上に、掘れば掘る程出てくるのは水ばかり。それでは折角の資源が採れない…ということで、クリント王国はとんでもない手段に出る。それは…資源の採掘をしやすくするために、この地の水を全て奪ってしまう、というものだった。

そしてその結果、水が無くなったこの地にフィルフサが侵攻。そしてついでと言わんばかりに門の先にあったクリント王国にも侵攻。その後は一度聞いた通り、この地は荒廃し、オーレン族は散り散りに。リラさんも重傷を負って、門を通った先にアンペルさんがいて、以後2人で門を封じる旅に。クリント王国はフィルフサの対処に国力を使い果たし衰退…という結末を迎えた。

…その話を聞いた俺がまず口にしたのは、クリント王国の所業に対する率直な感想だった。

 

「…イカれてるのか、その発想は」

「同感だ。フィルフサの存在を知らなかったことを考慮しても一切擁護できない、自国さえよければ他はどうでもいいと言わんばかりの最低最悪な所業だ」

「…うん。水が無くなった世界がどうなるかなんて、あたしたちでも簡単に解ることなのに」

 

クーケン島で水源を押さえているブルネン家の発言力が強いのも、それだけ人間にとって水が大切なものだからだ。それを完全に枯らしてしまうのは…やはり、イカれてるとしか思えない。

 

「でも、1つの地域の水を完全に奪うなんて、どうやったんだろう」

「私は見てないけど、【渦巻く白と輝く青】に全ての水を吸い込んでしまったと聞いてる」

「渦巻く白と、輝く青…?…まさか」

「ボオス、どうした?」

「…いや、そうだ。間違いない」

 

ボオスの様子がおかしいな。…まさか【渦巻く白と輝く青】について、何か知っているのか?

 

「その青と白ってのは…高度な錬金術で作られた古式秘具か何かだろうな」

「恐らくそうだ。…あんなもの、今思えば錬金術で作ったものとしか思えない…!」

「ボ、ボオス?どうしたの?」

「俺は、その【渦巻く白と輝く青】を、家の離れで見たことがある…!」

「え…?」

「どういう、こと?」

 

…俺達全員が同じ、呆けた表情をした。何故、それがボオスの家の離れに?というか、ちょっと待て…!

 

「おい、ボオス。まさかと思うが、クーケン島の水源は、その…」

「ああ。【渦巻く白と輝く青】だ。…あれからは、どこからともなく常に水が噴き出していた。あの水は…元々、この世界のものだったんだ。この世界から、奪ったものだったんだ…!

 

…それは、つまり。

 

「この森に、水を返そうとするなら…」

「クーケン島の次の水源を、どうにかして探すしかないってこと…?」

「…そういうことになるな」

「…話がデカすぎて、頭が付いて行かねえよ…」

 

次の…いや、「本来の」水源が何なのかは分かる。だが、どうすればそれを直せるのか。どこに行けば答えがあるのか。現状その取っ掛かりが無い。島のどこかか、クリント王国の遺跡のどこかにあってほしいが…

 

「キロ、俺は…」

「ボオス、気にしすぎないで。君達が悪いわけじゃない」

「…すまない」

 

「この地に水を取り戻す為にするべきことは解った。…リラ、お前の悲願が叶う日が漸く見えてきたぞ」

「ああ。…だが、気負い過ぎるなアンペル。お前1人で背負う必要は無いんだ」

 

「異界、フィルフサ、クリント王国、オーレン族。そして島の水源は古式秘具、かあ…なんか、冒険を始めたころからは考えられないくらい凄い話になって来てるよね…」

「ああ…確かに俺達全員個人的な目的はあったけどよ、いつの間にか国だの異世界だのって話に関わってるからな…」

 

…どこもかしこも、重い空気になり始めたな。

 

「…しょうがないけど、みんな凄く考え込んでるね…」

「うん…あたしも、みんなも、自分たちが大きな何かに触れてるような気がして、ちょっと怖くなってるんだと思う」

「こんなに近くで、こんなことが起きているなんて考えもしなかったからな」

「そうだよね…よし」

 

クラウディアが何かを決心したようにフルートを取り出し、演奏を始めた。…綺麗で、穏やかな曲だな。

 

「綺麗な音…こんなの、初めて聞いた」

「ああ。…いい曲だ」

「アンペル、お前も心をくつろげて聞いてみたらどうだ?」

「そこまでガチガチになっていたつもりは無いが…いや、そうだな。ゆっくり堪能するとしよう」

「クラウディアのフルートってさ、聞いてると穏やかな気持ちになるよね」

「ああ。それに、いつでも俺達を助けてくれる、強くて優しい音だ」

 

クラウディアのおかげで、重苦しい空気もかなり和らいだ。同時に、焦りが消えて落ち着いて考えられるようになったが…今は曲に集中しなければ、演奏しているクラウディアに失礼だな。

 

「…凄いなあ、クラウディアは。こういう時、一番に自分から動けるんだもん」

「みんなの手助けがしたい、と常に言っているからな。これもその範疇なんだろう」

「そうかもね。…あ、リラさんとキロさんが立ち上がって…」

「歌い始めたな。…初めて聞くはずなのに、よく合わせられるな」

「もー、そういう野暮は言いっこなしだよ」

「…それもそうだな」

 

そうして、少しの間俺達は穏やかな時間を過ごした。…もし次の機会があれば、元に戻ったこの森の中で聞いてみたいところだ。

 

 

「…心地よい時を過ごさせてくれてありがとう。お礼に、せめて門まで送っていく」

「はい、お願いします」

「ついでだ。この辺りにある素材、持てるだけ持ち帰るぞ。何かの役に立つだろう」

「えっと…いいの?」

「構わない。私では使い道がないし…多分君は、間違えない」

 

キロさんからのお墨付きも貰ったところで、門に向かいながら採取。見たことのないものがいくつかあったな、これで錬金に幅が出るだろう。

 

「採取ついでに…キロ・シャイナス。君自身の事も含め、もう少しこの地の話を聞かせてもらっていいか?」

「いいけど…語ることは、それほど多くない」

 

キロさんとリラさんが言うには…フィルフサの頂点である蝕みの女王は、クリント王国に荒らされてなお精気に満ちたこの地を本拠と定め侵攻。それにより徐々に森が歪み空が澱み、今の「異界」が出来上がった。生きるための水を奪われたオーレン族は必死に戦ったが、敗北して散り散りに。この辺りにはキロさん以外のオーレン族はもういないそうだ。

 

「だから、誰かと会うのは本当に久しぶりで、本当に嬉しかった」

「…リラさんのような、別の世界に逃れて生きているオーレン族の人がいればいいですね。生きてさえいれば、いずれ会うこともあるでしょうから」

「うん。そうなら、もっと嬉しい」

 

そんな感じで話しながら採取もして、そうして門の前にたどり着いた。

 

「ボオス。今度は、体調を万全に整えてからでないと来ては駄目」

「ああ、解ってる」

「それと、手を」

 

そう言ってボオスが手渡されたものは…宝石?若しくは、何かの紋章か?

 

「フィルフサを数多く倒したものが稀に得る、戦士の証。生き抜く強さを、心にくれる」

「…キロ、助けて貰った恩は必ず返す。水をきっとここに戻すから、待っていてくれ」

「うん。君がそう言うなら、信じる」

 

それは…俺達も気張らなければな。ボオスを嘘つきにしないためにも。

 

「キロ・シャイナス。心苦しいが、この地で1人勇敢に抗戦を続けるお前に手を貸すことはできない。だからせめて、調査を急ぐつもりだ」

「謝らなくていい。あなたのそれも、オーレン族の戦いだから。それに、近くのフィルフサは片づけたから、女王の城から次の群れが来るまで、私は休むつもり」

「女王の、城?」

「クリント王国が本営を置いていた城が北方にある。今はそこが蝕みの女王の巣になってる」

 

成程。しかし、何故この世界に城を?…まさかと思うが。

 

「クリント王国は、ここを自分たちの統治下に置こうとしてたんじゃないだろうな」

「今までの話からすると、普通にやりそうだね…」

「間違いない。資源だけでは足りないと言わんばかりに土地も奪おうとする姿は容易に想像がつく」

「ホント碌でもねえな…」

「…錬金術士として、たっぷり反面教師にさせてもらうわ。色々と」

「うん。商人の娘としても、色々とね」

 

話が進むたびに評価が下がるなクリント王国。まあ自業自得だし、それ故に滅んだわけだが。

 

「しかし、本拠地が解るならそこを攻めれば…いや、戦力が足りないな」

「焦るなよ。まず先にやることがあるだろう」

「ああ。ボオス少年が証言したものが真にクリント王国の古式秘具なのか、見極めねばな」

「任せてくれ。近いうちに機会を作る」

 

さて、それじゃあ一旦お別れだな。

 

「キロ。またな」

「うん。君達に、日の加護と月の導きが有らんことを」

 

そうして、俺達は門を通り、元の世界に戻って来た。

 

 

「暑い、眩しい…けど、これだよね。あたし達の空って!」

「ああ。ほんのちょっと出かけただけなのに、帰って来たって感じがするな」

「やはり、空は青くあるべきだな。…何時か、向こうの世界の本当の空も見てみたいところだ」

 

大体今は昼くらいか。俺以外は本来まだ寝ている時間に起こされたわけだから、緊張が解けたらどっと眠気が来そうだが…戻るころには、昼寝をするには遅い時間になっていそうだな。

 

「えっと、フィルフサはこっちに入り込んできてないよね?」

「見渡す限りは大丈夫のようだな」

「この遺跡の調査は…また後日、じっくりとやらせてもらうか」

「それじゃあ早く島に戻って…ランバー君とモリッツさんを安心させてあげなきゃね」

「…そうだな。急ぐとしようか」

 

モリッツさんの狂乱ぶりも、目に浮かぶことだしな。

 

「それにしても…大冒険だったね」

「俺にそのつもりは無かったがな。…改めて、ランバーには今後悩みはちゃんと相談するように言っておくか」

「そうしておけ。今回は大事無く済んだが、次もこうなるとは限らないからな」

「確か、力が無い事を悔やんで焦っちゃったんだよね、ランバー君」

「だったら俺達で鍛えてやるか?アガーテ姉さんとリラさんにも協力してもらってよ」

「流石にリラさんは止めとこう?」

「何だ、私では拙い事があるのか?」

「お前は実戦形式だとスパルタが過ぎるだろう。いきなり負荷をかけ過ぎるのも良くないぞ」

 

…とりあえず、今後の特訓でランバーが死なないことを祈るか。

 

「それと…例の離れだが。俺でも簡単には近づけさせてもらえないから、直ぐ鍵を開けるのは難しい。三日程くれればどうにかできると思うが…」

「三日か…解った。覚えておく」

「それじゃ、話もまとまったところで…島に戻って、畑サボってごめんなさいって謝りに行こう!

「…そういえばそうだった」

 

置き手紙くらいは、残しておくべきだったな…




ボオスが片意地になってない分、原作程ボオスのキロに対する感情は大きくないかも。まあ小さくも無いですが。

Q,オーレン族に膝枕の概念ってあるの?
A,ここではあることにします。っていうか過去にアルムに膝枕してるライザを見たリラに「あの二人は番か?」なんて言わせてるので、オーレン族的にも「そういう」行為だということにしました。

ここまで読んでいただき、有難うございました。
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